Heart Rules The Mind

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NOVEL

 


鎮魂歌を聞く前に act.5


 

 

午後9時59分59秒。

フリーパスIDに仕込まれた爆弾のタイマー解除は、時間ギリギリのところで何とか間に合った。

ホテル レッド・キャッスルの建物の塔の上で、キッドもほっと胸を撫で下ろす。

───ったく。一時はどうなるかと思ったけどね。

探偵達を信じていないわけではなかったが、清水 麗子の乱入により、時限装置の解除に手間取っていた時は、キッドも内心、冷や汗ものだったのだ。

とにもかくにも、これにて、事件は解決である。

 

キッドはシルクハットを少し目深に被りなおすと、そのままレッドキャッスルの塔の上から羽を広げて飛び下りた。

飛行中、キッドの頭を過ぎったのは、小さな名探偵が伊東に対し、最後に告げた言葉。

 

“貴方は、最低の人間ですよ”

 

名探偵がこんな台詞を言うとは珍しいと、キッドは思っていた。

どんなに卑劣な犯人に対しても、あまり辛辣な言葉など言ったりしない彼なのに。

それだけ、名探偵も怒っていたということなのだろうか。

何の罪もない子供達の命を危険に晒したというだけで、普通に考えれば、確かに充分、最低な人間だと言える。

だが、それよりも。

結局のところ、この事件そのものが愛する誰かのためではなく、全ては自分のことしか頭になかった伊東の、あくまで独り善がりで自己中心的な考えに怒りを募らせたのかもしれないと、キッドはそう結論付けた 。

 

飛行している間、小さな名探偵が阿笠博士に入れた電話も盗聴することができた。

それによると、爆弾の時限装置は解除できたが、ミラクルランド内に仕掛けられたエリア設定の解除はできていないとのことだった。

しかし、それはIDを回収しさえすれば、問題のない話である。

事実、小さな名探偵は、1つ残らずIDを回収するよう阿笠博士にきちんと指示していた。

IDと言えばだ。

不意に、キッドは鈴木財閥のご令嬢 鈴木 園子から失敬したIDの存在を思い出し、ポケットに入れっぱなしだったそれを片手で取り出した。

「・・・今更だけど、一応返しておくかな。」

IDには、僅かだが黄色のペンキが付着していた。

ファーイーストオフィスでバイク連中を撃退する際に、小さな名探偵が派手に蹴り飛ばしたペンキの缶から飛び散ったものが、ここにもついていたのだ。

───ま、いいか。

すっかりこびりついて取れないペンキの汚れにキッドは苦笑すると、そのままグライダーを旋回させ、ミラクルランド内へと降下していく。

と、目の端にはこのテーマパークの目玉、スーパースネイクが映った。

そういえば、結局、今回の事件のせいで、スーパースネイクは運転を見合わせてしまったまま、閉園してしまったのだ。

少年探偵団の子供達には気の毒な話だった。

と、キッドは思いついたようにニヤリとする。

───ついでに、スーパースネイクを動かしてやるかな。

それは、不憫な子供達へ怪盗キッドからのささやかなプレゼント。

我ながらヤルなぁなどと微笑んだキッドは、当然、この後起こるトラブルのことなど、その時は知る由もないのである。

 

 

□□□     □□□     □□□

 

 

今回の事件の被害者達&警視庁の面々が集まっているミラクルランド内のラウンジでは、千葉刑事が爆弾付のフリーパスIDを回収して回っていた。

残念そうにIDを差し出す子供達の脇で、鈴木 園子嬢が何やら手持ちのバックの中をごそごそと探っている。

「・・・ハンカチ、ハンカチ・・・。あれっっ?無くしたと思ってたのに・・・。」

バックの中から不意に出てきたIDに、彼女は目を丸くする。

日中はあんなに探しても見つからなかったそれが、どうしたことかバックに入っていたのだ。

実は、ラウンジ内に警察関係者の振りをして忍び込んだキッドが、こっそり返却したものなのだが、キッドに奪われたことすら知らない彼女には、真実がわかるわけもない。

「───何これ?ペンキみたいだけど・・・。どこでついたのかな?」

見覚えのない黄色い汚れのついたIDを、園子は不思議そうに眺めていた。

ちょうどその光景を目にした千葉刑事が、当たり前のように園子からもIDを回収したことで、事態は少々ややこしいことになる。

おかげで、トイレに行っていてその場を外していた少年探偵団の1人 小嶋元太のIDが回収されることがなくても、周囲が誰も気づく事がなかったのだから。

 

