Heart Rules The Mind

Novel Dairy Profile Link Mail Top

NOVEL

僕達は希望を忘れて  明日は何とかなるさと          僕達は祈りを込めて  その壁を乗り越えようとした

声に出さないと不安で  仲間としゃがみこんでいた        肌の黒い歌声に  仲間とはしゃぎまわったとき

 

ただ焦ってない振りをするだけでも  精一杯で          届かない歯がゆさの中で  友達と散りぢりになった

あきらめることなんて  間違っているように見えた           愛すべき人々よ  いつかまたどかで

 

 


君と このまま

□■ Part 2 □■


 

「・・・・・・いよいよ、明日ね。」

 

決戦前夜。

工藤邸を訪れた隣家の少女は、いつもの冷静な眼差しをやや悲しげに揺らしながら呟いた。

もと黒の組織の一員でもあり、唯一組織の実態を知る彼女。

今回の新一とキッドの計画における、ただ一人の協力者、灰原 哀である。

 

「・・・彼の姿が見えないようだけど?」

「ああ、アイツは・・・。何かまだやることがあるらしくて出てった。もうすぐ帰ってくるとは思うぜ?」

 

窓の向こうの月をぼんやりと見つめていた新一は、ゆっくりとその視線を哀へを移し、綺麗に微笑む。

「・・・ワリィーけど、灰原。お前にもやってもらいたいことがある。・・・頼めるか?」

その遠慮がちな口ぶりに少女は苦笑した。何を今更・・・と。

「・・・・・・わかってるわ。貴方が組織のメイン・コンピュータにアクセスができたら、
すべてのデータを私のパソコンにも送っておいて頂戴。」

「すまねーな。一応、警視庁にはオレの方から送るつもりだけど。何があるかわからねーから・・・。
念のため、灰原の方でもデータを取っておいてくれると助かる。」

新一の言葉に了解したと、哀は頷いた。

 

 

組織の本部は、幸いな事に日本に存在した。

数年前、東都で臨海副都心計画が持ち上がっていた頃、アメリカ・デトロイトから、その拠点を
日本に移したのだ。

もしかしたら『パンドラ』が日本にあるという情報を、すでに掴んでのことだったのかもしれない。

関連組織を世界中に多く持つという意味では、その規模は計り知れないが、
その中枢組織を構成するのは、十数人というごく僅かな人数だった。

例の酒のコード・ネームを持つ彼らのことである。

 

そして。

今回、新一達が潜入して企てているのは、その組織内部のコンピュータからのデータの放出であった。

組織のすべてを管理している、と言っても過言ではないメイン・コンピュータから、
そのデータのすべてを警察に流すのだ。

これによって、組織は事実上壊滅に追いやる事が出来る。

あとは、その構成員を逮捕するだけで。

 

 

「組織のデータは、メイン・コンピュータ 《ベルガ》 と、サブ・コンピュータ 《エビル》 の連結、
いわばツイン・システムによって管理されている。
アクセスは、《エビル》から彼らが持つパスワードのみでしか行われないようなシステムに
なっていることは、前に話したわね。」

「・・・その《エビル》と《ベルガ》を切り離す事は難しいんだろ?だから仕方がないのさ。」

改めて説明する哀に、新一はすました顔で言った。

 

そう。
メイン・コンピュータ《ベルガ》には、どうやっても外部から不正にアクセスができない。

けれども、手が無いわけではなかった。

 

「・・・確かに、《ベルガ》自身、もしくはエネルギーセクションに何か重大な事故が起きた場合、
《ベルガ》は自己防衛プログラムに全力を注ぎ、すべてのセキュリティが3分間だけ、解除されるわ。」

言いながら、哀はその目に鋭い光を宿した。それを見て、新一もニヤリとする。

「《ベルガ》には大事なデータがたくさん詰まってるわけだから、手が出せない。
・・・・・・残るは、エネルギーセクションだろ?」

哀は、この少年達がやろうとしている大胆不敵な作戦に苦笑した。

「・・・まったく。エネルギーセクションに爆弾を仕掛けるだなんて。」

「考えたのは、アイツだぜ?ちなみに小型爆弾もアイツの手作りだしな。」

 

IQ400の天才少年には不可能はないのか。
もともと、『怪盗キッド』の仕事をする時だって、そのトリックに使われる道具はすべてが彼自身の作品で。

今回の爆弾も、特に労せず、こしらえたというわけだ。

本人いわく、花火をちょっと改良したようなものだ、とのことだが。

 

