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NOVEL

appy Barthday  

 

G/Wの初日、5月3日。
半ば、快斗に引きずられるようにやってきた温泉地箱根。
離れで部屋が3つも有り、しかも露天風呂付きなんていう、まさに
極上な部屋を用意され、くつろいでいたのもつかの間、
快斗のとんでもない告白に、オレは真っ青になっていた。

だって、こんな立派な部屋を取っておきながら、金が無いなんて
普通、信じられないだろう?

けれど、快斗は平気な様子で、ごくあっさりと『いい手がある』なんて
言ってのけた。

オレは青ざめながら、マジマジと快斗を見つめてしまった。

「・・・どーするつもりなんだ?」

 

すると、ふいに部屋のドアをノックする音がした。

ああ、もしかして布団を敷きに女中さんがきたのかも。
オレは幾分バツの悪い思いをしながらドアを開けた。

「工藤様、御寛ぎのところ大変申し訳ございませんが、
そろそろお時間よろしいでしょうか?」

「・・・は?」

どうやら、布団を敷きに来たのではないらしい女中のその言葉に
オレが首を傾げていると、奥にいた快斗がやってきて、
オレの肩に軽く手を乗せた。

「今すぐ支度しますんで、少し待ってもらえます?」

女中は快斗の言葉に頷いて、ドアを閉めた。

「おい、快斗!何がどーなってるんだよ?」

オレが快斗を振り返ると、奴は浴衣を脱いで着替え始めていた。

「ほら、新一も早く着替えて!くわしい話は直接本人から
聞きなって。」

はぁ?!
何なんだよ、一体?

オレは納得がいかなかったが、外に女中さんを待たせてる手前、
仕方なく快斗に言われるまま、着替え始めた。

着替え終えて、オレ達が案内されたのは、女将の部屋だった。
そこも本館とは別棟の離れであったが、オレ達の部屋とは比べ物に
ならないくらい質素な作りだった。

部屋には女将の他に、旅館の板長と思われる男と、もうひとり恰幅の
いい男がいた。

オレ達が部屋を訪れると、女将は恭しく頭を下げた。
他の二人の男は訝しげな視線を投げかけてきただけだったけど。

用意された座布団にとりあえず快斗ともに座ると、
女中さんがすぐにお茶とお菓子を運んできた。

何なんだ?この重い空気は・・・。

「お呼び立てして大変申し訳ありません。
実は工藤様に折り入ってご相談がありまして・・・。」

女将は目を伏せたまま、口を開いた。

「私の名は月野 京子と言います。こちらは板長の竹田と
この旅館の経理担当の鈴田です。」

「・・・はぁ。」

オレは小さく会釈をしたが、イマイチ状況が飲み込めない。
しかも何なんだ?相談事って。

なのに、快斗ときたらオレの隣でちゃっかり出されたばかりの
お菓子をのんきにも口に運んでやがった!
お前には緊張感の欠片もないのか!!

「実はご相談と言うのは、この旅館のことなんですが。」

女将の言葉にオレは顔を快斗からぐるん、と前へ戻す。

「この旅館は私の曽祖父が始めたもので、代々受け継がれて
きたのですが、私はちっとも旅館に興味が無くて・・・。
家を出て普通のOLとして働いていたんです。

父は残念そうでしたけど、決して無理強いはしませんでしたし、
後継ぎについてはそのうち考えると言っていました。
けれど、3ヶ月前に突然事故で父が亡くなって・・・・。
私、父に申し訳なくていてもたってもいられなくて、仕事を辞めて
女将になったんです。」

へぇ・・・。じゃあ、この人、女将としては新米なんだな。
のわりには、ハマッてると思うけど、やっぱ血筋なんだろうか?

「旅館のことに関しては素人な私が女将をやっていけるのも
一緒に働いてくれているみんなのおかげなんです。」

そうなんだ。それはよかった。
もしかして新米女将をよく思わない輩が、イジメとかしてたりなんて
良くある話だし。
そんな相談だったら、はっきりいって管轄外だ。

オレは女将の話に頷きながら続きを促した。

「しばらくは順調にやってこれました。
けれど、一ヶ月ほど前くらいからおかしな事が起きるようになって・・・」

「おかしな事?」

「はい。この旅館には工藤様がお泊りのお部屋以外にも、
離れのお部屋が4つあるのですが、誰もいないはずのお部屋に
人影が・・・。」

え?

