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NOVEL

秀策をたずねて ++ 前編 ++

This story is the work which nonfiction mixed with based on ririka's actual experience with the fiction

 


 2003年4月10日(木) 快晴。

 

 新幹線の車窓から、暖かい春の日差しが照りつける。

 僕こと、塔矢アキラは、ふと窓の外の景色に目をやりながら、もう何度目になるかわからない欠伸を噛み殺していた。

 

 午前8時過ぎに東京を出た『ひかり』の3人掛けのシートには、僕を真ん中に、左にはおそらく出張だろうサラリーマンの男性が、そして右にはどこかへ観光だろうか、中年の女性が座っている。

 今は、まだ僕のこの両サイドには全くの他人が腰掛けているが、まもなくこの二人のどちらかが下車するであろうことを、実は僕は事前に知っている。

 なぜなら、僕の隣の座席は、新大阪からは別の人物にしっかりとキープされているからだ。

 そう、僕が唯一生涯のライバルと認めた彼、進藤に。

 

 不意にテーブルの上に乗せていた携帯が軽い電子音を立て、僅かにバイブした。

 メール受信だ。 相手はわかりきっている。

 

《宛先 :塔矢》

《件名 : 塔矢へ》

《本文 : 今、新大阪に着いたから。お前はちゃんと新幹線に乗ってるだろうな?》

 

 ・・・当たり前だ。 この僕が遅刻するはずなどないだろう?

 僕はちょっと眉間にしわを寄せながら、とりあえず当たり障りのない返事を返すと再び携帯をテーブルの上に置いて、小さく溜息をついた。

 

 僕は、今、福山まで向かっている。

 東京からは、新幹線でざっと4時間以上はかかる長旅だ。

 正確に言うと、福山からまた乗り換えて尾道まで行き、そしてさらには因島が最終目的地の旅行 となる。

 今日から、一泊二日、進藤と ―――

 

 考えてみれば、この旅行は実に突発的なものだった。

 

 

 事の起こりは、今からほんの一ヶ月ほど前。

 いつものように、父の経営する碁会所で進藤と打っている時のことだった。

 お茶を運んできてくれた市川さんが、湯飲みの横にそっとオレンジ色の果物を僕と進藤に一つずつ置いたのだ。

 

「あれ?市川さん、これ何?」

 すぐさまソレを目に留めた進藤が、市川さんに訊ねる。

「はっさくよ。知り合いの人が広島の方にいてね。送ってくれたの。美味しいから食べてみて。」

「へぇ?広島?広島のどこ?」

「尾道よ。」

 

 それを聞いて、碁笥の中で石を掴みかけた進藤の手が、ふと止まった。

 その様子に気づいた僕は僅かに視線を上げて、進藤の顔を窺う。

 進藤の顔は穏やかで、どこか少し懐かしいものを思い出しているような、そんな表情をしていた。

 

 

 ・・・ああ、そうか。

 すぐさま進藤の胸の内は察した。

 

 尾道と言えば、因島だ。

 瀬戸内海に浮かぶ小さなその島が、あの本因坊秀策の生まれ故郷であるということは、碁打ちなら知らない者などいないだろう。

 僕は因島を訪れたことはなかったが、秀策の墓や記念館、彼にゆかりのある寺があることは知識として持っていた。

 

 そして ―――。

 

 進藤が、秀策にひどく執着している事は知っている。

 そして、かつてネット碁で騒がれたあの『sai』も、打ち筋が秀策と似ているという話を聞いたことがあった。

 

 進藤と、秀策と、sai ―――。

 この奇妙なトライアングルは、僕の中でずっと抱え続けている謎の一つでもある。

 そして、その謎の鍵を握っているのは進藤、ただ一人。

 

 ・・・彼はいつか僕に話してくれると言ったけど、一体それはいつのことやら。

 謎が解き明かされるのは、まだずっと先のことのようだ。

 

 ――― 例えば、秀策の故郷である因島へでも訪れたら、何か手がかりでも見つかるのだろうか?

