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NOVEL


犯行時間まで、あと僅か。

厳重な警備態勢の秀峰美術館は、怪盗キッドが訪れるのを待つばかりだ。

だが実のところ、キッドは既に館内に潜入を果たしていた。

あろうことか美術館の館長になりすまし、堂々とターゲットの傍にいるという大胆不敵さ加減は、さすがと言うべきか。

ただ、そのことを1人見抜いていた新一の姿は、もう展示室にはなかった。

『暗黒の騎士』(ダーク・ナイト)の警備は中森警部ら捜査二課に任せて、新一は今まさに美術館を出ようとしていた。

キッドが獲物であるブラック・オパールを手に入れた後、ナイトメアと落ち合う手筈になっている場所へと向かうためである。

 

───キッドの言うとおりに動いてやっているのが、ちょっと気に入らね─んだけどな。

そう思いながら、あと一歩で美術館の出入り口だというところで、いきなり視界が暗黒に変わった。

館内の明かりがいっせいに落ちたのだ。

しかしそれは一瞬のことで、すぐに予備の電源に切り替わったが。

腕時計で時刻を確認した新一には、それがキッドの仕業であることは明白だった。

「おそらく今の暗闇でケースを揺らし、宝石を台座から落としたってとこか。石の比重からすれば、絶対に水に浮くわけはないのに、アクリル板に乗ってるんじゃハタから見れば水に浮いているように見えるからな。大方、偽物じゃないか騒いで鑑定するフリでもして、くすねるんだろう。」

高圧電流をキッド自ら解除するのではなく、警察に解除させるという点からすれば、順当な策ではあるが、多少手を抜いていると言えなくもない。

しかも透明のアクリル板1つでこうも易々と引っかかってしまう警察もどうなのかと、新一は溜息1つ、美術館の外のタクシー乗り場へ向かったのだった。

 

途中、外の警備を固めている警備員の中に、あのICPOのコネリー氏の姿を見つける。

彼のもとにも展示室で起きていることの報告が入ったのか、慌しく部下に指示を出していた。

タクシーに乗り込んだ新一の横を、一足先に彼の車が通り過ぎていく。

新一はそんな彼の車を目にし、ややその眉を寄せた。

・・・・あの人、一体、どこへ?

警察は、キッドが既に『暗黒の騎士』を奪って逃走したものと考えているはず。(実際は、今、まさに盗もうとしているのであるが。)

だとすれば、キッドを追って行ったのには違いないだろうが、まるで、その行き先がわかっているかのように新一の目には映った。

ナイトメア専任の捜査官だけあって逃走経路にアテがあるというのなら、それも頷ける。

だが───

新一は、少々不審げな色をその瞳に浮かべたのだった。

 

 


ダーク・ナイト  act.3


 

 

とある廃屋のビルの屋上。

綺麗な月を背景に、怪盗が佇んでいた。

その手には、たった今手に入れたばかりの獲物『暗黒の騎士』(ダーク・ナイト)が輝いている。

獲物を入手した後の逃走経路については、一応、ナイトメアからのアドバイスがあったが、今、このコースは完全にキッドの寄り道であった。

特段、ナイトメアのセレクトしたコースで逃げなければならない理由もない。

キッドは優雅な手つきで宝石を月光に翳すと、モノクルの奥の瞳を僅かに細めた。

「・・・やれやれ。またハズレか。」

そうボヤいてから、キッドは青く輝くその石をジャケットとの内ポケットへと仕舞う。

───さて。面倒臭いけど、もうひと仕事。」

本当ならさっさと獲物を返却して帰りたいところだが、今夜はそういうわけにもいかない。

ああいったくだらない脅しをしてくる者にはきちんと釘を刺しておかないと、今後もまとわりつかれては厄介だからである。

キッドは溜息1つ、闇夜に白い大きな翼を広げると、そのまま空へとダイブしたのだった。

 

