「でも隣の人は誰かなあ?」 「工藤優作氏ですよ。世界的に有名な推理作家です」 いつのまにか二人のそばに来ていた白馬がそう答える。 「じゃあ、工藤くんのお父さん?」 やっぱり素敵なおじさま〜v 今夜は目一杯目の保養が出来ちゃった!とばかりに青子は至極ご機嫌であった。 週明けは、また教室内がやかましいことだろう。 「あの二人が来ることも知らなかったんですか、黒羽くん?」 知らねえよ、と快斗は顔をしかめて白馬を睨む。 「おまえは知ってたのかよ?」 「いいえ、僕も知りませんでした」 そう白馬は首を振ってから、それにしても・・・と言葉を続ける。 「あの有名な父子が一緒にこんな場所に姿を見せるなんて珍しいんじゃないですか?」 あ〜?と快斗は瞳を大きく見開いて瞬かせる。 「んなの知るかよ」 そんなことをオレに聞いてどうする、と今度は呆れたように快斗は白馬を見つめた。 広い会場の上に、この招待客の多さでは快斗の方から声をかけるか近づかない限り、新一が気づくことはまずないだろう。 それでなくても、彼らに関心のある招待客がバリケードのようにまわりを囲んでいるのだから。 「ねえ、快斗!色紙を出して!」 突然腕を掴まれ、青子にそうねだられた快斗は、は?と口をポカンとあける。 「色紙?」 「サインをもらうのよ!こんなチャンス、めったにないんだから!」 「〜〜〜〜」 快斗は脱力しため息を吐く。 「おまえなあ・・そんなもん、持ってきてるわけないだろが」 「いつもの手品で、パパッと出せない?」 あんなあ〜〜 「手品は魔法じゃねえって!タネがなきゃ、なんも出せねえんだよ!」 なあんだ、と青子はガッカリした。 (ったく!青子を見たら気づかれちまうじゃねえか!) 「色紙はありませんが、手帳なら持ってますよ」 白馬がそう言うと青子はパッと瞳を瞬かせた。 余計なことを、と快斗が睨むのも構わずに白馬が手帳を渡すと、青子は嬉しそうに工藤父子のもとへ駆け寄っていった。 おまえなあ・・・と文句を言おうとすると、いきなり当の白馬が自分の方へ顔を寄せてきたので、ギョッとなって快斗は引いた。 な・なんだあ? 「僕にはなんだか役者が揃ったように感じるんですけど、黒羽くんはどう思いますか?」 快斗は眉間を寄せる。 「役者ってなんのだよ?高校生探偵が二人揃ったからなんか事件が起こるってのか?」 「探偵がいるだけで事件は起こりませんよ。そこになんらかの思惑を持った者がいない限りはね」 たとえば怪盗キッドとか・・・・ 「・・・・・・・」 おまえ・・と快斗は細めた目で白馬の顔を見つめる。 「相変わらずなんか勘違いしてねえ?」 いえ、僕は・・と白馬が言いかけたその時。 ふいにポンと何かが破裂したような小さな音がしたかと思うと、会場内に飾られていた花が次々に燃え出していった。 なにっ! 状況を見た白馬は、とっさに快斗の手首を掴んで拘束した。 「おい、白馬!」 火を見て騒ぎだした客たちは、続いてスプリンクラーが作動し、頭の上から水が噴出してくるとさらにパニックが加速されていった。 火はすぐに消えたが、騒ぎはおさまらない。 「くそおっ!やられたか!」 中森警部の悔しげな声が耳に入り、白馬はとっさに宝石が展示されていたケースの法に顔を向けた。 (宝石が消えている?) 黒羽快斗は、今、しっかり自分の手で捕まえているから彼の仕業ではありえない。 では、いったい誰が? 「おい、白馬!いい加減に離せ!青子を放っておくつもりかよ!」 あ!、と白馬は慌てて快斗の手を離す。 そうだ。 彼女はサインをもらうと言って、一人工藤父子の方に向かったんだった。 青子はどこに?とまわりを見るが、、この騒ぎの中、しかも会場の外へ出ようとする者たちの他に二人は飲まれそうになって探せない。 と、ポケットに入れていた快斗の携帯電話にメールが入った。 手にとってみると、それは青子からだった。 「白馬。青子は無事に会場の外に出たようだぜ」 「そうですか!」 良かった、と白馬も安心してホッと息をつく。 廊下に出た二人はすぐに青子の無事な姿を見つけた。 「快斗!白馬くん!」 とりあえず元気に手を振る青子を確認した快斗は、スッと白馬のそばから離れる。 「無事で良かった、中森さん!怪我はありませんか?」 「うん、平気!騒ぎが起きた時、工藤くんが気付いて助けてくれたの」 工藤くんが? 「で、彼は?」 「青子をここまで連れてきてくれてから、どこかへ行っちゃった。それより快斗は?」 え? 白馬は青子に言われて初めて快斗がいないことに気がついた。 (そんな・・!ついさっきまでここに・・・!) パーティ会場のあった階の真上にも、同じようなイベント用の広い部屋があった。 この部屋を、ミスター李が別名で借りていたことを調べることは、さほどむつかしいことではなかった。 だが、警備を担当した警視庁がそのことを全く知らないというのは問題である。 