「・・・わかっているとは思うけど、《ベルガ》が起動するだけの動力は確保しておかなければならないわ。
エネルギーセクションのすべてを破壊しては、もともこもないのよ?」

「ああ。その辺もしっかり考慮して、爆弾設置の場所を決めたから大丈夫。」

 

哀は目の前に立つ少年の顔を、まっすぐに見上げた。

「彼がエネルギーセクションを爆破して、《ベルガ》に自己防衛プログラムを作動させる。
そして貴方がセキュリティシステムが解除された隙に、データのすべてを放出するなんて・・・。
・・・・・・確かに、それしか方法はないかもしれないけど・・・。
セキュリティ解除は、たった3分なのよ?」

本当にできるのか?

そう言いたげに、哀はその瞳を新一へ向ける。
けれども、新一に迷いはなかった。

 

それしか方法が無いのなら、やるしかないのだ。

敵の懐まで潜入して、おめおめと何もせずに戻ってこれるはずが無い。

作戦の失敗は、イコール『死』でもあるのだから。

 

「・・・・・・ここまで来たら、やるしかねーよ!」

新一は不敵に笑った。

 

危険を承知で敵地へ乗り込もうとしている、その少年の決死の覚悟。

哀には、もう告げるべき言葉はなかった。

 

哀はその瞳を切なげに揺らした。

 

 

「あ、それから・・・。もう一つ、頼みがあるんだけど。」

不意に付け足すように新一が口を開いたので、哀は少しあわてた。

「何?」

すると、新一はデスクの引出しから白い封筒を取り出して来て、哀へ向けて差し出す。

少女の小さな手が伸び・・・・・・停止した。

哀の表情がやや怒りを帯びて、その細い眉がつり上がる。
そんな哀の様子から、彼女がその封筒の中身を察したのだとわかって、新一は苦笑した。

「・・・そんな顔するなよ?念のためだよ。もしオレに何かあった時は、それを親に渡して欲しいんだ。」

もし自分が帰らなかった時の事を考えて、新一は海外で暮らす両親へ真実を書き記したのだ。

けれども、哀はそれを受け取らない。
代わりに、ギっと新一を見返した。

「バカ言わないで頂戴っっ!!受け取れないわ!!
こんなものを残して。まるで・・・・・・、まるで、死にに行くみたいじゃない!」

それは哀の悲しい叫びだった。
小さな肩を震わせて、今にも泣き出しそうなその心細げな少女を見て、新一はなだめるように
穏やかに言った。

「・・・大丈夫だよ、灰原。
オレは・・・。オレ達は、必ず帰ってくるから。・・・・・だからそんなこと言うな。」

哀の少しだけ潤んだ瞳が新一を捕らえる。

「・・・な?」

やさしくやさしく新一は笑った。

 

「・・・・・・絶対に、無事に帰ってくると約束して。でないと許さないわ!」

消え入りそうな声で哀はそれだけ言うと、新一の手からその封筒をすっと取った。

 

「・・・ありがとう、灰原。・・・・・ごめんな。」

新一のその穏やかな微笑が、窓から漏れる月明かりにいつまでも照らされていた。

 

 

□       □       □

 

 

その後、哀と入れ替わるようにキッドが帰宅した。

 

キッドが外で何をしてきたのか、新一は聞かない。

自分がもしものことを考えて両親への哀に手紙を託したように、キッドにも近しい者へ何か告げることが
あったのかもしれないと思ったからだ。

キッドも何も言わなかった。

本当は今夜、白馬に出くわしてしまった事など、言うつもりも無い。

 

二人は軽口を叩き合って、いつものように時間を過ごす。

そして、いつもよりは少し早い時刻ではあるが、明日に備えて休む事にした。

 

一人寝室のベットに腰掛けながら、新一は小さな溜息を漏らした。

もともと夜型で早寝早起きなんて習慣がない新一にとって、日付も変わらない内に寝ろというのは
いささか無理な話であった。

しかも、明日は運命の決戦の日である。

気持ちが高ぶらないはずがない。落ち着かなくて、余計に寝付けないのだ。

さすがの新一も、今夜ばかりはお気に入りの小説へと手が伸びる事は無かった。

「・・・キッドの奴はもう寝てんのかな・・・?」

窓の外に浮かぶ月を見ながら、新一は隣の部屋にいる白い怪盗のことを思った。

 