同じ頃、新一を乗せたタクシーは、ひと気のない静まり返った埠頭へと到着していた。

新一はタクシーから降り立つと、辺りを見渡した。

キッドによると、ナイトメアと落ち合うのはこの埠頭にある、今はもう使用されていない倉庫だということだが。

「・・・あれか。」

立ち並ぶ倉庫の中に、新一は一際寂れたものにアタリをつけ、慎重に近づいていく。

正面の入り口には鍵がかかっていたようだが、それは銃で破壊されて開いている。

そこからすぐ中に入っても良かったが、新一はそうはせず、一応問題の倉庫の周囲を調べて回ることにした。

と、新一の視線が僅かに動いて、倉庫の脇に停車している一台の車を発見した。

こんなひと気のない場所に停まっているのは、充分に意味ありげだった。

つまり、ナイトメアは既に倉庫内にいるということになるが。

「・・・・・・あの車は、確か・・・・・・。」

見覚えのあるその車に、新一は全てを確信したのだった。

 

 

□□□     □□□     □□□

 

 

薄暗い倉庫の中に白い鳥が舞い降りる。

翼をたたんで現れたのは、紛れもなく怪盗キッドである。

その姿を認めると、暗闇から更に黒い影が浮かび上がった。

不気味な面をつけたナイトメアだ。

彼は、キッドを拍手で出迎えた。

「見事だったよ。怪盗キッド。君を選んで正解だった。」

「それはどうも。」

「君にはおそらくとてつもない幸運が転がり込んでくるだろう。」

「いえ別に、興味ないですが。」

笑顔で称えるナイトメアに、キッドはしれっと返しながらマントを翻す。

と、間髪入れずにジャケットのポケットから例のイヤリングを取り出すと、ナイトメアへ向けて投げて寄越した。

受け取ったナイトメアは、口元に笑みを浮かべながら首を傾げて見せる。

「おや?獲物は山分けのはずでは?」

「2つとも差し上げますよ。」

キッドがそうしたのは、つまりそのブラック・オパールが彼の求める“パンドラ”ではなかったからなのだが。

事情を知らないナイトメアは、キッドが自分に感服したのだと満足げに微笑んでいた。

「私の選択した逃走経路がそれほどお気に召したかね?」

「いえ、警察の警備態勢を考慮しただけの逃走経路なら、充分間に合ってますので。」

「・・・なっ!」

プライドを傷つけられたらしいナイトメアの顔が悔しそうに歪んだ。

キッドは更に続ける。

「まぁ確かに、警察関係者から直接、情報提供していただけるのは、こちらとしても手間が省けて助かるんですが。わざわざ、他人に助言いただく程のことでもないんですよ。」

にっこりと言うキッドに、ナイトメアは少々狼狽する。

「・・・警察関係者?何を根拠にそんなことを・・・。」

「別にそう難しい話でもありませんよ。ナイトメアの事件の捜査官であるなら、警備態勢を熟知した上で完全な計画を立てるのも簡単なことだ。」

「勝手な推論で私の正体を決め付けてもらっては困るな。」

「いえ、実は。今日の警備態勢に私自身、少々手を加えて、事前に報告されていたのと変えてみたんですよ。変えたと言っても大したものではありませんが。 貴方はそれもしっかりご存知だったようですが、そこまできちんと把握できるのは、現場にいた人間でしかありえない。」

「・・・・では、美術館の入り口の警備員の配置をいじったのは・・・・!」

忌々しそうに唇を噛むナイトメアの前で、キッドはニヤリとする。

「そういうことです。ICPOのジャック・コネリーさん。」

 

すると、ナイトメアはあっさりと仮面を取り外し、素顔を露わにすると、ふてぶてしく鼻で笑って、胸元から拳銃を取り出した。

銃口が真っ直ぐにキッドに向く。

「実に残念だよ。君ほどの優秀な人間なら、今後も私と組んで一緒に仕事をしてもらいたかったのだがね。私の正体を知られたからには、生かしておくわけにはいかない。後は、君を殺して警察に引き渡すとしよう。」

殺気を込めて光るナイトメアの瞳に、キッドは少しも動じることなく「なるほど?」と頷いて見せる。

それから、唇の端を持ち上げて不敵に笑った。

「ですが、貴方の正体を見抜いているのは、私だけではないですよ?」

 

その声を合図に、キッドの後から1つ影が動いて少年が現れた。

新一である。

倉庫にこっそりと侵入を果たしていた新一は、キッドがこの場に現れるまで姿を隠し、その成り行きを見守っていたのだ。

いきなり登場した新一に、ナイトメアの目が驚愕に見開かれる。

「・・・き、君はっっ!探偵の・・・っっ!!」

仮面を外したナイトメアの前に、新一は一歩踏み出す。

「工藤です。またお会いしましたね。できれば、こんな形では再会したくなかったですが。」

 

