Heart Rules The Mind

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NOVEL

You can't hurry love no you just have to wait   恋はあせらず  待つ事が肝心

It's a game of give and take     それは二人で駆け引きするゲーム

You gotta trust give it time     信じられるかどうかが大切 時間をかけなさい

No matter how long it takes     たとえどんなに長くかかってもいいから

 


You Can't Hurry Love 3


 

6月21日。

始業チャイムが鳴り響く中、校内の廊下をのんきに歩いている少年の姿があった。

黒羽快斗である。

 

・・・このタイミングだと、授業開始前にはちゃんと着席してられるもんね。

 

ふぁ〜と欠伸を1発かましながら、窓の外を眺める。

梅雨の中休みか、朝から珍しく快晴の今日は実は、彼の17回目の誕生日。

放課後は通年どおり青子の家での誕生日パーティの開催が予定されていた。

「・・・やべ。ほんとに眠いや。こりゃ学校で睡眠不足を解消しねーと、青子んちで居眠りこいちまう。」

欠伸をかみ殺しながらそう呟くと、そのままポテポテと歩いて教室に向かう。

既に朝のHRが始まっているのは十分承知の上だった。

 

ガラリと戸を開けた快斗に、担任の女子教師の鋭い視線が突き刺さるが
睨まれた本人は悪びれもせずにペロリと舌を出すと、笑ってごまかしながら自分の席へと向かった。

「・・・おっす。」

バックを机にドスンと置きながら、隣で頬杖をついてこちらを呆れたように見ている少女に
とりあえずそう挨拶する。

幼馴染の青子である。

「・・・おはよう。まったくもう。自分の誕生日くらい、遅刻しないでちゃんと来なさいよ?」

「・・・んだよ?授業には遅れてねーだろ?」

「・・・ま、そうだけど。」

むぅと膨れる青子はちょっと納得いかなさげにそう言うが、次にはにっこり笑ってこう言った。

「で。お誕生日おめでとうv 快斗。」

「おお、サンキュ。」

「ね、今日、白馬君、お休みだって。」

言われてみれば、青子とは逆サイドに座っているはずの白馬の姿が見られなかった。

「へぇ?高校生探偵はまた事件にお呼ばれしちゃってるわけ?」

やや唇を斜めに引き上げながらそう快斗が笑ってやると、青子はううんと首を横に振った。

「白馬君、病気だって。風邪みたい。連絡があったって先生が言ってたよ。」

「風邪?アイツがぁ?」

学生の傍ら探偵業も行なっている白馬が、事件に関する事で学校をあけることはたまにあっても病欠など今まで一度としてない。

めずらしいこともあるもんだと、快斗は目を丸くした。

「ほら、昨夜、キッドの予告日だったでしょ?白馬君、お父さん達と一緒に警備してたみたいだけど途中からひどい雨になっちゃったし・・・。それで・・・じゃない?」

 

確かに、昨夜は怪盗キッドの予告日だった。

キッドが獲物を手に入れるまでは予定通りだったのだが、その後、いざ退場するという時に急に降り出した大粒の雨。

 

そういえば、みんなずぶ濡れになってたもんなぁ・・・。

天気予報じゃ、昨夜一晩はもつって話だったんだけどね・・・。

おかげで昨夜の獲物、まだチェックできてねーし。

 

快斗はポリポリと頭をかいた。

 

「・・・でもやっぱり、デリケートな人は違うよね?
うちのお父さんなんか、同じように雨に濡れたって全然なんともなかったよ?
すっごい元気でピンピンしてるもん!」

そう零す青子に、快斗は鼻で笑う。

「白馬がデリケート?! そりゃ、だたヤワなだけじゃねーの?」

 

確かにグライダーの飛行での逃走が不可能な程、結構な大雨ではあった。

白いマントが水を吸ってかなり重くなったことを思い出す。

・・・が、しかし。

『雨に濡れる→即、風邪』 というのも、どうかと思うが。

 

「ヤワだなんて、白馬君に失礼でしょ?
でも、ほら、なんとかは風邪を引かないとか言うじゃない?」

「・・・お前、それ、『バカは風邪を引かない』って言いたいのか?オジさんが泣くぞ?」

 

・・・・っていうか、それじゃ、オレを『バカ』だと言いたいのか?

