Heart Rules The Mind

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NOVEL




ACT.15

 

「衛星兵器の破壊、確認しました。」

「トレミー、戦闘エリアを離脱したです。」

ブリッジ内にフェルトとミレイナの声がそう響くのを合図に、ぴんと糸の様に張り詰めていた緊張が解れた。それはミッションが完了したことを意味する。

スメラギが「みんなのおかげよ」と微笑むと、ブリッジはようやくいつもの和んだ雰囲気を取り戻す。その様子を沙慈は1人、ただ呆然と見ていた。

「・・・これが、CBの戦い・・・。」

今までも彼らが必死で戦っている様子は見てきたつもりだった。だが、今回の衛星兵器破壊ミッションはすさまじいものだった。ただブリッジで座っている事しかできなかった沙慈ですら、それを感じていた。

スメラギの完璧な戦術があったにせよ、ガンダムマイスター達の完璧な連携がなければ、トレミーはいつ衛星兵器に撃ち落されてしまっても不思議ではなったように思える。

───すごい・・・。

それは沙慈の率直な感想だった。CBとして戦う彼らの覚悟を見せ付けられた気がした。ここまで彼らが命をかけて戦っているのだと。

 

だが、ほっとしたのもつかの間だった。

「Eセンサーに反応!敵機です!!」

フェルトのその声に、再びブリッジに緊張が走る。

「何ですって?!」

眉を吊り上げるスメラギに、ラッセが振り向いた。

「おい、どうする?!」

「アリオス、ケルディム、セラヴィともにトランザムシステム既に限界地に達しています!」

「・・・やってくれるわね。GN粒子を使い切ったところに奇襲だなんて。もうトレミーの足じゃ、逃げられない。」

フェルトの進言に、スメラギは爪を噛んだ。だが、実際、先の戦闘でCBの戦力は完全に消費しきっている。これ以上、戦う余力は残っていなかった。

「敵MA、来ますっっ!!」

フェルトの声と同時に、激しい衝撃がトレミーを襲う。もはや逃げ道はなかった。あっという間に敵に囲まれ、トレミーは集中砲火を浴びる。爆音とともにブリッジ内にも悲鳴が響いた。

・・・そんな・・・。せっかく衛星兵器を破壊できたのに。まさかこんなところで?!

沙慈がそう唇を噛み締めた時、スメラギが凛とした声を張り上げた。

「もう逃げ道は1つしかない。次に被弾したら、その衝撃を利用してトレミー最大加速。同時にスモークを噴射し船体を覆いつつ、地球へ降下します!」

「マジかよ?!そんな強行突破、上手く行くかどうか・・・」

声を上げるラッセに、スメラギは頷いて見せた。

「他に方法はないわ。」

「・・・・了解。どの道、ここにいたらヤツらに蜂の巣にされちまうからな!」

 

「・・・え?!地球に降下───!?」

いきなりなその作戦に、沙慈は驚いて目を見開く。他に方法がないからと言って、いくらなんでも無謀ではないだろうか。が、そんな沙慈をマリーが振り返って冷静に見つめた。

「クロスロードさん、口を開いていると舌を噛みますよ。」

その声に慌てて沙慈は口を閉じる。

やがて、激しい衝撃を受けたトレミーは一気に加速し、地球へと落ちていく。青い地球が見えたのは一瞬で、すぐさま白いスモークに視界は覆われた。

大気圏突入の震動の中、沙慈はぎゅっと唇を噛み締める。頭に過ぎるのは、今度こそ、死ぬかもしれないという恐怖。

───ルイスに会えないまま、こんなところで死んだら・・・・!!

ルイスと会って、ちゃんと話をするまで死ぬわけにはいかない。だけど、もし本当にここで死ぬようなことがあったら。

ふと脳裏に刹那の顔が浮かんだ。衛星兵器破壊ミッション開始から、別れたきりの刹那は今、どうしているのか。

 

───刹那・・・・。あの時、刹那を殴ってしまった事、謝っておきたかったな。

そう思ったところで、沙慈の意識は闇に吸い込まれてしまった。

 

■■■     ■■■     ■■■

 

敵の奇襲を受けて地球圏に落下したトレミーは、緑豊かな山岳地帯に不時着していた。スメラギの咄嗟の機転により、無事逃げ遂せる事が出来たのである。結果として命拾いしたのはいいが、船体は燦々たる状況だった。

「やれやれ、まったく酷い状況だな・・・。」

ラグランジュ3の戦闘の折に負傷したケガからようやく回復したイアンは、これまでのいきさつをスメラギらから聞いた後、改めて外から船体をぐるりと見回すと、そう溜息をついた。

