Heart Rules The Mind

Novel Dairy Profile Link Mail Top

NOVEL

危険な賭けであることは、百も承知。

奴らを挑発するなんて。

実際、奴らにとって、オレは『パンドラ』の周りをうろつく目障りなコソドロなのだから。

今までだって、何度と無く、命を落としかねないような目にもあわせてもらったし。

 

けれど。

そろそろ奴らに気づかせてやってもいい頃だろう?

『怪盗キッド』のその存在する意味を。

全ては組織を潰すためだという事を。

 


 

 BEST PARTNER  〜 番外編 〜

   月からの使者

                           +++ 後編 +++


 

四方八方にサーチライトが夜空を照らし出す。
現場の物々しい警備を双眼鏡で伺っていたオレは、手元の時計で時刻を確認する。

さて、そろそろ予告時間だな。

「さぁ、派手にやろうぜ!」

オレは小型のリモコンのスイッチを入れた。
とたんに、夜空めがけて花火が上がる。

3つの場所から同時に上がった花火に、現場は騒然とした。
慌てふためく警部の姿を見つけて、思わず苦笑が漏れる。

毎度毎度、面白いくらいに引っかかってくれる彼には本当に悪いとは思うけど。

もう少し、学習してもいいんじゃねーの?

名探偵がいないからといって、せめて少しでもスリル感が味わいたいと思うのは
自分の我侭なのか。

 

すっかり現場が混乱したのを確認すると、オレはシルクハットを目深に被り直し
今回の獲物が眠る美術館へグライダーを飛ばした。

 

展示室にはお約束の催眠ガス。警備員達はすでに夢の中だ。

オレはするりと窓から入り込み、アレキサンドライトが展示されているガラスケースに
近づいた。

と、背後に人の気配を感じる。

「そこまでですよ。怪盗キッド。」

白馬か・・・。
オレはゆっくり振り返った。

「これはこれは、白馬探偵・・・。お久しぶりですね。」

「相変わらず派手なパフォーマンスで目くらましをしているようだが、
その手は僕には通用しないよ。」

白馬のその言葉にオレはニヤリと笑って見せた。
もちろん、あの程度の騒ぎを起こしたところで、白馬まで騙せるとは思ってはいない。
コイツがここに一人でいるだろうということは、もともとお見通しだ。

「さすがは白馬探偵。・・・ですが・・・」

と、言いかけた時だった。
銃弾が、大きな音を立ててガラスの窓を突き破った。

「ふせろ!!」

オレは白馬にそう怒鳴って、窓の方を振り仰ぐ。黒い陰がいくつかよぎった。

奴らだ!!

「な、何だ?!何事だ?!」

慌てて窓に近づこうとした白馬に舌打ちをし、オレはすばやく奴の前に回りこんで
鳩尾に一発食らわせてやった。
力なく倒れる白馬の体を、柱の陰に隠す。

悪いな、白馬。ここで大人しくしといてくれよ?

それからオレはガラスケースに手を伸ばし、アレキサンドライトを手にすると
そのまま奴らが待つ外へと飛び出した。

 

美術館の屋上までたどり着いた時、オレの周囲に漲る殺気を感じ取った。

相手は・・・1、2、・・5人か。

いずれも銃を持った黒服の男達がゆらりと陰から姿を現した。

「その宝石を渡してもらおうか、怪盗キッド!!」

銃口を向けながら、その目をギラつかせている男に対して、オレは笑って言ってやった。

「いやだね!」

言いながら、ふわりととなりのビルへと飛び移る。
瞬間、銃弾の雨が降り注ぐが、それをなんとかかわしながら。

「追え!!逃がすな!!」

そう言って奴らが後を追ってくるが。

勘違いしてもらっちゃ困るな。
追われてるのは、お前らなんだぜ?

