Happy Barthday 5 それから、オレは一応トリックは暴いたものの、実際にできるかどうか 快斗は女将と一緒に本館へ行った。 さてと。じゃあ、実験を始めるか!
しばらくして、快斗が戻ってきた。 「どう?新一、うまくいった?」 「ああ。そっちは?」 すると快斗は、フロッピーをオレの鼻先に突き出して 「女将さんは?」 「鈴田さんと竹田さんを呼びに行ってもらった。」 よし。じゃあ、もう一度仕掛けをして、幽霊に登場してもらうとするか。 「べっつに、大した仕掛けじゃないよな〜。 「先代のご主人が亡くなったのは事実だし、そういう先入観が オレが苦笑しながらそう言うと、そんなもんかね、と快斗は
そこへ、女将とともに、鈴田と竹田がやってきた。 「一体何なんだね?君達!!私達は明日も仕事があるんだ! 鈴田が来るなり憤慨してそう言うのを、女将がなんとか宥めた。 (どうせ、オレ達しか客いないクセにな!) おい、そんなこと聞こえたら怒られるぞ!! オレは2Fから下にいる女将達に、いったん部屋の外へ出て すると、窓に黒い人影が現れ、一瞬のうちにすっと消える。 「これは幽霊の仕業なんかじゃありませんよ。 「トリック?」 女将が目を丸くしてオレに訊ねる。オレはにっこり頷いて 「前もって窓にビニールテープで人型を作り、貼っておくんです。 すると、換気扇を回すと同時にテグスが巻き取られ、テープがはがれ 「そ、そんなことが・・・」 女将も竹田も目を白黒させながら、信じられないという顔した。 「で、でもそうしたらこの窓に前もってテープを貼らなければ 女将のその言葉にオレはやや真剣な面持ちで頷いてみせる。 「そう。普段ロックされているこの部屋の鍵を開けてね。 「え?ああ、私と板長の竹田が持っています・・・」 「わ、私はこの酒蔵に酒を取りに行くために鍵が必要なだけで、 とたん、板長の竹田がまくし立てた。 「でも、換気扇についていたテープを剥がしていたのは板長である オレが目を細めてそう言うと、竹田は真っ青になって立ち尽くした。 「何だ、この幽霊騒動は竹田さんが仕組んだ事だったんですか。 青くなっている竹田を小ばかにしたような笑いを含んで、 「竹田さん、大丈夫ですか?」 突き飛ばされて尻餅をついた竹田に女将が心配そうに声をかけた。 「すみません、すみません、女将さん・・・!! 「何を言い出すんだ!変な言いがかりはやめてくれないか!!」 竹田の声は、慌てて口をはさんで来た鈴田の声にかき消された。 「竹田さんが一人でこんな事をしたんじゃないことは、ちゃんと オレが鈴田を見やると、鈴田はものすごい形相で睨んで叫んだ。 「きさま!何か証拠があるのか?!」
「あるよ。これ、旅館の帳簿。」 本館からいつのまにか戻ってきたらしい快斗が、入り口のドアに それを見た鈴田はみるみる打ちに青くなっていった。 「そ、それがどうしたというんだ?この旅館の経営が思わしくない事は 「知ってるよ。でもあんた、大手建設会社のリゾート計画の 快斗はそう言いながら、入り口からゆっくり部屋の中へ進み、 あ〜。もうこうなっちゃ、おしまいだね。 「つまり、鈴田さん、あなたは旅館をその建設会社に売るために オレがそれだけ言うと、鈴田はワナワナと震えだし、 げ!何しやがんだ!コイツ!! 見ると、鈴田が彼女を脇に抱え、割れたビンを片手に 「来るな!!近寄ったら、女将がタダじゃすまないぞ!」 鈴田に引きずられるように、女将は部屋の入り口まで連れて ちっ! オレの蹴ったビンは鈴田の顔面にクリーン・ヒット! ざまーみろ! と、思ったその時!! 先程まで鈴田が加えていたタバコが、奴が吹っ飛んだショックで そこからはまるでスローモーションのようだった。 