事実、キッドでさえもそのことに気づいたのは、貸切状態で動き出したスーパースネイクに乗った小さな名探偵達が何やら騒ぎ出してからのことである。

それまでキッドは、楽しそうに両手を挙げてコースターに乗っている彼らの姿を、観覧車の頂上付近で羽を休めて微笑ましく見つめていた。

小さな名探偵につけたままの盗聴器のイヤホンも、そろそろ用済みかと外そうと思った時。

キッドの耳に飛び込んできたのは、「外せ、元太っっ!」という名探偵の叫びだったのだ。

───え?

予期せぬ事態に、キッドは慌てて胸元から双眼鏡を取り出す。

すると、そのレンズ越しに見えたのは、今まさに走り出そうとしているコースターの上、元気に万歳している1人の少年の手首に装着されたままのID。

爆弾付のIDは、警察がすべて回収したはずではなかったか?

回収するからには、きちんと数も確認するはずで、回収漏れがあるとは思えない。

キッドは小首を傾げた。

が、一瞬にして事態を把握する。

「・・・もしかして、オレが返却した鈴木財閥のご令嬢のIDが間違ってカウントされちゃったとか?」

キッドはぽりぽりと頬をかいた。

とんだ失態である。

というか、それ以前にIDを回収する際に、誰が爆弾付のIDを所持していたのか、それくらい確認してから回収しろと、警察に文句も言いたいところであったが。

とりあえず、そんな場合ではない。

キッドは翼を広げ、観覧車の最上部から飛び降りた。

夜風に乗って、そのまま一気にスーパースネイクへと近寄る。

 

スーパースネイクでは、元太の手首からIDを外すことに成功はしたものの、それを上手くキャッチしたはずの服部が、コースターが回転した際に取りこぼすという事態にまで発展していた。

IDは小さな名探偵の後部座席に引っかかっているようであるが。

安全バーで固定されている体では、どうすることもできない。

キック力増強シューズの威力を使って、安全バーを壊そうとまでしている小さな名探偵の姿を双眼鏡で確認しながら飛行するキッドは、さすがにおいおいとツッコミたくなった。

「左足、ケガしてるっていうのに、これ以上悪化させてどうするんだ?」

おまけにあの安全バーは、他の座席のバーとも連動している。

1つ壊せば、他の座席のバーも外れてしまうのだ。

それに気づいた小さな名探偵は、バーの破壊をやめざるを得ない。

今、まさに、コースターはエリア外へと出ようとしていた。

 

キッドは、グライダーを旋回させ、一気にスーパースネイクへと降下する。

そのまま、後ろの座席に引っかかった状態のIDを素早く取り去り、すぐさまグライダーを急上昇させた。

そして、勢いをつけて、IDを空高くへと放つ。

次の瞬間、夜空にはオレンジ色の閃光。

それは、まさにプラスチック爆弾の証だった。

 

今度こそ、本当にジ・エンドである。

スタート地点に無事帰り着いたスーパースネイクを背中に、キッドはやれやれと肩を竦めた。

形的には、東西高校生探偵達の目の前で、いい格好をしたように見えたかもしれない。

実際、彼ら全員の命を救ったのは確かなのだから。

しかし、その原因の一因を作ったとも言えるので、ある意味、当然の結果だった。

「・・・やれやれ。これで名探偵への貸しは帳消しにされそうだ。」

キッドはそうぼやくと、そのままミラクルランドをあとにしたのだった。

 

 

