もし、デスノートを拾ったのが桜蘭高校ホスト部員だったら・・・の巻き

★act4★

 

 

第三音楽室。

放課後を迎えたその部屋には、いつものホスト部員にプラス新しいメンバーが1人。

そしてホスト部部長であり、自称キングの環は、今日もハイテンションだった。

いや、昨日の今日だけに、さらに輪をかけていると言っていいほどに。

 

「では、ここで一つ、オレが死神の驚くべき秘密を教えてやろう!!何と、死神は人間の寿命をもらって生きているらしいのだっっ!」

「「はぁ?!何それ?!」」

「昨夜、リュークから教えてもらったのだがな!例えば、普通60歳で死んでしまう人の名を40歳で死ぬようにノートに記入すると、その差、20年間が死神の寿命にプラスさせると、こういう仕組みなっているのだ っ!!」

環の得意げな説明に、光は唇を尖らせる。

「・・・・何かそれ、微妙にヤな感じがするんだけど?」

「そうだよ、殿。だってそれって、要するに死神が長生きするために、僕ら人間が殺されてるってことじゃん。」

そう馨も付け足すと、向かいでケーキを食べているハニーもフォークを片手に頷いていた。

「じゃあ、僕達の命って、死神さんのご飯みたいなものなんだねぇ〜。」

「ま、つまり、食物連鎖の一環だな。オレ達が生きる為に動物を食すように、死神も生きる為に人間を殺すということなんだろう。そう理不尽なことでもない。」

相変わらず、1人PCに向かっていた鏡夜が冷静にそう言ったところで、音楽室の扉が開いた。

 

「すみません、遅れました。」

委員会の仕事で1人出遅れたハルヒである。

彼女は言いながら、部屋で談笑している部員達に目をやった。

「おおっ!ハルヒ!良いところに来たな!今から、ちょうど面白いことを始めようと思っていたのだ!」

おいでおいでとハルヒを手招きする環に、ハルヒは「面白いこと?」と首を傾げる。

「まだ、営業開始まで少し時間があるからな!その時間を利用して、今からリュークへの質問タイムを設けようと思うのだ!各自、聞きたいことがある者は挙手をして順に述べる事!リュークは、その質問に対し、完結に答えてくれ!」

環の提案に、リュークは「え、オレ?」と面倒くさそうな顔をした。

同じく、面倒くさそうな顔をしたハルヒは、はたとリュークを見た。

「っていうか、リュークさんは昨夜は本当に環先輩のところに泊まったんですか?」

すると、リュークの大きな瞳にハルヒの顔が映った。

「オレは、ノートを拾ったヤツの後を、いつもついていなければならないからな。 おかげで昨夜はアイツにあれこれ聞かれてマイッたが。」

「そうなんですか。それはまぁ・・・いろんな意味で厄介ですね。」

「よくわかってるな、お前。」

「ええ、まぁ。一応、リュークさんよりは、先輩とのつきあいは長いですから。」

妙に意見の合うハルヒとリュークをよそに、環は「ではっっ!」と人差し指を天井につき立て、死神への質問タイムを開始した。

 

「質問がある者は、挙手を!!」

環がそう仕切ると、まずは双子が「「は─い!」」と手を挙げた。

「とりあえず“死神界”って言うくらいだからさぁ、リュークの他にもたくさん死神がいるってこと?」

光がそう尋ねると、リュークは「そうだ。」と頷いた。

「死神界には、オレのような死神が大勢いる。数えたことはないから、何人いるのかはわからないが。あと、オレ達死神を束ねる死神大王がいるぞ。要するにオレ達のボスだな。」

「へぇ?大王とかいるんですね。それはちょっと怖そうかも。」

ハルヒが口を挟むと、リュークも「怖いぞ?」と笑った。

すると、今度は馨が質問を始める。

「じゃあさぁ、その死神界にいる死神って、みんなリュークみたいなヘビメタルックなわけ?もしかして、それが今、そっちの流行とか?」

「ヘビメタ?」

首を捻るリュークに、光が解説を付け加える。

「ロック・ミュージックのジャンルの一つ『ヘヴィーメタル』の略だよ。そっち系の音楽やってるバンドマンって、たいてい長髪だったり、ドクロとか鋲付の革ジャンとかいうファッションなんだよね。」

「・・・・それはオレにはよくわからないが、別にみんな同じ格好じゃないぞ。これはオレの趣味だ。流行かどうかもわからないな。」

「「ふーん。」」

自分達で聞いておいた割りには、双子はどうでも良さそうな返事をハモリで返した。

 

「よし!光と馨はそれで終わりだな?!次、他に質問のある者っ!」

すると、今度はかわいくハニーがフォークを持った手を挙げた。

無論、彼の逆の手にはケーキの乗ったお皿がある。

「あのねぇ、あのねぇ!死神さんの世界にもおいしいケーキってある?!」

にこにこかわいく微笑むハニーに、リュークは少々固まった。

「・・・ケーキ?」

これまた不思議そうな顔をするリュークに、ハニーは自分の手元のケーキを指し示す。

「これっ!あのね、と─っても甘くておいしいんだよぉ〜v」

「・・・・オレは食ったことないな。とりあえず、あっちでは見たことない食べ物だが。」

リュークが答えると、ハニーは残念そうに「そっかぁ〜。」と呟く。

「崇、死神界にはケーキ、ないんだって。かわいそうだねぇ?」

「・・・そうだな。」

モリが頷いたところで、質問終了と判断した環は、今度は自らハルヒを指差した。

 

