Heart Rules The Mind

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NOVEL


Noisy Life

 

 オレの名前は、黒羽 快斗。

 表向きにはごく普通の高校生だけど、実ははもう一つ裏の顔があったりする。
 なんと、平成のアルセーヌ・ルパンだなんて言われちゃうほど有名な
 あの『怪盗キッド』なんだよね、これが。

 この2つの顔を持つ生活も、今ではすっかりなじんじゃって
 かえってその切り替えが楽しかったりもするわけなんだ。

 で、そんなオレにも愛しいヒトがいるんだけどさ、何を隠そう相手は
 あの名探偵工藤新一。
 今は、厄介なクスリのせいで、江戸川コナンなんていう小学生のガキんちょに
 なっちまってるのが悲しいところだけどね。

 一応、告白なんかもしちゃってて(もちろんオレから)、俗に言うコイビト同士の
 はずなんだけど、新一ときたら、素直じゃなくてちっとも自分の気持ちをオレに
 ぶつけてくれないのがちょっとだけ淋しい。

 もしかして、あんまりオレのこと好きじゃないのかな?なんて、ガラにも無く
 不安を覚えたりすることも実は少なくないんだ、本当は。
 オレって実は案外デリケートだったりするんだよな。
 きっと新一は知らないだろうけどね。

 今日も今日とて、学校を終えてまっすぐ新一に会いに来ちゃうあたり、
 オレってば、愛があるよなぁ〜。

 なんてことを思いつつ、行きなれた毛利探偵事務所の扉をノックする。
 ドアの向こうから、元気の良い女の子の声がした。

 「は〜い、どちらさま?」

 「こんちわ、蘭ちゃん。オレです、黒羽。」

 「あ、黒羽君?ちょっと待って、今開けるから。」

 オレはそのまま蘭ちゃんがドアを開けてくれるのを待つ。
 あ、もちろん蘭ちゃんや、あの眠りの小五郎氏ともすっかり顔なじみなんだよね。
 ほら、だってさ。
 できれば、家族公認で暖かくお付きあいした方が、今後のタメでしょ?

 「お待たせ、ごめんね。ちょっとお鍋に火をかけてたから・・・。」

 なるほど、ドアを開けると食事の支度をしていたのか、いい匂いがした。

 「こっちこそ、忙しいトコごめん。」

 オレはエプロン姿の蘭ちゃんを、なかなか可愛いじゃん♪なんて思いながら
 ウインクして、そう言った。

 「あ、コナン君でしょ?ごめん、今日、出かけてるの。」

 え?もう、夜の8時近いのに?
 お子様はとっくに帰宅の時間じゃねーの?

 「なんでも、学校の行事とかで打合せするって阿笠博士の所に行ってるのよ。
 帰りは遅くなりそうなんだけど・・・。」

 ・・・そうなんだ。

 「わかった。じゃあ、そっちに行ってみるよ。ありがと、蘭ちゃん。」

 オレはにっこり彼女に笑顔を送って、毛利探偵事務所を後にした。
 そのまままっすぐ阿笠邸に向かう。

 実は、阿笠邸でもオレはすっかり常連客。
 なんと言っても、怪盗キッドであることすらバレている始末だし。
 ま、それは仕方ないんだけどね。

 新一がどっちかというと、阿笠邸に入り浸る気持ちはよくわかる。
 「コナン」になってしまった事実を知る、数少ない身近な人たちのいる所だし。
 余計な気づかいは不要で、気が楽なんだろうな。

 あの小さな体には重すぎる心の負担。

 少しでもそれを軽減させる事が、オレにも手伝えるといいんだけどね。

 *      *      *      *      *     *      *

 「おや、黒羽君!」

 「こんばんわ、新一、来てます?」

 阿笠邸のインターフォンを鳴らすと、白衣姿の博士がドアを開けてくれた。
 オレが新一を追って、ここを訪ねて来ることもすっかりおなじみのことなので
 博士はにっこり笑うだけで、すぐ中へ上げてくれる。

 リビングへ向かうと、何やら新一と哀ちゃんの討論している声が聞こえてきた。

 「だったらさ、いっそのこと事件物にしねーか?!
 それだったら、オレでもネタなら思いつくぜ。」

 「いいわよ。じゃあ、お得意の殺人事件物ね?」

 はて?何の話だろう?
 オレは首を傾げながら、リビングのドアを開けた。

 とたんに、中にいた二人がオレへ視線を向ける。

 「よ!お二人さん。こんばんわ!」

 片手を軽く上げて、しかもウインクまで付けて挨拶したのに、だ!
 新一の第一声は、なんだったと思う?

