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NOVEL

True Intention   〜 前編 〜
 

 

 

「いやぁ、今日もお手柄だったねぇ!見たかね?あの所轄の刑事の顔!!
君の名推理を聞いて、目が点になっとったぞ?!」

事件を解決し終えて本庁へ戻る車中で、目暮警部は大層ご機嫌で隣に座る少年の肩を叩いた。
それに対し、少年は得意げに頷いたりするでもなく、ただ静かに微笑んでいただけであったが。

 

そう、その少年とは。

言わずと知れた、高校生探偵・工藤新一。
最近では、『日本警察の救世主』とまで言われるほどの名探偵である。

 

「でも、工藤君のおかげで、この連続殺人事件もようやくカタがついて良かったですよね!警部!!」

今度は運転席の高木刑事がバック・ミラーで後をチラリと見やり、そう言った。

「本当にな。3人もの犠牲者を出した凶悪な事件だったが、無事解決できて何よりだよ。」

「これで、やっと家に帰れますよね、警部。ずっとここのところ泊り込みだったし。」

ここ最近続いた連続殺人事件のおかげで、捜査一課の刑事達はしばらく休み無しで稼動していたらしい。
それも、今日やっと事件が解決した事によって解放されるのだ。
目暮警部も高木刑事も安堵の溜息をついていた。

 

「こっちは片付きましたけど、そういえば、二課はまだたいへんみたいですよねぇ〜!」

ふと、思い出したように高木刑事が言う。
それを聞いた新一は、一瞬顔を上げ、そして窓の外を流れる夜景に視線を移した。

「・・・ああ。あの怪盗キッドに立て続けにやられとるからなぁ・・・。」

「今日でもう連続3日でしたっけ?で、明日も予告日なんでしょ?すごいハードだなぁ!
連敗の中森警部もたいへんですけど、キッドもよくやりますよねぇ!」

「・・・まぁな。もともと何を考えとるかわからん奴だからなぁ・・・。」

言いながら、目暮警部はタバコに火をつけた。
そして、外を眺めている隣の新一の方を見て笑いかける。

「ところで工藤君。今日もいろいろとお世話になったことだし、何かウマイものでもご馳走しようかね?」

それを聞いて運転席の高木刑事も、ヤッタ!と振り返るが、警部に、工藤君だけだ!と睨まれて
しゅんと再び前を向く。

新一はそんな二人のやり取りを笑いながら見ていたが。

「工藤君は何が食べたい?寿司で良ければこの近くにいい店を知っているんだが・・・。」

警部にそう言われて、少し考える素振りと見せると。

 

「せっかくですが、警部、お寿司はまたこの次の機会まで取っておいて頂けますか?
その代わり、一つ、お願いがあるんです。」

 

と、母親譲りの整った顔に、極上の笑みを浮かべた。

 

 

 

やがて、新一たちを乗せた車がとある雑居ビルの前に停まる。

 

「工藤君、本当にこんなとこでいいの?ちゃんと家まで送るけど?」

車から1人下りた新一に、高木刑事が心配そうに声をかける。
しかし、新一はにっこり笑顔を返した。

「ええ。ちょっと、ここで用があるんで・・・。
それより、警部、さっきの僕の言った件ですが、よろしくお願いしますね?」

「・・・ああ、わかったよ。なんとか、中森警部にはワシから話をつけておくから・・・。
しかし、また課が違うのにとかなんとか、うるさそうだがな・・・。」

苦笑しながら、目暮警部が言うのを見て、新一はちょっとすまなそうに頭を下げる。

「まぁ、他ならぬ工藤君の頼みだからな。・・・それよりこんなビルに何の用があるんだね?」

「・・・ヤボ用ですよ、警部。じゃあ、お疲れ様でした。」

それだけ言って、新一はビルの中へと消えていった。

 

 

ビルの前から、再び車が走り出す。

「・・・それにしても、警部。工藤君、何であんなお願いしてきたんですかね〜?
やられっぱなしの二課を気の毒に思ってくれたのかな。
ああ、でも工藤君でもあの怪盗相手じゃどこまでやれるのか、心配ですよね。」

右手で軽くハンドルを握りながら、高木刑事がそう尋ねた。

「ああ、君は知らんのか。以前、工藤君は時計台を盗むと言ったキッドをいいところまで追い詰めたことが
あるんじゃよ?たぶん、後にも先にもあれほど、キッドがやり込められた事はなかっただろうな・・・。」

