Heart Rules The Mind

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NOVEL

───工藤新一への挑戦状───

修学旅行中、君のクラスメイトの誰かを誘拐する。
守りきれれば君の勝ち。守れなかったら、僕の勝ち。
その時は、『高校生探偵』の名前を返上してもらうよ。
これは、君と僕との一対一の勝負だ。
ただし、一つだけヒントをあげよう。
誘拐の場所は船の上。

   KIDNAPPER

 


工藤新一への挑戦状〜さよならの序章〜  act.5


 

 

ホテル地下の大広間。

あと数秒で犯行予告の正午を控え、オレのクラスメイト達は少々落ち着きをなくし、ざわついていた。

───さて、どこから来る?KIDNAPPER?

不意に、横に立つ蘭がそっとオレの手に触れた。

・・・え?

しかし、触れたのは彼女の体温だけではなく、もっと別の。

───何だ?

不安と言うよりは、明らかに何か言いたげな表情を浮かべた蘭の方に、オレが向いたその瞬間だった。

 

時計の針が正午ちょうどを指す。

そして、それと同時に広間の明かりが落ちたのだ。

完全に閉め切られた地下の空間は、あっという間に暗闇になった。

突然の事に、当然、生徒達はパニックになる。

───やられたっっ!

「大丈夫だっっ!みんな、落ち着けっっ!!」

そんなオレの叫びも、クラスメイト達の悲鳴にかき消されてしまう。

・・・マズいっっ!このままでは!!

 

オレが舌打ちをした時だった。

再び広間に明かりが灯る。

停電したのは、ほんの数分といったところか。

明るくなった室内には、生徒達の安堵の声が響き渡ったが、逆に今度はオレが固まることになった。

 

オレの隣にいたはずの蘭が、消えてしまっていたのだ。

 

 

□□□     □□□     □□□

 

 

瞬時にオレは広間を見渡したが、蘭の姿はどこにもない。

次に、容疑者候補の1人でもある臨時教師の北島先生に目を向けたが、相変わらずの挙動不審ぶりはともかく、彼は部屋の壁際にただ立っていただけだった。

おまけにその両腕は、しっかり女子生徒にしがみつかれた状態である。

あの状況で彼が蘭を連れ出したとは、まず考えられない。

 

───くそっっ!!

オレは走り出し、広間の5つの出入り口全てを確認する。

鍵はどれもかかったまま。

どこかをこじ開けた後も、不自然な箇所は何も見当たらなかった。

大したトリックではないと絶対的な確信があるだけに、二度までも誘拐を実行された自分のマヌケっぷりに嫌気がさす。

どうにも、この犯人とは相性が良くないらしい。

 

とにかく、オレはドアの鍵を開け、大広間を飛び出した。

外を警備していた捜査員達は、飛び出して来たオレに驚いているくらいなので、特に不審者を見た者などいなさそうだ。

オレはそのままホテルのロビーを突っ切る。

すると、ホテルの入り口付近で捜査員に紛れて、黒羽が添乗員の西田さんと、遊覧船の船員の南田さんと一緒にいるのを見つけた。

黒羽と西田さんはともかく、何で南田さんまでここに?

その不思議なトリオにオレは首を傾げるが、とりあえず、今はそんな場合ではない。

やがて、大広間を警備していた捜査員からの連絡で、誘拐が実行されたことが外の捜査員にも伝達され始め、あたりは騒然となった。

 

息を切らしているオレに、黒羽が片手を挙げて合図する。

「誘拐、されちゃったらしいね?」

ヤツの小バカにしたような口調が腹立たしいが、それも仕方が無い。

オレは唇を噛むだけに留まった。

そんなオレに、船員の南田さんが言う。

「消えたって言ってるけど、部屋は密室だったんだろう?!警察は何をやっていたんだ?!」

そして、更に添乗員の西田さんも不安げな顔をした。

「じゃあ、どうやって“彼女”は連れ出されたの?」

 

───え?