飛び去っていく白い翼を服部が振り返る。

いきなりキッドが現れた理由がわからない彼は、首を傾げた。

「・・・何でアイツ、ここに?」

そんな服部に、1人真実を見抜いていた小さな名探偵は鼻で笑った。

「捜査中もオレ達と一緒にいたからさ。」

 

 

□□□     □□□     □□□

 

 

ミラクルランドの一件が、無事解決した後日。

毛利探偵事務所。

突然、舞い込んだ睡眠薬のCM出演依頼のギャラが、思いの他、高額だったので二つ返事で引き受けた毛利探偵は、そのまま上機嫌で事務所を出て行く。

臨時収入をあてに、飲みにでも行くのかもしれない。

呆れ顔でそれを見送った東西高校生探偵は、ソファに掻けたまま、チェスを続けていた。

 

「───で、工藤は一体、いつ、白馬がキッドの変装やと気づいたんや?」

チェスの黒駒のポーンを持ちながら、服部が言う。

と、腕組みした格好の小さな名探偵はクスリと笑った。

「最初からだよ。登場の仕方からして、胡散臭かったし。確かに変装はバッチリだったけど、何となくオーラが違うんだよな。」

その台詞に“そんなもんか?”と小首を傾げながら、服部は手にしたポーンをチェス盤に置いた。

「けど、そうなると、お前がそのケガしよった時、助けたのもキッドっちゅうことやろ?スーパースネイクでのあのムカツクほど鮮やかな爆弾処理の件も合わせると、キッドに デッカい借りを作ったみたいでオモロないなぁ。」

「・・・確かにな。だが、その借りはチャラにできると思うぜ?」

ニヤリとしながら、小さな名探偵も白駒をさっさと盤上に置いた。

服部は不思議そうに目の前に座る小学生を見返す。

「どういう意味や?」

と、小さな名探偵の眼鏡がキラリと光った。

「お前、キッドが白馬として横浜海洋大に現れた時、オレ達と同じVIPのIDをこれ見よがしに見せたのを覚えてるか?」

「・・・ああ。確か、あの時、アイツも大事な人がミラクルランドに囚われてるとか言って・・・。」

黒駒を置いた後、服部は指を顎に添えながらそう言った。

「あのIDは、園子のIDだ。」

「はぁ?!」

服部は目を丸くする。

小さな名探偵は、白のナイトの駒を手にし、ニヤリとする。

 

「おかしいと思わねーか、服部? 警部達が何故、元太のIDを回収し損ねたのか。」

「・・・そういやそうやな。あんな危険物、きちんと数を確認しないわけもないやろし。」

「後で目暮警部に確認したら、回収したIDの数はあっていたんだ。それで実際、IDを回収した千葉刑事に誰から回収したのか聞いたら、園子からもIDを回収していたらしい。」

「何やて?!鈴木財閥のねーちゃんのIDには、爆弾なんかついてへんやんけっ!あ〜っ・・・!だから、あのガキのが回収漏れになったんやな?!」

「───そ。ちなみに園子のIDもVIP用のIDだ。まぁ、確かに外見はオレ達がしてたのと同じなわけで、間違えて回収されてもおかしくはないけどな。」

小さな名探偵は苦笑して続ける。

「園子はあの日、レッド・キャッスルで開かれる予定だった宿泊客10万人突破のパーティに招待されていたんだ。パーティまでミラクルランドで適当に時間を潰すつもりでうろついていたら、途中でIDを無くしたことに気づいたらしい。」

すると、服部がポンと手を叩いた。

「つまり、無くしたんやのうて、キッドに盗まれたんやな?なるほど・・・。俺らと一緒に捜査するには、VIP用のIDが必要やっちゅうことで、あのねーちゃんのIDは好都合やった ってことか。」

「そういうこと。」

言いながら、小さな名探偵はナイトを盤上に置いた。

「実際、キッドが園子のIDを使用していた証拠もちゃんとある。」

「証拠?」

新たな駒を手にしながら不思議そうに目を丸くした服部に、小さな名探偵は告げた。

「園子の話じゃ、閉園時間を過ぎたあたりに急にバックの中からIDが出てきたんだと。今までどんなに探しても見つからなかったのに、何で出てきたんだか、アイツは不思議がってたけどな。」

