Heart Rules The Mind

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NOVEL

This story is the work which nonfiction mixed with based on ririka's actual experience with the fiction


    The third long-awaited special project   関門海峡ミステリーツアー
                                            

♪ If Shinichi,Kaito & Ai join this tour Version ♪   【中編】


 

「・・・で。そのスタートポイントの『旧秋田商会ビル』って、この道沿いにあるんで間違いはないんだな?」

「そうだね。このまま直進かな。そのうち左手に見えてくるはずだから。」

 

無免許とは言え、新一のドライビング・テクニックについては、既に哀も承認済み。

サイドには『天下の大怪盗』のナビゲーション・システムをも搭載しているわけだから、心配は無用である。

というわけで、哀はすっかり寛ぎモード。

後部座席にゆったりと腰掛け、車窓から流れる下関の街を見ていた。

 

見慣れぬ街並み。

とりあえず、目に付くのは緑溢れる山々。

下関は、海と山に囲まれる自然の豊かな街だった。

 

・・・こういうところに来ると、自分の周りにある煩わしいもの全てから、開放された気になるわね。

・・・何もかも捨てるわけにはいかないけど。

たまにはこんなふうに旅に出るのもいいかもしれない。

窓に映った自分の顔を見ながら、哀はそう心の中で呟いた。

 

「そろそろ見えてきてもいいはずなんだけどなぁ。」

ぼんやりと快斗が言ったその瞬間、哀の瞳に何やら洋風の外観を持つ建物が飛び込んできた。

「・・・アレじゃないの?」

「ああ!ほんとだ!『秋田商会』って書いてある!!新一、それだ!その建物!!」

「何っ?!こんなに近いのか?」

確かに、まだ車を走らせて10分も経過していなかった。

 

「・・・っていうか、駐車場がねぇーじゃねーかよ!」

運転しながら、新一が横目にビルを睨みつける。

確かにビルの近辺には車を停められそうなスペースはない。 仕方無しにいったん車はビルの前を通過。

「すぐ近くに下関市役所があるわよ?ここの駐車場を使わせてもらったらどう?」

「・・・うーん・・・。」

新一は唸りながらハンドルを左に切ると、わき道に入った。

そのすぐ先は市役所なのだが。

「いや、ここに路駐しよう!どうせ、そんな長い時間じゃないし、大丈夫だろ!」

新一はそう判断を下すと、道のわきに車を停めた。

 

そのまま、3人は歩いて『旧秋田商会ビル』へ向かう。

正面角には屋上に突き出した塔が印象的なそのビルは、大正時代の建物らしい。

秋田商会とは、日清戦争後の海外進出機運に乗って創設された海運会社で、海外貿易を主な業務にしていた
ところだ。

今では、その内部を公開すると同時に、下関観光情報センターとして活用されている。

 

さすが大正時代の建物だけあって、少々仰々しいドアを開けると、3人を出迎えたのは
恥ずかしいくらい大きなミステリーツアーのボードだった。

 

・・・まるで、場の雰囲気に合ってないわね。

哀はそう思わずにはいられなかったが、なんと言っても自分たちこそ、そのツアーの参加者なのだから
文句は言うまい。

ボードには、事務局へ行ってシークレット・カードとオリジナルバンダナをゲットせよとのメッセージがあった。

なので、とりあえず事務局へ向かう。

 

「こんにちわ〜vvv」

こういう時、先頭を切って進むのは快斗だ。

持ち前の明るさを巧みに使って、受付のおばさんに愛想良く話し掛けに行く。

彼は笑顔でツアーブックを提示すると、3人分のシークレットカードとオリジナルバンダナをもらってきた。

 

「2階に記念撮影ポイントがあるってさ。とりあえず、行っとくだろ?」

快斗の提案に新一も哀も頷く。

 

だが、このとき、哀はこの場合の『記念撮影ポイント』という言葉の正確な意味を把握していなかった。

記念撮影にオススメな場所というのだから、きっとそれなりにすてきな部屋の内装なのだろうとか、
そんな風にしか考えていなかったのだ。

だから、2階へ上がった時、哀はかなりマジメに驚いた。

2階には特に何があると言うワケではないが、広い和室がいくつかあり、その最奥の部屋がまさに
記念撮影ポイントだった。

なんとそこには、大きく今回のツアー名の載った等身大のボードが設置されているではないか!!

