Heart Rules The Mind

Novel Dairy Profile Link Mail Top

NOVEL

暗い。

 ただひたすらに真っ暗な闇の中。

 オレ達の乗るスカイ・ジャパン865便は、何事もなかったかのように飛行を続けていた。

 だが、コックピッドであるここには、いるべきはずの操縦士、副操縦士の姿はない。

 いるのは、オレ、江戸川コナンこと工藤新一と

 あともう一人は────

 

 


:: ::  Silver  Sky  :: :: 
 


 

 

 「お前、キッドだろ?」

 

 本来、副操縦士が座るべき席に小さく腰掛けたオレは、隣で操縦桿を握る男に向かってそう言った。

 確信はある。

 俳優の新庄 功さんの顔をしたソイツは、このアクシデントにも関わらず、飛行機の操縦において多少の経験があると言い、自ら操縦席に座った。

 にしたって、この非常時にその余裕な表情はどうだ?

 操縦桿を握るその指は、軽快なリズムを奏でるほど。

 ・・・・ありえねぇ。

 っていうか、それ以前に不自然な点が多すぎる。

 と、なれば、答えは一つしかない。

 

 「何のことだ?」

 シラを切ったって、ムダだ。

 「ばーろ。とぼけんな。 どこの世界に小学生を操縦席に座らせるヤツがいるんだよ?」

 この非常事態でそんなことを言えるのは、オレの正体を知ってるヤツくらいしかいねーだろうが。

 ────そう。 本当は、 このオレが工藤新一であるという真実を。

 と、新庄さんの顔で、ソイツはニヤリと見覚えのある笑みを浮かべた。

 「やっぱ、バレたか。」

 口元には、ヤツ独特の不敵な笑い。

 あっさりと化けの皮を剥いだ怪盗は、新庄さんの声色もやめた。

 

 「今頃、本物の新庄は・・・・・・。」

 「函館の樹里さんの別荘にいる・・・・・・だろ? 大方、パーティの余興のつもりで、キッドの格好で登場させるとか、そんなところだったんじゃないのか?」

 樹里さんの考えそうな事だ。それくらいは想像がつく。

 すると、キッドは当たりとばかりにニッと歯を見せる。

 「さすがだな。 ただ、もう一人、キッドがあれで引き下がるわけないって思ってるヤツがいるだろうから、今頃はソイツと追いかけっこしてるかもな。」

 怪盗らしさを全面に醸し出したその表情で、ぬけぬけとよくも言う。

 だが、キッドの言うとおり。

 今頃、函館ではキッドに扮した新庄さんが、中森警部から必死で逃げ回ってるかもしれない。

 ・・・・・・気の毒に。

 

 

 「それで? 一体いつ、『運命の宝石』をいただくつもりなんだよ?」

 

 ヤツの予告状に隠された本当の意味。

 それは、この函館行きの機内での犯行を示唆したものだった。

 予期せぬ殺人事件など起こってしまったとはいえ、当然、コイツは狙った獲物は奪って帰るつもりだろうと、オレはそう思っていたのだが。

 

 「やめたよ。」

 「やめた?」

 「お前も知ってると思うが、スターサファイアは口に含むと冷たいんだ。アレは偽物だ。」

 

 ・・・・なるほど。アレはそれを確かめるためだったのか。

 オレの頭の中に、樹里さんの手にキスをするヤツの姿が鮮明によみがえった。

 キッドの話では、おそらく樹里さんが舞台の客寄せのために、偽者を本物といつわったんだろうとのことだったが。

 結果、無駄足を踏まされたことになった怪盗は、オレの前でヤレヤレと苦笑してみせる。

 ・・・・・・そりゃそうだ。

 おまけにこんなトラブルにまで巻き込まれりゃーな。

 おめーもツイてなかったなと、オレの隣で飛行機を操縦するハメになったヤツを鼻で笑ってやった。

 

 「どうする? オレを捕まえるか? 探偵君。」

 余裕綽々に微笑むその顔が気にいらないが。

 確かに、今、ここでコイツをどうこうするわけにもいかない。

 だから、オレも小首をちょっと傾げて、斜めにヤツを見上げてやった。

 「ああ。 この巨大な鉄の鳥を巣に戻してからな。」
 

 

