PiPiPi・・・。
真っ暗闇の部屋の中、突然鳴り出した目覚し時計をオレはバチンと叩くように止める。
ただいまの時刻、朝5時15分。当然、日の出前。
・・・ったく、学校へ行く時だってこんな早起きしねーのに。
寝癖のついた髪を掻き揚げながらそう思う。
起床時間に合わせてタイマーをつけていたエアコンは、充分に部屋を暖めてはいてくれるけど、
それでもベットから出るにはある程度の勇気がいるものだ。
けれど、ノロノロはしていられない。
6時には家を出なければいけないワケで・・・。
ああ、くそっ!さみーな!!
オレは仕方なくベットを抜け出し、そのま熱いシャワーを浴びようとバスルームへ直行した。
長かった2学期も先週の金曜日に終業式を迎え、ついこないだから学校は冬休みに入った。
で、今日はカレンダー的には今年最後の3連休の最終日。
すなわち、クリスマス・イヴ。
そんな日に、こんな朝早くからどこへ行くのかと誰かに問われたら、はっきり言ってオレは無言で逃げるしかない。
だって!
言える訳ないだろう?!
快斗と二人で東京ディズニーシーへ行くなんてっっっ!!!
事の始まりは、今からちょうど一週間くらい前。
夕飯も終えて、オレはリビングのソファに腰掛け、快斗の入れてくれたコーヒーを口に運びながら新聞に目を通していた。
快斗もオレの近くで、TVのチャンネルを回していたっけ。
ふと、快斗が思い出したようにオレを振り返った。
「・・・なぁ新一、ディズニーシーに行った事ある?」
「ねーよ?」
新聞の記事から目を上げることなく、オレは即答だった。
・・・ディズニーランドの方には行った事はあるけど。
蘭とも行ったし、『コナン』の時にも博士や探偵団のヤツラとも何度も行ったっけ。
シーってのは確か、今年の秋くらいにそのランドの横にできた新しいテーマ・パークだろ?
海をテーマにした大人向けの遊園地とか言ってたよな。
蘭や園子が行きたがってたような気がするけど、オープンしたてで激混みだとかいう話だったような・・・。
「よかった!オレも初めてなんだ〜!」
「・・・何が?」
「ディズニーシー!」
へぇ。お前、ディズニーシーに行くんだ・・・。
って、まさか?!
「誰とっっ?!」
思わず新聞から目を上げたオレと、快斗の目がばっちりと合う。
快斗はにっこり笑ってこう言った。
「そんなの決まってんじゃん!新一と、だよ♪」
快斗と二人で?
ディズニーシーに?
「だぁ〜〜〜っっ!!い、行かねーぞ!!オレはっっ!!」
新聞をばさりと落としかけて、オレはそう大声で快斗に言った。
すると、快斗はニヤニヤしながらソファに近づいてきて、オレの顔を覗き込んだ。
「・・・何で?」
何でって、何でって!!
そんな遊園地に男二人きりでなんか、恥ずかしくて行けるワケないだろっ?!
まるで『デート』してるみたいじゃねーか!!!///
とは、言えずに赤くなって黙ってしまったオレに、快斗の笑顔が近づいてくる。
「・・・新一は遊園地とか、キライ?」
・・・いや、キライじゃねーけど。どっちかというと、かなりスキな方だし。
そう思いながら、小さく首を振るオレに快斗はにっこりして。
「・・・じゃあオレのこと、スキ?」
・・・キライだったら、一緒になんかいねーだろうが!!イチイチそんなこと、聞いてくんじゃねーよ!!
ギッ!とオレは快斗を睨み付けると、奴はますます笑顔を濃くした。
すると、快斗はチュ!と、オレの頬にその唇を軽く押し当てて、キスをした。
「なら、行こう?実はもうチケット取っちゃったんだよね〜!」
オレの耳元でクスクス笑いながら、快斗が囁く。
その声がくすぐったい。
・・・てめぇ。
人の意思も確認せず、勝手なことしやがって・・・。
・・・けど。まぁ・・・いいか。
遊園地はキライじゃないし。行ったことのないところなら尚更興味もあるし。
なんだかんだ理由をつけながら、結局は自分は快斗には甘いと実感しつつ。
「・・・仕方ねーな。じゃあチケットがもったいないから行ってやるよ!」
少しむくれながらも、オレはそう答えてやった。
「よかった!じゃあ新一、24日は絶対あけておいてね?」
・・・・何だ、冬休み入ってから行くのか。
って、ちょっと待てっ!24日って、24日って、『12月24日』 かよ?!
「24日?!」
大きく眉をつり上げたオレに対して、快斗はまぶしいくらいの笑顔を返す。
「そう、24日!」
・・・・・・。
「やっぱ、ぜってーに行かねぇ!!」
「え〜〜っ!!何でだよ?新一!!」
「クリスマスにディズニーランドになんか行ってられるか!!」
「ディズニーシーだってば!」
「同じ事だ!バカ!!」
と、それからオレたちの話は平行線のまま冬休みに突入し・・・。
終業式を終えてから、快斗は仕事で24日まで家をあけることとなった。
「じゃあさ、新一。オレ、今日から23日の夜まで仕事だから、当日は現地集合ってことにしようぜ?
午前8時開園だから、ゲートの前に7時45分な!」
その信じられない集合時間に、オレは大いに眉間にしわを寄せる。
だって、東京ディズニーリゾートってほとんど千葉県でうちから行くのに1時間半はかかるってのに!
一体何時に起きりゃ、いいんだよ?!
「・・・オレは行かねーって言ってるだろ?」
けれども、快斗はそんなオレには全く持って取り合わず。
「新一が来てくれるまで、待ってるから。」
それだけ言って、綺麗に笑って見せた。
そうして快斗はそのまま仕事へ行ってしまったので、その後の連絡は昨夜遅くに届いたメールのみ。
『海風が冷たいので、明日は暖かい格好で来るように!
