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NOVEL

Birthday Party

Happy Birthday Kaito vvv & I 
                                  
2002.06.21

   

 

「・・・だからねー、今年はどうもお父さんの休みと重なっちゃいそうなのよね。
お父さんがいたんじゃ、あんまり大騒ぎできないじゃない?どうしようかと思って・・・。」

ストロベリーシェイクをチューっとストローで吸い上げながら、上目使いに青子がそう言った。

 

紫陽花が綺麗に色付き、梅雨入り宣言もつい先週に出されたばかりの6月の中頃。

ただいまの時刻、17時20分。

つまり、放課後。

帰宅途中、急に降り出した雨に、傘を持っていなかった快斗と青子は、思わず近くにあった
ファースト・フード店へ雨宿りのため駆け込んだ。

窓際のソファー席を陣取った二人のテーブルには、快斗がオーダーしたバーガーがたった今、届けられたところだ。

「ごゆっくりどうぞ!」

笑顔で去っていくバイトのお姉さんに愛想良く手を振って応えた快斗は、さっそくバーガーを一口かじりながら
目の前にいる青子の顔を見た。

ちょっとムクれている。

バイトのお姉さんに色目を使ったと思って、どうやら少し怒っているらしい。

快斗は苦笑しながら、食べかけのバーガーを青子へ差し出す。

「ウマいぜ?コレ・・・。お前も食う?」

「・・・い、いらないわよっ!!」

「なんで?間接キスになっちゃうから?別にオレ、変な病気とか持ってないぜ?」

「そ、そ、そっ、そんなんじゃないわよっっっ!!」

カーっと、一気に顔を赤らめて青子が喚きたてる。

あからさまなその様子に快斗は声を立てて笑った。

 

・・・ったく。冗談だってーの。コレくらいマジに取んなよなー・・・。

 

実にからかい甲斐のある奴だと、快斗はニヤニヤしながらコーラを飲んだ。

「・・・そ、それより、人の話、ちゃんと聞いてたのっ?!」

「何だっけ?」

「もうっっ!!だから、21日のことよ!快斗のバースデー・パーティ!!!」

バンっとテーブルの上にシェイクの入ったカップを叩きつけて、青子が睨みを効かす。

さすがにこれ以上はやりすぎかと、快斗は素直にごめんなさいのポーズをして見せた。

 

6月21日。

それは、快斗の誕生日である。

幼馴染の青子の家とは昔から家族ぐるみの付き合いで、誕生日も彼女の家で祝ってもらう事が年中行事となっていた。

子供の頃からのお約束のイベント。

さすがに高校生になってまでやらなくてもいいと快斗は思っていたが、どうやらお祭り好きなのは青子の性格でも
あったようで。

昔はお互いの家族だけを呼んでアットホームなパーティだったのが、いつの頃からか、クラスメートと大騒ぎする
ものへとすっかり変わってしまった。

その場合、パーティ開場は青子の実家、中森家と決まっている。

彼女の父、中森氏は警視庁捜査2課の警部で仕事が忙しく、家をほとんどあけているので
心置きなく騒げるというのが理由だ。

高校生ともなると、違法とはわかっていても、こう言った場合にお酒が持ち出されるのはよくあることなので
そのためにも保護者不在の方が実に都合がいい。

だが、しかし。

青子の話によると、今年の21日はどうやら中森警部は非番で家にいるらしい。

せっかくのお休みの日に、高校生達のどんちゃん騒ぎに巻き込まれては彼も気の毒である。

それにまさか、警察官のいる家で堂々と高校生が飲酒するわけにもいかない。

と、いうことは、今年は中森家での『快斗のハッピーバースデー・パーティ』は、
どうやら開催が難しいと、こういうことだ。

 

「・・・お父さんがいたんじゃ、みんな心から騒げないもんね。」

ふぅと溜息を零しながら、青子が呟く。

「・・・っていうか、それよりオジさんにメーワクだろ?」

「別に迷惑って程じゃ・・・。ああ、でもこの間もキッドにやられたばかりだし、確かに機嫌はあんまり良くないかなぁ。」

 

・・・それはそれは、申し訳ないね。

快斗は心の中でペロっと舌を出した。

確かに先日、いつものとおりあっさりと捜査2課の警備を出し抜いて、見事仕事を成功させたばかりである。

 

「・・・うーん、こうなったらどこかお店でも取るしかないかなぁ。ああ、でもみんなからまたカンパしてもらわなくっちゃ!」

パーティ首謀者である青子には、いろいろと頭を悩ますところが多いらしい。

「・・・別に、そんな無理してパーティなんかやってもらわなくてもいーんだぜ?」

思わず快斗の口から出た言葉を、青子はあっという間に否定した。

「それはダメ!絶対にダメ!!パーティは絶対にやるの!!誰が何と言おうと、青子が絶対にやってみせるから!」

そのあまりの気合の入れように苦笑しながら、ふと目線を何気無く雨の雫がつく窓へ向けたところで
快斗は固まった。

 

 

*       *       *       *       *

 

 

・・・新一っ!?