なにしろ、白馬の言った役者がこの部屋に揃っていたのだから。 明かりの消えた部屋を照らすのは金色の月の光。 眼下に街の人工の光が広がる窓の前に立つのは、中国服を着たミスター李。 そして、彼と向き合うように立っているのは工藤優作だった。 「さて。今夜のパーティの本当の意味を話して頂けますかな、ミスター李」 李は薄く笑みを浮かべると、世界的な推理作家である工藤優作に向けて何かを投げてよこした。 それは、青い光を放ちながら優作の手の中に落ちる。 「意味はそれにあります。わかりますか、ミスター工藤?いや・・・”緑のプロフェッサー”とお呼びした方がいいかな」 優作はチラッと李の顔を見るが、別に動揺した様子も見せずに受け取った青い宝石を眺めた。 「ほお?これが”ミステリアスブルー”ですか」 部屋の中を明るく照らす月の光が、優作の手の中にあるビッグジュエルを青く輝かせる。 「生憎と、私は宝石に関しては素人なのでね。専門家の君なら、これをどう見るかな?」 優作がそう尋ねると、尋ねられた相手は光が届かない部屋の隅からゆっくりとその姿を現した。 いつからそこにいたのか、気配を全く感じさせなかった一人の少年が、ニッと口元に笑みを浮かべた。 「それはS・Jですよ」 「では偽物ということか」 優作が肩をすくめて言うと、李はフッと笑った。 「やはり見破られていたか。いとも簡単にS・Jだと見抜くとは、さすがだね怪盗キッド。いや・・”白の魔術師”と言うべきかな」 「あなたの目的はなんです、ミスター李?そのS・Jをミステリアスブルーと呼んだのは、我々を呼び出すためだけではないでしょう」 「勿論。私の本当の目的は、あなた方が守っている神秘の謎を持った”ミステリアスブルー”にある。しかし、そう簡単に会えるとは思っていませんから、まずはあなた方と話をしようと思ったのですよ」 「君も〈永遠〉が欲しいクチかな」 いえ、と李は優作の問いかけに首を振る。 「私が欲しいのは、亡くなった父の遺産。〈パンドラ〉という、父が作った最高傑作のS・Jですよ」 〈パンドラ!〉 「まさか・・命の石を内にはらんでいるという〈パンドラ〉がS・J?」 その通り、と李は微笑みを浮かべながら頷いた。 「それほど意外なことではないでしょう。そんな宝石が自然界に存在すること自体が夢物語。だが、人工的に作られたものであるなら、ありえないことでもない」 「・・・・・・・」 「そして〈パンドラ〉とミステリアスブルーは同じ秘密を共有している。つまり、この二つが〈永遠〉を得るための鍵となるものなんですよ」 まあ、そのことはあなた方も薄々わかっていたことでしょうがね。 「結局、二つともあいつが関わってたってことかよ」 「・・・・・!」 思いがけない方向から聞こえてきた声に、李はギクリとなる。 まさか、この部屋にまだ誰かがいたなど全く気がつかなかった。 キッドと同じように気配を完全に消すことのできる人物・・・いったい? 「いたのか、新一」 いちゃ悪いかよ、とため息をつく優作に対し、少し不機嫌な口調で新一が答える。 快斗までいるとなれば、疎外感はまさにピークだ。 この野郎〜〜と睨む新一を感じて、快斗は困ったように苦笑する。 この場にいたのは偶然であり、別に計画的なものではなかったのだが、新一はそう思っていないようだ。 光が届かない部屋の陰にいるもう一人が、工藤優作の一人息子、工藤新一だということがわかった李だが、その彼が口にした”あいつ”という言葉に引っかかる。 まさか、自分が知りえなかった人物を知っているのか? 「新一!」 工藤新一がゆっくりと月明かりが入る方へと歩を進めるのを見た快斗が、慌ててそれを阻止しようと動いた。 「バ〜カ。もう無意味なんだよ」 新一は腕の中に自分を閉じ込めて李の目から隠そうとする快斗に向けてフンと鼻を鳴らす。 確かにあと一歩遅かった。 快斗の腕の中にいる新一の自分をみる瞳に、李はハッと息を呑む。 右目にだけ当たった月の光が、少年の瞳を蒼く光らせていたのだ。 快斗の肩口から覗く蒼い神秘の瞳が、ふっと笑う。 「情報交換といきませんか、ミスター李?」 「・・・・・・」 守護宝石と呼ばれる者の一人”工藤優作”の息子で、探偵として天才的な才能を発揮しているという少年としか認識していなかった工藤新一が、実は〈ミステリアスブルー〉と呼ばれる稀有の存在であったことを、李はこの時ようやく悟った。 END お誕生日おめでとうございます、ririkaさん! すてきなバースデープレゼントをどうもありがとうございます。 で。完結へんとはいえ、気になるところで終わっている〜〜〜〜っっ でもでも、本当にすてきなお話をどうもありがとうございました。 ririka |
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