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NOVEL

銀のNeedle 前編

 

 

「怪盗キッドが現れたぞ〜!!」

 

中森警部の大声と共に、辺りから歓声やら黄色い悲鳴が上がる。

ここは、都内の某ホテル。
最上階にあるレストランを貸切りにして、とある宝石店のオープニング・パーティを開催していたところだった。

パーティの主催者でその宝石店のオーナーでもある高科 愛子(たかしな あいこ)のところにキッドからの予告状が届いたのは、今日から3日前の事。

毎度の事ながら暗号解読を任されたオレは、直接会場入りするつもりはなく例によって奴の逃走経路を割り出して、先に待ち伏せしているつもりだった。
だが、その前に別件で目暮警部に呼び出されて、時間的に余裕が無くなったためやむを得ず現場に急行したというわけだ。


定刻どおり現れた白い怪盗は、高い天井から吊るされた豪華なシャンデリアに足をかけいつものシニカルな笑いで、こちらを見下ろしていた。

その人を食ったような笑いが気に入らない。
オレは舌打ちを一つして、キッドを睨み返した。

すると、奴はそれに答えるように目を少し細めると、握っていたシャンデリアの
太い鎖から、ぱっと手を離し、そのまま下へ舞い降りた。

白いマントが優雅に宙を舞う。

奴が静かに着地したその先には、宝石店のオーナーの高科愛子がいた。
細身の体にフィットした黒いドレス姿の彼女は、キッドを真っ直ぐ見据えると自分からキッドの方へと歩き出した。

彼女の信じられない行動に目を丸くした中森警部をはじめとする警備員達は慌てて彼女のそばに駆け寄ろうとした。

「来ないで!!」

彼女は凛とした声で、それを制した。

「私は大丈夫。彼は人には危害は加えないのでしょう?」

オレから見た感じでは、さすがのキッドも彼女の行動および言動には面を食らったらしく、少し驚いていたような気がしたが。

それでもキッドはにっこり笑って彼女が自分の方へ来るのを待った。

そして二人の距離が近づくと、彼女は自分からキッドへ左手を差し出した。
その手には、大きなルビーの指輪が輝いている。

キッドは彼女の手からそれを取り去ると、代わりに手の甲にキスをした。
それはまるで神聖な儀式のようにも見えた。

彼女はキッドの手に指輪が渡ると満足そうに微笑み、そしてキッドの耳元へ何かを囁いた。

・・・!何だ?何を言ったんだろう?!
オレは、とっさに彼女の唇から言葉を読もうとしたが、それは叶わなかった。

それから彼女はオレ達を振り返ると、そばのテーブルにあったワイングラスを手に取りそれを一気に飲み干した。

と、同時にグラスが彼女の手から離れ、床に落ち、派手な音をたてて割れる。

!?

全員の注目を浴びる中、彼女はその美しい顔を歪めて、やがてその体が
ぐらりと傾いた。

一番そばにいたキッドが、慌てて彼女を抱き止める。

「高科さん!!」

オレは人ごみを掻き分けて、彼女を抱きかかえたままのキッドのそばへ行った。

キッドは彼女の閉じた目を開かせてのぞきこんで、ほっと小さな溜息をついた。

「ダメだ。死んでる。」

え?!

オレはびっくりして彼女を見た。
その頬にはまだ血の気があり、唇もいきいきしていてとても死体だんて思えなかった。

「なんで?!」

「さぁね。」

妙にあっさりと言ってのけたキッドは、ゆっくりとその視線をあたりに配った。
じりじりと警官達が近寄ってくる。

「・・・というわけで、名探偵。私はそろそろ退場させて頂きますので、後はよろしく!」

「なっ!!おい!!キッド・・・」

ポンという乾いた音とともに、辺りは一瞬のうちに白い煙に包まれる。
やがて視界が晴れた頃には、奴の姿はもうどこにもなかった。

 

 

*      *     *

 

 