「最初は見間違えかと思ったのですが、目撃者が続々と現れて。
そのうち亡くなった父の霊ではないかという噂まで立ってしまって、
今ではすっかり幽霊の出る旅館になってしまったんです。
おかげで、この時期にも関わらず、お客様は工藤様たちだけ。」

女将はそう言いながら苦笑した。

幽霊旅館だと?
おいおい、勘弁してくれよ・・・。
オレはそういうオカルトちっくなのは苦手なんだよ。
霊の存在を真っ向から否定するつもりはないけど、
なんていうか科学的に説明がつかないのは、どうも苦手だ。

オレはこんなところへ連れてきた快斗をキッと見やった。
うすうす何かあるのでは、と思っていたがまさかこんなこととは。
きっと快斗は知っててやってきたのだ。

すでに茶菓子をきれいに食べきって、お茶をすすっていた快斗は
オレの視線など気にも止めずに、初めて口を開いた。

「それで、女将さんもその幽霊を見たんですか?」

女将は快斗の言葉に頷く。すると快斗はなおも続けた。

「あなたのお父さんに間違いなかったんですか?」

「いえ、そこまでは。ただ影を見ただけなんです。
父かどうかは・・・。」

「きっと、京子さんにこの旅館を継いで欲しくないんじゃないか?」

急に男が口をはさんで来た。
えっと、この人は経理の鈴田さんだっけ。

「どうしてそう思うんです?」

オレがそう言うと、鈴田さんは渋々と告げた。

「実は、この旅館はもう、とうに経営に陰りが見え始めていてね、
先代のご主人とも、そろそろたたんだ方がいいんじゃないかとか
よく話していたもんさ。
なのに、京子さんがいきなり後を継いでがんばり始めたものだから、
きっとご主人が気の毒に思って、姿を現したのかも・・・。」

幽霊となって?
嘘クサイ話だな。
だって、彼女のお父さんは本心は、彼女にここを継いで欲しかった
んじゃなかったっけ?

オレが眉を寄せていると、畳み掛けるように板長の竹田さんも
口をはさんで来た。

「やっぱり、ご主人は怒っていらっしゃるのかもしれない・・!!
呪われてるんだ、きっと!!」

そういいながら竹田は体を震わせ、頭を抱えた。

「落ち着いて。何か怒らせるようなことが?」

「だから、旅館のことを良く知りもしない彼女が継ぐことをだ!!」

竹田をかばうように鈴田が声を荒立てて言う。
ふーん、なんか怪しいな。

「それで、ここにいるみなさんは全員、その幽霊を目撃されたわけ
ですか?」

オレの言葉に全員無言で頷いた。

「では、きちんとその幽霊の顔まで見た方は?」

今度の問いに関しては、誰一人頷かず、固まっていた。
要するにみんな影しか見ていないんだ。

「なぜ、顔も見てないのに、先代の幽霊だと思うんですか?」

「そりゃ、影しか見てないけれども、先代のお部屋に出たり、
その近くの客室に出るから、そう思うのが普通だろ?」

鈴田は忌々しそうにオレを睨んだ。

「先代のお部屋はどこですか?」

オレの言葉に竹田はびくりと体を竦めたが、
女将は素早く立ち上がり、案内しますと小声で言った。

彼女の部屋から出て、先代の部屋へ向かう途中、オレは
快斗の袖口を引っ張った。

「お前、事情を知ってて連れてきたんだろう?」

「いいじゃん、これも人助け!
もしかしたら幽霊を拝めるかもしれないぜ?」

んなもん見たかねーよ!

そうツッコミを入れようと思った瞬間、悲鳴があがった!!

な、なんだ!?