「え?!そうなんですか!!さすがは工藤君だなぁ!!
じゃあ、今回もかなり期待できそうですよね?!」

もしかして世紀の大怪盗確保の瞬間が見れるのかと、楽しそうに声を上げる高木刑事に、
目暮警部は苦笑する。

「・・・ま、二課の連中が大人しく工藤君に協力してくれるといいんじゃがな・・・。」

 

 

■       ■       ■

 

 

一方、新一が警部達と別れたビルの屋上では。

満月を背景に佇む白い影が一つ。

 

影は、先程まで月光にかざしていた輝くばかりの宝石を、溜息をもらしながらその胸へとしまう。
ちょうどその時、背後で屋上のドアが開かれた音が耳に届く。

影は悠然と振り返った。彼特有の笑みを浮かべて。

本当は振り返らずとも誰が来たかはわかっている。
それでも、相手の姿をその目に移すと、一層その笑みを濃くした。

 

「・・・これはこれは、名探偵。現場でお会いするのはお久しぶりですね?」

「・・・キッド!」

新一はその蒼い瞳をやや細めると、白い怪盗へ向けて不敵な笑いを返した。

すると、キッドは屋上を蹴って軽やかに宙を舞い、あっという間に新一の手の届くところまでやってきた。

 

「わざわざ、名探偵の方から顔を見せに来てくれるとは、うれしいね!」

先程までの紳士的な口調から一変、キッドは悪戯好きの子供のように笑った。
そんなキッドの変貌振りにも新一は驚かない。
実はこっちが奴の本性である事くらい、とっくに知っているからである。
二人の関係は、特別に深いものだとは言いがたいが、決して浅いものでもなかった。

「・・・言ってろ!
それより、オメー、ここのところずいぶん精力的に働いてるじゃねーか!」

新一は自分の頬へ伸びてきたキッドの手をパンと叩き落とすと、溜息混じりにそう言った。
叩かれた手をわざとらしくキッドはさすって見せると、にっこりと微笑む。

「・・・まぁね。魅力的なビッグ・ジュエルの展示がたまたま重なっちゃってさ。」

「・・・へぇ?3連チャン、いや、明日も入れれば4連チャンか。大したもんだな。
で、さすがのキッドも大忙しなわけ?予告状にも気を回してられないくらいにさ!」

新一のその挑発的な台詞にキッドは微妙にその眉をつり上げる。

 

新一の言いたいことはわかる。
ここ最近の予告状の暗号は、ずいぶんと難易度が低いものが多かった。
おかげであの中森警部達がちょっと頭をひねれば、解読できてしまう程の。

・・・確かに、立て続けに準備に追われて忙しかったというのもあるが。
誰にも解き明かせないような暗号を作ってしまって、空振りに終わってしまったら意味が無いわけで。

 

・・・名探偵が来ないんだから、そんなに力入れたってしょうがないじゃん?

 

キッドは苦笑しながら、答えた。

「・・・まぁ、それなりに手は抜かせてもらってるけどね。でも首尾よく事は運んでるよ?」

新一はそれを聞いて、チッ!と舌打ちをした。

「・・・なめやがって!そんなに手なんか抜いてると、今に腕が落ちるぞ?!」

新一のその忠告めいた言葉に、自分のことを心配してくれているのかと思ったキッドは
うれしそうに笑った。

 

・・・ったく、人の気も知らないで。

 

新一は、ふざけてばかりで自分の話を真面目に聞かない目の前の怪盗を、ジロリと睨んだ。

別にキッドが少しくらい手を抜いたところで、警察になど捕まらないだろう事はわかってはいるが。

コイツの敵は警察だけではないのだ。
卑劣なあの黒の組織がどんな手で襲ってくるか、わからない。
奴らの狙いはキッドの命そのものなのだから。

 

もう少し、仕事をする時は緊張感を持っていてもらいたいものだと、新一は心底そう思った。

・・・だがら。

ほんのちょっと、この自信過剰な怪盗に渇を入れてやるべきだろうと、そう新一は考えたのだ。

 

「・・・おい、キッド。明日もこんな調子でやってると、痛い目見ることになるぜ?」

やや斜めに構えてそう不敵に笑った新一を、キッドはきょとんと見返した。

「え?」

明日の獲物が眠る美術館の警備体制など、すべて把握済みなキッドは、何か厄介な仕掛けでも新たに設置されたのかと首を傾げる。

・・・仕方ねーな、ちょっくら覗いて帰った方がいいか?