おまけに今日の日付入りだ。

ここで1発写真を撮ったのなら、このツアーに参加したという紛れも無い証拠になりえるだろう。

ボードを前にしばし佇んでしまった哀の横で、早速新一がカメラを構える。

そういえば、新一は入り口にあったボードにも真剣にカメラを向けていた。

 

・・・・まさか、こんなボードに何か犯人逮捕の証拠が隠されているなんて思ってないでしょうね?

哀は苦笑した。

 

「よっし!じゃあ順番に記念写真を撮ろうか!哀ちゃん、カメラは持ってきたんだろ?
撮ってやるから、そのボードの横に立ちなよ。」

「・・・え。いいわよ。貴方こそ、撮ってあげるから、工藤君と並んだらどう?」

「何言ってんの?記念でしょ?ほら早くv」

快斗はいつの間にやら哀のカバンからカメラを抜き取り、構えてみせる。

哀は少々恥ずかしさを感じながらも、確かに記念であることには間違いないので、とりあえずボードへ向かって
歩き出す。

途中、新一の袖を引っ張って。

「・・・一緒にお願いするわ。」

「え?」

哀は一人では恥ずかしすぎるので、とりあえず新一も道ずれにすることにしたのだった。

その後、新一&快斗というショットももちろんカメラにおさめ、一行は『旧秋田商会ビル』を後にする。

 

車へ向かいながら、先程手渡されたシークレット・カードへと目を向けた。

それは一見しただけは、意味不明の文字の羅列。

「へぇ〜?暗号なんか使っちゃってんだ。ちょっと手が込んでるんじゃん!ほら、出番だよ?名探偵!」

カードをヒラヒラさせながら、怪盗の顔で快斗が笑う。

けれども、新一はそれを冷たく一瞥した。

「・・・バーカ。オレが出るまでもないだろ?ちょっとよく見りゃ、誰でもすぐ読めちまうっての。」

新一にそう言われ、それもそうだと苦笑する快斗の横で、哀がマップを広げる。

「ちょっと、貴方達。次は確か『旧下関英国領事館』へ行くんじゃなかった?
地図を見る限りでは、ここから結構近そうなんだけど。これなら歩いて行けるんじゃないかしら?」

「あ。ほんとだ。逆サイドだけど、確かに近そうだね。」

「・・・っていうか、この辺、駐車場ないからな。歩いて行ける範囲なら、このまま行っちまおうぜ!」

 

そうして、少し賑わいを見せる商店街などを通り抜け、一行は『旧下関英国領事館』へ向かった。

赤レンガの風格あるこの洋館は明治時代の建物で、現在は市民ギャラリーとして利用されており、
館内では、昔の面影を感じるインテリアなどを見る事が出来るそうなだが。

・・・で、ここにもやはり例のボードがあったりする。

 

言い忘れていたが、このツアーでは下関側と門司港側にそれぞれ2ヶ所、計4ヶ所ある捜査ポイントを
めぐって、情報を集めていくことが大事なのだそうだ。

で、その下関側と門司港側にはそれぞれシークレット・ポイントとなる場所があるらしく、
先に述べた捜査ポイントに掲げられたクイズを解き明かすと、シークレットポイントがわかる仕組みになっている。

この『旧英国領事館』は、どうやら、ここは下関の捜査ポイントの一つだったようで、ボードには
下関側にあるシークレット・ポイントを解き明かすクイズの一つが掲示してあった。

 

