Heart Rules The Mind

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NOVEL


月も星もない真っ黒な空からは、大粒の雨が降り注ぐ。
コンクリートを派手に叩きつけるその雨足は、弱くなるどころか、勢いを増すばかり。

こんな大雨の夜は、家で大人しくしているに限る。

が、しかし。
あいにく、平成のルパンこと怪盗キッドは、仕事の真っ最中であった。

首尾よく獲物を手に入れたのはいいものの、想定外の悪天候に当初、計画していたグライダーでの逃走を諦めざるを得ない状況に陥り、今、まさに別の逃走経路を模索しながら、警察との追いかけっこを繰り広げているところである。

・・・・・・やれやれ。まさかここまでどしゃ降りになるとはね。

雨ですっかり重くなった純白のマントを、キッドは翻した。

予報では確かに雨だったが、ここまで豪雨だとは聞いていない。
キッドが恨めしそうに雨空を見上げると、シルクハットのつばから水滴が滴り落ちた。

「さて・・・。どうする?」

この大雨の中、いつまでも逃げ回っては追いかける警察の方にも気の毒である。
手際よく、さっさと退散するにはどうすべきかと、キッドが考えを廻らせようとしたその時だった。

『お困りのようだね・・・。怪盗キッド君・・・。』

突然、足元から聞こえた声にキッドが目を見開くと、それは無線機からのものだった。

まるで、キッドがここに来るのがわかっていたかのように置かれていたそれを、キッドは黙ったまま見据える。

雨の雫のついたモノクルの奥の瞳が、僅かに警戒の色を示すように細められた。

そのままその不審げな無線機に近づいたキッドは、不敵な笑みを浮かべて応答する。

「・・・どちらさまでしょうか?」

『私かい?私の名は、ナイトメア・・・。君の見方だよ・・・。』

 

 


ダーク・ナイト  act.1


 

 

昨夜から降り続いた雨は明け方には上がり、翌日は朝から気持ちのいい晴天に恵まれた。

平成のホームズこと高校生探偵 工藤新一は、その日、学校を終えると警視庁へと直行していた。

昨晩、新一が解決した、とある殺人事件の事情聴取につきあうためである。

 

「いやぁ悪いね、工藤君。わざわざ来てもらっちゃって。目暮警部が工藤君にもぜひ、立ち会って欲しいって言うもんだから。」

1階フロアの受付で申し訳なさそうな顔をする高木刑事に、新一はにっこり笑顔で返した。

「構いませんよ。僕が関わった事件ですし。」

「そう言ってもらえると助かるよ。時間は取らせないと思うから。」

高木刑事の言葉に頷いた新一は、そのまま一緒にエレベーターに乗り込む。

ドアが閉まったエレベーターの中で、「そういえば」と新一は口を開いた。

「今朝のトップニュースで見ましたけど、昨夜は中森警部、結構いいところまでキッドを追い詰めたそうですね。」

「ああ、そうそう。あのどしゃ降りの中、中森警部もかなり頑張っちゃったみたいで。あ、確か、キッドの予告状の暗号は、工藤君が解読したんだっけ。」

「ええ。事件がなかったら、僕も現場に行こうと思っていたんですが。でも、結果として行かなくて正解でした。あの大雨の中、キッドを追い回していたら、ずぶ濡れですよ。」

新一がそう笑ったところで、エレベーターのドアが開く。

廊下へ一歩新一が踏み出すと、ぶつかりそうな勢いで駆けて行く捜査員とすれ違った。

何か事件でもあったのだろうかと、新一は思わずその捜査員を振り返る。

だが、慌しいのはフロア全体のようだった。

普段より多くの人が行き交い、何やら空気がピリピリしている。

怪訝そうに眉を寄せた新一に、高木刑事は苦笑した。

「ごめんね。ちょっと今、二課の方がバタバタしてて。」

「昨夜のキッドの件ですか?」

キッドにしてやられることなど、珍しいことではない。

何を今更そんなに慌てる必要があるのかと新一が不思議そうな顔をすると、高木刑事はこっそり耳打ちした。

「実は大変なんだよ。何でもキッドが世界中を騒がしてる謎の犯罪者と手を組んだらしくて。相手が相手だけに、ICPOまで出てくるって話なんだ。」

───ICPOってことは、国際級の犯罪者か。だが、キッドが誰かと手を組むとは・・・。

新一は眉をつり上げた。

少々気になる話である。

「その話、詳しく聞かせてもらえませんか?」

「・・・あ、いや、僕もあまり詳しくは・・・。この件を取り扱ってるのは二課だから。」

「ええ、もちろん。僕も直接、二課の方からお話を伺いたいです。できれば話だけでなく、捜査の方にも協力させてもらえるとありがたいんですが。」

多少ずうずうしい申出だとは承知の上。

だが、普段から、推理という形で事件解決に協力しているこの高校生探偵の頼みを、捜査一課が無下に断ることができないことも、新一はちゃんと知っている。

「・・・えっと。じゃあ目暮警部の方から二課へ頼んでもらえるよう、僕がお願いしてみるけど、それでいい?」

高木刑事が苦笑しながらそう言うと、新一は満足そうに頷いた。

それで充分だった。

目暮警部の口添えがあれば、ほぼ間違いなく捜査に加わる事はできるはず。

新一は「ありがとうございます」と、綺麗な笑顔を作ったのだった。

 

 

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それから、新一が帰宅したのはもうすっかり日も暮れた頃。

いつものように夕食をご馳走になるため阿笠邸を訪れた新一は、食後のコーヒーが入ったところで、早速、今日、警視庁で仕入れたネタを 阿笠博士と灰原 哀に話して聞かせた。

