Heart Rules The Mind

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NOVEL

You can't hurry love no you just have to wait   恋はあせらず  待つ事が肝心

It's a game of give and take     それは二人で駆け引きするゲーム

You gotta trust give it time     信じられるかどうかが大切 時間をかけなさい

No matter how long it takes     たとえどんなに長くかかってもいいから

 


You Can't Hurry Love 2


 

3月14日、ホワイトデー。

 

バレンタインに比べれば、その歴史の浅さからか、世の中の騒ぎ具合は至って地味なもので。
ともすれば、忘れ去られてしまいがちなそのイベント。

 

そもそも、バレンタインのお返しをするというこの日。

真心こめたチョコをあげた世の中の女の子にしてみれば、そのお返しは当然頂くべきものであって特に恋人同士においては、誕生日・クリスマスに次ぐ、プレゼント交換すべ重大なイベントには違いないのだが。

どうも女の子達が賭ける意気込みに比べると、男の子達のそれは実に大人しい。

ま、バレンタインはある意味、告白めいたものであるのに対し、ホワイトデーなんていうのはもうわかりきっている相手にお返しをするのであるから、確かに緊張感や新鮮味は欠けるのかもしれない。

チョコをあげてない相手から、ホワイトデーにもらって告白されたなんていう話は、あまり聞かないし。

 

 

ともかく、今日は3月14日(木) ホワイトデー。

平常授業の江古田高校では、いつもとなんら変わり映えのない時間が流れていた。

スキー教室だったバレンタインとはえらい違いである。

 

「『怪盗キッド、予告今夜!世の女性達に月下の魔術師からホワイトデーの贈り物か!?』だって?
・・・ふーん、ウマいこと言うな。」

今朝の新聞の一面記事に目を通しながら、快斗はクスリと笑って呟いた。

この場合『贈り物』だと言ってもらえてるのは、キッドのショー・パフォーマンスに限っての事だと思うが。
盗みを働くための派手な演出は、どうやら世間には意外と好評らしい。

 

・・・そういや、バレンタインには警視庁にオレ(キッド)宛のチョコが、たくさん届いたとかいうニュースもやってたよなぁ?残念ながら、一個もオレには届いてないけどさ。

・・・そのチョコ、どうしたんだろ?・・・まさか、中森警部とかがヤケ食いしてたりして・・・・。

 

などと思いながらニヤニヤしていると、ガサッッ!!と、いう音ともに快斗の手から新聞が取り上げられた。
チロリと視線を上に向けると、青子が何やらおかんむりのご様子である。

「何よっ?!キッドの記事なんか読んで、ニヤニヤしちゃって!!」

「・・・コラ。まだ読んでるんだぞ?」

返せと手を伸ばす快斗に青子はあっかんべーをすると、キッドの記事が書かれてある一面をびりびりと破り捨てた。

「キッドなんて、今日という今日こそ、捕まっちゃえばいいのよ!!」

「・・・・おい〜っ!!まだ、全部読んでねーのに・・・。」

無残に紙ふぶきと化した新聞が舞う。
快斗は恨めしそうに青子を見つめながら、舞い落ちる新聞を一片残らずキャッチした。

「ま、そう言うなよ?キッドのショーは結構ファンも多いんだぜ?」

「何言ってるのよ?!あんなの、警察の目をごまかす為だけの・・・!!」

猛然と言い返そうとした青子の目の前に、快斗は新聞のくずが入っているはずの両手を重ね合わせるとにっこりと笑ってウインクした。

不思議そうに見つめる青子の目の前で、1.2.3!!と数える。

と、快斗の両手からはポンという煙とともに、小さなテディ・ベアのぬいぐるみが現れた。

驚いて目を見開く青子の頭の上に、そのぬいぐるみをちょこんと置くと、快斗は席を立つ。
そして、そのまま青子の横をすり抜けて、教室を出て行こうとした。

「・・・えっ?!ちょ、ちょっと、快斗?!こ、これ・・・?」

「やるよ。お前、そういうの、好きだろ?」

そう微笑まれては、青子は何も言えない。
これから授業が始まろうというのに、堂々とサボりに行く快斗を、思わず見逃してしまったのだった。

 

・・・これって。もしかしなくても、ホワイトデー・・・の?」

 

青子は触り心地のソフトなそのテディ・ベアをしばし見つめると、とりあえずどこに置こうか辺りを見回す。
と、彼女はにっこり微笑んで、隣の席に座らせた。 快斗本人の代わりに。

 

「・・・ありがとvvv」

青子はぬいぐるみに向かって小さくそう微笑んだ。

 

 

□       □       □

 

