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NOVEL

───工藤新一への挑戦状───

修学旅行中、君のクラスメイトの誰かを誘拐する。
守りきれれば君の勝ち。守れなかったら、僕の勝ち。
その時は、『高校生探偵』の名前を返上してもらうよ。
これは、君と僕との一対一の勝負だ。
ただし、一つだけヒントをあげよう。
誘拐の場所は船の上。

   KIDNAPPER

 


工藤新一への挑戦状〜さよならの序章〜  act.3


 

 

それからまもなく、天候は酷い荒れ模様になる。

雷鳴が鳴り響き、大粒の雨が地面を叩きつけた。

 

遊覧船が桟橋にたどり着いた時、すでに県警は待機しており、教師や遊覧船の乗組員達はすぐさま簡単な事情聴取を受ける事になった。

そして、湖とその近辺はこの悪天候の中、警察の本格的な捜索が始まった。

その後、警察の指示を受け、臨時教師と添乗員が相談した結果、オレ達、帝丹高校のクラスの生徒は予定を繰り上げて宿泊先のホテルへと向かう事になる。

ざわめく クラスメイト達がバスへと誘導されていく様子を、オレは少し離れたところで見ていた。

と、そこへ黒羽が現れる。

「早く乗らないと、置いていかれるよ?」

「・・・オレはいいんだよ。これから県警の捜査本部に顔を出すつもりだから。っていうか、そっちこそ、早く行けよ?お前の学校のバスもあっちに迎えに来てるだろ。」

それだけ言って、オレは黒羽を置いてその場を去ろうとする。

とにかく、園子の捜索と犯人逮捕に本腰を入れなければ。

これ以上、こんなヤツと関わっている場合じゃない。

すると、背中でヤツの声がした。

「じゃあまた後で。」

オレは思わず、足を止める。

───後で?」

肩越しに小さく振り返ったオレを、黒羽はにっこり迎えた。

「宿泊先のホテルも、どうやらそっちと同じみたいなんでね。」

 

・・・・・・何でだよ。

正直、うんだりだったが、今更どうにもなる話でもない。

オレは溜息だけついて、再び前を向いて歩き出した。

 

 

□□□     □□□     □□□

 

 

その後、警察の懸命な捜索にも関わらず、園子の所在は依然、不明のままだった。

ただ、唯一入った情報としては、芦ノ湖の箱根神社付近で男物のウエットスーツと、船で消えたライフジャケットが発見されたというものだった。

そして、大方の予想通り、県警は今回の事件を身代金目当ての誘拐だと決めてかかっていた。

捜査会議の様子をドアの外で立ち聞きしていたオレは、満を侍してドアを開け放つ。

「何だ、君は?!」

「工藤新一、探偵です。捜査に協力させてください。」

ギロリとオレを睨みつける刑事にオレは名乗ると、その刑事は訝しげな顔をした。

「・・・探偵?」

「ああっ!マスコミなんかに取り上げられている・・・、東京で難事件をいくつも解決したっていう・・・」

捜査員の1人が刑事の耳元で囁く。

それを聞いた刑事は、ますます難色の色を示した。

「君がどれほどの者かは知らんが、ここは部外者は立ち入り禁止だ。」

「僕は部外者ではありません。この事件の発端は、そもそもはこれなんです。」

そう言うと、オレは例の挑戦状を見せた。

刑事はそれを一読し、改めてオレを見据える。

「事情はわかった。だが、捜査は我々警察の仕事だ。警視庁ではそこそこ名の知れた探偵だろうが、ここでは関係ない。大人しくしていてもらおう。」

融通の利かない刑事は、取り付くシマもない。

・・・まぁ、こうなることも予想はしてたけどね。

「では一つだけ質問を。見つかった酸素ボンベの量は?」

どうしても聞いておきたかったことだけ、オレは確認することにする。

刑事は何故そんなことを聞くんだという顔をしながらも、「180だ」と教えてくれた。

オレはニヤリとする。

とりあえず、今のところはそれだけでもわかれば、上出来だ。

オレはそれ以上は何も言わずに、捜査本部の置かれた会議室を出た。

 

すると、外にはアイツがいた。

言うまでもなく、黒羽だ。

「やぁ、名探偵。てっきり県警の捜査に加わるのかと思ったけど?いくら探偵として有名でも、どこの警察にも顔が利くわけじゃないんだな。」

・・・ヤロウ。

片手をあげて挨拶しながら、言う事は割りに失礼なのが腹立たしい。

オレはややむっとした。

「・・・悪かったな。けどまぁ、もともと県警と警視庁は仲が良くないのは事実だし、警視庁にご贔屓にされているオレを、県警が良く思わないのもわかってたことだからな。別に最初から期待はしてねーよ。それならそれで、勝手にやさせてもらうまでだ。」

