危険な賭けであることは、百も承知。 奴らを挑発するなんて。 実際、奴らにとって、オレは『パンドラ』の周りをうろつく目障りなコソドロなのだから。 今までだって、何度と無く、命を落としかねないような目にもあわせてもらったし。
けれど。 そろそろ奴らに気づかせてやってもいい頃だろう? 『怪盗キッド』のその存在する意味を。 全ては組織を潰すためだという事を。
BEST PARTNER 〜 番外編 〜 月からの使者 +++ 後編 +++
四方八方にサーチライトが夜空を照らし出す。 さて、そろそろ予告時間だな。 「さぁ、派手にやろうぜ!」 オレは小型のリモコンのスイッチを入れた。 3つの場所から同時に上がった花火に、現場は騒然とした。 毎度毎度、面白いくらいに引っかかってくれる彼には本当に悪いとは思うけど。 もう少し、学習してもいいんじゃねーの? 名探偵がいないからといって、せめて少しでもスリル感が味わいたいと思うのは
すっかり現場が混乱したのを確認すると、オレはシルクハットを目深に被り直し
展示室にはお約束の催眠ガス。警備員達はすでに夢の中だ。 オレはするりと窓から入り込み、アレキサンドライトが展示されているガラスケースに と、背後に人の気配を感じる。 「そこまでですよ。怪盗キッド。」 白馬か・・・。 「これはこれは、白馬探偵・・・。お久しぶりですね。」 「相変わらず派手なパフォーマンスで目くらましをしているようだが、 白馬のその言葉にオレはニヤリと笑って見せた。 「さすがは白馬探偵。・・・ですが・・・」 と、言いかけた時だった。 「ふせろ!!」 オレは白馬にそう怒鳴って、窓の方を振り仰ぐ。黒い陰がいくつかよぎった。 奴らだ!! 「な、何だ?!何事だ?!」 慌てて窓に近づこうとした白馬に舌打ちをし、オレはすばやく奴の前に回りこんで 悪いな、白馬。ここで大人しくしといてくれよ? それからオレはガラスケースに手を伸ばし、アレキサンドライトを手にすると
美術館の屋上までたどり着いた時、オレの周囲に漲る殺気を感じ取った。 相手は・・・1、2、・・5人か。 いずれも銃を持った黒服の男達がゆらりと陰から姿を現した。 「その宝石を渡してもらおうか、怪盗キッド!!」 銃口を向けながら、その目をギラつかせている男に対して、オレは笑って言ってやった。 「いやだね!」 言いながら、ふわりととなりのビルへと飛び移る。 「追え!!逃がすな!!」 そう言って奴らが後を追ってくるが。 勘違いしてもらっちゃ困るな。 このまま追い込まれるような形で、実は奴らを追い込んでいこう。 オレは無数の銃弾をやり過ごしながら、ニタリと笑ったのだった。
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同じ頃、工藤新一は、とある雑居ビルの中にいた。 目暮警部と高木刑事を含む、数人の警察関係者と、今回の事件の容疑者候補として コンピューターソフト会社の極秘プロジェクトに関わった3人が 「いやぁ〜、お見事。今回もお手柄だったねぇ。」 新一の肩を軽くたたきながら、目暮警部はその人柄の良さを表すような笑顔で言った。 新一もそれににっこり答えながらも、実は意識はすでにもう他のところにあった。 それは、キッドの予告状のこと。 昨日、白馬に指摘されるまでもなく、新一はずっとそのことを考えていた。 アイツがあんな予告状を出すなんて、何か裏があるに決まっている。 あれは、どう見ても自分を現場に呼ばないように仕向けたものとしか考えられなかった。 ちくしょう!人を邪魔者扱いしやがって!! 組織には自分だって用があるというのに。 だからこそ、新一は今日さっさとこの事件を片付けたら、 犯人に確定された男が手錠をかけられている姿を目にしながら、 犯人の男の口から、『ジン』という言葉がでたのだ!! 新一は目を見開いて犯人の男に詰め寄り、問いただすと男はあっさりと白状した。 殺人を犯してまで手に入れた情報で組織と取引をするはずだったことを。 「取引場所はどこだ?!」 男の襟ぐりを掴み上げて、新一はそれを聞き出すと、状況が飲み込めていない
