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NOVEL

秀策をたずねて ○●  +α (要するにオマケ) ●○

This story is the work which nonfiction mixed with based on ririka's actual experience with the fiction

 


「塔矢、腹、減ったか?!」

 

 進藤が僕にそう問いかけるのは、さっきからもう5回目だ。

 対する僕の返事も同じで、「・・・いや。」としか答えることができないのだが。

 

 腹が減ってるのは、君の方じゃないのか?

 そう逆に聞き返してやりたいのを押さえつつ、僕は進藤を見つめる。

 同い年にしては、そのコドモらしい横顔。

 そのコドモらしさを裏切らず、進藤は食欲旺盛だ。

 僕も別に食欲不振というわけではなかったが、他人と比べる幾分、食は細いかもしれない。

 

 昼食は新幹線内で小さめな駅弁を、そして15時くらいに予定外のおやつの桜餅、それ以外食べておらず、後はひたすら自転車を漕ぎまくっていたわりには、あまり空腹感は覚えていなかった。

 とはいえ、まだ18時だ。

 夕食にしては、早い時間だとも言えよう。

 

 因島へのサイクリング観光を無事終え、僕達が尾道に戻ってきたのは17時半頃だったか。

 まだ自転車の返却時間まで少し余裕があるということで、明日の観光予定だった慈願寺の観光も済ませてしまった。

 自転車を返した後も、進藤が得意げに僕を尾道の商店街を案内すると言って聞かないので、それについていくと、なんだかちょっと胡散臭そうな碁会所まで紹介された。

 以前、河合という人と来た時、入ったという碁会所だそうだが。

 よくもまぁあんな地元の人しか入れそうにない碁会所へ、のこのこ入って行けたものだ。

 僕もちょっと階段を上りかけたが、普段行きなれている碁会所とあまりにも違う雰囲気に、少し臆してしまったくらいだ。

 その碁会所で、進藤はアマのプロと呼ばれる人物と対局をしたそうだが。

 わざわざ碁会所などに僕を連れていったから、てっきり一局打つのかと思ったら、進藤はそのままそこを素通りだ。

 単にその碁会所を僕に見せたかっただけらしい。

 

 ・・・何を考えてるか、よくわからないな。

 

 僕はそう思いながら、進藤の後に続いて長いアーケードが続くその商店街を歩いていたのだが。

 

 そうして、話は冒頭へ戻る。

 進藤は道々、僕の腹の空き具合を確認し続けていると言うわけだ。

 さっさと食事を取りたいなら、そう言えばいいのに。

 僕だって、別に目の前に出されれば食べられなくはない。

 何も、まったく口に入れたくないというわけではないんだ。

 

「進藤、君は空腹なのか?」

「いや、そーゆーわけでもねーんだけどさ。他に見るとこもねーし、そろそろメシしかないかなーって思って・・・。」

 

 ・・・確かに。

 他に手近で秀策を求めての観光は、もう出来そうにない。

 もし観光するとしたら、線路を跨いで点在する古寺巡りくらいだろうが。

 恐ろしい事にそれは、全て殺人的な階段の最上部にあるため、一日自転車のペダルを漕ぎ疲労しまくっているこの足では、とても行く気にはなれない。

 第一、僕は今、こうして歩いているだけでも辛いというのに。

 

 ああ、そうだ。

 もう僕の足は、さっきからずっと悲鳴をあげているんだ。

 大体、普段自転車なんて乗らないのに、あんなに全速力で何十キロも走らされればこの疲労度は当然だろう。

 自慢じゃないが、僕は普段碁を打つ以外、体を鍛えてなんかいないんだからね。

 健康優良児みたいな君とは、そもそも体の出来が違う。

 僕はひ弱なんだ。

 

 そこまで思って、僕は一つの結論を出した。

 これ以上、ブラブラ街中を歩かされるのはごめんだ。

 だったら、食事でもして椅子にかけた方がずいぶん楽になれるだろう。

 空腹感よりも疲労感の方が勝っていた僕は、進藤をもう一度見つめた。

 

「・・・そうだね。そろそろ日も暮れてきたし、少し早いが食事にしようか。」

「おっし!じゃあ、行こうぜ!広島焼き!!」

 にっこりと進藤が笑う。

「ああ、久しぶりだなぁ!広島のお好み焼き食うの。行く店は決まってるからな!」

 

 ・・・わかってるよ。「暖談」という店だろう?