フザケんなよ?オレ様は白馬のヤロウなんかと体の鍛え方が違うんだっつーの!

 

中森警部と同様、雨に濡れても体調一つ崩していない快斗は、一人心の中でそう呟いた。

 

「あ、そうそう!だからね?快斗。そういうわけで白馬君は、今日のパーティは欠席しますって。本当に行きたかったのに・・・ってスゴイ残念そうだったよ。」

「別に構わねーよ。アイツ一人くらい、いなくったって。」

 

どちらかといえば、白馬がいない方が気を抜いていられるというものだと、快斗は思う。

あの厄介な探偵は、パーティの合間ですら自分の事を注意深く見ているのに違いないのだから。

まさか、そんなところでボロを出すほどマヌケではないが、それでも余計な気づかいはしないに越した事はない。

白馬の欠席など快斗にとっては、かえって好都合だった。

 

「なによぉ、薄情なんだから。快斗ったら!クラスの女子だって、パーティに白馬君が来るのを楽しみにしてたのに・・・。」

あ〜あと溜息をもらす青子に、快斗はほほぅ?と意地悪く笑ってみせる。

「・・・誰の誕生日だと思ってんだ?」

などと、相変わらずのトークを繰り広げていると、二人の前に教師が立ちはだかる。

にこにこ笑いながらも、その笑顔は引きつっていた。

 

「・・・二人とも。もう授業は始まってますよ?」

「「す、すみませーん・・・・。」」

 

 

☆       ☆       ☆

 

 

キーンコーン・・・♪

終業のチャイムが鳴り響く。

 

「快斗、快斗ったらっっ!!起きなさいよ?!授業、終わったわよ?!」

丸めた教科書でポカ★と頭を殴られて、机に突っ伏していた頭がようやく持ち上がった。

半開きの目は真っ赤に充血している。

「・・・はよ。」

「『はよ』じゃないわよっっ!!まったく何時間寝こけていれば気が済むの?!
そんなんじゃ、今の授業も全然聞いてなかったでしょ?先生、大事なこと言ってたのに!!」

寝起き早々、口うるさく怒鳴る青子をちょっと鬱陶しそうに快斗は見やる。

「・・・・・なんか言ってた?」

「週明け月曜日にテストするって!今日の授業内容よ!」

それを聞いて、快斗の目がちょっと丸くなる。

「げ。マジ?」

科目は世界史。

この教師はテスト問題は教科書からではなく、授業中に取らせたノートから出題する。

特に難しいというワケではないのだが、授業をちゃんと聞いてノートを取っていなかった人間には致命的なテストであった。

「・・・・・ノート見せろよ、青子。」

「あー!それが人にモノを頼む態度なの?!」

「いいから、見せろって!」

と、ニヤリと笑うと快斗は青子が胸に抱えていたはずのノートをさっと奪い取った。

「あー!!バカバカ!まだ見せてあげるって言ってないでしょ?
ふーんだっ!!今日はそのノートだけじゃなくてこのプリントもあるんだもん〜!!」

・・・だったら、そっちも貸せと快斗が青子ににじりよったところで、青子の方がプリントを
快斗に突きつけた。

同じモノが2枚。

へ?と首をかしげる快斗に、青子がビシっと指を立てて言った。

「ノートは見せてあげる。けど、代わりにそのノートのコピーとプリントを白馬君にも届けてあげる事!」

「げっ!何でオレが・・・。」

冗談じゃないとばかりに快斗がそう言いかけると、青子がそれを許さない。

「何言ってるのよ?白馬君だって、快斗が授業をサボってる時にノートを取ってくれたりとかしてるのよ?病気で休んでるのに、こんな時くらい恩返ししなさい!」

 

・・・っていうか、何でオレは「サボリ」って決められてんだよ?

