COMPLICITY 〜 共犯行為 〜
Side : k 「 『高校生名探偵 工藤新一の完全なる復活!』 ね・・・」 普段より少し遅めの朝食を取りながら、快斗は朝刊の一面記事に興味深げに眼をやった。 本来なら、自分が他人に興味を示すことなどまずありえない。 いや、正確には本気で追い詰められたわけでは決してなかったのだが、一瞬冷やりとした感覚は味合わせてもらった。 今まで誰一人として,充分に解読し得なかった予告状の暗号を正確に解き、 「ま、俺以外にも少しは頭のキレるヤツがいたってことかな・・・・」 過去一度、この工藤新一と相対した時から、既に快斗の中で彼は注目すべき人物となった。 しばらくして再び怪盗KIDの前に立ちはだかったのは、なんと小さな少年だった。 まぁ、こんなご時世だし(?)、そういうこともありかもな。 なんにせよ、どんな魔法を使ったかは知らないが、工藤新一はどうやらもとの姿に戻ったらしい。 に、してもだ。 「これじゃ、まるでアイドル並の扱いじゃねぇ?」 ここ最近の工藤新一のマスコミへの取り上げられ方は、尋常じゃない。 「この俺様の方が、スターだっつーの!」 『KID予告』の記事が大きく書かれている裏面を表に向けて、快斗が朝刊を放り投げると 「あ〜あ!また仕事がやりにくくなちまったぜ!」 ボヤきながら食後の口直しにしては甘すぎるだろうコーヒーを口に入れると、寺井が言った。 「なんだか楽しそうですね?快斗坊ちゃま。」 俺は上目使いだけでにやりと笑った。 「やっぱ、わかる?」
Side : s 「一体どういうつもり?」 朝刊をぽんとテーブル投げ、口を開いたのは灰原哀である。 灰原の射るような眼差しを、新一は一瞬見返し、その後フイと視線をそらす。 「・・・どうって?」 一呼吸、間があって、灰原はあきれたようにため息をつく。 「名探偵のご活躍も結構だけれど、このメディアへの露出の量は半端じゃないわね。 彼らとは、かつて俺を小さな少年の姿に変えた『黒の組織』のこと。 が、幸いなことにもと組織の一員であった灰原が解毒剤の試作品を完成させたことによって そう。今、この工藤新一の体を保つためには、継続して薬を飲まねばならない。 「・・・あなた、わかってるの?次は命を狙われるわよ。」 「・・・承知の上だよ。」 解毒剤の試作品が出来た時、真っ先にそれを飲もうとした俺に たしかに「コナン」のままでいた方が身の安全は確保できたろう。 ならば。 逆にこの体を利用すればいい。 危険はもとより覚悟の上。 「・・・もう少し利口な人かと思ったけど。」 「かいかぶりすぎだろ・・?」 新一は不適な笑みを浮かべた。 すると灰原はおもむろに黒い塊をコトンとテーブルに載せた。 「博士からよ。モデルガンに少し手を加えたようね。 新一はしばらくそれを見つめていたが、「サンキュー」と小さく笑って受け取った。 「・・・灰原、お前心配してくれてんの?」 「バカね。あなたがドジをふんだら、私にまで火の粉が降りかかるからに決まってるでしょ?」 それだけ告げると灰原は部屋を後にした。 思ったよりそれは軽かった。
Side : k 怪盗KIDの犯行予告日当日。 けたたましいサイレンの音が鳴り響き、夜空を切り裂くサーチライトがKIDの姿を捕らえようと 「・・・案外、楽勝だったな。」 獲物は既にKIDの手の中。 「せっかくの名探偵のアドバイスも意味なしってね・・・」 KIDは胸ポケットから、大事そうに本日の獲物を取り出すと軽く唇を押し当てる。 「・・・さて、今日こそは売る麗しの女神に出会えるかな?」 美しく輝く宝石を月光に照らして、凝視する。 「はい、ハズレ。」 まるでただのくじ引きがハズレたかのように、KIDは軽口をたたく。 「本日のお仕事はこれで終了だけど・・・・」 狙っている獲物がそう簡単には手に入らないことなど知っている。 あの名探偵にまだ出くわしていない。 退路の確保は、「KID」をやっていく上で必要不可欠の必須条件。 しばし考え込んでから、ふいに夜空を仰ぐ。 「決めた。進路は『北北西に取れ』ってね!」 本日の逃走ルートをたった今、気分で決めたKIDは、純白のマントを翻した。
Side : s
廃屋のビルの屋上で、一人、新一はKIDが現れるのを待っていた。 奴が現れるのは時間の問題だ。 それにしても、だ。 怪盗KIDに関して言えば、わからないことだらけだ。 と、そこまで考えてハタと気づく。 「・・・なんか、これって俺のしてることと似てねーか?」 黒の組織をおびき出すために、あえて目立つよう表舞台に立っている自分と。 そう思った瞬間、真っ黒な夜空に白い羽のような翼が現れた。 「・・・KID!!」