このまま追い込まれるような形で、実は奴らを追い込んでいこう。
うまくいけば、アジトの一つくらい案内してもらえるかもしれない。

オレは無数の銃弾をやり過ごしながら、ニタリと笑ったのだった。

 

+       +      +      +       +       +      +

 

同じ頃、工藤新一は、とある雑居ビルの中にいた。
そこは数日前に起こった殺人事件の現場である。

目暮警部と高木刑事を含む、数人の警察関係者と、今回の事件の容疑者候補として
考えられていた者たちを前に、たった今そのトリックを解き明かしたところだった。

コンピューターソフト会社の極秘プロジェクトに関わった3人が
次々と殺された今回の連続殺人事件は、今、この瞬間をもって幕が下りたのだ。

「いやぁ〜、お見事。今回もお手柄だったねぇ。」

新一の肩を軽くたたきながら、目暮警部はその人柄の良さを表すような笑顔で言った。

新一もそれににっこり答えながらも、実は意識はすでにもう他のところにあった。
もともと、今日ここへ来る時から考えていたことなのだが。

それは、キッドの予告状のこと。

昨日、白馬に指摘されるまでもなく、新一はずっとそのことを考えていた。

アイツがあんな予告状を出すなんて、何か裏があるに決まっている。
最初から、そう思っていた。

あれは、どう見ても自分を現場に呼ばないように仕向けたものとしか考えられなかった。
奴がそんなことをする理由は一つしか考えられない。
きっと、組織が関わってるに違いないのだ。

ちくしょう!人を邪魔者扱いしやがって!!

組織には自分だって用があるというのに。

だからこそ、新一は今日さっさとこの事件を片付けたら、
駆けつけるやるつもりでいたのだ。

犯人に確定された男が手錠をかけられている姿を目にしながら、
新一は警部に引き上げさせてもらいたい旨を申し出ようとしたその時だった。

犯人の男の口から、『ジン』という言葉がでたのだ!!
忘れもしないあの男の名前を!!

新一は目を見開いて犯人の男に詰め寄り、問いただすと男はあっさりと白状した。

殺人を犯してまで手に入れた情報で組織と取引をするはずだったことを。

「取引場所はどこだ?!」

男の襟ぐりを掴み上げて、新一はそれを聞き出すと、状況が飲み込めていない
警部達を残して、その場を飛び出したのだった。

 

 

+       +      +      +       +       +      +

 

 

ずるりと自分の前へ倒れこんだ男の手から、銃を遠くへ蹴飛ばそうとしたが
思いとどまり、その銃を自分で奪い取った。

確かにトランプ銃だけじゃ、心もとないもんな。

オレはウエストに銃を差し込んだ。

 

美術館の屋上で会った奴らに、上手い具合に追い込まれるようにして
たどり着いたのが、この古びた工場跡地。
使われなくなった機材が山済みにされたその奥に、2階建ての小さな建物が見える。

どうやら、そこが奴らのアジトなのだろう。
たとえそれが今回だけの仮の物だとしても。

胸元から双眼鏡を取り出して中の様子を伺うと、やはりそれらしい人物が
数人いるのを確認する事が出来た。

ふと。
ぽたりと地面を濡らす赤い物に気が付いた。

ああ、そういえばさっき撃たれたんだっけ?

ここまで来る途中、左腕を銃弾がかすめたことを思い出した。
見ると、白いスーツに赤いしみがついており、血が腕を伝って手首の方まで
来ていて、手袋まで赤く染まっていた。

あ〜あ。また一つ、衣装をダメにしちゃったなぁ〜・・・。

 

サイレイサーの耳を刺すような音も。
撃たれた瞬間の骨に焼け付くようなショックも。

もう何度か経験するうちに慣れてしまった。

 

また寺井ちゃんに怒られちまうな・・・。

そう思ってふっと笑い、オレはその建物へ侵入すべく近づいた。

 

中に忍び込むと、辺りは真っ暗だった。
外観からして、1フロアには6つくらいの部屋がありそうだが。
1階には人の気配は感じない。

奴らは上か。

そう思って、階段の方へ向かうと、コト、と微かな音がした。

一瞬のうちに身を翻し、応戦できるよう胸元から取り出したトランプ銃を構えると
柱の陰から声がした。

「!お前、キッドか?!」

何ィ?!その声は・・・!!