 

その日、白馬は学校を私用で遅刻していた。

 

無論、担任教師にはきちんと申し出をしてあるが、その際、詳しい事情など説明は不要だ。
何せ、学校側の白馬に対する信頼は絶対的なものなので。

学生の身でありながら、探偵として警察に全面協力している彼の姿勢は、教師達にこの上なく理解されていた。

白馬が今時めずらしい模範的な優等生であった、ということもあるかもしれない。

というわけで。

本日の遅刻の理由も何か事件の捜査に関わる事だろうと、誰しもがそう思っていたのではあったが。

実は、本日、白馬はまったくの私用(=自己都合)によって、遅刻をしていたりするのだ。

 

そして、昼も近くなった頃、両手に大きな紙袋を持って、白馬は教室に現れた。

 

「・・・白馬君?すっごい荷物ね。どうしたの?」

「ああ、中森さん。おはようございます。」

ドサリと机に袋を置きながら、白馬はにっこりと青子に笑顔を向けた。
と、隣の席にいるべき人物がいないこともしっかりと確認する。

「・・・なぁに?これ?」

「あ、ぜひ、中森さんもお一つどうぞ。」

「・・・え?お一つって・・・。」

言いながら、青子が紙袋を覗くと、そこにはすてきにラッピングされた小さな箱がたくさん入っていた。
そのうちの一つを取って、青子はマジマジと見つめる。

 

上質そうな包装紙に包まれた、品の良いラッピング。 そして、繊細な色使いのリボン。

 

「・・・白馬君。・・・これって、もしかしてホワイトデーの・・・?」

あまりにご立派過ぎるその包みを持って、青子はやや引きつりながら白馬に訊ねると、
彼はにっこりと微笑みながら頷いて見せた。

「え〜〜〜っ?!ウソでしょ?!こんなにっ?それにこんな高そうなの・・・・!!
も、もしかして、白馬君、バレンタインのチョコくれた女の子、全員にお返しするつもりで持ってきたの?」

「ええ。今日はそのお返しをする日なんですよね?先月はみなさんに大変お世話になりましたので、
そのお礼の気持ちです。僕のひいきにしているお店のものなので、味は保証しますよ?」

と、実にさわやかな笑顔で白馬は答える。で、こっそり青子には白状した。
その彼がひいきにしている店とやらが、少し遠方だったとかで今日は遅刻してしまったんだとか・・・。

 

「〜〜〜・・・。白馬君、何もそこまでしなくても、よかったのに。
お返しなんて、別に・・・。本当に好きな子にだけあげるだけでも、全然構わないのよ?」

「そうなんですか?でも女性の方達からもらいっぱなしというわけには・・・・。
まぁ、とにかく、中森さんも受け取ってくださいね。」

一応、青子も白馬には義理・・・というよりはお付き合い程度にチョコはあげてはいたのだが。
逆にここまで立派なお返しをされると、返って恐縮してしまう。

「・・・あ、ありがと。」

「どういたしまして。」

対して、白馬はにっこりと笑顔を返した。

 

「・・・ところで、もうすぐ休み時間も終わりですが、黒羽君はどちらに?」

「・・・あ。さぁ?また保健室か、屋上じゃない?どうせサボりだと思うけど。」

青子の答えを聞くと、そうですか、と白馬は頷いた。
そこへ、白馬の様子を見守っていたクラス中の女子がいっせいに集まってくる。

 

「きゃあ〜〜〜っvvv 白馬君っっ!!それって全部バレンタインのお返しって本当???」

「さすが、白馬君っ!!なんか紳士っていうかぁvvv、やることが違うわよねぇ!!」

 

あっという間に女子に取り囲まれた白馬は、ややその迫力に押されながらも笑顔を作るとその一人一人に、持ってきたお返しのチョコを配り始めたのだった。

 

と、いうわけで。

 

休み時間のたびに、白馬の座席の周りには長蛇の列。
白馬にチョコをあげた学校中の女子が教室に殺到する事なり、まるでそこはアイドルの握手会並の混雑振りだった。

 

そうして。

 

適当にサボり終えて教室に戻った快斗は、自分の席が見えない程のその女の子達の行列に目を丸くする。

「・・・?な、何だ?一体・・・。」

「あ、快斗。」

「おう!青子、何なんだ?あの大行列は・・・。」

「白馬君のホワイトデーのお菓子をもらう列よ。すごいでしょ。白馬君たら、バレンタインにチョコをくれた女の子全員分用意したんだって。」

「へっ???」

 