 第一、店の場所を発見してやったのは、僕じゃないか。

 君が、前にその河合だとかいう人と行ったお好み焼き屋にどうしても行きたいと騒ぐものだから、注意深く探してやったっていうのに。

 大体、前に来た事があるんなら、しっかり場所くらい覚えておけ。

 

「ちょうちんに灯りがついてるから、もうやってるよな!」

「大丈夫だろう。」

 

 踏み切りを越えたところに店を構えるそのお好み焼き屋は、実を言うとちょっと僕らのような子供には入りがたい雰囲気を醸し出している。

 常連でもないかぎり、簡単に暖簾をくぐっていいものかと思ってしまうような。

 進藤が行ったことがあるというから、とりあえず何の迷いもなく入ることが出来るが。

 

 店は二階なので階段を上っていくと、入り口の向こうに明るい店内が見えた。

 時間的にまだ食事には早いのか、中に客はいない。

 

 ・・・いいのだろうか?もしかして準備中とか?

 

 そう僕が思うのをよそに、進藤が構わずドアを開ける。

 と、中から愛想のいいおばさんが僕らを親切に招きいれてくれた。

 ほっとして、僕らは席につく。

 黒い大きな鉄板を挟んで、僕は進藤の向かいに座り、肩にかけていたバックを下ろすと、冷たい水を一口、大きく息をついた。

 

 ・・・ああ、疲れた。

 

 そんな僕の目の前で、進藤は早速メニューに目を輝かせている。

「なぁ、塔矢、お前、何食う?やっぱ暖談ミックスかなぁ!これ、前食べたんだよなぁ!」

 ・・・っていうか、僕にもメニューを見せろ、進藤。

 

 半ば進藤からメニューを奪い取ると、僕はそれを一読し、迷わず暖談ミックスをオーダーしようと心に決めた。

 「ミックス」と名がつくだけに、具材が盛りだくさんで一番豪華なのかそれだ。

 僕はお好み焼きには、魚介類と同時に肉も入っているのが好きなので。

 

「僕は暖談ミックスにするよ。君は?」

「え〜っ、オレもそれにしようと思ったんだけど、こっちの納豆ってのも気になるんだよなぁ!」

 と、進藤が言うと、カウンターの奥にいるおばさんがにっこり会話に混じってきた。

「納豆も美味しいわよ。ここでしか、食べられないと思うし。」

 

 どうやら、彼女オススメの一品らしい。

 それを聞いて、進藤の気持ちはかなりぐらぐらしているようだが。

 確かに、納豆の入ったお好み焼きなんて珍しいか。

 トッピングには多種多様なものが結構あるとしても、納豆・・・というのはあまり見ないかもしれないな・・・。

 というか、それ以前に僕は食べた事がないし、どんな味になるのか想像がつかないが。

 納豆は僕も好きだが、お好み焼きに入るとどうなるんだろう?

 僕は手を顎に添え、ちょっとそう考えた。

 

 おばさんに、納豆は大丈夫なのか?と聞かれて、大好きだと答える進藤。

 そういえば、関西の地方の人は納豆が苦手な人が多いという話を聞いたことがある。

 僕らは関東だから、納豆が好きでもおかしくはないが。(笑)

 

「・・・う〜〜〜ん・・・。」

「進藤、決まったか?」

「どうしようかなぁ。納豆も捨てがたいよなぁ。」

 

 まだ決めかねていたのか。 案外優柔不断なんだな・・・。

 僕は本気で長考している進藤を見、そう思った。

 

 

 もう一度、メニューを見つめる。

 確かに、珍しさという点から考えると、納豆も魅力的ではあったんだが。

 如何せん、具材のところに「納豆」としか書いていない。

 だとしたら、納豆しか入っていないということにならないか?

 まぁ、広島焼きだから、焼きそばはもちろん入るわけだが。

 ・・・具材が豪華なものを好む僕としては、そこが納豆を選べない要因でもあったりするのだが。

 他にも気になる事が。

 納豆・・・焼きそばになるのだとしたら、そばがネバネバして掴めなさそうな気がしないでもない。

 ・・・・・食べにくくはないのだろうか?