 

降りしきる雨の中、傘を持たずに走っているブレザーの制服姿の学生達がいた。

それは、新一と二人の女子生徒。

一人は毛利探偵事務所のお嬢さんで、もう一人はあの鈴木財閥のご令嬢である。

快斗が登下校を青子としているのが当たり前のように、どうやら新一はこのトリオで動くのが日常のようだ。

そのまま快斗は新一を目で追っていると、彼らは真っ直ぐこっちにやってくる。

新一の方は、店の中にいる快斗の視線に全く気付く様子もなく、少女達と二言三言、言葉を交わすと
このファースト・フード店に入ってきた。

 

「・・・もうぅぅーーーー!!ビショ濡れじゃないのよぉ!!・・ったく、風邪引いたらどーしてくれるわけ?!」

「だから、途中で傘を買おうって言ったのに、園子が傘なんかいらないって言うから・・・。」

「・・・っていうか、最初からタクれば、こんなことにはならなかったんだよ。」

入り口のドアが開いたとたんに、にぎやかな声が飛び込んでくる。

背中で響く声に特に振り返りもせず、快斗がコーラを飲んでいると、青子の方も新一達に気づいたようで
席を立ち上がった。

「・・・あ!ねぇ、快斗!あれ、工藤君達じゃない?園子ちゃーん、蘭ちゃーん!!」

青子のその声に、快斗はさも今、気がついたようにカウンターの方を振り返る。

ちょうど新一達も、快斗達に気づいてこちらを向いた時だった。

新一の蒼い瞳が快斗を捕らえるのを確認すると、快斗はニヤリと笑った。

 

快斗が前回、新一と最後に会ったのは、模試の後、工藤邸にお呼ばれして二人で飲んだ時以来のこと。

あの時は、新一の方から話があるとか言ったくせに、結局酒が入ったおかげで肝心な話の内容がなんだか
わからないままになってしまったが。

そうは言っても、あの時、快斗にとっては大きな収穫があった。

なんと酔った勢い(?)とはいえ、新一がどうやら『怪盗キッド』を好きだと、そう告白してくれたからである。

しかも、どうやらあの夜のことも覚えていてくれたようで、それをきちんと受け止めていてくれているのが
なんともうれしい限りであった。

たとえ、キッドの正体が実は快斗であることを、まだ新一が知らないとしても。

 

その後、快斗はキッドしては、名探偵・工藤新一と対峙することは何度かあったが、結局正体をバラすことなく
今日まできてしまった。

一時は正体をきちんとバラして、きちんとお付き合いしようかと、そんな考えも頭を過ぎったのだが、
何しろ、相手は稀代の名探偵。

まさか、とんでもないどんでん返しがないとも限らない。

とりあえず、新一の真意がわかったことだし、そう焦る事もないかと裕に構えることにした・・・というと
聞こえはいいが。

・・・・ま、本音を言うと。

こういう話は、新一が酔った時ではなく、きちんとシラフの時にしたい・・・というところなのだ。

どうせ、新一のことである。

前回の事も丸っきり、記憶から抹消されているのには違いない。

 

・・・やれやれだね。

 

快斗はそんな心の内は隠して、相変わらず見事なポーカーフェイスで新一達を迎えた。

「あー!!青子ちゃんに黒羽君じゃない!!何してんの?こんなとこで!!」

甲高い声を上げて、走り寄ってきた園子に後から蘭と新一が続く。

「園子ちゃん達、ビショ濡れね〜・・・。傘持ってなかったんだ。私たちも持ってなくて・・・。
で、ここで雨宿りしてたとこ。」

持っていたタオルを園子に差し出して、青子が笑う。

「今朝の天気予報じゃ、雨は夜からだって言ってたものね。私も学校に置き傘があったんだけど
まさか帰りの途中に降られるとは思わなくて・・・。」

雨で濡れてしまったロングヘアを、手ぐしで整えながら蘭もにっこり微笑んだ。

蘭の言葉に園子は力強く頷き、お天気お姉さんに抗議してやるとまで息巻いて見せ、青子をさらに
笑わせた。

そうして、青子は自分の座っていた位置を少し奥にずれて、園子と蘭を招き入れる。

そういうワケで自動的に快斗の横に新一が腰掛ける事となった。

「・・・よぉ、久しぶり。」

濡れた前髪が額に張り付いたのを、鬱陶しそうに手でかき上げながら、新一がそう快斗に挨拶した。

「どーも♪ 模試ん時ぶりだね。」

そう言ってやりながら、屈託無く快斗も笑う。

すると、新一が少しバツの悪そうな顔をして、肩を竦めた。

「・・・あ〜・・・。あの時は・・・。」

そこまで言って、残りはこっそりと快斗に耳打ちする。

(・・・また、メーワクかけたか?オレ・・・。)

ふーん?酔っ払っちまった自覚はあるわけだ?

快斗はクスリと笑いながら、別に何も迷惑な事などなかったと、首を横に振って見せてやった。

「そこの二人っっ!!何、内緒話してんのよ?!アヤシイわね!!!」

ビシッと指を立てて、園子が指摘する。

「・・・まぁまぁ、いいじゃない。それより私、オーダーしてくるけど?新一はコーヒーでいいのよね?園子は?」

財布を持って立ち上がった蘭に、園子は笑顔で注文を告げた。

「あ、私、烏龍茶とあと、アップルパイ!」

程なくして、ドリンクやフードをトレイに乗せ蘭が戻ってくると、みんなで他愛もない話で盛り上がった。

 

ひとりしきり笑った後、ふと思い出したように青子が溜息をつく。

「どうしたの?青子ちゃん・・・。」

心配そうに声をかける蘭に、青子はそんな心配されることじゃないんだけど、と前置きをして話し始めた。

「今月の21日、実は快斗の誕生日なの。」

「えー!!そうなんだ!!黒羽君、お誕生日おめでとう!!」

「・・・いや、まだなんだけどね・・・。」

快斗の手を取って、ぶんぶん握手する園子に快斗は苦笑いした。

「じゃ、何かパーティとかするの?」

訊ねた蘭に、青子が続ける。

「・・うん。毎年クラスのみんなでね。うちでパーティを開いてたんだけど、今年はお父さんの休みと重なっちゃって
ちょっとできそうもないかなぁって・・・。お店でやるにも予算があんまりないし・・・。」