「・・・キッドが盗んだIDを返しよったっちゅうワケか。」

その服部の台詞に、小さな名探偵はニヤリとする。

「付いていたんだよ。そのIDに。ファーイーストオフィスでしか付きようがない、黄色のペンキの汚れがな。」

小さな名探偵はファーイーストオフィスでバイクの連中の襲撃を受けた際、服部と二手に分かれた後、ヤツらを撃退する為、ペンキの缶を蹴飛ばしたことを説明した。

その時、飛び散った黄色のペンキが白馬の姿をした怪盗に飛び散っていたことも。

全てを聞いた服部は、なるほどと大きく頷いた。

 

「そういうワケやったんか・・・。けど、全部わかったら、何や むちゃくちゃムカつく話な気がしてきたような・・・・。」

腕組みをし、服部が唸る。

小さな名探偵もそうそうと頷いていた。

「・・・要するに。キッドのヤツがわざわざねーちゃんにIDを返したりせーへんかったら、スーパースネイクであんなに大騒ぎすることなかったんやないか???大体、使用期限の切れたIDを返されて、どないせーっちゅうねんっ!」

「───だから、アイツが爆弾処理をしたのは、ある意味、当然の結果だと思っていーんじゃねーか?」

「・・・ホンマ、はた迷惑なやっちゃなぁ〜。」

すると、小さな手が1つの駒を盤上に置く。

そして、眼鏡をキラリと光らせてこう言った。

「チェックメイト!」

「・・・ああぁ〜!くそっ!負けてしもたっ!」

頭を抱えた服部は、どさっとソファの背もたれに脱力したように寄りかかる。

 

「・・・・・・けど、わからんな。キッドは何のために俺らと一緒におったんや?」

勝負のついたチェスを片付け始めている小さな名探偵を前に、服部は首を捻った。

「キッドは現金輸送車襲撃犯を目撃してからずっと、深山社長が雇った殺し屋に、命を狙われ続けてたからな。ソイツらを片付けようとしたんだろうけど───。」

「ああ・・・。実際、俺らが伊東とやりあってる間、キッドも深山美術館で暴れてたらしいしな。」

ふむといったんは服部も頷く。

だが。

「・・・けど。それやったら、わざわざ白馬に化けて、俺らと捜査なんかせんでも別にいーんやないか?現金輸送車襲撃犯の逮捕は、まぁ、間接的には関係あるかもしれんけど。西尾正治射殺事件の真相なんて、アイツにはどーでもいい話やないか。」

「───確かにな。」

小さな名探偵も納得が行かないといった風に、溜息を零した。

 

「何でや?何で、キッドがそこまでする必要があるんや?」

「・・・・オレが知るかよ。」

小さな名探偵は疲れたようにそう言い捨てると、開いている探偵事務所の窓の外へと視線を投げたのだった。

 

 

□□□     □□□     □□□

 

 

その夜、西の高校生探偵 服部 平次とその幼馴染 遠山 和葉は最終の新幹線で大阪へと帰って行った。

東京駅まで毛利 蘭と見送りに行った小さな名探偵は、たった今、タクシーで毛利探偵事務所前に到着したところである。

タクシーを下りた後、不意に蘭が言った。

「・・・あっ!いけない!牛乳を切らしてるの、忘れてた。ごめん、コナン君。先にうちに帰っててくれる?私、急いで買いに行ってくるから。」

「僕も一緒に行くよ。」

夜道の一人歩きは危険だと、体だけは小さな工藤 新一はそう言ったのだが。

彼の正体を知らない蘭は、にっこりと笑顔を作った。

「大丈夫よ、コナン君。すぐそこまでだから。それにコナン君はまだ松葉杖だし、大変でしょう?」

それだけ言うと、彼女は足早に駆けて行く。

それを見送りながら、確かに松葉杖は大変な小さな名探偵は苦笑するしかなかった。

 