「・・・っていうかさぁ。下関のシークレット・ポイントって絶対、『海峡ゆめタワー』だよなぁ。
クイズを解くまでもなく・・・。そう思わない?新一。」

「・・・ま、そうなんだろうけど。とりあえず、捜査ポイントにはクイズ以外にもちょっとしたヒントがあるからな。
これを見るためにも、一応回っておかねーと・・・。」

「・・・で。これのどこがクイズなわけ?要するに2階の部屋さえ見学してくれば、おのずと回答は出てくるじゃないの。」

「・・・・・だな。ま、とりあえず2階へ上がらねーと、話にならねいからな。行くぞ!快斗、灰原。」

 

そうして。

クイズとして問われている部分の見学がし終わると、新一と快斗は颯爽と階段を駆け下りていく。

「・・・え?ちょっと!他を見て回らないの?!」

のんびり他も見ていこうとした哀は、慌てて新一達の背中に聞く。

「え?だって、ここにはもう他にヒントはないぜ?早く次へ行かないと、今後の捜査に差し支えるだろ?」

すっかり事件解決に夢中な名探偵は、もはや呑気に観光するつもりはないらしい。

それに続いて怪盗も。

「そうそう。別にそうじっくり見たいものもないしさ。」

・・・・確かに怪盗にとって、魅力的なものの展示など、ここには望めそうもないけれど。

 

・・・・・・でも、ここは国の重要文化財に指定されているところなのよ?

もう少しじっくり見ていったらどうなの?

 

哀は無言でそう見つめたが、既に新一と快斗の姿は出口へと向かっていた。

 

「・・・・・ほんとにこのツアーに踊らされているのね。」

哀は二人の背中を見ながら、そう小さく呟いた。

 

 

さて、再び、車へ乗車。

次に向かうのは『海響館』という水族館だ。

ここも、下関にある捜査ポイントの一つだと考えているわけなのだが、この状況に耐えられないはずの快斗は
意外にも冷静さを保っている。

水族館と言えば、海に暮らす様々な生き物に出会えるところ。

この『海響館』には、関門海峡周辺の様子を再現した水槽や、海中トンネル、名物のフグを世界中から集めた水槽、
ダイナミックなイルカショーなどがあるそうで、見所満載である。

 

・・・魚が死ぬほど苦手な彼なら、絶対避けたいコースだと思ったけど。

・・・それとも、何か策でもあるのかしら?

 

すると、新一も同じ事を思ったようで、信号でちょうど車が停まると快斗の方を見て言った。

「けど、意外だよな。お前のことだから、絶対嫌がるかと思ったんだけど。」

「何が?」

「いや、だから『海響館』。 だって、水族館だぜ?」

「そりゃ、できればご遠慮願いたいけどね。でもたぶん捜査ポイントだろうし。
と、なると、外せないだろ?」

「・・・・まぁ、そうなんだけどな。」

不思議そうに快斗の顔をしばらく覗いていた新一だったが、信号が青になると再び前を向いて運転をし始める。

「ま、でも、お前がいいなら助かるよ。実はオレ、この水族館の中に入りたかったんだ。
海中トンネルとかあるみたいだしさ、楽しそうだろ?」

うれしそうに話す新一に、快斗も相槌を打つ。

「そういや、この水族館には地球上で一番大きな生物、シロナガスクジラの骨格標本もあるんだぜ?
日本で展示してんのは、唯一ここだけなんだってさ。 しっかり見ておかないとな!」

 

快斗が魚を克服したのではないことくらいは、新一も哀も知っている。

今回のツアーのために我慢してくれているのか、はたまた新一ためだけに無理をしてくれているのか。

快斗の本心はどうあれ、とりあえず、この場では新一も哀も『海響館』の中に入れるものだと、そう思っていた。

 

二人の視線の届かぬところで、快斗の瞳が僅かに輝いているのも知らずに。

 

 

そして、しばらく車を走らせた後、『海響館』へと到着。

車から降り立った3人は、駐車場から『海響館』の建物へ向かって歩いた。

てっきり正面入り口付近にある入場券販売所の方へ行くのかと思っていると、先頭を歩く快斗はそこを素通りだ。

 