閉園時間まで遊び倒すんだから、そのつもりで!』
・・・ったく、快斗のヤロー、オレが行くと信じて全く疑ってねーのが腹立たしい。
ほんとに行かなかったら、アイツ、どうするつもりなんだろう?
なんて、思わず待ちぼうけを食らってる快斗の姿を想像してみたりもしたのだが・・・。
こんな寒空の下、一人で待たせておくなんてやっぱり少しかわいそうな気がする。
・・・っていうか、アイツが勝手に言い出したことなんだから、放っておいても確かにオレは悪くはないけど。
でも。
やっぱり。
・・・放ってはおけない。
・・・しょーがねー!!
今回だけは付き合ってやるか!
そう思いながら、オレはクローゼットから持っている中でも一番厚手のコートと、マフラー&手袋を用意した。
あと、持っていくものは・・・と。
なんて考えながら、オレの頭の中では「SANTA CLAUS IS COMING TO TOWN」の歌が陽気に流れていた。
はっ・・・!!
べ、別にオレは浮かれてなんか、いねーぞ?!
あくまで、仕方なく快斗につきあってやるだけなんだからな?!
オレは何度もそう自分に言い聞かせ、とにもかくにもディズニーシーに行くことになったわけである。
★ ★ ★
約束の時間10分前、すでにオレは東京ディズニーリゾートラインに乗っていた。
・・・時間的にはちょうどいいな。
そう思いながら、同じ車両に乗り合わせた人たちを見回す。
まさにディズニーランドか、シーにしか行く人以外乗せていないこの列車。
クリスマス・イブともなれば、いるのはアツアツのカップルや小さな子供を連れた家族連ればかりである。
みんなの幸せそうな笑顔を見ていると、こっちにまで幸せな気持ちが伝染してきそうなくらいだ。
そんな雰囲気にのまれていると、なんだか早く快斗の顔が見たい気がしてきてしまった。
ふと、不安になる。
・・・っていうか、アイツの方こそ、ちゃんと来れんのか?
昨夜も遅くまで仕事だったはず。
もしかして寝てないんじゃねーの?
窓の外に見えてきたディズニーシーの外観に目をやりながらも、オレはそう思った。
さて、7時40分。
オレはシーのゲート前に到着した。
ゲート周辺には、開園時刻を待ちわびている大勢の人でかなりな賑わいを見せていた。
が、どうやら、その中に快斗の姿はない。
・・・まぁ、まだ5分前だしな。
けれども、オレは念のため自分がもう到着している旨を伝えようと、携帯を使ってメールを送った。
とたんに、返事が届く。
『 ゴメン!!約束の時間より10分くらい遅れそう・・・。8時前には、行きます!!』
・・・てめぇ。
あれだけ人に言っておきながら、自分で遅刻するとは何事だ?!
オレは眉をつり上げると、『 帰る。 』と、一言だけ送信する。
すると、間髪入れずに、快斗から。
『 5分で行くから、絶対待ってて!! 』
液晶に映し出されたそんな文字を見て、オレはクスリと笑う。
・・・待っててやるから、早く来いよ。
やがて、5分も経たずに火の玉のような勢いで快斗がやってくる。
「しんいちィィィ〜!!」
「・・・おせーよ!バカ・・・・おわっっ!!」
現れるなりいきなり抱きつかれて、オレは慌てて快斗を引き剥がしにかかる。
一瞬触れた快斗の頬は長い間、外にいたかのようにずいぶんと冷たかった。
「何だよ、オメー、ずいぶんと冷えてるな、どこにいたんだ?リゾートラインに乗ってこなかったのか?」
「うん、まぁね。それより新一、これ今日のチケットね。前みたくアトラクションの度に見せる必要は
ないんだけど、ファースト・パスを使う時必要だから、なくさないよう気をつけてね?
あ、ファースト・パスってシステムができてたの、知ってる?」
快斗から渡されたチケットをオレはどこにしまおうか考えて、ファスナーのついたコートのポケットに入れた。
「・・・ああ、指定された時間に行けば、少ない待ち時間で乗れるとかいうシステムのことだろ?
本で読んだ。」
快斗に誘われてから数日が過ぎた頃。
ふらりと立ち寄った本屋に、『東京ディズニーリゾート 完全攻略本』というのがあって、思わず目が行ってしまって。
買うべき小説とともに、何故かレジに持って行ってしまっている自分がいた。
「もしかして、新一、ガイドブックとか購入済み?!な〜んだ!行く気満々だったんじゃん♪」
「ちっ、違うっっ・・・!!」
うれしそうに笑う快斗にオレは慌てて訂正したけど。
だってそれじゃ、まるでオレが楽しみにしてたみたいじゃねーかっっ!!
「じゃあ、予習はばっちりだね?!新一!!」
・・・うっ!
確かにパークの全体図や、アトラクションについては一応頭には入れておいたけど・・・。
オレはにこにこ微笑む快斗から、そっぽを向いて視線を逸らしたのだった。
と。
開園時間がきて、ゲートが開く。
集まった人たちが一気に園内へと流れ込んだ。
メインエントランス付近では、ミッキーやミニーがいて早くも写真を撮ろうとする長い列ができていた。
「あ〜っ!ミッキー!!オレもミッキーと写真撮りたかったのに!!くそ!後でいいか。」
その光景を見ながら残念そうに快斗が呟くが。
何、オマエ。あんなぬいぐるみと写真とか撮りたいのかよ?