 

 

「ああ、納豆も食べたいんだけど、ミックスも食べたいんだよ〜。どうしたらいいかな?塔矢!」

 ・・・そんな本気で困った顔をされても。

 仕方ないな。

「・・・だったら、僕がミックスをオーダーするから、君が納豆にしたら?シェアすれば、両方食べられるだろう?」

 せっかく妥協案を出してやったのに、進藤はまだうーんと唸っている。

 一体、何が気に入らないんだ。

 さっさと決めろ。

 いい加減、メニューを前に待たされ続けては、お腹も空いてきたような気がしてしまう。

 

 そして、進藤は悩みに悩んだ結果、結局のところ暖談ミックスにした。

 なんだ、二人で同じものをオーダーか。

 変わり映えがなくて、つまらないな。

 その物珍しいメニューを、ぜひとも進藤にチャレンジさせたかったのだが。

 

 目の前に鉄板があるので、自分達で作らされるのかと思いきや、おばさんがカウンター前の大きな鉄板で僕らのお好み焼きを作り始めてくれて、店内にはいいにおいが漂い始めた。

 

「オレ、前、河合さんと来た時も、確かこの席に座ったんだぜ?あの時は昼間だったから、今とずいぶん雰囲気も違うけどさ。」

 もうすっかり陽の落ちた窓の外に目を移しながら、進藤がそう言う。

「それとも、一緒にいるのがお前だからかな?」

「・・・え。」

 不意をつかれた進藤の言葉に、僕は思わず顔を上げるが。

 タイミングよく運ばれてきたお好み焼きに、進藤の関心はすぐに僕から移ってしまったようだった。

 ・・・・僕より、お好み焼きの方が大事なのか、進藤っっ!

 

 ま、それはいいとして、だ。

 そうして、二人で美味しいお好み焼きに舌鼓を打ちつつ、親切なおばさんと楽しい談笑を交わしていたのだった。

 

 お好み焼きの大半を平らげた進藤が、口を開く。

「あ、でさー、塔矢。やっぱ、尾道って言ったら、尾道ラーメンだろう?明日、絶対食うからな!」

 ・・・ラーメン党の進藤のことだ。

 まぁそういうだろうとは思っていたが。

「・・・わかったよ。なら、明日の昼食はラーメンだな。どこか、美味しいラーメン屋が見つかるといいが。」

「だったら、おばさんが知ってるんじゃん?やっぱこういうのって地元の人に聞くのが一番だろ?」

 

 そんなわけで、僕らはお好み焼き屋のおばさんにオススメなラーメン屋までずうずうしく訊ねたりしたのだが。

 彼女は他にもいろいろ観光名所など親切に教えてくれた。

 その上、別れ際に僕と進藤に一つずつ、小さなネーブルまでくれた。

 ホテルで食べなさいと、そう微笑みながら。

 

 本当に何から何まで、僕らは彼女の好意に感謝のしっぱなしだった。

 

 

 そうして―――。

 僕らが店を出た頃には、すっかり星空が広がっていた。

 夜風が少し冷たかったが、食事をして温まった体にはちょうどいい。

 満足感でいっぱいな僕の横で、進藤もにっこりしている。

 

「うまかったよなー、お好み焼き。おばさんもすごい親切だったしさ。」

「こっちの人は、僕らのような旅行者にとても暖かいもてなしをしてくれるな。」

「いいところだよなぁ。」

「そうだね・・・。」

 

 今日一日を振り返りながら、本当にそう思う。

 人と人とのつながりを大事にしてくれると言うか、本当に暖かい、そんな気がしていた。

 

 そんな風に、僕が感慨に耽っていたと言うのにだ。

 

「なぁ、塔矢。まだ、8時前だぜ。オレ、絶対、あとで腹が空く。駅前のミスドでドーナツ買ってっていいかなぁ!?」

 

 ・・・・・・・。

 今、食べ終わったばかりなのに、もうそんなことを言うのか?進藤。

 

「・・・・よく食べるな。足りなかったのか?」

「いや、そうじゃないけど。でも死ぬほど満腹じゃないだろ?絶対、寝る頃腹減るって!」

・・・・・・・・・そうか???

 

 そうして、進藤に引きずられてミスドに行ったのだが。

 進藤がドーナツを2つも買うものだから、対抗して僕も2つにしてみて、結局1つしか食べられずに、後で後悔する事になる。

 もちろん、進藤は寝る前にぺろりとその二つのドーナツを平らげた。

 

 

 後に、そのことを芦原さんに告げたら、

「何だ、アキラ。楽しそうなことしてるじゃないか。尾道は食い倒れの旅だったんだな!」

 そう笑われてしまった。

 

 

 ま、実際、翌日の尾道観光も、確かに進藤に引っ張りまわされ、クレープやら、ラーメンなど食べさせられることになったのだから、あながち違っているとも言いがたい。(笑)

 

 

 

The End
 

お好み焼き屋、暖談のエピソードは管理人達の珍道中をそのままに。
そんな旅行だったです、実際。
でも、とっても面白かったv

お好み焼きも美味しかったしv
機会があれば、また行きたいな〜vvv

 


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