確かに学校での白馬の人気はかなりなもので、バレンタインにもチョコをたくさんもらっていたらしい事は快斗も知っていたのだが・・・。

まさか、その全員にお返ししようなどとは。さすがは紳士と言うべきなのか。

 

「・・・・・・よくやるな。」

快斗は疲れたようにそう言うと、再び回れ右をした。

 

「ちょっと!!どこ行くのよ?」

「隣であんなことやられちゃ、落ちつかねーよ。オレ、今日はもう帰る。」

「コラ!快斗!!そんなの理由にならないわよ?」

と、怒鳴る青子の声も気にもせず、快斗は飄然としてそのまま教室を去って行ったのだった。

 

一通り、女の子達がはけると、白馬は席に戻ってきた青子へを目をやった。

「すみません、なんだかお騒がせしてしまって。」

「ううん。いいの、そんなこと。 それより快斗ったら、もうどうしようもないんだから!!」

「どうかなさったんですか?」

「もう、帰っちゃったのよ!まだあと1時間授業あるのに。」

教科書をトントンと揃えながら青子がそう言うと、白馬はふむ、と頷いた。

 

「・・・そうですか、黒羽君は帰ってしまったのですね・・・。」

顎に手を添えて、そう小さく呟く。
ちょっと考え込んでしまった風の白馬を見て、青子が首を傾げた。

「どうかした?快斗に何か用でもあったの?」

「・・・いえ。ちょっと彼に渡したいものがあっただけです。」

「ふ〜ん?」

一体何を渡すつもりだったのか?と、青子が再び白馬に問いただそうとした時、ガラリと教室の戸が
開いて教師が入ってきて、青子は言いかけた言葉を飲み込んだ。

白馬もまっすぐに前を向いて、真剣に授業を聞く体勢に入っている。

 

・・・・何だったのかな?

 

そう不思議に思った青子も、授業が始まってしまえば、そんなことの関心は薄れていったのだった。

 

 

 

□       □       □

 

 

 

さて、今宵の怪盗キッドのパフォーマンスは、いつにも増してゴージャスな演出だった。

ホワイトデーを意識してか、白いバラなどをふんだんに使っての華麗なるショー。

どうやらキッドの方も、自分宛に警視庁に届いたたくさんのチョコをくれた女性達にお返しをするつもりでサービス精神旺盛に取り組んだようである。

 

と、いうわけでショー・パフォーマンスは大成功。
相変わらず警察を出し抜いて、見事、狙った獲物は手に入れたわけなのだが・・・。

 

 

輝くばかりの宝石を手に、廃墟のビルの屋上に佇む白い怪盗は、大きな月をバックに小さな溜息を漏らした。

たった今、今宵の獲物のチェックが終了したところ。

月光に翳したソレは、ただ美しく光を乱反射させるだけで、彼が求めている赤い輝きは見られなかった。

 

「・・・今夜もハズレか。」

ポツリとそう呟いた彼の背後に、そっと黒い影が現れた。

よく知っている気配に、キッドが今更驚く事も無い。この場に現れる人物など限られている。
口元に余裕の笑みを貼り付けると、キッドは悠然と振り返った。

「・・・これはこれは、白馬探偵。」

目を細めて不敵に笑う怪盗を、白馬の方も自信ありげな表情で見返す。

 

いつもなら、自分の正体についてしつこく追及してくる白馬が、なぜか今日は大人しい。
そういえば、現場でも先頭を切って仕切っているようには見えなかった。

今日の白馬はどこか控えめのように見える。

 

・・・・?コイツらしくねーな。何か企んでやがるのか?

 

キッドは、何も語らずただ自分へ微笑みかけている目の前の怪盗を見ながら、そう思う。

そんなキッドへ白馬はゆっくりと口を開いた。

 

「・・・残念でしたね。今夜も君の求める宝石ではなかったようだ。」

勝ち誇ったようにそう白馬に言われ、キッドは心なしむっとする。が、もちろん顔には出さない。
逆に笑顔を作って見せた。

「・・・ちょうどこれから返却に行こうかと思っていたところです。
貴方の方から取りに来てくださるとは、相変わらず気の利く方ですね。」

とりあえずそう言ってやると、キッドは白馬へ向かって宝石をポンと放った。

キラキラと輝きながら宝石は綺麗な弧を描いて、違うことなく白馬の手の中に収まる。

「・・・いいでしょう。僕の手からきちんと返しておきますよ。」

キッドは、ではよろしく、とにっこり微笑むと、純白のマントを翻して、早々にその場を去ろうと一歩足を踏み出した。

 

と、不意に白馬がキッドへと近づく。

自分の方へすっと伸びた白馬の腕に、キッドはいち早く退がって見せた。

キッドを捕まえるために差し出されたのかと思われたその白馬の腕は、彼の身体を触ることはなかった。

この場合、キッドがうまく避けたというだけでなく、白馬の方にもその気がなかったと言える。

 

というのも、差し出されたその白馬の手の中に、何やら不思議な包みが乗っかっていたからである。

 

それは、綺麗にラッピングされてある小箱だった。

 

「・・・・・・・何です?」

その箱を凝視しながら、キッドが訊ねた。

すると、白馬は穏やか答えた。

「ほんの気持ちです。ぜひ君に受け取ってもらいたい。」

 

・・・は???