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ずるりと自分の前へ倒れこんだ男の手から、銃を遠くへ蹴飛ばそうとしたが 確かにトランプ銃だけじゃ、心もとないもんな。 オレはウエストに銃を差し込んだ。
美術館の屋上で会った奴らに、上手い具合に追い込まれるようにして どうやら、そこが奴らのアジトなのだろう。 胸元から双眼鏡を取り出して中の様子を伺うと、やはりそれらしい人物が ふと。 ああ、そういえばさっき撃たれたんだっけ? ここまで来る途中、左腕を銃弾がかすめたことを思い出した。 あ〜あ。また一つ、衣装をダメにしちゃったなぁ〜・・・。
サイレイサーの耳を刺すような音も。 もう何度か経験するうちに慣れてしまった。
また寺井ちゃんに怒られちまうな・・・。 そう思ってふっと笑い、オレはその建物へ侵入すべく近づいた。
中に忍び込むと、辺りは真っ暗だった。 奴らは上か。 そう思って、階段の方へ向かうと、コト、と微かな音がした。 一瞬のうちに身を翻し、応戦できるよう胸元から取り出したトランプ銃を構えると 「!お前、キッドか?!」 何ィ?!その声は・・・!! 陰だけだった声の主は、ゆっくりとその姿を現した。 「・・・!名探偵・・・。」 いるはずのないその人の姿を目撃して、オレも思わず息を呑んでしまった。 「お前、なんでこんなとこにいるんだよ?」 相変わらず迷惑そうな表情でそう告げる名探偵に、オレは小さく溜息をついた。 「それはこっちの台詞。そっちは今日は事件なんじゃなかったっけ?」 オレのその言葉に、なんでお前がそんなことまで知ってるんだと言いたげに 「その事件の犯人が組織の奴らと、ここで取引する事になってんだよ!」 ・・・なるほど。 さて、どうしたものか。 オレがそう思ってチロリと奴を見やると、オレの考えを察したのか 「オレに何かしてみろ、これで眠らせてやるぞ!」 ・・・ハイハイ。わかりましたよ。 ふと、奴の視線がオレの左腕の方へ動いた。 「・・・撃たれたのか?」 「ああ、これ?大丈夫、かすっただけだから。」 「止血くらいしろよ。」 そう言って差し出されたハンカチをオレはマジマジと見つめてしまった。 「な、何だよ!なんか文句あんのか?」 少し顔を赤らめた奴の顔を見返して、オレはにっこり笑うとハンカチを受け取った。 「さんきゅ。使わせてもらうよ。」 手早く患部へ結びつけると、もう一度奴に向かって笑顔を向けた。 しかし。 今はそんなことよりも、だ。 「名探偵、武器は?」 トランプ銃のカードがどのくらい詰め込まれているかと確認しながらそう聞くと、 オレはがっくり肩を落とす。 ああ、やっぱり・・・。 オレは無言でさっき奴らの仲間から奪った銃を、押し付けてやった。 「お前、これ・・・!」 「さっき、奴らから頂いたんだよ。一応、あるに越したことないだろ? 「お前はどーすんだよ?!」 「ああ、心配いらねーよ。オレにはこれがあるから。」 そう言ってトランプ銃を見せる。 「そんな玩具みたいな道具じゃ・・・!」 「失礼だな、名探偵。これだって頚動脈でも狙えば、立派に人くらい殺せるんだぜ?」 言いながら、一枚のカードを名探偵の細い首に軽くあててやると 「・・・わかったら、大人しく受けとんな。」 オレはそれだけ言って、にっこり笑う。 「奴らは上か。」 言いながら、手馴れた様子で銃を扱う名探偵の姿を見て、 一体どこでおぼえたんだか・・・・。 「ドジんなよ?」 オレがそう笑いかけると、奴も、お前こそ、と不敵な笑いを返した。
