トラブルキッド〈中編〉
その古い洋館は東京から車で約3時間、山道を走り高い木々が生い茂る森を抜けた所にひっそりと建っていた。 歴史ある古きヨーロッパの香りを漂わせる赤いレンガ造りの建物。 まわりに他の家がないこともあって、目にすると、まるで外国にでも来たような気分になる。 内部も凝ったヨーロッパ調の造りになっていて、中森青子に言わせると、一歩入ればそこはベルばらの世界だということだった。 「もっお〜〜素敵素敵!」 貴公子のような白馬探にエスコートされて中へ入った青子は、貴族のお姫さまにでもなったような気分に大はしゃぎだった。 緩やかなカーブを描く階段と、広い玄関ホールに下がる豪華なシャンデリア。 建てられてから半世紀たっているとは思えないほど内部は綺麗に保存されていた。 持ち主だった須貝氏が数年前に亡くなってからはずっと空き家状態で、月に一度管理を頼んでいた清掃会社の社員が掃除にくるくらいだったというのだが。 「こんな素敵な家を建て直しちゃうなんて絶対にもったいな〜い!」 青子が真剣な顔でそう主張すると、隣にいた白馬が笑って「違いますよ」と首を振った。 「ペンションにするために内部をちょっと改装するだけで、外装も壁や調度品も殆どそのままです。さすがに半世紀たっているため、痛んだ所もあるようなのでその補修もするそうですが」 「あ、な〜んだ、そうか」 そうだよね、と青子はチロッと可愛く舌を出し首をすくめた。 こんな素敵な洋館を潰すなんてことする筈ないもんね。 今日の青子は、可愛らしいピンクのワンピース姿だった。 軽くウェイブをかけた髪には、白い花の髪飾りをつけていて、まるで花の妖精のような愛らしさだった。 学校では幼馴染みの快斗を相手に元気のいい青子だが、こうして少女らしい格好でいると彼女がとても美少女なのだということがわかる。 今はまだまだ幼さの方が勝っているが、もう2〜3年もすれば誰もが振り向く美人になるだろう。 「やあ、探。君も来たのか」 既にパーティ会場になっているホールにいた招待客の中から、若いカップルに気付いた一人の青年が近寄って声をかけてきた。 20代前半くらいの、甘いマスクをした長身の男だ。 「あなたもいらしてたんですね。てっきり、もう大学に戻られたと思ってましたが」 白馬はそう言って、自分より少し背の高い男に向けニッコリと微笑んだ。 内心では、あまり歓迎しかねる男ではあるが、一応血の繋がった従兄である。 昔からプレーボーイで女との噂が絶えない男だった。 まあ、顔も良く家柄も金もあって、コロンビア大学に通う秀才となれば女の方が放ってはおかないのだろうが。 そのせいか、自分が声をかければ誰もが自分の思い通りになると考えている所がある。 それが白馬にはあまり好ましくなかった。 男は白馬が連れている青子の方に視線を向けた。 「可愛い子だね。君が女の子を連れてくるなんて初めてじゃないか?ようやく、奥手の君にも恋人ができたか」 「彼女はクラスメートです。でも、大事な人ですから手は出さないで下さいね」 「恋人じゃないが手は出すな・・か。君らしいな」 男はそう言うと、青子に向けて微笑んだ。 「はじめまして、お嬢さん。僕は早乙女達矢(さおとめたつや)。探とは従兄弟同士です。よろしく」 「あ・・わたし、中森青子です・・!よろしくお願いします!」 青子は顔を赤くし、焦ったようにペコンと頭を下げた。 その子供っぽい仕草に達矢は苦笑し、白馬の方に顔を寄せた。 「心配するな、探。彼女は可愛いが僕の好みじゃない」 僕の好みはああいう女性だ、と彼はようやく姿を見せた少女の方に向け顎をしゃくった。 そこには鮮やかな赤いチャイナドレスを着た、妖艶な美少女の姿があった。 (あ・・紅子ちゃん!) さすがに、美少女の登場に男性陣は色めきたった。 「あれ?もしかして彼氏連れか?」 達矢は、お目当ての小泉紅子のそばに見知らぬ少年がいるのを見て眉をひそめた。 