 

『怪盗キッド』に絡むことは快斗の中では、れっきとした仕事の部類に入るので
サボリと決め付けられるのは、甚だ面白くはない。

「言っとくけど、白馬にノートを取って欲しいだなんて、オレは一言も頼んでねーぞっ!」

「いいからっ!コレがないと月曜日に白馬君が困るでしょ?」

「知るか、そんなこと。今日休むアイツが悪いんだろ?」

と、そこまで言うと、青子が溜息をついて腕組みする。

そして、その目を光らせて小意地悪そうに笑う。

「・・・・・・。快斗。そんな自分勝手なことばっかり言ってると、今後、いっさいノート見せてあげないわよ?」

「うっ・・・・。」

それはツライ。

仕事で学校を休みがちの快斗にとって、ほど好くまとめられた青子のノートは
手っ取り早くテストで点を稼ぐのに、もっとも有効なアイテムなのだ。

「・・・そ、そんなに白馬が心配なら、お前が届けてやればいーじゃねーかよ。」

悔し紛れに快斗がそう言うと、

「今日は青子は忙しいの!すぐに帰って、快斗のパーティの支度をしなきゃならないんだから!これから、みんなで準備するのよ?要するに今日、放課後、一番ヒマなのは快斗なんだからね?快斗が行くのが当然でしょ?」

青子は一気にまくし立て、クラスの他の連中を引き連れてさっさと教室から出て行った。

「いい?白馬君にお大事にって伝えておいてね?じゃあ、あとで。7時には家に来て。」

そう言い残して。

 

「・・・・・・・・・マジかよ。」

欠席の白馬の机の上に腰掛けていた快斗は、青子から預ったプリントとノートを手にそう呟いたのだった。

 

 

☆       ☆       ☆

 

 

白馬邸前。

さすがは警視総監邸宅だけある、ご立派なその屋敷の門構えを見て、快斗は深々と溜息をついた。

快斗が白馬の家へ訪れるなど、今日が初めてのこと。

 

・・・ウザい。

コレ、郵便受けにつっこんだら、そのまま帰っていいかな。

 

青子に言われたから仕方なくここまで来たものの、白馬にわざわざ顔を見せるなんて面倒だ。

そう思って、ポストの前まで向かおうとした時だった。

不意に、一人の老婆が快斗の後ろから声をかけてきた。

「・・・あら。どちら様?もしかして探ぼっちゃまのお友達ですか?」

え?と快斗が振り返ると、買い物袋を持った品の良い年配の女性が立っていた。

「私、探ぼっちゃまのお世話をさせていただいております森と申します。」

丁寧にそうお辞儀をする彼女に、つられて快斗もぺコリと頭を下げた。

「さぁ、どうぞ?中にお入りください。」

「・・・え?あ、いや、えっと授業のノートを届けに来ただけなんで・・・。」

そう言って快斗は立ち去ろうとするが、彼女は少し耳が遠いのか全く聞こえた風ではなくご親切にも門を開けて待っていてくれている状態で。

「どうぞ。さぁご遠慮なく。ぼっちゃまもきっとお喜びになりますから・・・。」

 

老婆にそうにこやかに微笑まれては、最早快斗の逃れる道はなかった。

 

・・・・くっそー。何でこんなメに。

心の中でボヤきながら、快斗は老婆に続いて白馬邸の門を結局くぐる事となったのである。

 

 

長い廊下を歩かされる事しばらく。

2階のある一室の前までくると、老婆はドアをノックした。

するとワンテンポ遅れて、中からそれに答える声が聞こえてきた。

白馬のものだ。確かに少し風邪声のようではあったが。

 

彼女はドアを開けると、快斗に中へ入るように促す。

気乗りはしないものの、快斗は諦めて白馬の部屋の中に足を踏み入れた。

と、ベットのある寝室はさらに奥のようで、薄いカーテン越しにその姿を確認する事ができた。

僅かに咳こみながら、体を起こしたようである。

「ぼっちゃま、お加減はいかがです?少しは良くなりましたか?」

「・・・朝に比べればだいぶ良くなったよ。どうもありがとう・・・。」

ゆっくりとドアを閉めた彼女が、そのまま白馬のベットの方へ向かう。

「学校のお友達が、お見舞いにいらしてくださいましたよ?」

そう言いながら、快斗へ優しく微笑みかけるが。

 

・・・げっ!