「おい、快斗!どこ行くんだ?入り口はあっちだぞ?」

「うん、わかってるよ?」

「・・・貴方、まさか割引クーポン券を使っても1500円もするからって、忍び込むつもり?」

「・・・・・・あのね。 そこまでセコくないって。」

快斗は振り向きざまに腰に手を当てて、溜息をつく。

 

「じゃあ、どこ行くつもりなんだよ?!」

「あっち。」

そう快斗が指差したのは、『海響館』の建物のはるか端の方だった。

 

「このまま、建物の外をぐるっと半周すると、シロナガスクジラの骨格標本が展示ホールへの入り口が
無料で開放されてるんだ。  『海響館』でヒント・ボードがあるのはそこ。
つまり、ミステリーツアー参加者でヒントだけを見たいなら、わざわざ水族館に入場する必要もないってさ!」

快斗はニンマリした。

「・・・な、何だとぉ???快斗、てめーっ!一体、いつの間にそんな情報を!!」

むぅっと膨れる新一へ快斗はあっかんべーをすると

「悪いね、新一♪ いくら新一のためでも、これだけは譲れないから。」

と、言ってのけたのだった。

「・・・・やっぱりね。何かたくらんでいるんじゃないかとは思ったけど・・・・。」

哀も冷たい眼差しを送るが、快斗はニヤニヤ笑ったままだ。

「たくらむだなんて、人聞き悪いなぁ。別にそんなつもりはないよ?
水族館なんてじっくり見てたら、それこそ時間のロスだぜ?捜査が後にも控えてるんだからさ?
なぁ、新一?」

「・・・・くっそー!仕方ない!」

新一は舌打ちを一つすると、快斗をグングン追い抜いてそのホールへと向かった。

 

・・・・・ちょっと水族館に入りたかったのに。

 

哀も名残惜しげに水族館正面をしばし見つめたが、諦めてそのまま二人に続いた。

 

シロナガスクジラ骨格標本は、地球最大の生物と言うだけあって確かに大きかった。

まぁ、骨オンリーなだけに、その迫力に欠けるといえば欠けるのだが。

で、やはりそのホールの端に、ツアーのヒントボードと、ここが捜査ポイントだと示すクイズが掲示されている。

クイズの内容は前回同様、クジラの標本を良く見れば充分回答が得られるもの。

というわけで、この捜査ポイントでのクイズの回答を持って、下関のシークレット・ポイントが判明したわけだが
それは予想を違わず、やはり『海峡ゆめタワー』だった。

 

「・・・・このヒントは、どうも腑に落ちないわね。ここに書かれているヒントなら、ツアーブックのストーリーからでも
充分に読み取れるわ。これじゃ、ヒントにならないじゃない。」

哀はヒント・ボードを指差して、そう呟く。

その隣で新一もうーんと唸っていた。

「・・・・まさか、この一見なんてことない文章が実は暗号だったりとかしねーだろうな?」

 

・・・・・工藤君、貴方ね。 それ、深読みし過ぎよ・・・・。

 

 

そうして、一行は再び車へ乗車し、新一と哀にとっては非常に後ろ髪を引かれる思いで『海響館』を
出発したのではあるが。

車は海に面した国道をひたすら進んで行く。

「・・・次はどこへ行くの?」

「関門海峡方面だよ。先に歩いて県境を渡れる『人道トンネル』へね。その後は、車で関門橋を渡って
門司港側へ行くんだよ。」

哀の質問に快斗はにっこり答えると、続いて隣の新一へ語りかける。

「と、いうわけで新一。このまま海沿いにまっすぐだよ。」

「ああ。 でもその前に・・・。」

快斗を横目でチラリと確認した新一は、何を思ったか、突然ハンドルを大きく右へ切った。

「し・・・新一っっ??!!」

驚いて快斗が目を丸くしていると、新一は面白そうにニヤリと笑いながら言った。

「予定変更だ。先に『唐戸市場』に寄って行く。」

それを聞いて、快斗の顔色が変った。

 

『唐戸市場』とは、関門海峡の海の幸が大集合する市場のこと。

確かに魚嫌いにとっては、水族館と同様に、いやもしかしたらそれ以上にキツイ場所には違いない。

 