「へぇ、中森警部、お休みなんだ。ああ、でもここのところずっと休み返上で働いてたもんな。
ついこないだもキッドの件で、ずっとつきっきりだったし・・・。」

コーヒーをすすりながら、新一も口を挟む。

「ふーむ、確かにおじさんがいちゃ、バカ騒ぎできないってのもあるわね。」

園子の言葉に頷きながらも、青子はそこに酒も入るからなおさらなのだと付け足した。

「・・・・・だからさ。別にパーティなんかしなくったっていいのにって言ってんのに。
どーやらコイツら、人の誕生日にかこつけて騒ぎたいだけみたいでね。」

パーティの主役であるはずの快斗はテーブルに頬杖をついて、どうでもいいように呟く。

それを聞いて、また目くじらを立てた青子を押えるように蘭が打開策を考える。

「じゃ、じゃあパーティができる場所があれば、問題ないんでしょ? 園子、なんとかならない?」

こう見えて、園子は鈴木財閥のご令嬢である。

豪邸の中の一室か、もしくは別荘を貸し与える事くらい、何とも無い事は確かだ。

「うーん・・・。お酒が入るならうちよりどこか、別荘がいいわよね。
・・・でも都内から一番近いとこでうちの別荘っていうと・・・、箱根の方になっちゃうんだけど。
ちょっと遠いかな?放課後、移動しなきゃいけないしねぇ。」

腕組みして考える園子に、新一も口を挟む。

「確かにな。箱根なら1時間くらいでは行けるけど、どうせ別荘なんて箱根の山ん中なんだろ?
車で行くとなると、2時間はかかるか。しかもクラスメートを連れて行くとなるとバスでもチャーターしなきゃだしな。」

「やだ!園子ちゃん!工藤君も!!そんな大掛かりなパーティじゃないんだってば!!
別荘を借りるだなんて、そんなとんでもない。」

慌てて青子が断りを入れる。

「・・・でも、せっかくの黒羽君の誕生日をお祝いしてあげたいのよね?青子ちゃん・・・。」

蘭が優しく微笑むと、青子は少し気恥ずかしそうに頷いた。

 

「・・・そうねぇ。クラスメートが大勢、押しかけても大丈夫で・・・。
しかも、お酒の入ったドンちゃん騒ぎをしても、しかる大人がいないトコ・・・。」

再び腕組みをして考え始めた園子は、目の前でのんびりコーヒーを口に運ぶ新一の顔を見て、ハタと思いついた。

「・・・あるじゃない!ベストなトコが!!」

「え?!」 ×4

園子以外の全員の声が、重なった。

みんなの注目を浴び、得意げにウインクして見せた園子は、向かいに座る新一を指差してこう言った。

「工藤邸でキマリでしょvvv」

 

 

*       *       *       *       *

 

 

そうして。

結局、今年の快斗のバースデーパーティの開場は、工藤邸を提供することで完全に決定し
その他の検討事案も女子どもによって、気持ちのいいくらいにどんどんと決まっていく。

最早、口を挟む余裕すらなかった快斗と新一だった。

 

一行が店を出るのは、雨がすっかりやんで夜空に星が瞬きだした頃。

「・・・で、青子ちゃん、本当に私達もパーティに参加しちゃって大丈夫なの?」

心配そうに訊ねる蘭に青子は笑顔で返す。

「もっちろん!蘭ちゃんたちなら大歓迎だよ。それに工藤君のお家を借りるのに、3人がいてくれなくちゃ
青子の方が困っちゃう。」

「おっけ!私達も料理は手伝うから!!楽しいパーティにしようね!」

青子の肩に手をおいて、園子がウインクする。

すっかり意気投合した3人のようであったが、それを後ろから眺める快斗は横に立つ新一に耳打ちした。

「・・・今更だけどさ、新一・・・。本当にいいのか?すっげードンちゃん騒ぎになるぜ?きっと・・・。」

「・・・良いも悪いも・・・。ここまで決まっちまったものをどーしようもないだろ?
確かにうちにはスペースもあるし、両親はずっと海外だからな。条件を満たしていることには間違いはないし。
・・・けど、場所を提供してやることくらいで、特別なもてなしなんてできないからな?」

新一はそう苦笑しながら言うが、一呼吸置いてからまた一言。

「・・・ま、知らない仲じゃないんだし、オレからも祝ってやるよ。」

そう言ってにっこり笑った。

「さんきゅv」

新一の笑顔に、快斗も本心から笑ってウインクまでして見せる。

 

よくよく考えてみれば、思いもよらずウマい方向へ話が進んだものである。

工藤邸でバースデー・パーティをやってもらえることになったおかげで、
これで間違いなく新一と誕生日を過ごせる事になってしまったのだから。

 

・・・二人っきりでお祝いしてもらえたら、もっとうれしかったのになぁ。

 

とは、思うものの、そこまで言うのは贅沢であろう。

とりあえず、下手な小細工を自らせずとも、堂々と新一にお祝いしてもらえる状況を作ってくれたこの少女達には
感謝しておこうと、こっそり快斗は微笑んだ。

 

