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NOVEL

トロピカルランド ☆ デート ★後編★

 ♪ Happy Barthday Shinichi ♪  2002.05.04

This story is the work which nonfiction mixed with based on ririka's actual experience with the fiction.

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「すっかりご機嫌ナナメだね、新一?」

ケチャップとマスタードがたっぷりついたフランクフルトをかぶりつきながら、快斗がそう言った。

「・・・誰のせいだと思ってやがる。」

同じようにフランクフルトをかじりながら、オレも小さく呟いた。

「まいったなぁ・・・。せっかくの新一の誕生日なんだからさ。もうちょっと笑ってくれないと・・・。
じゃあさ、新一の得意分野に行っておこうか?」

得意分野?なんだ、そりゃ?

オレが快斗の方へ目をやると、快斗は前方にある建物を指差した。

「・・・なんだっけ?あそこ。」

「ハイテクシューティング・ゲーム。新一、銃の腕前には自信あるんだろ?オレと勝負しようぜ?」

そう不敵に笑う顔は、まさにあの怪盗の顔だった。

「おっし!受けて立ってやる!」

 

そのゲーム自体は、戦車のような乗り物に乗り込んで、光線銃で悪者を倒してポイントを稼ぐという
いたってシンプルな物だが。

快斗との勝負がかかっているなら、負けるわけにはいかない。

そんなわけで、オレ達が真剣勝負をした結果、なんと二人で本日の最高得点を稼ぎ出してしまった。

ちなみに1ポイント差でオレの勝ち。

ざまーみろっ!とも思ったが、まさかコイツ、わざと負けてんじゃねーだろうな?

 

高得点者は名前をメモリーされる。

快斗はさっさと自分の名を 『KID』と入力し終えると、オレのトコまで来て人の分まで入力し始めた。

なんと 『DETECTIVE』 である。

 

・・・おいおい。勘弁しろよ?

 

呆れ顔で快斗を見返すオレに、ヤツは無邪気に笑った。

「軽いジョークってことでね!」

 

さて、シューティング・ゲームを一応自分の勝ちで終えることの出来たオレは、少し機嫌を取り戻したのだが。

 

「おっと、ヤバイ。そろそろ時間だ。行くよ?新一。」

シューティング・ゲームの建物を出かかった所で、快斗がふと呟いた。

「何だ?」

オレの手を引いて先へ急ごうとする快斗に訊ねると、ヤツはにっこり笑って返す。

「もうすぐパレードが始まるんだ。」

 

・・・ああ。パレードね・・・。

TDL同様、トロピカルランドにも人気のキャラクターやらダンサーやらが、メインストリートをにぎやかな音楽とともに
踊るパレードがある。

一応、トロピカルランドでも力を入れている演目の一つではあるようだが。

 

そう思っている間にも、快斗はオレの手をグイグイと引いて、人ごみをかき分けていく。

パレードを見るために良い場所でも取るつもりでいるのか?

 

「おい、快斗!どこに行くんだよ?
パレードはディズニーランドほど混まないし、そんなに場所取りに殺気立つことはねーぞ?」

すると、快斗は肩越しに振り返り、ニヤリと一つ笑いを作ってこう言った。

「パレードを見るなら、確かにそうだけどね。オレ達はパレードに出るからさ!」

 

・・・は?  パレードに出る???

・・・ああ、そういうことか!

 

そういえば、このパレードは観客参加型で、ダンサー達と一緒に踊る事ができたはず。

前に来た時、少年探偵団のヤツらも踊りまくって、結構楽しそうにしていた事をオレは思い出した。

 

つまり、快斗はダンスをしやすいように、よりパレードコースに近いところへ行くつもりに違いない。

・・・・おいおい、オレは踊らねーぞ? 踊るなら、お前一人で勝手にやれ。

 

別に踊りたがってる快斗を止めるつもりなど毛頭無いので、好きにさせておいた。

だが、快斗はオレの予想を反してパレードコースを突っ切り、さらに人気のない方へと進んでいく。

 

やがて、オレが連れて来られたのはとある建物の前。

思いっきり、「関係者以外立入り禁止」というプレートが掲げられている。

 

「何だよ?ここ・・・。」

「いーからいーから!時間無いから新一も急いで!」

よくわからないまま、快斗に半ば強引に手を引かれて建物の中に入ると、中には煌びやかな衣装が部屋に
所狭しと置かれていた。

と、その衣装の並をかき分けるようにして、中から一人の女性がやってくる。

派手なドレスを身に纏っているところを見ると、パレードのダンサーなのだろう。

彼女はオレ達の姿を認めると、にっこり笑って近づいてきた。

 

「お待ちしておりました。黒羽様!お時間があまりありませんので、急いで衣装合わせをなさって下さい!」

 

・・・・・・・え???衣装合わせって???

