Heart Rules The Mind

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NOVEL

さあいこう   君とこのまま    未来は僕達を待ってるのさ

すべての心のうち  見せずとも    時代が僕達を待ってるのさ

 

涙では救えない悲しみは

僕達の未来で消してしまおう

 

もう二度と 二度と

間違えないように

 


君と このまま

□■ Part 3 □■


 

「・・・新一、新一。起きろって。朝だぜ?」

「・・・・・・う〜・・・ん?」

 

翌朝。

新一は、自分の名を呼ぶ聞き慣れた声に瞼を持ち上げた。

寝ぼけ眼でのっそりとベットから起き上がると、前方でキッドがシャツの袖に手を通しているところだった。

 

・・・・・・あれ?何でキッドがオレの部屋にいるんだ?

 

覚醒しきっていない頭でそんなことを考えながら、新一はぼんやりとキッドを見つめていた。
と、自分が何も着ていないという今の状況に気づく。

 

げっ!!な、な、な、何でオレはハダカなんだっ?!

 

とたんに昨夜の情事が脳裏によみがえる。

 

・・・・・・そっ・・・そうだっ!!オレ、昨日、キッドと・・・・・・。

 

新一は毛布をバッと肩まで引き寄せると、真っ赤になって俯いた。

そんな新一の様子を見たキッドは、少し心配そうな面持ちで新一に近寄ると、その顔を覗き込む。

「・・・ごめん。身体、ツライか?」

「・・・へっ、平気だっっ!!!」

新一はキッドの視線から逃れるように顔を背けた。

起きぬけで、今の自分の体調がどうなのかなんて、新一にはわからない。
少しばかり下半身の違和感を感じてはいたとしても。

照れているのか、自分の方を見ようとしない新一に、キッドは苦笑すると、そのままそっぽを向いた新一の
頭にポスンとバスタオルを置いた。

「朝ゴハンの用意しとくから、新一はシャワー、浴びておいで。」

それだけ言うと、キッドはにっこり笑って新一の部屋から出て行った。

キッドが軽快に階段を下りていく音が新一の耳に届く。

早々にキッドが部屋から出て行ってくれて、新一は心底助かった気がしていた。
ほっとして、思わず溜息が零れる。

昨夜、突然あんなことになって。一体、どう接したらいいのか・・・。

 

・・・って、そんな問題じゃねぇっっ!!

 

今日は2月4日!!決戦の日なのだ。そんなことに頭を悩ませている場合ではない。

新一は乱暴にベットから起き上がろうとして、盛大に失敗した。

下半身に鈍い痛みが走り、顔を軽くしかめる。

「・・・・ってぇ〜・・・。あんのヤロー、無茶苦茶しやがって・・・!!」

新一は腰を庇いながらもなんとかベットから起き上がり、床に落ちたままのパジャマ類を拾うと
タオルを抱えてキッドに会わないよう気をつけながら、逃げるようにバスルームへと向かった。

 

そして。

新一はさっさと熱いシャワーでも浴びて、昨夜の情事の名残など洗い流そうとコックを捻る。
が、ふと鏡に映った自分自身に、大いに頭を抱えたくなった。

服を着ればおそらく隠れるだろうが、全身にまるで華を散らしたかのような赤い跡。

いやでも、昨日の行為の激しさがよみがえってくる。

「あのバカ!あのバカ!!」

新一はキッドに悪態をつきながら、ゴシゴシと石鹸で身体を磨いた。

 

そうして、シャワーをさっぱり浴び終えた新一は、タオルを頭から被りながら、
キッドがいるリビングをそっと覗き込んだ。

コーヒーのいい香りが漂う。

テーブルには、食事の準備がもうほとんど成されていた。
並べられた皿に、キッドが手際よくフライパンからスクランブルエッグを取り分けている。

そんな様子を見ながら。

新一は、ちょっと出ずらい・・・と思って、リビングのドアのところで固まってしまった。

もう僅かだけど、腰に残る鈍痛。
体のあちこちに残されたキスマーク。

昨夜のことが鮮明に思い出されて。
いや、正確には後半はほとんど思い出せないのではあったが。

 

・・・・・・あんなこともしたし、こんなこともしたし・・・・・。

 