「・・・じゃあ、パーティの詳細については、また決まったら電話するね?」

「了解!蘭でも私でも、どっちでもいいからケータイに電話して!」

そう言って、青子達が約束と取り交わす。

ケータイ番号の交換が済むと、青子は改めて新一に向き直った。

「工藤君!本当にありがとう!!明日、早速クラスのみんなに報告させてもらうから。
みんな、大喜びだと思うな。工藤君、女子にものすごい人気あるんだもん!」

「・・・おい、コラ。誰の誕生日だと思ってんだよ?」

ポスンと青子の頭に手を置いて、快斗がブーたれる。

「いーじゃない!工藤君達は今回のパーティのスペシャルゲストなんだから!!」

「まぁまぁ。にしても、ちょうど21日が金曜日でよかったね。翌日は休みだし、安心して騒げるんじゃない?」

蘭がそう言うと、園子も頷く。

「そうそう!万一、酔いつぶれちゃっても、新一くんちに泊めてもらっちゃえば問題なし!」

「おいおい、いくらなんでもそんな大勢泊めるだけのベットなんてねーぞ?」

焦りだした新一を、園子は軽く鼻で笑ってかわす。

「あら、布団なんていらないでしょ?そのままザコ寝で十分よ。もう夏だもん。」

コイツは本当に財閥のご令嬢なのか???と疑いたくなるような単語が出てきて新一は頭痛を覚えたが、
万一、そんな事態が起きたら、本当にザコ寝してもらおうと心に決めた。

「・・・ま、とにかくオレのために楽しいパーティをよろしく頼むよ!諸君!!」

さっきまで、パーティなんかしなくてもいいとほざいていたはずの当人は、すっかりヤル気になって
そう満弁の笑みをたたえる。

 

そうして、それぞれの家路へと向かったのであった。

 

途中、快斗は夜空を見上げる。

 

今年の誕生日は面白くなりそうだと、そう思いながら。

 

 

*       *       *       *       *

 

 

そして、6月21日。

 

放課後、続々と快斗のクラスメートが新一宅に押しかけてきた。

あの『名探偵・工藤新一』の自宅には、みんなかなりの興味を持ったようである。

まぁ、もと女優と売れっ子作家の息子なんて、それだけで興味の対象になりかねないのだから
仕方が無いと言えば仕方が無いのだが。

普段、自宅に一人きりでいることに慣れてしまった新一には、この久々の人の波に早くも酔いそうな
気配すらしていた。

 

・・・父さん達も昔は、いろんなパーティとか家でやったような気がするけど、
ここまでうるさくはなかったからなぁ・・・。

 

節度を踏まえた大人のパーティと、遊び盛りの高校生の集団とでは大きな差があるものだ。

新一は、今更ながらこりゃ大変だと実感していた。

 

・・・アイツら、後片付けももちろんきちんとやってくつもりなんだろうな・・・?

 

心に一抹の不安を覚えた時、トンと軽く肩を突付かれた。

「よぉ!だから、言ったろ?すごい騒ぎになるってさ。」

振り返ると、いつの間に来たのか、快斗がいた。

もう先程から人の出入りが激しくて、誰がどこにいるのかも把握できない状況である。

「・・・おぅ。あ、誕生日、オメデト。」

「ありがと。」

「・・・にしても、ほんとにすげー人だな。パーティ開始まで、あと1時間あるんだろ?」

「そーだね。けど、みんな新一んちに来れんのを楽しみにしてたみたいだからな。
女子は、キッチンにこもって料理の準備しちゃってるんだろ?な、ちょっと覗きに行かねー?」

つまみ食いしたいともらす快斗に、苦笑しながらもこのまま混雑しているリビングにいる方が気疲れしそうなので
新一は、一緒にキッチンへと向かった。

キッチンでは、忙しそうに働く青子達女子の姿があった。

ちょろっと覗きに来た快斗達を目ざとく園子が見つけると、声を上げる。

「あ〜!コラ!まだ準備終わってないんだから、こっち来ちゃだめよ、黒羽君!」

「ほら、新一も出てって!!」

フライパンを片手に蘭も振り返る。

「快斗のことだから、待ちきれなくてつまみ食いに来たんでしょう?もう!ダメよ!あとちょっと我慢してよ!」

お皿におかずを盛り付けながらの青子には、さすが快斗の目論見もお見通しのようで。

これは退散するしかないだろうと、新一が快斗の方を見ると、快斗はにっこり笑って言った。

「・・・いや、それがさ。あっちのリビング、人がたまり過ぎちゃって。
パーティ始まる前からあんまり盛り上がると疲れちゃうだろ?本日のスペシャルゲストはデリケートだからさ。」

ちょっとここに避難させてね?と快斗はウインクした。

 

・・・げ!コイツ・・・・!

オレが人混み苦手なのわかってて、こっちに連れて来たのか?!

 

快斗の鋭い観察眼にちょっと内心驚いた新一ではあったが、礼を言おうとしたところで、女子の目を盗んで
つまみ食いをしている快斗の現場を目撃して、その言葉は飲み込むことにした。

 

・・・・てめー、本当はつまみ食いをしたくて、オレを利用しただけか?

 

(新一も、どーぞ!ウマいよ?これ!!)

手癖の悪い快斗が上手く盗んだおかずの一品を口に押し込まれて、新一はその後、何も言えなくなるが。

 

「ねぇ、そーいえばさ、このパーティの招待状だけど、アレ、ずいぶんふざけてるわよねぇ?!」

お皿を並べながら、園子が青子にそう言った。

「あ!そうそう!私も驚いちゃった!あれって、キッドの予告状に使われてるイラストと同じでしょ?
誰が描いたの?」

蘭もその話題に加わる。

話題を降られて、青子が嫌そうに振り返った。

「快斗よ・・・。快斗ったら、キッドのファンなの。でね、私のお父さんがキッドを追ってることもあるからシャレでって
自分で真似て描いたのよ?バカでしょ?ほんとに・・・。」

