Heart Rules The Mind

Novel Dairy Profile Link Mail Top

NOVEL

COMPLICITY

       〜 共犯行為 〜  

 

 

Side : k

「 『高校生名探偵 工藤新一の完全なる復活!』 ね・・・」

普段より少し遅めの朝食を取りながら、快斗は朝刊の一面記事に興味深げに眼をやった。

本来なら、自分が他人に興味を示すことなどまずありえない。
が、《工藤新一》は別だ。
なにしろ、この怪盗KIDを追い詰めたただ一人の人間なのだから。

いや、正確には本気で追い詰められたわけでは決してなかったのだが、一瞬冷やりとした感覚は味合わせてもらった。

今まで誰一人として,充分に解読し得なかった予告状の暗号を正確に解き、
まぁ、実際の犯行は防げなかったにせよ、その後の逃走ルートまで割り出す聡明な頭脳は
賞賛に値する。

「ま、俺以外にも少しは頭のキレるヤツがいたってことかな・・・・」

過去一度、この工藤新一と相対した時から、既に快斗の中で彼は注目すべき人物となった。
が、しかしその後彼は忽然と姿を消してしまった。

しばらくして再び怪盗KIDの前に立ちはだかったのは、なんと小さな少年だった。
それでも明らかに小学生らしからぬ洞察力と行動力を不信に思っていると
思わぬ結論にぶち当たった。
江戸川コナンと名乗る小さな名探偵と、工藤新一はイコールであるということ。
それはあまりにも非現実的で、馬鹿げた考えだと思ったが、
当人に肯定されてしまっては認めざるを得なかった。

まぁ、こんなご時世だし(?)、そういうこともありかもな。
実のところ、非現実的なことが自分の周りでは日常茶飯事な快斗にとって、それは大した事ではなかった。

なんにせよ、どんな魔法を使ったかは知らないが、工藤新一はどうやらもとの姿に戻ったらしい。
この華々しい新聞記事をみるかぎり、全面的に戦線復帰をしたというわけだ。

に、してもだ。

「これじゃ、まるでアイドル並の扱いじゃねぇ?」

ここ最近の工藤新一のマスコミへの取り上げられ方は、尋常じゃない。

「この俺様の方が、スターだっつーの!」

『KID予告』の記事が大きく書かれている裏面を表に向けて、快斗が朝刊を放り投げると
そこへ寺井が食後のコーヒーを運んできて、危うく命中してしまうところだった。

「あ〜あ!また仕事がやりにくくなちまったぜ!」

ボヤきながら食後の口直しにしては甘すぎるだろうコーヒーを口に入れると、寺井が言った。

「なんだか楽しそうですね?快斗坊ちゃま。」

俺は上目使いだけでにやりと笑った。

「やっぱ、わかる?」

 

 

Side : s

「一体どういうつもり?」

朝刊をぽんとテーブル投げ、口を開いたのは灰原哀である。
その口調はいたって冷ややかであった。
彼女の目線の先には、コーヒーを飲んでいる工藤新一の姿があった。

灰原の射るような眼差しを、新一は一瞬見返し、その後フイと視線をそらす。

「・・・どうって?」

一呼吸、間があって、灰原はあきれたようにため息をつく。

「名探偵のご活躍も結構だけれど、このメディアへの露出の量は半端じゃないわね。
 工藤君、あなた・・・彼らをあおっているのね・・?」

彼らとは、かつて俺を小さな少年の姿に変えた『黒の組織』のこと。
もとの姿を取り戻すため、奴らを必死で追いかけたが
闇の犯罪組織はそう甘くはなく、何一つ有力な手がかりはつかめなかった。

が、幸いなことにもと組織の一員であった灰原が解毒剤の試作品を完成させたことによって
俺はもとの工藤新一の姿に戻ることができたのである。
けれども、それには限りがあった。
灰原が言うには、所詮正確な解毒剤でないからだそうだ。

そう。今、この工藤新一の体を保つためには、継続して薬を飲まねばならない。
つまり、本当にもとの姿に戻れたわけではなかった。
やはり本当の姿に戻るための鍵は、奴らだけが握っているのだ。

「・・・あなた、わかってるの?次は命を狙われるわよ。」

「・・・承知の上だよ。」

解毒剤の試作品が出来た時、真っ先にそれを飲もうとした俺に
博士と灰原は賛成の意を示さなかった。
現時点で、もとの姿を手に入れるのは危険だと・・・。

たしかに「コナン」のままでいた方が身の安全は確保できたろう。
それでも、もう「コナン」でいるのは嫌だった。
あの小さな体では出来ることに限界がある。もうこれ以上、くやしい思いはしたくなかった。

