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NOVEL

Happy Barthday  

 

それから、オレは一応トリックは暴いたものの、実際にできるかどうか
試すべく、実験をしてみることにした。

快斗は女将と一緒に本館へ行った。
何をするかなんて、聞かなくてもわかる。

さてと。じゃあ、実験を始めるか!

 

しばらくして、快斗が戻ってきた。

「どう?新一、うまくいった?」

「ああ。そっちは?」

すると快斗は、フロッピーをオレの鼻先に突き出して
バッチリ♪と言ってにったりと笑って見せた。

「女将さんは?」

「鈴田さんと竹田さんを呼びに行ってもらった。」

よし。じゃあ、もう一度仕掛けをして、幽霊に登場してもらうとするか。
オレが窓にテープやらテグスを取り付けていると、快斗が
おもしろそうに覗き込んできた。

「べっつに、大した仕掛けじゃないよな〜。
何でみんなわからないのかね?」

「先代のご主人が亡くなったのは事実だし、そういう先入観が
あると、真実が見えなくなることもあるさ。」

オレが苦笑しながらそう言うと、そんなもんかね、と快斗は
窓の外の星空を見ながら呟いた。

 

そこへ、女将とともに、鈴田と竹田がやってきた。

「一体何なんだね?君達!!私達は明日も仕事があるんだ!
こんな夜中に呼び出されたら困るじゃないか!!」

鈴田が来るなり憤慨してそう言うのを、女将がなんとか宥めた。
そんな様子を見ながら、快斗がオレの肘を小突く。

(どうせ、オレ達しか客いないクセにな!)

おい、そんなこと聞こえたら怒られるぞ!!

オレは2Fから下にいる女将達に、いったん部屋の外へ出て
先程幽霊を見た窓を見てもらうよう指示する。
その間、快斗には携帯を持って本館の調理場へ行ってもらった。

すると、窓に黒い人影が現れ、一瞬のうちにすっと消える。
その光景を目撃した竹田たちはどよめきを上げる。
どういうことだと、血相を変えて飛び込んできた3人に
オレは2Fからゆっくり階段を下りて告げた。

「これは幽霊の仕業なんかじゃありませんよ。
テグスとビニールテープでできる簡単なトリックなんです。」

「トリック?」

女将が目を丸くしてオレに訊ねる。オレはにっこり頷いて
仕掛けについて説明を始めた。

「前もって窓にビニールテープで人型を作り、貼っておくんです。
テープの先には穴を開け、テグスを通します。
テグスは反対側の窓から、本館の調理場の換気扇まで
つなげておく。

すると、換気扇を回すと同時にテグスが巻き取られ、テープがはがれ
この部屋から跡形もなく消えるというわけです。」

「そ、そんなことが・・・」

女将も竹田も目を白黒させながら、信じられないという顔した。

「で、でもそうしたらこの窓に前もってテープを貼らなければ
ならないんですよね?」

女将のその言葉にオレはやや真剣な面持ちで頷いてみせる。

「そう。普段ロックされているこの部屋の鍵を開けてね。
女将さん、この部屋のキーは誰がお持ちなんですか?」

「え?ああ、私と板長の竹田が持っています・・・」

「わ、私はこの酒蔵に酒を取りに行くために鍵が必要なだけで、
そんなテープなんて・・・!!」

とたん、板長の竹田がまくし立てた。

「でも、換気扇についていたテープを剥がしていたのは板長である
あなたじゃないんですか?」

オレが目を細めてそう言うと、竹田は真っ青になって立ち尽くした。

「何だ、この幽霊騒動は竹田さんが仕組んだ事だったんですか。
まったく人騒がせな。」

青くなっている竹田を小ばかにしたような笑いを含んで、
鈴田が言い放った。
それを聞いて、竹田が鈴田に駆け寄ったが、鈴田はそれを
乱暴にあしらった。

「竹田さん、大丈夫ですか?」

突き飛ばされて尻餅をついた竹田に女将が心配そうに声をかけた。
女将のその優しさに触れてか、竹田は涙を浮かべながら
何度も頭を下げた。

「すみません、すみません、女将さん・・・!!
でも私は鈴田さんに・・・」

「何を言い出すんだ!変な言いがかりはやめてくれないか!!」

竹田の声は、慌てて口をはさんで来た鈴田の声にかき消された。

「竹田さんが一人でこんな事をしたんじゃないことは、ちゃんと
わかっていますよ。ねぇ、鈴田さん。」

オレが鈴田を見やると、鈴田はものすごい形相で睨んで叫んだ。

「きさま!何か証拠があるのか?!」

 