快斗に白い目を向けながら、青子が溜息混じりに言う。

言われた本人は、どこ吹く風といった表情だ。

「へぇ?黒羽君、怪盗キッド様のファンなんだ!私もなのよねぇ!いつか絶対、モノにしてみせるんだから!」

ガッツポーズでそう語る園子に、毎度の事ながらお前にキッドがゲットできれば警察は苦労しねーってと
新一は一人ごちた。

キッドその人本人である快斗は、そんな園子に「がんばってゲットしちゃえよ!」などと、実に心にも無い
声援を送っていたが。

「でも、黒羽君って絵も上手なのね。あの招待状の絵、本物のキッドの予告状そっくりだったよ。」

 

・・・だって、本物だもんね。

 

べーと心の中で舌を出して、快斗が笑う。

怪盗キッドの予告状のイラストは、デフォルメされた本人の絵なのだが、新聞で予告状の公開とともに
広く世間に知れ渡っており、マネされることも少なくは無かった。

だから、ここでもし使ったとしても間違って疑われる事など無いのを充分に計算しての、快斗のお遊びなのであるが。

イラストが本物の予告状さながらの出来栄えなのは、当たり前だ。

快斗=怪盗キッドなのだから。

 

適当に謙遜の返事などしてみせる快斗に、園子が言う。

「でも、どうせならこの招待状も、キッド様みたく暗号にしちゃえば良かったのに。
そうしたら、本物のキッド様からの予告状をもらったみたいじゃなーい?」

 

・・・あー、それも考えたんだけどね。

下手に暗号とか使って、この名探偵に勘ぐられるといけないから、ヤメといたんだよ。

 

とは、言えない快斗の代わりに、青子が決定的な返事をしてくれた。

「無茶よ。快斗に暗号なんて考えられる頭があるわけないでしょ?」

「・・・そっかー。そうよね。暗号なんて、そんな簡単に一般人が作れるわけないもんねー。」

「残念ね、新一。もし暗号だったら、解くの楽しみだったでしょ?」

と、3人3様言いたい事を言っているが。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・お前らなぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

正体を明かせない、快斗のツラいところであった。

 

そんなやりとりと傍観していた新一は、ふと快斗を見つめてこう言った。

「・・・へぇ、お前、キッドのファンだったんだ。」

「・・・あ、うん。新一は?」

すると、新一が答えるより先に青子が答えた。

「バカね!工藤君はお父さん達、日本警察の味方に決まってるでしょ?!ねぇ?!工藤君!!」

さも当然とばかりに言い切る青子に、新一はただ曖昧に笑って見せただけだった。

 

 

*       *       *       *       *

 

 

「え〜、それではこれから、黒羽快斗17歳・バースデー・パーティを始めま〜す!
本日は、皆さんもご存知の『名探偵・工藤新一』君のご好意で、パーティを開催させていただいてます。
工藤君、本当にありがとうございました〜vvv」

と、青子がマイクを持ってそう挨拶すると、全員が歓声とともに拍手を新一へ送った。

「では、みなさん!お待たせいたしました!乾杯の準備はいいですか?
じゃあ、快斗、ハッピーバースデー!! カンパーイ!!!」

乾杯の音頭とともに、みんなグラスの酒を一気にあおった。

「お誕生日おめでとー!黒羽君!」

「おめでとう、黒羽!」

クラスメイトが次々と快斗にお祝いの言葉をかける。

快斗はにこにこしながら、その一つ一つに答えていた。

そして、青子からマイクを奪うと、

「みんな、さんきゅー!愛のこもったプレゼントは今月いっぱい受け付けてるから、遠慮せずにドシドシ持ってきてね。
さって、では乾杯も済んだ事だし、宴会開始〜!!」

と、実にノリ良く言って見せた。

そして、部屋の壁際に佇む新一の傍まで戻ってくると、いつもこんな感じなんだと笑う。

「・・・お前、今日の主役だろ?こんな端っこじゃなくて、もっと真ん中の方行けよ。」

グラスに入った酒を、ちびちび飲みながら新一がそう言うと、快斗はそんな必要はないと首を振った。

「ダイジョーブ。用がある時は呼ばれるさ。結局、オレの事を祝うのも、最初の内だけだしね!」

と言いながら、快斗は自分にお構いなしで騒ぎまくっているクラスメート達を見つめた。

 

・・・確かに。みんな、今は食事に夢中で主役を放り出しっぱなしだな・・・。

 

新一はクスリと笑った。

そこへ、お皿に適当に料理を盛った蘭がやってくる。

「ほら、新一達にこれあげるから。早く取りに行かないと食べもの、無くなっちゃうわよ?」

「ああ、サンキュー、蘭。ほら、快斗。お前も食えよ。」

言いながら、新一は快斗へも皿を差し出す。

「・・・それにしても、こんなにクラス中集まって誕生日のお祝いをしてもらえるのなんて、黒羽君も幸せね。」

「ま、確かに。 オレも含めて、お祭り好きな奴らが集まったクラスだからね。」

料理を頬張りながら、快斗が答える。

「でもやっぱりこれって、黒羽君が人気者だからなんじゃない?
・・・・・ね、新一もこんな風にお誕生日のパーティしてもらいたい?」

蘭が上目使いでそう新一の顔を覗く。

新一がどう答えるのか、快斗も視線を新一へと向けた。

「・・・いや、オレは・・・」

と、新一が言いかけた時、クラス男子から大声があがった。

「黒羽ーーーっっ!!何かマジックーショーでもやれよ!!」

「キャー!!黒羽君、やってやってー!!」

女子の歓声に続き、全員のやれやれ!!コールが始まってしまう。

「・・・・アイツら、もうデキあがってやがるのか?」

快斗はやれやれと溜息をつくと、新一にちょっとグラスを持っててと頼むと部屋の中央の方へ行った。

「ああ、黒羽君、マジックができるんだってね。お父さんは有名なマジシャンだとか聞いたけど。」

「ふーん、そうなんだ・・・。」

また一口酒を運びながら、新一は快斗の背中を見送った。

あっという間に快斗の周りに人だかりができ、どこに仕込んであったのかいろんな小道具が次々と出てくると
快斗は華やかなショーを繰り広げ始めた。

 