 

 

 僕は小さく息を吐きながら、ふと零した。

「・・・尾道・・・。・・・因島か。僕も一度、行ってみたいな。」

 碁盤に視線を戻しながら僕が零したその小さな呟きに、進藤が大きく反応する。

「・・・・・塔矢、お前、因島、行きたいの?!」

「え? ・・・ああ、そうだね。秀策は誰もが認める偉大な打ち手だ。その彼が生まれた地を見たいと思うのは、碁打ちなら不思議なことではないだろう?」

 

 僕がそう答えると、心なしか進藤はうれしそうに頷いた。

 そして、彼特有の大きな瞳を輝かせて、にっこりと笑う。

 

「ならさ!一緒に行かねーか?!オレ、実はもう一回、行きたいと思ってたんだ。」

「もう一回? 君は・・・。因島を訪れたことがあるのか?」

「ああ、前に一度だけな。けど、その時はあんまりゆっくり観る余裕なんてなくてさ。だから、機会があったら、もう一度じっくり周ってみたいって、ずっと思ってたんだよな。」

 

 言いながら、進藤が苦笑する。

 彼が因島にまで行ったことがあるとは、初耳だった。

 進藤の秀策への思い入れの深さは、僕にはまだまだ計り知れないようだ。

 

 パチンと。

 進藤の右手から石が放たれる。

 僕は盤面を静かに見つめ、やがてその進藤の手を受けながら言った。

 

「・・・いいよ。一緒に行こうか。」

「ほんと?じゃあさ、塔矢、オレがあっちを案内してやるよ。オレ、前に行った時、秀策に関係あるところ、一通り周ってきたからさ!」

 進藤の声が弾む。 まるで遠足が決まった小さな子供のようだ。

「いつ行く?オレ、いつでもいいけど、できればすぐにでも行きたいな!」

「お、おい、ちょっと待て。すぐって言ったって、お互い手合いもあるだろう?
スケジュールを調整しないと、そう簡単には・・・・。」

 

 慌てた僕を尻目に、進藤は計画性があるのかないのか、楽観的に笑っていた。

 

 

 そうして ―――。

 僕達の因島への旅行の計画は、急遽立てられる事となり・・・。

 とりあえず、僕が尾道に宿泊先となるホテルを手配し、進藤には交通手段の確保をしてもらった。

 進藤は旅行前の二日間、大阪で指導碁の仕事があるので、既に僕の乗っている新幹線に新大阪から乗車して合流する予定となっている。

 向こうでの観光ルートについては、進藤とじっくり話し合って決めたかったのだが、僕の方で仕事が立て込んでしまい、彼と打ち合わせる時間を作る余裕がなくて、進藤に全面的に任せることにしてしまったが、大丈夫だっただろうか?

 過去、因島を訪れたことがあるから任せろと、彼は豪語していたけれど。

 少し不安だったが、観光ルートについて彼と相談する時間を作れなかったのは
僕の責任でもあるから、文句は言うまい・・・。

 

 僕は再び溜息をつく。

 正直言うと、昨夜も雑誌の取材に遅くまで時間を拘束され、その疲れも取れていない。

 おまけにその記者とは、まだインタビューが完全に終わっていないから、また後で連絡を取らなければならないし、頼まれた棋譜のチェックもまだだ・・・。

 テーブルの上に出された資料を前に、いささかうんざりする。

 プライベートな旅行にまで、こんな風に仕事を持ち込むことになろうとは・・・。

 ペットボトルのお茶を一口流し込むと、棋譜へと目を落とす。

 右手にペンを持ったその時、まもなく新大阪に到着するという、車内アナウンスが流れた。

 と、僕の右側に座っていた女性が荷物を持って席を立つ。

 ・・・・なるほど。 ということは、進藤は僕の右側か。

 テーブルに散らかった書類を適当に揃えて、ホームから乗り込んでくる乗客の中から進藤の姿を探す。

 と、あの人懐っこい笑顔がこっちを向いているのを発見し、仕事のことで少し殺気立っていた心が幾分和らいでいくのを感じた。

 