「これはこれは、名探偵。」 新一から少し離れた排水タンクの上に優雅に降り立ったKIDは その相変わらずの気障振りに、新一は半ばうんざりしながらも 「・・・お久しぶり・・・と言うべきなんでしょうかね?その姿でお会いするのは。」 「コナン」が実は新一であるという事実を知っている数少ない人物の一人であるKIDだからこそ 「小さくなったり、大きくなったり、忙しい人ですね?貴方も。」 チッ!人の気も知らないで!! 新一の鋭い視線を得意の笑顔でかわしながら、KIDはさらに続ける。 「・・・小さな名探偵姿もとても愛らしかったのですが、・・・ああ、でもやはり今の姿の方が私の好みですね。」 「オメーの好みなんざ、興味ねえよ。」 KIDのバラのような微笑みを冷たく一瞥し、新一は話題を本題へ移す。
「予告どおりに、宝石を手に入れたんだってな。」 「ええ。実に首尾良く。」 悪びれも無くにっこりと答えるKIDをいまいましげに見ながら 「・・・それで、今回も返品する気か? 思いがけない新一の問いに一瞬驚いたが、それはもちろん鉄壁のポーカーフェイスでカバー。 「別の目的とは?」 「・・・例えば、何か特別な宝石を捜しているとか・・・。それから宝石以外にも・・・。」 KIDは少し眉を吊り上げる。 「・・・それは、名探偵殿の推理ですか?」 「いや、これはオレのカン。」 これにはさすがのKIDも面を食らった。 ・・・・そんな危険な奴は! 危なくて自分のものにしたくなる。 KIDはシニカルな笑みをたたえると、ふわりと空を舞い、 驚いて後退しかけた新一の右手をすばやく取り、手の甲に唇を押し当てた。 KIDのやわらかい唇の感触と体温が新一に伝わる。 「・・バっ!!な、な、何しやがる!!」 新一は真っ赤になって手を引っ込める。 「いえ。もとの姿に戻られたお祝いというところでしょうか。」 また自分の話をムシ返されて、新一は憤然とする。 どうせ、もうすぐこの怪盗は夜空を駆けて去っていくつもりだろう。 よし!隙を見て発信機を付けてやる!! ポケットに仕込んである小型発信機に手をやろうとしての視線をKIDから外したその瞬間、 「・・・え?」 慌ててKIDの方へ顔を向けた時、新一が見たものはこの上なく近づいたKIDの顔。 「・・・うっ・・ん・・!」 新一の瞳がこれ以上ないくらい大きく見開かれる。 この野郎・・! 新一はKIDを突き飛ばそうと、腕に力をこめたが、KIDはびくともしない。 そのうち、新一は息が止まっていることに気づき、息苦しさに少し唇を開いた。 「・・んんっ!」 やわらかいKIDの舌が、縦横無尽に新一の口腔を犯す。 キスの激しさに先ほどまで身開かれていた新一の目が、ぎゅっと閉じられる。 が、それに合わせてKIDもふわりと後退した。 「・・・っ!てっめぇ・・!!」 唾液で濡れた唇を拭いながら、新一はKIDに対して怒りの炎を露にする。 そんな新一の様子をうれしそうに眺めながら、KIDは告げる。 「知っていますか?人は何か仕掛けようとするその時、一瞬の隙が生まれるんですよ。 「え!」 KIDの手には、新一の胸ポケットにあるはずの追跡用発信機があった。 ちっ! が、もうこうなっては追跡することさえままならない。 「・・・ですが、こちらはあまり関心しませんね。」 新一は、驚きに目を見開く。 あ!と、思って新一は自分の胸の内ポケットの位置に手を当てる。 「こんな物騒なもの、あなたには似合わないような気がしますが?」 銃口に唇を当て、気障なポーズをとって見せながらKIDは言う。 ギッとKIDをにらみ付けながら、新一は低い声で告げた。 「・・・返せ。それは・・・お前には関係ない!」 その声色にいつもの新一らしからぬ雰囲気を察して、KIDは眉を寄せたその時、 「今宵は長居をしすぎてしまったようだ。 「ま、待て!KID!!」 新一が声をあげたその瞬間、目もくらむような激しい光に包まれ、 あとに残されたのは、きちんと白いハンカチに包まれた本日の獲物だったはずの宝石と この分じゃ弾も抜かれてるかも・・・と思って確かめてみると、大丈夫だった。 ふぅ・・とため息をつきながら、大事そうに銃を胸へしまった。 そこへ警部たちがようやく駆けつけた。 それでも。 今回もまた組織の奴らとの接触は無く、空振りに終わった。 夜空を眺めて大きくため息を一つ。
同じ頃、夜空を颯爽とかける白い翼が一つ。 KIDは快調に空を駆けていた。眼下には美しい夜景が広がっている。 なんであの名探偵が銃なんて持っているんだ? にしたって、あれはモデルガンの改造銃だった。 どういうんだ?一体。 自分とはまるで正反対の光の中にあるはずの名探偵に
記念すべき(?)コナン処女作。 |
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