・・・確かに、アイツが人気者であることには間違いないな・・・。

 

新一は遠目に快斗のショーを見ながら、そう感想を漏らした。

と、ぼんやり快斗を見つめていた新一の周りにも、快斗のクラスメートの女子が集まり始める。

「あの〜!工藤君!!私達、工藤君のファンなんだけど・・・。探偵って普段どういうことやってるの?
いろいろ興味あるなぁ。お話聞かせてほしーい!!」

「・・・え?!」

すごい勢いで女子に詰め寄られて、思わず壁際に追い込まれる新一を蘭はじゃあねと見捨てて去っていくと
一人新一は女子の輪の中に取り残されるハメとなった。

 

一方、快斗は。

みんなの前でマジックを披露しながらも、目の端では新一の姿を追っていた。

もちろん気にかけているのは、酒の量だ。

今日、この場であの酒乱新一が登場してしまうのは、あまりよろしい状況ではない。

こんな大勢の前であんな新一を見せるなんて、もったいなくてできるわけがないというのが本音だ。

ただでさえ、新一をチェックしている奴らが多いというのに、あんな一面があると知れたらますます厄介な
ことになるのは間違いない。

できれば、あの酒乱新一は自分だけのものにしておかなければ・・・。

そのためにも、快斗はできるだけ新一と一緒に過ごしていたかったのであるが。

 

ちくしょー!!オレを新一のトコに行かせろーーーーっっ!

 

快斗はもっとマジックを見せろとせがむクラスメートから一向に解放される事はなく、
また新一の方も女子生徒に囲まれて逃れ様の無い有様で。

結局、その後、二人でゆっくり話す時間も無く快斗の誕生日の夜は更けていくのだった。

 

 

*       *       *       *       *

 

 

パーティ開始から3時間も経過した頃。

あれだけにぎやかだった工藤邸リビングも、ずいぶんと閑散としてきた。

後片付けをするために残ってくれている青子や蘭、園子などを除いて、女子はそのほとんどが帰宅し
男子も完全に出来上がってしまった者や、酔いつぶれてしまった以外の者は散り散りに帰っていった。

 

「・・・っていうか、もうここに残ってるのって、ただの酔っ払いだけなんじゃねーの?」

残った酒を口に運びながら、本日の主役快斗はふぅーっと溜息をついた。

リビングを見渡す限り、起きている人間などほとんどいない。

無残な屍が転がっている状態だった。

その中には、青子達の姿まである。

「・・・コラコラ、お前ら後片付けしなきゃいけない人間まで、酔いつぶれてどーすんだ?!」

 

・・・で、新一はどこ行った?

 

その床に転がっている酔っ払いの中に、新一の姿は無い。

もしかして、酒で気分が悪くなって自室に戻って寝ているとか?

そう思って快斗が部屋を見渡した時、テラスから涼しい夜風が流れ込んできた。

「・・・新一?」

カーテンの向こうに人影があるのを認めて、快斗はそっちへ足を向けた。

そこには、手すりに背を預けて、ぼんやりと佇んでいる新一の姿があった。

普段透けるように白い頬が酒のせいか、ほんの僅かに赤く色付いて、それが月夜に照らされていた。

新一はやや潤んだ瞳ながらも、快斗を捕らえるといつものようににっこり笑った。

「・・・なんか、部屋中、酒の匂いが充満しててそれだけで酔いそうでさ・・・。
外の新鮮な空気を吸ってるトコ。 涼しくて気持ち良いぜ?」

そう話す新一の口調は意外にしっかりしていて、快斗を少々安心させた。

「いろいろ気疲れさせて悪かったね。」

新一の隣に来て、快斗がそう微笑む。

「お前こそ、自分の誕生日なのにずいぶんとサービス精神旺盛なんだな。
あんな派手なマジックショー見たの、オレ、久しぶりだった。面白かったぜ。」

 

・・・ま、今日は新一にオレの腕を見せるためでもあったんだけどさ。

お褒めの言葉を頂き、光栄ですよ?名探偵。

 

新一にそう言ってもらえたのがうれしくて、快斗は新一さえ良ければいつでも見せてやるなどと
気前良く約束までしてみせた。

 

「・・・それより。お前がキッドのファンだって言ってた話だけどさ・・・・。」

不意に、新一が視線を夜空に向けてそう話し出した。

「・・・え?ああ。」

 

・・・なんだ?そんな気になる内容だったか?

 

快斗はやや不思議に思いながら、新一へ先を促す。

「お前、アイツの何が良くてファンなわけ?」

「へ?!」

まさか、そんな風に突っ込まれると思わなかった快斗は、マヌケなくらい大きく目を見開いてしまった。

 

な、何って、何って・・・。

何だよ?オレがキッドのファンって言った事が、新一は気に入らなかったのか?

やっぱ、自分と敵対してる関係だからか??