 

オレが焦って快斗を振り返ると、快斗はさも当たり前のように衣装を適当にピックアップしていってるところだった。

「・・・お、おい、快斗!何なんだ?」

「だーかーらー。パレードに出るんだってば。・・・うーん、そうだな、新一にはこっちの衣装の方がいいかな?
肌が白いからこういう色の方が映えるんだよなぁ!」

などと言いながら、オレに衣装を合わせ始める。

「おいっ!ちょっと待てっ!!どういうことか、事情を説明しろよ?!」

焦って問いただしたオレに、快斗はにっこりし、どこからともなくガイドマップを取り出すと
そこにあるパレードについての紹介文を指差した。

 

『歓声と笑顔いっぱいのパレードで盛り上がろう!』

そう書いてあるその下に、末恐ろしい文言(下記の通り)があって、オレの目は大きく見開いた。

 

+++++++++++++++++++++++++++++++++++

『出演者募集!!あなたもフロートに乗ってパレードに参加しよう!(記念写真付)』

*要当日予約・・・一日限定一組様

+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 

「・・・ま、まさか、お前・・・。これに申し込んだのか・・・?」

やや顔を引きつらせているオレに対し、快斗は実にすがすがしい笑みを浮かべて頷いた。

 

・・・・・なっにぃぃぃぃぃ????!!!

 

オレは、快斗が手に持っている派手な衣装に目をやる。

要するにアレに着替えてフロートに乗り、ダンサー達が踊る中、沿道に待ち構える大勢のお客さんに
笑顔で手を振らなければならないと、こういうことなのだ。

じょ、冗談じゃねえっっ!!!

「オ、オレはやらねーぞっっ!!!」

言うなり逃げようとしたオレの腕は、快斗にがっちりと掴まれる。

「ダメだよ、新一。今から代わりの参加者なんて探してたら、パレード開始に間に合わない。
みんなに迷惑がかかるだろ?外ではお客さんたちが楽しみに待ってるんだぜ?!」

「そ、そんなのお前が勝手に申し込むのが悪いんだろっ???!」

オレは関係ないぞ!!

言い合いを始めたオレ達の周りに、他のダンサーまで集まり始めて、ハラハラした様子で心配そうな視線を
こちらに向けているが。

 

・・・・う・・・・。

確かに、今、この状況でオレが逃げ出すのは、非常に無責任なような気がしないでも・・・。

 

周囲の雰囲気に思わず呑まれそうになるが。 いやいや、待て待て。

「だ、だったら、お前一人でやれよ!」

そうだ、それがいい。そもそも快斗がオレの意思を無視して勝手に仕組んだ事なのだから。

なのに、快斗は部屋の壁にかかっている、今までの一般参加者の記念写真を指差してにっこりと笑った。

「ダメだって。フロートは結構なデカさがあるんだぜ?あそこに一人で乗ってても絵にならないだろ?
しかも、一応参加者は2名以上からってことになってるからね♪」

「そんなこと、オレが知るかっ!!」

と、オレが僅かに後退したところで、再び先程快斗に声をかけたダンサーの女性が口を挟む。

「あ、あの・・・!黒羽様、そろそろフィッテング・ルームへお入りいただきませんと・・・・。」

快斗は彼女にわかりましたと頷くと、オレにそっと耳打ちした。

「・・・新一!頼むよ!!ここはもう彼女を助けてあげると思ってさ。
新一がフロートに乗るのが恥ずかしいって言うんなら、誰が見ても新一だってわからないように、
オレが変装させてあげるよ?」

こっそりと快斗がそう囁く間にも、彼女がオレを祈るように見つめる視線を痛いほど感じる。

今ここで、オレが自分の要求を通そうとするのが、限りなく我侭を言っているようにさえ思える、この状況。

 

・・・クソ!! 快斗のヤツ、謀りやがったな!!