陰だけだった声の主は、ゆっくりとその姿を現した。

「・・・!名探偵・・・。」

いるはずのないその人の姿を目撃して、オレも思わず息を呑んでしまった。

「お前、なんでこんなとこにいるんだよ?」

相変わらず迷惑そうな表情でそう告げる名探偵に、オレは小さく溜息をついた。

「それはこっちの台詞。そっちは今日は事件なんじゃなかったっけ?」

オレのその言葉に、なんでお前がそんなことまで知ってるんだと言いたげに
奴はむくれて見せた。

「その事件の犯人が組織の奴らと、ここで取引する事になってんだよ!」

・・・なるほど。
それで名探偵は、勇敢にも一人でここへ乗り込んできたってわけか。

さて、どうしたものか。
このまま眠らせて、どこか安全なところへ連れ出してもいいけど。

オレがそう思ってチロリと奴を見やると、オレの考えを察したのか
麻酔銃を向けて見せた。

「オレに何かしてみろ、これで眠らせてやるぞ!」

・・・ハイハイ。わかりましたよ。
オレは苦笑しながら降参のポーズを取ってやった。

ふと、奴の視線がオレの左腕の方へ動いた。

「・・・撃たれたのか?」

「ああ、これ?大丈夫、かすっただけだから。」

「止血くらいしろよ。」

そう言って差し出されたハンカチをオレはマジマジと見つめてしまった。

「な、何だよ!なんか文句あんのか?」

少し顔を赤らめた奴の顔を見返して、オレはにっこり笑うとハンカチを受け取った。

「さんきゅ。使わせてもらうよ。」

手早く患部へ結びつけると、もう一度奴に向かって笑顔を向けた。
僅かに目を合わせた後、ふいと視線を逸らすしぐさがどうにも子供っぽくて
こういう時同い年とは思えないと感じてしまう。

しかし。

今はそんなことよりも、だ。

「名探偵、武器は?」

トランプ銃のカードがどのくらい詰め込まれているかと確認しながらそう聞くと、
奴は左腕の時計を差し出した。

オレはがっくり肩を落とす。

ああ、やっぱり・・・。
そんな玩具みたいな麻酔銃一つで、ここに来たのかよ・・・。

オレは無言でさっき奴らの仲間から奪った銃を、押し付けてやった。

「お前、これ・・・!」

「さっき、奴らから頂いたんだよ。一応、あるに越したことないだろ?
頼むから、自分の身は自分で守ってくれよ?」

「お前はどーすんだよ?!」

「ああ、心配いらねーよ。オレにはこれがあるから。」

そう言ってトランプ銃を見せる。

「そんな玩具みたいな道具じゃ・・・!」

「失礼だな、名探偵。これだって頚動脈でも狙えば、立派に人くらい殺せるんだぜ?」

言いながら、一枚のカードを名探偵の細い首に軽くあててやると
びくりと奴は体を竦ませた。
もちろん、危害など加えるつもりは毛頭ないが、予想以上のその反応にオレはなんだか
気分が良くなっていくのを感じた。

「・・・わかったら、大人しく受けとんな。」

オレはそれだけ言って、にっこり笑う。
奴のまっすぐな瞳がじっとオレを見据えるが、やがて納得したように銃を受け取り
その安全装置を外した。

「奴らは上か。」

言いながら、手馴れた様子で銃を扱う名探偵の姿を見て、
オレはやや驚きながら頷いた。

一体どこでおぼえたんだか・・・・。

「ドジんなよ?」

オレがそう笑いかけると、奴も、お前こそ、と不敵な笑いを返した。

 

 

それから、二人して慎重に階段を上がっていく。
先頭を行くオレは、途中後ろを振り返った。

「・・・名探偵はさ、奴らをどうしたいわけ?」

その問いに、奴は片方の眉をつり上げてオレを見返した。
何を言っているんだとばかりに。

「そんなの決まってるだろ。ぶっ潰す!」

唇を尖らしてそう言ってみせる姿に苦笑する。
コイツは本当に組織の恐ろしさをわかっているんだろうか?
ただの好奇心だけでここまで飛び込んできたんだとしたら・・・。

「恐くねーの?アイツらにとっちゃ、オレ達を跡形もなく消す事なんて簡単なことだぜ?」

意地悪くそう言ってやると今度は奴の方が笑って見せた。

「・・・お前、恐いのか?」

「まさか!」

オレはそう返事をしながら、クスリと笑ってしまった。
どうやら、オレの取り越し苦労らしい。
奴にはしっかり覚悟ができているようだ。

「無駄口叩いてねーで、さっさと行けよ!」

「了解。」

 