思い出しただけで、新一は赤面してしまう。

 

けれども、そんな新一の気配にとっくに気づいていたキッドは、事もなさげに声をかけてきた。

「何してんの?新一?早く食べないと、冷めるよ?」

色気なしのその態度に、新一は思わず、ずっこけそうになったが。

「・・・わかってるよっっ!!」

ややまだ顔を赤らめながらも、むっとした表情でズカズカとリビングに入っていったのであった。

 

その朝の食事は、いつもよりは二人とも口数が少なく。

それは、昨夜の情事のことを引きずってか、それとも決戦を控えての緊張からくるのか。

それでも。

食事を取りながら、新一は昨夜キッドが一人で行くと言い出した事が、ずっと気がかりだった。

自分的には猛反対をしたつもりだったけど、結局あんなことになってしまって、うやむやの状態である。
キッドはもしかして、まだ一人で行くという考えを変えていないかもしれない。

・・・んなことは、ぜってーにさせねーけど!!

コーヒーをグイっと飲み終えると、新一はキッドをまっすぐに見つめて言った。

「おい、キッド!お前一人でなんか絶対に行かせないからな!!」

一瞬の沈黙。
キッドも新一をまっすぐに見つめ返した。

「・・・わかってるよ。一緒にいこうぜ?新一。どこまでもな!」

それだけ言うと、キッドはいつもの彼特有の不敵な笑いをして見せた。

それは、昨夜見せたような冷笑とは明らかに異なった、実に爽快な笑顔であった。

 

 

□       □       □

 

 

組織の本部は、臨海都市に浮かぶ表向きは普通の企業を装っている建物の中に存在する。

本日、午後7時から行われるというその設立記念のパーティとやらのために、
その建物の周りにはぞくぞくと車が乗り付けられていた。

そんな様子を、少し離れたところにある臨海公園の展望台から
暗視スコープで覗いている少年の影が二つ。

新一とキッドである。

この時間ではまだ一目を引くため、キッドはまだお決まりのコスチュームに身を包んではおらず、
黒のレザーのジャケットにジーンズといったカジュアルなスタイルだった。

一方、新一の方はネイビーの短めのコートを羽織り、下はベージュのコーデュロイのパンツ。

要するに、二人ともごくありふれた若者ののような格好で、夜更けの公園にもある意味
マッチしていたのではあるが。
別に二人がそれを狙ったわけではないことだけは確かである。

 

「・・・さて。」

と、キッドが口を開いた。

「・・・行くか?」

新一が自分の横にいるキッドの方を見て、ニヤリとする。
キッドはそれににっこり頷いた。

キッドは新一の肩を軽く叩くと、展望台出口の方へ促す。

そうして、二人は展望台の下りるため非常階段のほうへと消えた。

 

下に乗り付けてあったバイクにキッドは跨ると自分用のシルバーのメットを被りながら、
新一に向けて黒いメットを投げてよこす。

新一はそれを素早く被ると、キッドの後ろに乗った。

「・・・んじゃ、行くぜ!新一!!しっかり捕まってろよ!」

新一が頷いたのを見ると、キッドは温めていたエンジンを一気に吹かして車道へと出た。

そして二人の乗ったバイクは、組織の建物があるのとは逆の方向へと走り出したのだった。

 

程なくしてついたのは、工場部品等が雑然と投げ捨てられているような空き地。

キッドはそんな中をスタスタと歩いていくと、土に埋もれたマンホールを一つ見つけ出し
そこを開いた。

「そこか?」

新一がマンホールを覗いているキッドの背後から声をかけた。

ここら辺一体は、臨海副都心計画から脱落した地域とでも言おうか。
折からの不況のあおりで、計画の規模が縮小し、開発途中で投げ出された場所である。

中途半端に工事がなされたままであるそこは、表面上何も出来ていなくても
地下には網の目のように張り巡らされたライフラインの路があった。

キッドが今、開けたそのマンホールは電力の配線路へと続いている。

もちろんその配線路もその先は中途半端に途切れているのだが。

 

