Heart Rules The Mind

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NOVEL




ACT.16

 

2機のMSの奇襲をセラヴィとアリオスでかわしたトレミーは、夜通しの修復作業の結果、何とか航行できるまでに回復した。とはいえ、依然、各システムには不具合も多く、アロウズが来たらひとたまりもない状態であることには変わりはない。

沙慈も、 イアンとともに不眠不休で修復作業を手伝っていた。それは強制されたわけではなく、自ら望んでしたことだ。もちろん今はそういう状況でもあったし、何かやることがあった方が余計なことを考えずに済んで 、ありがたいというのが沙慈の本音ではあったが。

無心で作業している沙慈の目の前にコーヒーが差し出される。見ると、マリーが微笑んでいた。

「クロスロードさん、少し休憩にしませんか?」

振り返るとイアンも笑って頷き、その横にはミレイナが「お疲れ様です」と手を振っていた。沙慈も薄っすら笑顔を浮かべると、作業していた手を止めた。そうして、4人でカップに入ったコーヒーを飲みながら、ちょっとしたブレイクタイムとなった。

───え?カタロンから補給を?」

沙慈がそう尋ねると、ミレイナが得意げに人去り指を立てて「はいです」と説明を始める。

「ありがたいことに、カタロンのヨーロッパ支部さんから補給物資を調達させてもらえるとのことで、現在、その補給部隊との合流ポイントへ向かってるです。」

トレミーの被害状況を思えば、それは朗報だった。沙慈もほっとして、思わず顔が緩む。しかし、ふとその話に疑問を持った。

「・・・でも、カタロンの人達はずいぶんCBに協力的なんですね。前にCBは、カタロンと手を組むことを断ったのに。」

「まぁ、そのへんは持ちつ持たれつってとこだろうな。」

頭をかきながら苦笑するイアンに、ミレイナもにっこり続ける。

「いろいろとコネクションもあるですよ。とにかく、カタロンさんには感謝です。」

ミレイナのそのコネという言葉に多少引っかかりはしたものの、沙慈はそれ以上の追究はやめ、黙ってコーヒーに口をつける。と、イアンが先程よりは少し険しい表情で語った。

「今は一刻も早く補給を受け、連邦の包囲網を抜け出さんとな。」

「それもしてもです。ここ最近、トレミーの位置がどうも敵さんにバレバレな感じなのが気になるです。」

「え?こっちの動きがバレて?!」

沙慈が驚いて目を見開くと、ミレイナが神妙な顔で頷く。

「そうとしか思えないくらい、ピンポイントで襲撃を受けてるですよ。偶然にしては、デキ過ぎです。」

「確かに、こっちの動きがどうも読まれてる感はあるな。ま、よっぽど向こうの上官にキレ者がいるのかもしれないが。」

イアンも渋い顔で言った。すると、沙慈の横で先程からずっと黙ったままのマリーの細い眉が僅かに寄せられる。沙慈はそんなマリーの様子に気づいた。けれども、マリーは何も言う事もなく、程なくブレイクタイムは終了し、みな作業に戻った。

沙慈はふと気になって、マリーの背中に声をかける。

「どうかしたんですか?」

マリーは何も言わずに沙慈を振り返った。沙慈はそんなマリーに続ける。

「・・・あ、いやあの。さっき、何か言いたそうだったように見えたから。」

すると、マリーはすっとその瞳を細めた。

───時々、声がするんです。」

「・・・声?誰の?」

「・・・わかりません。でも、誰かの呼びかける声が。私じゃない誰かに向けて。」

勘の鋭いマリーがまた何かを感じ取っているのだろうか。沙慈はそう思った。だが、誰かの呼びかける声が聞こえたとして、それがどういう意味があるのか。沙慈にはわからない。

その呼びかける声に対して、この艦に応答しているものがいるかもしれないと言いたいマリーの言葉は、沙慈には正確には伝わらなかった。

 

□□□     □□□     □□□

 

そうして、トレミーは無事、カタロンとの合流を果たし、補給物資を受け取る事が出来、補修作業にも一層、拍車がかかった。

夜通しの作業の中、MSデッキの脇でしゃがみこみ、仮眠を取っていた沙慈は、ふと人の気配がして目を覚ました。

そこにはミレイナに毛布をかけているティエリアの姿があった。ティエリアといえば、沙慈には容赦なく、辛い現実を目の当たりにさせるような厳しい言葉を告げる人物だ。そんな彼がふと垣間見せた優しさに、沙慈の頬も緩んだ。

「・・・優しいんですね。」

思わず声にしてしまった言葉に沙慈自身驚いたが、ティエリアも眼鏡の奥の瞳を僅かに見開いた。

「起きていたのか。」

「今、ちょうど目が覚めて。」

「そうか。起こしてしまったのならすまない。君もよくやってくれているようだな。」

「・・・いえ。この艦に居させてもらってる以上、僕にもできることをさせてもらってるだけで・・・。」

膝を抱えた格好で沙慈は返す。と、ティエリアは沙慈の前へと足を進めた。

───何故、トレミーに残ることを選んだ?」

「そう改めて言われると、なかなか難しいんですけど。いろんな理由があって・・・。でも、とりあえず、今の僕にはここでやることができたんです。」

「やること?何だ、それは?」

ティエリアの真っ直ぐに伸びた髪が揺れる。沙慈は膝を抱え込んだ両手にぎゅっと力を込めて、ティエリアの問いに答えた。

「助けたい人がいるんです。」

 

───ルイスを。

何としても、彼女をアロウズから助け出さなくてはならない。

 