「“ナイトメア”!?いや、わしはそんな名前の犯罪者は初めて聞くが・・・。」

新聞を読んでいた博士は顔を紙面から顔を上げて、目を丸くした。

「ま、日本ではほとんど活躍してなかったらしいからな。でも、世界的には結構、名は通った有名人って話だけど。」

カップに入ったコーヒーに口をつけながら新一がそう言うと、博士はふむと鼻を鳴らした。

「ICPOまで動くとなると、それなりに大物の犯罪者ということなんじゃろうが・・・。にしても、盗賊としては、ちょっと変わっておるの。」

「ま、要領はいいんじゃねーか?自分は計画を立てるだけで、実際の盗みは他の盗賊にやらせて、それで獲物を二分するんだからな。」

「完全な分業体制をしておるわけか。確かに盗む側としても、獲物を盗み出す手段や逃走経路を完璧に組み立ててくれる計画師がいれば、盗むことだけに専念ができて、仕事が捗るかもしれんの。」

妙に納得した風に博士が頷く。

新一はカップの中の琥珀色の液体を見つめた。

「実際、ヤツと組んで犯行をしくじった者はいないらしいから、計画師としての腕もまぁそれなりなんだろうけど・・・。ちょっと引っかかるんだよな。」

 

どうにも、この計画師はいわく付である。

“ナイトメア”の計画通りに事が運び、仕事をやり遂げる事が出来ても、彼と組んだ盗賊は全て犯行日の夜が明ける前に捕まるか、命を落としているという現実。

要するに、彼と組まされた盗賊側にしてみれば、おいしい思いをしている者は誰もいないわけで。

そんな計画師が果たして、盗賊の間で人気があるのかどうかは不明だ。

 

新一がカップを手にしたまま考えをめぐらせていると、それまで話には興味を無さそうに雑誌を見ていた哀が顔を上げた。

「でも意外ね。あの怪盗さんに、誰かと手を組む協調性があったなんて。」

「オレも、それが気になるんだよな。」

新一も同調したように言うと、博士が口を開いた。

「じゃが、実際、昨夜もキッドは、ナイトメアの手を借りて逃走したんじゃろう?つまり、二人は既に手を組んでいるってことじゃないのか?」

「いや、少なくとも昨夜の時点では、まだ手を組んだとは言えない。ま、ナイトメアがキッドに接触を計ったのは間違いないだろうけどな。オレの考えでは、キッドは昨夜、グライダーでの逃走を予定していたんじゃねーかと・・・。」

すると、哀が「なるほど」と頷く。

「でもあの大雨では、さすがにグライダーでの飛行は不可能。で、急遽、逃走経路を変更しなくてはならない時に、ナイトメアが素敵なプランを提案してきたってところかしら?」

「おそらくな。あのキッドが他人の手助けが必要なほど、逃走するのに困っていたとは考え難いが、目の前に完璧な逃走経路が提示されるのは悪い話じゃない。まぁアイツの性格から言って、 単に自分で逃走経路を割り出すのが面倒臭かったとか、そんなトコじゃねーのか?」

「面倒臭かったって・・・。新一・・・。」

博士は少々呆れ顔になる。

 

実際、それは新一のカンでしかなかったが、あの茫洋とした怪盗を思えば、妙に説得力はあった。

しかし、それは昨夜の逃走劇に限っての話であって、これからキッドがこのナイトメアを共謀して盗みを働こうとしているというのは、どうにも納得がいかない。

 

腕組みした博士が唸った。

「警察が言うように、盗賊達の間で囁かれているそのナイトメアの噂とやらを、キッドが本気で信じとるとは思えんしなぁ。」

「じゃあ、おかしな扮装をして正体を隠しているもの同士、意気投合したっていうのはどうかしら?」

「・・・灰原。お前な・・・。」

奇妙な面で顔を隠しているというナイトメアと同様、あのキッドの純白の衣装を小馬鹿にした哀の冗談に、新一は疲れたように息をついた。

「大体、普段から警察を手玉に取ってるようなヤツが、わざわざ他人の力を借りる必要はねーだろ。」

「そうね。しかも、獲物の半分を報酬として渡さなければいけないわけだし。」

哀がそう冷静に付け足すと、博士はますます首を傾げる。

「ふむ・・・。そうなるとますますわからんの。確かにキッドほどの怪盗なら、計画師なんておらんででいいし、しかも、ナイトメアと組んだ事で捕まるか命を落とす可能性が出てくるなら、キッドにとってむしろ迷惑なだけなんじゃないのか?」

「・・・だよな。」

新一も頷いた。

何をどう考えても、キッドにとってナイトメアと組むことのメリットが見出せない。

それとも、新一たちの知らない何かが、キッドとナイトメアの間にあったのか。

答えの出ない疑問に新一は頭を悩ませる。

 

やがて、読みかけの雑誌を閉じて、哀がソファから立ち上がった。

「まぁ、別にあの怪盗さんだって、心から喜んでその計画師さんと手を組む事にしたとは限らないんじゃない?」

そうかもしれないと、新一も思った。

というか、それくらいしか考えられないが、そうすると、キッドはナイトメアに何か弱みでも握られているという事になるが。

もしそうだとしたら、一体、どういう経緯でそう言うことになったのか、それも気になるところだ。

考えに耽る新一と博士を残し、哀はそのまま部屋を出て行こうとする。

去り際に、少女は新一を振り返って笑った。

 

「一体、どこまでがその“ナイトメア”の計画なのかしらね?」

 

 

 

 To be continued

例のサンデーの「まじ快」 ダークナイトの巻を快新でやってみようかと・・・。
っていうか、まだ全然、キッドと新一が接触してないけど。話の全容がわからないので、わかる範囲でやってみました。
とりあえず、あのナイトメアの一件に新一さんが絡むとしたら、こんな感じで。(笑)

 

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