それから。

どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。

ふと、新一の部屋を小さくノックする音が、夜の静けさの中、響き渡った。

 

「・・・ごめん、新一。まだ起きてた?」

「・・・ああ、どうした?入れよ。」

 

部屋の外でほんの少しだけ申し訳なさそうな顔をしながら笑うキッドを、新一は自室へ招きいれた。

ポスンとベットに腰掛ける新一に対して、キッドは無言で部屋の中央で立ったまま。
何か言いたい事でもあるのかと、新一が首を傾げた時、とうとうキッドが口を開いた。

 

「・・・新一が持ってる組織の資料、オレの渡したのも含めて、全部貸して。」

「・・・?ああ、いいけど?」

何か変更事項でもあったのだろうかと思いつつ、新一はデスクにある資料を取りに行く。

そのまま手渡そうと新一が資料を差し出したところで、キッドがぼそりと言った。

 

「・・・・・・本部へはオレ一人で行く。」

静かな声であった。が、氷のように冷たい、そんな声でもあった。

二人の間の空気が一瞬にして、緊迫する。

 

新一の顔が驚愕の表情を成した。

「・・・お前、なんて言った?今・・・。」

「・・・だから。やっぱ、本部へはオレ一人で行くから、新一はここで待機しててよ。」

キッドの言葉を聞いて、今度こそ新一の顔が驚愕から怒りへと変わっていく。

「ふ・・・、ふざけるなっっ!!どういうつもりだっ!!!」

思わず手にしていた資料を投げ出して声を荒げた新一を、キッドは物ともせず、あっさりと言い放つ。

「・・・・・・ふざけてなんかいないよ?
ただ気が変わっただけ。 オレ一人の方が何かと動きやすいかと思って。」

 

恐ろしい程のポーカー・フェイス。
微塵にも感情を読み取る事を許さないようなソレは、かえって冷酷さを強調させる。

 

新一は、大きく眉をつり上げた。
今まで二人で計画を進めてきたのに、前日になっていきなり何を言い出すのか。
キッドの真意が掴めなくて、新一を苛立たせた。

「・・・お、お前一人で・・・って。できるわけねーだろ?
《ベルガ》がセキュリティを解除するのは3分しかねーんだぞ?お前が爆破するエルギーセクションから、《ベルガ》のあるコンピュータールームまでの移動には、5分はかかることくらい、
お前も知ってるじゃねーか!!」

隙の無い敵のシステムを打破するために、最も有効な手段として考えた作戦を
何故今になって、そんな無謀な方へ変える必要があるのか新一にはわからない。
その方がより勝算があるなら別だが、とてもそんな風には思えなかった。

けれども、キッドはあっさり、きっぱり答えた。

「ああ、それなら心配いらないよ?ターゲット自体を《ベルガ》本体に変更するから。
なに、データをふっ飛ばさない程度に爆破規模を縮小すれば、問題は解決する。」

キッドは新一を見てニヤリと笑う。
それは、冷たいながらも不敵な怪盗の顔で。

 

しかし、これで大人しく「はい、そうですか」と、新一が引き下がれるはずが無い。

「か、勝手な事、言うなっっ!!そんな事聞いてられるかっ!オメーが何と言おうとオレは行くぞっ!!!」

新一はキッドに詰め寄って、その胸倉を掴みあげる。
が、キッドはそんな新一を見て冷笑しただけだった。

「・・・わからないかな、新一。オレはお前が足手まといだって言ってるんだぜ?」

言われて、新一はその蒼い瞳を見開いた。

「あの組織の本部に殴りこみに行くんだ。・・・無傷で帰ってこれると思うか?
奴らは本気でオレ達を殺しにかかるぜ?そうしたらこっちだって手を汚さずにはいられないかもしれない。
オレはとっくに犯罪者だから、今更、罪の一つや二つ増えようが構やしねーけど。

・・・・・・『名探偵』は違うだろ?
もしかして、『犯罪者』になるかもしれないんだぜ?」

キッドは自分の胸倉を掴み上げている新一の腕を乱暴に振り払いながら、そう言った。

 

新一はただ、まっすぐにキッドを見つめたまま。
けれども、新一の蒼い目には鋭い光が現れる。怒っているのだ。

 

