その晩、夜空を駆ける白い鳥は大層、不機嫌だった。
鳥の名は、『怪盗キッド』。 今、巷を騒がせているあの大怪盗だ。
今夜も、とあるビッグ・ジュエルを狙って一仕事をこなしてきたところである。
相変わらずな周囲を魅了するほどの派手なパフォーマンスに、鮮やかな盗みの手口で見事、警察を出し抜いて、本日の仕事も大成功。
残念ながら、今夜の獲物が彼の探し求める『パンドラ』でなかったにせよ、今更そんなことで消沈するワケもない。
では、何故キッドはご機嫌斜めなのか?
右目のモノクルに眼下に拡がる美しい夜景を映しながら、キッドは唇を尖らせた。
「・・・っていうか、何でアイツ、来ねーワケ?」
アイツ・・・・・・とは。 あの名探偵・工藤 新一のことである。
実は、ここのところキッドは新一とはすっかりご無沙汰だった。
というのも。
ここしばらくキッドの活動拠点は関東圏を離れて、日本中を飛び回っていた。
場合によっては、国外に足を運ぶ事さえあるほどに。
要するに、彼は大忙しだったのだ。
そんな中で、やっと久々のホームでの仕事。
ようやくにして、愛しの名探偵との逢瀬が叶うと、いつにもまして予告状の暗号文に力を入れてみたりして、キッドは今日という日を心待ちにしていた。
なのに。
なんと、新一は来なかった。
本日の警備体制からすると、彼が暗号解読をしたのには間違いはないのだが、結局ラストまで当人がご登場することはなかったのだ。
「・・・・・・名探偵が殺人専門だってのは、知ってっけどね。」
そう。新一は、今日の夕方起きた殺人事件の解決のため、捜査一課に急遽呼び出されてしまっていた。
つまり、キッドはフラれたのだ。
「・・・あの予告状に目を通しておいて来ないなんて、それはないんじゃないの?新一?」
いくら新一が殺人事件専門で、泥棒は管轄外だと言っていてもだ。
予告状には、新一にしかわからない方法でちゃんと『二人で会いたい』というようなことを書いておいた。
それをシカトして、事件を優先されたとなると・・・。
「・・・ちょっとムカつくよなぁ。事件はもちろんだけど、新一にもね。」
キッドは小さく呟きながら苦笑すると、ふと、思いついたように、進路変更をしようと体重移動をした。
真っ黒な夜空に真っ白いグライダーが綺麗な弧を描いて旋回する。
そして、そのまま真っ直ぐに飛んでいった。
あの洋館を目指して。
□ □ □
同じ頃、新一は、とある雑居ビルの屋上で重々しく溜息をついていた。
「・・・やっぱ、いるワケねーか・・・。」
誰もいない屋上で、ぽつりと呟いた新一の独り言が冷たい夜風にさらわれていく。
ここは、キッドの予告状に記されていた場所。
予告状にはここで自分を待っていると、そう書いてあった。
けれども、時刻はすでにキッドの犯行予告から軽く2時間は経過。
「・・・さすがにアイツだって、いつまでもこんなとこにいるわけにはいかねーもんな・・・。」
新一はもう一度呟いた。
・・・・・・せっかく、久々にアイツに会えるチャンスだったのに。
ここのところ、あの怪盗が自分の手の届かないところで活躍しているのは知っていた。
相手は世界を股にかける大怪盗だから、仕方がないと言えば仕方がないのだが。
それを追うことができない自分が悔しい。
黒の組織のこともある。
キッドが自分の知らないところで何かしているのは、新一としても面白い話ではなかった。
だからこそ、今日こそは絶対にアイツに会いたかったのに。まさか事件に呼び出されることになるとは。
なじみの警部達に頼まれては、無下にあしらうことなど新一にできるはずもなく。
というか、どちらかといえば、自分はそっち専門でキッドの方にかまける方こそおかしな話ではあるではあるのだが。
ともかく、新一に断れるはずもなかった。
実際、事件が起こったのは今日の夕方で、その直後に新一は呼び出されたのであるが、現場へ向かう車の中、高木刑事から事件の概要を聞いた限りでは、そう難しいヤマではないと楽観視していた。
事件解決後でもキッドの方には間に合うと、そう新一は思っていたのだ。
そして。
事実、新一は恐るべき短時間で真犯人を突き止めた。
が、しかし。物事はそうスムーズには運ばなかった。
現場にいた所轄の刑事、これがクセ者で、新一の立てた論理にイチイチ歯向かってきたのだ。
どうやら、彼的には「高校生探偵」などとチヤホヤされている新一が気に入らなかったらしく、なんとかして新一の顔に泥を塗ろうと、自分まで対抗して下手な推理を披露しだす始末だ。
まったくもって、余計なマネをしてくれたものである。
おかげで新一は自分の推理を邪魔されるどころか、彼の立てた無理な仮説のつじつまが合わない点をつらつらと並び立てなくてはならず、余計な時間と労力を費やすハメになった。
そんなわけで、新一の当初の目算は見事にはずれ。
結果としてキッドとの逢瀬をぶっちぎることになってしまったのだった。
「・・・・次にアイツが現れんのがいつか、わからねーのに!!」
あー、もう、イラつくなっ!!クソっっ!!