「よっ!塔矢!!」

「ああ、おはよう、進藤。天気に恵まれて何よりだな。」

「そうだな。でも思ったより寒いよなぁ。もうちょっと暖かいかと思ったけど。」

 言いながら、進藤が網棚にリュックを乗せる。

 上着を来たままシートに腰掛けると、リクライニングさせて早速万全のくつろぎの体勢を取った。

 そして、テーブルをセットすると駅弁とお茶をよいしょっと置いて見せた。

「塔矢、お前、弁当は?」

「ああ、買ってあるよ。」

 そう言って、僕は新幹線に乗車する前に買った駅弁の包みを見せた。

 

 予定では、福山に着くのは昼を少し回った頃。

 そこから尾道に到着するのは、12時半を過ぎると思われるが、向こうですぐさま動けるように昼食は新幹線で済ませておこうという話になっていたので、お互い駅弁を購入して乗車していた。

 

「それより塔矢。お前、仕事、忙しーんだって?大丈夫かよ?」

 進藤が僕のテーブルの上の資料に目をやり、気の毒そうに声をかけてくる。

 僕はそれには、小さく苦笑した。

「悪いが、ちょっと電話を一本かけさせてもらうよ。」

「ああ、構わねーよ。オレ、弁当食ってるからさ。さっさと片付けちまえよ。」

 言われるまでもない。 僕だってそのつもりだ。

 そう思って携帯を手に取ると、不本意ながらメモリーに登録した雑誌記者へと電話をかけた。

 頭の回転があまりよろしくない感じのその記者には、相変わらず好感は覚えない。

 用件だけ言って手早く電話を切ると、進藤がおかずを頬張りながらこっちを見ていた。

 ・・・何だ?言いたいことでもあるのか?

「いや、お前、結構言いたい事、言ってるな〜って思って。インタビューだろ?もうちょっとソフトな方がいいんじゃねーの?」

 なんだ、そんなことか。

「・・・別に。人の休みにまで仕事を持ち込んでくるような相手には、容赦はしないよ。」

 言いながら、やっと僕も弁当のフタに手をかけると、進藤が何故か肩を竦めていた。

 

「お前、体力的には大丈夫か?尾道についたら、レンタサイクルでずっと周るんだぜ?」

「・・・・大丈夫だよ。」

 

 とは、言ったものの、実はあんまり自信はなかった。

 先々週まで引いていた風邪はどうにか治ったばかりだったし、ここ最近急激に仕事がバタバタしたおかげで、結構心身ともにズタボロの状態ではあった。

 

 おまけに。

 レンタサイクル・・・。つまり自転車だ。

 はっきり言って、自転車なんて幼い頃に乗ったきりで、もうここ何年も乗っていない。

 学校に上がるようになってからの僕の主要な交通手段は車か、電車でしかなかった。

 

 ・・・・乗れるだろうか???

 

 尾道から因島までの交通手段をレンタサイクルにしようと決めたのは、進藤だ。

 バスの本数が少ないらしいので、確かに小回りの聞く自転車は能率的な上に、経済的だった。

 僕としても、その案には賛成だったが、旅先でレンタカーという体験はあっても、レンタサイクルなんて、初体験だ。

 この気候のいい時期に、自転車で観光するなんて気持ちが良さそうではあるのだが。

 自分の体力の無さは、日頃から痛感しているだけに、やや不安を感じてならなかった。

 が、今更、弱音を吐くわけにはいかない。

 そんな不安は心の内に隠して、僕も弁当を片付け始めた。

 

 食事を取り終わった僕らは、今後の予定について、軽く話し合う。

 

「福山で乗り換えて尾道に着いたら、まずホテルにチェックインして荷物を預けてしまおう。尾道駅前のホテルだから、問題はないだろう。」

「ああ。レンタサイクルも駅の傍だし。で、自転車を借りたら、まずは渡船で向島に渡って、そっから因島大橋を渡って、因島に入るんだぜ!」

 ガイドを片手にそう説明してくれる進藤に、僕は感心したように頷いた。

「さすがだな、進藤。詳しいじゃないか。」

「まーな。前に行ったことあるとこだしさ。」

 得意げにそう返しながら、進藤はガイドをリュックにしまうと、代わりにデジカメを出して見せた。

 

 ・・・ああ、そういえば。

 進藤が知り合いのツテを伝って、格安でデジカメを手に入れたという話を前に自慢げに話していたことを思い出す。

 人知れず、デジカメを欲しいと思っていたこの僕を差し置いて、先にウマイ手段で入手した進藤に、内心悔しさを覚えなかったと言えば、嘘になる。

 一体、どんなデジカメだ。

 見せろ、進藤っっ!!