ならば。

逆にこの体を利用すればいい。
世間に「工藤新一」の存在を知らしめて、奴らをおびき出してやるのだ。
マスコミにチヤホヤされるのは不本意だが、一番手っ取り早くて有効な手段であることは間違いない。

危険はもとより覚悟の上。

「・・・もう少し利口な人かと思ったけど。」

「かいかぶりすぎだろ・・?」

新一は不適な笑みを浮かべた。

すると灰原はおもむろに黒い塊をコトンとテーブルに載せた。
それは短銃だった。
新一の目がわずかに見開かれる。

「博士からよ。モデルガンに少し手を加えたようね。
 弾は実弾ではないけど、特殊加工の金属だから充分殺傷能力はあるかしら。」

新一はしばらくそれを見つめていたが、「サンキュー」と小さく笑って受け取った。

「・・・灰原、お前心配してくれてんの?」

「バカね。あなたがドジをふんだら、私にまで火の粉が降りかかるからに決まってるでしょ?」

それだけ告げると灰原は部屋を後にした。
少女の背中が消えるのを待ってから、新一は銃を手にとって見る。

思ったよりそれは軽かった。

 


Side : k

怪盗KIDの犯行予告日当日。
既にKIDによる華麗なショーは始まっていた。

けたたましいサイレンの音が鳴り響き、夜空を切り裂くサーチライトがKIDの姿を捕らえようと
四方八方へと照らされる。
が、それすら見当違いな方向を探していた。
KIDは既に安全圏に位置し、頬杖をつきながら下界の様子をうかがっている。

「・・・案外、楽勝だったな。」

獲物は既にKIDの手の中。
だが、先に送っておいた予告状を、あの名探偵が今回も一言一句間違わずに解読したであろうことは
要所要所のポイントを押さえた警備で明らかにわかった。
しかし、所詮警備しているのは、ただの警官。出し抜くことなどたやすいこと。
例えば警備員全員が、あの名探偵ほどの頭脳を持ち合わせていれば別の話だが・・・。

「せっかくの名探偵のアドバイスも意味なしってね・・・」

KIDは胸ポケットから、大事そうに本日の獲物を取り出すと軽く唇を押し当てる。

「・・・さて、今日こそは売る麗しの女神に出会えるかな?」

美しく輝く宝石を月光に照らして、凝視する。
細められたKIDの瞳が、ふっと哀しそうな色を灯す。

「はい、ハズレ。」

まるでただのくじ引きがハズレたかのように、KIDは軽口をたたく。
時価数十億とも言われるその宝石を、ただの小石のように手の上で遊ばせながら。
お目当てのものでなければ、KIDにとってはどんな高価な宝石もただの石同然。
もう、興味なしとばかりに、さっさとポケットにしまいこんだ。

「本日のお仕事はこれで終了だけど・・・・」

狙っている獲物がそう簡単には手に入らないことなど知っている。
だからイチイチ落胆などしていられないし、する気もない。
それに、実はもうひとつ気がかりなことがあった。

あの名探偵にまだ出くわしていない。
ということは、またどこかで自分を待ち伏せしているのだろう。
ふむ、とKIDは面白そうに笑った。

退路の確保は、「KID」をやっていく上で必要不可欠の必須条件。
もちろん、あらかじめ様々なケースを想定して、常に複数用意してある。

しばし考え込んでから、ふいに夜空を仰ぐ。

「決めた。進路は『北北西に取れ』ってね!」

本日の逃走ルートをたった今、気分で決めたKIDは、純白のマントを翻した。

 

 

Side : s

 

廃屋のビルの屋上で、一人、新一はKIDが現れるのを待っていた。
既にKIDが宝石を手に入れ、逃走したことは警部からの無線連絡でわかっている。

奴が現れるのは時間の問題だ。
新一は神経を集中させる。

それにしても、だ。
毎度の事ながら怪盗KIDを捕まえるのは容易ではないと思い知らされる。
予告状の暗号解読は間違ってはいなかったはず。
奴の行動パターンを先読みして、警備員を配置したはずなのにそれでも出し抜かれてしまう。
本当に厄介な泥棒だ。

怪盗KIDに関して言えば、わからないことだらけだ。
コソ泥のくせにデーハーな衣装を身にまとい、ご丁寧に予告状まで出す始末。
物々しい警備の中、華麗なマジック・ショーを披露するかのごとく、パフォーマンス精神旺盛なところなど、
全く理解に苦しむ。
なぜ、そうまでしなければならない?
わざわざ目立つようなことをする必要がどこにあるというのか?
かえって身を危険にさらすというのに・・・。

と、そこまで考えてハタと気づく。

「・・・なんか、これって俺のしてることと似てねーか?」

黒の組織をおびき出すために、あえて目立つよう表舞台に立っている自分と。
ということは、KIDも何か追っているものがあるというのか?
まさか、宝石以外にも?

