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NOVEL

───注意事項───

 このお話は 映画「天空の難破船」をモチーフにした作品です。
 すでに映画をご観賞された方向けのお話となっております。
 よって、映画をまだ観ていない方にはかなりなネタバレになりますので、充分ご注意ください。

 

 

それからまもなく、飛行船での優雅なティータイムはあっけなく終わる事となる。

不意に鳴り響く鈴木会長の携帯電話。そして、どうも穏やかではなさそうな会話の流れ。会長が捜査2課の面々を引き連れて 退出していく姿に、ウエイターの皮を被ったキッドは僅かに眉を顰めた。

・・・・・・コレは、何かあったな。

そう感じたのはキッドだけではないようで、小さな名探偵もその眼鏡の奥の瞳を細めて鈴木会長の背中を見つめていた。

そうして、まさに予感的中。

何と、この飛行船の喫煙室に細菌兵器がバラ巻かれたという、残念なお知らせを聞かされる事となったのだ。つまり、先程、鈴木会長に電話をしてきたのは、例の赤いシャムネコを名乗るテロリストという事になる。

ざわめく客達をよそに、キッドは内心、がっくり肩を落としていた。

ある程度は予想していた事だった。もともとそのテロリストが財閥をターゲットに掲げている事や、今日がちょうど彼らの犯行予告日である事、それらを踏まえれば、考えられなくもない事態ではあったのだ。ただそうならない事をキッドが切に願っていただけで。

───まいったな。

つくづく今日はツイてないとキッドが見えない素振りで溜息をついたところで、周囲の危機感をますます煽るかのように、感染者第一号が現れた。そして立続けにもう1人。

重苦しい空気の中、小さな名探偵がそっとその場を立ち去るのをキッドは目の端で追っていた。おそらくはこの場にいない少年探偵団の子供達を探しに行ったのだろうと 察する。

子供達が感染してなきゃいいけどな。

そう思いつつ、キッドは改めて周囲の人間を見渡した。

細菌の入ったアンプルを喫煙室にね。・・・・ってことは、テロリストはもうこの飛行船の中に少なくとも1人は、確実に潜り込んでいると考えるべきだろうな。
そして、たぶん次に奴らがやる事は
───

これから起こるだろう出来事が容易に想像できて、キッドはますます項垂れるしかなかった。

 


EXCUSE The Lost Ship in The Sky  act.3


 

「動くなっっ!!」

突然、開かれたドアと同時に現れたテロリスト集団。

客達がいっせいに驚きの悲鳴を上げる中、1人キッドだけは「やっぱり」と息をついた。思ったとおりの展開である。あっという間に飛行船はテロリスト達によって占拠されてしまった。細菌兵器と爆弾で脅されては、さすがにお手上げだ。

テロリストの指示により、鈴木会長は飛行船の全乗員に対し集合をかけたが、それでも姿を見せない小さな名探偵及び少年探偵団の子供達に、キッドは唇を斜めに持ち上げた。

───なるほど?今頃、名探偵は爆弾処理の真っ最中ってワケだ。

たとえ小さくなっても、中身は高校生探偵だ。彼の手にかかれば、爆弾を見つけ出す事もそれを解体する事も難しい事ではないだろう。

・・・・・・にしても、奴らは何で爆弾まで?

細菌兵器だけでも充分に事足りるはずなのに。そこまで考えて、不意に自分に向けられた視線に、キッドは顔を上げた。

視線の主は、毛利蘭だった。周囲の目を気にしながらも、こちらへ必死に何かを訴えている。その彼女の意図がわかって、キッドは苦笑する。

───“助けて、新一!!” もしくは、“何とかしてよ、新一っっ!!”って顔してるな。

ウエイターの顔をしたキッドが、一応、工藤新一だと信じてくれている彼女である。蘭にしてみれば、新一を頼るのは当然のことだろう。実際、この場にいたのが工藤新一 その人だったなら、何か状況が変わるのかもしれない。

だが、あいにくここにいるのは、名探偵 工藤新一ではなく、怪盗キッドだった。

・・・悪いね。今、ここで動くと、あとあと仕事に支障が出かねないからね。しばらくは様子見させてもらうよ。

蘭の必死のアイコンタクトに、ウエイターの顔のキッドは敢えて素知らぬフリでやり過ごしていると、テロリストのリーダー格と思われる男が鈴木会長に銃を突きつけ、数人の部下と部屋を出て行くところだった。

───やっぱり“レディ・スカイ”も奪うつもりか。ま、当然と言えば当然だ。

彼が向かったのはスカイデッキだろうと、キッドはそうアタリをつけた。テロリスト達にしてみれば、とりあえず目の前のお宝をいただかない手はない。

結果として、これで会長の仕掛けたワナはこれで無効化できたことになる。先程、充分に下見が出来なかったせいで、鈴木会長がキッド対策としてどんな仕掛けを施したのか、まだ把握しきれてなかった事を思えば、うれしい誤算と言えなくもないが。

・・・テロリストから奪い返さなきゃならなくなったのは、それはそれで面倒だな。

本格的にテロリスト相手に仕事をしなければならないことを思って、キッドは今日、何度目になるかわからない溜息をついた。

───さて、どうする?