キッドは眉をややつり上げて白馬の顔を見返し後、もう一度その差し出された小箱をしげしげと見つめる。

 

薄いブルーの包装紙に包まれた箱に、細い白いリボンが上品にかけられている。
よく見ると、そのリボンには『For You』などと金で刺繍されていた。

 

しっかりその箱を見つめたまま、おそらく3秒は固まったであろうキッドは、そのかわいらしいラッピングに今日が何の日だったかということを思い出した。

 

・・・もしかしてホワイトデー用の?

 

その包装からすると、間違いなくホワイトデーの贈り物を予感させるソレ。

けれども、キッドにはソレを受け取る理由がまるで思い当たらない。

バレンタインデーの日、雪山で遭難しかけたあの時、自分が白馬に非常食として分け与えたチョコをまさか誤解されているなんて思いも寄らないキッドは、大いに首を傾げた。

 

白馬の行動が理解できないキッドは、それでもある結論に達した。

・・・そういや、コイツ、今日学校でお返しを配りまくってたっけ。 とすると、それってもしかして余りか?

キッドの正体を快斗だと確信している白馬のことである。
甘いものに目がない快斗のことを良く知っている彼が、余ったホワイトデーのお菓子をくれるということも考えられなくは無いのだが。

何しろ、今、自分は『怪盗キッド』である。

黙って受け取るには危険すぎる。

ところで、今白馬が差し出している包みは、今日彼が学校で女の子達に配っていたお返しよりもかなり贅沢なもので明らかに特注品であったのだが、そんなことキッドが知る由もない。

 

一向に受け取る気配を見せないキッドに、白馬はさらにずいと腕を差し出して見せた。

「安心してください。中身はホワイトチョコですよ?僕のお気に入りの洋菓子店のものなので、君の口にもきっと合うと思うんですが。」

笑顔で白馬はそう言うが、キッドはさらに一歩後退した。

「・・・お気持ちはありがたいのですが・・・。ご遠慮しますよ。」

すると、白馬はさも心外そうに眉を寄せた。

「何故です?まさか君は、僕が毒を盛ろうとしているとでも?」

「・・・どうすれば、そう思わずに済むんですか?」

 

・・・いや、さすがに毒とはいかないまでも。

この場合、しびれ薬や、睡眠薬の類が仕込まれているかも、と考えるのが普通だろ?

と、キッドは思いつつ、シルクハットを目深に被り直す。

 

そしてその屋上に白馬を残したまま、キッドは翼を広げて夜空へと羽ばたいていった。

 

受け取ってもらえなかったチョコを少し残念そうに見つめながら、白馬は一人屋上に佇む。

「・・・せっかく、今日中に渡せると思ったのに。・・・ま、仕方が無いですね。
明日、学校で渡すとしますか。」

 

 

□       □      □

 

 

ホワイトデーから一夜明けた、3月15日(金)。

いきなり春を通り越して、最高気温20℃を超えるという初夏を思わせるような気候の中、昼食を終えた快斗は、例によって屋上で惰眠を貪っていた。

 

ガチャリと昇降口のドアが開く音がして、彼の瞼がピクリと動く。

訪れた気配に、快斗は気だるげに瞼を持ち上げた。

 

「・・・お休みのところ、申し訳ありません。」

相変わらずの紳士口調で、白馬が近寄ってきた。
目線だけでその動きを追っていた快斗は、仕方なくよっこらしょと起き上がった。

「・・・何か用?」

乱れた髪を手ぐしでかきあげると、快斗は白馬に向き直った。

 

「・・・実は、君に渡したいものがありまして。」

言いながら白馬は、胸ポケットから小さな包みを出した。

それを認めて、快斗の目は気がつかれない程ではあったが、僅かに見開いた。

何を隠そう、それは、昨夜、白馬がキッドである自分に差し出したものとまったく同じだったからである。

 

・・・どーいうつもりだ?まさか、コレでオレの反応を確かめてる・・・ってんじゃねーだろうな?