 

「・・・・わかったよ!その代わり、絶対他人が見てもオレだとわからないようにしろよっっ?」

 

そう!工藤新一がテーマ・パークのパレードに仮装して登場だなんて、冗談じゃない。

蘭や園子や、ましてや灰原なんかにバレたら、それはオレにとって果てしなく好ましい状況ではないのは確かだ。

もしやるなら、オレとわからないよう変装する必要があるのだ。

 

仕方なく妥協したオレに快斗は満足そうに頷くと、にっこり笑ってダンサーの女性に言った。

「フィッテング・ルームはこの奥ですね?」

 

 

パレード開幕。

にぎやかな音楽とともに、派手なコスチュームを纏ったダンサー達が歓声の中、いっせいに踊りだす。

そのダンサー達に取り囲まれるようにして、いくつものフロートが沿道に登場した。

 

オレと快斗が乗っているフロートはパレード・コースの入り口で、まさに今、スタンバイしているところ。

 

「・・・新一、新一ってば。もう少し笑わないと、もうすぐオレ達の出番だぜ?」

そうオレの耳元で囁く快斗の扮装はどこぞの国の騎士のスタイルで、腰にごりっばな剣までぶら下げている。

とても一般参加者には見えない程の、実にナイスなハマリ具合だ。

だが、オレはその中世の騎士スタイルな快斗をギロリと無言で睨みつけた。

「イヤだなぁ〜、新一。そんな怖い顔しちゃ、せっかくの衣装が台無しだぜ?心配しなくてもすっごい似合ってるってば!」

「ふざけんなっっ!!何でオレがこんな格好しなきゃならねーんだっっ?!!」

と、怒鳴り散らして快斗の胸倉を掴み上げると、ヤツはその手をあっさりと外してウインク付きで微笑む。

「おや、何か気に入らない?バレないように変装したいっていうから、完璧に仕上げたつもりなんだけど。」

「・・・・オメーな・・・・。オレは変装はしたいとは言っても、女装するとは一言も言ってねーんだよっっ!!!」

 

そう・・・。

あの後、フィッテング・ルームへ連れ込まれたオレは、変装の達人の快斗の腕に任せたわけなのだが。

なんと快斗がオレのために用意したコスチュームは、中世のお姫様タイプのゴージャスなドレス。

冗談じゃないと、オレは必死の抗議と抵抗を試みたのだが、
悔しい事に、こういうことにかけては天才的に手際の良い快斗には、オレが勝てるはずもなく。

気付いた時には、どこから見ても完璧なお姫様が出来上がっていたのだった。

一緒にパレードに参加するダンサー達からは拍手が上がる程のその出来栄え。

それは確かにある意味、変装としては大成功なのだろう。

・・・だが、まさかこんな格好をするハメになるとは・・・。

 

「でも、ほら、フロートもどこかの王国の馬車みたいだし、イメージとしてはお姫様と騎士っていうのがピッタリだろ?」

「・・・・だったら、テメーがお姫様をやったって構わねーだろーがっっ!」

ワナワナ震えながらオレが言い返すと、快斗はオレにつけたウィッグの上のティアラの向きを直しながら
笑って答える。

「女装した方が、より正体がバレ難いんだってば!
まさかこのお姫様姿の新一を見て、誰も男だとは気付かないだろうからね!」

飄々とそう言ってのける快斗に再びオレが食ってかかろうとしたところで、いよいよフロートが動き出した。

 

「・・・げっ!」

「ほら、新一!笑顔笑顔!!」

 

迎えられる大歓声と拍手。

 

ゆっくりと動くフロートの上で、快斗が彼方此方に笑顔を振り撒く。

オマケにいつのまに仕込んだのやら、ちょっとしたマジックまで披露するものだから、さらに観客には大盛況。

 

・・・ったく、よくやるよな。この目立ちたがり屋め。

 

すっかり騎士になりきる快斗にオレは盛大に溜息をつくと、周囲の声がオレの耳に届く。

「ほら、お姫様よ!きれいねぇ〜!!」

小さな子供を抱っこしたお母さんがオレを見て微笑んでいた。

オレがそっちを向くと、その子が無邪気に笑いながら一生懸命手を振るので、まさかシカトするわけにはいかない。

オレは若干顔を引きつらせながらも笑顔を作って、お姫様らしく手を振り返してみたり・・・。

 

そんなわけで。

30分近いパレード・コースを乾いた笑いを浮かべ、不本意ながらもオレはお姫様役を演じきったのだった。

 