「いい加減、彼女を追い回すのはやめたらどうです?」 「追い回す?僕が?」 達矢は、白馬に向けてフフンと鼻で笑った。 「その気のない女を追い回すほど、僕は愚かじゃないよ」 だったら・・と白馬が言いかけると達矢は肩をすくめた。 「どうやら彼女、僕の反応をためすつもりで男を連れてきたみたいだな」 あなたを撃退するためにね、と白馬は内心呟くが、どうやら彼は全く逆のことを考えているようだった。 「やれやれ。大人びてはいても、やはり彼女もまだ子供というわけか」 どれ、相手の男を確かめにいってくるかと達矢は楽しそうに笑いながら二人の前から去っていった。 はなっから、自分以上の男はいないと思っているらしい。 「ねえ、白馬くん!やっぱり、あの人が紅子ちゃんにしつこくつきまとってるっていう従兄の人なの!?」 「ええ、そうですよ」 恥ずかしい話ですが。 「すっごいハンサム!快斗、あんな人が相手で大丈夫かなァ?紅子ちゃんはアバタもエクボとか言ってたけど、通用するかな」 青子は心配そうに、まだ扉の所にいる二人を見つめる。 「黒羽くんなら、彼に負けたりはしませんよ」 幼馴染みである青子が彼のことをどう見ているのか知らないが、黒羽快斗は結構綺麗な顔立ちをしているのだ。 いつも悪戯ッ子のように笑ってふざけているので誰も気付かないが、ふとした拍子に見せる表情は思わず白馬も息を呑むほど美しいと思える時があった。 だからこそ、今だに彼が怪盗キッドなのではないかという疑いを捨てきれない。 何度も違うという証拠を見せられているのに。 (だが・・・あの夜の怪盗キッドは黒羽くんではなかった・・・・・) 『魅惑のマーメイド』を狙った怪盗キッド。 あの時の彼を見たのは自分一人だけだったが・・・・ 今も、目に焼き付いて離れない。あの・・・ 月の光の中に浮かび上がった蒼い瞳・・・・・まるで生きた人間とは思えない、全身に震えがくるようなあの美しい瞳が。 黒羽快斗は、あんな瞳をしていない。 では、怪盗キッドは黒羽くんではないというのか? 「お久しぶりですね、紅子さん。今日は、あなたに会えると思って楽しみにしてたんですよ」 「あら、わたしはあなたがアメリカに戻ってくれていることを期待してたわ」 紅子のはっきりとした拒絶の言葉にも男はただ苦笑しただけだった。 こいつが、白馬の従兄・・・なるほど、しつこそうだ。 女好きのする甘いマスクだが、顔立ちはあまり白馬とは似ていない。 さっさとトドメを刺したらいいんじゃねえのかな、と黒羽快斗になりすましている新一は思う。 もし紅子ではなくつきまとわれているのが蘭であれば、こんな軟弱男、新一は完璧に叩きのめしているところだ。 「今日は友達とご一緒なんですね」 「ああ、彼、黒羽くん。今、おつきあいしてるの」 紅子の言葉に、達矢は初めて新一をまともに見た。 最初見た時は、ただの子供だと思ったが、自分より背は低いものの手足は長く、細いがプロポーションのいい少年だった。 それ以上に、美少女の紅子の隣に立っても遜色がないほど綺麗な顔立ちをした少年に達矢はまず驚く。 柔らかそうな癖毛に、明るい瞳の色。 「黒羽快斗です。よろしく」 新一は、白馬の従兄でもあるその男に向け、にっこりと笑った。 あくまで社交辞令であるが、相手は何故かその笑顔を見て顔を引きつらせた。 「あら、今日のパーティの主催者が来たみたいよ。行きましょう、黒羽くん。紹介するわ」 紅子はそう言って新一の腕をとると、目の前で固まっている男の存在など忘れたように、階段をおりてきたカップルの方へと歩いていった。 「やりすぎよ、工藤くん。あんな男に笑顔をみせる必要はないわ」 「え?挨拶しただけだけど?」 紅子はクラスメートの黒羽快斗に化けている新一の顔を見つめた。 「そう受け取らない人間もいるわ」 「へえ〜喧嘩売ってくるなら買ってもいいぜ?」 「・・・・・・・・」 紅子はふ・・と息を吐く。 