Heart Rules The Mind

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NOVEL

 

愛しい かれん
受賞 おめでとう
今宵 君の心を射抜き
僕の操り人形にしてあげよう
逆らえば 『死』 あるのみ



 

ベルウッド・ホテル東京のエレベーターの中、新一は偶然にも受賞パーティにマジックショーを披露するため出席していた快斗と出くわした。

ダテ眼鏡の変装など何の効力もなく、あっさりとその正体を見破られた新一。

本来ならば、自分がここにいることを他人に知られるのはマズイのだが、今、ここで快斗と遭遇してしまったこの偶然を、新一は幸運と捉えた。

もとの姿に戻ったとはいえ、大手を振って歩き回れないことを思えば、誰かの協力があった方が捜査はやりやすくなる。

それが、この快斗ならば───

前回の修学旅行での誘拐事件でも、快斗の働きは実証済み。

事件の捜査協力には、持って来いの人物だった。

 

「どうせヒマなんだろう?このままちょっとつきあえよ。」

いきなり新一に協力を求められた快斗は、「は?」と驚いた様子で眉をつり上げる。

「事件捜査のために、オレに協力しろって言ってるんだ。」

眼鏡を外しながら不本意そうに言う新一に、快斗はますます目を丸くした。

確か前の修学旅行の一件では、快斗が事件に首を突っ込むのを新一は迷惑そうにしていたはず。

それなのに。

「オレが事件に関わると、迷惑なんじゃなかったっけ?」

「あの時とは状況が違うんだよ。ワケあってオレは今、あまり人目に姿をさらすことはできねーから・・・。」

「・・・なるほど?いろいろ事情があるみたいだね。」

快斗はその瞳を細めた。

新一の抱えている事情とやらが、体が小さくなったり大きくなったりすることに関係があるのだとは、快斗にも予想がつく。

だが、どうしてそんな厄介な体質になったのか、そしてその背景には何があるのかまではわからない。

だから、これは興味本位。

快斗はにっこりと笑顔を作ると、あっさりと快諾の意を示したのだった。

 

 


工藤新一の復活〜 黒の組織との対決〜  act.2


 

 

エレベーターは二人を乗せたまま、静かに上昇していた。

早速、新一はミス・ジャパネスクに届いた脅迫状の内容について、快斗に説明する。

脅迫状の文面に、快斗の反応は今ひとつだった。

あまりに短絡的な文章に、少々がっかりしたのである。

「まぁ、何ていうか・・・。ちょっと行き過ぎたラブレターに取れなくもないけど?」

普段、暗号交じりの予告状を作り慣れている怪盗としては、どうせ脅迫状なんてものを送るなら、もう少し工夫を凝らしたらどうだと文句の1つも言いたいところだが。

そんな快斗をよそに、新一は言った。

「脅迫状を受け取った本人も、単なる嫌がらせとしか思ってないみたいだったしな。何も起きないならそれに越した事ないんだが、一応、ホテルの中を調べていたところだ。」

「で?これからどこへ行くつもり?」

「とりあえず、ミス・ジャパネスクのところに。さっき控え室に戻ったみたいだったからな。」

そうして新一と快斗を乗せたエレベーターは、寿かれんの控え室のある20Fに到着した。

部屋に向かう廊下を二人して歩いていると、女性の声がした。

そこにいたのは、かれんの姉だった。

新一は素早く壁に身を隠すと、そっと様子を窺う。

ドアの前に立つ彼女は、チャイムを鳴らしたりノックをしたり、必死に妹を呼んでいる。

やがて開かれたドアの向こうから1人の男性が現れると、彼女は妹を出せと詰め寄った。

その様子を、新一とともに快斗も壁の影から見つめる。

「あれは?」

「ミス・ジャパネスクのマネージャーでかれんさんの姉の寿 美々さんと、審査員長の三浦 大吾氏だ。」

新一が快斗にそう耳打ちしている傍から、美々と三浦の言い争いは険悪なものとなっていった。

今にもケンカが始まりそうな状況に、思わず仲裁に入ろうとする新一を快斗がつつく。

「あまり人目につきたくないんじゃなかったっけ?」

「不特定多数の前に姿をさらすのはさすがにヤバイけど、あの人達の前くらいなら平気さ。それに工藤新一だと名乗らなきゃ、オレのこともわからないかもしれないだろ。」

新一の台詞には、へぇ?と快斗は首を傾げた。

つまり、限定されている人達の前ならば姿を見せても構わないと、そういうことなのだろう。

では逆に、誰の前では姿をさらせないのか?