トレミーの外装部の修理を手伝っていた沙慈は、そんなイアンの姿に気づき、思わず駆け寄った。

「イアンさん!もう大丈夫なんですか?」

「おお、沙慈!心配かけてすまなかったな。もうこのとおりだ。」

すっかり元気なイアンの様子に、沙慈は心から安堵する。傷ついたイアンを見た時は、一時期どうなるかと思ったのだ。すると、そんな沙慈の肩にイアンは手を乗せて言った。

「沙慈、よくやってくれたな。」

「え?」

「刹那にちゃんとオーライザーを届けてくれたろう?あの時、お前さんのおかげでみんなは救われた。」

「・・・あ、いえ、僕は別に何も・・・・。」

そんな風に改めて言われると、沙慈は何だか気恥ずかしかった。それでもイアンは沙慈の肩をばんばんと叩き、「よくやった」と褒め称えた。

「ダブルオーライザーの戦いっぷりをこの目で見ることができなかったのが、残念だが。ってか、まさか刹那とはぐれちまってるとはな。」

宇宙で別れたきりの刹那の事は、沙慈も気がかりである。

「どうするんですか?」

そう沙慈が尋ねると、イアンがううーんと唸って頭をかいた。

「刹那のダブルオーライザーと合流したくても、肝心の管制通信システムやセンサー類がイカレちまってる以上、その補修が済まない限りはこっちから連絡の取りようがないからな。」

「・・・・刹那・・・・大丈夫なのかな?」

思わず出た沙慈の言葉に、イアンは苦笑する。

「まぁ、アレだ。衛星兵器破壊ミッションが完了し、合流ポイントにトレミーがいなかったことで、刹那のヤツもこっちを必死で探してるだろう。今は運良くアイツに見つけてもらえることを祈るしかないさ。」

それがそんなに簡単なことではないことは、沙慈にもわかる。だが、今はどうしようもない。沙慈は「そうですね」とただ頷くしかなかった。

「それより、まずトレミーの補修だ。こんなとこ敵さんに見つかりでもしたら、大変だからな。」

イアンの言葉に沙慈は力強くそう頷くと、再び補修作業に入った。

 

───刹那、君は今、どこで何をしているんだろう?

とにかく、無事でいてくれるといい。そう思いながら。

 

■■■     ■■■    ■■■

 

高い空に白い雲が浮かんでいる。青々とした新緑はどこまでも続き、そびえ立つ山はとても雄大に見えた。自分を取り囲む大自然を振り返った沙慈は、草木の匂いの混じる大気を吸い込みながら、この景観の素晴しさを感じていた。

トレミーの被害状況は著しく、ここでどれほどの補修ができるのか、先行きは不透明である。だが、つい先刻までの激しい戦闘がウソのような、こののどかな景色は心に癒しを与えてくれる。

・・・こんなに景色がいいなら、食事は艦内よりも外の方が気持ちがいいかもしれないな・・・って、そんなピクニック気分じゃないけど。

沙慈は苦笑しながら、穴の開いたトレミーの外壁の補修作業を続ける。

すると、そんな沙慈の目の端にロックオンが映る。何気なしにその姿を沙慈は目で追うと、ロックオンは携帯端末を片手に岩陰に腰を下ろした。誰かと通信している様子だ。

わざわざ外で通信するあたり、自分以外にもこの自然を楽しむ者がいるのだと沙慈は小さく笑う。と、そんなロックオンを追うようにして現れたアニューの姿も目に入った。長身の2人が談笑している姿は、どこか恋人同士のようにも見える。そんな時、人恋しさが感じられずにはいられない沙慈だった。

やがて話が終わったのか、アニューが先にトレミーの中へ入り、それを追いかけるようにロックオンがやってきた。うっかり視線を送ってしまった沙慈は、ロックオンと目が合ってしまう。

「どうかしたか?」

ロックオンが唇の端を持ち上げてそう笑うのに、沙慈はさっと目を逸らす。

「・・・いえ、お似合いだなって思って。」

うっかり出た言葉に沙慈自身、すぐ余計な事を言ってしまったと後悔したが、もう遅い。言われたロックオン本人もポカンと口を開けていた。

「何だ?焼いてるのか?」

「まさか。違いますよ。」

即座に否定する沙慈に、ロックオンは人の悪い笑いを浮かべる。

「そういえばそうだ。アンタには、アロウズにかわいい彼女がいるみたいだしな?」

「・・・・どうしてそれを───

思わず作業を止めて目を見開いた沙慈に、ロックオンはニヤリとした。

「こないだアンタが刹那と派手にやり合ってるのを偶然、見ちまったもんでね。あの時のパンチはなかなかだったな。」

見られたくない現場を見られていたと、沙慈はぐっと歯を噛み締める。だが、そんな沙慈を面白そうにロックオンは眺めて言った。

「オレとしては、てっきりアンタはオーライザーをかっぱらって、トレミーを飛び出すと踏んでいたんだが。よかったよ。カタロンの二の舞いにならずに済んで。」

そう言われると、沙慈は何も返すことはできなかった。結果的に思いとどまったとはいえ、ロックオンの言うようにトレミーを飛び出そうとした事は事実なのだ。俯く沙慈に、ロックオンは思い出したように付け加えた。