1人ぼっちになった彼は、明かりの落ちた探偵事務所を外から見上げる。

すると、一瞬、人影のようなものが見えた。

「・・・おっちゃん?───いや、違う・・・。」

眼鏡を奥の瞳が、僅かに細められる。

不審に思った小さな名探偵は、松葉杖を使って器用に階段を上り始めた。

 

事務所の扉の前。

小さな手がそっとそのドアを開けると。

 

小さな名探偵は、その瞳を大きく見開いた。

普段は、毛利 小五郎が腰掛けているはずの椅子に、ここにいるはずのない人物が優雅に座っていたのである。

薄暗い部屋でも、はっきりとわかるその純白のコスチューム。

怪盗キッドだった。

 

「やぁ、おかえり。」

笑顔でにっこり出迎えた怪盗に、名探偵はその細い眉をつり上げる。

「・・・キッ、キッドっっ!」

「足の具合はどうかと思ってね。仕事の下見ついでに、ご機嫌伺いに。」

にこやかにそう言う怪盗に、小さな名探偵はその瞳をすっと細めた。

それは、すっかり工藤 新一の表情だった。

 

「───そりゃ、わざわざどうも。機嫌は悪 くはなかったぜ?お前の顔を見るまではな。」

「それはそれは。」

かわいげのないその台詞に、キッドは苦笑した。

小さな名探偵は、そのまま松葉杖を使ってソファまで行くと、杖を脇において、ちょこんとソファに腰を下ろした。

そして、不機嫌そうにその顔を怪盗へと向ける。

「・・・確かに、このケガの時はお前に世話になったみてーだけどな。悪いが、オレはお前に貸しを作ったつもりはねーからな。」

「───だろうね。」

予想どおりの台詞に、キッドは肩を竦めた。

そんな怪盗を前に、探偵は腕組みしてなおも言う。

「大体、お前が余計なことをしてくれたおかげで、スーパースネイクでは嫌な汗を掻くハメになったんだ。安全バーをぶっ壊そうとまでして、足の傷も悪化したしな。」

すっかり全てをお見通しな小さな名探偵殿は、相当おかんむりのようだ。

しかし、それならキッドだって言いたいことはある。

「でも、誰が爆弾付のIDを所持しているのか、きちんと確認した上で警察が回収してくれていれば、あんなことにはならなかったと思うけどね。」

 

 

さて、ここで1つ疑問なのは、何故、爆弾付のIDを所持していた子供達と、事件には無関係なはずの園子が一緒に居たのかということなのであるが。

普通に考えれば、彼女の安全のためにも事件が解決するまで、人質となった子供達と一緒に居させるのはおかしい。

と、いうことはだ。

例えば、警察側は園子も人質の1人と誤認していたのかもしれない。

キッドも小さな名探偵も知らないことだが、実際、馬車道で毛利探偵が目暮警部に人質の子供達の警護をメモで依頼した時、そこには“蘭と子供達”としか伝えてはいなかったのだ。

つまり、誰が人質かということまでは、きちんと説明し切れていないのである。

ただ厳密に言うと、警部達にとっては、ミラクルランドで起きたスリ事件の犯人逮捕の場面から登場したはずの園子が、他の子供達と同じ様に人質だと思われるのは、少し苦しい気もしないでもないが。

もし、キッドにIDを奪われた園子が、再入場の際、IDを再発行されていたとして。

実は、ID回収時に彼女は2個(再発行分とキッドが返却したもの)千葉刑事に渡していたということになれば、トイレで不在だった元太の分も含めて、その場に居た子供達 の人数全員分を回収したことになる。

 

あるいは、園子が鈴木財閥のご令嬢ということで顔パスで再入場していた場合、警察側は園子が人質ではないことを、当然、知っていたとして。

死の恐怖と隣り合わせとなっている真実を、 幼い子供達に告げることなどできるはずもない中、こっそり園子にだけ真実を告げて、避難させることは難しく、やむを得ず一緒に居させていたという状況だったのかもしれない。

