Heart Rules The Mind

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NOVEL




ACT.6
 

深海でまさかのアロウズからの奇襲を受けたプトレマイオスは、一時は浸水もし、危機的状況に陥った。

海水で水浸しになったMSデッキに見た時、さすがに沙慈もこのままやられてしまうのかと思わずにはいられなかったが、結果から言えば、それは余計な心配だった。

刹那達ガンダム4機の奮闘と、さらに地上から予期せぬ援軍が現れたおかげで事無きを得たからである。

 

平穏を取り戻した艦内の中、イーティングルームを通りがかった沙慈は、まだそこに誰もいないのを確認してドリンクを取りに入った。

カタロンがCBに加勢したという情報は、沙慈の耳にも届いていた。

・・・どうしてカタロンが?CBとカタロンに何か繋がりでもあるのか?

そんなことを思いながらドリンクに口をつけると、そこにまだパイロットスーツ姿のままのロックオンが入ってきた。

何て声をかけるべきかわからず、とりあえず沙慈が小さく会釈だけすると、ロックオンもニヤリと笑顔を返す。

ロックオンもドリンクを取りに来たようで、沙慈はすっとその場を譲った。

そんな2人の間に微妙な沈黙が落ちる。

沙慈はそれに耐えかねて、口を開いた。

「・・・あ、あの。カタロンが助けてくれたって聞いたんですけど・・・。」

「まぁな。援護って言っても、大した戦力にはなっちゃいねーと思うけど。」

「でも、一体どうしてカタロンが?」

「そりゃカタロンにとっちゃ、CBに恩を売っておくのは悪い話じゃないからな。」

ドリンクのストローを咥えたまま唇の端を持ち上げるロックオンに、沙慈は首を傾げる。

ロックオンの言いたいことがわからない。

「どういう意味ですか?」

「カタロンは反政府組織として各地で活動はしてはいるものの、資金も戦力も不足がちでね。何しろMSでさえ、GNドライブ搭載型に非対応の旧式のものしか用意できないかよわい組織だ。そんな彼らにとって、CBのいや、ガンダムの力は喉から手が出るほど欲しいってことさ。」

カタロンのそんな内情など初めて知った沙慈は、目を丸くした。

「じゃあ、カタロンの人達はCBと手を組もうとして?」

「利害は一致してるんだ。カタロンとしては、勢力拡大のためにもそうしたいところだろうけどな。」

「CBはどうするつもりなんですか?」

「さぁね?」

どうなるかはわからないと言った風な口振りでロックオンはただ苦笑していた。

 

そこへ。

「ロックオン・ストラトス。」

突然、刹那の声が割って入った。相変わらずの無表情で、ロックオンをその瞳に映している。

「これからスメラギ・李・ノリエガとともにカタロンの施設へ向かう。ロックオン、お前も同行しろ。」

すると、沙慈の横に立つロックオンの口元が緩い笑みを象った。

「へぇ?いいのか?オレも行っても?」

「オレはティエリアとともにスメラギ・李・ノリエガの乗せた小型輸送船で行く。お前にはケルディムでアリオスとともにオレ達を先導してもらう。」

愛想なくそう応じる刹那に、ロックオンは「了解」と言って片手を挙げて見せた。

と、それまでロックオンに向いていた刹那の目が沙慈へ向く。

「お前もだ。沙慈・クロスロード。」

「え?」

突然、そう言われても何のことだか沙慈にはわからない。どういうことだと問いかけるより先に、刹那は言い放った。

「お前にもカタロンの施設へ同行してもらう。」

刹那のその言葉に、沙慈はその目を大きく見開いた。

 

ルブアルハリ砂漠上空。

沙慈は刹那に言われるまま、カタロンの施設へと向かう小型輸送船に乗せられた。

正面に座るスメラギとは目を合わせないよう俯く姿勢の沙慈は、正直、この場に居る自分に後悔で一杯だった。

スメラギ達がカタロンに行くのはわかる。

ロックオンに先程聞いた話からして、両者が手を組むとか組まないとかそういう話し合いが行なわれるのだろう。

だが、そこにただの民間人である自分が必要なわけがない。

考えればわかることだった。

理由もなく、沙慈を刹那達がカタロンに連れて行くわけがない。

おそらくその理由とは。

───僕をプトレマイオスから降ろすつもりなんだ・・・。

刹那もスメラギも沙慈をカタロンの施設へ連れて行く事に関して、特に何も言わないのがその証拠である。

沙慈は膝の上で拳を握り締めるしかなかった。


 

■■■   ■■■   ■■■


 

