Heart Rules The Mind

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NOVEL




ACT.22

 

月へ向けて進行するトレミーと、そこで待ち構えるアロウズ艦隊との戦闘がいよいよ始まった。

激戦のさなか、粒子かく乱の為のアンチフィールドが展開された事によって、CBは攻撃力の低下を強いられる。圧倒的な数を持って仕掛けてくるアロウズに対し、 思わしくない戦況が続いていた。

「・・・刹那!粒子ビームが───

《わかっている!》

視界の悪い中、次から次へと現れる敵はキリがない。沙慈に届く刹那の声も、苛立っていた。焦りから、嫌な汗が沙慈の背中を伝う。それでも 見守る事しか出来ない自分に、沙慈は唇を噛み締める。

だが、突然、状況は一転した。CBとは別方向からアロウズを攻撃する、新たな艦隊がこの宙域に現れたのだ。

「・・・援軍?!」

明らかにこちらを援護してくれているその様子に、沙慈は目を見開く。 と、その艦隊の正体を刹那が明かした。

───カタロンか。》

・・・カタロンが来てくれた?!もしかして、ロックオンさんが───

沙慈の頭にふとそんな思いが過る。だが、援軍はカタロンだけではなかった。正規軍までが現れ、アロウズに対抗するように攻撃を開始したのだ。

「あれは、連邦のMS・・・?」

クーデター派がまだいたんだろうかと、沙慈は小首を傾げる。

カティ・マネキン大佐率いる正規軍が打倒アロウズを掲げて決起していた事など、もちろん沙慈の知るところではない。そして、その彼女が戦術予報師として、スメラギに勝るとも劣らない存在である事も。

ともかく、カタロン、正規軍両軍の援護もあって、アロウズ艦隊は見る見る内に分断されていく。結果、無事、ガンダムとトレミーはアンチフィールドを抜け出す事に成功し、あとはもう正面中央 のアロウズの艦隊を突破するだけとなった。

すると。

《ガンダムは母艦の防衛に専念せよ。繰り返す、ガンダムは母艦の防衛に専念せよ。》

予期せぬ相手からの通信に、沙慈は目を見張る。

「これって、連邦軍からの───?」

ただ援護してくれるだけではなく、こちらに協力的なその姿勢に沙慈は驚きを隠せない。しかし、先行して敵艦を突破しようとしていた刹那を含む他のガンダムらは、すぐそれに従うよう動きを止めた。

「刹那・・・。」

《指示通り、トレミーの防衛を優先する。》

刹那がそう言うのは、あの正規軍の指示が信頼できる戦術に基づいているものだと判断したからだろう。沙慈もそこで敢えて意見することもない。トレミーの防衛に専念できるなら、それに越したことはないのだ。

刹那はトレミーに向けて襲い来る敵MSを切り捨てる。一方、沙慈は ルイスの姿を探していた。粒子ビームが光の矢のように行き交う中、アロウズだけでなくカタロン、正規軍のMSが入り乱れる状況では、それは容易な事ではない。それでも、諦めるわけにはいかないのだ。だが、どこを探してもルイスの機体は見当たらなかった。

・・・ルイス!一体、どこにいるんだ?!

「刹那・・・。ルイスがいない・・・どこにも彼女の機体が───

───ああ。イノベイターもいない。月の向こうに潜んでいるのか・・・。》

「じゃあ、ルイスもそこに?!」

《その可能性はある。》

刹那のその応えに、沙慈は月を見た。月の向こうにはイノベイターと呼ばれる者達の本拠地があると言う。ルイスはイノベイターらと共に、そこで待ち構えているのだろうか。

すると。

《全部隊に告ぐ!即座に回避行動を取れ!来るぞ!攻撃が来るっっ!!》

突然、声を上げた刹那に、沙慈は驚いて辺りを見渡す。しかし、刹那が何に対して注意を呼びかけたのか、沙慈にはわからない。

瞬間、目も眩むような閃光。

一瞬にして視界を奪われた沙慈には、何が起きたのか理解できなかった。ただ戦場を飲み込んだ光の眩しさと衝撃に、ぎゅっと瞳を閉じて耐えることしか。

やがて光は通り過ぎ、辺りは静寂に包まれる。先程まであんなに激しく続いていたはずの戦闘がぴたりと止んでいた。

・・・・何でこんなに静かなんだろう?