「・・・・・・そう言えば、オレがひるむとでも思ってるのかっ?!」

新一の言葉に、今度はキッドの方が、僅かにその目を見開く。

 

「オレはっっ・・・!!別に警察の人間じゃない!!とっくに犯罪だって犯してる!
今回だって、警察から必要な資料を盗み出してきてるんだからなっっ!!!
オレはお前の考えるほどおキレイな人間じゃねーし、今更そんなことにビビるほどヤワじゃねー!!」

新一は、叫ぶように思いをぶちまける。
ここまできて、キッドが自分をそんな風に思っていたのかと思うと、腹が立って仕方が無い。
悔しくて、どうにも治まらない気持ちをすべて吐き出した。

「お前っっ!!オレの事、何だと思ってるんだよっっ?!」

 

すると、キッドは皮肉げな笑いを浮かべて、新一を見た。

「・・・・・・オレが新一をどう思っているかって?そんなこと聞いてどーすんだよ?
聞いたって、新一が困るだけだぜ?」

「何だよ、それっ?!言えよっっ!!」

ギリっと激しく睨みつける新一を、キッドは真っ直ぐに見返すとフッと笑った。

 

「・・・・・・オレは。 新一のことが好きだよ。愛してるんだ。・・・もう抱きたいくらいにね。」

 

キッドの言葉に、新一は眉をつり上げる。

・・・だ、抱く・・・だと?!

「お、お前、何言って・・・・、オレは男だぞっ!!」

世の中にはいろんな愛の形があるとは知っていても、いざ面と向かって男に告白されたのは
さすがの新一も初めてで、どう対処していいかわからない。
そもそも今はそんな話をしていたのではないはずだ。

自分の予期せぬ方向へ話題が飛んで、かなり動揺している新一を見つつ、
キッドは続けた。
その声は半ば投げやりだったかもしれない。

「あぁ、そうだよ!新一は男でオレも男だよ。それでもオレは、新一が欲しい。
イカレてるのはわかってるよ!新一にはわかんねーだろ?こんな気持ち。」

言いながら、キッドは自分自身を笑っていた。

 

一体、何を言い出しているのやらと。
確かに、自分にとって新一は特別な存在で、『名探偵』と『怪盗』として対決していた頃から
気になるとは思っていたが。

いつのまにか、例の組織を挟んでできてしまった二人の特別な関係。
関わっていくうちに自然と強くなっていった絆。

相手に対する思いを、ただ一言、簡単に「恋愛」と呼ぶほど単純じゃない気がして
今までその気持ちを封印してきた。

でも、相手を想う気持ちだけはわかる。

自分は新一を愛しているのだ。

 

けれど、その気持ちを告白するつもりなど、なかった。
そんなことしなくたって、そばにいられるだけでよかった。

それだけでよかったのだ。

なのに。

何故、今、自分はこんなことをしゃべっているのだろう?

 

決戦を控えて、自分もかなり情緒不安定なのかと、そうキッドは自分自身を分析した。

けれども、ここまでバラしてしまったのなら、自分の正直な気持ちを伝えるしか、もう手はないと
キッドは言葉を続けた。それで新一が行くのを諦めてくれるなら。

「・・・それくらい新一が好きで、・・・・・・大事なんだ。
・・・・・・だから、新一を連れて行けない。死ぬかもしれないような危険な所には連れて行きたくないんだ。
・・・新一には、・・・生きていて欲しいから・・・。」

言いながら、キッドは自分の気持ちが、実は矛盾している事に気づいた。

連れて行きたくないと思いながらも、本当は一緒に行きたいと思う自分もいる。
新一に死んで欲しくないのに、もし死ぬなら自分の傍で死んで欲しいし、
できることなら、自分も新一の傍で死にたい。

・・・・・・ほんと、ワケわかんねーな・・・。

キッドは笑った。
その笑いは、ひどく悲しいものだった。

 

キッドの告白を黙って聞いていた新一は、ぐっと顎を引くと挑むようにキッドへ目を向いた。

 

そして。

何を思ったか、新一は自分のパジャマの上着に手をかけ、それを一気に左右へ引き裂いた。

フローリングの床に、ボタンが弾け飛んで落ちる音が響く。

 

「!!なっ・・・、何やってんだっ!!新一っ!」

パジャマの前をすべて開こうする新一の両手首を、キッドが慌てて掴む。

「・・・抱きたいんだろっっ?!抱けよっ!!」

新一は、なおも手に力を入れて、パジャマを引き裂こうとする。

「や、やめろっ!!!新一!!」

「何でだよっ!!オメーが抱きたいってそう言ったんじゃねーかよ!!ウソなのかよ?!」

「ウソじゃねーよ!!けど・・・!」

「オレはっっ!!!」

キッドの言葉を遮るように、新一の声が部屋に響いた。

 

「・・・オレは、お前がオレを好きって言ったみたいに、オレがお前を好きかどうかなんて、わからない!
でもっっ!!これだけはわかってる!!