女子供じゃあるまいし・・・。
なんて思いながら見つめると、快斗が子供みたいな笑顔を向ける。
「オレ、実はミッキーマニアなんだぜ?知らなかったろ?」
・・・知るかよ、そんなこと。
オレは大きく溜息をついた。
「・・・で?どっから回る?メインなアトラクションはファースト・パスを先に取っておいた方がいいんだよな?」
オレがゲートでもらったガイドを広げていると、快斗もそれを頷きながら覗き込む。
シーで一番メインな乗り物といえば・・・。
「「センター・オブ・ジ・アース!!」」
思わず重なった声にお互いクスリと笑い、とりあえずその目的のアトラクションがあるミステリアス・アイランドへ
向かったのだった。
ちなみに。
「センター・オブ・ジ・アース」とは、シーで唯一の絶叫系のアトラクションだと言える。
まぁ、ランドのスプラッシュ・マウンテンに程近いとは思われるけど。
とりあえず、前もってオレがガイドブックで見た限りでは、スリル感が味わえそうなのはコレくらいだった。
ガイドに沿って、目的地ミステリアス・アイランドの地帯へ行くと、もうすでにすごい行列が出来ていた。
「うわっ!何だよ、この列は・・・。」
「うーん・・・。もしかしなくても、ファースト・パスを取る人たちの列?」
げげ!こんなんで並んでたら、あんまり意味ねーんじゃねーのか?!
オレはげんなりして快斗を振り返るが、快斗はすでに列最後尾に並んでいた。
コラっ!!オレを置いて行くな!!
「・・・まぁとりあえずはパスを取っておいて・・・。今から取って夕方にしか乗れなかったらツライなぁ。
まぁ、並んでる間に次をどこ回るか、決めておこうよ?」
言いながら、オレの持っていたガイドを快斗が取り上げる。
「ファースト・パスって取り捲れないんだろ?時間空けないといけないんだよな?」
「そうなんだよね。だから、ここで使っちゃうとしばらくは使えない。となると、この付近のアトラクションを
制覇しつつ・・・、あ、そうだ!オレ、アラビアンコーストの方に行きたいかも!!」
アラビアンコースト?
ああ、映画「アラジン」を中心に、「シンドバット」やらアラビアンナイトの世界をモチーフにしたとこか。
「これこれ!この『マジックランプシアター』って面白そうじゃねぇ?オレの尊敬する魔法使いジーニーが
出てくるんだよ!!」
尊敬するって、お前・・・。
魔法使いって言ったって、ジーニーはランプの精だろう?
「・・・同じ魔法使いとして?」
ニヤリと目を細めて笑いながら、覗いてやる。
『怪盗キッド』として、『白の魔術師』とも異名を持つ快斗のもう一つの顔を。
すると、快斗は無邪気に笑った。
・・・ま、確かに『世紀の大怪盗』があこがれるのが「アラジン」の魔法のランプの精だなんて、お笑いだよな。
・・・快斗らしいといえば、確かに頷けるけど。
「ジーニーのショー・マン・シップはお手本になるんだぜ?」
と、白い怪盗の顔でウインクして見せた。
「・・・わかったよ。ここが終わったら、そっちな。」
「新一はどっか回りたいとこ、ないの?」
「あ、オレはこのインディ・ジョーンズのアトラクションに乗れればいいや。インディシリーズは原書で読んでて
結構好きなんだ。映画も全部観てるし。あ、でもこれもファースト・パスのヤツだな。」
「OK!アラビアンコーストを回ってきたら、ちょうどパスが取れるくらいの時間だと思うから。」
おっし!バッチリ〜!
と、予定を軽く立てたところで、ちょうどオレ達の後ろに並んでいた女子高生らしい集団が何やらひそひそ
こっちを見て話しているのに気がついた。
げ!
その時、オレは快斗と一緒にガイドを覗き込んでいた体勢が、思いのほか密着していたことに気づいた。
これじゃあ、まるでアツアツの恋人同士みたいじゃねーか!!
慌てて、飛ぶように快斗から離れる。
快斗は驚いたように、そんなオレを見ていたが。
まさかよからぬ誤解(?)をされたのでは、と、ドキドキしながら後ろを振り向くと、
女子高生達から、キャ〜!!という悲鳴が上がった。
「二人とも、超イケテル〜っっ!!一緒に写真撮ってもいいですかぁ〜?!」
思わずオレはその女子高生のパワーにたじろぐが、快斗がにっこり笑ってオレの前に立つ。
「ダメ。オレ達、高いよ〜?」
言いながら、ウインク一つ。
女子高生達は、ケチーと文句をたれながらも快斗のそのしぐさにメロメロのようだ。
・・・やりすぎだ、バカ。
オレは、そんな快斗をポカっと殴り、徐々に動き始めた列についていったのだった。
★ ★ ★
心配していた「センター・オブ・ジ・アース」のファースト・パスは運良く昼前の時間に取る事が出来て。
オレ達は予定通り、アラビアンコーストに向かった。
快斗の目当ての「マジックランプシアター」は、待ち時間も15分とのことで、スムーズに回れそうだ。
が、並んでいて少々小腹が空いてきたことに気づく。
・・・そういや、朝起きてから大したものも食べずに出てきたからな。・・・当然か。
「・・・なぁ、快斗。シーってランドほど食べ物のオープン・スタンドみたいのないよな。」
「何?新一。お腹、空いたの?」
・・・だって、今日何時に起きたと思ってんだよ?