「よし、次はハルヒ、お前だ!」

「え?自分ですか?!別に特に質問したい事なんて・・・。」

「遠慮する事はない!何でも疑問に思ったことを聞けばいいのだ!さぁ早くっっ!」

嫌でも質問させたいらしい環を前に、ハルヒはやれやれと思いながら、無理矢理質問を考えた。

「・・・ええっと、じゃあ・・・、そうですね。死神界の皆さんは、そこで何をしてるんですか?」

と、それには馨が先に口を挟む。

「バッカだねぇ、ハルヒ。死神なんだから、例のノートで人殺ししてるに決まってるでしょ。」

だが、それにはリュークの訂正が入った。

「いや、実際、死神でそんなに頑張ってノートに人間の名前を記入しているヤツはいない。何をしているかと言うと・・・ そうだな。昼寝してるか、バクチ打ってるかってところだ。」

死神は意外に暇なのだと、そうリュークは語る。

「バクチ?じゃあ、カジノはあるんだ?」

光が聞くと、リュークは首を横に振る。

「そんな小洒落たものではなくて、ただ数人集まって横髑髏を転がすだけのゲームだが。」

「「なーんだ、つまんないの。」」

「っていうか、暇なのに娯楽施設が充実してないなんて、最悪じゃん。」

ハモった後に、馨がそう閉めた。

「何ていうか、暇つぶしが昼寝かバクチだなんて荒んでますね。」

「そうだよねぇ〜、仮にも神様なのにねぇ〜。」

ハルヒに続いて、ハニーもケーキを頬張りながら言う。

「いや、別に・・・。オレ達は、死にたくないから人間の寿命をいただき、ただ漠然と生きている。もっとも、ダラダラし過ぎて何百年も人間の名前を書くのを忘れて暮らし、死んだ死神なんてのもいるくらいだからな。」

リュークがそう答えると、常陸院ブラザーズは声を揃えて「「うわー」」と悲愴な顔をした。

「病んでるね。」

「うん、病んでるよ、絶対。」

光と馨が顔を向き合わせて言う。

すると、リュークもそれにはニヤリとした。

「そうだ。オレが言うのもなんだが、今の死神界は腐ってるな。」

その言葉には、ハルヒも同情したように息をついた。

「・・・・そうなんですか。死神の世界も大変なんですね・・・。」

「あんまり行きたい世界じゃないねぇ、崇?」

「・・・ああ・・・。」

 

すると、今度は鏡夜がリュークの方を向く。

「そういえば、リュークはわざとあのノートを落とした・・・つまり人間に使わせてみようと思ったようだが、拾った人間がノートで誰かを殺したら、やっぱり殺された人間の寿命はリュークに加算されるのか?」

「いや、オレ自身が使っていないから、オレの寿命は変わらない。だが、ノートを人間が使ったとしても、その人間の寿命が延びることもないな。それが決定的な死神と人間の違いだ。」

リュークの答えに、鏡夜はふむと顎に手を添えた。

「・・・と、いうことはだ。人間がノートを使うことによる死神のメリットは、一体?オレには何も無いように思えてならないが。」

「そうだな。メリットは何もない。」

「では、何故、そんなことを?」

全てにおいてメリット最優先の鏡夜が不思議そうに訊ねると、リュークは避けた口から歯をむき出して笑った。

「退屈だったから。」

 

「「なーんだ、暇つぶしなんだ。」」

「暇つぶしなんですね。」

「僕達、暇つぶしにされちゃったんだぁ?」

双子が奏でると、ハルヒ、そしてハニーもがっかりしたように続く。

すると、鏡夜がパンパンと手を叩いた。

「暇つぶしはお互い様だろう。さ、そろそろ時間だ。お客様をお迎えする準備をしないとな。」

「よし!じゃあ、質問タイムは以上でお開きとする!」

環もそう言って、ソファから立ち上がる。

そして、どこに用意していたのやら、大きな紙袋をハルヒの前に差し出した。

 

「・・・何ですか、これ?」

「今日の衣装だ!」

にっこり微笑む環を前に、ハルヒは紙袋の中を覗きこむ。

中には真っ黒い衣装が入っていた。

他にもドクロのアクセサリーなどもある。

すると、ハルヒの両肩に双子達が顔を出した。

「聞いてよ、ハルヒ〜。殿ったら、昨日、深夜にうちに電話して来てさ〜。」

「死神の衣装を急遽、用意しろとか言ってきてさ。ま、とりあえず、それらしいのは用意したけど〜。」

光と馨の言葉に、ハルヒはげんなりする。

「・・・・・・ってことは、これは死神の・・・・・・。」

すると、環はその場でくるっとターンした後、高らかに宣言した。

「そうっっ!本日、ホスト部は人間界に降臨した死神として、お客様をお迎えするという新しい試みなのだっっ!!」

「・・・・・・・・・・はぁ、そうですか。・・・あの、いいんですか?鏡夜先輩?」

ハルヒは影の部長に助けを求めるが、鏡夜はただ微笑んで返しただけだった。

「いいんじゃないか?実際、本物の死神に話を聞けたことだし、話題には事欠かないだろう。」

そういう問題かな?とハルヒは思うが、言い出したら聞かない部長のハイテンション振りには逆らうことさえ、億劫だった。

 

「・・・あの。ホスト部を営業している間、リュークさんはどうするんですか?」

着替えに行こうとしたハルヒが、鏡夜を振り返る。

「ここに居てもらうが?別に問題はないだろう。オレ達以外、彼の姿は見えないんだからな。」

「ああ、そうでしたね。」

そう言って、ハルヒは1人、奥の部屋に着替えに行く。

 

1人部屋に入ったハルヒは、環から預かった黒い死神の衣装を手にしながら、疲れたように息をついた。

「・・・・・・本物の死神の前で死神の振りをするなんて、恥ずかしいなぁ・・・・・・。」