その後、遊覧船は順調に湖を周遊した。
途中、園子が船酔いで休憩室に運ばれる騒ぎがあったが、それ以外はまだ何も起こっていない。
船首甲板で手すりに頬杖をつき、オレは1人考えに耽る。
───残り30分。どうしたKIDNAPPER?
すると、そんなオレを笑顔で覗き込んでくるヤツが。
オレが不注意で落とした挑戦状を広い、この船でオレ以外に唯一、事情を知る人物の黒羽快斗だ。
「どう?誘拐犯の目星くらいはついているのかな?」
「・・・別に。」
しれっとオレはそっぽを向く。
それでも、ソイツは全然気にせず話しかけてくる。
「まぁ船上で誘拐するって言うんだから、犯人は、もうこの船の中に乗り込んでいるんだろうね。怪しそうな人物とかいないわけ?」
「さぁ。今のところ、特には。」
・・・っていうか、ある意味、お前が1番アヤシイけどな・・・。
そう思った時だった。
不意に、船尾の方で不審な水音がした。
甲板にいた生徒や教師達がざわめくのをよそに、オレは一目散に音がした船尾へと走った。
船尾甲板の手すりに乗り出し、水面を凝視する。
と、後から来た蘭が声を上げた。
「・・・あ!あれっ!園子のカチューシャ!!」
オレは目を見開く。
園子が船から落ちたのではと不安げな顔をする蘭の隣で、オレは眉を寄せる。
───落ちた?ここから?・・・まさかっっ!!
万一、園子が湖に転落したことも考え、オレは急いで船員の南田さんに船長に船を止めてもらう様、指示した。
しかし湖に転落する以前に、まさか園子が。
嫌な予感が走る。
オレは焦って、園子が休んでいるはずの船内の休憩室に向かった。
内側から、しっかり鍵をかけておくように言ったその部屋には、鍵はかかっていない。
そして、悪い予感は見事的中。
園子の姿は、忽然と消えていたのだ。
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それから、臨時教師の北島先生と船員の南田さんに手伝ってもらい、船内を捜索したが園子の姿は発見できなかった。
オレは1人、園子が消えた休憩室に残って、もう一度部屋全体を見渡していた。
いろいろと気がかりなことはある。
すると、そこへ背後から声がかかった。
「この部屋から消えちゃったんだ?」
「・・・・お前。」
突如現れた黒羽に、オレは嫌そうに眉を寄せた。
「勝手に入ってくるなよ。」
「まぁそう固いこと言わずに。船はこれから1番近い桟橋に停船するらしいよ。」
「船長に県警に連絡を取ってもらうように言ったからな。県警の指示だろう。」
「にしても、消えたのが鈴木財閥のご令嬢じゃ、神奈川県警も身代金目当ての誘拐事件だと思って、大騒ぎするんじゃないか?」
「県警には、事情はオレから説明する。」
ふーん?と黒羽は笑うと、そのまま部屋へ目をやって、戸が開いたままになっているクローゼットを覗きこんだ。
「へぇ?人一人隠れるには、ジャストサイズのクローゼットだね?」
「───そ。ついでに言わせもらえば、園子がこの部屋で休んでいた時には、そこは間違いなく閉まっていた。それが再びここを訪れた時には、あからさまに開いていたんだぜ?ま、園子と犯人が争って開いたとも考えられなくはないが。」
「なるほど?」
オレの教えた情報に、黒羽は面白そうに頷く。
オレは更に続けた。
「おまけに、この部屋からはライフジャケットが一枚なくなっていた。」
「・・・おいおい。」
「つまり、KIDNAPPERは最初からここに隠れていて、1人になった園子を襲い、ライフジャケットを着せ、一緒に湖へ飛び込んだと、一見思えなくもないが。」
「・・・・いやぁ、それはちょっと。」
黒羽は苦笑する。
オレも疲れたように息を吐いた。
───だよなぁ。いくらなんでも。
「大体、ライフジャケットなんか着せてたら、湖にぷかぷか浮いてるわけで、すぐに湖面にいるとこ発見されそうだし。」
やれやれといった感じで言う黒羽に、オレも同調した。
「確かに、生徒達が甲板に大勢いる中、そういう方法で船から遠ざかるのは、ほぼ無理だろうな。」
「ミスリードを誘うにしても、こうまであからさまだとどうかと思うけどね。───ああ、でもあの挑戦状を見る限りじゃ、この程度のレベルかな。」
・・・・だから、お前が犯人にダメだしをするなって!
オレはジトリと黒羽を睨み、それから言った。
「ま、一応、犯人がそこまでバカだとも考えにくい。あからさまを装っているのには、何かワケがあるのかもしれないからな。もしかして、何かもっと別の方法で園子を船から連れ出したか・・・。」
「あるいは、まだこの船の中にいるとかね?」
オレと良く似た顔が、そう言って笑った。
「だが、船内は探していなかったことが確認は取れている。」
そう言い返すと、黒羽はオレの前に手を翳した。
すると、何もなかったはずのヤツの手の中からぽんと赤いバラが出てきた。
「・・・なっ!」
思わず声をあげたオレに、ヤツはにっこり笑う。
「驚いた?実はオレ、マジシャンの卵なんだよね。」
・・・はぁ??!
オレは目を丸くした。
と、ヤツは人差し指を指して言った。
「マジックではよく人を消したりするけど、それには当然、タネも仕掛けもある。マジシャンは魔法使いじゃないからね。要するに“消えた”ように見せているだけなのさ。」
そう言うと、またヤツは手にしていたバラを、何もなかったように消して見せた。
こんなに近くでマジックを見せられたのは初めてだったが、悔しいことにオレにはどういう仕掛けなのかまるでわからなかった。
どうやら、本当にマジシャンらしい。
───っていうか・・・。
マジックが使えるなら、本当に1番アヤシイのはコイツの気がするんだけど。
そう思うオレの目の前で、黒羽は不敵な笑みをたたえている。
船はまもなく桟橋に到着しようとしていた。
To be continued
10月2日放映のドラマ「工藤新一への挑戦状」を受けてのお話二話目です。
このシリーズはちょこちょこ書いてます。短くてすみません(笑)
実際のところ、本筋をあまり変える予定はなく、快斗が出てたらどうなっていたか、みたいな感じで
さらには二人で事件につっこみを入れる話になるような(笑)。
ドラマに関して何か言いたいことがある方は、ご意見をお寄せください〜v