ジト目でそう睨むと、快斗がまたまたガイドを広げて、こう言った。
「あ!この近くにバスティーラとかいう、アラビア風のクレープ、売ってるぜ?これ、食う?」
アラビア風?なんかウマそうだな。
「食う!快斗、お前、買って来い。遅刻した罰だ。」
ビシっとそう言ってやると、快斗は一歩後ずさるが「行かせていただきマス!」と頭を下げた。
「あと、15分だからな。それまでにちゃんと戻ってこいよ?」
「了解!」
そうして、快斗はオレを列に残し、バスティーラを買いに走って行った。
が、思ったより早く列が進み、もう入り口前まで来てしまう。
オレは慌てて快斗を呼び戻そうと、携帯に電話を入れるハメになった。
「おい!快斗!!もう戻って来い!!今、入り口のとこなんだよ!」
『え〜!?マジ?もうちょっとで買えそうだったのに。・・・わかった、とりあえず今すぐ戻るね!』
結局、クレープは後回しになり、快斗には余分な運動をさせたことになってしまったけど
まぁ、いいか。
「ごめーん、新一。お待たせ。いや〜バスティーラ、買うのにも並んじゃっててさ。
コレ、終わったら食おうぜ?」
そんなわけで、少々すきっ腹を抱えて、オレは快斗ともにシアターの門をくぐった。
「マジックランプシアター」は、映画「アラジン」のランプの魔人ジーニーのマジックショーだ。
単なる3Dシアターかと思っていたオレの予想とはちょっと違っていたのだが。
ストーリーは、魔法のランプを手に入れたイジワルなマジシャンが、ジーニーのおかげで名声を手にしたのに
その栄光を独り占めしたくて、ランプを鍵つきの箱の中に閉じ込めてしまったところから始まる。
だが、そのイジワルなマジシャンのもとにいた心やさしい見習いの少年が、そのランプを閉じ込めている鍵を
マジシャンから取り上げようと奮闘するというもの。
まず、座席についたオレ達にその少年役の劇団の人が大きな声で呼びかける。
「鍵を探しているんですが。みなさんのそばに落ちていませんか?」
もちろん、鍵なんて落ちてはいないんだけど。
すまして座っていると、その少年が切実な顔で再度、声をかけてくる。
「お願いです。ちゃんと探してください!大切な鍵なんです!!」
なかなか堂に入った芝居だな。
なんて、オレが感心していると、横で座っていたはずの快斗がさっと右手を上げた。
「はーい!鍵、あったよぉ!!これかなぁ?!」
げ!何、言い出すんだ!?コイツ!!
高々とあげた快斗の右手には確かに、大きなうそっぽい鍵が一つ。
が、そんな快斗の突然の行動に、芝居をしていた少年の方が驚きを隠せない。
当たり前だろう。
だって、鍵は客席になんて落ちて入るはずがない。
イジワルなマジシャンから、自分が取り返さなかればいけないものなのだから。
おいっっ!!快斗!!
劇団の人が困ってるじゃねーか!!
この後、どう繋いだらいいものか、口をぱくぱくさせている少年役の人を見て、オレは快斗の腕を引っ張る。
けれども、快斗はにっこり笑って。
そうして、反対の手でパチンと指をならすと、手にしていたはずの鍵が、あっという間に一輪のバラに変わる。
「あっれ〜!鍵かと思ったら、違ったみたいだ。ごめーん!」
ペロっと舌を出した快斗に、客席から歓声と笑い声が起きた。
少年役の人も冷や汗をかきながらも、なんとかアドリブで繋ぎ、なんとか進行の妨げにはならなかったようだが。
快斗はみんなに一礼して席についてから、手にしていたバラをオレによこした。
唖然としているオレに、得意げに笑う快斗。
・・・ったく、仕方のないヤツ・・・。
オレはそんな快斗に苦笑した。
「いや〜!!やっぱジーニーは最高だな!」
シアターを見終えて、快斗がそう満足そうに感想をもらす。
オレはそれを見やりながらも、溜息をつく。
「ったく、あんまりびっくりさせんなよな?!お前が目立つのは勝手だけど、巻き込まれんのはオレはごめんだぜ?」
そんなオレの言葉を聞いているのか、いないのか、快斗はすぐにオレの手を引いてスタスタと歩く。
「ほら、新一!クレープ、食べに行くんだろ?」
「お、おう!」
アラビア風な町を二人で駆け抜けて、時々振り返る快斗のやさしい笑顔にオレはふと心が温かくなるのを感じた。
「・・・甘い。」
バスティーラを一口食べて、予想外な甘さにオレは顔をしかめた。
アラビア風と聞いて、てっきりタコスみたいなの(いや、それはメキシコだけど)を想像していたのに。
バスティーラはシナモンがちょっと効いてる激甘のチョコのクレープだった。
渋い顔をしているオレの横で、それをおいしそうに頬張る快斗の姿が。
・・・そうだよな。お前はチョコ、大好きだもんな。
この甘いクレープに飲み物までココアをセレクトしているあたり、さすがとしかいいようがない。
オレは苦いコーヒーで口直しをしながら、一口で嫌になってしまったそのクレープを快斗にやると、
さっさとガイドに目を走らせた。
★ ★ ★
さて、一通りアラビアンコーストのアトラクションを制覇した後、インディ・ジョーンズのパスを取りつつ
オレ達は、もといたミステリアスアイランドへ戻ってきた。
時間的にはそろそろ「センター・オブ・ジ・アース」に乗れる頃。
「よし。これ乗り終わったら、ランチにしよっか。」
「快斗、オレ、軽いものでいいからしょっぱいものが食べたい。」
「・・・しょっぱいものって・・・。そんなにあのクレープがダメだった?」
快斗がオレを見て苦笑する。
「あ!これ!!これにする。『ギョーザ・ドッグ』!」
オレはガイドを見ながら、今いるミステリアスアイランドの近くに魅力的な食べ物を紹介するページを見つけた。
「何それ?餃子が入ってんの?」
「・・・わかんねーけど。クレープよりかはうまそうな気がする。」
「ま、なんだか知らないけどいいや。じゃあそれに決まりね!」
そうして、オレ達は「センター・オブ・ジ・アース」に乗り込んでいった。
地底世界をコースターで回るそのアトラクション。
スリル感が味わえるのはラストのほんの一瞬だけだけど、オレ達は大いに満足した。
「なぁ、新一。あの行列ってもしかして、「ギョーザ・ドッグ」なんじゃねーの?」
え?マジ?