 どうせ見せびらかしたいだけなんだろうが、とりあえず見てやろうと進藤の手元を覗いてやる。

 すると、進藤のその手が止まった。

 

「・・・あれ?」

「どうした?」

「電源が入らない・・・。」

「どうして?」

 僕は不審げに眉を寄せた。

「・・・おっかしいな。朝、来る時にはちゃんと動くか確認して、大丈夫だったんだけど。まさか、壊れたのかな?」

「・・・落としたりしたのか?そう簡単に壊れるわけはないだろう?何か、誤った操作をしているんじゃないのか?」

「あ!もしかして、朝、動くかどうか確認した後に電源落とすの忘れたのかな?もしかして、バッテリー切れかもしれない!」

「バッテリーのセーブ機能は普通ありそうだが。・・・取説は持ってないのか?」

「持ってない。どうしよう?なぁ、どうしよう、塔矢っっ!!」

 頭痛がしてきた。

 いや、僕はAPSのカメラを持参しているから、もし進藤のデジカメが本当に動かないのなら、一緒に撮ってやっても構わないが。

 ああ、だとするとフイルムが足らないか・・・。

 

 と、テーブルに置いたままだった僕の携帯が、またブーンとバイブしている。

 誰だろう?

 液晶に映し出されたメール送信者の名前を見て、唖然とした。

 芦原さんだ。

 

《宛先 : アキラ》

《件名 : 旅行は満喫してるか?》

《本文 : 今日から進藤君と因島へ旅行なんだって?やるななぁ、アキラ。お土産、忘れずにちゃんと買って来いよ?!》

 

 ・・・この人、今日、手合いのはずなのに。

 対局中ではないのか?という僕の問いに対し、芦原さんは相手が長考中なのでちょっと気晴らしに部屋を抜け出たと返してきた。

 相変わらず、飄々とした人だ・・・。

 

《宛先 : 芦原弘幸》

《件名 : Re:Re》

《本文 : 進藤が買ったばかりのデジカメを使いこなせていないようです。早速バッテリー切れの状態のようで。》

 

《宛先 : アキラ》

《件名 : Re:Re:Re》

《本文 : あはは。相変わらずだなぁ、進藤君は。なら、単三の電池を買うしかないね。》

 

 

「なんだよっ!塔矢。人が困ってるのに、メールなんかしやがって!!」

「芦原さんだよ。バッテリー切れなら、電池を買えばなんとかなるんじゃないのか?芦原さんもそう言ってるよ?」

「でも、電池を入れても動かなかったらどうしよう?!」

 いくら僕でもそこまでは責任は持てない。

 ちょっと疲れたように溜息をつくと、ちょうど車内アナウンスが福山到着が近い事を知らせた。

 網棚からバックを下ろしながら、デジカメを持ったまま固まっている進藤に視線を投げた。

「ほら、進藤。もうすぐ福山に着くぞ?降りる支度をしろよ。」

「・・・わかってるよぉ。」

 進藤はデジカメが上手く作動しなかった事に、かなり意気消沈したようだった。

 

 

 すっかり気落ちした進藤を引きずって新幹線を降りると、乗り換えの列車のホームに向かった。

 福山から尾道までは4駅。 普通列車で19分とのことだが。

 ホームに流れる列車到着のメロディが聞きなれない音楽で、ちょっと僕は驚いた。(笑)

 平日の昼時なので、列車は空いていた。

 進藤とボックス席に腰掛けながら、流れる車窓の景色に目をやる。

 ところどころで咲いている桜の花が、とても綺麗だった。

 

 いよいよ、尾道駅に到着。

 古寺めぐりとしても有名な観光地であるはずのその駅は、ほんの少しレトロな雰囲気を醸し出しつつも、至って現代的だった。

 改札を出れば、バスターミナルが広がり、その向こうには海が臨めた。

 右側には駅ビルが建ち、それに沿うようにして小さな商店街が続いている。

 