「・・・結局、刹那の言うとおりだったってわけだ。」

「え?」

「いや、こっちの話。それより、彼女の事、どう思う?」

「彼女?」

いきなり変わった話題に沙慈は首を傾げる。

「アニュー・リターナーさ。」

出てきた名前に、沙慈はやっぱりロックオンとアニューはそういう関係なんだろうかと、変に勘ぐってしまう。

「ああ、えっと・・・。美人だと思いますけど。それにとても優秀だってイアンさんが・・・。」

しかし、それにはロックオンは「だよな。」と苦笑しただけだった。もしかして、自分は的外れなことを言ったのだろうかと沙慈は思った。

「アニューさんが、どうかしたんですか?」

「別に。ただいろいろ完璧過ぎだと思ってね。」

「どういうことですか?」

───いや、何でもない。忘れてくれ。」

それだけ言って、ロックオンは沙慈の脇を通り過ぎて行く。何か思案している風な彼の姿を沙慈はだた何も言わずに見送る事しか出来なかった。

 

■■■     ■■■     ■■■

 

やがて陽が傾きかけ、大きな夕陽が山々を照らす。修作業を行なっていた沙慈は、一段落したところでトレミーの中へ入ることにした。イーティングルームへ行くと、マリーが皆の分の食事を用意しているところだった。食事を取る間もなく、全員がトレミーの修復作業に当たっているからである。

「あ、クロスロードさん、お疲れ様です。外壁の補修、どうですか?」

「まだ完全に塞がるまでは・・・。」

「そうですか。大変ですね。」

言いながら、食事の入ったトレイをいくつも重ねて持とうとするマリーに、沙慈は自らの手を差し出した。

「僕も手伝います。みんなに配るんですよね。」

「ありがとうございます。」

マリーはそう微笑むと、トレイのいくつかを沙慈に渡した。それを受け取りながら、沙慈は奥のテーブルの脇にコップに刺した小さな花を見つけた。名も知らない小さな白い花だ。

「あの花は?」

「山の斜面で咲いていたんです。」

「綺麗ですね。」

沙慈はトレイを抱えたまま、花を近くで見ようとテーブルの奥へと行った。すると、バランスが崩れて沙慈の腕からトレイの1つが落ちてしまう。ガタガタと落ちるトレイとともに、テーブルに乗っていた花の入ったコップも床に落ち、派手な音を立てて割れた。

「す、すみません!!」

とんだ失態だと沙慈は慌てる。散乱したトレイーは幸い、食品が零れる事はなかったが、床は砕け散ったコップの破片と水で汚れてしまった。

「大丈夫ですか?ケガは?」

マリーがトレイを置いて心配そうに駆け寄ったが、沙慈はせっかく彼女が摘んだ花を落としてしまったことが申し訳なくて仕方がない。

「僕は何とも。それよりすみません、花を・・・。」

「それはまた別のものに刺し替えますから。今、破片を片付けるもの、借りてきます。」

マリーはそう言うと、部屋を出て行く。沙慈は申し訳無さそうにマリーを見送って、部屋にあるペーパーナフキンでとりあえず濡れてしまった床を拭っておいた。そして小さな破片はともかく、大きなものは拾えるだろうと、沙慈は砕けたコップのいくつかを拾い始める。

「・・・痛っ!」

その鋭利な破片の1つが、沙慈の手に刺さる。気をつけてつかんでいたつもりだったのにと、沙慈は痛んだ指先を見る。そこには小さな切り傷ができ、真っ赤な血がみるみる浮かび上がってくるところだった。

瞬間、何故だかわからないが、妙な胸騒ぎがした。

 

───何だろう?何かよくない感じが・・・。まさか、刹那に何か?

根拠のない不安が沙慈の中に広がっていったのだった。

 

To be continued

なんだが、沙慈があんまり出番なかったのでいろいろ捏造してみました。
個人的にはアニューさんをナンパしちゃってるライルは、何か考え合ってのことだとうれしいなぁ。
沙慈が手を切った時、ちょうど刹那もアリーに撃たれたんです・・・みたいな感じで。

 

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