かすかな緊張を抱きながら、快斗は白馬を見返した。
そして、そんな気配すら感じさせないすっとぼけた声を出してみせる。

「何コレ?」

「一日遅れてしまいましたが、ホワイトデーですよ。ぜひ君には受け取っていただかないと。」

「・・・はぁ???」

今度は白馬にもしっかりわかるように、快斗は目を見開いた。

それもそのはず。白馬はしっかりと「ホワイトデー」として快斗にそれを捧げると言ったのだから。
どうやら、当初思っていた余分を自分にくれるというのとは、大きく意味が違うワケで。

「・・・えー・・・っと。 待てよ?お前、ホワイトデーの意味、正しくわかってんのか?バレンタインのお返しをするっていうもんなんだぞ?」

・・・・・・・このロンドン帰りのおとぼけ野郎め。

快斗は半ば呆れた風にそう言い放つ。
大方、この天然ボケの探偵のことだ。バレンタイン&ホワイトデーに関して、どこ間違った認識をしてしまってたに違いない。

 

けれども、白馬はわかってますよ?とばかりに平然と言い返した。

「ええ、そうですよ?ですから、君にそのお返しをさせてもらおうと。」

これには、快斗も大きく眉をつり上げる。

当たり前だ。どこをどう考えても、自分がバレンタインに白馬にチョコをあげた記憶などさらさら無い。

しばしの沈黙の後、快斗は不審そうに口を開いた。

「・・・オレ、お前にバレンタインにチョコをやった覚えなんてないけど?」

「忘れてしまったんですか?」

「だーかーらーっっ!!オレはお前になんてやってねーってのっ!!何か勘違いしてんじゃねーのか?」

 

・・・・確かに白馬の勘違いには間違いないのではあるが。

 

しかし、白馬はたっぷりと自身ありげに言った。

「何を言うんです?バレンタインの日、僕は確かに黒羽君からチョコをもらいましたよ?」

「どこでっっ???」

「スキー教室の、あの雪山で。二人で遭難しかけた時、休憩した洞窟の中で君は僕にチョコをくれました。」

 

・・・あーーーー!!!

快斗は思い出した。
確かに、あの時、バレンタインで誰かからもらったチョコを、非常食代わりに白馬へ渡したのだ。

快斗はポンと開いた掌に拳を軽く打ちつけた。

 

「あー!お前、あの時のことを言ってんのか!」

「そうです。思い出してくれましたか?」

快斗が思い出してくれてよかったと、うれしそうに白馬が笑いながら頷く。

 

「そう、あの時の 『お返し』 ですよ。」

「なんだ、その 『お返し』 かよ〜・・・。ビビらせんなよな?」

 

さて、快斗の台詞の「ビビらせるな」という言葉の意味するところは、白馬にはよくわからなかったが、とりあえず、彼は笑顔でその包みを快斗へ差し出した。

すると、快斗の方もサンキュと軽く受け取ったのだ。

なぜか?

それは、二人の間にまたしても誤解が生じていたからである。

 

先の白馬が言った『あの時のお返し』というのは、つまりこうだ。

雪山で快斗が自分のためにくれた(ここらへんが既に誤っているのだが)、バレンタインのチョコへの感謝と愛をこめてのお返しの気持ち(=正当なホワイトデー)に紛れないのだが。

 

対して、快斗の思っている『お返し』というのは、どうだったのか。

まさか、前回、自分があげたチョコを白馬に誤解されているとは露知らずの彼である。

快斗が女の子からもらったチョコ一つを、非常食とはいえ横取りしてしまった形になっている白馬が律儀に返してくれたと、そう思ったのである。

つまりは、本当にタダのお返しというワケだ。

おそらくは、白馬が用意したと思われるホワイトデーのチョコの余りでもって。

 

「悪ィーな、わざわざ。」

なんて言う台詞からも、快斗がそう思っていることは十分、伺える。

「いえいえ、とんでもない。僕の方こそ・・・。」

などと言い合ってる姿は、一見、二人にしてはめずらしく友好的な空気が流れているように見えるのだが。

どうも、この二人は意思の疎通に欠けるらしい。

 

 

さて、ホワイトデーの贈り物を快く受け取ってもらえた白馬が、より一層の誤解を深めた事も知らずに快斗は、のんきにそのチョコを一口頬張った。

 

「ウマイな〜、これ♪」

そう幸せそうに呟いて。

 

□ The End □

 

 

白快ホワイトデーのお話でした〜vvv
バレンタインの話後日談。

お互いに勘違いヤロウのお話でした。

ホワイトデーに間に合ってないけどね・・・。

2002.03.16

 


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