カタロンの施設に到着すると、早速、会談が行なわれた。

その場に同席させられた沙慈だったが、やはり話は思ったとおりの展開になった。

刹那が早々に沙慈の保護をカタロンに申し入れ、カタロン側もそれをあっさりと了承してしまったのである。

もちろん、それには沙慈は反論した。

「ちょっと!そんな勝手に・・・!!」

「そうするのが一番なの。もちろん、貴方にカタロンに入れと言っているわけではないから安心して。ここでは一時的に保護してもらうだけだから。」

スメラギはそう言うが、当然、納得できるわけはない。

沙慈が再び抗議の言葉を続けようとした時、突然、小さな子供達が入ってきた。

無邪気な笑顔を見せるその子供達は、戦争で身寄りを失くしてしまったため、カタロンが保護しているのだという。

すると、カタロン側にいた女性が沙慈を見た。

「悪いけど、子供達の相手をしてもらえるかしら?」

「え?待ってください!僕は───!」

「沙慈君、お願い。私達はこれから話があるから。」

スメラギにもそう言われてしまい、話の様子を窺っていた子供達が沙慈の手を引っ張った。

子供達は「お兄ちゃんが遊んでくれるの?」とうれしそうに沙慈に笑いかける。

そんな笑顔を見せられては、沙慈もそれ以上何も言う事も出来ずにその場を後にするしかなかった。

 

刹那達と別れ、沙慈は別室で子供達を遊ぶ。

無垢な笑顔の子供達が自分と同じ様に大事な人を戦争で失くしているのだと思うと、胸が痛み、改めて戦争を起こす人々への憎しみが湧く。

戦争は許せない。

そこにどんな目的や理由があろうと、戦争をすれば必ず人は死ぬのだ。

沙慈は目を伏せた。

不意に背後に視線を感じて振り返ると、部屋の外から中を窺っている様子の刹那と目が合った。

が、刹那は何も言わずに立ち去ってしまう。

会談が終わったのかと沙慈は子供達の輪から抜け出して、刹那の後を追った。

「刹那!」

声をかけると刹那は足を止め、無言で沙慈を振り返った。

「・・・あ、あの。カタロンとの話し合いは・・・。CBはカタロンと手を組むことになったのか?」

───いや。オレ達CBは、カタロンのように政治的思想で行動しているわけではない。現連邦政権打倒を掲げるカタロンにとって、政府直轄の独立部隊であるアロウズを叩くという点でオレ達と目的が一致しているだけだ。」

刹那が言いたいのは、カタロンの敵は連邦政府だが、CBの敵は連邦ではなくアロウズということだろうか?

沙慈にはよくわからない話だった。

そんな沙慈に、刹那は告げた。

「スメラギ・李・ノリエガが以前、渡した身分証明書はまだ持っているな?カタロンには、いずれお前を安全な町まで送り届けるように話をつけてある。それまでの間、お前はここにいろ。」

「だから、それは!!勝手に決めないでくれ。僕はカタロンに残るなんて、そんな話一言も───!」

「砂漠に設置されたGN粒子散布装置がある限り、この施設が連邦に発見されることはない。オレ達と一緒にいるより、ここは安全だ。」

「安全かどうかなんて話はしていない!僕はただ真実を知りたいんだ!君達が戦うわけを!どうして戦争を起こすのか!それを知るまでは君達と一緒に居たいんだ!!」

戦う理由なら、前にも刹那に問いただした。

だが、返される刹那の答えは漠然としていて、沙慈にはまだよくわからないのだ。

だから、まだ刹那達と離れるわけにはいかない。自分がちゃんと納得できるまでは。

そう思っているだけなのに、刹那は射る様な眼差しを沙慈に向けた。

───それを知ってどうする?どんな理由があろうと、お前は戦いを否定していたんじゃなかったのか?」

「もちろんそうだ!戦いをすれば大勢の人が死んで、残された人は不幸になるんだ!」

言いながら、沙慈は肩越しに子供達を見つめた。

「あの子供達だって戦争の犠牲者だ。君は何も感じないのか?!」

「感じてはいる。」

刹那は小さな声で返しただけで、沙慈の前を通り過ぎていく。沙慈は去っていく刹那の背中に向かって叫んだ。

「だったら、何故戦うんだ?」

「それは前にも言ったはずだ。わかってもらおうとは思わない。」

「僕は・・・っ!」

「沙慈・クロスロード。お前がこの先、オレ達と一緒にいたとしても、納得できる理由など見つかりはしない。いい加減に聞き分けてくれ。お前はここに残って、カタロンの指示に従うんだ。」

「刹那!」

「お前を戦いに巻き込んでしまったことは、悪かったと思っている。恨んでくれて構わない。」

背を向けたまま、刹那はそれだけ言い残すと足早に去っていく。

そんな刹那の後姿を見送りながら、沙慈は唇を噛み締めた。

 

わからない。わからないことだらけだ。

だから、まだ刹那達と別れるわけにはいかないんだ。

君達の戦う理由を、本当の意味で僕が理解できるまで。

もちろん理解したからと言って、納得できるとは思わないけど、それでも

 

沙慈は自分の気持ちを抑えることはできなかった。

だから、刹那達がカタロンの施設から飛び立った時、沙慈は思い立って行動を起こした。 親切なカタロンの構成員の1人に車を借り、刹那達を追って単身砂漠へ飛び出したのだ。

まさか、自分の行く手に連邦軍がいるとも知らずに。

 

そして───

その時、沙慈はまだ気づいてはいなかった。自分が既に戦いの中に身を投じているということに。

だから、自分の言動にどんな影響があるかなどと、考える由もなかったのだ。


 

To be continued

 

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