不自然な静けさに違和感を覚える。そうして、視力を回復した沙慈の瞳に映ったのは、すっかり変わり果てた戦場だった。辺りには、無残な残骸が漂っているだけ。あの禍々しい光が圧倒的な破壊力を持って 、全てを消し去ったのだ。

「・・・こんな・・・!酷い・・・!」

そのあまりの惨状に沙慈は震えた。

《イノベイターの仕業か・・・。》

低い刹那の声には、憤りが込められているのか。沙慈はふと我に返った。

「・・・・あ!みんなは!?」

慌てて辺りを見回す。後方に位置するトレミーは、右舷を損傷ながらも無事のようだ。そして、その周辺にガンダム3機とGNアーチャーも確認できた。

───よかった・・・。

沙慈はほっと胸を撫で下ろす。だが、その一方で、カタロンは相当なダメージを受けた様だった。いや、カタロンだけではない。アロウズの被害もかなりなものだった。そうして、これ以上、戦えないと判断したのか、アロウズ艦隊は徐々に後退を始める。

「アロウズが───撤退していく・・・?」

月への道が開けたと、沙慈が思ったのもつかの間。突如として、前方に何かが出現して、沙慈は目を見張った。

「・・・何・・・?」

《奴らの母艦だ。あそこにヴェーダが。》

「あれが・・・艦?あんな大型の?まるで・・・小惑星みたいじゃないか。」

これから立ち向かうべき敵の真の姿を目の当たりにして、沙慈は愕然とする。先の脅威的な攻撃も、あそこから放たれたものなのだ。あんな巨大な敵を相手に、どう太刀打ちするつもりなのかと、思わず悲観的になる。

《各艦に通達します》

そこへいきなり、トレミーからの通信が割って入った。声の主はスメラギだ。沙慈は喉まで出掛かった絶望的な言葉を飲み込んで、その声に耳を傾けた。

《我々CBはこれより敵大型母艦に進行し、そこにある量子型演算システムヴェーダの奪還作戦を開始します。ここに、これまで協力していただいた多くの方々への感謝と、戦死された方々に哀悼の意を表します。》

淡々と告げられるスメラギの言葉は、沙慈の胸に重く沈んでいく。伝わってくるのは、彼女の覚悟と決意。これより先は、CBである自分達でケリをつけると、そう言っていた。そして、スメラギはCBメンバーに向けて、なおも続ける。

───いい?みんな。ヴェーダを奪還・・・最悪、破壊してでも敵母艦の動きを止めるのよ。》

絶対にやり遂げねばならないという意志を持って、告げられる言葉。もちろん、それが簡単ではないことは誰もが承知の上だろう。だが、こんな時ですら、刹那はいつもと変わらぬ様子で、《了解》とだけ応えていた。

《みんな、行きましょう。私達が世界を変えた事への償いを───そのけじめをつけましょう。イノベイターの支配から世界を開放し、再び世界を変えましょう。未来の為に───

スメラギの“世界を変えた事への償い”というフレーズは、いつかイアンが言っていた“戦争を失くしてから罰を受ける”というのと似ている。

CBの武力介入は、もとを正せば世界中から戦争を失くすためのもの 。自ら武力行使する事が矛盾を抱え、罪である事を認識した上で、それでもなお彼らが戦ってきたのは、全て世界の平和の為だった。

今はそれがわからないではない沙慈だから、そんな悲愴な覚悟を聞くのは辛い。

 

どうして、こんな風に戦わなければならなかったんだろう。

どうして、解り合うことができないんだろう。

ただ、みんな平和に幸せに暮らしたいだけなのに。

どうして───

 

そんな沙慈の悲痛な思いを他所に、CBはとうとうラストミッションをスタートした。

 

□□□     □□□     □□□

 

トレミーはGNフィールドを最大に展開し、敵母艦に向けて進行を開始 した。

《行くぞ、沙慈!敵の砲台を叩き、進行ルートを確保する。》

刹那はそう言うと、沙慈の返事を待たずしてダブルオーライザーを敵母艦に向け、加速させた。粒子ビームが雨のように降り注ぐ中、突進して行く様は、ほとんど自殺行為だと沙慈は思わずにはいられない。

だが、刹那の操るガンダムは綺麗に旋回しながら、いとも簡単にそれらをかわして行く。まるで、ビームがこちらを避けてくれているのかと錯覚するくらいなのだから、刹那の腕は相当なものだ。