 「お前、フラップやギアの操作法は?」

 操縦桿を手に、キッドがそう訊ねる。

 「知ってるよ。ハワイでオヤジにセスナの操縦の仕方を教わったからな。」

 「なるほど?人選は間違ってなかったってワケだ。」

 「ただし、あくまでも地面の上。実際に飛ばしたことはないけどな。」

 オレのその答えに、キッドは上等だと唇を上へつり上げた。

 

 

 

 「────にしても、今日は平成のホームズ君の姿は避けて正解だったな。」

 平成のアルセーヌ・ルパンがそう言う。

 新庄さんの顔をしたソイツが、笑う気配がした。

 「いくらオレでも、あんな華麗な推理ショーまではできないんでね。」

 

 ・・・ぬかせっ! オレの姿で樹里さんの手にキスなんてしやがったら、タダじゃすまさねーぞっ!!

 大体、昨日だって────っ!

 

 キッドを睨みつける。

 その顔はどこからどう見ても、完璧な新庄さんの顔。

 ────そう。相変わらずキッドの変装は完璧だ。

 

 もちろん、昨日も。

 蘭さえもだますほど、コイツは完全に“工藤新一”になりすましていた。

 

 

 久々の“工藤新一”の登場に、湧き上がる周囲の人々。

 歓喜の声はオレの耳には遠く響いて。

 目の前で起こっている現象に眩暈がした。

 “工藤新一”がいる。

 じゃあ、オレは?

 今、ここにいるこの小さな手足のオレは、一体誰だ?

 

 

 ・・・・・・くだらない。

 コイツの悪趣味な登場の仕方に対して、少なからず動揺してしまった自分に呆れた。

 

 ────でも。

 

 今のオレが戻りたくて仕方がない姿を、この怪盗はいとも容易く手に入れることができる。

 そう思うと、キッドが少し憎かった。

 

 

 「・・・何だ?昨日のことを怒ってんのか? 心配しなくても、探偵君の大事な彼女に手なんか出しちゃいないぜ?」

 当たり前だ。 そんなことをしやがったら、マジでぶっ殺すっ!

 「何が気に入らないんだ?彼女にだって、たまには探偵君の顔を拝ませてやった方が・・・」

 

 それ以上は聞きたくなかった。

 目を逸らしたオレに、察したらしいキッドは人の悪い笑みをやめた。

 

 「・・・・・・悪かったよ。少し遊びが過ぎたな。」

 

 ────珍しい。 コイツがふざけもせず、こんな風に謝るなんて。

 あんまり素直に謝ったりするから、すっかり毒気を抜かれてしまったが。

 ・・・っていうか、まずった。

 このふてぶてしい怪盗に、迂闊にも自分の弱みを見せてしまった気がして。

 

 「・・・べっ、別に。 ただ、蘭をあまり刺激して欲しくねーだけだよ!」

 慌てて虚勢を張ってみた・・・が、もう手遅れだったかもしれない。

 

 

 「そういや、昨夜、シオサイトのビルの屋上での探偵君の作戦も、実に見事なもんだったよなぁ?」

 先程のしおらしい態度はどこへやら、目の前で笑うキッドの顔は凶悪だ。

 ・・・にゃろ。

 「ああ、あのパラグライダー、よく出来てたろ?」

 オレも負けじとばかりに、ニヤリと笑ってやった。

 

 とりあえず、この場合、ビルから意図的に飛び降りたことについては触れないでおく。

 ま、当然ヤツが追求したいのは、この部分なのだろうが。

 

 と、ヤツが苦笑いした。

 「・・・まったく。わざわざ助けに飛び降りてやったのに、そこを狙ってくるとはな。けど、オレが本当に悪党だったら、どうするつもりだったんだ?ヘタすりゃ、探偵君一人、パラグライダーで飛行するハメになってたんだぜ?」