新一は、やり場のない怒りを右足に込めて、屋上のフェンスを一蹴りすると、
これ以上、ここにいても仕方がないので、くるりと踵を返した。
□ □ □
「・・・なっ、何やってんだ!お前はぁぁぁーーーーーーーっっっ!!!!」
明かりの落ちたままの工藤邸に、新一の声が木霊した。
それもそのはず。
誰もいないはずの自宅に戻った新一を、あろうことか怪盗キッドが出迎えたのだから。
しかも、悠然とリビングのソファを陣取り、片手にはワイングラスを持って、「やぁ、お帰り」などと微笑まれたりしたら、新一が叫びだすのも無理はない。
いくら神出鬼没の大怪盗とはいえ、ずうずうしいにも程がある。
「・・・てっめぇ、何を自分んちみたく、くつろいでやがるっっ!!しかもソレっ!!うちのワインだろ?!」
血相を変えて怒鳴る新一を、キッドはただ面白そうに見やるだけで、ワインをコクリともう一口飲み干した。
「・・・いやぁ、さすがの私も待ちくたびれてしまいましてね。喉が渇いていたところに、ちょうど美味しそうなワインがあったものですから、ちょっといただいていたんですよ。」
悪びれもせず、そうにっこり微笑むキッドをギリっと睨みつけ、新一はキッドが開けたワインのボトルに目をやった。
・・・ちょっと?・・・・・・っていうか、お前、これ、もうほとんど入ってねーんだけど?
お前、全部、飲んだのか?
新一は、キッドが酔っ払っているのではないかと一瞬思ったが、どうやらそうでもないらしい。
・・・へぇ、コイツ、酒、強いんだな。
以前、自分のことを酒乱だと言い放たれた覚えがある新一は、ちょっと悔しそうに舌打ちをした。
「・・・それより、名探偵。今日の事件はいかがでしたか?さぞ面白い事件だったんでしょうね?」
言いながら、キッドがにっこりと微笑む。これはもう、明らかなイヤミだ。
・・・うわぁ、ムカツク!!コイツ!!!
新一はそう思わずにはいられない。なので、吐き捨てるようにこう言った。
「・・・別にっ!!大した事件じゃなんかじゃねーよっ!!」
それを聞いて、キッドの眉が微妙につり上がる。
「・・・大した事件じゃない?・・・では、そんな事件にも私の存在は劣るのですね。」
キラリとその目に冷たい光を宿して、キッドがそう言う。
「・・・おまっ・・・!!何言ってんだ?!」
そう。何を言っているのだろう?
キッドは、真っ赤な顔をして怒っている新一の顔を見ながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。
・・・なんだか、これじゃ、『仕事と私、どっちが大事なの?!』って迫る女のセリフみたいだ。あー、わかってるよ。わかってはいるんだけどね。
けど、ムカツクんだからしょーがねーじゃん?
ああ、これってもしかして、酔ってんのかな?
「・・・・・・予告状は、見た。」
しばしの沈黙の後、新一がぽつりと言った。
「・・・ふーん。それで?」
キッドもだんだん余裕がなくなってきて、口調も素に戻る。
別にこっちが本性であることくらい、新一にはとうにバラしてあるので、今更隠す必要もない。
上目使いに新一の顔を覗いてやると、今度は新一の方が激しくキッドを睨み返す。
「・・し、仕方ねーだろっっ!!オレだってあんなに事件に手間取るなんて思わなかったんだから!!」
と、怒鳴り散らした。
・・・なんと。逆ギレかよ。
怒っていたのは自分だったはずなのに、新一までキレだしたのだ。
ただ、怒りの矛先はどうも自分ではなく、事件の方に向いているらしい。
「余裕で間に合うはずだったんだよ!!お前との約束の時間まではなっ!!