思わず、オレの思考が停止する。

そして、それは黒羽も同じだったようで、ヤツも呆然としていた。

・・・聞き間違いじゃないよな・・・?

確かに、西田さんは今、“彼女”って。

警察ですら、まだ混乱して詳しい情報は行き渡っていないはず。

オレもまだ誘拐されたのが蘭だなんて、一言も言ってないのに、何故、女子生徒だと?!

───いや、答えはもう決まっていた。

 

すると、オレの背後から、すごい勢いで多摩川刑事が喚き知らしながら近づいて来る。

「おいっっ!状況を説明しろっっ!」

オレは、そのまま現場の大広間まで連れて行かれることになるのだが。

途中、一緒について来た黒羽が、オレの肩を突付いた。

 

「ねぇ、名探偵。犯人、わかっちゃったんだけど?」

「・・・うるさい、黙れ!」

オレはぶすッとした顔で黄金の右足を振上げると、ヤツの膝に軽くケリを入れた。

まさか、こんな形で犯人を特定することになろうとは。

何とも予想外でお粗末な展開に、オレは頭痛さえ覚えた。

 

コイツに言われるまでも無い。

犯人は、もうあの人で間違いないのだ。

 

 

□□□     □□□     □□□

 

 

大広間では、警察の検証が始まっていた。

オレは臨時教師の北島先生と一緒に、当時の状況を多摩川刑事に話して聞かせる。

「くそぅっっ!!あの警備の中、人を簡単に消すとはっっ!!犯人は超能力者か?!」

唸る多摩川刑事をよそに、黒羽がオレに「ただのバスの添乗員だよね?」と耳打ちした。

 

鑑識も到着し、さらに念入りな捜査が始まるのを、オレはただ黙って見つめる。

と、そんなオレを黒羽が覗き込んだ。

「もうこんな捜査、必要ない気がするけど?」

「いや、まだこの第二の誘拐のトリックを暴いていないからな。」

「そんなの、彼女に直接、聞けばいいのに。」

「まだ彼女が犯人だという、決定的な証拠がない。」

「さっきのアレじゃ、不十分?犯人しか知り得ない情報を持ってただけで、充分クロだと思うけど。」

「確かにな。だが、探偵として、全ての謎を解いておく必要があるんだよ。どんな言い逃れもできないように、確実に犯人を追い込むためにはな。」

「・・・ふーん?探偵って面倒臭いね。」

───余計なお世話だ。

ジロリとオレは黒羽を睨むが、ヤツはおかまいなしににっこり続ける。

「じゃあ、第二の誘拐のトリックを解明するにあたって、参考情報として一つお知らせしておくけど。犯行当時の彼女のアリバイはオレが証明するよ?」

「何?」

すると、黒羽は例の犯行予告時間前に添乗員の西田さんと接触し、そのまま犯行時刻を過ぎるまで、ずっと一緒だったと言った。

つまり、彼女は大広間には近づいていないということになる。

・・・どういうことだ?では、彼女は一体どうやって蘭を?

考え込むオレをよそに、黒羽が「補足情報」と更に付け加えた。

「逆に、わざとらしいほどアリバイがない人物もいたりする。」

「え?」

「予告時間の前に、何故か現れた遊覧船の船長の東さんと船員の南田さんなんだけど、肝心の犯行時刻直前に二人とも姿を消している。ま、南田さんはその後、戻ってきて、ああ、名探偵も彼の姿は見ただろう?・・・・・・あれ?そういや、東さんはあれっきり見てないな。」

東さんの存在をすっかり忘れていたかのように、黒羽が言う。

その発言に、オレは眉をつり上げた。

 

と、同時に背後から、多摩川刑事の声が耳に届く。

「ドアノブに赤いインクがついていただと?何だ、そのインクというのは!?」

振り向くと、ドアの取っ手を指差しながら、鑑識の捜査員が多摩川刑事に何やら報告していた。

確かにそのドアの取っ手部分に赤いインクの跡があるのが、オレの目にも確認できた。

オレは眉を潜める。

───妙だな。

それは、オレが蘭を探しに飛び出したドアだった。

あの時、そんなインクはついていなかったはずだが。

だとすれば、インクがついたのはオレが広間を出た後か、それとも・・・・・。

不意に、オレはドアノブに触れたはずの自分の掌を見る。

 