見ると確かにそれらしきオープン・スタンドから果てしない列が続いていた。
とりあえずは並んでみるものの、無駄に時間を食うくらいならあきらめたって構わなかった。
「・・・あの、これ、買うまでどのくらいかかりますか?」
並んでいる人たちにオーダーを聞きにきた店員にそう尋ねると、20分弱という答えが返ってきた。
別に待てない時間じゃないか。
「20分なら並べるね。じゃあさ、新一はここへ並んでてよ?オレ、マーメイドラグーンに行って
ファースト・パス取ってくるからさ!」
マーメイド・ラグーンとは、映画「リトル・マーメイド」をモチーフにした海底王国地帯のことで
そこにもファースト・パスを利用できるミュージカルがやっている。
「時間は有効的に使わなきゃ損だろ?こっからそんな離れてないし。すぐに戻ってくるよ。
なんか、あったらケータイに連絡して!」
・・・いや、今度はお前が待ってれば?って言おうと思ったのに。
オレがそう言う間もなく、快斗はさっさと人の波の中へ消えていった。
一人、ギョーザ・ドッグの列に並ぶオレは、だんだん近くなる店のカウンターを気にしながらも
快斗が早く戻ってこないかと、何度も振り返った。
いや、別にアイツの分を買っておいてやるのはいいんだけど。
遅くなったら冷めちまっておいしくないだろ?
・・・にしても、遅いよな。
周りに溢れる楽しそうな笑顔の人たちを見やりながら、ふと一人きりな自分にさびしさを覚える。
快斗のヤツ、何やってんだろ?またパス取るのに並んでるのかな?
それとも、・・・まさか迷ってたりしてないよな?
そうこうしている間に、とうとうオレの順番になって、ギョーザ・ドッグを受け取ってしまった。
このまま近くのベンチに座って待ってもいいんだけど、快斗の行った方へ迎えがてら行ってみるか?
そう思いながら歩みを進めていると、快斗がようやく帰ってきた。
「新一ィ!お!グッド・タイミング!!ってギョーザ・ドッグって餃子の形してる肉まんかよぉ〜!!」
帰ってくるなり、騒ぐ快斗にひとまずはギョーザ・ドッグを渡す。
「ずいぶん遅かったな。またパス取るのに混んでたのか?」
「いや、パスはすぐ取れたんだけどね。マーメイドラグーンっていろいろカワイイのがいっぱいあってさ。
アトラクション以外にも、結構見て楽しめるぜ?」
・・・てめぇ。オレをここに待たせて自分一人だけで見てやがったな?
ギョーザ・ドッグを頬張りながら、オレは快斗をジロリと睨む。
・・・ちぇ!心配なんかしてやるんじゃなかった。
「何だよ?新一、何怒ってんの?!」
知るか。
オレはプイとそっぽを向いた。
でも、まぁ。
ギョーザ・ドッグはおいしかったし。快斗のおかげで次のアトラクションのパスも取れたし。
許してやるとするか。
「さっさと食えよ?快斗!これ終わったら、インディ・ジョーンズだからな!!」
★ ★ ★
はっきり言って、オレはかなりインディ・ジョーンズが好きだ。
ロスのディズニーワールドでもやっぱり、インディのアトラクションは欠かさず乗ったし。
ガイドを見た限り、シーのインディはロスのと似てるっぽかったけど、それでもオレはとても楽しみだった。
ファースト・パスを利用したので、並ぶことなくスムーズに乗り場近くまでやってくることができた。
途中、走行中の写真を撮ったものが飾られているところを通り過ぎる。
「新一!コレ、写真撮られるぜ!ばっちりポーズ決めような!」
「・・・ポーズったって・・・。それにこれどこで撮られんだよ?」
「うーん、おそらく洞窟から出たあたりだと思うけど。こういうのって普通ラストとか多いじゃん?
ま、最初はわかりにくいから、とりあえずカメラ目線だけでも狙っとこうか!カメラは左側だぜ?」
なんて、快斗はウインクしながら乗り込んだ。
そんなうまくできんのか?とオレは思いつつも、快斗の後に続く。
そうしてオレ達乗せたジープは動き出した。
ガタガタ揺れるジープの中で、オレは快斗に声をかける。
「お、おい、快斗!写真、まだだよな?」
「うん、もうちょっと先だと思うけど。」
と、言っている間に、ジープはやや斜面を走行しながら真っ暗闇な洞窟に入る。
よし!コレを抜けてからだな!
オレがそう思った矢先に!
パシャリ!
ストロボの眩しい光がオレの目を刺す。
げ!
「おいっっ!!どういうことだよ〜、快斗っっ!!」
「オレに怒るなよ〜!?オレだってもっと先だと思ってたんだからさ〜!!」
そうして、程なくしてアトラクションが終了し、出来上がった写真が映像に映し出されると
快斗が画面を指差して笑う。
「あ、ほら新一!オレたちのだぜ?!ぷっ!新一、顔が引きつってる〜〜!」
うっ!!
確かにややこわばった顔をしているけど。
そんなことより、そのオレの横で余裕な笑みでただ一人、カメラ目線なヤツが・・・。
「・・・快斗、おめーは何でしっかりカメラ目線なんだよ?!」
「あはは!いや〜、なんかつい反射的に向いちゃってさ!」
・・・オメーは反射的に向いただけであんな顔ができるのかよ?