パレード終了後、一目散に衣装を脱いでその場を去ろうとしたオレに、パレードのスタッフ関係者らしき人が
近づくと白い大きな封筒をくれた。

何かと思って開けてみると、フロートの上でにこやかに微笑んでいるオレ達の記念写真xxx。

 

「お!写りもばっちりだったね!いやぁ、キレイだったな、新一のお姫様姿vvv」

「・・・・オメー、最っっ初から企んでいただろう?」

写真をうれしそうに覗き込む快斗の顔を、オレは思いっきり睨みつけるがヤツはただニヤニヤと笑うばかりで。

 

「トロピカルランドには何回か来てても、パレードに参加したことはなかっただろ?新一♪」

そう得意げに言って見せたのだった。

 

 

☆       ☆       ☆

 

 

「・・・今日は誰の誕生日なんだっけ?」

今日何度目かになる台詞を、オレは再び口に乗せて快斗をチラリと見る。

「イヤだな、新一の誕生日に決まってるだろ?」

 

そうなのだ。

オレの誕生日だというのに、どーもコイツに振り回されて、オレの意に反するような方向へばかり物事が
進んでいっているように思えてならない。

とっくにオレの真意などお見通しなハズなのに、悪びれずにそう答える快斗はどこまでも根性がすわっているらしい。

今だって、ニヤニヤうれしそうに悪戯が成功したような顔で笑いっ放しだ。

 

「それよりさ、次はどうしようか?一応、メインのアトラクションは全部制覇したと思うけど。」

「・・・お前、これ以上何か企んでいないだろーな?」

腕組みしながら、隣をジロリとにらむ。

すると快斗は肩を竦ませて、企むだなんて人聞きの悪いなぁ!とクスリと笑って見せた。

しかし、なんと言っても相手は快斗だ。油断は禁物である。

とりあえず、これ以上コイツの思い通りにはならないよう注意を払っておかなければ。

「じゃあ、長島スパーランドで楽しめなかった分、こっちで絶叫マシンを満喫しとくか?
『グランモンセラー』と『ピレネー』は、割と面白かったし。」

「え?新一、体調は?」

「・・・・へーきだよ!ほら、行くぞっ!!」

 

そうしてオレ達は、しばしの間、絶叫マシンを乗りまくった。

オレとしては、コースターに乗っている間くらいは、快斗が大人しくしているはずだと読んでのことだったのだが
そのオレの目論みは一応成功を遂げていた。

で、今日の予定は帰りの列車の時間の関係で、閉園少し前の4時過ぎにこのトロピカルランドを出ることになっている。

なのでオレは、このまま時間まで絶叫マシンで遊び倒すつもりでいたのだが、
快斗はどうやら、まだ見て回りたいところがあったようで、再びガイドを広げ出した。

「・・・新一、じゃあ次にピレネーに乗ったらそれを最後にして、ちょっとショーでも観に行かない?」

「ショー?」

「ほら、もうすぐちょうど始まるんだよね。CMでやってたけど、爆発炎上とかあって、かなり凝ってるみたいなんだ。
ちょっと観たいと思ってさ。一応、このトロピカルランド、イチ押しのショーなんだろ?」

と、快斗は目をキラキラ輝かせて言うが。

ここイチ押しのショーと言えば、奥の広場の特設ステージで繰り広げられるショー以外、他はない。

「・・・・お前、ソレ、『仮面ヤイバー』のショーのこと言ってんのか?」

対して快斗はにっこり頷き、オレはガックリ肩を落とした。

 

・・・ソレ、少年探偵団の奴らと来た時も観たぞ? そりゃ、アイツらは大喜びだったけど。

 

「以前よりもストーリー、ショーパフォーマンスともに数段にパワーアップしてるってさ。」

「・・・・そーは言っても『仮面ヤイバー』だろ?そんなお子様向けなもん、たかが知れてるだろーが。」

気乗りのしないオレをよそに、快斗はすっかり行く気満々である。

 

・・・・・もしかして、コイツ、『仮面ヤイバー』のファンだったのか?

 

「ほら、見ろよ、新一! ただのお子様向けのショーにあんなに人が集まると思うか?」

と、快斗が指差した先には、ショーが行われる広場の方へと流れていく人の波があった。

確かにそこには子供連れの家族だけではなく、カップルらしき人たちなんかも大勢見受けられたが。

時刻は午後3時を回ったし、みんなそろそろアトラクションに飽きてきて、他にすることがなくなったんじゃないのか?