 「なんだ、快斗か。なんか急用か?じゃなきゃ、オレ、今忙しいんだけど。」

 ・・・そりゃないだろ?新一。

 哀ちゃんにいたっては、興味なさげにもう視線を逸らしてるしさ。

 オレががっくり肩を落としていると、後ろから博士の声がした。

 「いや、なんでも新一たちのクラスで創作劇をしなくちゃならないそうでな。
 二人でシナリオを作る係になってしまったそうじゃぞ。」

 へ?創作劇?

 「そうなんだよ。夏休み中にある登校日に、父兄を招いて学芸会みたいなもんを
 やるみたいでさ。クラス単位で創作劇をするんだと。
 シナリオ全部、自分達で考えるんだぜ?めんどくせー!」

 はぁ、そうなんだ。
 小学生もたいへんだな・・・。

 とは言うものの・・・。
 意外に楽しそうジャン、新一?

 いっつもオレが小学生扱いするとメチャメチャ起こるくせにさ!
 まじめにそんな学校の行事に参加しちゃうなんて。
 ちぇ〜!

 オレにはわからない小学校の話題で盛り上がる二人に
 ちょっとだけ、イジケてみたりして。

 「工藤君、無駄口叩いてる時間ないわよ?明日までにシナリオを
 完成させなくちゃならないんだから!」

 哀ちゃんのその声に新一は、おう、と答えると、再び視線を
 オレから机の方へ戻した。

 「じゃあ、とりあえず殺人事件物ということで決まりね?
 そう・・・まずは犯人像ね。凶器は何にする?」

 哀ちゃんがどうやら書記係のようで、決定事項をメモしている。

 「・・・そうだな。ナイフとか・・・ありふれてるけど、やっぱアレかな?
 最近、児童がキレてナイフとかで切りつける事件とかも多いから
 下手に父兄を刺激しかねないかな?」

 おいおい、それを言うなら、創作劇で殺人事件を取り上げる事自体に
 問題があると思うけど?
 ・・・なんていうオレの心配をよそに二人の会話は繰り広げられていく。

 「そうね・・・。なら、毒殺なんていうのはどう?
 一般的に出回ってる薬を上手く化合させて劇薬を作るの。」

 「お前が言うと、シャレになんねーな。
 でも、ダメだ。真似する奴がいたら困るし。」

 「あら、そんな簡単に真似なんてできないような複雑なものにするわよ?」

 そういう問題じゃないだろう?!
 夏休みに小学1年生が父兄に見せる創作劇なんだろう?
 もっと、ほら夢のある話とかがあるじゃねーか!

 白雪姫でも、シンデレラでも。
 あんなカンジでメルヘンくさいものでいいんじゃねーの?

 どこの世界に小学1年生の劇に、本物の劇薬に関する化合式まで
 期待する親がいるんだよ?!

 オレはなんだか頭を抱え込みたくなった。
 なんでよりにもよって、この二人でシナリオ担当になったんだろう?

 すると、ふいに新一から声がかけられる。

 「快斗、おまえさ、用がないなら帰れば?
 見てのとおり、オレ、今日は時間作れそうにないし。
 このまま博士んとこ泊まるからさ。」

 ・・・あ、そう。
 悪意は全く無いんだろうけど、オレにとってはかなりキツイ一言。

 落ち込んだオレの様子にすら、まるで気が付かない新一は
 もう視線をオレから逸らして、シナリオの事で夢中だ。

 恨めしそうにその新一の姿を見るオレは、ふと哀ちゃんと目が合った。
 と、彼女はクスリと小さく笑ったんだぜ?
 しかもちょこっと意地悪そうに見えたのは、オレの被害妄想なのか?!

 とにもかくにも相手にしてもらえないのでは、確かにいても意味が無いので
 オレは泣く泣く阿笠邸を後にしたのだった。

 *      *      *      *      *     *      *

 数日後、新一の、いや『江戸川 コナン』の通う小学校の校門の前で
 オレは新一の出てくるのを待った。
 時間的にはそろそろ下校するはず。

 すると、ゴミ箱を抱えて焼却炉の方から戻ってきた哀ちゃんを見かけた。

 彼女も目ざとくオレを見つけると、そのままオレのそばへやってきた。

 「ずいぶんと過保護な保護者さんね。工藤君はまだ教室よ。
 少年探偵団の子たちに捕まってたから、しばらくは解放されないかも。」

 「ふーん、そっか。いいや、ここで待ってるから。」

 そう答えると、彼女はクスリと笑った。
 顔は子供なのに、表情はまるで大人の女のそれだ。
 ・・・って当り前か。ほんとはこんなガキじゃねーんだもんな。

 「こんなところまで追いかけてくるとは余程の急用なのかしら?」

 そんな彼女にオレはムッとしながら答える。

 「今日は模擬テストでちょうどこっちまで来てたんだよ!
 だから、ついで!!」

 ・・・とは、言うものの、まぁ、実際急ぎの用でもあるんだけどね。
 だって、今晩じゃ間に合わないから。

 「そんなことより、こないだモメてた創作劇のシナリオはちゃんと上がったわけ?」

 オレがそう切り返すと、彼女はさも当然のように頷いた。

 「ええ、もちろん。でも、担任の先生に却下されたの。
 私達としては、完璧な作品を提出したつもりだったんだけどね。
 今、少年探偵団の子たちががんばって創作中よ。」

