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NOVEL

誕生日-快斗-前 編


 見つけた!

 息を切らせて走り回っていた茶色い髪の青年は、古い街の上を飛ぶ白い影をようやくその目に捉えホッと息をついた。

 パリで彼女に会い、そしてこのプラハまでやってきた。

 純白の衣装を纏い、月の輝く夜に華麗に舞う怪盗キッドに会うために。

 その名はパリで生まれた青年には特別な意味があった。

 パリっ子が今も誇るルブランの創造した怪盗ルパンに負けず劣らず人気のある謎の怪盗。

 彼が初めてその姿を現したのがパリだということが、パリっ子の自慢である。

 怪盗ルパンは実在しないフィクションの中だけの人物だが怪盗キッドは本当に存在しているのだから。

 キッドが現れたのはもう40年も昔だ。

 となると、当時の年齢は不明だが、少なくとも70歳近くなっている勘定になる。

 そこまでくると、華麗に盗んで空を舞うというのはいささか考えにくい。

 やはり、途中で代替わりしたという噂は真実だろう。

 10年の空白のあとに現れたのが代替わりしたキッドだとすると、今は40代くらいか。

 まあ、それなら納得できる。

 それにしても、あれだけ動けるなんて信じられない。

 プラハの銀行に預けられていた宝石をいとも簡単に盗み出し、しかも二時間以上も警察との攻防を繰り広げていたのだ。

 その気になればもっと早く警察の包囲網から抜けられただろうに、何故かあの怪盗は自分の存在を誇示するかのように人々の前に長くその姿をさらした。

 何か意味があるのか?

(しかし・・・オレ23だぜ・・・)

 下手すると自分の父親のような年の男に体力で負けてどうする、と嘆きたくなった。

 立ち止まりその場でゼーゼーと息を切らす青年の視界から白い影が遠ざかるのを見て、彼は慌てた。

「おい、ちょっと!待ってくれよ!」

 ここで見失ったらもう二度と会えない。

 そんなことになったら、彼女との約束が果たせなくなるではないか!

「待ってくれ、キッド〜!お〜い!」

 青年は遠ざかりつつある白い怪盗に向け大きく手を振り叫んだ。

 と、空を飛んでいたキッドの姿がある建物の屋上付近で消えた。

 屋上に降りたのか?

 青年は急いでキッドが降りたと思われる建物の方へ走った。

「ゲッ!エレベーター故障って・・・!」

 そりゃないぜ〜〜

 青年は殆ど泣きそうになって、階段に向かう。

 高いビルではないが、それでも11階だ。

 もう心臓が破裂しちまう〜!