オレ達を先導していた女中が震えながら、先に見える離れを
指差した。
そこにオレが見たものは、窓に映った黒い人影だった。

「で、出た!!また幽霊が!!」

板長の竹田が腰を抜かしてその場にへたり込んだが、
オレは彼を押しのけて、人影が現れた部屋へ走って向かった。

ドアを開けようとすると、ロックされていて開かない。

「そこは鍵がかけてあるんです・・!」

オレの後を追って走ってきた女将が息を切らしながら、オレに
キーを手渡す。
オレが手早く鍵を開けると、部屋には誰もいなかった・・・。

「やっぱり、父の幽霊なんでしょうか・・・?」

女将が少し悲しそうに目を潤ませながら呟いた。

「京子さん、悪い事は言わない。これはきっと先代の意思だ。
早いトコこの旅館をたたんで、あんたも東京に帰ったほうがいい。」

彼女の肩を抱きながら、鈴田がなぐさめるようにそう言っていたが
その目が怪しく光ったのをオレは見逃さなかった。

 

それから、しばらくオレは幽霊が現れた先代の部屋を丹念に
見て周った。
部屋は本館に隣接した離れで、吹き抜けの2F建て。
1Fは酒蔵として利用されており、日本酒からウイスキー、ワインなど
様々な酒が置いてあった。
先代の自室はその上の4畳半のスペースだ。
さっき人影が写ったのはその2Fの窓だが、鍵がかかって密室だった
わけだから、もし本当に誰かいたとして、ドアを開ける前に脱出すると
いうのはまずムリだ。
本当に幽霊ならそれもアリだろうけど、何かひっかかる・・・・。

「何か見つかった?」

考え込んでいたところ、ふいに声をかけられて、振り向くと
快斗がにこにこしていた。

何をうれしそうな顔してんだ、コイツ?
オレが訝しげな眼差しを送ると快斗はさらに言葉を続けた。

「何か、仕掛けがあると思ってるんだろう?」

「・・・ああ。まぁね。それよりお前、何、ニヤニヤしてんだよ?」

「そういう新一も目がイキイキしてるけど?」

え?マジ?

 

「・・・あのぉ、そろそろ戻りませんか?
気味が悪くて、長居をしたくないんですが・・・。」

2Fに来ていたオレと快斗に下から、竹田が声をかけてきた。

「あ、オレ達もう少しここにいますから、どうぞお構いなく!」

快斗がそう言うと竹田と鈴田は逃げるように部屋から出て行った。

女将は少し困ったように二人を見送った後、階段を上って
オレ達のところまでやってきた。

「何を調べていらっしゃるんです?」

「いえ、本当に幽霊がいるかどうかわかりませんが、
あなたのお父さんがこんなことをするなんて、
考えにくいですからね。」

オレのその言葉に彼女は力なく笑った。

「私もできれば何かの間違いであって欲しいと思います。」

「ところで、あの経理の鈴田さんと板長の竹田さんは、
古くからこの旅館にいる方なんですか?」

「竹田は親子2代の板長ですから・・・。でも鈴田は確か一年前
くらいにこちらへやってきたと思います。
それまでは経理関係もすべて父一人でやっていましたから。」

なるほどね。
やっぱり、怪しいな。

オレはそう思いながら、ふと人影が映ったのと反対側の窓を見た。
ちょうどそこからは、本館の調理場が見える。

「あ!」

オレは思わず叫んでしまった。
オレのその声に快斗もやってくる。

「何?見つかった?」

オレがにんまり笑ってうなずくと、快斗も、ああ、ほんとだ、と
笑った。

「で、どうしようか?」

「トリックはわかったけど、証拠がない。」

オレががっくりと肩を落とすと、快斗がウインクした。

「じゃあ、犯人を別の方向から追い込んで白状させちゃおうか♪」

「仕方ねーな。」

オレ達のそのやり取りを、女将はよくわからないといった様子で
窺っていた。

「心配いりませんよ、女将さん。やっぱりこの騒動はあなたの
お父さんの幽霊なんかじゃありませんでしたから。」

 

 

やばい!!
早く書き上げないと、新一様の誕生日が終わってしまうよぅ!!
やっぱやめれば良かった。
トリックなんて所詮、おばかな私には考えられないのに。

2001.05.04

 

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