お前を一人で行かせたくない!離れたくないっ!!・・・お前となら、どこへでも一緒に行きたいっ!!」

 

夢中で怒鳴る新一の言葉に、キッドの方が驚いた様子で目を見開く。

新一の手首を掴んでいたキッドの手が、緩められていく。

 

「・・・・・・新一、自分で何言ってるか、わかってんの?」

信じられないという顔で、キッドが新一を見る。
そこには、先程のポーカー・フェイスなど欠片も無い。

一方の新一も、つい必死で言ってしまった自分の気持ちに動揺しつつも、その気持ちが偽りではないと
はっきりとわかっていた。

だから、真っ直ぐにキッドを見つめ返すことができた。

 

「・・・オレなんかよりも、よっぽど劇的な告白なんだけど?」

キッドが少し照れくさそうに笑う。
言われて、新一の方もボッと火がついたように赤くなって、思わず下を向く。

新一の手首からキッドの手がゆっくりと離れて、新一の頬へとそっと添えられた。

俯いていた新一の顔は持ち上げれて、二人はお互いに見詰め合う。

 

そして。

 

キッドがその唇を寄せてきた瞬間、

新一は固く両目を閉じて、それを受け入れた。

 

 

□       □       □

 

 

明かりの落ちた部屋を照らすのは、窓の外の月光のみ。

 

暗闇の中で、ベットのきしむ音だけが響いた。

 

ベットに横たわる新一は、自分を見下ろしているキッドの顔を見上げた。

これから始まることに不安がないわけはない。
けれども、それをキッドに悟られるのが嫌で、敢えて強気な目をして見せた。

それを見て、キッドが苦笑する。

「・・・怖い?今ならまだ、やめられるぜ?」

けれども、新一はむっとする。

「・・・やめねーよ!怖くもねー!!それよりお前も脱げよ!」

先程、新一が自分でパジャマの前を引きちぎったおかげで、すっかり新一の前ははだけてしまっている。
なのに、キッドはまだパジャマをきちんと着たまま、新一に覆い被さっていた。

キッドは新一のそんな強がりをクスリと笑うと、自分も上着を脱ぎ捨てた。

 