階段を上りきって2階へたどり着くと、奥の部屋から僅かに光が漏れているのが
見える。
どうやら、あそこらしい。

気配を殺してその部屋のそばへ近づく。

オレは目で合図を送り、奴と同時にドアの隙間から部屋の様子を伺った。

部屋の中には、全部で7人。
見たところ、リーダー格となる人物はいないが。

いったん、そこまで確認すると、その部屋の前から後退し
とりあえず、そこからは死角となる場所に身を隠した。

「・・・おかしい。あそこにジンがいない。」

顎に手を添えてそう呟く名探偵をオレは見やった。

誰だって?ジン?

「組織の奴のコードネームだ。今日、取引をするのは奴のはずなのに。」

「別に本人がきちんと来てるとは限らないだろ?」

今ひとつ納得できないような表情で、奴はしばらく考えをめぐらせていたが
とたんに目を見開いて、オレの腕を掴んだ。

「キッド、ここはヤバイ!今すぐ脱出した方が・・・」

そう奴が言いかけたその時、奥の部屋から携帯電話が鳴る音が聞こえた。
オレ達は意識をそちらに集中させた。

すると、突然バン!とドアが開かれ、中から男達が出てきた。

「いいか!忍び込んだネズミは2匹だ。引きずり出して殺せ!!
それから、後は兄貴の指示どおりにするんだ!!」

男の一人がそう怒鳴り散らす。

バレた!!

オレは舌打ちをして、トランプ銃をギリっと握った。

「やっぱり!ジンはオレが犯人をあげたことを知っていたんだ。
取引ができなくなったことも、オレがここへ乗り込んでくることも・・・。」

なるほど。
とすると、オレの行動も奴らの仲間からソイツに伝わっていたってことか。

そう思ってる間にも男たちの足音はこちらへ近づいてくる。

仕方ない!!

オレはトランプ銃を奴らに向けて威嚇射撃した!
そして、その隙にそこから飛び出し、階段の踊り場から一気に1階まで飛び降りる。

「いたぞ!怪盗キッドだ!!」

瞬間、銃声が響き渡り、男達が1階へと駆け下りてきた。
オレは柱の陰に転がり込んで、銃弾をなんとか避ける。

さすがにこの人数じゃキツイな・・・。

周りをすっかり取り囲まれたオレは身動きができない。

すると、一人の男の銃がはじけ飛び、次の瞬間ソイツはぐらりと倒れた。
オレが2階を振り仰ぐと、名探偵が銃を構えて立っていた。

「上だ!!上にも一人いるぞ!!」

男達はいっせいに2階へ向けても発砲する。

直後、オレは柱から飛び出し、次々にトランプ銃で男達の手元を狙った。
奴らがひるんだ隙に殴り倒す。そうやって一気に、3.4人は片付けた。
残りは・・・とオレが振り返ったその時、銃声が響き渡った。

すると、階段の踊り場で名探偵が片膝をついたところだった。

撃たれたのか?!

見ると右太股辺りが出血している。

野郎!!

オレは何も考えずに名探偵を撃った男の前に飛び出していた。
浴びせられる銃弾を紙一重で避け、ソイツの腹めがけて数発のパンチを
打ち込んだ。

男はぐらりと倒れ、オレはそれに馬乗りに乗った。
とたん、ソイツはカっと目を見開き、オレの左肩に銃口を押し付けて発射した。

瞬間、キナ臭い匂いと、骨が砕けるようなショックと、焼けるような痛みが走った。
生暖かい血がみるみる溢れ出し、一気に白いスーツを染め始める。

床を濡らし始めた血をオレは無表情で見やり、それから視線を男へ移した。
男はオレと目が合うとニヤリとしたが、銃を持つ手をオレが捻り上げると
悲鳴を上げてそれを落とした。

そしてそのままソイツの首もとにトランプ銃を押し付けてやる。

「!!キッド!よせ!!」

名探偵の声が響く。
その声にオレは銃口を僅かにずらし、男の首の皮一枚を切るだけにとどまった。

オレがその場から立ち上がると、ちょうど名探偵が2人の男を蹴り倒しながら
2階から下りて来るところだった。
・・・とりあえず、これでここにいる男達はなんとか片付いたけど。

名探偵もあんな立ち回りができるなら、怪我は大した事ないな・・・。

 

そう思った時、突然の爆風にオレは吹き飛ばされた!!

