もし、デスノートを拾ったのが桜蘭高校ホスト部員だったら・・・の巻き
★act3★
ようやく、おどろおどろしい空気が立ち込めた第三音楽室。
死神リュークは羽を仕舞って再びソファに腰を下ろすと、自分を物珍しげに眺める部員達を見据えた。
・・・・・さて、これでやっと話ができそうだな。
耳まで避けた唇がニヤリとする。
「お前達がノートを使っていたら、ここまで面倒なことはなかったろうがな。要するに、DEATH NOTEは、死神が人間を殺すための道具だ。」
改めて見ると、なかなか不気味なその笑顔を、部員達も食い入るように見つめていた。
「へぇ〜。死神って、あのノートで人を殺すんですか。」
ハルヒが感慨深げに言うと、「でもさ─」と光が続けた。
「死神のクセに、あんなのに人の名前をちまちま書くなんて、意外に地味だね。」
「そうだよね?お空も飛べるのに。」
ハニーもそう付け足す。
「ま、でもそういうことなら、あのノートって死神の必須アイテムってことなんじゃないの?」
馨が言うと、環が「おお、そうだな!」と大きく頷いた。
「そんな大事なものなら、落としたりしちゃダメですよ。」
ハルヒはにっこりリュークに笑いかけるが。
・・・いや、そうじゃないんだけどな。
と、リュークが口を開く前に、鏡夜が重々しく言う。
「お前達、何か肝心なことを忘れていないか?」
“肝心なこと?”と鏡夜以外の部員が小首を傾げると、鏡夜は続けた。
「わざわざ、本物の死神がオレ達、人間の前に姿を現すということが、どういうことを意味するのか。要するに、彼がここへ来た目的だ。」
「・・・それは・・・。やっぱり、あのノートを取りに来たんじゃないんですか?」
ハルヒが答えると、環がバッと立ち上がる。
「いや、待てっっ!!よく考えてみろ!死神に死のノートの存在!!これらは既に神の領域だ!言わば、オレ達は決して踏み込んではいけない禁断の世界に、足を踏み入れたという事に・・・・!!」
「・・・ってことは、まさか・・・。」
ハルヒの声に、リュークを見つめる鏡夜以外の部員達の顔が青ざめる。
「「もしかしないでも、口封じの為に僕達を抹殺しに?!」」
双子の声を合図に、鏡夜以外の部員達は全員、その場から引いた。
「すみません許してくださいっっ!!」
「このことは誰にも口外しないので、命だけは助けてくださいっっ!!」
「「死にたくないよ〜!!」」
「ケーキが食べられなくなるのはヤだ〜!」
などと、口々に命乞いを始める。
無論、リュークは彼らを殺しにきたわけではなかったのだが、先程から、何度か「コイツら、殺しちゃおうかな」と思うくらいの暴言は受けているのは確かだった。
唯一、リュークの傍に残った鏡夜は、部屋の隅に避難(それで逃げたつもりなのか)した環達を見やった後、再びリュークの方を向いた。
「確か、あのノートのルールでは、“人間界の地についた時点で、ノートは人間界のものになる”とあったはずだが。つまりあのノートは、現時点でリュークのものではないと?」
すると、大きく裂けた唇がニヤリとする。
「そうだ。確かにあれはオレのノートには違いないが、すでにその所有権はノートを手に入れたヤツが引き継いでいる。要するに、ノートは今、アイツのものだ。」
リュークの長い指が、部屋の隅に隠れた環を指した。
環は「オレ?」と不思議そうな顔をする。
そんな環を見、ふむと頷いた鏡夜は質問を続けた。
「しかし、あのノートを見た時から気になっていたのだが。あそこまで詳しくルールが記入されているのは、明らかに拾い主にノートを使わようという意図があるように見えなくもない。もしかして、わざとノートを落としたのでは?」
「そのとおりだ。オレはノートを落としたが、どこに落ち、誰が拾うかはわからないからな。だから、人間界で1番ポピュラーな英語でわざわざ説明をつけてやった。」
「なるほど・・・。」
興味深げに鏡夜は言う。
「つまり、リュークは人間に使わせたかった。ということは、ここへやって来たのは、オレ達がノートを使うところを見物しに来たと言ったところか。」
「まぁ、そんなところだ。」
大きな目をギョロリとさせて、リュークは頷いた。
「では、リュークはオレがあのノートを拾ったことを、怒っているわけではないのだな?」
部屋の隅から、環が声をかける。
リュークはその声の主をギロリと見つめ、