 さて、ホテルは・・・。

 僕は、ネットで予めプリントアウトしてきたホテルまでの道のりを示した地図を出した。

 とはいえ、地図が必要な距離でもなさそうなんだが。

 徒歩数分だったし、海岸沿いの道に面しているという事以外、他に地図に目印らしいものがほとんどなかったから。

「地図に載ってるミスドって、あれじゃん?とにかく海に沿って、右に行きゃ着くんだろ?行こうぜ?!」

 僕と一緒に地図を覗き込んでいた進藤がそう言って、スタスタと歩き出す。

 進藤の進行方向は確かに間違っていなさそうなので、僕もそれに続いた。

 

 すると、本当に3分くらい歩いただけで、無事ホテルを発見する事が出来た。

「あ、ホテルのまん前にレンタサイクルもあるじゃん!ラッキー!」

 ホテルの目の前は車の駐車場兼、レンタサイクルもやっているところだった。

 このホテルを選んだのは本当に偶然だったのだが、ツイていたな。

 僕はそう思って、ホテルの入り口へと向かった。

 小さなビジネスホテルだったが、フロントの係りの人は親切だった。

 僕らはチェックインを済ませ、荷物だけ預かってもらうと再びその足でホテルを出た。

 

 道路を挟んで、ホテルの向かいにあるレンタサイクル屋に向かう。

 受付にいるかなり年配の男性は、自転車を借りたいという僕らの申し出に書類を差し出しながら、不審げな顔をした。

「・・・お前さん達、学生さんじゃないのかい?」

「・・・えっ。」

 申し込み用紙に必要事項を記入しながら、思わず僕は固まった。

 

 そうだ。

 僕も進藤も、普通なら学校に通っている年齢だ。

 もう春休みも終わって、・・・ああ、そういえば始業式も過ぎたこの平日のこんな時間にフラフラ出歩いているのは、確かに普通に考えれば不自然だろう。

 だけど、僕らはプロ棋士で、もう学校には行っていないんだけどな・・・。

 

 正直にそう説明すべきかどうか僕が悩んでいると、進藤が僕に代わって返答した。

「オレ達、今日は学校をサボりv わざわざ関東から遊びに来たんだよ。」

 進藤に人懐っこい顔でそう微笑まれた彼は、一瞬戸惑ったような顔を見せたものの、にっこり笑って、親切にガイドマップまでくれた。

「因島まで行くつもりなんですが、今から向かって自転車の返却時間の18時までに帰ってこれるでしょうか?」

 僕の質問に対し彼はマップを広げ、因島までの近道を丁寧に教えてくれたのだが・・・。

 ・・・・如何せん、地方の言葉はよくわからない。

 僕も進藤も、ニコニコ頷きはしていたものの、実に70%は聞き取ることは出来なかった。

 とりあえず、向島に渡ったら、道なりに直進して、どこかを右折した後、海沿いにひた走れば、因島大橋にたどり着けるんだろうということだけは、なんとなくわかった。

 僕らは彼に別れを告げると、セレクトしたシルバーの車体に跨ってレンタサイクル屋を後にした。

 

 まずは、向島への渡船乗り場だ。

 レンタサイクル屋の彼の話では、すぐそばにあるとのことだったが。

「あ!渡船って、あれじゃねぇ?!ほら、塔矢!」

 進藤が乗り場を見つけて、振り返った。

「ああ、そうみたいだね。じゃあ、行こうか。」

 ペダルに足をかけた僕に、進藤がもう一度にっこり振り向く。

 

「あ、ごめん、塔矢。渡船に乗る前にさ、もう一度、駅まで戻っていい?オレ、デジカメの電池買いたい。」

 ・・・・・・そうだったね。

「いいとも。」

 僕も言いながら微笑むと、進藤の自転車をすっと追いこいて、再び駅へと向かうルートへと進んでいく。

 

 こうして、僕らの因島旅行はスタートしたのだ。

 

>>>To be continued

 


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