「配線路に横穴ををぶち開けるなんてお前も良くやるよな。」

「何言ってんの、新一。もうちょっと誉めてくれたっていいんじゃねーの?!
すっげーたいへんだったんだぜ?100メートル近く掘るのって。」

組織の本部がある建物の方へも続いている配線路。
キッドはその使われる事がないまま、地下に放置されているそれに横穴を開けて
潜入できるルートを独自に作ったのだ。

キッドが作った横穴は組織の建物の予備配線路へと行き当たる事になっている。

 

「さて、では行く前に。作戦の最終チェックしとこうか、新一?」

マンホールを覗き込んでいたキッドが新一を振り返って不敵に笑った。

「この地下の配線路を150メートル程行くと、オレが作った横穴が出てくる。
で、そこからさらに100メートル行けば、めでたく奴らの建物の中の予備配線路につき当たって
潜入は完了。

油断は禁物だけど、この配線路を使った侵入まではスムーズに行くと思うよ?」

キッドの言葉に新一は無言で頷いた。さらにキッドは続ける。

「中に入ったら、新一の行くコントロール・セクションは右。
で、オレの行くエネルギー・セクションは左だから、そこで一時お別れ。

オレの方で爆弾のセットが完了したら、このスイッチを押す。
そうしたら、新一の腕時計がバイブしてセット完了を知らせるから。」

キッドが言いながら新一の腕時計を指し示す。
今回、新一が身に付けているのは、博士お手製の麻酔銃付の腕時計にキッドがこの日のために
少々手を加えたものだった。

「新一はコンピュータ・ルームで《ベルガ》が非常事態の警報を鳴らすのを待てって。」

「OK。で、オレはそこから3分間が勝負ってとこか。」

「そういうこと。オレも爆弾のセットが完了次第、コントロール・セクションの方へ向かうからさ。
それまで、なんとか一人で持ちこたえてろよ、新一。」

「・・・てめー、オレが信用できねーのかよ?」

新一がジト目でそう睨むと、キッドはまさか、と言ってにっこり笑った。

 

「じゃあ、行くぜ!!名探偵!!」

キッドはそう言うと、あっというまに白い怪盗の姿になって見せた。

純白のマントが月の光を反射する。

新一はその眩しいほどの白さに目を細めながら、にっこりと頷いた。

怪盗はニヤリとその顔に不敵な笑みを浮かべると、そのまま滑るようにマンホールへと飛び込んでいく。

そして。新一もそれに続いたのだった。

 

 

□       □       □

 

 

同じ頃、警視庁。

明かりの落ちた部屋に、パソコンの液晶から漏れる光だけが、その人物を照らし出していた。

白馬である。

昨夜、決定的な言葉をキッドに告げられてから、白馬はずっとここに篭りっきりだった。

一体、彼は何をしているのか。

白馬は忙しなくキーボードを叩き、画面をスクロールさせて流れる文字を追っていた。
その目はもう充血しきっている。

白馬はなんとか新一とキッドの居場所を突き止めようとしていた。
彼らが今日、動いているのは間違いないのだ。

ここ最近の新一の行動を思い返してみて。

白馬は、新一が何か自分達のやろうとしていることに、必要なデータを警察から盗み出したのではと
思って、その新一の痕跡はないかと必死になって探していたのだ。

 

・・・工藤君がそう簡単にバレるような真似をするとは思えない。
だが、何か!何か必ず残っているはずだっっ!!

 

白馬は自身にそう強く言い聞かせていた。

 

 

 

無人のはずの配線路に軽やかに駆けて行く足音が響き渡る。二つだ。

手元のライトだけしか、辺りを照らすものが無い中、新一の前方で白い大きなマントが靡いていた。

・・・ある意味、目立って目印になるよな。

新一は、のんきにもそんなことを思いながら、キッドの後ろを走っていた。

と。キッドの足が止まる。横穴へ出たのだ。

「・・・意外と広いんだな。」

横穴だなんていうから、這っていかなければならないほどのものかと思いきや、しっかり立っていける程の
大きさに、新一は驚いていた。

すると、キッドはさも得意げにフフンと笑い、

「な?オレの努力をわかってくれた?」

そう言った。
確かに、これをキッドが一人で手で掘ったというのなら、その苦労は計り知れないような気がするが。

・・・コイツの性格からして、それはありえないだろう。
しかもこんな短期間にそんなことができるわけねーし。

「・・・小型の爆弾で吹っ飛ばしたんだろ?」

「イヤだな、新一。爆弾なんてそんな大層なもの使ったら、振動でバレちまうって。
花火だよ、ちょっと火薬を多めにした・・・ね。」

これだけの岩壁をぶっとばすほどの物騒な花火なんてあるものか、と新一は呆れつつも
それでも、土をどかすのは確かに骨の折れる苦労だったかもしれないと、キッドを見た。

キッドはにっこり笑うとそのまま横穴へ入っていく。
遅れをとらないよう新一も続いた。

 