それから、二人して慎重に階段を上がっていく。 「・・・名探偵はさ、奴らをどうしたいわけ?」 その問いに、奴は片方の眉をつり上げてオレを見返した。 「そんなの決まってるだろ。ぶっ潰す!」 唇を尖らしてそう言ってみせる姿に苦笑する。 「恐くねーの?アイツらにとっちゃ、オレ達を跡形もなく消す事なんて簡単なことだぜ?」 意地悪くそう言ってやると今度は奴の方が笑って見せた。 「・・・お前、恐いのか?」 「まさか!」 オレはそう返事をしながら、クスリと笑ってしまった。 「無駄口叩いてねーで、さっさと行けよ!」 「了解。」
階段を上りきって2階へたどり着くと、奥の部屋から僅かに光が漏れているのが 気配を殺してその部屋のそばへ近づく。 オレは目で合図を送り、奴と同時にドアの隙間から部屋の様子を伺った。 部屋の中には、全部で7人。 いったん、そこまで確認すると、その部屋の前から後退し 「・・・おかしい。あそこにジンがいない。」 顎に手を添えてそう呟く名探偵をオレは見やった。 誰だって?ジン? 「組織の奴のコードネームだ。今日、取引をするのは奴のはずなのに。」 「別に本人がきちんと来てるとは限らないだろ?」 今ひとつ納得できないような表情で、奴はしばらく考えをめぐらせていたが 「キッド、ここはヤバイ!今すぐ脱出した方が・・・」 そう奴が言いかけたその時、奥の部屋から携帯電話が鳴る音が聞こえた。 すると、突然バン!とドアが開かれ、中から男達が出てきた。 「いいか!忍び込んだネズミは2匹だ。引きずり出して殺せ!! 男の一人がそう怒鳴り散らす。 バレた!! オレは舌打ちをして、トランプ銃をギリっと握った。 「やっぱり!ジンはオレが犯人をあげたことを知っていたんだ。 なるほど。 そう思ってる間にも男たちの足音はこちらへ近づいてくる。 仕方ない!! オレはトランプ銃を奴らに向けて威嚇射撃した! 「いたぞ!怪盗キッドだ!!」 瞬間、銃声が響き渡り、男達が1階へと駆け下りてきた。 さすがにこの人数じゃキツイな・・・。 周りをすっかり取り囲まれたオレは身動きができない。 すると、一人の男の銃がはじけ飛び、次の瞬間ソイツはぐらりと倒れた。 「上だ!!上にも一人いるぞ!!」 男達はいっせいに2階へ向けても発砲する。 直後、オレは柱から飛び出し、次々にトランプ銃で男達の手元を狙った。 すると、階段の踊り場で名探偵が片膝をついたところだった。 撃たれたのか?! 見ると右太股辺りが出血している。 野郎!! オレは何も考えずに名探偵を撃った男の前に飛び出していた。 男はぐらりと倒れ、オレはそれに馬乗りに乗った。 瞬間、キナ臭い匂いと、骨が砕けるようなショックと、焼けるような痛みが走った。 床を濡らし始めた血をオレは無表情で見やり、それから視線を男へ移した。 そしてそのままソイツの首もとにトランプ銃を押し付けてやる。 「!!キッド!よせ!!」 名探偵の声が響く。 オレがその場から立ち上がると、ちょうど名探偵が2人の男を蹴り倒しながら 名探偵もあんな立ち回りができるなら、怪我は大した事ないな・・・。
そう思った時、突然の爆風にオレは吹き飛ばされた!! 何だ!? 目の前はあっという間に火の海と化していた。 「おい!!名探偵!生きてるか!?」 あまりの火の勢いで、姿を見失ってしまった奴に声をかける。 「歩けるか?!」 オレの問いに奴は力強く頷く。よし!なら大丈夫だな。 「キッド!お前は動けるのか?!」 「・・・ああ。心配いらねーよ。仕方ねーな。今回はここまでだ。脱出するか! 「やってみる。お前は!?」 「なんとかするさ!」 激しい炎の向こうに見える心強い笑顔に、オレもニヤリと笑って返した。 オレ達はそこで別れた。