オレはそう思わずにはいられなかったが、どーにも快斗が行きたそうにしているので
とりあえず行ってやる事にした。

 

開園前の広場には本当に多くの人が集まっていた。

すると、ショー・スタッフらしき人が出てきて、何やら言いながら小さなカードを配っている。

「何だ、アレ?もしかして入場整理券か?」

あまりに人が多すぎて、そのスタッフの人の声がここまでは届かない。
オレが不思議に思っていると、快斗が違うよと首を振った。

「ショーのラストに、出演者との記念撮影ができるんだって。限定20組様までなんで、そのチケットを
配ってるみたいだぜ?早い者勝ちだってさ。」

「へぇ・・・。」

だからあの人のところにみんなたかってるのか・・・。

出演者ってことは、『仮面ヤイバー』と写真が撮れるってことだよな?元太達が聞いたら大喜びしそうだ。

遠目に最後のチケットが観客の手に渡っていくのを見ながら、オレは苦笑した。

と、快斗がオレの服の裾を引っぱる。

「ほら、新一。もうすぐ開場だぜ!」

 

そうして、にぎやかな音楽が開場を告げ、一気に人がステージの方へ流れ出した。

大勢の人波の中、はぐれないようにと快斗はオレの手を放さなかったが、いいかげん人前で手を繋ぐのは
恥ずかしいので勘弁してくれ・・・・。

そして、相変わらず要領のいい快斗のおかげで、オレ達はベスト・ポジションを獲得する事ができたのだが
さて、これから20分間の立ち見のショー。

ストーリーはありきたりのヒーローものであって、一体どこがパワーアップされたのかは全くオレには不明だったが、
確かにショー自体は大した演出だった。

炎や水をふんだんに使っての大掛かりなもので、爆破炎上やラストの大洪水のシーンは迫力満載で
ナメて見ていたオレの度肝を完全に抜いた。

マジメに驚いたオレを見て、隣で快斗が面白そうに笑っていたが。

「・・・いや、だって。あそこまで大洪水を起こす必要性はあのショーにはないだろ?
その展開にびっくりしたんだよ。」

「まぁね。でもあの大洪水のシーンが一番の見せ場だからさ。アレだけを見せたかったんじゃないの?」

 

ステージ最前列の足元まで濡らす、その水の勢いに観客全員が大歓声を上げていた。

確かにすごいショーではあったので、オレもラストではヤイバーに惜しみない拍手を送っておいた。

 

さてショーを終えて、今度はその大勢の人が一気に出口へと流れ始めるのだが、オレも出口へ向かおうとしたところで
快斗に肩を引き寄せられた。

「何だよ?混んでるから、少し待ってから出るのか?」

オレがそう聞くと、快斗はそれもあるけどね、と、ニヤリと笑う。

そして、何も持っていなかったはずの掌からいきなり一枚のカードを出し、掲げてみせた。

そこには、『No.1』と印字されている。

「・・・お、お前、まさかそれ・・・。」

カードを指差して思わず後退しかけたオレに、快斗はにっこり笑って告げた。

「そう!これから『ヤイバー』との記念撮影をするからね。退場はそれが終わってからだよ?新一!」

 

・・・・マジかよーーーーっっ??? 一体いつの間に券を手に入れやがったんだっっ?!

 

お子様向けのヒーローと一緒に写真を撮るなんて、恥ずかし過ぎるっっ。

いや、恥ずかしいなら、さっきのパレードの女装の写真だって決して負けていないが。

 

「オ、オレはパス・・・・」

と、言いかけたオレの言葉は、カメラを構えたスタッフの人の大きな声にかき消された。

「記念撮影をお待ちのお客様〜!!順番に番号をお呼びしますので、ステージ中央までお越しください。
では、まずNo.1の番号札をお持ちのお客様!!」

・・・げ!

すると、青くなるオレを見てからにっこりし、快斗がはーい♪とばかりに勢い良く挙手してみせる。

「ほら、新一。後の人がつかえてるからね。さっさと撮っちゃおう!!」

そう笑顔で言いながら、嫌がるオレの手を強引に引っ張りステージまで連れて行く。

ポーズを取って待っているヤイバーを目の前に、オレは諦めるしかなかった・・・・。

 

ポラロイドカメラで撮られたその写真を眺めながら、快斗が満足そうに微笑んだ。

「いやぁ、今日一日で新一との思い出の写真がたくさん撮れてよかったな!!」

 

・・・・・テメーわっっ!!