暗闇の土壁の中を二つの影が走り抜けていく。

新一は前を行くキッドの白い背中を見ながら言った。

「・・・キッド、お前、コレが片付いたら、足を洗うつもりなのか?」

「まーね。目的が達成したら、オレが『怪盗キッド』でいる必要なんかないからな。」

新一の問いに、前を向いたままでキッドが答えた。

「・・・・・・なんか想像できねーな。 『キッド』じゃないお前って。
っていうか、お前、ほんとに引退できるのか?お前の方こそ、結構楽しんでやってたろ?」

 

月下の奇術師。平成のアルセーヌ・ルパン。『怪盗キッド』を呼ぶ名は数多くある。

警察を手玉に取って、華麗なるパフォーマンスで人々を魅了し、
狙った獲物は必ず手に入れる鮮やかな手口。

それが例え、ある一つの目的のためだったとしても。

『キッド』を演じる上で、全く楽しみがなかったわけではないだろう。

 

すると、キッドは走りながら、肩越しに少し新一を振り返って笑った。

「確かに、『キッド』は楽しかったよ。あんなスリルは普通じゃ味わえないだろうし。
・・・けど、まぁもともと期間限定付のつもりでやってたからね。
それより、何?新一はオレに『キッド』をやめてほしくないとか?」

「・・・ばっ、ばーろー!!そんなんじゃねーよ!・・・ただお前との勝負はオレとしても
わりと楽しかったから・・・。」

 

『怪盗キッド』との対決は、探偵としての新一にとっても大いに興味深いものだった。

奇怪な暗号文を解く快感。
あの勝負の時に感じる、例えようの無い緊張感。

それがもう味わう事が出来ないと思うと、新一は少し残念に思った。

 

そんな新一の真意を察してか、キッドがクスリと笑う。

「新一さえ良ければ、また暗号の一つや二つ、いつでも作って持って来てやるぜ?」

言われて、新一も笑った。

 

「・・・それよりさぁ、新一。」

「何だ?」

「・・・昨夜のこと、後悔してない?」

 

走っていた新一の足が思わず止まる。不意に途絶えた足音に、キッドは不思議に思って振り返った。
と、新一が真っ赤な顔をしている。

「・・・新一?」

「・・・おまっ、お前っっ!!こっ、こんな時に何言ってんだっ?!」

「・・・いや、だって。こんな時だからさ。ちゃんと聞いておこうと思って。
オレとしては、一応お互い合意の上でってことで納得してんだけど、ほんとのところはわからなくてさ。
考えてみれば、結構、なし崩し的に始まったような気もするし・・・。」