啄ばむようなキスが、新一の額や目にいくつも落とされる。
キッドの唇が触れるたびに感じるくすぐったさに、新一は思わず顔をそらして逃げを打とうとする。

が、それは叶わない。

キッドは手で新一の顔を固定させると、強引にキスをした。

「・・・んっ!」

キッドの指が新一の艶やかな髪に伸び、絡ませ始める。

「・・・・ん、キッ・・・ド・・・」

思わず抗議の言葉を浴びせようと、新一の唇が開いた隙をついて、キッドは口腔内に舌を這わせた。
とたんに、新一の体がビクリと震える。

キッドはそんな新一の反応に気を良くすると、唇を貪り始めた。

怯えて逃げる舌を追いかけ、絡めるように吸い上げて、喘ぐ新一の口腔内を存分に犯していく。
激しすぎる行為に新一がキッドの胸を押し返すが、キッドはびくともしない。

「・・・う・・・んっ!ん・・・。」

飲み込めない唾液が新一の白い首を伝う頃、ようやくキッドは新一の唇を開放した。
見ると、新一の目じりにはうっすらと涙が浮かんでいる。

強すぎた刺激にその瞳を潤ませ、肩で息をしながら新一はキッドを睨み返す。
けれども、それはキッドを駆り立てる結果となった。

キッドは右手一本で新一の両手をその頭上に縫い付けると、はだけたパジャマに添ってその唇を
首筋から鎖骨、そして胸へとゆるゆると這わせていく。

「・・・っつ!あっ・・・あぁっ!・・・やっ・・・。」

自分でも信じられないくらい甘い声を上げてしまい、新一の顔が羞恥に赤く染まる。
新一はこれ以上、声を上げないように歯を食いしばった。

キッドはそんな様子を横目で見やると、新一の胸の突起をペロリと舐め上げた。

「ああぁっ・・・!」

一際高い声が新一から上がり、その背が弓なりに反る。

キッドはその胸の飾りを時折、甘く噛みしてわざと新一に声を上げさせる。

そうしているうちに、キッドの手は新一のなめらかな肌を滑って、脇腹のあたりからさらに下へと
下りていく。

そのままパジャマのズボンを下着ごとずらすと、新一が僅かに身をよじって抵抗を試みる。
が、さしてこの場合役に立たない。

キッドは新一のパジャマを下着をすべて取り去ると、その白い内股に手を伸ばし、大きく左右に広げた。

中心では華芯がすでに先走りの露をにじませている。

キッドはそれに手を伸ばすと、新一は大きく頭を振って快感に耐えた。
そのたびにパサパサと枕に当たる新一の髪の音が、さらに新一自身の聴覚をも刺激する。

「・・・・あっ!やっ・・・やぁっ!!キッ・・・っつ!」

キッドはいったん華芯を弄んでいた手を離すと、体を下へとずらし、ためらうことなくそれを口に含んだ。

「あっっ!!やめっ・・・!や・・・だっ、ああぁっ・・・!!」

口でされることに抵抗があるのか、抗議の言葉を新一が途切れながら言うが、キッドはかまわず
舌を這わせる。

すると部屋中に艶のある声が響いた。

快感に目が眩む。

新一の体からは徐々に力が抜けていき、もうキッドの成すがままだった。

「・・・あ、あっ・・・んっ!ああっ!・・・あ。」

喘ぐ声が耳につく。
それが自分の声だとわかっていても、新一にはもう止めることができなかった。

「あああぁっっ・・・!!」

与えられる刺激に、とうとう新一は己の欲望をキッドの口の中に放ってしまう。

ゴクリっとそれをキッドが飲み下す音が艶かしく響いた。

新一の呼吸が整わない内に、キッドは片方の足のふくらはぎを持ち上げると、
その内股に赤い花びらを散らしていく。

「あっ、あっ!!」

達したばかりで刺激に弱いそこは、少しずつだが力を取り戻し始めたように頭を擡げる。

すでに新一の全身は、羞恥と熱のために桜色に染まっており、過ぎる快楽に成す術もなく
身を委ねていた。

目元には生理的な涙を浮かべ、口の端からは唾液を流し、キッドの愛撫に悶える新一に
キッドは笑みを作った。

優しく新一の内股をまさぐっていたキッドの手が、奥にある蕾へと向かう。
その蕾を開かせようと、少し指の先端を飲み込ませると、新一はビクリと腰を引いた。

「・・・っつ!キッドっ!ちょっ・・・待っ・・・・!!」

「・・・ワリィ。待てないよ、新一。ちゃんとならすから・・・。」

耳元でキッドが囁くように告げる。
それすらも新一には刺激になって、肩を震わせた。

「・・・ならすって・・・おいっ!キッド?!・・・痛っつ・・・・!!」

キッドはゆっくりと内壁をかき回すようにしながら指を進めていく。
受け入れるのが初めてなそこは、キッドの侵入を拒もうと、新一の顔が苦痛に歪む。

が、キッドの空いた手が新一自身へも愛撫を始めると、新一の口からはまた甘い喘ぎ声が漏れ出した。

「ああっ!!やぁっ・・・やっ、あ・・・あっ!」

激しい快感の波に痛みも徐々に和らいでいく。
新一に意識させないうちに、そこはすでにキッドの指を完全に飲み込んでいた。

