G/Wが終わってしまうと、次の長期休暇はもう夏休みまでお預けってわけで、世間一般は、まもなく迎えるジメジメした梅雨のごとく憂鬱な気分に陥りがちらしい。
学校のクラスメートたちも、もちろんその例外ではないらしく、
さっきから、休みが終わってしまった事への嘆きやボヤキが聞こえて止まない。
が、そんな中でただ一人、唇の端が上に持ち上がったまま、どうにも下りてこない
状態なのはオレこと黒羽快斗。
いやぁ、だってさ、どうにも笑いが止まらないんだよね。
G/Wの新一のバースデー・プレゼントの計画は大成功だったし♪
もともと人を喜ばせる事に関しては、絶対の自信を持ってやってるけど
こうもうまくいっちゃうと、やっぱオレってば天才かも!!
せっかくの誕生日をG/W中に迎えるっていうのに、新一ときたら全く無関心。
ほっときゃ、一歩も家を出ないできっと本のムシになってるに違いない。
そんなのってないだろう?
だからどこかへ連れ出してやろうと思ってさ。
たまには気分転換も必要ってね。
近場の箱根温泉を選んだのは、出不精でなおかつ、人ごみを嫌う新一の性格を考慮した上でのこと。
ちょっとした人ごみでもすぐ疲れたとか文句タレるし、何するにも並んだり、待たされたりすれば、あっという間に不機嫌になるしさ。
まーったく、我侭なおぼっちゃまなんだから。
まぁ、予想通りオレのせっかくの誘いも最初はあっさり断ってくれたけど。
そんなことはいつものこと。
とりあえずは下手に出て、あとは新一が断りきれないように丸め込めばいい。
大体からして、オレの誘いを最終的に新一が断れた事なんてないんだから。
あえていわく有りげな旅館をセレクトしたのは、もちろん謎解きが大好きな新一にめいっぱい楽しんでもらうため。
一応、オレ自身もネタについては調査はしといたけどね。
いやぁ、だって事件つったって、血生臭いのはゴメンだから。
その辺はしっかり確認済み。
けど、トリックを暴こうとしてる新一ときたら、もうキラキラ目が輝いちゃってさいや、ほんとに連れて来た甲斐があったってもんだね。
ラストの炎の脱出は、まぁ予定外だったけど、今となってはスリルがあって面白かったし、効果的な演出ってことで。
おかげでより印象深い事件になったろ?
すべては、結果オーライってこと。
でもね、オレの計画はまだ終わっていないんだよ。新一?
だって今度は、このオレの誕生日がやってくるんだぜ?
年に一度しかないこの日は、どうしたってちゃんと愛しいコイビトに
お祝いしてもらいたいっていうもんだろ?
* * * * *
「何、ニヤついてんのよ、快斗?」
「へ?」
一人で物思いにふけっていたら、青子の顔が突然、目の前に現れた。
「快斗ったら、さっきからず〜っとニヤけっぱなしよ。気持ち悪い。」
「気持ち悪いって、お前ね・・・。・」
なんて失礼な事を言ってくれるんだ。
オレは、ぷぅっと膨れて見せた。
「連休中に何かいいことでもあったの?」
「・・・ん。まぁね。」
「ふぅーん。」
青子が何があったのか、聞きたそうな顔をしてオレをじっと見つめる。
物心ついた時から、ずっと一緒だった青子はオレにとっては大事な家族みたいな存在で、例えて言うなら「妹」って感じなんだけど、
向こうは向こうで、姉貴ヅラしていろいろと面倒を見ようとしてくれる。
お互いに淡い初恋の相手だったりしたこともあったが、それも今となってはガキの頃の良い思い出。
そんなこんなで、お互いの性格もよくわかっているから、友達には言えないような相談相手になってやることも少なくない。
俗に言う恋愛相談ってヤツ?
ほら、男の気持ちはやっぱ男にしかわからないからさ、
オレがアドバイスをいろいろしてやるわけよ。
大体においてこのパターンで、いつだって相談してくるのはあいつで、
逆にオレが相談を持ちかけることなんてないんだけどね。
けど、どうやらそれが、青子には不満らしい。
で、ここ最近のオレの様子を見て、青子なりにどうもオレに好きな人が出来た事を感づいて探りを入れたいわけさ。
ま、好きな人がいるっていう事だけは前に一応教えてやったけどね。
隠したって減るもんじゃないし。
けど、アレだ。
女っていうのは、どうしてこう人の恋愛にも興味深々に口を挟もうとするのかね?
わかんねーな。
そういうのはべらべら話すもんじゃねーっての。
「・・・青子もG/Wは、家族とどっか旅行へ行ったんじゃなかったっけ?どうだ?楽しかったか?」
なんて、話をすりかえてやる。
するどく、突っ込んでくるかと思いきや、青子はパァっと顔を輝かせて
楽しそうに話し出した。
「福島へ行ったのよ。親戚のお姉さんがそっちへお嫁に行って、赤ちゃんが生まれたから会いに行ったの。すっごく小さくて可愛かった〜!!猪苗代湖で船にも乗ったし、お父さんもゴルフとかして楽しそうだったよ!」
それから、青子は福島でどこへ遊びに行ったとか、何を食べたとか、
赤ちゃんの名前の由来やらを一気に喋りだした。
・・・おいおい。お前が喋りたかったんじゃねーかよ。
オレは一方的に聞かされる話に、笑顔で適当に相槌を打つしかなかった。
ようやくして、話が一段落する。
「でも、快斗もずいぶんと付き合いが悪くなったわよね?
最近じゃ、いっつも家にいないし。」
「え?そっか?」
当り前だ。暇な時は大抵新一の家に行ってるのだから。
「けど、快斗がそんなにラブラブなら、今年は誕生日プレゼントいらないわよね?」
「え・・」
そういえば、青子からは毎年手作りのケーキをもらってたっけ。
あれ、結構美味いんだよなぁ〜。
「いや。プレゼントはいつでも受付中だぜ。」
なんて言いながらウインクして見せたが、さすがにこの手は幼馴染には通用しなかったようだ。思いっきり呆れた視線を返されちまった。
「でも、そんなに快斗が夢中になる人なんて、どんな人なのかすごく興味あるな。いつ紹介してくれるのよ?」
ちょっと意地悪い目をして青子がオレの顔を覗き込む。
オレはそんな青子の顔を見て、にっこり笑って。
「そのうちにね。」
オレはさらりとそう返してやった。
* * * * *
机に頬杖を付きながら、今ごろ同じように学校へ行っているであろう新一の姿を思い浮かべた。
新一、今、何考えてるかな?
新一が、負けず嫌いの性格だっていうことは、先刻承知の上。
オレの誕生日にリベンジするつもりだろう?
オレはふと、オレをハメようと頭を抱えている名探偵の姿を想像して
一層笑いが込み上げた。
それなんだよ、それ!!
そうやって、オレのために新一が何かしようとしてくれてるって考えただけでも最高に幸せだね。
普段は事件のことでいっぱいの頭が、オレのことでいっぱいになるんだからさ。
オレはね、新一、
新一がオレだけを見て、想ってくれるようにするためなら
何だってするんだよ。
そう、何だってね・・・。