「あるよ。これ、旅館の帳簿。」

本館からいつのまにか戻ってきたらしい快斗が、入り口のドアに
背を預けながら、フロッピーを出して見せた。

それを見た鈴田はみるみる打ちに青くなっていった。
が、とりあえず平静を装うためか、タバコに火を付けた。

「そ、それがどうしたというんだ?この旅館の経営が思わしくない事は
今に始まった事じゃないぞ!!」

「知ってるよ。でもあんた、大手建設会社のリゾート計画の
話にうまく便乗して、この旅館を言い値で売ろうとしてたろ?」

快斗はそう言いながら、入り口からゆっくり部屋の中へ進み、
青ざめてる鈴田を通り過ぎて、オレの横までやってきた。
そして、オレににっこり笑顔を向ける。

あ〜。もうこうなっちゃ、おしまいだね。
快斗のことだからあらゆるデータを調べまくったに違いないし。
まぁ、こういう腹黒いネタが挙がってくれば、あとは警察に
任せてからでも充分間に合うか。

「つまり、鈴田さん、あなたは旅館をその建設会社に売るために
京子さんに継いで欲しくなかったんだ。
それで、竹田さんと共謀して幽霊騒動を起こした。」

オレがそれだけ言うと、鈴田はワナワナと震えだし、
とたん、酒が陳列してある木製の棚を蹴り倒した。
もともと大した大きさではなかった棚は、ぐらりと傾き、
積んであった酒瓶がそこから落ちて、派手な音を立てて割れた。

げ!何しやがんだ!コイツ!!
オレが鈴田を止めようと、奴に近づこうとした時、
女将の悲鳴が上がった。

見ると、鈴田が彼女を脇に抱え、割れたビンを片手に
ゆっくりと部屋から出ようとしていた。

「来るな!!近寄ったら、女将がタダじゃすまないぞ!」

鈴田に引きずられるように、女将は部屋の入り口まで連れて
行かれる。

ちっ!
オレは舌打ちをしながら、自分の足元に転がっていた酒瓶を
一つ持ち上げると、奴めがけて思い切り蹴飛ばした!

オレの蹴ったビンは鈴田の顔面にクリーン・ヒット!
勢い余って、鈴田と女将は入り口から外までふっとんだ。

ざまーみろ!

と、思ったその時!!

先程まで鈴田が加えていたタバコが、奴が吹っ飛んだショックで
宙を舞い、酒まみれになっている床の上にポトリ、と落ちたんだ。

そこからはまるでスローモーションのようだった。
あっという間にタバコの火は酒に引火して、たちまち大きな炎と
なった。
しかも木造の作りなので火のまわりが恐ろしく早く、
あたり一面、一瞬で真っ赤な火の海になってしまった。

入り口が一番激しく燃えているため、脱出ができなくて部屋に
取り残される形となってしまったオレと快斗と、そして竹田。

「おい、逃げるぞ!!」

オレが床にへたり込んでしまっている竹田に声を掛けると
どうやら奴は腰を抜かしてしまったらしい。
ああ、まったく世話の焼ける奴だ!
オレは竹田に肩を貸し、何とか立ち上がらせた。

「新一!下からはムリだ。上から出よう!!」

快斗がそう言って、2Fの階段を駆け上がる。
確かに、出入り口は炎に塞がれてるし、他に窓一つ無い1Fからは
脱出する事はできない。
2Fの窓から飛び降りるしかないか。

そう思いながら、2Fの窓から下を見ると、
おいおい・・・意外と高くねーか?
もともと天井が高い作りになっているため、普通の2階建てより
充分すぎるほどの高さがあって、う〜ん・・・
ここから飛び降りたら、怪我するぞ・・・・。

オレが下を見て固まっていると、快斗が反対側の窓を指差した。

「あっちなら、本館と隣接してる。飛び移って逃げようぜ!」

あ、それがいい!そうしよう!!

快斗は窓を全開にし、そこから身を乗り出した。
オレと竹田もそれに続く。
窓から出て、壁にすがりつくようにしながら、狭い下屋根の上に
立った。
ほとんど平均台くらいの幅しかない!!
そこを少し進んで、一番本館に近いポイントまで移動。

オレは竹田を振り返ると、彼は先程よりも青ざめて
今にも死にそうな顔をしていた。

おい・・。大丈夫かよ。

「死にたくなかったら、ちゃんとついて来いよ!」

オレがそう叱咤すると、竹田はガタガタ震えながらも頷いた。
よし。いくらなんでもここじゃ背負えないからな。

そして、一番本館に隣接しているポイントまでなんとかたどり着いた。

が!!

その間隔は、ほぼ5メートル!!

ひ、広い!!
オレはいささか青ざめて、暗闇に白く浮かんでいる本館の壁を見た。

遠いな・・・。
けど、飛ばないわけにはいかないもんな。
他にどうしようもないし。
まぁ、唯一の救いは、あっちの方が低いってことかな。

オレが少し青ざめているのを見て取ったのか、快斗が
笑って声を掛けてきた。

「新一!あきらめて飛べ!鳥だと思え!」

言うなり、快斗はふわっと夜空を駆け、見事に本館に着地した。
しかもしっかりポーズまでキメて!!
さすが、怪盗キッドと言うべきか・・・。

とにかく、ここにこのままいても始まらない。
快斗にできたんだから、オレにできないはずはない。

オレは狭い下屋根の上を助走、そして一気に踏み蹴って
空中に飛んだ。
思いっきり上に持ち上げた両腕を、空気をかくようにぐいっと
押し下げながら、足で空をこぎ、一ミリでも前に出ようと思った。

直後、本館の壁が目の前に現れ、オレはその上にトン、と
両足をおいた。

やった!