 ああ、なんでこんなことしてんだ、オレ・・・

 確かに怪盗キッドには高い関心があった。

 いずれはピューリッツァ賞を取れるジャーナリストになるのが夢。

 怪盗キッドに会って話が出来たらそれこそスゴイ特ダネだ。

 狙った人間は数知れず。

 だが、成功した人間はただの一人もいない。

 そりゃそうだ。

 インターポールでさえ彼を捕まえることができないのだから。

 それなのに、殆ど素人の自分がキッドの姿を見つけることが出来たのは、パリで会った女性からキッドの逃走経路を予測してもらったからだ。

 まさか本当に予測どおりに彼を見つけられるとは思わなかったが。

 こうなると、彼女の正体が気になる。

 いったい何者なのだろう。

 屋上にたどり着いたと同時に、彼は膝を折り両手をついて項垂れた。

 もう一歩も歩けない・・・ってかもう立ち上がれない・・・・

 口から心臓が飛び出してきそうだ・・・

「かなり頑張られたようですが、私を追うには今ひとつ体力不足のようですね」

 ふいに項垂れた彼の頭の上で声がし、まだ息が整わなくてぼぉ〜とした顔を上げると、目の前で純白のマントが揺れているのが見えた。

 なんと、あの怪盗キッドが自分の目の前に立っている。

「この私を見つけられた慧眼はたいしたものですが」

 キッドはそう言ってクスリと笑う。

 声がなんか若い・・・・その声はとても40代の男が発するものには聞こえなかった。

 顔を確かめようと思ったが、首を上げたとたん息がつまり彼は咳き込んだ。

 おやおや・・と怪盗は片膝をついて青年の前に屈み込むと、苦しそうに咳き込んでいる彼の背中をさすった。

 苦しくて涙までにじんだが、背中をさすってくれる怪盗の手に大分落ち着いてくる。

 それにしても、あの怪盗キッドがこんなに近くにいるとは。

 まるで夢でも見ているような気分だった。

「・・・がう。見つけられたのは・・・彼女が・・・・」

「彼女?」

 キッドは青年の言葉に首を傾げる。

「パリで会って・・・・怪盗キッドに伝えて欲しいことがあるって・・・・・」

「私に?」

 なんです?とキッドは問う。

 青年は霞む目をこすってしばたたかせた。

 そして、目をこらすと本当に近くにキッドの顔がある。

 白いシルクハットで影が出来ていて、モノクルが片方の瞳を隠しているので素顔はハッキリしないが、それでもかなり若い印象だ。

 もしかして、オレより若い?

 滑らかな頬はまだ幼ささえ残っているように見える。

 しかも髭のあとなど全く見えない。

(え?え?ええっ?)

 まさか・・まさかこいつって子供かあ?

 怪盗キッドは、また代替わりしていたってのか?

「パーティの招待状を預かって・・・・今月21日の午前0時までに来るようにって」

「21日・・・・ほお〜」

 納得したというように怪盗は微笑んだ。

 その笑んだ顔は、ドキッとするほど美しかった。

 こ・・こいつって・・・・

 彼はパリで会った女性から預かった招待状の入っている白封筒をキッドに手渡す。

「あなたが会ったその女性はどういう感じでした?」

「どういう・・って。すごい美人だった。長い黒髪の一見東洋人だけど、肌は白くて瞳は蒼くて・・・」

「蒼い瞳?」

 予想していた人物とは違っていたのか、怪盗は少し驚いたようだった。

 怪盗の白い手袋をした手が封筒の中身を取り出す。

「本名じゃないと思うけど、彼女はレディブルーと・・・・」

 名乗って・・・・

あいつ〜〜!!

 招待状を見た途端怪盗は大声を上げた。

 当然顔をつき合わせていた青年はびっくりして思わず引いた。

「婚約パーティーだあっ?何考えてんだ、あいつ!」

 しかも場所はシドニー。

 ここはプラハだぞ!今から飛んでけってか!

 おい、とキッドは青年の胸倉を掴んだ。

「確かにレディブルーと名乗ったんだな?」

「え・・は、はい・・!」

 さっきまでの怪盗紳士振りはどこへいったのか、目の前のキッドは言葉も荒く青年を振り回す。

「なんか企むだろうとは思ってたけどさ・・・なんだよレディブルーって・・・自分が狙われてるって自覚あんのかよ、あいつは」

 え?と青年はキッドの低い呟きを耳にして目を瞠った。

 狙われている?

「ドクターもグルか・・・いや、死んでもそんな真似させないよな。でも、最後の最後にはあいつの我がまま聞いちゃうんだよな、ドクターも・・・それに、オレに嫌がらせすんの好きだし」

 胸倉を掴んだままブツブツ言うキッドに、彼は呆気にとられた。

 これが怪盗キッド?

 やっと落ち着いたのか、ようやく自分が胸倉を掴んでいる青年の方に顔を向ける。

「おまえ、名前は?」

「あ・・あの・・・ジョルジュ・ベルモンド」

「ベルモンド?なんだ、おまえ皓の息子か」

 ハ?

 キッドは青年を離すと立ち上がった。

「しょーがない。じゃ行くか」

 時間ないから1分も無駄にできねえぜ。

「行くかって?」

 事情が飲み込めない彼は、しゃがみ込んだままキョトンとした目でキッドを見つめた。

「おまえも招待されてるぜ?同伴者1名ってのは、おまえのことだと思うけど」

 はあぁぁぁぁ?

 わけがわからず首を傾げる彼に背を向けた怪盗キッドは、シルクハットに指をかけて取るとフワリと白いマントを翻した。

 一瞬目の前に白い幕がかかったように見えたが、その後に映ったのは黒っぽいジャケットにブラックジーンズをはいた一人の少年の姿だった。

 

 

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いつもお世話になっている麻希利さまから
私&快斗の誕生日プレゼントにいただいてしまいました。
すてきなお話をありがとうございます。

こちらは麻希利さまの普段お描きになっているお話の延長上にあるもので
しかも未来のお話なのですが、年をとっても(笑)怪盗ってばカッコイイvと
思わずにはいられないお話で〜vvv

っていうか、まだ「怪盗」してるんですね、キッドvvv

ririka


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