 

□□□     □□□     □□□

 

 

薄暗い倉庫の中で、3つの影が凝固していた。

完璧な計画師であるというナイトメアも、さすがに計算外の展開である。

「・・・どういうことだっ!?まさか、キッドと探偵が結託しているとは・・・!?」

その台詞には、新一は細い眉を嫌そうに寄せた。

新一の顔は、キッドとグルだと思われたのが心外だと言っている。

そんな新一をクスリとキッドは笑った。

「私がご招待したんですよ。こちらの名探偵が貴方に会いたがっていたので。」

ナイトメアは新一へとその瞳を向けると、嘲笑する。

「・・・やれやれ。仮面を取るのが少し早過ぎたかな?」

「いえ、仮面を取るまでもなく、僕は貴方の正体には気づいていましたから。」

あっさりと言い返す新一に、ナイトメアは目をむいた。

新一はなおも続ける。

「最初から気になってはいたんですよ。過剰なまでに警備態勢を確認されている貴方の姿をね。そして、キッドが獲物を盗んだとわかったら、貴方は美術館から迷わず車を飛ばしている。キッドとナイトメアしか知らないはずのこの場所へ。ちなみに倉庫の外で貴方の車も見つけました。せめて、車はもう少し目立たない場所に隠しておくべきでしたね。」

ナイトメアは何も言わずに、ただじっと新一を見据えていた。

 