そう思った瞬間、真っ黒な夜空に白い羽のような翼が現れた。

「・・・KID!!」

 


 

「これはこれは、名探偵。」

新一から少し離れた排水タンクの上に優雅に降り立ったKIDは
響きのよいテノールで声をかける。
新一からは逆光で、その表情までは読み取れないが、
シルクハットをふわりと取って、紳士さながら丁寧にお辞儀をして見せた。

その相変わらずの気障振りに、新一は半ばうんざりしながらも
いぶかしげな眼差しでKIDの次の動向を窺う。

「・・・お久しぶり・・・と言うべきなんでしょうかね?その姿でお会いするのは。」

「コナン」が実は新一であるという事実を知っている数少ない人物の一人であるKIDだからこそ
言える言葉である。

「小さくなったり、大きくなったり、忙しい人ですね?貴方も。」

チッ!人の気も知らないで!!
心の中で悪態をつきながら、新一はKIDに睨みを利かす。

新一の鋭い視線を得意の笑顔でかわしながら、KIDはさらに続ける。

「・・・小さな名探偵姿もとても愛らしかったのですが、・・・ああ、でもやはり今の姿の方が私の好みですね。」

「オメーの好みなんざ、興味ねえよ。」

KIDのバラのような微笑みを冷たく一瞥し、新一は話題を本題へ移す。

 

「予告どおりに、宝石を手に入れたんだってな。」

「ええ。実に首尾良く。」

悪びれも無くにっこりと答えるKIDをいまいましげに見ながら
新一はふぅーっとため息をもらす。

「・・・それで、今回も返品する気か?
 前から気になっていたんだが、お前さ、何か別の目的があるんじゃないのか?」

思いがけない新一の問いに一瞬驚いたが、それはもちろん鉄壁のポーカーフェイスでカバー。
逆に新一に問い掛ける。キラリと視線を光らせて。

「別の目的とは?」

「・・・例えば、何か特別な宝石を捜しているとか・・・。それから宝石以外にも・・・。」

KIDは少し眉を吊り上げる。
表情には微塵にも出してはいないが、内心にわかにあせりを感じた。
やはり、この名探偵はあなどれない。

「・・・それは、名探偵殿の推理ですか?」

「いや、これはオレのカン。」

これにはさすがのKIDも面を食らった。
え?おいおい、天下の名探偵がただのカンだと?
しかも、当っているだけに本当に始末が悪い。
なんてするどい奴なんだ!

・・・・そんな危険な奴は!

危なくて自分のものにしたくなる。

KIDはシニカルな笑みをたたえると、ふわりと空を舞い、
次の瞬間には新一の目の前にいた。

驚いて後退しかけた新一の右手をすばやく取り、手の甲に唇を押し当てた。

KIDのやわらかい唇の感触と体温が新一に伝わる。

「・・バっ!!な、な、何しやがる!!」

新一は真っ赤になって手を引っ込める。

「いえ。もとの姿に戻られたお祝いというところでしょうか。」

また自分の話をムシ返されて、新一は憤然とする。
手にキスをされたことで動揺しまくっている自分自身すら腹立たしい。
これではまた、KIDのペースに巻き込まれてしまう。
憎々しげに思いながらも、このままでは終わらせないと考えをめぐらせる。

どうせ、もうすぐこの怪盗は夜空を駆けて去っていくつもりだろう。
だからその前に手を打たなければ!!

よし!隙を見て発信機を付けてやる!!

ポケットに仕込んである小型発信機に手をやろうとしての視線をKIDから外したその瞬間、
新一の腕がグイっと引かれ、バランスを少し崩しかける。

「・・・え?」

慌ててKIDの方へ顔を向けた時、新一が見たものはこの上なく近づいたKIDの顔。
そして、驚きのまま成す術も無く、新一はKIDに抱きしめられ
その唇を奪われる。

「・・・うっ・・ん・・!」

新一の瞳がこれ以上ないくらい大きく見開かれる。
突然のことに事態が飲み込めない。
自分の唇を覆っているものが、KIDのそれであると理解するまで、時間を要すること少々。

この野郎・・!