お見舞いじゃねーよ! オレはただノートを届けに来ただけだってば!

 

誤解されて大いに心外だが、まさかそれをここで言うワケにもいかず。

快斗はにこにこにこと、笑顔だけを彼女に返していた。

 

すると、白馬がカーテンをすっと開ける。

「・・・え?学校の?」

快斗の姿を認めた薄い琥珀の瞳は、大きく見開いた。

「・・・く、黒羽君?!」

まさか快斗がこの場に現れるだろうとは、さすがの白馬も思ってはいなかったようで
驚きの表情は隠せない。

一方、快斗はやや苦笑いで片手を挙げて挨拶する。 一応学校のお友達らしく(笑)。

「・・・・・・・・・・よぉ。 風邪なんだって?」

「あ、はい。いえ、でも大した事は・・・。それより、まさか君がお見舞いに来てくれるだなんて・・・。ご心配かけてしまったんですね・・・。すみません、でも大丈夫ですから。本当にありがとうございます。」

そう言って、心底うれしそうに白馬はその顔をほころばせた。

 

・・・・・・だから。 お見舞いじゃねーってば。

 

「・・・・・青子から世界史のノートとプリントのコピーをあずかって来たんだよ。
月曜にテストがここから出題されるから、しっかり見とくようにってさ。 ・・・それだけ。」

言いながら、快斗はベットの脇のテーブルにプリント類を置く。

「・・んじゃ、あんまり邪魔すると体に悪いから、オレはこれで失礼するよ。
ま、週末ゆっくり休むこったな。」

さっさと立ち去ろうとする快斗を、白馬よりも先に老婆が引きとめた。

「まぁそうおっしゃらずに。今、お茶を用意しますから、少しぼっちゃまのお話相手になってあげてくださいませんか?」

「・・・え。」

思わず引きつった快斗に、彼女はさらに追い討ちをかける。

「だんな様はお仕事でいらっしゃらないし、奥様はずっとイギリスで。
このお家では、ぼっちゃまはいつもお一人でいらっしゃるんです。学校のお友達がいらっしゃるなんてこと、今日が初めてですし・・・。せっかくですから。ね?美味しいケーキもありますから。」

「ああ、森さん、黒羽君は今日が誕生日なんですよ。お誕生日、おめでとうございます。黒羽君・・・。」

「あら、そうなんですか?!だったら、ぜひお祝いしないと・・・。」

「黒羽君、森さんの手作りケーキはとっても美味しいんですよ?ぜひ食べていってくれませんか?」

そう二人がかりで言われては。

「・・・・・・・・・・・・・じゃあ、少しだけ。」

仕方なく、快斗はソファに腰を下ろしたのだった。

それを見届けてから、安心したように老婆が出て行く。

快斗も笑顔で彼女を見送っていたが、ドアが閉まるとハァ〜と溜息を漏らした。

 

どかっと足を組んで、白馬に向き直る。

「・・・で?風邪の具合はどーなんだよ?お前が学校を休むなんて珍しいじゃん?」

「あ、いえ、本当に。少し熱があるのと咳が出る程度で・・・。ご心配には及びません。」

苦笑しながらそう答える白馬の顔は、発熱のせいか少し赤かった。

 

・・・・・・・・・・・・・・別に心配なんかしてねーよ。

と、言った風に快斗は「あっそ!」と愛想なく返した。

 

「同じように雨にやられても、中森警部はピンピンしてるって青子は言ってたぜ?
お前、意外に軟弱だったんだな。」

ニヤニヤと人の悪い笑いを浮かべながら快斗が白馬を覗くと、白馬は聞き捨てならずと何か言い返そうとして、とたんにむせ返る。

その様子を見て、快斗は笑った。

「ほらほら♪興奮せずにゆっくり休んどけって。あんまムリすんなよ?」

白馬はまだ幾分納得いかなさげな顔を見せたが、諦めたように溜息を漏らす。

そして、快斗を見つめた。

「・・・まぁ、君が風邪を引いていなくて良かった。昨夜はかなり大振りで冷たい雨でしたから。」

 

・・・あの雨の中、警察の目をくらまして逃走するのは、君もたいへんだったでしょう?