その瞬間、理解した。

あの時、蘭がオレの手に触れた理由。

そして、オレの掌に押し付けられた、あの冷たい感触が意味するもの。

 

───解けたぜ?第二の誘拐のトリック。」

言いながら、オレはその掌を黒羽に翳す。

「うわ、真っ赤。何、その手?!」

「 蘭や園子達については、恐らく犯人から何か言ってくるだろう。とりあえず、今は東さんだ。彼のことが気になる!」

「なら、彼の自宅へでも行ってみる?ここから車で飛ばせば、彼のマンションまでそう遠くなさそうだよ?」

そう言って、黒羽がにっこりと制服のポケットからメモらしきものを取り出す。

そこには、今回の事件の関係者として、警察が事情聴取の際、聞いたらしい彼らの住所や連絡先などがすべて明記されていた。

「・・・・お前、これ、どうしたんだ?」

「いや、もしかして、名探偵の捜査に必要かと思ってね。ちょっと警察関係者から拝借しておいた。」

悪びれもせず、ヤツはそうウインク付きで言うが。

・・・・・警察の関係資料を勝手に持ち出すとは、良い度胸してるじゃねーかよ。

だが、今は細かい事を気にしている暇はない。

オレは黒羽の手からそのメモを奪い取 ると、急いでホテルの外のタクシー乗り場に向かった。

嫌な予感がする。

 

だが、タクシーに乗り込む直前で、オレの携帯が鳴った。

非通知の着信音であるそれは、タイミングから言ってKIDNAPPERに間違いは無い。

思ったとおり、第二の誘拐を成功させた犯人は、相変わらずオレをバカにした口調で言いたいことだけ言って、一方的に会話は打ち切られた。

「KIDNAPPERから?」

黒羽の問いに、オレは首を縦に下ろした。

すると、ヤツは人の悪そうな笑みをする。

「いっそのこと、正体バレてること言ってやればよかったのに。」

「・・・いや、ヘタに犯人を刺激しない方が良さそうだ。」

「どうかした?」

首を傾げた黒羽に、オレは犯人からのメッセージを伝えた。

「二人を監禁した場所に爆弾を仕掛けたらしい。爆破時刻は今夜0時だそうだ。」

爆弾という単語に、黒羽も眉を潜める。

「それはまた穏やかじゃないね。どうする?」

 

遊覧船、船長の東さんの安否。

そして、蘭達に仕掛けられた爆弾。

確かに、ここへ来て、事件は過激な急展開を見せ始めたようだ。

オレは黙ったまま、腕時計を見つめる。

時刻は、午後2時。

 

───犯人は、もう既にわかっている。

こんな挑戦を挑んできたということは、オレに何か恨みがある可能性が高い。

おそらく過去、オレが関わった事件の関係者か。

だとすれば、そこから辿って行けば、蘭達の監禁場所を特定する事も、そう難しいことではないかもしれない。

 

「・・・爆破予告までは、まだ10時間ある。とにかく、先に東さんのところへ行こう。」

「了解。───ところで、第二の誘拐のトリック、まだ聞いてないけど?」

「いいから、早く車に乗れ。中でたっぷり教えてやるよ。ま、トリックと言うほどのものでもないけどな。」

オレはそう言うと、黒羽をタクシーに押し込めた。

そうして、オレ達は東さんのマンションへと向かったのだった。

 

 

 To be continued

さて、ドラマ版もいよいよ大詰めです。
第二の事件発覚後からの時系列は、ドラマと多少前後していたりします。私の話の都合上・・・。
でも、この方がフツーに自然だと思うんだけどな。
ドラマでは、どうも新一さんらしからぬ行動や言動があったりしたので、そういうところは多分に修正入ってますのでv
 


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