「黒羽くんの気苦労が目に見えるようだわ・・・」 「 ? 」 真っ赤なシートが敷かれた階段を下りてきたのは、婚約したばかりのこの洋館の持ち主、須貝美夕と婚約者の佐久間良純だった。 純白のイブニングドレスを着た須貝美夕は、まさに初々しい花嫁のように美しかった。 確かもうすぐ30才になるということだが、見た所20代前半にしか見えない。 婚約者の佐久間は、外資系の会社に勤めているということだが、彼女と結婚後、会社をやめてペンション経営に専念するということだった。 確かに客商売に向いていそうな、人当たりが柔らかで感じのいい男だ。 招待客に挨拶をしていた美夕は、紅子の姿を見ると嬉しそうな顔で微笑った。 「よく来てくれたわ、紅子さん。今日は無理かと思ってたのよ」 「美夕さんのお祝いの席に来ないなど、ある筈ないわ。本当におめでとうございます。末永いお幸せをお祈りします」 「紅子さんにそう言ってもらえたら、きっと幸せになれるわね」 だって、紅子さんはわたしの幸運の女神さまですもの、と美夕は子供のように微笑んだ。 魔女じゃなかったっけか?と新一は思うが無論口にはしない。 ここへ来るまでに新一は紅子と美夕の関係を聞いていた。 紅子は、たまに知り合いの喫茶店で頼まれて占いをすることがあって、美夕はその時やってきた客だったということだ。 両親の死後、遺産のことで身内ともめていて悩んでいた彼女にアドバイスしたのが紅子だった。 婚約した佐久間の気持ちを知ることになったのも、実は紅子の占いがきっかけだった。 まあ、幸運の女神と言いたくなるのもわからないではない。 「彼が電話で言ってた人?」 「ええ。黒羽くん」 「黒羽快斗です。この度はご婚約おめでとうございます」 ありがとう、と美夕は微笑んだ。 「紅子さんの彼氏なの?」 「いいえ、ただのクラスメート。でも、今回は適任だったから頼んだの」 「ああ、達矢くんね」 悪いね、と佐久間が申し訳なさそうな顔をする。 早乙女達矢と白馬は、佐久間の方の親戚になるのだ。 しかも佐久間の腹違いの姉の嫁ぎ先が達矢の実家ということで強くは出られないということらしい。 「その点、探くんはいい子よね。とても血が繋がってるとは思えないわ」 フランス人形のようなおとなしい感じの美夕だが、結構ハッキリものを言うタイプのようだ。 おそらく佐久間への遠慮がなければ、紅子にまとわりついた時点で叩き出していただろう。 「ごめんなさいね、紅子さん。不愉快な思いをさせるとは思ったのだけど、どうしても今日の婚約パーティには来て頂きたかったから」 「いいのよ、美夕さん。わたしも、美夕さんと佐久間さんに直接お祝いを言いたかったから」 「ありがとう、紅子さん。じゃあ、これからこの館の中を案内するわ」 「え?いいの?あなたはこのパーティの主役でしょ?」 いいのよ、と美夕は首をすくめる。 「殆どが彼の身内だから。わたしの招待客は、紅子さんだけよ」 佐久間も、どうぞと紅子と新一を促した。 後はお願いね、と美夕は言って彼等を二階へと連れていった。 「あれえ?快斗と紅子ちゃん行っちゃったよ?」 青子は、美夕と一緒に階段を上っていく二人に瞳を瞬かせた。 どうしたんだろ?と青子が首を捻っていると、佐久間が彼等の方へやってきた。 「よく来てくれたね、探くん」 「この度はおめでとうございます、佐久間さん」 おめでとうございます、と青子も頭を下げ持ってきていた花束を手渡した。 本当は美夕に渡すつもりだったのだが、彼女がいないのでは仕方がない。 「ありがとう。探くん、もしかして君の彼女?」 「いいえ、クラスメートです」 「クラスメート?そういや、紅子さんも一緒にいた彼をそう言ってたな」 「あ、快斗はわたしの幼馴染みなんです!」 ああ、と佐久間は納得したように笑って頷く。 「君の彼氏だったんだね」 「違います!ただの幼馴染みです!」 青子は真っ赤になって否定するが、佐久間には肯定してるようにしか見えなかった。