そう言いたげに白馬の瞳がやや細められて、怪盗を追う探偵の表情になる。

けれども、快斗はそれをあっさり無視した。

「・・・・は?オレは別に風邪なんか引いてないぜ?しいて言えば、今、ここにいた方がお前の風邪がうつる可能性があると思うけどね。」

相変わらずの快斗のとぼけっぷりに、白馬はただただ苦笑するしかない。

「・・・と、いうわけで、ケーキ食ったらさっさと帰るからな。」

 

そう快斗が言い切ったところで、タイミングよくドアが開き、再び老婆が部屋へ訪れた。

手には紅茶のポットとケーキの載ったトレイを持って。

「お待たせしました。どうぞ召し上がってください。」

切り分けたケーキの皿を快斗に差し出し、彼女はにっこりと笑う。

手渡されたケーキは、たくさんのフルーツと一緒に焼き上げたものでいい匂いがしていた。

確かに美味しそうである。

甘い物好きな快斗がもちろんそれを断るはずがなかった。

 

 

☆       ☆       ☆


「ほんとにウマいな、これーvvv」

あっという間にケーキを平らげた快斗は満足そうにそう言った。

現金なものである。

白馬はアールグレイを口に運びながら、フォークをくわえている快斗へ微笑んだ。

病気のせいで食欲がないのか、白馬のケーキはひと欠片無くなっているだけで。

それを指差して、快斗が言った。

「・・・なんだ、お前、ソレ食わねーの?」

「・・・ええ。まだ食欲は無くて・・・。」

と、白馬が言い終わるよりも早く、快斗はその皿へと手を伸ばした。

「だったら、こっちもいっただき♪ こんな美味しいもん、残しちゃ悪いもんなぁ!」

そう言って、パクリと食べる。

「・・・あ!」

白馬が止める間も無く、それは快斗の腹の中へ消えた。

病人の口のつけたものなど、一番風邪がうつりそうなものだが、快斗はまるで気にしたようすもなくもう一つケーキを食べられてうれしそうに笑っている。

 

僕の食べかけだったのに・・・。

・・・というか、『食べかけ』なので、これは俗に言う『間接Kiss』とかいうヤツなのでは???

 

妙な事に気付いた白馬は、一人でポォ〜っと顔を赤くした。

それを見て、快斗が言う。

「・・・あーん?お前、なんか顔が赤くなってきたぞ? もしかして熱が上がったか?」

「いっ、いいえっっ!!だ、大丈夫ですっっ!!」

さらに顔を赤くしながら言う白馬に、快斗は首を傾げる。

 

 

『 好きな人の口のつけたものを一緒に自分も口をつけたい。

飲みかけのグラスとか、同じお箸を使うのでもいい。 』

 

 

そんな風にクラスの女子が話していたことを、妙に覚えていた白馬であった。

外国暮らしでキスなど挨拶の一環にしか考えていなかった白馬にとって、それはかなり印象的なことで。

ずいぶんとかわいらしい発想をするものだと感心した。

確かに普段キスをすることも叶わない相手なら、そういう風に考えるのも仕方が無いことなのかもしれないと、その時はただそう思っただけだったのだが。

まさか、自分の身の上にそんなことが起こるとは思いも寄らなかったわけで。

快斗が無意識にしたこととはいえ、動揺を隠し切れない白馬だった。

 

 

「・・・・お前、本当にダイジョーブか? なんかどっかにイッちゃってる顔してるぞ?」

かなり不審げは表情で自分を見つめる快斗に、白馬はようやく我に返った。

「・・・あ、いえ、すみません。大丈夫です。あ、それより君が今日来てくれてよかった。」

気持ちを落ち着けようと、白馬は話題の展開を図る。

言われた快斗は、へ?とその目を見開いた。

「いえ、やはりお祝いの言葉はお誕生日当日に言いたいですから。それと・・・・。」

白馬はベットの脇のテーブルの引き出しから、小箱を取り出した。

品の良い白いリボンがかかっている。

「・・・何、コレ・・・。」

差し出された箱を快斗は見つめた。

「僕の気持ちですよ。プレゼントです。受け取ってもらえませんか?」

「・・・・・プレゼント?」

受け取った小箱をくるくると回しながら、そう聞き返す。

 