何だ!?

目の前はあっという間に火の海と化していた。
奴ら、最初からここを爆破するつもりだったのか!

「おい!!名探偵!生きてるか!?」

あまりの火の勢いで、姿を見失ってしまった奴に声をかける。
すると、火の向こうからそれに答える声がした。
声がした方を凝視すると、なんとか奴の顔が見えた。
が、炎が邪魔をしてあちらまで行く事はできない。

「歩けるか?!」

オレの問いに奴は力強く頷く。よし!なら大丈夫だな。

「キッド!お前は動けるのか?!」

「・・・ああ。心配いらねーよ。仕方ねーな。今回はここまでだ。脱出するか!
名探偵、そこから外へ出れるか?!」

「やってみる。お前は!?」

「なんとかするさ!」

激しい炎の向こうに見える心強い笑顔に、オレもニヤリと笑って返した。
そう言ってる間にも次々と爆発が起こり、火の勢いが増していく。
これ以上の長居は危険だ。

オレ達はそこで別れた。

 

 

+       +      +      +       +       +      +

 

 

それから。

オレは出血する肩を押さえながら、前かがみになって、人気の無い公園を進んでいた。
傷口を押さえてはいるものの、血は指の間を押し広げるようにして
どんどんこぼれ落ちていき、オレは少し息苦しくて口を開けた。

そのうち、前方にベンチを見つけて、なんとかそこまで歩いていこうとした。

あそこまで行って、休憩するかな・・・。
・・・寺井ちゃんを呼ばねーと、ちょっとヤバイかも・・・。

ようやくたどり着いたベンチに腰掛けようとして、踏み出したその足に
うまく体重をのせることができないで、オレはよろけ、横倒しにベンチに倒れて
そのままもう起き上がることができなかった。

 

そういや、名探偵は無事に逃げたかな・・・?

怪我は大した事なさそうだったから、大丈夫だとは思うけど。

ベンチで仰向けになったまま、夜空にぽっかり浮かんだ満月を見上げる。

 

そういえば、今日の獲物、まだ確かめてなかったな・・・。

ふと思い出して、胸ポケットから宝石を取り出し、月にかざす。

血で汚れた手で宝石を掴んだため、宝石にも血がべっとりとつく。
月光を通して見えるその赤は、『パンドラ』としてのそれではなく、自分の血だ。

「・・・やっぱ、ハズレか・・・。」

そのうち宝石を持つ手にも力が入らなくなって、ぽろりとそれがベンチの下へと
転がり落ちた。
体を起こして拾おうとしたが、どうにも力が入らず、頭の中は靄がかかったように
どんどんぼやけていき、しまいには目までかすんできて、もうどうしようもなく、
オレはふぅっと気絶した。

・・・なさけねぇな・・・。そう思いながら。

 

 

+       +      +      +       +       +      +

 

 

その頃。

新一も撃たれた右足を引きずりながら、公園の遊歩道を歩いていた。

撃たれたのは一箇所だけだったが、爆風で飛び散ったガラスの破片で
体のいたるところに切り傷があり、ぴりぴりと痛んだ。
幸い、ガラスが突き刺さるような大怪我はしていなかったが。

右足に力を入れるたび、傷口から血があふれたが、新一はかまわず
歩き続けた。

「・・・あのバカ、どこ行きやがった?」

自分より大怪我を負っていたキッドのことを考える。

・・・無茶しやがって・・・。

 

あの時、もし自分が止めていなかったら、アイツは殺ってしまっていたのだろうか?

・・・バカだ、アイツ。

 

そう思って歩き続けていくと、小さな広場に出た。
と、そこに月の光によって小さなベンチが鮮明に映し出された。

キッド!!