似合いの可愛らしいカップルだ。 「君が来てくれて良かったよ」 心底ホッとしている様子を見て、白馬は眉をひそめる。 「何かあったんですか?」 う〜ん、実はね・・と佐久間は声を潜めて話し始める。 「君は確か、怪盗キッドを追っていたよね?」 意外な名前に白馬はさらに顔をしかめた。 「ええまあ・・・キッドがどうかしたんですか?」 「実は美夕にその怪盗キッドから予告状が届いたんだ」 ええーっ!! 白馬と青子はびっくりする。 まさか、こんな所にまで怪盗キッドが・・・ しかし、予告状は警視庁には届いていない筈だ。 「直接彼女のもとに届いたんですか?」 「そうなんだ、昨日・・・美夕はどうせ悪戯だから警察に知らせる必要はないと言ったんだが」 「予告状にはなんと?」 「今日の午後7時に“月の貴石”を受け取りに来る、と」 「受け取りに来る?予告状にそう書いてあったんですか?」 佐久間が頷くと、白馬は考え込んだ。 たいていキッドの予告状には暗号が使われているが、ただそれだけが書かれていたとなると、本当に怪盗キッドからなのか疑わしい。 だいたい、奪うのではなく、受け取りに来るというのも奇妙だ。 「月の貴石というのは?」 「それがわからないんだ。美夕も、そんなものは知らないというし。それに、彼女は怪盗キッドのこと自体知らなかったらしい」 「ええっ!キッドを知らないなんて嘘みたい!」 あれだけマスコミが騒いでいるのに! 「ずっと田舎で暮らしていて、そういうことには無関心だったらしいから」 ただ・・と佐久間は思いだしたように口を開く。 「僕が怪盗キッドのことを教えたら、美夕は「それは白の魔術師のことなの?」と聞いたんだ。確かに、キッドは白ずくめでマジックを使うからね。そうだと僕が言ったら美夕は、それなら会うのが楽しみだ・・と」 会うのが楽しみ? 「どうしてみんなキッドのことを知ると、そう言うのかしら!青子のクラスの子も、みんなキッドに会ってみたいって言うの!快斗までキッドのファンだなんて言うんだからぁ!!泥棒なのに、みんなどうかしてるよ!」 青子は憤慨するようにそう言った。 いつもいつも大好きな父親がキッドにやられるのを見てきている青子は、まわりにいる友人たちのようにキッドを英雄視することはできなかった。 それは白馬も同様だ。 彼は英雄などではない。 たとえ、なんらかの理由があろうと犯罪者であることは変わらないのだから。 「7時というと・・・もう1時間もないですね」 警察を呼んでいる時間もない。 まあ、本当に怪盗キッドが相手なら、警察の力はそうあてにはならないが。 しかし、キッドではなかったら? 「そういえば黒羽くんたちはどこに?」 「ああ、美夕がこの家の中を案内してるよ」 「美夕さんにお話を伺いたいんですが構いませんか」 「いいとも。じゃあ、案内しよう」 「中森さんも来る?」 「え!青子も行っていいの!?」 行く行く!と青子は大喜びで白馬についていった。 確かこの部屋・・か、と新一は美夕の後ろを歩きながら思った。 「美夕さん、部屋の中を見せてもらってもいいですか?」 「ええ、いいわよ」 美夕は笑って頷いたが、新一がある部屋のドアを開けようとした時、一瞬表情を堅くした。 その部屋には鍵が・・・と彼女は言いかけるが、ドアがなんの抵抗もなく開くのを見て驚いた。 (そんな・・・・) この部屋にはずっと鍵をかけていて、清掃会社の人にも触れさせていなかったのに・・・時々、こっそりと館に来てこの部屋だけ埃を取り除いていた。 この部屋は特別だから。 一人で思い出にひたるのが、彼女の唯一の幸福だった。 だから、鍵は今もずっと自分が持っている。誰も入れないように。 いや、もう一人この部屋の鍵を持っている人物がいる。 美夕がずっと待ち続けていた人物が。 (まさか、彼が・・・?) 薄暗くなっていた部屋の明かりをつけると、アンティークな家具が置かれた内部が彼等の目に映った。 