沈黙するナイトメアへ、キッドが指を立てて提案する。

「さて、この場をどうするか。私1人なら、貴方の正体を黙っていてあげても良かったんですがね。 もちろん私に二度と関わらず、私の秘密を公言しないという条件つきで。」

それには、新一が「秘密?」と首を傾げた。

「そうだ。怪盗キッドの正体に繋がる情報を私は掴んでいる。」

やや得意げに笑うナイトメアに、新一は納得する。

なるほど、ナイトメアはそれをネタにキッドに共謀計画を持ちかけたわけだ。

だが、実際のところ、キッドにとってそれは脅しでも何でもないらしいのが、気の毒な事にナイトメアは気づいていない。

そして、今度は同じネタを新一にまで振ってきた。

「興味あるかね?その怪盗の正体に繋がる有力な情報に。」

ニヤリとするナイトメアを新一は真っ直ぐに見返すと、「いえ、別に」と即答した。

すると、キッドが口を挟む。

「ヒドイなぁ。少しくらいは、興味を持ってもらいたいんだけど。」

新一は横に並ぶ怪盗をジトリと見た。

「・・・そんな話はどうでもいいんだよ。っていうか、お前、何を取引なんか持ちかけてやがるんだ?お前にとっては、そんな情報、痛くも痒くもないクセして。」

「バレた?でも公言されると、後でもみ消すのが面倒だからね。」

ペロリと舌を出す怪盗に、新一は疲れたように息をついた。

確かに、キッドとしては自分にさえ関わらないのなら、別にナイトメアなど、どうでもいいというのが本音なのだろう。

そんな二人の様子に、さすがのナイトメアも苛立ちを露わにした。

「私の掴んだ情報が痛くも痒くもないだと?!では何故、私と手を組んだのだ?!」

「別に手を組んだつもりはないんですが。今回の『暗黒の騎士』(ダーク・ナイト)が、私の獲物でもあったというだけのことです。」

あっさりと言い放つキッドに、ナイトメアはワナワナと震える。

キッドは続けた。

「ま、実際、もう私には不要なので差し上げようかと。確か、貴方は手に入れた宝石をすぐさま売り捌いている。何かお金が必要なのかと思いまして。」

「病気の息子さんの治療費ですね?」

新一の言葉に、ナイトメアは重苦しく頷く。

「・・・そうだ。息子の手術費用のためには・・・。」

息子を思い出しているのか、ナイトメアはそこで父親の顔になった。

そんな彼を、新一とキッドは黙って見つめた。

私利私欲を肥やすためではなく、愛する息子のためと言えば、確かに聞こえはいいかもしれない。だが、それでも犯罪を犯していい理由にはならなかった。

しかし同じ犯罪者である以上、キッドは何も言う事はない。

そんなキッドの横で、新一は言った。

「それでも貴方がやっていることは、許される事ではありません。息子さんだって真実を知ったら、どう思うか・・・」

「そうだ!!だから、誰にも知られるわけにはいかんのだっっ!!」

改めて、銃を握り締めるナイトメアの手に力が入った。

と、キッドがその場から一歩前へ出た。

「この場で私達二人を殺しますか?確かにそれが1番の得策だ。ただし、二人同時に殺せればの話ですが。」

「な、何だと?!」

「もし、貴方が名探偵を先に撃てば、その間に私が貴方に反撃するということです。」

「・・・おい、こら。何で、オレが先に撃たれるって決めてるんだよ?」

睨みつける新一に、キッドは「いや、例えばの話」と笑って、再びナイトメアを見る。

「ちなみに、私が撃たれた場合でも、名探偵の黄金の右足が貴方を攻撃する事は間違いないですから、貴方が逃げられる可能性は低いはず。」

 

もはや、ナイトメアには逃げ道はなかった。

新一がいる時点で、キッドが提案した条件を呑み、見逃してもらうこともできず、かといって、キッドの情報をネタに新一と取引する事も叶わない。

そして、この場で口封じのために、この怪盗と探偵を同時に殺すことも不可能だった。

ナイトメアは唇を噛みながら、手にしたブラック・オパールのイヤリングを握り締める。

と、外からパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。

「貴方が呼んだ部下の方々が来たようですね。どうやら、貴方の見せる悪夢も今夜が最後になりそうだ。」

キッドがそう言うと、ナイトメアは外したはずの仮面をもう一度つけた。

そして、その場を走り去って行く。

「・・えっ!どこへ行くつもりだ?!」

慌てて、新一とキッドもナイトメアを追う。

だが、ナイトメアはもう新一とキッドの手を逃れるというより、ここへ駆けつけるであろう自分の部下達と鉢合わせしないように、倉庫から脱出を図ろうとしていた。

しかし、彼が向かったのは倉庫の上。

この場からの逃走経路としては、少々難ありのコースだった。

 

新一とキッドがナイトメアを追い詰めた時、彼は倉庫の敗れた壁から外へと飛び降りようとしていた。

「無理だ!この高さで飛び降りたら、タダじゃすまないぞっ!」

新一がそう言って止めるが、ナイトメアは聞くつもりはないらしく、パトカーが迫ってくる外を気にしていた。

「私はケンタのためにも、こんなところで捕まるわけにはいかないっっ!!」

言うなり、ナイトメアは外へ飛び降りた。

瞬間、キッドがその手を差し伸べるが、僅かに届かず、空を切る。

 

明らかに無謀なその飛び降りが、無事に着地できるはずもなく。

ナイトメアの体は硬いアスファルトの上に、無残に叩きつけられたのだった。

 

 

□□□     □□□     □□□

 

 

やがて、パトカーが数台、倉庫に到着した。

車から降り立つ捜査官の中には中森警部の姿も、そして父親を追ってきたのか、コネリー氏の息子の姿もあった。

小さな子供の父親を探す声が埠頭に木霊する。

彼はまだ父親を失った事実も、そして真実も知らない。

新一は、倉庫の敗れた壁からやりきれない想いで、地面に転がるナイトメアの亡骸を見つめた。

と、その横で不意にキッドがトランプ銃を構える。

新一が何かいうより先に、キッドは銃を撃った。

キッドの撃ったトランプのカードは、真っ直ぐナイトメアへの仮面へと突き刺さり、その勢いで仮面を吹き飛ばした。

 