それは決して譲れない沙慈の願いだ。沙慈のその決意をどう感じたのか、ティエリアは「そうか」と短く返しただけだった。

2人の間に微妙な沈黙が落ちる。沙慈は能面のように何の感情を映さないティエリアの顔を向いて、ずっと気にかけていることを聞いてみた。

「・・・あの。刹那とは、まだ連絡は───

「ああ、まだ連絡は取れてはいない。だが、我々がカタロンから補給を受けた事で、刹那もカタロンと接触していれば、情報を得ることもあるだろう。」

刹那の安否が確認取れていないことは沙慈には心配の種だったが、それでもティエリアの表情にはそんな心配は微塵もない。

「刹那は必ず戻ってくる───そう信じている。」

確信めいたように告げるティエリアの言葉に、沙慈はふと安堵する。

初めて沙慈がこの艦に乗った時、ガンダムマイスター同士のさばさばした関係をどこか、冷たいもののように感じた。もちろん、今だって彼らには馴れ合うような親しい関係ではないように見える。だが、そこにはやはり堅い絆がある。沙慈にはそう思えた。

彼らは1人で戦っているんじゃない。仲間なのだと。

 

───刹那、君は今、どうしてるんだろう?

君に会いたい。会って、ちゃんと話がしたい。

沙慈はそう思わずにはいられなかった。

 

□□□     □□□     □□□

 

やがて、トレミーは地球に来て二度目の奇襲を受けることとなる。敵の総数は36機。新型のMAまで導入しての総力戦を仕掛けられ、苦戦を強いられた。

ダブルオーライザー抜きの3機のガンダムと、まだ本調子でないトレミーのシステムでは圧倒的不利な状況だった。そして、このままでは、万事休すというその時、突如としてアロウズは撤退していったのだ。

それがアフリカタワーで起きた連邦軍のクーデターによるものだとCBが知ったのは、カタロンからの情報によってだった。

 

「起動エレベーターが占拠されただなんて、一体・・・?」

ブリッジでスメラギらのやりとりを聞いていた沙慈には、ますます世界が混乱して行く様子に眉を顰めた。

「連邦の中でも統制が取れてなかったってことだな。」

ラッセの言葉に、スメラギも頷く。

「独立治安維持部隊としてのアロウズは、圧倒的なまでに武力を拡大して、強大になり過ぎた。中東への衛星兵器の使用のことなど踏まえれば、反旗を翻す人達がいても不思議じゃないわね・・・。」

ブリッジに上がってきているガンダムマイスター達も、TV中継されているクーデターのニュースに釘付けだった。

「連邦にも話せるヤツがいるじゃねーか。」

そうロックオンが皮肉めいた笑いをした横で、アレルヤが神妙な面持ちをする。

「つまり、アロウズが撤退したのも、このクーデターを鎮圧するため。───で、どうするんです?スメラギさん。」

みんなの視線がスメラギに注目した。ロックオンはこのクーデターを機に動いているだろうカタロンとともにCBも動くべきだと主張するが、スメラギは少々腑に落ちない顔をしていた。

そもそもヴェーダを掌握しているイノベイターが、今回の騒動に気づかないなんてことがあるだろうか。その可能性は低いとスメラギは判断する。全てを予測して見逃していたのかもしれないと考える方が妥当だ。

「つまり、スメラギ・李・ノリエガは彼らが何か企んでいると?」

眼鏡の淵を上げながらそう言うティエリアに、スメラギは首を縦に降ろした。

「そう考えた方がつじつまが合うわ。どんな狙いがあるのかはわからないけど。」

そのスメラギの考えには、一同は納得したように押し黙る。ヴェーダもイノベイターのこともわからない沙慈には、彼らの話が良く見えないが、それでも彼らの敵対するものがアロウズの更に上にもいると、そう感じとることはできた。そして、今、迂闊に動く事はCBにとっても危険な状況なのかもしれないということも。

ニュースではクーデター軍が占拠したアフリカタワーに多くの民間人が閉じ込められてしまったことを伝えている。

「・・・・あの人達、どうなるんですか?」

不安な顔で誰とはなしに沙慈は聞いた。

「クーデター軍にとって大事な人質だ。交渉の道具として使うんだろうさ。」

ラッセが振り向いてそう言うと、沙慈は「人質・・・」と繰り返して俯くしかない。だが、追い討ちをかけるようにロックオンが続ける。

「だが、相手はアロウズだ。民間人を盾に取られても、平気で手を出してくる可能性は充分にあるぜ?」

「そんな・・・!」

思わず、沙慈は声を上げた。また多くの人が戦争に巻き込まれて、命を落とすことになるのかもしれない。それは限りない恐怖だった。

「ともかくだ。アロウズが動き出す以上、黙って見過ごすわけにはいかないだろ。」

ラッセがもう一度振り向いて、スメラギを見つめる。アロウズが動き出すという言葉に、沙慈も反応した。

───そうだ。ルイスもきっとそこへ・・・・

やがて、意を決したようにスメラギが発した。

「イノベイターが何を企んでいるにしても、それを解き明かすには現地に行くしかないわね。それにクーデターの情報を刹那が知ったら───。」

その彼女の言葉には、その場にいた全員が弾かれたように顔を上げた。

───そう。当然、刹那もアフリカタワーへ向かうはずだろうと、誰もがそう思ったのだ。ようやくにして、ダブルオーライザーとの合流の機会を得たかもしれないと、ブリッジは俄かに明るさを取り戻した。

・・・刹那とやっと会える・・・

そう思うと、沙慈もどこかほっとした。

こうして、クーデター軍に占拠されたアフリカタワーへ、トレミーは進路を向けたのだった。

 

 

To be continued

 

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