新一はKIDを突き飛ばそうと、腕に力をこめたが、KIDはびくともしない。
くっそう!離しやがれ・・・!!
今度は頭を振って逃れようとするが、それは単にキスの角度を変える行為に過ぎなかった。

そのうち、新一は息が止まっていることに気づき、息苦しさに少し唇を開いた。
が、そこへやってきたのは、新鮮な空気ではなく、KIDの舌だった。
突然の異物の進入に新一は体を硬直させる。

「・・んんっ!」

やわらかいKIDの舌が、縦横無尽に新一の口腔を犯す。
そして奥へ逃げていた新一を探し出し、それを絡め取る。

キスの激しさに先ほどまで身開かれていた新一の目が、ぎゅっと閉じられる。
その新一の様子を満足げにKIDが覗ったとき、
今度こそ、新一は力の限りKIDを突き飛ばす。

が、それに合わせてKIDもふわりと後退した。

「・・・っ!てっめぇ・・!!」

唾液で濡れた唇を拭いながら、新一はKIDに対して怒りの炎を露にする。
その息遣いは少し,荒い。

そんな新一の様子をうれしそうに眺めながら、KIDは告げる。

「知っていますか?人は何か仕掛けようとするその時、一瞬の隙が生まれるんですよ。
 それにしても、さすがは名探偵。便利なものをお持ちですね。」

「え!」

KIDの手には、新一の胸ポケットにあるはずの追跡用発信機があった。
その超小型で高性能な作りに、KIDは大げさに感嘆の声なんかあげてみせる。

ちっ!
新一は舌打ちをせずにはいられない。おそらく先ほど密着した時、ポケットから抜き取られたのだろう。
まったく油断も隙もあったもんじゃない。

が、もうこうなっては追跡することさえままならない。
悔しさで唇を噛む新一を、チラリと横目に見やってKIDは一度背を向ける。
そして、それからゆっくり振り返る。新一の目をしっかり見つめながら。

「・・・ですが、こちらはあまり関心しませんね。」

新一は、驚きに目を見開く。
KIDの発信機を持つ反対の手には、なんと短銃が握られていたのだ。

あ!と、思って新一は自分の胸の内ポケットの位置に手を当てる。
そこにあるはずのものがない。
発信機と共に銃まで盗られたのだ。なんたる失態!

「こんな物騒なもの、あなたには似合わないような気がしますが?」

銃口に唇を当て、気障なポーズをとって見せながらKIDは言う。

ギッとKIDをにらみ付けながら、新一は低い声で告げた。

「・・・返せ。それは・・・お前には関係ない!」

その声色にいつもの新一らしからぬ雰囲気を察して、KIDは眉を寄せたその時、
にわかにあたりが騒がしくなった。
どうやら、やっと警官たちがこちらに到着したらしい。

「今宵は長居をしすぎてしまったようだ。
 それでは、またお会いできるのを楽しみにしていますよ?」

「ま、待て!KID!!」

新一が声をあげたその瞬間、目もくらむような激しい光に包まれ、
視力が回復した時には、KIDの姿はもうどこにもなかった。

あとに残されたのは、きちんと白いハンカチに包まれた本日の獲物だったはずの宝石と
しっかり発信機を抜き取られている追跡機。
そして、短銃。

この分じゃ弾も抜かれてるかも・・・と思って確かめてみると、大丈夫だった。

ふぅ・・とため息をつきながら、大事そうに銃を胸へしまった。
とりあえず、銃を盗られなくてよかった。
ついこないだもらったばかりなのに、もう無くしたなんてことになったら、博士にも灰原にも合わせる顔がない。

そこへ警部たちがようやく駆けつけた。
新一は申し訳なさそうにKIDを取り逃がしたことを告げ、とりあえずは宝石を返す。
それだけでもお手柄だと褒め称えられるが、実際、それは取り返したのではなく
KID自身が置いていったのだから、なんだかあいつのおかげみたいで腹立たしかった。

それでも。
既に新一の関心は他のところにあった。

今回もまた組織の奴らとの接触は無く、空振りに終わった。

夜空を眺めて大きくため息を一つ。
そして、現場を後にした。

 


同じ頃、夜空を颯爽とかける白い翼が一つ。

KIDは快調に空を駆けていた。眼下には美しい夜景が広がっている。
が、意識は別のところにあった。

なんであの名探偵が銃なんて持っているんだ?
まぁ、そりゃあ、探偵なんてやってりゃ、それなりに危険はついて回るだろうけれども。
護身用・・・・って言われれば納得できなくもないが。

にしたって、あれはモデルガンの改造銃だった。
ご丁寧に弾まで、手作りみたいだったし?

どういうんだ?一体。
こんなことしちゃ、犯罪だぜ?って犯罪者の俺に言われたくもないだろうけど。


一人でつっこみを入れながらもKIDは、いつもの不適な笑みを浮かべる。

自分とはまるで正反対の光の中にあるはずの名探偵に
どこか同じような暗闇を見たような気がして。

 


記念すべき(?)コナン処女作。

なんだか書きたかったものと微妙にずれてしまった気がする。

 

Copyright(C)ririka All Rights Reserved.   Since 2001/05/04