そうオレは快斗を睨みつけるけど、快斗は笑いを崩さずにスタスタと出口に向かっていく。
どこへ行くのかと思えば、写真売り場だ。
「そんな写真、買うな!!バカ!!」
「イテイテ・・!何すんだ、新一!」
写真売り場から無理矢理快斗を引きずって、オレは再度、インディに並ぶ。
「何?新一。もう一回乗るの?今度はファースト・パスじゃないからちゃんと並ばなくちゃいけないんだよ?」
構うもんか!
今度はばっちり写真に写ってやる!オメーにできてオレに出来ないはずがない!!
むくれてるオレを快斗は面白そうに見やり、ふふんと鼻で笑った。
「・・・何だよ?」
「べっつにぃ〜!!」
オレはその快斗の笑いがちょっと気になったが。
とりあえずは、今度こそしっかり写真に写ることに集中しようと、意を決してジープへ乗り込むことにした。
アトラクションを楽しむことより、写真を撮られることを意識しているなんて、どうもおかしな気がするが。
とりあえずは、オレは来たるべきストロボの瞬間に備えて、どんなポーズを取ってやろうか
真剣に考えていた。
が。
はっきり言って、ポーズを取ることの方が実はかなり恥ずかしいことに気づき、
別にしっかりカメラ目線で撮れればいいかと、納得した頃、いよいよ例の洞窟へ近づいてきた。
よし!来るぞ!
カメラは左、やや上だったはず!
そう思って、まだ暗闇のその方角を睨み付けたその時、となりの快斗がふと耳元で声をかけてきた。
「・・・新一。」
え?
瞬間、快斗の指がオレの顎を捉え、オレの唇は快斗のそれに塞がれる。
その直後。
パシャり!
〜〜〜〜〜!!!
オレは慌てて、快斗を突き飛ばす。
が、もう遅い。
ジープは洞窟を抜け、明るい乗り場へと戻ってきてしまった。
快斗のそのイタズラが大成功したような笑みの憎らしさといったら!!
オレはヤツの足の脛を思いっきり蹴り飛ばしてやった。
「イッテ〜!!ひどいよ、シンイチィ!!ほんのジョークだろっ?!」
「バーロー!!ジョークですむか!!写真に写ってんだぞ!!」
「だ〜いじょうぶだって。ほら、見てみなよ?ちゃんと前の人の頭でオレ達の顔、ばっちり隠れてるでしょ?」
再びモニターに映し出された写真を快斗が指差しながら言う。
確かにヤツの言うととおり、オレ達の顔もしてるトコも隠れてはいるけど。
・・・でもあれだけ寄り添ってたら、何してるかくらい、見当がつくんじゃねーの?
「ねぇ、あの写真見てよ〜。私達の後ろのカップル、あれさ、絶対キスしてるよね〜!!」
「ほんとだ!ヤルぅ!!さっすがクリスマス!!アツアツって感じ?
ちぇ!どんなカップルかちゃんと見ておけばよかったね?」
ほら見ろ〜〜〜っっ!!
オレはその場にいられなくなって、一目散に駆け出した。
「なぁ、新一!もう一回乗る?」
「乗らないっ!!」
★ ★ ★
一通りアトラクションを乗りこなした頃、太陽がだんだん西に傾いてきた。
日が落ちると、少し寒くなってきたような気がする。
でも、今日は思ったより寒くない。
完全な防寒ルックで来たせいか、オレは今まで外で並んでいても寒いとは思わなかった。
「さてと。あと、絶対に外せないのは夜9時からの「ディズニーシー・シンフォニー」だな。」
「ああ、この水上でやるショーのことだろ?でもこれ、結構前から行ってて場所とりとかしねーと
ヤバイんじゃねーの?あ、ってことは、そろそろ先に夕食にした方がいいのか。」
そう言って、オレはふと気づく。
もしかして、いや、しなくても。
夕食も激混みなのではないのだろうか?
当たり前だ。みんな食事をする時間なんて決まってるし、みんなこの9時からのショーを見るに決まっている。
・・・と、なると。
ちゃんとしたレストランで食事をするつもりなら、予約しておくべきだったに違いない。
なんていったって、今日はクリスマス・イヴだし。
みんなこぞって、レストランで素敵にディナーをするつもりだろう。
いや、別にオレはリッチで素敵なディナーでなくてもいいけどさ。
よく考えたら、今日は軽いものしか食べてないし、夕食くらいちゃんとしたものが食べたいだけで。
今からでも、行けるかな?
そう思って、ガイドの中のレストランの一覧表に目を通す。
「そうだね。もう6時になるし。そろそろゴハンにしようか。」
言いながら、快斗は歩き出す。
「え?快斗。どこで食べるか、決めてんのか?」
すると、快斗はにっこり笑って、まぁついて来いと言った。
快斗に連れてこられたのは、シーの中にあるテーマパーク一体型ホテル ミラコスタであった。
「お、おい!快斗!!もしかしてお前、予約とかしてんの?」
「うん、一応。地中海料理のお店なんだけど、評判いいから美味しいと思うよ?」
オレは開いた口が塞がらない。
確かに快斗はいっつも用意周到だけど・・・。
夜景が見える窓際の席を案内され、ドリンクのメニューを取りにウェイターが去った後、オレは快斗に問いただす。
「一体いつの間に予約入れたんだよ?宿泊客じゃなきゃ前もっては予約できねーはずだぜ?
もしかして、さっきマーメイドラグーンに一人でパス取りに行ってた時か?」
そう考えれば、あの時の快斗の帰りが遅かったのも頷けるけど。
だから、他のアトラクションに見とれてたなんて、いいわけしやがったのか?
けれども、快斗はそれには特に答えず、曖昧に笑っただけだった。
「食事はクリスマス・ディナーでもうコース決まっちゃってるからさ、新一、飲み物はどうする?
