長いようで短かったゴールデン・ウィークが明け、世の中的にはまったりと、休みボケムードが漂う中、オレこと工藤新一は、とある決意を胸に秘め、一人熱く燃えていた。
その理由の発端は、そもそも今年のG/Wにある。
G/Wという長期休暇を、のんびり読書でもして、過ごそうと思っていたオレの計画は思いがけなく、快斗に箱根へ連れ出された事により、見事にふっとんだ。
それは、たった1泊2日の温泉旅行に、事件+炎の脱出のオプションまで付いたまさに快斗ならではの、オレへのバースデー・プレゼントだったわけだが。
自分の誕生日に関しては、はっきり言って関心はゼロで、いつだって忘れてる。
けど、周りのみんなが、それを思い出させてくれるように祝ってくれたりしてそれなりに感動的な経験も数多くしてきた。
が、それらが色あせてしまうくらい、今年の体験はインパクトが有り過ぎて脳裏に焼き付いて離れない。
それくらい印象的だったのだ。
そもそも快斗は、職業柄(?)人を楽しませたり、驚かせたりするアイデアに事欠かない。
あいつと一緒にいるようになって、それは充分オレ自身が身を持って
実感してきたけど。
快斗のヤツ、ほんとヤッてくれたよな。
見てろよ、今度はお前の番だぜ。
そう。
来たる6月21日は、快斗の誕生日。
あいつを「ギャフン!」(死語?)と言わせてやるような計画を練ってやる!
あっと驚くようなとびきりのヤツを!!
オレは快斗に絶対に報復してやると、堅く心に誓った。
で、この計画を成功させるにあたって、注意すべき事がただ一つ。
『 すべては決して快斗に悟られないようにすること。 』
もちろんこれは、当日、快斗を喜ばせるために内緒で事を進める必要があるからだけど
そんなことよりも、だ。
こんな風に、オレが快斗の誕生日に何かしようと思ってる事が、あいつに知れたら、調子づかせるだけだ。
はっきり言って、それはシャクだ。かなり。
だから、絶対そんな素振りは見せないように。
自分の誕生日ですら関心のないオレが、
人の誕生日なんか、気にかけるわけないだろ?ってな具合にしてないとな。
さて、具体的にはどうしてやろう?
やっぱりやるからには、「あっ!」と言わせてやりたいけど。
でも、快斗の誕生日なんだから、最終的にはあいつが喜ぶような事をしてやらないと。
快斗が喜ぶ事・・・って何だろう?
喜ぶ事・・・好きなもの・・・とか。
好きなもの・・・。
食べ物だったら、甘いもの。アイスクリームにケーキとか・・・。
いや、そういうのじゃないな・・・。
そう!あいつの趣味は何だっけ?
えー・・・っと、マジック・・・とか。・・・ダメだ。オレにはよくわからない。
後は、何だろう?
快斗は読書もするけれど、オレみたいに推理小説に夢中とか、そういうのは無いし。
普段、何して遊んでたっけ?あいつ。
確か、うちでオレが読書してる間は、構ってもらえないって一人でイジけて
プレステやってたり・・・とか。
・・・ってこの年で誕生日プレゼントにゲームソフトってのは無いだろう。
子供じゃないしな。
他に趣味と言えば、人並みに映画や音楽鑑賞とか・・・。
うん。映画に関しては、話題の超大作や、知る人ぞのみ知ってるような
マニアな作品にもよく一緒に連れて行かれるけど。
音楽もよく流行りのポップスなんかを聴いてたっけ。
そういうや、こないだも学校の連中と誰かのライブへ行ったって言ってたな。
けど、別に追っかけやるほどじゃねーだろーし。
・・・・。
やべ・・・。
何にもいい手が浮かばないじゃねーか。
っていうか、オレってよく考えたら、こんな風に人の誕生日を祝うために何かするのって今まであんまりなかったかも。
そりゃ、親とか、あと蘭にはやったこともあったけど、
別にそんな凝ったマネなんかしてねーからな・・・。
どうしようか・・・?
* * * * *
「新一、新一ったら!!何、ボケーっとしてるのよ?!」
頬杖をついてぼんやり教室の窓から外を眺めていたら、
さっきから、蘭が後ろから呼んでいるのに気が付かなかったらしい。
「ん?ああ・・・、ちょっと考え事。」
「なぁに?また事件の事?」
と言って、心配そうな顔で蘭がオレの顔を覗き込んできた。
いや、別にいつだって事件の事ばかり考えてるわけじゃねーんだけど。
オレはその心配性の幼馴染を安心させるために、違うよ、と小さく笑いかけた。
「なぁ、蘭。もし誕生日を祝ってもらうとしたら、どういう風にしてもらいたい?」
オレがそう言うと、蘭はあんぐりと口を開け、それっきり固まってしまった。
え?何だよ?オレ、なんか変なこと言ったか?!
すると、そんな蘭の後ろから、突然、ぬぅっと園子が顔を出す。
「なぁにぃ?新一君ってば。もう蘭の誕生日のこと企画してるわけ?
やるじゃな〜い♪」
げっ!!
ばか、何言ってんだ!!オレと蘭はそーいうんじゃねーんだよ!!
誤解をされるような事、言うんじゃねー!
「そ、園子!やめてよ。新一とはそーいうんじゃないって言ってるでしょ?」
そ、そうそう。
「へぇ?そうなんだ?」
言いながら、園子はまだ怪しい視線をオレと蘭に送っている。
その気まずい沈黙を破ったのは蘭だった。
「そんなことより、どうしたっていうのよ、新一。
自分の誕生日ですら覚えてないような新一が、言うような台詞じゃないわよ?
あんまり、らしくないこと言い出すからびっくりしちゃったじゃない!」
・・・おいおい。
オレが誰かの誕生日を祝っちゃいけねーのか?
「はーん!でもどっちにしろ誰かの誕生日をステキにプロデュースしたいってわけね。
この男、意外にカッコつけたがりーだもんねぇ。」
園子の台詞に、蘭も頷きながらクスクス笑ってやがる。
てめーら、いいかげんにしろよ?
「けどさ、そんなの決まってるじゃないねー。
誕生日と言えば、夜景の見えるどこかリッチなレストランでお食事してさ、
プレゼントにはキレイな花束と、ゴージャスなアクセサリーよ!!」
「すてき!!そういうの最高よね。」
一気にテンションを上げ、花でも降ってきそうなくらい乙女チックな雰囲気で盛り上がる二人をオレはただただ、呆れて見ているしかなかった。
はは・・・。
おめーらに聞いたオレがバカだったよ。
あ〜あ。それにしてもどうしたもんかな?
まったく思いつかねーんだよな。
けど、まぁ、まだ5月だし。
あいつの誕生日まで1ヶ月以上あるわけだから
まだたっぷり時間はある。
じっくり考えるとするか。
とりあえずオレはそう思い直して、蘭と園子が熱く語り合っているその場を後にしたのだった。