「へぇ?そうなんだ?」

にこにこしながら、黒羽はオレについてくる。

・・・ったく、何なんだ、コイツは。

そう思いながら、とりあえずオレ達は宿泊先のホテルへと向かっていたのだった。

 

そこへ。

KIDNAPPERを名乗る人物から、二回目の犯行声明が届いた。

何故、オレの携帯の番号を知っているのか知らないが、ヤツが直接かけてきたのだ。

「園子は無事なんだろうな?」

オレがそう言うと、電話の主が笑う。

『とりあえず、今はね。しかし、あっけないワンサイドゲームだったね。あれほどのヒントをあげたのに。つまらないよ、これじゃあ。だから、明日また1人いただきに行く。君が余りに不甲斐ないから、今度はもっと大きなヒントをあげてもいい。』

その犯人の言いように、オレは少々ムカついいた。

確かに誘拐はしてやられてしまったが、ワンサイドゲームだと?!

『明日の誘拐は正午ちょうどに行なう。一秒の狂いもなく。』

電話はそれだけ言って切れた。

 

そんなオレと犯人のやりとりを聞いていた黒羽が、また面白そうな表情を浮かべた。

「犯人、何だって?」

「・・・明日、また第二の誘拐をするという予告だ。しかも今度は、時間まで指定までしてきやがった。」

「それはまぁ、何て言うか・・・。ナメられたもんだなぁ。それで?名探偵はこれからどうするのかな?」

「とりあえずは、一応、手がかりの一つでもある箱根神社へ・・・って、まさかお前もついて来る気か?!」

そりゃあもちろんと言わんばかりに笑顔で頷くソイツを、オレは呆れ返った。

この雨の中、本気でコイツはオレにつき合うらしい。

・・・いや、いいけどね。もう・・・。

半ば諦めモードで、オレは黒羽とともに箱根神社に向かう事にしたのだ。

 

 

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夜の、しかも雨の神社には当然、オレ達以外誰一人としていなかった。

「何か手伝おうか?」

懐中電灯で地面を照らすオレに、後ろからついてきた黒羽が言う。

ビニール傘を叩く雨音がうるさかった。

「別に。手伝ってもらうほどのことは何もない。大体、ここにもし本当に犯人の足跡があったとしても雨で消されてしまっているだろうからな。」

激しい雨は容赦なく地面を叩きつけ、もうすでに水が溜まっている状態だった。

黒羽もそんなぬかるんだ足元を見ながら頷き、それから木の根元を指した。

「それで?男物のウエストスーツと、船で消えたライフジャケットが見つかったっていうのはここなんだ?」

「らしいな。ま、それが犯人のトリックであることは、どうやら間違いないみたいだが。」

「おや?確定できたんだ?」

「まぁな。とりあえず、酸素ボンベに残っている酸素の量が多過ぎ。」

オレがそう言うと、黒羽はふぅーと息をついた。

「・・・それはまた初歩的なミスだね。」

黒羽の言葉に頷きながら、オレは持ってきた地図を広げた。

「園子が消えた場所からこの岸まで、いくら直線距離で泳いだとしても、酸素が180も残ってるなんて普通ありえないからな。」

「一体、どういう泳ぎ方したらそんな数値が出てくるんだろうね?せっかくここに証拠の品を置くなら、そういうとこもきちんと押えといてほしいものだけど。ツメが甘いって言うか何ていうか・・・。」

またまたヤツが犯人にダメだしを出している。

まぁ、言いたい気持ちはオレにもわからなくはないが。

「・・・とにかくだ。犯人は予めここに証拠を置き、誘拐したのが外部犯だと思わせたかったんだろう。」

「でも、こうも易々と見抜かれてるんじゃあね。むしろ、逆に内部犯だと確信させるようなマネして。」

「それでも、県警の目は一応誤魔化せているからな・・・。」

「やれやれ。」

マヌケ同士もいいとこだと、黒羽はオーバージェスチャーをした。

「ま、これで犯人はあの時、船の中にいたことはほぼ確定した。もう一度、あの遊覧船を調べてみる必要がありそうだな。」

「じゃあ、今度は船に行くんだ?」

「・・・だから、別にお前に一緒に来いとは言ってない。」

「まぁそう言わずに。」

早く行こうぜ?とばかりに、黒羽がオレを先導する。

 

・・・っていうか、何でコイツと一緒に捜査しなきゃならないんだ。

そう思いながら、オレは仕方なしに黒羽と雨の中、遊覧船へと向かったのである。

 

 

 

 To be continued

10月2日放映のドラマ「工藤新一への挑戦状」を受けてのお話三話目です。
このシリーズはちょこちょこ書いてます。短くてすみません(笑)

 

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