・・・一体、どういう了見だ? オレにプレゼントだなんて。

 

何気にいぶかしんで箱を見るが、白馬の方は穏やかに快斗がそれを開けるのを待っている。

快斗にしてみれば、何か企んでいるのかと若干、疑いの気持ちもなくはないのだが。

「どうぞ、開けてみてください。大したものではありませんがね。」

そう言われて、とりあえず快斗はその箱に手をかけてみることにした。

すると。

中から出てきたのは、シルバーの携帯ストラップ。

至ってシンプルなデザインのものだった。

 

・・・へぇ。 悪くないじゃん。

そう思いながら、箱からそれを取り出した。

黒いレザーにシルバーのチェーンがあしらわれ飾りに乳白色の小さな石がついている。

 

石を見た後、快斗は白馬の顔を見返す。

白馬はにっこりと笑ってこう言った。

「そう、ムーンストーンです。 君の誕生石でしょう? 
6月の誕生石はパールとムーンストーンだそうですが、君にはそちらの方が似合うような気がしまして。」

「・・・オレにムーンストーンが似合うだぁ?あのな、寝言は寝てから言えよ?
女じゃあるまいし、そんなこと言われたってうれしかねーよ。」

けっ!と吐き捨てるように言う快斗にもめげず、白馬はにこやかに話を続ける。

「和名では、『月長石』。月の光を思わせる神秘的な石です。
当たる光の種類で様々な色合いを見せるところなど、まるで君のようだ。
・・・そう。幾つもの仮面を自由自在に操るあの怪盗のようにね。」

白馬の目が一瞬だけ鋭く光って快斗を射抜く。

けれども、快斗はそれをさらりと受け流した。

 

・・・やれやれ、また始まったか。

 

自分を怪盗キッドだと決めてかかっている白馬には、もう何を言っても無駄である。

こういう場合、下手に抵抗することは得策ではない。

勝手に言わせておけばいいのだ。

どうせ、白馬にはキッドと快斗を結びつける証拠など何もないのだから。

 

・・・ま、聞くだけ聞いてやるよ。

重い溜息を漏らした後、快斗は少し冷めた視線を白馬に返した。

 

「古代インドでは、この石に月が宿ると信じられていたようですね。まさに月下の奇術師にふさわしい。言い伝えでは、この石を夜に照らすと月の光が宿り、持ち主の悪夢を払うんだそうですよ?あとは、この石を口に含んで願をかけると叶うとか・・・。」

うっとりと話す白馬とは対照的に、実に興味なさげな快斗である。

「・・・んなこと、するヤツいんのかよ?」

半ば呆れ顔でそういう快斗に、白馬も「言い伝えですから」と曖昧に笑った。

 

アホくさ・・・。

ムーンストーンに関する白馬のうんちくが一段落したところで、快斗はストラップの止め具の部分にもう一つ石が使われているのに気付いた。

翡翠のような緑色に黒いインクルージョン。

 

・・・これは。 

サーペンテイン?

 

「6月21日の誕生日石のサーペンテインですよ。
いやぁ、それにしても今回、君のプレゼントを考えるに当たっていろいろと調べたんですけど。」

そこまで言って、白馬はクスリと笑った。

「・・・・何だよ?」

「いえ、6月21日生まれの人について、よく分析されているなぁと思いましてね。」

「・・・あーん?何だってんだ?」

一人で面白そうに笑う白馬を、快斗はチロリと睨んでみせる。

すると、白馬はにっこり笑って語りだした。

「6月21日。この日に生まれた人は無邪気で自然体。いつも人生を楽しんで生きているそうですよ。頭の回転も速く、弁が立ち、機知に富んだ性格の持ち主であることが多いと。」