その後、中森警部は警備員達を2班に分け、一方はキッド追跡に、もう一方は現場に残らせ、パーティ会場にきていた人たちからの事情聴取などを行なった。

程なくして、警視庁捜査一課の目暮警部が鑑識課員を連れて現場に到着する。

「つまり、彼女は自分からキッドにルビーを渡し、その後、そのワインを飲んで倒れた・・・と、こういうことかね?」

目暮警部はオレの話に耳を傾けながら、顎に背を添えて考え込んだ。

「・・・毒入りワインってことですか。自殺かな?」

割れたグラスを覗き込んで、高木刑事がそう言った。

「自殺かどうかはまだわかりませんが。とりあえず匂いからして、毒物はおそらく青酸カリか、青酸ナトリウムなどのいわゆる青酸塩系でしょうね。」

オレの言葉に鑑識課の人も間違いないと頷いた。

 

死体の状況から判断しても、覚悟の自殺として考えられなくは無いが、一応自殺と他殺の両方の線で捜査を進めることとなった。

それから、パーティ会場に来ていた約20名程の客達は、ホテルの個室を与えられ待機させられる形となっていたが、事情聴取を終えた人から随時帰ってもらうようにと、警部が指示を出した。

ホテルの一室に急遽、仮の特別捜査本部が設置され、警部達は今後の捜査について話し合っていたが、オレはそこを抜け出して、もう一度現場へと足を運んだ。

誰もいないレストラン会場へ入る。

 

あの時、彼女はキッドへルビーを渡し、すぐ手前に合ったテーブルからワインを取った。テーブルにはいくつかグラスが並んでいたし、もし毒殺だとしたら、犯人はどうやってワインに毒を入れたんだろう?

毒殺するつもりなら、不確定なものにしかけるなんて危険な真似はするはずがない。

やはり自殺なんだろうか・・・?

そこまで考えて、最後に彼女がキッドに何か囁いた言葉が気になった。
結果的にあれが彼女の最後の言葉になったわけだし。

せめて、自殺か他殺かのヒントにはなるはずだ。

あのヤロウ、どこいったかな?

 

すると、突然、後から声をかけられた。
驚いて振り返ると、若い警官がにっこり笑って立っている。

「解剖の結果が届きましたよ?」

「あ、はい。どうもすみません。すぐに戻ります。」

オレは言いながら、慌ててレストランを出た。
そのままその警官とともに、警部達がいる部屋へ向かう。

「直接の死因は、やはり青酸カリによる中毒死だそうです。」

「・・・そうですか。」

「青酸カリ、正確にはシアン化カリウムですね。
これは、アーモンドの味がするという猛毒で、確か致死量は、
0,15〜0.3gだそうですが・・・。」

話し掛けてきた警官をオレはふいに振り返った。
すると、彼はオレの目を見、唇の端をつり上げてニヤリと笑った。

「・・・そんな微量で死亡する猛毒を、一体、誰がアーモンド味だなんて、
確かめたんだろうな?」

とたんに表情から口調まで変わったその人物にオレは驚かずにはいられなかった。

「お、お前!キッド?!」

ずうずうしくも警官に変装しているキッドをオレはあきれて見返した。

「何で、お前がここにいるんだ?!」

「え?だって、オレの目の前で死なれちゃったんだぜ?どうなったか、気になるじゃん。」

・・・お前なぁ。
中森警部達は、必死でお前を追っかけて行ったっていうのに・・・。

オレはダミーを今も追い続けている彼の姿を想像し、心底気の毒に思って大きな溜息をついた。

「・・・おい、キッド。お前、彼女に最後に何か言われたろう?」

オレがそう言うと、キッドの顔からすっと笑みが消えた。

「・・・ああ。自分はもう死ぬって。だからルビーをオレにくれるってさ。」

オレはその言葉に目を見開いた。

「それじゃあ、やっぱり自殺・・・。」

オレがそう言いかけると、キッドは首を横に振った。

「いや。自殺っていうのとはちょっと違うと思うぜ?言ったろ?
青酸カリは、直接的な死因だって。」

「他にも何かあったのか?」

オレの質問にキッドは、やや顔を上げてしっかりとオレを見据える。

「・・・針。首筋の血管から銀色の針が出てきた。」

そう答えたキッドの瞳の中には、それこそ針のように鋭い光が宿っていた。

 

 

◆ To Be Continued ◆

 

NEXT

茶来飛戒さまからのリクノベル!
リク内容は、事件に巻き込まれる新一&キッド!!
かなりピンチになるように・・・とのことでしたが(笑)。

まだほんのさわり・・というカンジで二人ともピンチのピの字もないですが
ダメでしょうか・・・?
次回は、必ず、ご期待に添えるようがんばりますので。

2001.08.04

 


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