やがて、敵母艦の砲台が射程距離に入った。

「敵の砲台って、あんなに・・・・!?」

さすが大型艦だけあって、砲台の数も桁違いである。たった4機のガンダムだけでは、かなり厳しい。その上、状況は更に悪化した。

「MS部隊が・・・!」

《・・・新型?イノベイターか!?》

「刹那っ!すごい数だよ!!・・・え?まさか!」

《トランザムだと!?》

まるで蜘蛛の子を散らしたかのように現れた大量のMS部隊は、いっせいにトランザムを起動させ、そのまま真っ直ぐ突っ込んで 来る。それはガンダムにだけでなく、トレミーに対しても、GNフィールドを食い破るようにして次々と激突していった。

「刹那!トレミーが───! あの機体、体当たりを!!」

《特攻か!》

「そんな・・・!MSを特攻兵器に使うなんて───

そんな戦い方があるだろうか。無茶苦茶だと沙慈は思った。刹那も必死で迎撃するが、とても捌き切れる量ではない。そのうち、窮地に陥るトレミーを庇うように、カタロンの艦隊が盾となった。もちろんそんなカタロンにも特攻の雨は止まない。

「カタロンの人達が・・・!!」

《やめろ───っっ!》

刹那の叫びも空しく、トレミーの盾となったカタロンの艦が無残に撃沈していく。沙慈はその光景に目を覆うしかなかった。

あっけなく散っていく人の命。
目の前で次々と起きる残酷な現実に、沙慈は涙した。

「・・・酷い。こんなの酷過ぎるよ・・・。」

激闘が続く中、沙慈はまだルイスの姿は見つけられない。こんな悲しい戦場のどこかで、ルイスも戦っているのだろうかと、沙慈はやるせない気持ちになった。
 

□□□     □□□     □□□

 

やがて、トレミーは敵母艦への侵入ポイントを艦専用のドック入り口に定めると、一気にトランザムで加速する。

《これより、トレミーは敵母艦に侵入します。システムスキャンし、ヴェーダの捜索を開始。ヴェーダを発見次第、マイスターに転送します。》

沙慈のもとにも、フェルトの通信が届く。一向に敵の攻撃が緩む気配もない中、トレミーが敵母艦へと突っ込んで行くのを、沙慈は心配げに見送った。

すると、今度はティエリアの声が入った。

《戦術どおり、こちらも散開して敵母艦に侵入する。》

《了解。》

刹那の声に、他のマイスター達の声も重なった。ヴェーダを取り戻す為、いよいよ敵母艦内部に侵入し、MSによる白兵戦を開始するのである。迫り来る巨大な敵母艦を前に、沙慈はふと思った。

───あんなところに侵入して、みんな無事に帰って来れるのかな。

散り散りに消えていく他のガンダムを見つめる。まさか、彼らを見るのがこれが最後になったりはしないだろうかと、嫌な不安が過ぎった。

《沙慈、侵入するぞ!》

刹那に声をかけられて、沙慈は自分の中に生まれた弱気を、慌てて打ち消した。

「・・・あ、ああ!」

《どうした?怖いのか?》

───そうだね。怖くないと言えば、嘘になるけど・・・。でも、ルイスを助け出すまでは、僕も戦うって決めたんだ。大丈夫だよ。」

それに刹那と一緒なら、きっと大丈夫。そう心を落ち着ける。すると、刹那は《了解した》とだけ返した。

そうして、ダブルオーライザーは敵母艦に向けて加速して行く。流れる戦場を目に、沙慈は胸に思いを秘めた。

 

───僕も・・・僕も世界を変えたいんだ。

悲しみと憎しみに溢れたこの世界を。

誰かが犠牲になって戦う事なんてないように。

 

“自分だけ平和ならいいのか?”

それはかつて刹那に言われた言葉。あの時、酷く衝撃を受けたのは、自覚はなくともそんな自分を思い知らされたからだと、今はわかる。そしてそう思えるのは、あの頃に比べて、きっと自分のいる世界を知ることができたから。

 

刹那・・・。僕はCBではないけど。

CBのみんなと───刹那と一緒に居られて良かったよ。

 

この戦いが終わったら、刹那に伝えたい。沙慈はそう思った。

 

 

To be continued

 

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