なんて、キッドが見当違いな方に考えをめぐらせていると、新一はそんなキッドの心の内を読み取ってクスリと笑う。

 

「・・・ずいぶんと退屈してるみてーだから、オレがお前の相手になってやるよ、キッド!」

 

そう言われて。

キッドはしばし驚いたように呆然と新一を見つめていたが。

やがていつもどおりの『怪盗キッド』の表情になると。

 

「・・・それはそれは、光栄ですよ、名探偵。」

と、相変わらず人を食った笑みを浮かべて見せた。

新一も同じようにキッドを真っ直ぐに見つめ返した。

 

「・・・言っとくけど、手加減なんてしねーぜ?だから、オメーも本気で来い。
でないと、マジで監獄行きだからな?」

新一の台詞に、キッドがニヤリとする。

「・・・本気で私を捕まえる事ができると?」

「まぁな。」

キッドはすっと目を細めた。

「さすがは名探偵、大した自信だ。・・・では、一つ提案が。」

「何だ?」

不思議そうに自分を見上げた新一を、キッドは楽しそうに見やるとスッと新一の前から後退する。
そしてそのまま屋上の給水等のタンクの上に軽やかに飛び上がると、新一を振り返った。

「勝負をしませんか?名探偵。
このビルが、明日の逃走経路の中継地点でもあることは、ご存知のとおり。
予告時間は、深夜0時ですから、そこからの移動時間を考慮すると、ここに到着する時刻はおそらく0時15分。まぁ、どんなに遅く見積もっても20分ですね。

その時間までに、私が今、立っているこの場所に宝石を持って現れることができなかったら名探偵の勝ち、というのはどうでしょう?」

「・・・つまり、お前が宝石を盗んでも時間までにこの場所に来れなかったら、オレの勝ちってことか?」

「・・・そう。しかもただこのビルの屋上というわけではなく、このタンクの上に限定してあげますよ?」

そう言って、キッドは唇を持ち上げる。

新一は逆にムッとする。
が、すぐにまた不敵な笑みを浮かべると、キッドに言い返した。

「・・・へぇ、いいのかよ?そんなこと言って。お前、かなり分が悪いぜ?
要するにそのタンクの上に登ってられなきゃ、お前の負けなんだろ?」

しかしキッドは、余程の自信があるのか、構わないと笑って見せる。
キッドのその様子に新一は、鼻息荒く勝負を受ける事にした。

 

「それより、せっかくの勝負ですから、勝者には何か褒美があった方が楽しいと思いませんか?」

ニヤリとするキッドのその物言いに、新一は眉を寄せる。

「・・・どんな?」

そうですね、とキッドはしばらく考えている風な素振りと見せると、ポンと手を叩いた。

「では、勝者の願いを一つ、絶対に聞き入れなければならない事にしましょう!」

キッドの言葉に、新一はさらにその眉を寄せることになった。
こういう場合、キッドが自分に対してロク申し出をしない事くらい、とっくに承知済みである。

 

「・・・ちなみに、オメーの願いってのは何なんだよ?」

嫌そうに新一が訊ねると、キッドは至って笑顔で答えた。

「そうですね、名探偵の心はもう頂いてしまいましたから、後は身体の方を♪」

「・・・ばっ!!ばーろー!!何言ってやがる!!」

とたんに新一は体中の血液が、上昇してくるのを感じた。

キッドはその新一の予想通りの反応に大層満足した様子で、声をたてて笑って見せると。

 

「・・・では、また明日お会いしましょう、名探偵。
ああ、まず必要ないとは思いますが、万が一勝った時のために名探偵も何か考えておいてくださいね?」

 

それだけ言って、屋上を軽く蹴り、ふわりとビルから飛び降りていった。

 

そうして。

屋上では、ただ1人残された新一の叫び声がこだまする。

 

「てっめぇ!!何が万が一だ、コノヤロウ!!絶対、捕まえてやるからな!!キッド!!」

 

 

■ To Be Continued ■  >>>NEXT

 

 

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みちさまからのリクエストにお応えしてのお話!
リクについては、以下のとおり。

一歩進んだK新でお願いしますv
一歩進んでるからには勿論「両想い」で。
でも「対決には手を抜かない」とか。
両想いだからこそある「キッドをかばって
怪我する新一」とか。
しかも結構な重傷だったり・・・・
あっ。あとこれは欲しいです。
「新一からのキスシーン」♪
しかもキッドが照れそうな微笑み付きだったら
最高ですねv

って、いうのを頂いていたんですけどね♪
まだ、全然話が進んでいない・・・(苦笑)
と、とりあえずキッドと新一の真剣勝負がこれから始まるぞ!というところまでですが。
お、おかしい。続き物にする気はなかったのですが、どうして・・・。

リクの大半が続きへ持ち越されてしまい、申し訳ございません。みちさま。


 

 


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