「ダ、ダメだっ!!新一、それだけはっっ・・・・!!」

快斗は慌てて新一からハンドルを奪おうとするが、新一は断固渡しはしない。

「ヤメロよ、快斗!事故るだろっ?!」

「新一、オレを殺す気か?!第一、『唐戸市場』なんて行ったって、仕方ないだろ?
あんなトコ、絶対ノー・ヒントに決まってるじゃねーかよっっ!」

絶望的に訴える快斗に向けて、新一はフフンと鼻で笑う。

「そうとは限らないだろ?ストーリーに出てくる容疑者の一人が、犯行時刻近くに立ち寄ったとされる場所だ。
もしかして、何か掴めるかもしれないからな。」

哀もそれに続ける。

「・・・・そうね。 もし仮にノー・ヒントだったとしても、新鮮な魚介類のお土産が買えるかもしれないことを
考えれば、決して無駄足ではないんじゃないかしら。」

「と、いうことだ。諦めろ、快斗v」

 

これは、まぁ『海響館』に行けなかった事へのささやかな仕返しというところか・・・。

 

そんなわけで、嫌がる快斗を無理矢理引きずって、『唐戸市場』へと行ったのであるが。

早朝3:30からセリを開始するというだけあって、一行が訪れた時には多少セリの名残はあるものの
かなり閑散としていた。

端の方にあるショップでちょっとした海産物が買える程度だ。

とりあえず、見て回ろうと一歩足を踏み入れたところで、快斗が新一の腕を掴むとそのままずるずると
その場にしゃがみこむ。

「・・・・・・しんいちぃ。 オレ、もうダメだ。」

「うわぁぁぁ。快斗!!!」

魚の匂いが充満しているソコは、快斗にダメージを与えるのには充分過ぎるほどだったようで。

早々に快斗をそこから離脱させ、車を停めた付近で新鮮な海の空気にあたらせておくことにし、
結局、市場の見学は、新一と哀の二人で済ませることにした。

ひととおり『唐戸市場』を見終えた新一と哀が戻ってくると、まだ幾分青白い顔で快斗が出迎える。

 

「・・・・おかえり。何か収穫はあった?」

「いや。残念ながら何もねーな。」

「お土産もここで買うと、クール宅急便になってしまうからやめておいたわ。」

 

快斗はそれに苦笑すると、海の方へ視線を向けた。

「ほら、新一。アレ・・・。」

「ん?」

快斗の視線の先には、海を挟んで小さな紅白の灯台が向かい合って立っており、それぞれの灯台の下には
若い男女が佇んで、共に祈りを捧げている。

「『恋人灯台』っていうんだってさ。灯台に手を触れて誓いを立てると、必ず結ばれるらしいぜ?」

「・・・・へぇ。」

新一は目を細めて、その灯台を見つめた。

そんな新一の横顔を盗み見しながら、快斗がにっこりと言う。

「新一、オレ達も誓いを立てに行く?」

「・・・ばっ・・・・!!バーロー!!何でオレがっっ!!!」

とたんに新一は顔を真っ赤に染めた。

「あはは!まぁ、わざわざ誓いを立てる必要もないか。」

「・・・な、どういう意味だよ?」

じっと上目使いに見つめる新一を、快斗はガバっと抱き寄せてその耳元に囁く。

「だって、オレ達、とっくに結ばれちゃってるもんね♪」

「や、ヤメロっ!こら!離せっ!!」

 

「・・・・ところで黒羽君。今夜の夕食だけど、フグ料理で頼むわね。 これは決定事項よ!」

 

氷のような哀の声が、快斗の背中にグサリと突き刺さり、思わず動作が止まる。

新一はその隙に快斗の腕から抜け出し、そそくさと車に乗りこむとエンジンをかけた。

「ほら、次に行くぞ!さっさと乗れよ!快斗!!」

 

 

再び、車は海岸沿いをひた走る。

やがて、右手前方に本州と九州を結ぶ吊り橋、関門橋が見えてきた。

 