けど、余計な邪魔が入って、思った以上に時間を食っちゃって!!あー、あのヤロウ!!思い出しただけでも、腹が立つ!!」
キッドの考えをよそに、新一は一人で勝手に喚き散らす。
そんな新一の様子を見て。
・・・ってことは、何か?新一も本当はオレに会いたかったってワケ?
キッドはニヤリと笑うと、ワイングラスを差し出した。
「・・・よかったら、名探偵もどう?」
□ □ □
リビングのテーブルの上には、いつのまにか数本のボトルが並ぶ事になった。
「・・・だからーっ!!すっげーイヤミなヤツでさ!!イチイチ人の足を引っ張るようなことをしてくれやがって・・・!!」
酒が入って、新一のトークはさらにヒート・アップした。
現場では嫌な顔一つ見せずに済ませていた新一も、実はかなりご立腹だったようだ。
キッドはそんな新一を横目に見つつ、もう何杯目になるかわからないワインに口をつけた。
新一の方も、キッドが特に強要する必要もなく、自ら進んでワインを飲み続ける。
・・・あー。コイツ、またこんな飲み方してると、酔っ払っちゃうかも。
えと・・・。これで、新一は何杯目だっけ?
新一の酒の分量にふと目がいったキッドだが、今飲んでるのが正確には何杯目かわからなかった。
過去数回にわたり、酒乱新一にはヒドイ目に合わされているキッドが、酒の席で新一を注意して見ていないとはめずらしい。
というか。
キッドの方こそ、いい加減酔いが回ってきつつあって、そこまで新一に気を配る事ができなくなっていたというのが本当のところである。
「・・・って、おい!!聞いてんのか?キッドっっ!!」
「ハイハイ、聞いてますよ。その間抜けな所轄刑事に足を引っ張られたんだろ?」
「ほんとにムカツクんだぜ?!殴り飛ばしてやろうかと思ったくらいだ。」
「へぇ?そいじゃ、ソイツを今から二人で殴りに行こうか?
オレとしても、名探偵とのせっかくの時間を邪魔されて、結構ムカついててるし。」
キッドがそう言ってやると、新一もそれはいいな!と声を立てて笑った。
結局のところ、新一がその所轄の刑事に腹を立てているのが、自分の推理を邪魔されたからなのか、それとも、結果それでキッドとの逢瀬に間に合わなかったからなのか、もしくはその両方か。
それは定かではなかったけれど。
ただ、新一の話し振りからすると、どうやら彼も自分にまんざら会いたくなかったワケではなかったようで。
そう思えた時点で、キッドの不機嫌はすでに解消されていた。
というわけで、実にご機嫌でキッドは新一の相手をしていたのだ。
その後、二人はその所轄刑事の間抜けさ加減をサカナに大いに盛り上がった。
そして、しばらくして。
カシャン!という音ともに、ワイングラスがテーブルに転がった。
・・・あ、ヤバイヤバイ!
手元を誤ったキッドは軽く頭を振った。酒が回ったのか、ぼんやりしてしまったのだ。
「あはは!何だよ、キッド。お前、もしかして酔ってんの?!」
などと、やや顔を赤らめて新一が覗き込む。その目はいつもの勝気な色が消えてトロンとして。
・・・いや。たぶん新一よりは、マシだと思うけど。
でも、ちょっと酔ってるかな。そういやここのところ、ハードだったし。
キッドは慌ててグラスを戻しながら、テーブルに拡がった赤い液体を拭き取るために
体勢をやや新一の方へ近づけることとなった。 そんなキッドを横に、新一はクスクス笑う。
・・・んだよ?コノヤロー・・・。
キッドは真横にいる新一をチロリと睨みつけようと思って、そのまま目が釘付けとなる。
間近に見た新一のそのやや色づいた頬。
そして、薄く開いた桜色の唇。
「・・・キッド。」
やや潤んだ蒼い瞳がキッドを真っ直ぐに見つめ、誘うようにその名を呼ぶ。
その瞬間。
キッドは惹き付けられるように自分の唇を寄せ、新一に口付けた。
□ □ □
甘い甘い口付け。
最初は唇を合わせているだけだったそれは、何度も繰り返すうちに濃厚なものになっていく。
新一が思わず吐息を漏らすと、キッドは僅かに開いた唇の間から赤い舌を滑り込ませた。
と、新一も優しくキッドを迎え入れ、積極的に舌を絡めてくる。
「・・・ん・・・。」
濡れた音ともに新一の甘い声が響いて、キッドの欲情に火をつけた。
そのままゆっくりと新一をソファに押し倒していく。
新一にまったくと言っていいほど、抵抗は見られない。 いや、はっきりいって協力的なくらいだ。
それを新一のOKサインと解釈したキッドは、さらなる行為へと進めていく。
フローリングの床にシルクハットが転がった。
新一の白い首もとに顔を埋めながらも、キッドは先程から鳴り止まぬうるさい程の動機と体の中から燃えるような熱を感じていた。
・・・・・・ヤベ。・・・オレ、たぶん酔ってるな。
酔ってる?酒に?それとも、新一の体に?