「・・・お前・・・。」

新一は、キッドを見つめる。

キッドはトランプ銃を手に、僅かにその瞳を細めて言った。

「別に同情するわけじゃない。でももうナイトメアはいないんだ。何の罪もないあの子の悲しみを増やす事もない。」

「ナイトメアの正体を闇に葬り去るつもりか?」

「せめてもの手向けとしてね。」

「でも、それは───

新一がそう口を開いた時、子供の悲鳴が辺りに響いた。

倒れているコネリー氏の姿が発見されたのだ。

遺体を前に泣きじゃくる子供のもとに、捜査官らが駆け寄って行く。

その様子を倉庫の壁の隙間から見ていた新一は、それ以上、何も口には出来なかった。

すると、突然、新一の視界が白いものに覆われる。

ハッとした新一が隣を見ると、キッドが純白のマントを翻していた。

慌てて新一がそれを目で追った時には、キッドは既にグライダーを広げて倉庫のから飛び立って行く。

「真実がいつも人を救うとは限らないんだぜ?名探偵。」

そう言い残して、鳥のように自由に羽ばたく怪盗を、新一は成す術もなく見送ることしかできなかった。

 

「・・・そんなことはお前に言われるまでもね─んだよ。」

夜空へ消えていく白い鳥を目に映しながら、新一はそう呟いたのだった。

 

 

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翌日、阿笠邸。

ナイトメアの一件は、今朝のトップニュースで新聞も一面に取り上げていた。

結果として、ナイトメアと怪盗キッドを取り逃がしたものの、奪われたはずの『暗黒の騎士』(ダーク・ナイト)を無事、取り戻せた事で一件落着としているが。

正体不明の大怪盗、キッド同様、謎の計画師であるナイトメアの正体も依然として謎のままで、事件は終結していた。

 

「ほぉ〜。ナイトメアは、今回、初の仕事失敗に終わったわけか。」

新聞記事に目を通しながらそう唸る博士の前に、哀が入れたてのコーヒーを出す。

「うわさの計画師も、これじゃカタなしね。」

出されたコーヒーを受け取って、博士もふむと頷いた。

リビングのソファでは、同じ様に新一がコーヒーを口に運んでいた。

そんな新一を博士が振り返る。

「新聞にはキッドとナイトメアの仲間割れが原因かとあるが、本当のところはどうなんじゃ、新一?昨夜、現場に行ったんじゃろう?」

「・・・さぁな。実際、キッドはナイトメアと組んだつもりはなかったらしいし。獲物がバッティングしただけの話みたいだったけどな。」

「一枚上手だったってことじゃない?謎の計画師さんより、あの怪盗さんの方が。」

「ふむ・・・。命を落とす事も警察に捕まる事もなく、いつもどおり逃げ遂せたところからして、そういうことなんじゃろうのぉ。」

相手がキッドでは、さすがの計画師も思い通り事を運べなかったのだろうと、博士は息を吐いた。

と、思い出したように「そういえば」と哀が付け足す。

「怪盗さんは無事のようでも、ICPOの捜査官が1人殉職したらしいけど。」

「新聞によると、捜査中の事故による転落死の可能性が濃厚となっとるの。気の毒にのぉ。」

そんな博士と哀の会話を、新一はただ黙って聞いていた。

 

ふと、少女の目が新一を向く。

「それにしても、工藤君にしては珍しいんじゃない?」

「何だよ?」

「キッドはともかく、ナイトメアの正体くらいはつきとめてくれるものかと思ったけど?」

人の悪そうな笑みを見せる哀に、新一はフイと横を向いた。

「・・・別に。事件は一応、解決してんだから、それでいいだろ。」

素っ気無い新一の返答に、哀はそれ以上、会話を掘り下げても無駄だと悟ると、席を立って飲み終わったコーヒーカップを片付けに行った。

食卓では、博士がもう違う新聞記事に目を通している。

 

新一は、1人思いに耽っていた。

あの時、ナイトメアが自ら命を絶つことによって、その正体をキッドに闇に葬ってもらおうと計算していたと言うなら、紛れもなくそれは計算どおりだったのだろう。

もちろん、本当に彼がそこまで計算していたかどうかは、今となってはもうわからないが。

とにかく。

「・・・・・・もう、悪夢(ナイトメア)は終わったんだ。」

そう呟いて、新一もそれ以上、考えるのをやめた。

 

 

 

 The End

例のサンデーの「まじ快」 ダークナイトの巻。
一応、新一を登場させたら、こんな感じ?的な話で書いてみました。
書いてる都合上、ナイトメアの最期については少々、変更させていただいて(苦笑)。
実際、書いてみると、新一がこんな風に犯人を見逃すかどうかが、自分的には微妙な話だったことに今更気づきました。

 

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