獲物奪取は日が暮れてからと宣言してあるものの、それまで悠長に構えている状況でなくなったことは確かだ。今後、どう動くべきか、それが問題である。

・・・名探偵が爆弾解除に動いてくれてるけど、それで事態が好転するかどうか───

実際、事態は良くない方向へ転がり始めていたのだ。

 

「そういえば、子供達がいないんじゃない?」

何気ない様子で発したTVクルーの女性の一言。

・・・・・・・おいおい。何で今、そんな事言うかな。もしかして、オネーサンもテロリストの仲間だったりします?

思わずそうツッコミを入れずにはいられなかったが、実はテロリストの仲間はウエイトレスの女性にもいたようだった。探偵バッチで小さな名探偵とやり取りしていた少女を目ざとく見つけると、あろうことか子供相手に手を上げたのだ。

何もできないキッドはぐっと唇を噛む。

───バレたぞ。名探偵・・・!

ここにはいない小さな名探偵を想う。さすがに少年探偵団の子供達連れでは、テロリスト集団には敵うまい。キッドが思ったとおり、程なくして小さな名探偵をはじめ子供達が銃を持った男達に連行されてきてしまった。ジ・エンドである。

テロリストのリーダー格の男が解除された爆弾を手に、忌々しそうに子供達を睨みつけたが、勇敢にも小さな名探偵は他の子供達をかばうように、やったのは自分1人だと豪語して見せた。その姿勢は尊敬に値するが。

・・・ま、実際、それは事実なんだろうけど。

だが、その強気はどうだろうとキッドは思った。高校生探偵の姿ならいざ知らず、今は小学生の子供なのだ。どうせなら子供らしさを全面に、うっかり玩具だと思ってやっちゃったくらい言った方が、もしかしたらこの場は何とか丸く収まったかもしれない。

そもそも簡易の爆弾とはいえ、普通に考えれば子供が解除できるなんて考えるのも無理はあるのだが、テロリストはそこは気にするつもりはないらしい。子供にも実力行使ときた。

男が今は小さな体の名探偵に近寄った時、キッドは殴り倒されるのかと思った。が、真実は予想をはるかに超えて、男は小さな名探偵の体を掴み上げると、そのまま飛行船の窓から投げ捨てたのだ。

今まで事態を傍観していたキッドも、これにはさすがに動かずにはいられない。

「コナン君っっ!!!」

悲鳴を上げて窓に駆け寄る毛利蘭を制し、間髪入れずに自ら外へ飛び込んだ。形振り構ってはいられない。今、この瞬間だけは、キッドは何もかも忘れて、ただ目の前にある小さな名探偵だけを見つめていた。

 

□□□     □□□     □□□




雲を切り裂きながら、先に見える小さな体を何とか抱き寄せる。自分に翼があった事を、今ほど感謝したことはなかった。

「大丈夫か?名探偵。」

「・・・キッドっ!」

声をかけてやると、小さな名探偵がもともと大きな瞳を一層を大きく見開いた。その顔は、どうしてここにいるんだと言わんばかりだ。

・・・ってか、オレがいなかったら、間違いなく天国行きだったと思うけどね?

まるであの状況を1人で何とかできたとでも言いたそうな小さな名探偵に、キッドは意地悪い笑みを浮かべ、言ってやる。

「まさか、窓から放り投げるなんてなぁ。どうする、名探偵?これで降参か?」

「んなわけねーだろっっ!早く飛行船に戻れっっっ!!」

・・・そうしたいのは、ヤマヤマだけどね。

飛行船はもうはるか上空。それを見つめながら、キッドも息をついた。いくら非常事態だったからとはいえ、こんな形で戦線離脱させられるハメになるとは。

「・・・無茶言うな。オレのグライダーにはエンジンはついてねーんだから。ってゆーか、とりあえず、礼の1つくらい言ったって、バチは当たらないんじゃないのかな、名探偵?せっかく助けてあげたのにさ。」

「うるせー、バーロー!」

期待してはいなかったが、何ともかわいくない返答だ。

「にしても、ケンカするなら相手を選んだ方がいいよ?こんなところで無駄死する気か?」

「・・・ほっとけ。大体、奴らがオレを飛行船から投げたのは、お前をおびき出す為だったかもしれないだろ!」

「は?」

「だから。“レディ・スカイ”を奪いに怪盗キッドが飛行船に乗り込んでいると奴らも想定してたとしてだ。お前がこうやってオレを助けに行く事を見越して、邪魔者を排除したのかもしれないってことさ。」

「・・・・・・・・なるほど。」

確かにその線はなくはない。

「だとしたら、この状況はお前のせいだろ。責任を取れ。」

「え?いや・・・オレだけのせいとは限らないんじゃないかなぁ?この場合・・・。」

キッドは苦笑すると、これ以上、生意気な口を利かれないよう大きくグライダーを旋回させ、どこか適当な着地地点はないか、探し始めたのだった。

 

 

To be continued

 


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