・・・ま、いっか。どっちでも。
キッドはクスリと笑いながら、そのまま新一の柔肌に唇を寄せる。
ふと、自分の背に新一の手が回った気配がして、キッドは下にいる新一の顔を覗いた。
すると、キッドと目を合わせた新一が妖艶に微笑む。
「・・・いいのか?これでお前は逃げられないぜ?」
そのセリフにキッドはクラクラと眩暈さえ覚える。いや、実際に眩暈を起こしていたのではあるが。
それでも。
「・・・いいよ。名探偵になら捕まっても。」
と、新一に負けじと色っぽく呟いた。
「・・・変な怪盗。」
耳元で新一がクスクス笑う。
「・・・悪かったな、変な怪盗で。」
「・・・趣味もワリーし。お前、男なんかがいいワケ?」
「うるせーな。人の好みにケチつけんなよ。オレはこれでいいんだよ。」
からかうように見つめる新一に、キッドはちょっとだけむっとしてそう答えると、
新一は、フッとその唇に微笑をたたえた。
「・・・へぇ。どれ?」
真っ直ぐに見つめる蒼い瞳が妖しく揺らめき、まるでキスをねだるように顎を突き出す。
誘われるがままにキッドは唇を重ねると、コレ♪と囁いた。
とたんに、新一はキッドの背に回していた手をキッドの前に回し、ジャケットのボタンを素早く取り外すと、なんとシャツを一気にたくし上げた。
あまりに突然の新一の行動に、キッドはギョっとする。
・・・ちょっ!ちょっと待てっっ!!まだオレは新一を脱がしてもいないってば!
新一の肌をゆっくり堪能していたキッドは、まだシャツのボタンを数個しか外していない。
なのに、新一はシャツを勢い良くたくし上げる事で、一気にキッドの胸板を外気にさらした。
コラコラコラ〜〜〜〜っっ!!
自分の胸に吸いついて来ようとする新一の頭を、なんとかキッドはなけなしの理性で引き剥がす。
オイシイ状況ではあるのだが、決して甘く見てはならない。
以前もこれで痛い目に合わされた苦い経験があるからだ。
と、引き剥がした新一の目のすわり具合にキッドはガックリと頭を垂れる。
・・・出たな。酒乱新一・・・。
いや、オレを誘ってる時点で、もうとっくに酔ってるには違いないんだけど。
そう思っている間にも、新一は執拗にキッドの方へとしがみついてくる。
その姿勢を積極的と喜ぶべきか、攻撃的と防御すべきか、キッドは熱に浮かされた頭で考えた。
・・・くっそぉ!こうなったら酒乱でも何でも来いっっっ!!!
受けて立ってやるっっ!!