思いっきり蹴り飛ばしてやろうと大きく振り上げたオレの右足は、さらりとかわされ、むなしく空を切ったのだった。

 

 

☆       ☆       ☆

 

 

そうして気がつけば太陽もだいぶ傾き、青かったはずの空は薄いオレンジ色へと変わり始めていた。

なんだかんだしているうちに、そろそろトロピカルランドを出なければならない時間である。

閉園時間も近づいたせいか、園内全体がずいぶんと閑散としてきた。

 

「新一、何かもう一つくらいアトラクションに乗っとくか?」

「・・・いや、もういいよ。それよりどっかでお土産を買っておかねーと・・・。」

トロピカルランドへ行くとはそんなにおおっぴらに公言はしていないものの、博士んちくらいには何か買っていくべきだろう。

「ならさ、入り口近くに結構お土産屋さんが集中してたから、そっちで買おうぜ。」

そんなわけで、オレ達はそれぞれにお土産を買い込み、再び磯部駅へ向かうバスへと乗り込んだのだった。

昨日、雨の中こっちへ来た時はガラガラだったバスは、今日はたくさんのトロピカルランド帰りの客を乗せている。

好天に恵まれて一日しっかり遊びきった人達の笑顔は、みんな眩しかった。

 

車窓から外を眺めていたオレの肩を、快斗が突付く。

「新一、今日、楽しかった?」

「・・・・ああ、まぁな。」

思いのほか、スラリとそう答えてしまった自分自身にオレはちょっとびっくりしたが。

 

いや、だって。

あんなにいろいろと快斗にしてヤラレタっていうのに。

 

・・・・ま、それもこれも思い返してみれば、本気で腹を立てることでもないのは確かだが。

にしても、コイツといると本当に何があるかわかったもんじゃねーな・・・。

 

オレはクスリと苦笑して、快斗の額を指先で小突いた。

「・・・ったく、人をあっちこっちに引っ張りまわしやがって。トロピカルランドに来て、こんなに疲れたのは初めてだ。」

チロリと快斗を睨んでやると、快斗はニッと目を細めて笑う。

「一応、今回のコンセプトとしては、今までにないトロピカルランドを新一に体験してもらうっていう点だったんだけどね。」


・・・・・・・・・今までにないトロピカルランドね。

確かにそれはそのとおりだ。今までのトロピカルランドの思い出が霞むくらい、今回のは強烈だからな・・・。

 

 

「・・・今までにないどころか、お前と来ない限りこんなトロピカルランドは二度とないと思うぜ?」

 

ちょっと上目使いに睨んでそうオレが言ってやる。そこには多少のイヤミを含んでいなくもない。

けれども、快斗は夕日を浴びながら、にっこり微笑んでこう言った。

 

「新一の誕生日にトロピカルランド・デートができて、オレは大満足だよ♪」

 

 

さて、そうして、磯部駅についたオレ達は、再び長い時間をかけて東京へと帰っていくわけなのだが。

一日遊びきった疲れもあって、帰りの列車は2人ともほとんど寝て過ごしてしまった。

 

帰宅したのは、その晩10時過ぎ。

荷物を片すこともなく、そのままオレはベットにダイビング状態。

おかげで、帰ったら絶対にやらなければならないことを、すっかり失念してしまった。

 

そう。それは・・・。トロピカルランドで撮られた恥ずかしいあの写真の数々の抹消だ。

 

 

そして。

 

オレの誕生日から一夜明けた、5月5日。

昼過ぎにオレが起きた時には、なぜかリビングに灰原と博士の姿があった。

快斗がトロピカルランドのお土産を広げて、何やら楽しそうに盛り上がっているみたいだけど。

寝ぼけ眼でリビングに登場したオレを、快斗と博士が笑顔で迎えるが。

テーブルに乗っているのが、お土産のお菓子だけではないことに気がついて
オレは体中の血が音を立てて凍っていくのを感じた。

 

呆然と立ち尽くすオレの姿を認めると、灰原がその目に冷ややかな笑いを浮かべた。

「・・・・キレイに撮れてるわね?工藤君。」

 

 

 

 

☆   The End   ☆

 

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