狭いベンチに身を横たえている姿を確認すると、新一は上手く動かない右足を
引きずってなんとか近づいた。

ベンチから投げ出された左手からは、伝い落ちる血が地面を赤く染めている。
ぴくりとも動かないその指先から、ぽたりぽたりと血溜まりの中へ落ちるその音だけが
夜の公園に響きわたる。

手の届く距離まで近寄った新一は、キッドの顔を覗き込んだ。

気を失っているのか、閉ざされた瞼は動かない。
月光のせいか、多量の出血のせいか、
キッドの顔はひどく青ざめたように新一の目に映った。

「・・・おい、キッド!」

不安にかられて新一がキッドの名を呼んだ。

けれども、次の瞬間、キッドの目はパッチリと開き、新一の視線をしっかり捕らえた。
まるで、ただ考え事をしていただけだとでも言うようなその様子に
新一の方が少々面を食らってしまった。

「・・・よぉ、名探偵。無事だったか?」

今にも死にそうな青白い顔をしているクセに、相変わらずなその口調。
新一は大きく溜息をついた。

「・・・人の心配より、自分の心配をしろよ?」

そう言って、新一は自分の胸元から携帯電話を取り出す。
この状態では助けを呼ばないことには2人とも動けない。
新一が阿笠博士の番号をプッシュしようとした時、キッドが首を横に振った。

「何だよ?救急車でも呼んでほしいのか?」

皮肉交じりに新一がそう言うと、キッドは静かに微笑んだ。

「・・・いいから、もうちょっとそばに来いよ。」

言われたとおり新一が近寄ると、キッドは血まみれの腕をゆらりと動かして
新一の首に回す。

「!ちょっ!お前、何すんだ!!」

そのままキッドは自分の唇を新一のそれに重ねた。

「〜!!て、てめぇ!!」

新一が真っ赤な顔をして後ずさろうとして、右足が絡まりその場に尻餅をつく。

その様子を見て、キッドが声をあげて笑う。

「お互い怪我人なんだからさ、大人しくしてようぜ?」

確かに新一の右足はもう限界ではあったが。
なんとも納得できないようなキッドの台詞に、新一はただ睨み返すだけだった。

そして。
睨まれたキッドは、にこやかな笑顔を新一へ向けている。

血まみれな人間が楽しそうに笑っていると、ずいぶんと気味が悪いものだと
新一は思った。

 

 

 

名探偵の顔を見ながら、やっぱり今日会えてよかったと思う自分がいた。

声が聞けて。触れることができて。

当初の誓いなど、脆くも敗れ去ったけど。

まぁ、いいや。

名探偵は特別ということにしておこう。

オレは、そうとうコイツにイカレてる自分に笑わずにはいられなかった。

 

 

+++ End  +++

 



ゆうこさまからのリクエストノベル!
「BEST PARTNER」をキッド視点で・・・。

好戦的なキッド&新一VS組織・。
キッドから組織にちょっかいを出し、そこに独自で調査していた新一も加わるという・・・。
でも、見つかってしまい、追いかけられる二人!がきちんと反撃もする!
勝ってもいないが、負けてもいないという感じで。

ストーリーの他に場面的にもいくつか具体的なリクをいただきました。

1、白馬登場!  2、高層タワーにたたずむキッド 
 3、怪我をするキッド  4、新一を抱きしめるキッド

一応、全件クリアしたつもりでいますが、いかがでしたでしょうか?

ちょっと長かったかしらん?
ごめんなさいね、構成力無くて。
最初、リク頂いた時、こりゃ難しいぞ!と頭を抱えていたのですが
書き始めると、意外に楽しかったりして・・・(笑)
リクノベルなのに、自分の趣味に走った作品になっちゃった・・・!ヤバイ!!

こんなんで少しでも楽しんでいただけたら・・・・いいのですけど。
かなり心配・・・。ドキドキ




2001.07.15


+++ ゆうこさまからコメントを頂きました!+++
私のリクエストでこんなにステキな小説を
 書き上げて下さって、とても感動しています。
 白馬さんも一杯登場されているし。
 それにキッド様もボロボロになっちゃって♪クスッvv
 ちょっと先の新一とキッドの関係も見ることができて、
 すごく得した気分です。 
 本編のこれからの展開がますます楽しみになりました。
 ririkaさま。本当にありがとうございました!!

2001.07.19

 

Copyright(C)ririka All Rights Reserved.   Since 2001/05/04