と、思ったとたん、反動でグラっと後ろに体が傾いた。
オレはあせって空中をかきむしろうとして、その手を快斗にクイっと
引かれる。おかげでバランスをなんとか保てた。

「いらっしゃい!」

そう言って余裕でオレを出迎えた快斗が腹立たしくて
オレは礼も言わず、フン、と手を振り解いた。

さぁ、次は竹田だぞ!

すると竹田は恐怖と緊張のあまり体が固まってしまっている。

「つかまえてやるから、早く来い!!」

オレがそう言うと、竹田は頷いて2、3歩下がった。

もう少し、助走を取れっ!
と、オレが言おうとした瞬間、竹田は走り出しヤケクソで飛んだ!!

バーロー!!落ちるぞ!!

オレはとっさに空に体を投げ出すような形で、落ちてくる竹田を
なんとかキャッチ。
ギシっと胸の骨が軋むほどの手ごたえがあり、オレは自分の
腕の中に飛び込んで来た竹田の両足を夢中で抱きしめつつ、
なんと落下!!

やばい!落ちる!!

直後、逆さづりのままガクン、と体が止まって、息を呑んで
振り仰げば、快斗がオレの足首を掴んでいた。

あ〜、助かった。

すると、快斗が「あ!!」と声を上げた。

なんだよ、びっくりするじゃねーか!

オレは再びツライ体勢で快斗を振り仰ぐと、快斗がにっこり
笑ってこう言った。

「Happy Barthday!新一♪」

・・・はぁ!?

すると、奴は腕時計を見せてながら、続けた。

「ほら、今、5月4日!0時ちょうど!!
誕生日だろ?新一の。」

快斗の時計は確かに深夜0時を指しており、ついでに横の日付も
4日になっていた。

ああ、ほんとだ。オレの誕生日だ・・・ってオイ!!

「・・・お前、こんな状況でよくそんなのんきなことが言えるな・・・!
さっさと引き上げろ!!このバカイト!!」

「は〜い♪」

 

 

かくして、無事本館に飛び移ってオレ達は炎から逃れる事が
できたのだった。

程なくして、消防隊が到着し、離れの火を消し止めた。
離れだったのが幸いして、他に被害は及ばなかったし
旅館の経営には問題が無くすんだ。

鈴田と竹田は事情聴取のため、警察に連行されていった。

すべてが片付いたのは、もうすでに明け方近かった。

そして、女将は何度も頭を下げながらこう言った。

「工藤様、本当にありがとうございました。
そして本当にご無事でよかった。
ああ、すっかりススだらけになってしまわれて、
お風呂できれいになさってから、ゆっくりお休みしてください。
お昼頃、お食事をお持ちしますから!!」

しかも、オレが宿代のことを切り出そうとしたら、
めっそうもございません、料金なんていただけません、なんて
言い出したんだぜ?

 

「おい快斗、お前、ほんっとに腹黒いな。
こーなること、わかってたんだろ?」

「まぁまぁ。何はともあれオレからのバースデイ・プレゼントって
ことで!」

「プレゼント?何が?」

「この温泉旅行。しかもオプションで事件もね。」

あ、あのな〜・・・
いくらオレが謎解きが好きだからって・・・。

半分呆れ顔で快斗を見やると、けろっとした顔で
こうも言ってのけた。

「ああ、でもラストの炎の脱出は予定外だったけどね。
まぁ、何事にもアクシデントは付きものってことで
よしとしよう!」

何がよしとしよう、だ!!
下手したら、ただじゃすまなかったんだぞ!!

と、言おうとしたとたん、すっと手を引かれた。

「ほら、新一。早く風呂に入りに行こうぜ!」

オレに向けられた快斗の笑顔は呆れるくらい晴々していて
なんだかこっちまで笑ってしまった。
思い返してみれば、ここにきてからというもの、
ものすごい密度の濃い時間の過ごし方をしているような・・・。

温泉に入って、美味しいもの食べて、のんびりできるかと
思ったら、事件を解決しなきゃならなくて。
しかも火事まで起きるし。

まったくとんだプレゼントをくれたものだ。

そうは思いながらも、実は上機嫌な自分に気づく。

 

 

あれ?

まぁ、いいや。
今度こそ、のんびり温泉につかって、ゆっくり寝るとしよう。

 

5月4日。
今日はオレの誕生日なんだから。

 

 

 

END

お、終わった・・・・!
なんとか5月4日に間に合った。
ああ、よかった・・・・


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