軽いシャンパンか、スパークリング・ワインなら平気かな?」
「あ、ああ。そうだな。」
ウェイターにいろいろとお酒の種類などを聞いている快斗を見ながら、オレはつくづく思った。
運ばれてきたシャンパンが、綺麗なグラスに注がれて。
「じゃ、新一!メリー・クリスマス!」
「・・お、おう。」
と、乾杯などして。
よく冷えたシャンパンを味わいながら、目の前でグラスを傾ける快斗の顔をまじまじと見つめた。
快斗ってスゴイ。
男のオレから見ても、やっぱりカッコいいと思う。
外見が、とかいうんじゃなく。
そのさりげない心配りとか、相手を決して退屈させないような気の使い様とか。
ここ一番なとこは、絶対に外さないトコとか。
とにかく、一緒にいて、ものすごく楽しい。
だから、コイツがモテるのも頷ける。
今日はクリスマス・イヴで、そんな特別な日にこんなデートをしてもらえたら、
女の子なんてものすごく幸せなんだろうな。すっげ〜愛されてるって感じだし。
・・・・・・・・・。
そんな日に一緒にいるオレって・・・。
////////// (カァ〜〜〜〜!!)
「・・・新一?何、赤くなってんの?まさかシャンパン一杯で酔っ払ったりしてねーよな?」
「・・・ちっ、ちげーよっ!!バカ!!」
なんだか、とたんに快斗の顔が直視できなくて、オレは下を向かずにはいられなくなってしまった。
それから運ばれてきた料理は、、さすがクリスマス・メニューといった豪勢なもので。
とても大満足だった。
が。
そして、デザートのケーキが運ばれてきた時、それまでご機嫌だった快斗の顔が悲しそうにゆがんだ。
「な〜んで、ミッキーの形じゃねーんだよ?」
確かに運ばれてきたのは、品のよいブッシュ・ド・ノエルのケーキ。
それは特にミッキーの飾りなどないもので。
「おかしいと思わねぇか?新一!!唯一のテーマパーク内のホテルのクリスマス限定メニューにのケーキに、
何でミッキーがどこにもいないんだよ?!」
そんなことに力説すんなよ・・・。
お前、もしかしてそれが目的でここのレストラン予約したんじゃねーだろうな?
オレはほんとに快斗がミッキーマニアだったのかと、今、改めて思った。
「ディズニーシーは、大人のリゾートなんだろ?諦めろよ?ウマいぜ?これ。甘さもひかえめだし。」
オレはケーキを口に運びながらそう言ったが、快斗はどうも納得が行かない顔をしていた。
★ ★ ★
そうして、夕食を終えてミラコスタを出たのは、夜8時ちょっと過ぎ。
時間的には、「ディズニーシー・シンフォニー」の場所を取るにもちょうどいい時間かもしれない。
いくらベストポイントを押えたいからって、そう何時間も前から場所取りなんかしたくないし。
「どのへんで見るのがベストなんだろうな?」
どうも初めてだと、勝手がわからない。
そう思っていると、快斗がにっこり微笑んだ。
「ああ、ショーを見るポイントなら押えてあるから、時間ぎりぎりまで遊び倒そうぜ?
今、みんな食事してるか、場所取りしてるかだから、かなりアトラクションが空いてると思うんだよね!」
・・・ったく。
ほんとにどこまでも抜け目のないヤツ。
「・・・OK!じゃあ、何から行く?」
「そりゃ、やっぱり『センター・オブ・ジ・アース』でしょう!!」
「だよな!!」
そんなわけで、夜のメインのショーが始まるまで、オレたちはすっかりお気に入りの絶叫マシンを満喫したのだった。
「ディズニーシー・シンフォニー」は、夜空と水上を舞台にした光と音の壮大なショーとの事だが。
さすが、ショー開始の9時近くになると、大勢の人で広場はごったがえした。
けれど、快斗はオレの手を引いて、そんな人ごみから遠ざかっていく。
「おい、快斗。どこまで行くんだよ?こんな方来ちゃってちゃんと見えんのか?」
「うん、ばっちりね〜!」
そうは言われても、目の前に立ちはだかったヨーロッパ調の建物に、オレは眉をつり上げる。
「行き止まりじゃねーか。どーすんだよ?」
「あ、こっから上に上って、この建物の屋根の上から見るから。」
なんてことないかのようにさらりと言ってのけ、快斗がにっこりオレを振り返った。
の、上る?
驚いているオレをよそに、一体いつのまに用意したのか、快斗はロープを手にし、それを屋根のある部分に
器用に引っ掛けると、さっさと上り始めた。
「新一、落ちないように足元、気をつけてね♪」
「お、おい!こんなとこ上ったら、怒られるぞ?!」
「へーきだって。みんなショーに夢中で、誰も気がつかないからさ!」
そう言いながら、快斗は「おいで」とオレに手を差し伸べた。
そうしてなんとか、その建物を外側から強引に上り、屋根まで達したオレたちの見る景色は
ショーが始まる前でも、テーマパーク全体が見渡せて、かなり美しいものだった。
「キレイだな・・・。」
「ほら、新一!ショーが始まるよ!!」
楽しげな音楽とともに、花火やライトによって、壮大なショーが始まる。
確かに快斗の言うとおり、そこはベスト・ポイントだった。
おかげで、本日のフィナーレとばかりに繰り広げられる約8分間の壮大なショーを充分に満喫することができて
オレはずいぶん得した気分になった。
華やかなショーが終わり、人の波がいっせいに出口の方へ向かう。
ああ、みんなこのショーを見て帰るんだ。
そう思って、オレもそろそろ屋根から下りようと立ち上がると、快斗がオレの手をぎゅっと引っ張った。
「待って、新一。もうちょっと、オマケがあるから。」
オマケ?