真っ赤な顔をして口をパクパクさせている新一をお構いなしに、キッドはぺらぺらとしゃべる。

「・・・で、どうだった?新一?」

キッドが新一の方へ近づいてくる。

「・・・どっ、どうって!!別にしてねーよっっ!!後悔なんかっっっ!!」

顔を覗かれて、新一はますます顔を赤くし、ソッポを向いて答える。
それを見たキッドはうれしそうに微笑むと、そんな新一の赤く染まった頬に軽いキスをした。

「んじゃ、帰ってから、またやろうな!」

耳元に囁くキッドの言葉に、新一は青ざめてキッドを突き飛ばす。

「やるもんかっっ!!すっげー、痛てぇんだぞっっ!!」

「・・・痛いだけじゃないだろ?」

ニヤニヤと笑うキッドに、新一は肩を震わせながら、これ以上こんな会話には付き合えないと
キッドを追い抜かして走っていく。

キッドは素早く新一の肩を掴まえると、小声で囁いたが。

「じゃあ、今度はもっと痛くしないように気をつけるからさ・・・イッテェェェ!!」

新一の右足が、見事に弁慶の泣き所にヒットし、キッドは悲鳴を上げる結果となった。

「・・・ひでぇー!新一!!決戦前の大事な体に何すんだっっ!!」

「自業自得だっ!!ばーろー!!」

「何でだよ!終わった後にご褒美があった方が、俄然やる気が出るだろっっ?!」

「・・・お前はそうでも、そんな褒美じゃ、オレの志気が下がる!!」

「ちぇ〜!!」

「ほら、グズグズしてんなよ!!キッド!!行くぞ!」

「・・・わかってるよ!」

 

やがて、そのまま二人は走りつづけると、コンクリートの壁につき当たった。

キッドが持っていた道具で、器用に切れ目を入れてそこから侵入する。

「おっし!出たぞ!予備配線路だ。」

そこは無数の配線が張り巡らされた路。
配線工事のことも考えて作られているそれは、人が充分に動き回れるほどの余裕がある。

新一は、配線路の左右を見た。どちらも先が見えないほど続いている。
このままこの路を伝って右に行けば、コントロール・セクションに行ける筈だが。
いくらなんでも簡単すぎる。

「・・・警報システムとかないのか?赤外線くらいはってたって良さそうなのに。」

「ナメてやがるのさ。まさかこんな経路で侵入されると思ってもいやしない。
ま、配線路を出たら、どーなるかわかんねーけどな。・・・というわけで、はい!コレ!」

言いながら、キッドは新一に拳銃を差し出した。
新一はそれを凝視するが、やがて何も言わずに受け取った。

「で、こっちが弾。これだけサービスしとくから!」

「・・・おい!こんなにいらねーよ!お前こそ、ちゃんと持ってるのかよ?」

ジャラジャラ渡された弾を見て、新一がキッドに押し戻す。
けれども、キッドは受け取らなかった。

「持ってけって。何があるか、わかんねーんだから!!オレは自分の分はちゃんと持ってるから平気だよ。
それに、これもあるし。」

そう言って、キッドは胸元からトランプ銃を取り出す。
確かにそれも一つの武器ではあることには、間違いないと思うのだが。

やや納得いかなさげな表情をして見せる新一に、キッドは心配するなと笑顔を送った。

「いいか、新一。余裕の無い時は、遠慮なく撃てよ!でないと自分がヤラレるぜ?」

「・・・ああ、わかってる。」

 

 

そうして、一瞬の沈黙が二人の間に生まれる。

今から、別行動なのだ。

もしかして。そんなことを考えたくはないが、もう二度と会えないかもしれない。

 

別れたくない。

もっと二人で一緒にいたい。

 

新一も。キッドも。

この瞬間、二人は同じ気持ちだった。

 

「・・・キッ・・・」

新一が声をかけようとしたその時、キッドは新一のその腕を引っ張り、力強く自分の方へと抱き寄せた。

キッドの腕が新一の背にきつく回させる。

痛いほどに。

お互いの体温がゆっくりと伝わった。

キッドの肩に顔を埋めている新一は、その心地良い匂いに酔っていた。

「・・・新一。」

名を呼ばれて、新一はすぐ傍にあるキッドの顔をまっすぐに見つめた。
蒼い双眼が、自分とよく似た顔を捕らえる。

そして、そのまま二人は引き寄せされるように口付けを交わした。

 

ほんの一瞬だが、熱い口付け。

キッドは最期にオマケともう一つ、優しい羽のようなキスを送ると新一を解放した。

 

「・・・じゃあ、行って来る!ドジ踏むなよ?」

純白のマントを翻し、キッドが新一の前から駆けて行く。

「・・・お前こそ!」

新一はその見慣れた白い怪盗の背中に向かって、不敵に笑った。

 

暗闇に白いマントだけが幻想的に浮かび上がって見えた。

新一は少しの間だけ、そんなキッドの後姿を見送った後、意を決してキッドとは逆の方向へ走り出した。

 

 

またすぐに会えると、そう信じて。

 

二人は一度として、振り返る事すらせずに

まっすぐと自分の行くべき路をひた走ったのだった。

 

 

 

□ To Be Continued □

 

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