「へぇ、よくわかってんじゃん。」

「しかし、生活面にはルーズなところがある。」

「・・・ほっとけ。」

「また、自分の感情をあからさまに出さないので誤解を招く事もあるが、その内に秘めたる情熱は熱い。・・・どうです?よく当たっているとは思いませんか?」

「・・・知るか。お前、女じゃあるまいし、そんな占いみたいのを鵜呑みにすんな。
っていうか、そんなことまで調べてんじゃねーよ。ヒマなヤツだな。」

皮肉たっぷりにそう言い返す快斗に、肩を竦めながらも白馬はにっこり笑っている。

「思いをストレートに出せない時、そのサーペンテインがバックアップをしてくれるそうですよ?」

「余計なお世話だ。」

ストラップを指でくるくる回しながら、快斗はそう言い捨てた。

そのまま壁にかかっている時計を見る。

時刻はそろそろ6時半になろうとしていた。

「・・・さて・・と。そろそろ時間だ。もう行かねーと。」

言いながら、快斗は立ち上がった。

「ええ、中森さんのお家で誕生日パーティですね?楽しんできてください。
僕も体調さえ良ければ、ぜひ参加したかったんですが。」

「気にすんな。お前の分のしっかり食べてきてやるよ。」

「・・・というか、もう少し残念そうな顔くらい見せて欲しいんですけどね。」

苦笑する白馬に、快斗はベーと舌を出した。

それはムリな相談である。

すたすたとドアに向かう快斗の背中に、白馬が声をかける。

「・・・では、みなさんによろしくお伝えください。」

「ああ。・・・で。コレ、さんきゅ。」

指にストラップを引っ掛けたまま、快斗が振り返った。

「良かったです。君に今日、受け取ってもらえて。君をイメージして特注しただけありました。」

・・・・特注。  ほんとにヒマなんだな、お前・・・。

白馬の言うところの『君』というのが、『キッド』を指し示しているのが少々気にかかるのではあるが。

「・・・・・・・・・・とりあえず、もらっといてやる。」

快斗はそう言って、部屋を出るためドアノブに手をかけたところで、もう一度振り返った。

「あ、そうそう。『お大事に』って青子が言ってたぜ?」

「ありがとうございます。中森さんにも今日のこと、お詫びを言っておいてください。」

「ああ。じゃーな。早く治せよ?」

それだけ言って、快斗は片手を挙げるとそのまま白馬の部屋を後にした。

 

 

一人、部屋に残った白馬はテーブルに載った快斗のケーキ皿やカップへ視線を移す。

銀色に輝くフォークや、真っ白いティーカップ。

快斗の口に触れたであろうその部分が、妙に艶かしいように見えたのだった。

 

 

 

そして。

白馬の家を出て青子の家に向かう途中。

快斗はポケットから先ほどの携帯ストラップを取り出した。

西日はムーンストーンを照らして、淡いオレンジ色に見える。

 

・・・・ったく、誕生石をもらうなんて女じゃあるまいし。

 

そう心の中で呟きながらも、ムーンストーンをキッドのイメージにピッタリだとうれしそうに話していた白馬の顔を思い出す。

「・・・ま、いっか。勝手に言わせとけば。」

そのまま片手でポーンとストラップを軽く投げる。

ムーンストーンが夕日を浴びて、キラキラと輝いた。

 

 

・・・そういえば。

ムーンストーンの宝石言葉ってなんだっけ?

 

 

「・・・・げ。」

 

一瞬にして、その答えを思い出した快斗は、あまりのショックにストラップをボトリと路上に落とした。

そして、快斗がそれを拾い上げるまでに、少々の時間を要したのだった。

 

 

さて。

6月の誕生石『ムーン・ストーン』の宝石言葉とは一体何だったのか。

それは。

 

 

『 愛の予感 』 だったりする vvv

 

 

 

☆ The End ☆

 


快斗のBDノベル白快バージョンです。
さて、6月21日は私の誕生日でもあるのですが、誕生石&誕生日石&6・21生まれの人についての
性格分析などについては、すべて事実です・・・・。

文中で述べている快斗の台詞は、まんま私の感想です。(苦笑)

ま、何はともあれHappy Bithday 快斗vvv

ririka

 


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