ベッドとテーブル、小さな整理棚と暖炉の上の壁には風景画がかかっていた。 装飾品が殆ど置かれていないため、ごてごてした印象はなく、いたってシンプルな印象の部屋だった。 綺麗に片づいてはいたが、ずっと使われた様子はなく、人がいた形跡もなかった。美夕もそのことを感じたのか、少し気が抜けたように力を抜く。 「窓を開けてもいいですか?」 新一が美夕に聞くと、彼女はええ、と頷いた。 新一はまっすぐ窓の方へ歩み寄ると、鍵を開け外に向けて窓を押し開いた。 あの日、自分がよじ登った木がそのままあった。 こちらへ伸びる枝も同じだ。 記憶していたよりも枝は細く、今の自分なら折れてしまうかもしれない。 新一は記憶を探るように、窓の方に伸びている枝に手を伸ばした。 美夕は、奇妙な行動をとる少年に初めて何かを感じた。 (この子・・・・まさか?) 「この部屋は誰か使っていたの?」 紅子が聞くと、美夕はハッとしたように瞳を瞬かせた。 「え、ええ・・・ここは客室だけど、以前叔父の知り合いがいたことがあるの。三ヶ月ほどで彼は出ていったけど」 叔父に呼ばれてこの館に来た時、彼と出会った。 彼はとても綺麗な人で、誰よりも頭がよく、どこか神秘的な感じのする人だった。 休養するためと彼は言っていたが、本当は何をやっていたのか彼女は知らない。 ただ、一目で彼に夢中になった。 今思えば、あれは恋ではなく憧れに近かったかもしれないが。 それでも、今も自分は彼に囚われている。 彼・・三雲礼司に・・・・・・ 部屋を出た所で彼等は、佐久間に連れられた白馬と青子に会った。 「あら?どうしたの?」 美夕が首を傾げると佐久間は、いやちょっと・・・と口ごもる。 「探くんが君と話がしたいというんで・・・」 それだけで彼女は彼等がここへ来た理由を悟ったらしく、少し顔をしかめる。 「あ、じゃあオレたちは下に戻ります。案内してくれてありがとう」 快斗の姿をした新一は、彼女に向け礼を言うと紅子と二人階段の方に足を向けた。途中、すれ違いざまに新一は、青子の耳元で「後でな」と囁いた。 それだけで、落ち込みかけていた青子の心を一気に浮上させ明るくさせた。 (快斗・・・) 以前、快斗が蘭を見て「あの顔には弱い」と言ったことがあった。 新一も、蘭によく似た青子を見ると、つい声をかけたいと思ってしまったのだが。 つまり、新一も「あの顔に弱い」のだろう。 だが、パァァと嬉しそうに笑った青子の顔を見ると、それでいいと感じる。 「本当に他人の心には敏感な人ね」 紅子がそう微笑んで言うと、新一はフッと小さく肩をすくめた。 二人の姿が見えなくなると、白馬は単刀直入に話を切りだした。 「怪盗キッドから予告状が届いたそうですね」 やっぱりその話・・と美夕は息を吐く。 「探くんは、その怪盗キッドをずっと追ってるということだったわね」 「ずっと・・というわけではありませんが、彼の犯行現場には何度か居合わせたことがあります。届いたという予告状、見せて頂けませんか?」 「残念だけど、なくなっちゃったの」 「なくなった?」 「ええ。リビングのテーブルに置いていたんだけど、いつのまにかなくなってて。多分戸を開けていたから風で飛ばされたのかも」 「・・・・そうですか」 「でも内容は彼から聞いたのでしょう?どう?本物の怪盗キッドの予告状かしら?」 さあ、と白馬は首を傾ける。 「キッドはたいてい暗号を使いますから。それに“受け取りにくる”という表現も彼は使ったことがありませんし」 「じゃ偽物ってこと?やっぱり悪戯ね」 美夕は、ちょっと残念というようにクスッと笑う。 「いえ、偽物だとは断言できません。本当に“月の貴石”のことは知らないんですか?」 知らないわ、と美夕は白馬の問いにはっきりと答えた。
話はまだもう少し続きます(^^; |
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