体の中に蠢く指の感触。

「・・・あ、・・い、いや・・・だっっ!!抜けっ・・・って・・・!あ、ああぁ・・っ!」

体を揺らす新一の腰を押さえつけると、キッドはもう一本指を挿入した。

新一の目が大きく見開かれ、涙が頬を伝う。
キッドはそれを舌で拭うと、埋め込んだ指でゆっくりと中で円を描くようにかき回した。

「・・・新一、新一。大丈夫だから。力、抜いて。」

キッドの言葉に僅かに反応した新一は、その涙に濡れた虚ろな瞳を向ける。

「・・・や、やぁ・・・あ、ムリ・・・そ・・・んな・・・あ、ああっ。」

「新一、一回、深呼吸して。そうしたら楽になるから。」

優しくキッドに言われて。
新一は、乱れた呼吸ながらも、少しだけ息を吸って、そして、吐いた。

少し力が抜けた事によって、キッドの指がより妖しく新一の中で動き回る。
しだいに、新一の声からは苦痛の色が消えていく。

頃合を見計らって、キッドは一気に指を抜き去った。

「ああああぁっっ!!」

とたんに新一の白い喉が反り返る。キッドはそこにカリっと歯を立てた。

指を引き抜かれたそこに、キッドの熱を感じると、キッドが次にやろうとしていることに
本能的に体を上へずらして逃げようとした。

けれども、とうに体に力の入らない新一のそんな動きは、キッドにとって何の問題も無い。

キッドは、新一の細い腰を引き寄せると、一気に貫いた。

「あっっ!!ああぁぁぁっ!!」

その言いようのない圧迫感に新一は、瞳をぎゅっと閉じて耐えた。

すべてを埋め込むとキッドは新一の耳に唇を這わせる。

「・・・新一。」

その低い呟きに新一は瞳を開けると、キッドは安心したように微笑み
ゆっくりと腰を揺らし始めた。

「・・・あっ、あ、ああっ・・・!」

律動の度に新一からあられもない声が漏れる。

空いている手で、新一の胸をまさぐり胸の突起を潰すように愛撫してやると、キッドを包み込んでいる
新一の内壁が激しく締まった。

それを味わうように何度も新一の奥深くまで穿つと、キッドは最奥に自身を放った。

新一もキッドの激しい攻めに耐え切れず、2度目の達成を向かえる。

「ああっっ!!!」

新一に開放の余韻を与えずに、キッドはあっさりと自身を抜き去ると、そのまま新一の身体を反転させ
戸惑いなく、再度挿入した。

先程まで散々慣らしていたそこは、新一とキッドが放ったものが潤滑油の代わりを果たし、
容易にキッドを受け入れて、さらに奥へと誘導する。

「ああっ・・も、・・・や・・・やだっ・・・!あ、キッド!!もうっ・・・!!」

涙で顔を濡らし懇願する新一へ、キッドは唇を落とすと、

「ごめん、新一。もう一回だけ。」

そう言って、新一の声を無視して再び腰を揺らし始めた。

「あ・・・ああっ、あっ・・・、キッ・・・ド、あああっ・・・!!」

次第に行為に没頭していく新一に、キッドはなおも執拗に突き上げる。
先程見つけ出したある壁の一点だけを集中的に。

「あっ・・・あっ・・・、や・・・め・・・!!」

溢れる声も掠れがちになって、新一はたまらず、すがるものを求めて必死でキッドへ手を伸ばした。

 

絡まる舌や指や足に感じる快楽がすべてだった。

 

「・・・キッ・・・ド・・・」

眩む快楽に、とうとう新一は欲も意識もすべて解き放った。

 

 

 

汗で額に張り付いた新一の髪を、優しく撫で上げる。

堅く閉じられた目の回りには、涙の跡がくっきりとついていた。

 

初めてだったのに、余裕の無い行為で無理をさせてしまったと、キッドは新一の寝顔を見て苦笑した。

傍らに愛しい人の寝顔。

まさか、決戦前夜にこんなことになるとは、さすがのキッドも思っていなかった。
まさに予想外の出来事。
それでも、こんな満ち足りた気持ちになることができるなんて。

キッドはこれ以上にないくらい幸せな気持ちを味わっていた。

 

「・・・なぁ、新一。オレ、一つ考えてたことがあるんだ。・・・何だと思う?」

キッドは眠ったままの新一に向かって、微笑む。
無論、キッドの声は新一には届いてはおらず、返事など返ってこない。

 

「・・・ったくさ。今はそんな場合じゃないってのに、すべてが終わった時の事、考えてるんだ。」

言いながら、やや自嘲気味な笑みを作った。

 

「・・・明日、全部片付いたらさ。・・・・・・新一にオレの本当の名前を教えてあげるよ。

それで、オレ達、もう一度、普通の友達から始めよう。」

 

キッドはそう呟いて、目を閉じたままの新一に優しい口付けを送った。

 

 

□ To Be Continud □

 

NEXT

 


Copyright(C)ririka All Rights Reserved.   Since 2001/05/04