「へぇ? なかなかイイ眺めじゃん?」

「そうだな。」

ハンドルを握りながら、新一も横目に景色を楽しむ。

「・・・で、『人道トンネル』はどこにあるんだ?」

「えっと、関門橋付近だね。ほんとすぐ近くって感じかな。ま、そのうち標識も出てくるだろ。」

 

そのまま景色を堪能しながら軽快に車を飛ばしすぎていたために、思わず『人道トンネル』入り口を
見逃し、通過してしまう一幕などあったりしたのだが。

これについては、ナビ担当の快斗は、先程『唐戸市場』に無理矢理連れて行かれたことによる後遺症だとか
なんとか言い訳し。

とりあえずは、新一が車をUターンさせることによって、事無きを得たのであった。

 

さて、『人道トンネル』とは、歩いて関門海峡を渡ることができる海底トンネルのことである。

 

「・・・・すっげーエレベーターだな。」

地下へ降りる大型エレベーターに乗り込んで、新一が思わず感想を漏らした。

快斗もエレベーターを見回す。

「まぁ、チャリはバイクも持ち込んでいいっていうんだからなぁ。確かにデカいわけだ。」

「それにしても、ずいぶん下まで行くのね。地下60mなんですって?」

「どおりで少し時間がかかるわけだな・・・。」

 

そうして、いよいよ『人道トンネル』地下入り口に到着。

海底だというその地下60mの世界は、コンクリートの壁に囲まれていて、言ってみれば深夜の地下鉄の
ようなそんなちょっと薄暗いイメージだ。

 

「・・・入り口には特に何も無いな。」

新一がキョロキョロして呟く。

この場合の『無い』とは、ミステリーツアーのヒントのことだ。

下関での2つの捜査ポイントは全て見終わったとは言え、他のポイントにも何か手がかりがあるかもしれないと
考えてのことである。

だが、あいにくこの下関側の『人道トンネル』入り口付近には何もそれらしいボードは無かった。

「ツアーブックのストーリーの中で主人公達も訪れてるし、その後、被害者の目撃証言もある。
結構、オレとしてはアヤシイ場所だと踏んでいたんだけどな。」

新一は顎に手を添えて、ツアーブックへと目を走らせた。

それを横から快斗も覗き込む。

「まぁ、こっち側だけでは何とも言えないね。もしかしたら、県境を越えて門司港の方にボードがあるかも
しれないし。それに、キーワードは監視カメラだろ?その付近に何かあるかもな。」

「そうだな。とりあえず、行くしかねーか。」

 

・・・・・・行くしかないって、このトンネルを???

 

哀はまっすぐに伸びるそのトンネルの先を見つめた。

あまりにも先すぎるその向こうはなんだか、霞んでよく見えない。

全長780mもあるそのトンネルは、海峡を渡りきるのに15分かかるという事である。

車を下関側に停めてあるのだから、またこちらに戻ってこなければならないと言うワケで
往復にはざっと30分間。

 

・・・・・・いい運動だわ。

 

哀はやや憂鬱になりながら足を進めた。

だが、隣の快斗はご機嫌だ。

「もしヒントがなくってもさぁ、山口と福岡の県境のラインがこの先にあるんだろ?
オレ、そこを跨いでポーズ決めるから!」

「相変わらずお気楽な人ね。私なんて、すでにこのコンクリートの壁が続く景色に飽きたわ。
ここを30分も歩くのは、かなり苦痛よ・・・。」

「まぁ、確かに単調な道ではあるよなぁ。」

新一も先を見据えながら、そう言う。

「どうせ海底トンネルっていうなら、水族館みたく、海の中が見えるような構造にしてくれたらいいのに。
そうしたら、景色を楽しみながら行けると思うわ。」

「・・・・そんなことされたら、オレが来れなくなっちゃうよ。」

再び顔を青くして言う快斗を、新一も笑い飛ばした。

 