入り口が一番激しく燃えているため、脱出ができなくて部屋に 「おい、逃げるぞ!!」 オレが床にへたり込んでしまっている竹田に声を掛けると 「新一!下からはムリだ。上から出よう!!」 快斗がそう言って、2Fの階段を駆け上がる。 そう思いながら、2Fの窓から下を見ると、 オレが下を見て固まっていると、快斗が反対側の窓を指差した。 「あっちなら、本館と隣接してる。飛び移って逃げようぜ!」 あ、それがいい!そうしよう!! 快斗は窓を全開にし、そこから身を乗り出した。 オレは竹田を振り返ると、彼は先程よりも青ざめて おい・・。大丈夫かよ。 「死にたくなかったら、ちゃんとついて来いよ!」 オレがそう叱咤すると、竹田はガタガタ震えながらも頷いた。 そして、一番本館に隣接しているポイントまでなんとかたどり着いた。 が!! その間隔は、ほぼ5メートル!! ひ、広い!! 遠いな・・・。 オレが少し青ざめているのを見て取ったのか、快斗が 「新一!あきらめて飛べ!鳥だと思え!」 言うなり、快斗はふわっと夜空を駆け、見事に本館に着地した。 とにかく、ここにこのままいても始まらない。 オレは狭い下屋根の上を助走、そして一気に踏み蹴って 直後、本館の壁が目の前に現れ、オレはその上にトン、と やった! と、思ったとたん、反動でグラっと後ろに体が傾いた。 「いらっしゃい!」 そう言って余裕でオレを出迎えた快斗が腹立たしくて さぁ、次は竹田だぞ! すると竹田は恐怖と緊張のあまり体が固まってしまっている。 「つかまえてやるから、早く来い!!」 オレがそう言うと、竹田は頷いて2、3歩下がった。 もう少し、助走を取れっ! バーロー!!落ちるぞ!! オレはとっさに空に体を投げ出すような形で、落ちてくる竹田を やばい!落ちる!! 直後、逆さづりのままガクン、と体が止まって、息を呑んで あ〜、助かった。 すると、快斗が「あ!!」と声を上げた。 なんだよ、びっくりするじゃねーか! オレは再びツライ体勢で快斗を振り仰ぐと、快斗がにっこり 「Happy Barthday!新一♪」 ・・・はぁ!? すると、奴は腕時計を見せてながら、続けた。 「ほら、今、5月4日!0時ちょうど!! 快斗の時計は確かに深夜0時を指しており、ついでに横の日付も ああ、ほんとだ。オレの誕生日だ・・・ってオイ!! 「・・・お前、こんな状況でよくそんなのんきなことが言えるな・・・! 「は〜い♪」
かくして、無事本館に飛び移ってオレ達は炎から逃れる事が 程なくして、消防隊が到着し、離れの火を消し止めた。 鈴田と竹田は事情聴取のため、警察に連行されていった。 すべてが片付いたのは、もうすでに明け方近かった。 そして、女将は何度も頭を下げながらこう言った。 「工藤様、本当にありがとうございました。 しかも、オレが宿代のことを切り出そうとしたら、
「おい快斗、お前、ほんっとに腹黒いな。 「まぁまぁ。何はともあれオレからのバースデイ・プレゼントって 「プレゼント?何が?」 「この温泉旅行。しかもオプションで事件もね。」 あ、あのな〜・・・ 半分呆れ顔で快斗を見やると、けろっとした顔で 「ああ、でもラストの炎の脱出は予定外だったけどね。 何がよしとしよう、だ!! と、言おうとしたとたん、すっと手を引かれた。 「ほら、新一。早く風呂に入りに行こうぜ!」 オレに向けられた快斗の笑顔は呆れるくらい晴々していて 温泉に入って、美味しいもの食べて、のんびりできるかと まったくとんだプレゼントをくれたものだ。 そうは思いながらも、実は上機嫌な自分に気づく。
あれ? まぁ、いいや。
5月4日。
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