 「でも、実際、おめーは飛び降りてきた。 仮定形過去の話なんて、何の意味もねーだろ?大体、オレだって別に、初めからあんな高層ビル、落ちようなんて考えてたわけじゃねぇ。」

 「・・・本当かアヤシイもんだな。 ウソツキは泥棒の始まりだぜ?探偵君!」

 

 言いながら、ヤツは右手を伸ばすと、シートベルトをして身動きの取れないオレのおでこにその指先を持っていき・・・。

 軽くデコピンなんてしやがった。

 ・・・・イテーじゃねーかっっ☆

 

 けど、オレはウソなんか言ってない。

 そもそもあれは、キッドが招いた結果だ。

 容赦なく撃ち込まれるトランプ銃で、足場を奪われたオレには、他に方法はなかった。

 本当にとっさの作戦だったのだ。

 ちょうどいいことに、背中にはキッド追跡用のパラグライダーも背負っていたし。

 

 ・・・・・・まぁ、勝算のありまくる賭けには、違いなかったのだけど。

 おでこを押さえながら、オレはキッドを見返す。

 

 けど、考えてみれば、だ。

 オレにだって、言いたいことはあるぞ?

 

 「・・・・・・おめーこそ、屋上では遠慮なくトランプ銃をぶっぱなしやがって。」

 それこそ、迷うことなくオレ目がけて撃ち込まれたカード。

 ・・・危ないじゃねーかよ。当たったら、どうしてくれる?!

 ジロリと睨んでやったが、怪盗は素知らぬ顔。

 「だって、探偵君はちゃんと避けられてたろ?」

 ・・・って、あのなぁ。

 信用されてるんだか、何なんだか・・・・。

 コイツの相手だけは、ほんっっと疲れる。

 

 溜息をついたオレに、キッドが「ああ、そうそう」と付け足した。

 

 「ハッピー・バースディ。 探偵君。」

 「へ?」

 

 あまりに予想外なその台詞に、オレは思わずマヌケ面してしまったが。

 

 「何だよ?5月4日は、探偵君の誕生日だろ?」

 そういや、今日は5月4日だ。

 ・・・やべー。 また自分の誕生日を忘れてた。

 ってか、何でおめーがそれを?

 隣でニヤけてる怪盗を、オレは見上げる。

 「何で知ってるかって?そりゃ、変装の名人としては、一度化けた人間の簡単なパーソナルデータくらい、頭には入れるようにしてるんでね。」

 ・・・そうだった。コイツはそういうヤツだ。

 新庄さんの顔をしたヤツが、オレににっこりウインクした。

 「誕生日までこんな事件に巻き込まれるとはな。本当、探偵冥利に尽きるってトコか?」

 ・・・・・・・ほっとけ。

 「厄介なことに巻き込まれてんのは、おめーも一緒じゃねーかよっ!」

 オレがそう切り返すと、キッドはそりゃそうだと声を上げて笑った。

 ・・・・・・てめー。楽しそうに笑うなっ。

 

 「余計なこと言ってないで、操縦に集中しろよ?もうすぐ函館なんだからな。」

 「了解♪」

 

 操縦席に座る怪盗は、相変わらず余裕をかましているが。

 

 

 まもなく函館上空。

 機体はいよいよ、着陸態勢に入るのだ。

 くだらない会話をしてる場合じゃない。

 オレは、気を引き締めて暗黒の空を見た。

 

 :: :: The End :: ::

 

やってしまいました、映画ネタ!
まさに今、この時期だからこそっっっ!!!

ええ、もうそれくらいに悶えていますvvv

というわけで、今回のこの話。

新一の姿で颯爽とした怪盗って・・・。見てる私達は楽しいんだけど、普通に新一として考えたら

結構ブルーなんじゃ?という新一ファンの方ならきっと誰でも思われる妄想?を書いてみましたv

このお話製作にあたって、協力をしてくれた綾ちゃん、どうもありがとうv

貴方の記憶力なしにはこれはできあがりませんでした。

っていうか、この話の大筋を、お互い仕事中にメールで全部決めてた私達・・・・。

・・・仕事しろよ?って???

 

Copyright(C)ririka All Rights Reserved.   Since 2001/05/04