直後、突然、夜空に花火がいくつも上がった。
でも、これは先程のショーとは、違う。
明らかにシーの外側から打ち上げられているものだ。
連発で次々と花火が夜空に花開き、オレはしばし無言でその美しい光景に目を奪われた。
そして、ふとオレは気づく。
その花火が開いたその直前に、何かしらの文字が浮かぶ。何かしらの規則性を持って。
・・・これは。暗号か?!
はっとして、快斗を見るとヤツはニヤリと不敵に笑った。
「・・・さて、花火が終わるまでにこの暗号が解けるかな?名探偵。」
ヤロー!やっぱ、この花火はお前が仕込んだものだったのかよ!!
「・・・ぜってーに解いてやる!!」
そう言い切って、オレは再び空へと目をやった。
繰り返し浮かぶ文字。何度も浮かんでは消え、消えては浮かぶその文字を一生懸命、オレは追って
そのうちその規則性を導き出した。
そして。
それがある言葉へと変換されることに気づく。
答えは。
『Merry Christmas To Shinichi. All I Want For Christmas Is You!!』
「・・・か、快斗。」
顔が熱くて、鏡なんか見なくたって自分が今、真っ赤なのがわかる。
夜の闇がいくらかそれを隠してくれていることに、オレは少しだけ感謝した。
「・・・あの。オレ、ゴメン・・・。快斗がこんなにいろいろしてくれたのに、オメーに何にもプレゼントを
用意してきてないんだ・・・。」
そう。プレゼントは、明日ゆっくり快斗に欲しいのを聞いた後、一緒に買いに行こうかと思って
今日は何も持って来ていない。
なんだか、ものすごく快斗に申し訳ない気がして、思わず下を向きかけたオレの頬を快斗の手がやさしく
触れた。
「いいって。オレは新一さえいれば何もいらないよ?暗号にも書いてあるだろ?
欲しいのは、新一だけってさ・・・。」
言いながら、快斗の顔が近づいてきて、オレは目を閉じ、おとなしくその口付けを受け止めた。
触れていただけの唇がゆっくりと忍び込んでこようとする。
ともすれば、流されてしまいそうな快斗の甘いキスに、オレは懸命に理性を繋ぎとめ
なんとか、この快感におぼれてしまう前に快斗を押し戻した。
「・・・新一?」
いいところで中断されて、やや不満げに快斗がオレを覗いてくるが。
それには敢えて気がつかない振りをして。
「快斗、今、何時だ?」
なんて聞いてやる。
言われて、あん?と快斗が自分の腕時計で時刻を確認する。
「・・・9時15分過ぎかな?」
「よっし!閉園時間は10時だったよな?まだ45分、残ってるぜ?」
そうニヤリと笑ってやると。
快斗も同じように、笑い返してきた。
「了解!最後の最後まで、しっかりと遊び倒すとするか!」
そうして、差し出された快斗の手を取って、オレは屋根から下りた。
それから、ずいぶん人がいなくなってきたテーマパーク内を駆け回って
閉園寸前まで、アトラクションを乗りまくった。
やがて、10時を過ぎ頃には、充分にもとは取っただろうと思われるほどしっかりと遊びきっていた。
たくさん、歩いて、走って。そして笑って。
あっという間の一日だったけど、すごく充実していた気がする。
「あ〜・・・これから、また一時間半もかけて、家に帰らなくちゃならないと思うとうんざりするな〜・・・」
帰宅までの長い道のりを考えると、本当に一気に疲れが出てきそうな気がする。
すると、快斗がニヤニヤしながら、こっちを見た。
「心配しなくても、今日は帰らなくても大丈夫だよ、新一?」
え?何で?
と、思ったオレの目の前に、快斗はすっとホテルのキーを出して見せる。
「実は。ミラコスタで一泊、取ってあったりして♪」
なっにぃ〜〜〜っっ!!
思わず赤面して、後ずさるオレに、快斗はちょっとだけ残念そうに付け足した。
「いや〜・・・。さすがにダブルの部屋はもう取れなかったから、ツインなんだけどさ。」
「オ、オレは泊まりだなんて一言も聞いてないぞっっ!!」
「オレも日帰りだなんて、言ってないけど?」
・・・てっめぇ〜!!////
「・・・いいじゃん!クリスマスなんだし。たまには雰囲気変えたほうが燃えるでしょ?」
何がだっっ!!
慌てて帰ろうとするオレの手を、快斗が掴む。
「今から帰るの、疲れそうだよ〜?電車も終電近くて激混みなんじゃないかな?」
・・・。
「ミラコスタはすぐそこだよ〜?!暖かいベットが待ってるよ?新一!!」
悪魔のような快斗の囁きが耳をくすぐる。
・・・けど、ベットが目の前でもどうせ、すぐには寝れねーんだろうが!!
いや、なんとか快斗を押さえつけて、眠ることができるだろうか?
「・・・快斗。泊まってもいいけど、オレは疲れたからすぐに寝たい・・・。」
そう上目つがいで訴えると、快斗はうそみたいに快諾した。
「OK!確かに今日は疲れちゃったし、明日に備えてすぐ寝た方がいいよね〜!」
ん?
あまりの聞き分けのよさに、一瞬、オレは違和感を感じるが。
それよりも明日に備えてって何だ?
首を傾げたオレに、快斗は一言。
「明日はランドだよ!新一♪」
そして、そのままオレはミラコスタで一夜を過ごすことになり。
当然のごとく、先程のオレとの約束など微塵も守る気配のない快斗とオレは一戦交える結果となった。
明けて、クリスマスの日。
今度は開園と同時どころか、昼近くにしか、オレ達がたどりつけなかったのは言うまでもない。
★ END ★
クリスマスに快新で、TDSに行ったら〜・・・のお話でした。
これは・・・、私が最近TDSに行ったから書いたような話ですが(笑)。
TDSに行ったことがない人が読んだら、もしかしてなんじゃこりゃ?的な話・・・かも・・・。
がが〜ん!!