・・・拾ったのがお前だったことは、今となってはある意味、ショックだけどな。
そう心の中で呟いた。
「しかし、ここで一つ確認しておきたいのだが・・・。ノートを使用した、あるいはその存在を知った人間へのペナルティはないのか?ノートで神の力を得るには、それなりの代償がつきそうなものだが。」
「別に何も。」
鏡夜の質問にリュークはあっさりと答えると、外野も声を出す。
「え?ホントに?!」
ハルヒの声に、常陸院ブラザーズも続く。
「「ってことは、僕達、死ななくていーんだ。」」
「わ〜いっ!よかったぁ!ねぇ、崇!」
「・・・ああ・・・。」
両手を挙げて万歳するハニーへ、モリは暖かい眼差しを送った。
安堵する一同を前に、リュークが再び口を開く。
「強いて言えば、そのノートを使った人間にしか訪れない苦悩や恐怖・・・・・・」
と、リュークの話はまだまだ続いているのに、環がばばーんと立ち上がって語り始めた。
「あぁっっ!何て罪深きオレっっ!このオレのあまりの美しさが神をも魅了してしまうとは!!つまり、神に選ばれしオレがあのノートを拾うことは、まさに必然だったのだっっ!!」
“どうだ、うらやましかろう”と言う環に、双子は得意のハモリで返す。
「「別にうらやましくありませ〜ん。」」
「大体、神って言ったって、死神じゃん。」
「逆に、縁起悪いよ。」
光と馨はそう付け足した。
・・・っていうか、オレ、まだ話、途中なんだけど。
一向に進まない話に、リュークは頭を掻きながら言った。
「いや、オレは別にお前を選んだわけじゃないし。たまたまノートがこの辺りに落ち、たまたまお前が拾っただけのことだ。」
「いいんだ、リュークっ!たとえ、それが偶然だったとしても、そんな偶然を呼び寄せてしまう何て強運なオレっっ!!」
両手を大きく広げ、一人陶酔しきっている環が、リュークの瞳に映る。
・・・・・・コイツ、本当にウザイな。
そう思われているのも知らずに、環は続けた。
「ともかく!ノートをオレが拾ったことは、もはや運命!オレこそが死神と人間を繋ぐ使者となるのだっっ!!」
「え〜、何それ?まさか、殿、あのノートで人殺しでもするつもり?」
光がそう言うと、環は「バカモノ!」と反論した。
「オレは、ノートのおかげでこうして死神と交流できることを言っているのだ!オレがノートを拾わなければ、死神の存在も、死神界なんてものが存在する事も知らずにいたんだぞ!だが、今、新世界への道が開かれたのだっ!!一緒に探求して行こうではないかっっ!!」
「「別にそれほど興味ないしぃ〜。」」
「
それに、ある意味、知らない方が良さそうな話っぽい気もしますけどね。」
双子に続いてハルヒもつっこむ。
だが、環の熱弁は終わらない。
「何を言うっ!死神界がどんなところだとか、死神が普段は何をしているのかとか、興味はないか?!こんな話を聞くチャンスはないぞ?!」
「「そりゃそうだけど〜。」」
すると、鏡夜がキラリとその眼鏡を光らせた。
「確かに一理あるな。リュークの話に全く興味がないと言えば、嘘になる。」
「おお〜鏡夜っっ〜!!」
うれしそうにまとわりつく環を無視し、鏡夜は窓へと目を映した。
「・・・だが、今日はもう遅い。迎えの車をいつまでも待たせるわけにはいかないからな。続きはまた明日にしよう。」
「あ、もうこんな時間なんですね。夕飯の買い物もあるし、帰っていいですか?あんまり遅いとスーパーが品薄になるんですよね。」
腕時計を見ながらハルヒが焦るように言うと、双子とハニーもそれにいた。
「「オレ達も帰りまーす。」」
「僕もケーキ、食べ終わったし帰る〜っ!」
環以外の部員達はそそくさと帰り支度を始め、ドアへと向かう。
「・・・え!みんな、帰っちゃうのか?!」
「仕方がないだろう。時間も時間だからな。ともかく、ノートを拾ったのはお前だ、環。ノートの所有権はお前にあると言うことだし、リュークのことはお前に任せる。」
鏡夜がそう言うと、環はリュークを見つめた。
「そうか!では、リューク!今夜はオレの家に泊めてやろうっっ!夜通しいろんな話をするのだっ!!」
まるで、新しい友人ができたかのように喜ぶ環を、リュークは無言で見返す。
・・・・オレ、コイツと一晩、一緒にいなくちゃならないのか?
コイツの相手は疲れそうで嫌なんだけどな。
それは、リュークの素直な感想だった。
続