そもそも真実を告げて、園子が友達を見捨てていくわけもないのだ。

何か理由を作って、園子だけを他の子供達から引き離すということもできなくはなかったのだろうが、不自然でないようにとなると、それもまた困難を極めたのだろう。

例えば、事前に園子がもともとのIDを紛失している事を何らかの形で警察側がリサーチしていたとした場合、彼女がID回収時に偶然、手にしていたそれを、人質の誰かのもの(=この場合は不在だった元太のもの)と誤認された可能性もなくはない。

 

 

まぁ真実はどうであれ、 キッドが返却した園子のIDがカウントされたことで、ID回収時にトイレで不在だった元太の分が未回収でも、あっさりスルーされたことには違いない。

だが、さすがのキッドも元太がトイレに行く事まで予測できるはずもないワケで。

ただ、キッドにしてみれば、きちんと人質となった子供達一人一人を確認した上で警察が回収しさえすれば、園子の手にIDがあろうがなかろうが、大したことではなかったとそう思っている。

キッドしては、そのあたりを追及したかったのではあるが。

 

「 ・・・・・・ま、確かに園子からIDを回収するなんて、警部達にもいろいろあったのかもしれねーけどな。それでもだ。お前がIDを園子に返したってことが、とりあえず、1番の要因だ。」

ビシッとキッドを指差しそう言い切る小さな名探偵に、さすがのキッドも降参とばかりに両手を挙げるしかなかった。

「そう言われると、否定はできないけどね。───ま、だから、爆弾処理は責任もってやらせていただいたワケで、どうかご勘弁願いたい。」

「・・・ったく。」

 

そして、探偵と怪盗の間に、僅かな沈黙が落ちる。

 

やがて、小さな名探偵が疲れたように息を吐いた。

「・・・にしても、今回はずいぶんと首を突っ込んでくれたじゃねーか。」

けれども、キッドは相変わらずのポーカーフェイス。

悪びれた顔1つすることなく、ニヤニヤと小さな名探偵を見据えていた。

すると、名探偵の眼鏡がするどく光る。

 

「───お前、最初から知ってたんだろう?全てを・・・。」

「それは、現金輸送車襲撃犯と深山社長の関係、そして西尾正治射殺事件の真相のことを言ってるのかな?」

キッドがそうさらりと言ってのけてやると、小さな名探偵は忌々しそうに舌打ちで返した。

椅子の背もたれにゆったりとその背を預けながら、さらにキッドは言う。

「ま、こっち としては、仕事を邪魔してくる連中を排除できればそれで良かったんだけどね。いろいろ調べてるうちに、そういう情報も知ってしまったことは事実かな。ただ、伊東が名探偵達と楽しいゲームをしようと企んでいたのには、さすがに驚いたけどね。」

「それで白馬に変装か?わざわざ探偵のフリまでして、何も知らないオレ達に助言しようだなんて、怪盗キッドもずいぶんとヒマらしいな。」

鼻で笑う名探偵に、怪盗はさも心外そうに言った。

「ヒドイな。あれでも、一応、事件の解決の糸口へと導いてあげたつもりなんだけど?」

「余計なお世話だ。お前の力なんか借りる必要はねーんだよ。」

「───まぁ、それはそうだ。」

キッドも深く頷く。

 

「・・・・・・ とりあえず、聞かせてもらおうじゃねーか。お前がここまで、今回の件に首を突っ込んできた理由をな。」

腕組みしながら溜息交じりに、小さな名探偵が言う。

と、キッドはシルクハットのつばを少々指先で上げて、わざとらしく小首を傾げた。

とぼけているのだ。

無論、ここで小さな名探偵にそれが通じるわけもない。

「仕事の邪魔をする連中の排除だけじゃ飽き足らず、まさかそれらが関わる事件全体をぶっ潰そうとしたってワケでもないんだろう?」

「まぁね。」

たたみかける様に言う名探偵に、怪盗も小さく笑った。

「なら、どういうつもりだ?」

小学生の大きな瞳がキッドを映す。

すると、キッドは掛けていた椅子からゆったりと立ち上がると、背後の窓へと視線を投げた。

「・・・どういうつもり、か。ま、改めて問われるとなかなか難しいんだけどね。」

真っ直ぐと自分を射抜く探偵の目線を感じながら、それでも顔は外を向いたまま答えた。

 