 

「・・・あー。いや、何って言われてもなぁ。新一と違って、別にオレはキッドに会ったことがあるわけじゃないし。
ほら、アイツ、マジシャンっぽいじゃん?ああいうショーマンシップが好きっていうか、そんな感じ?」

などと、へらへら笑いながら快斗は返してみたが、それを聞いてる新一は至って真剣な表情。

「・・・えーっと・・・。っていうんじゃダメか?」

すると、新一は快斗の目の前にすっと人差し指を持っていく。

「・・・・・・言っとくがな、快斗。 アイツはものすごーーーーーく感じの悪いヤツなんだ。」

「・・・えっ・・・。そ、そうなの?!」

 

・・・悪かったな、感じ悪くて。 何だよ、オレ(=キッド)の事、好きって言ったじゃねーかよ!

 

「そう!ものすごく気障でいつも不遜な態度で人を見下したような顔してるし、ものすごいムカツク奴なんだ。」

「・・・あ、ああそうなんだ・・・?へぇ・・・。」

引き続き真剣な表情、いや、ひどく目が据わってそう語る新一に、快斗はやや引きつった笑みを返しながら
一つの決断を下した。

 

・・・・こ、これは。・・・・いつもほどヒドくはないが、酒乱新一の部類に入るんじゃねーか・・・・???

 

相手を誰だかまだ認識している分、まだいつもよりマシだとは言えるが。

完全に快斗にからんでいるとしか思えないこの状況。

間違いなく新一は酔っ払っていた。

 

それから、新一は快斗が実はキッド本人だということも知らずに、キッドの悪口を延々と聞かせ始めた。

で、その内容は、例えばこれを聞いているのが世のキッドファンだったら
がっかりするようなもののオンパレード。

これを聞いたらキッドファンは間違いなく激減すると思われるような、そんなものばかり。

 

・・・・・てめぇ。 いーかげんにしろよ?!

 

止まらない新一の悪口雑言に、快斗は笑顔で返しながらも、内心ふざけんなよ?コノヤロウ状態である。

 

どーいうつもりだ?ここまでオレにキッドの悪口を聞かせるとは、良い度胸じゃねーかよ!

こんなことを何も知らない奴が聞いたら、オレのファンをやめちまうだろーが!!

 

と、そこまで思ってハタと気がついた。

 

・・・コイツ、もしかして、オレにキッドのファンをやめさせようとして、ワザとこんなこと言ってる?

 

それは、まさに自分の好きな人を独占したいと言う、幼い恋心に似ている。

 

自分の好きな人をわかっているのは、自分だけ。

自分の好きな人を愛しているのは、自分だけ。

 

誰もが一度は持ったことがあるはずの、そんな気持ち。

 

つまりは、キッドをめぐってのライバルである快斗を消そうという、新一のそういう思惑がそこに。

 

・・・・いやー、あのー・・・。だから、オレがキッドなんだって。

だから、心配いらねーんだよ?新一。

 

急に新一のことが無性にかわいくなって、快斗はクスクスもらしていた笑いをどうにも堪えきれずに
腹を抱えて笑い出してしまった。

「なっ!なんだよ!!快斗!!人が真剣に話してんのに!!」

「あはは・・・!いや、ごめんごめん。でも・・・本当におかしくて・・・」

「何だよ、笑うなよ!」

「ああ、ごめん、でも・・・」

まるで笑い上戸のように笑いが止まらない快斗も、少々酔いが回っているのかもしれないと、
頭の隅でそう考えていた。

ひとしきり笑い終えた快斗は、相変わらず潤んだ目で自分を睨みつける新一の頭を小突く。

「・・・新一がそこまで言うなら、キッドのファンはやめておく。それでいいだろ?」

 

・・・心配しなくても、『怪盗キッド』はお前に譲ってやるからさ。

 

快斗がそう言ってやると、新一はその方がいいぞ!と満足そうに頷いた。

酔いで少し赤く染まった頬でにっこり笑う新一のその顔は、実際の年齢よりも幼く見えた。

 

 

「・・・・ところでさー・・・。お前、誕生日プレゼントとかもらわねーの?」

ダルくなってきたのか、新一はぺったりとテラスの下に座り込んで、とろんとした視線を快斗に向ける。

「・・・ああ、クラスからのお祝いはこのパーティ自体だからな。毎年、プレゼントってのは特にないね。」

新一の隣に同じように座り込んだ快斗は、ほろ酔い加減の新一に気付かれないよう身体を密着させた。

無意識に快斗の方へ体重を預けながら、新一はぼんやりと呟く。

「・・・オレさー・・・。本当は今日、お前になんかプレゼントを用意してやろうかと思ったんだけど、
何をやったらいいのか思いつかなくてさ。・・・結局、何もないんだ。ゴメンな・・・。」

なんともかわいらしい事を言ってくれる新一を、思わず、この場で抱きしめたくなる衝動をなんとか
押しとどめ、快斗はそれなら・・・と一つ良い事を思いついた。

「・・・じゃあさ、新一。プレゼントの変わりにオレのお願い、聞いてくれる?」

 

そう微笑む快斗が、何を企んでいるかは言うまでも無い。

そうは言っても、酔いつぶれているとはいえ、カーテンの向こうには若干ギャラリーが残るこの場で、
まさかコトに及ぶわけにはいかないだろう。

ならば、せめてキスだけでも。

本人にしてみれば、実にささやかな願いだ。

 

で、そんな申出を言われた新一はというと、相変わらずポヤンと快斗を見つめているだけ。

酔いでよく働かなくなった頭は、快斗の次の言葉を待っていた。

 

「・・・キッドには内緒にしておいてやるからさ。・・・・目を閉じて。」

いつもより少し低い声で、快斗がそう新一の耳に囁く。

新一はその声に肩をビクリと震わせながらも、言われたとおりに瞳を閉じた。

 