サイドの壁に、お魚の絵が続く地下トンネルをテクテク歩いていく事、しばらく。

一行はやがて、トンネル中央の県境のラインのところまでやって来た。

そこが県境だと言われても、ただ普通にあっさりと県堺が示してあるだけなので
イマイチ実感が湧かない気がするのだが。

とりあえず、お約束の記念撮影が終わると、3人は振り返って天井の監視カメラを見つめた。

 

「・・・・何もねーなぁ。」

「そうね。」

「やっぱ、監視カメラは本物だからね。ツアーのヒントに使われちゃったらエライことだとは思うけどさ。
んじゃ、とりあえずこのまま直進して、門司方面まで行ってみようか。」

 

というわけで、そのまま再び歩き続け、やがて門司港側からトンネルを抜けたのであるが
3人を待ち構えてたのは、間近で見る関門橋と、対岸の下関側の美しい風景のみだった。

いや、確かにそれは美しいものではあったのだが。

 

「・・・・クソ。ここにはヒントはなかったのか。」

新一が忌々しそうにトンネルを睨む。

続いて哀も呟く。

「・・・無駄足だったわね。時間と、それに体力を消耗するだけだったわ。」

「そ、そんなことないだろう?哀ちゃん!歩いて海を渡ってきたんだぜ?しかも県境まで跨いでさ!
そうそうできる経験じゃないのに・・・。」

「ええ、確かに貴重な経験だったわ。でも一度で充分。また来た道を帰らなければならないなんて
それが憂鬱だと言ってるの。」

「・・・そうだよなぁ。快斗、お前、ひとっ走り行って、こっちに車を回さないか?」

「ええ?オレが???」

悲痛な叫びを上げる快斗に新一は冗談だと笑って見せたが、おそらく冗談ではなかったに違いない。

 

まぁ、いつまでも文句をタレていても仕方が無いので、一行は諦めて来た道を戻るために
再び『人道トンネル』へ入り口へと向かった。

行きはそれでも物珍しさに会話が弾んだものの、帰りとなるとそうはいかない。

疲労も手伝って、3人はだんだん無口になっていった。

ポテポテあるく3人を颯爽と抜かしていく人がいる。

その人物には見覚えがあるような気がした。

 

「・・・・・あの人、さっきもここを歩いていなかったかしら?私達、抜かされたわよね?」

「ああ、このトンネルをウォーキングのコースにしてるんじゃないのか?」

「そうだね。ジョギングしてる人なんかもいたし。ワリと活用されてるんだなぁ。」

 

・・・・でも、このトンネル内を何往復もするなんて。

哀はぞっとした。

 

もともと哀はウォーキングやジョギングの類には興味はないが、それでももしするなら、もっと空気の良い
そして景色の違うところでやりたいような気がしてならない。

 

・・・ま、それは余計なお世話だけど。

 

タラタラ歩く3人は、密かにそんなウォーキングの人達に邪魔にされていたような気もしないでもないが。

とりあえず、一行はもと来た道を真っ直ぐに進み、下関側まで戻ってきたのだった。

 

捜査に関して言えば、一応、『人道トンネル』入り口付近に建ち並ぶ土産物屋もチェックしたが
やはり手がかりは無しだった。

 

かなりの運動量に哀は既にバテバテだったが、ジュースで少し喉を潤して一息休憩を入れる。

 

「さてと。じゃ、次は関門橋を渡って、門司港エリアの捜査開始だな!」

新一がエンジンをかけると、快斗も再びマップを広げた。

「おっしv 目指せ!門司港レトロ地区!」

 

 

3人を乗せた車は、再び車道へと出たのだった。

 

 

 

☆ To be continued ☆


NEXT

名探偵コナン・待望のスペシャル企画第3弾!
関門海峡ミステリーツアー!!

下関での捜査はこーんな感じで進めておりましたv
いやはや、私の連れは実はミステリーツアー皆勤賞な方々なので心強いったらないですv

捜査に加えて、観光名所めぐり。

・・・たぶん、捜査ポイントでなければ絶対に来ないようなとこもあるので
ある意味、ためになったような・・・。

2002.10.13

 

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