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それから。 オレは出血する肩を押さえながら、前かがみになって、人気の無い公園を進んでいた。 そのうち、前方にベンチを見つけて、なんとかそこまで歩いていこうとした。 あそこまで行って、休憩するかな・・・。 ようやくたどり着いたベンチに腰掛けようとして、踏み出したその足に
そういや、名探偵は無事に逃げたかな・・・? 怪我は大した事なさそうだったから、大丈夫だとは思うけど。 ベンチで仰向けになったまま、夜空にぽっかり浮かんだ満月を見上げる。
そういえば、今日の獲物、まだ確かめてなかったな・・・。 ふと思い出して、胸ポケットから宝石を取り出し、月にかざす。 血で汚れた手で宝石を掴んだため、宝石にも血がべっとりとつく。 「・・・やっぱ、ハズレか・・・。」 そのうち宝石を持つ手にも力が入らなくなって、ぽろりとそれがベンチの下へと ・・・なさけねぇな・・・。そう思いながら。
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その頃。 新一も撃たれた右足を引きずりながら、公園の遊歩道を歩いていた。 撃たれたのは一箇所だけだったが、爆風で飛び散ったガラスの破片で 右足に力を入れるたび、傷口から血があふれたが、新一はかまわず 「・・・あのバカ、どこ行きやがった?」 自分より大怪我を負っていたキッドのことを考える。 ・・・無茶しやがって・・・。
あの時、もし自分が止めていなかったら、アイツは殺ってしまっていたのだろうか? ・・・バカだ、アイツ。
そう思って歩き続けていくと、小さな広場に出た。 キッド!! 狭いベンチに身を横たえている姿を確認すると、新一は上手く動かない右足を ベンチから投げ出された左手からは、伝い落ちる血が地面を赤く染めている。 手の届く距離まで近寄った新一は、キッドの顔を覗き込んだ。 気を失っているのか、閉ざされた瞼は動かない。 「・・・おい、キッド!」 不安にかられて新一がキッドの名を呼んだ。 けれども、次の瞬間、キッドの目はパッチリと開き、新一の視線をしっかり捕らえた。 「・・・よぉ、名探偵。無事だったか?」 今にも死にそうな青白い顔をしているクセに、相変わらずなその口調。 「・・・人の心配より、自分の心配をしろよ?」 そう言って、新一は自分の胸元から携帯電話を取り出す。 「何だよ?救急車でも呼んでほしいのか?」 皮肉交じりに新一がそう言うと、キッドは静かに微笑んだ。 「・・・いいから、もうちょっとそばに来いよ。」 言われたとおり新一が近寄ると、キッドは血まみれの腕をゆらりと動かして 「!ちょっ!お前、何すんだ!!」 そのままキッドは自分の唇を新一のそれに重ねた。 「〜!!て、てめぇ!!」 新一が真っ赤な顔をして後ずさろうとして、右足が絡まりその場に尻餅をつく。 その様子を見て、キッドが声をあげて笑う。 「お互い怪我人なんだからさ、大人しくしてようぜ?」 確かに新一の右足はもう限界ではあったが。 そして。 血まみれな人間が楽しそうに笑っていると、ずいぶんと気味が悪いものだと
名探偵の顔を見ながら、やっぱり今日会えてよかったと思う自分がいた。 声が聞けて。触れることができて。 当初の誓いなど、脆くも敗れ去ったけど。 まぁ、いいや。 名探偵は特別ということにしておこう。 オレは、そうとうコイツにイカレてる自分に笑わずにはいられなかった。
+++ End +++
ゆうこさまからのリクエストノベル! 好戦的なキッド&新一VS組織・。 ストーリーの他に場面的にもいくつか具体的なリクをいただきました。 1、白馬登場! 2、高層タワーにたたずむキッド 一応、全件クリアしたつもりでいますが、いかがでしたでしょうか? ちょっと長かったかしらん? こんなんで少しでも楽しんでいただけたら・・・・いいのですけど。 2001.07.19 |
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