快斗は、そっちの方が気になったのだった。

 

「どうかしたんですか?」

新一が出て行くと、三浦と美々の顔は声の主へ向いた。

「・・・あなたは?」

当然のことながら向けられた不審げな目に、新一はあっさり「探偵です」と答える。

おいおいと快斗は苦笑し、それから新一と美々の間に割って入った。

「初めまして。かれんさんのピアノ演奏の後に、マジックショーをさせていただくことになっている黒羽快斗といいます。ご挨拶にお伺いしたんですが。あ、彼は僕の友人で。」

快斗が機転を利かせた挨拶をすると、新一もにこやかに笑顔を作って便乗する。

「毛利探偵事務所で助手をやっています。 鈴木財閥のご令嬢、園子さんとは面識がありましてね。脅迫状の件を聞いたものですから。」

新一は上手い具合に名乗らずに場を繕って、話を進めた。

「・・・ところで。かれんさんがいなくなったんですか?」

「この男が連れ込んでるのよ。」

「知らんといってるだろう!・・・そうだ。探偵さんに私の濡れ衣を晴らしてもらおうか。」

三浦はそう言い放つと、新一を「どうぞ」と部屋へ招き入れた。

「では、失礼します。」

新一に続いて、快斗も軽く会釈だけして部屋へ入って行く。

中には一見して、人の姿は見当たらなかった。

バスルームやクローゼットの中まで調べたが、やはり誰もいない。

「前回の遊覧船の時のようなトリックも使われてる気配もないし、本当にいないみたいだね。」

快斗のその台詞に、新一の返事はなかった。

新一の視線は、テーブルに置かれている灰皿にそそがれている。

「・・・この甘い香り・・・。」

「ああ、葉巻がどうかした?」

「・・・いや、例の脅迫状もこれと似た香りがしたような・・・。」

顎に手を添えて言う新一に、快斗は眉をつり上げた。

「ってことは、脅迫状は審査院長が?それはまた、ずいぶんお粗末な話だね。」

「・・・だな。だが、証拠としては分かりやす過ぎる。とすると犯人は別にいて、三浦さんに罪を着せるための偽装工作と考えるべきか、もしくは脅迫状の差出人が本当に彼だったとしても、ただの狂言なのかのどちらかだな。」

新一の考えに快斗が頷いたところで、二人は部屋を出た。

新一は美々にかれんが三浦の部屋にはいなかったことを告げ、念のため、かれん自身の部屋も見せてもらうことにした。

かれんの部屋も彼女がいないことを除けば、特段変わったところはなかった。

美々の話では、かれんは次のドレスに着替える前にシャワーを浴びたいと言い、それからほんの一瞬、目を離した隙に消えてしまったらしい。

次のドレスとともに、奈落から舞い上がる演出のため着用が必要なベルトもなくなっていると美々は付け加えた。

ドレスがあるならまだしも、なくなっているのなら、さっさと着替えてどこかで時間を潰しているだけなのかもしれない。

時間になれば戻ってくるだろうと、三浦はまるで心配する様子もなく自室へ帰っていく。

だが、美々は妹を見つけ出さなければ気がすまないと、バタバタと走っていった。

そんな様子を新一と快斗は見送る。

「とりあえず、かれんさんを探すしかねーな。何か事件に巻き込まれている可能性も否定できないし。オレは美々さんを追って、かれんさんの行きそうな場所を当たってみるから、お前は会場内を調べてくれ。」

快斗は新一の指示に従い、二手に別れてかれんを探すこととなった。

新一は 美々と一緒にステージの下、奈落へ行ってみたが、やはりかれんの姿はない。

そこにいたのは 舞台監督の天野 翔一だけで、彼もかれんを見ていないと言った。

それから美々と別れた新一は、ホテル内を探し回る。

客室が並ぶ廊下をひた走っていると、背後から快斗の声がした。

「ああ、名探偵。会場内や近くのラウンジもいなかったよ。」

「そうか。一体、かれんさんはどこに・・・。」

「彼女の出番までもう時間がないね。そろそろ見つかってくれないとヤバイと思うけど。」

腕時計を見ながら言う快斗に新一は頷くと、急いで探し出そうと再び走り出す。

と、その先にはちょうど携帯で話している美々がいた。

話の内容から、どうやらかれんが見つかったような口振りだ。

新一と快斗が美々に駆け寄ると、彼女は電話を終わらせ、頭を下げた。

「舞台監督の天野さんから連絡で、妹は今、奈落でスタンバイしてるって。ごめんなさい。迷惑をかけたわね。」

「いえ、良かったです。無事、見つかって。」

新一が笑顔で返すと、美々もほっとしたように息をついた。

「これ、私への嫌がらせよ。二人とも探してくれてどうもありがとう。じゃあ、私はこれで。」

マネージャーの仕事が忙しそうに、彼女は髪を振り乱して駆けて行く。

「彼女も大変そうだ。ま、でもとりあえず何事もなくて良かったね。やっぱり脅迫状は、あの審査員長のただのハッタリだったりして?」

肩を竦めて苦笑する快斗に、新一は腕組みして頷いた。

「それならそれでいいんだけどな。パーティが終わるまでまだ時間はある。これから犯人が何か仕掛けてくるかも。」

ミス・ジャパネスクの最大の見せ場は、次のピアノ演奏である。

奈落からわざわざワイヤーを使って舞い上がるなどという、ド派手な演出付きだ。

ステージにも目を配っておく必要は充分にあるだろう。

そう考え込んでいる新一の肩に、快斗が軽く手を乗せた。

「じゃあ、オレ達もステージを観に行こうか?」

「あ、いや、オレは。照明が暗くなってから会場に忍び込んで、後ろからこっそり見させてもらうよ。」

「なら、いい場所があるよ。TV中継のカメラのモニターも近くにあって、会場全体がチェックできるベストポジションがね。」

なるほど、それは好都合だ。

新一はニヤリとすると、快斗とともにパーティ会場へと向かったのだった。

 

 

 

 To be continued

 

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