「───しいて言うなら、面白そうだったから・・・・・・かな?」

 

「なっ・・・・!?」

あまりにもふざけたその答えに、小さな名探偵は足の怪我も忘れて立ち上がろうとしてしまう。

が、途端にぶり返した痛みに、少々ソファの上でのたうち回ることになる。

そんな様子を見て、怪盗は肩を揺らして笑った。

「ほらほら・・・。安静にしていないと傷に障るよ?」

「お前が言うなっ!」

涙目で吠える小さな名探偵に、キッドは白いマントを翻すとフワリとデスクを飛び越えて、あっという間にその距離を詰めた。

「とりあえずはこれに懲りて、あまり無茶はしないように。」

言いながら、シルクの手袋をした細い指がコツンと小さな名探偵のおでこを弾いた。

「・・・・テメっ・・・・!」

抗議しようとした小さな名探偵の手が伸びるよりも先に、キッドはその身を翻すと、一気に窓から姿を消す。

明かりの落ちた事務所には、1人、不本意そうな小さな名探偵が残されたのであった。

 

 

そして。

人目を避けるように夜空を舞う白い大きな鳥は。

改めて、何故、自分がこの件に関わったのか自問自答していた。

確かに、名探偵に答えたように“面白かった”というのはウソではない。

だが、本当のところを言えば。

 

名探偵と一緒に居たかった・・・・から?

 

───なんてね。

我ながら、さすがにそれはヤバイだろうと、キッドは自分の思考に苦笑した。

 

そうして、白い翼はそのまま音もなく飛び去っていく。

空には大きな月が綺麗に浮かんでいた。

 

 

 

The End

映画ネタ、終了です。
一応、こういう形で終わってほしかったなぁ・・・というか、こういうシーン入れてほしかったなぁと思いながら、書きました。

ただ1つ、書いてて自分で困ったのは。

ほんとに、何で園子が蘭たちと一緒に居たんだろう?とマジメに考えた時のことなんですが。
映画をフツーに観てた私は、当然、園子は人質とは警察は考えておらず、でも蘭たちに本当のことを言えないので
しかたなく一緒に居させた(問題はあるけど、そのへんは深く考えないで置こう)と思っていたんですね。
なので、IDを千葉刑事が回収する時、千葉刑事が園子のを回収したのは、千葉刑事だけのミスだと思ってました。
その場にいた子供達の数とIDの数だけ照合して、「数は全部あっている」と報告したんだと。
ということは、千葉刑事の中で元太の存在が抹消されていたということになりますが、まぁとにかく、そう思ったんですよ。

ですが、例のラウンジのシーンで(IDを回収する前、目暮警部がみんなにデザートをご馳走したとかなんとかのシーン)。
あそこらへんで、園子の手首が映った時、彼女、IDしてるんですよね〜!
実は、当初、私はそれはミスだと思ってたんですが(キッドに盗まれているはずの園子がIDをしてるのはおかしい)。
だーけーど。
彼女が再入場して来た時、もしIDを再発行されたいたとしたら・・・・とか考えてもみたり・・・・。
実際、再入場の際には彼女は携帯をいじっているシーンしかないので、IDとかまったくわからないんですけどね。

とにかく、園子がどうして蘭たちと一緒にいたのか・・・とかマジメに考えてたらワケわからなくなってきた・・・・。
みなさんは、どうお考えですか?
普通に考えたら、一緒に居させるのはおかしいもんね・・・。
というわけで、本文中にだらだら書いてます。えへ。

とりあえず、私なりの解釈ですv

とにかく、今回の映画は大好きな私なのでした〜vvv
 

 

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