パーティが終わったら幼馴染みの少女と一緒に帰宅するとばかり思っていた快斗が、紙袋を抱えて現れたので、なんだ?というように新一は眉をひそめた。 時計は既に午前1時を回っている。
「いろいろお土産もらっちゃったから一緒に食べようと思ってさ!」
「こんな夜中にか?」
しかも、これから寝ようとする人間の邪魔をして。
「だって、こういうのは早めに食べちゃった方がいいんだよ」
腐ったらもったいないしさ、と言って快斗は折り詰めにしてきたオードブルやデザートを次々出してはテーブルの上に並べていった。
だが、最後に紙袋から出てきたワインには、さすがに新一も不審そうな瞳を向ける。
いくらなんでも、高校生にワインを土産に渡す者などいないだろう。
どうしたんだ?と聞くと、案の定ここへ来る途中、酒屋に立ち寄って買ってきたのだと快斗は白状する。
「プレゼント用だと言ったら、お店のお姉さんが綺麗にラッピングしてくれたんだよ〜v」
快斗はニコニコしながらグラスを出してくると、赤ワインを注いだ。
「飲めないことないよね、新ちゃん?」
ああ・・・と新一は答えるが、どうも快斗の様子がおかしい。
いや、いつも陽気で騒ぎたがりの奴ではあるが。
「例のものは手に入れたんだろ?違ったのか?」
新一が問うと、快斗はくっとクビをすくめた。
「品物は間違ってなかったよ。まだ中身を確かめてないけどさ」
そう答えて快斗は、テーブルの上に置いた拳をパッと開いてみせた。
やや骨ばった細くて長い指をした快斗の手のひらの上に、銀色の小さな箱が出現する。
新一は手を伸ばすと快斗から小箱を取った。
(・・・え?)
細かな幾何学模様が彫られたその小箱を開けようとした新一は、どこにも蓋らしきものを見つけられなくて珍しく首を捻る。
「なんだよ、コレ?」
どうやって開けんだァ??
箱の中に何か入っているのはわかるが、どこから開けていいのかわからない。
まるで蓋など最初からついてないように、その箱の表面にも角にも隙間がないのだ。
「からくり箱さ。それもレイジのお手製って代物だから相当に意地悪な仕掛けつき」
なるほど、と新一が納得すると、ふいに快斗は立ち上がって彼の隣に腰をおろした。
じっと見つめてくるマジシャンの不思議な紫水晶のような瞳に、新一は蒼い瞳を眇めた。
本当は明るい茶系の瞳なのだが、ふとした加減で紫の輝きをみせる快斗の瞳は、新一とはまた違った引き込まれるような印象を人に与える。
新一が動かずにいると、快斗はゆっくりと顔を寄せてきた。
快斗の唇が重なったとき、ああ・・と新一は思う。
何故、快斗が自宅ではなくここへ・・・自分のそばに来たのかがやっとわかった。
重なって、柔らかく絡められて、そして舌先で優しく愛撫される感触は嫌いじゃない。
はっきり言って、あの変態のキスは気持ち悪いだけでムカムカしたが、快斗との口付けは気持ちいいし、時には身体に甘い痺れすら感じる。
何故、こんなに違うのかわからないが、きっとそれだけ快斗という人間を自分は認めているのだろう。
(どう考えたって、こいつは蘭じゃねえもんな)
快斗は蘭の代わりにはなれないし、蘭が快斗の代わりになることは決してない。
しかし、どちらも新一には生きていく上でなくてはならない、大切な存在であることはわかる。
口付けを解くと、快斗は両手を新一の背に回し抱きしめた。
顔は新一の肩口に伏せているので表情はわからないが、何を考えているかはだいたい想像がつく。
新一は、ハ・・と小さく息を吐いた。
おまえの耳にどう入ったのか知らねえけどな・・・
「あの野郎の腹に膝蹴り一発。その後足を払ってひっくり返してから失神するまで思いっきり股間を踏みつけてやったんだぜ」
オレがおとなしくしてるわけねえだろ?
「・・・・・・・」
「そして、それをやったのはおまえってことになってるんだ。覚悟しとけよな」
新一がそう脅すと、快斗は肩口に顔を伏せたまま、くくくと喉と肩を細かく震わせた。
「新ちゃんってば、容赦ないよね〜〜」
当然だ、と新一は頷く。
嫌なものは嫌だし、気持ち悪いのに我慢するほど人間が出来てるわけでもない。
事件の時は別だが、こと自分に関しては我が強いという自覚はしっかりあるのだ。
と、背中に回った快斗の手の中で、カシャカシャと聞き覚えのある音がした。
ああ、ルービックキューブをまわす音に似てるのか。
なんだ?と首をかしげた新一は、いつのまにか手に持っていたはずの小箱が消えていることに気付いた。
どうやら、キスされてる間に快斗の手に戻っていたらしい。
「快斗?」
快斗は抱きしめていた手を緩めると、新一に小箱を見せた。
箱はどういった仕掛けだったのか、一面だけ消えて中身を見せていた。
それは青い石で、どことなく以前見た蒼の龍玉に似ている気がした。
「仕掛けは龍玉と同じようなものさ」
そう言って快斗は持っていたペンライトの光を箱に入れたまま青い石に当てた。
石の中を通り抜けた光は何故か箱からも抜けて壁に当たり、そこに見覚えのある記号を映し出す。
「パズルか!」
「そう。こんなのが、まだいくつもあるんだぜ」
「こいつを全部手に入れて解読すれば、秘密が解けてゲームを終わらせることが出来るってことか」
「レイジの居場所もわかるかもな」
全く、手間かけさせてくれるぜ。
「ゲームは手間をかけなきゃ面白くねえんだろ」
「新ちゃんみたいな、謎と推理が大好きで好奇心一杯ってタイプを最後までゲームにつきあわせなきゃならないんだから、そりゃ凝りに凝りまくるさ」
オレだけじゃねえだろ、と新一が口を尖らせると快斗はクスクス笑った。
オレは違うよ。
「オレは新一がいるからゲームにつきあってやってんだよv」
END
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