 ・・・・ああ、やっぱり。
 あんな内容じゃあな・・・。作品のレベルはともかく・・・。

 「それにしても、哀ちゃんも新一も意外に小学生ライフ、満喫してんじゃん。」

 そう言いながら、転がっている小さな石ころを蹴飛ばすと
 彼女は一瞬、オレを見、それから空へと視線を移した。

 「・・・こんなふうに生きた心地がするのって生まれて初めてなの。
 今まで組織にいたときは、まるで感じなかった感情が次から次へと
 生まれてきて・・・。

 私、今となっては、こんな変化を起こしてくれたあの薬に感謝しているのかも
 しれない。
 ずっと、ずっとこのままでいられたら・・・。」

 「新一はこのままでいたいとは、思っていないよ。」

 オレがそう言うと、彼女の瞳がふと悲しい色を灯した。

 「なぁ、哀ちゃん、別に哀ちゃんがこのまま『灰原哀』として生きていくか
 それとも『宮野志保』に戻るのかは、自分で決める事だけどさ、
 オレ達はみんなもう出会って、友達になった。
 それは変わらないだろう?中身は一緒なんだからさ。
 そんなに『今』にこだわらなくていいと思うけどな。」

 オレの言葉に彼女はきれいに笑った。

 「・・・ありがとう。あなたに慰められるなんてね。」

 オレもにっこり笑顔を返した。
 彼女の本来の姿は見たこと無いけど、きっとすっげーいい女なんだろうなと
 ふと思った。

 そこへ、時計のアラームが響く。

 やべー!時間だ。そろそろ行かねーと!

 「何か、予定があるの?」

 そう聞いてきた哀ちゃんに、オレは胸ポケットから封筒をだした。
 ほんとは、ほら、こないだ渡しそびれたんだ。

 「悪いけど、頼まれてくれる?それ、新一に渡してほしいんだ。」

 すると、彼女は黙って受け取ってくれた。
 表情から察するに、中身を解ってくれたらしい。

 ほんとは新一に直接渡したかったんだけど、仕方ない。
 オレはそのまま哀ちゃんに別れを告げて、小学校を後にした。

 *      *      *      *      *     *      *

 それから、哀はゴミ箱を抱えて教室へ戻った。

 中では少年探偵団の子供達を相手に、新一がゲームの攻略法を
 伝授しているところである。

 哀はそのまままっすぐ、新一の目の前に行き、
 先ほど快斗から預かった真っ白いその封筒を差し出した。

 「何だよ?これ。」

 不思議そうに眺める新一に、哀は端的に言葉を紡いだ。

 「黒羽君から。」

 すると、新一はその封筒を握り締めると、目を輝かせて
 一目散に教室を出て行った。

 「ごめん!!オレ、急用ができたから帰る!!」

 「ええ〜?!」

 ぶーたれる子供達を残して。

 「ねぇ、灰原さん、あの手紙なぁに?もしかしてラブレター?」

 心配そうに訪ねる歩美に向かって哀は微笑んで、さぁ?とだけ答えた。

 確かに。
 ラブレターでないとは、言い切れないだろう。
 何せ平成のアルセーヌ・ルパンと評される彼が、小さな名探偵のために
 送る予告状なのだから。

 さて、平成のホームズさん、急いだ方がいいわよ?
 おそらく、予告日は今日に違いないのだから。

 「心配しなくても、ちゃんと愛されてるわよ、黒羽君?」

 猛ダッシュで校庭を走り抜けていく小さな陰を見ながら、
 哀は誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いたのであった。

                      END
 

 


弥生さまからのリクエストにお応えして・・・。
新一・快斗・哀の3人が出てくるお話で
新一と哀がクラスメートなのを羨ましがる快斗!というリク!!
はっきり言って新鮮なリクエストで、書いている私はものすごく楽しかったのですが(笑)
微妙にずれてませんか?ドキドキ・・・。
哀ちゃんが大好きという弥生さま、私も哀ちゃん、大好きです!!
・・・こんなので、すみません。

2001.07.08

 

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