瞬間、快斗の唇がそっと新一の唇を塞ぐ。

突然の事に硬直した新一へ、快斗はさらに強く唇を押し付けた。

後ろから新一の首もとへ手を回してしっかりと固定し、反対の手ではその細い腰を抱き寄せる。

思わず、新一が吐息を漏らすと、快斗はその僅かに開いた唇の間に舌を滑り込ませた。

「・・・う・・んん・・・っ!!」

歯列を割って忍び込んだ快斗の舌が、新一の口腔を蹂躙ていく。

新一の口の中は甘いと快斗は思った。

前に飲んだ酒の味のせいかもしれないが、とにかくもっとその甘さを味わいたくて、夢中で新一の口内を犯す。

奥に隠れている新一の舌を見つけ出すと、何度も絡めとった。

飲み下せない唾液が、銀の糸になって新一の唇を伝う。

「・・・うう・・・ん・・・ん・・・。」

無意識に快斗の背に回された新一の手が、快斗のシャツをギュッと掴んだ。

その感触に快斗がニヤリとしたまさにその瞬間だった。

 

パシャリっっ!!!!

 

目も眩むような眩しいフラッシュが二人に浴びせられた。

 

な・・・っ!!!

 

慌てて、快斗が新一から唇を離すと、そこにはカメラを持った園子の姿があった。

「じゃじゃーーーん!!スクープ!!わが校誇る名探偵・工藤新一が他校の生徒と熱烈キスシーン!!!」

などと、少々呂律が回っていないながらも、Vサインしてみせる。

「・・・しっかも、相手が黒羽君じゃねぇ、下手な女の子よりよっぽど好感度ありそう!
高く売れるわ〜!あははははははは・・・・・・・」

 

・・・・・・・・・・・・。

 

快斗には返せる言葉が無かった。

酒に酔ったのか、新一とのキスに酔ったのか、園子ごときの気配に気がつかないとはなんたる大失態。

怪盗キッドあるまじき、である。

証拠写真を取られた事に関しては、自分的にはさして気にすることもないが
新一としてはそうはいかないだろう。

どうせ、今日のことも記憶には残っていないはずなのだから。

かくいう新一は既にテラスで夢の中の状態。

新一とのこの友好的な関係をとりあえず崩したくない快斗は、とりあえず園子を丸め込む方向で解決案を
めぐらせた。

が。

思いも寄らない事が起こった。

なんと、カメラを持ったまま仁王立ちしていた園子が、そのまま後ろに引っくり返ったのだ。

「・・・・へっ?!」

慌てて駆け寄った快斗の足元で、園子は真っ赤な顔をして熟睡中。

キッドさまぁ〜〜〜〜vvvとか、寝言までほざいてる始末であるが・・・。

「・・・・・ってことは何? コイツも酔っ払ってたってことか?」

快斗はふぅーと溜息をつくと、園子の手からカメラを奪うと中のネガを取り出した。

「・・・ったく、帝丹高校には酒乱しかいねーのか?」

ピンとフイルムを指で弾きながら、快斗は苦笑したのだった。

 

「・・・ま、いっか。新一からはプレゼントはもらったし・・・・。」

そこまで言って、快斗も大きな欠伸をする。

テラスで寝こけてる新一をリビングのソファまで運ぶと、自分もその傍に陣取って目を閉じたのだった。

 

 

翌日。

昼までのんびり寝ていた一行は、ようやくにして起き上がると二日酔いのダルイ身体を引きずって
昨夜の後片付けを始める。

いつものことだが、新一が昨夜の快斗との濃厚なキスシーンを覚えているわけも無く
ついでにいうと、園子の方もそれを激写したことを忘れているようだった。

こういう場合、酒乱様様である。

だが、それでも園子の方はおぼろげに記憶の端に引っかかっている部分があるらしく
カメラを見ながら何度も不思議そうな顔をして呟く。

「・・・おっかしいな。なんか、昨夜ものすごいシーンを目撃してカメラにおさえたような気がするんだけど。」

「園子ちゃんったら、酔っ払ってて何を撮ったか覚えてないの?」

「現像してみればわかるんじゃない?」

青子と蘭がそう言って、園子を笑うが。

こっそりと彼女達の見えないところで舌を出している人間が一人。快斗である。

 

・・・残念でした。そのフィルムには何も入ってないよ。オレが入れ替えちゃったからね。

 

「・・・おい、快斗。何、ニヤニヤしてんだ?」

まだ寝たり無いのか、欠伸をしながらそう言う新一に、快斗はにっこり笑う。

「いやいや。本当に昨日は誕生日を祝ってくれてありがとうな!」

 

すてきな誕生日プレゼントももらえて、最高にうれしかったよ。

 

あまりにご機嫌で笑う快斗を、新一はコイツはまだ酒が抜けてないらしいと思い、これ以上相手をするのはやめておこうと
再び片付けを始めた。

 

そんな新一の背中を見ながら、微笑む快斗が今年、受け取ったプレゼントは2つ。

 

一つは、キッドを独り占めにしたいという新一の心。

そしてもう一つは、新一との甘い口づけ。

 

「・・・おっと。もう一つあったっけ。」

そう呟いて、快斗はズボンのポケットに忍ばせている昨夜の園子のフィルムをポンとポケットの上から叩いた。

 

・・・・・こっそり現像しちゃおう♪

いろいろと使い道がありそうだ。

 

ふふんと、白い怪盗はそう鼻で笑ったのだった。

 

 

◆  The End  ◆

ハイ、快斗のBDノベルです。
一応、酒乱シリーズなんですが、今回はいつもとは少し趣向を変えて見ました。
やっぱり快斗のお誕生日なので、少しはいい目を見せてあげないとねvということで。

今回はまぁ、幸せでしょう。快斗・・・みたいな。

 


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