キッドはバサリとジャケットを脱ぎ捨てた。
□ □ □
床の上には新一の着ていた衣服が乱雑に置かれている。
新一に服を脱がされかけた事で、キッドはその欲情を一層煽られた。
負けてなるものかと、一気に新一の服を剥がしにかかる。
さすがはマジシャン。多少酔いが回ってきたとはいえ、それは見事な手さばきで。
幸いなことに、新一はぼんやりとした瞳を向けただけで、特にその後酒乱振りを発揮する事もなくキッドにされるがままの状態であった。
新一は服の上から見ていた時より、さらに細くて薄かった。
驚くほど艶やかな肢体。
キッドがその白い肌に口付けの雨を降らすと、心地良いのか、下にいる新一が身をよじる。
「・・・あっ・・・やぁ・・・っ」
普段は絶対に聞くことのできない新一の艶を帯びた声が耳に届いて、キッドは天にも昇る気持ちだった。
ついばむような口付けを繰り返しながら、キッドは新一の鎖骨から胸板へと手を滑らせる。
ぶつかった胸の飾りを愛撫してやると、再び新一が嬌声を上げた。
もっとその声が聞きたくて、キッドは執拗に舌と手を使って新一を追い立てる。
煽るつもりが煽られているなと、キッドは苦笑した。
やがて、キッドの手が新一の片足を押し上げ、顕わになったその中心部分をそっと口に含むと新一の体がビクンと跳ねた。
「・・・ああっ・・・!!やっ・・・」
酔いで潤んでいた目に、さらに生理的な涙を浮かべて新一が喘ぐ。
キッドが丹念に舌を這わすと、細い腰を震わせて新一は一気に高みへと駆け上った。
キッドが喉を鳴らしてそれを受け止める。
そうして。
キッドはその形のよい長い指を、新一の奥の蕾へと侵入させた。
行為に没頭するあまり、キッドの方にも余裕がなくなってきて、
時間をかけてゆっくり慣らす事ができなかったが、新一は酔いも手伝ってか、苦しそうではなかった。
そのまま、キッドは一気に腰を進める。
これにはさすがに新一も、切ない悲鳴をあげたが、もはやそれを止める術はない。
キッドは一番深い場所まで自分を沈めると、新一の背を抱きしめて、つながった場所へと意識を一つにした。
重なりあう肌と肌。
吐息も、鼓動も、二人は一緒に、さらなる高みへと向かった。
キッドはその腕の中にすでに意識を飛ばした新一を抱きしめながら、まさに夢心地だった。
心も体も満たされて。
新一の熱に包まれて、このまま眠りにおちてしまいたいと、そう思っていた。
いや、実際、キッドはそのまま眠ってしまったのだ。
・・・・・・首がイタイ。
そう思って、寝返りをうとうとしてうまくいかず、キッドは目を覚ました。
次の瞬間、目に飛び込んできた新一のドアップにキッドは飛び起きて、そのまま勢いでソファからドスンとずり落ちる。
・・・うわわわっっっ!!!
目の前に横たわるのは自分の白いマントに包まれてはいるものの、一糸まとわぬ新一の身体。
起きぬけで、しかも酒が入って良く働かない頭が徐々に覚醒してくると、キッドは事態を把握した。
・・・そうだっ!!オレ、昨日新一と・・・っっ!!!
・・・・・・・新一と・・・???
確か・・・・。最後まで行ったハズ・・・なんだけど・・・・。
とたんにキッドは頭を両腕で押えて、激しく振った。
だぁぁぁぁぁ〜〜〜〜っっっ!!!憶えてねぇっっ!!
いや、まったく憶えてないわけじゃないけど、詳細にあたる部分が思い出せない!!
新一がどんな色っぽい声を上げてたとか。
新一がどういう風にイッたのかとか。
おまけに、フィニッシュはどうだったんだ!!!
あぁぁぁぁ〜〜〜っっ!!何やってんだ、オレっっ!!酔っ払ってたっていうのかよっっ!!
キッドは心の中で絶叫した。
と、同時にふと自分の格好を見下ろしてみると。
すっぽんぽんではないが、イイカンジで着衣は乱れていた。
ヤベっ!シルクハットはどこ行った?
ああ!!!モ、モノクルはっっ?!・・・ああ、してるしてる。ふぅ〜、助かったぜ。
とりあえず、薄明かりだったし、しかもアイツ、酔ってたから・・・。顔はバレて・・・ないよな?!たぶん。
やや心配げに、キッドはちらりと瞳を閉じたままの新一を振り返る。
穏やかな寝顔。
その表情からは苦痛の色は見えないけど。
・・・新一、大丈夫だったかなぁ・・・?
・・・やっぱすっげー痛かったのかな・・・。でもそれほど泣きはらした感じでもねーし・・・。
は!! い、今、何時だっ?!
やばい!もう5時すぎかよっ!!もうすぐ夜が明けちまう!!さっさと帰らねーと!!
慌ててキッドは身支度を整える。
そして、急いで新一を寝室まで運び、パジャマを着せてやってからベットに押し込むとその額に口付けを落とす。
それから、再度リビングへ駆け下りると、忘れ物はないか、よぉーく指差し確認した上で慌しく工藤邸を去っていったのだった。
・・・あー!!チクショー!!
そうぼやきながら。
そして。
新一の蒼い瞳が開くのは、陽が高く昇った頃。
果たして、彼は昨夜のことをちゃーんと憶えているのかどうか?(笑)
□ The End □