Heart Rules The Mind

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NOVEL

I thought that we would be best friends.
  親友になれると思っていた

Things will never be the same again.
すべては前と同じじゃない

it's just the beginning it's not the end.
それは始まりで終わりじゃなかった

Opend up the door.
扉は開かれた

We'll never,never be the same again
オレ達はもう、前と同じじゃない

Never be the same again.
同じじゃないんだ

 


Never Be The Same Again   〜 前編 〜


 

・・・やれやれ、今日はまたずいぶんと長びいちまったな。

新一の目が、駅ビルの電光掲示板へそそがれる。デジタルの電子時計が示していた時刻は、午後11時55分ちょうど。

闇に包まれた駅前商店街はとうに店を閉め、往来の人影もまばらになっていた。

例によって例のごとく、放課後、馴染みの警部によって事件に呼び出された新一は、無事事件を解決して、たった今、地元の駅までたどり着いたわけだが。

今日の事件のトリックは、なかなか念の入ったものであって、早々に犯人の目星はつけたものの、さすがの新一も証拠集めにずいぶん手こずらされてしまった。

・・・にしても、ずいぶんと巧妙なトリックだったよな・・・。

事件を振り返りながら、そう感心する。

こんな時は、大抵、誰かに事件の話を聞かせてやりたいと思ってしまう新一なのであった。
が、しかし、内容が内容なだけに、話せる人物など限られてしまうのだが。
隣家の住人はこういう場合、比較的そのターゲットにされやすい。

・・・けど、今日はもう遅いよなぁ。もしかして博士は寝てるかもしんねーし。
まぁ、灰原は起きてるだろうけど・・・。

灰原は大人しく話を聞いていてくれるが、別に彼女にとってそれほど興味のある分野ではないのでその反応はいたってクールであることくらいすっかり承知している。

やはり、こういう話は同業者でないと、その楽しみを分かち合う事はできないらしい。

 

なので、新一は事件後はとある人物に電話をかけることが多かった。

 

その人物とは。

言わずと知れた、『西の名探偵』 服部平次である。

 

『何や、工藤、こんな時間に。また何か事件でもあったんか?』

もしかして、相手が寝てるかもしれないなどという気づかいなど全くせずに、新一は携帯の短縮ボタンを押す。
2コール目で出た声は、相変わらずの人懐っこい関西弁。

「遅くに悪りぃな。まだ時間、平気か?」

なんて一応は言ってみたりはするものの、相手がダメと言う気がないことをすっかり計算済みな新一はすぐさま本題に入る準備ができている。

「今日さ、すっげートリック使った事件があったんだけど・・・」

『何や何や、面白そうやないか!聞かせてみ!!』

予想通りの服部の食いつきの良さに、新一は満足そうな微笑みを浮かべると早速事件について話し始めた。
これで、自宅までの道のりは退屈しなくて済みそうだと思いながら。

 

一方、こちら大阪。

「へぇ!そら、おもろい事件やってんなぁ!」

一通り事件の概要を把握した服部は、携帯を片手にそう感嘆の声を上げた。
しかし、その目は至って冷静にデスク上のノート・パソコンに向けられている。

受信トレイに届いた海外からのメールの英文に、服部は注意深く目をやりながらも、
新一への返事を決してお粗末にはしない。

「ま、そこまで考えたんは大したもんやと思うけど、最後のツメが甘いわな。」

『だろ?だからそこから崩していってみたんだけどさ。まぁ、確たる証拠を掴むのに少々手間取っちまってこんな時間になったってわけ。』

「そらご苦労さん。わいがおったら、もう少し早よう片付いとったかもしれんなぁ!」

『・・・んなこたねーよ!』

受話器の向こうから新一の拗ねたような声に服部はケタケタ笑うと、先程受信したメールを削除した。

「それよりな、工藤。わい、明日そっちに行くわ。」

『え?!何で?明日は平日だぜ?お前、学校は?』

「別に、少しくらい休んだかて、何の問題もあらへん。たまには工藤に顔でも見せに行こうと思ってな。」

『・・・変な奴。そんだけの理由でわざわざ大阪から出てくるのか?』

そう言いながらも、新一の声はどこかうれしそうな響きを持っていた。

 

「あはは!ま、それもウソやないけど、本当は別件で用があんねん。」

「何だよ?別件って・・・。」

服部は東京に出てきている親戚に用があるのだと言う事を説明すると、新一もあっさりと納得してそれ以上深く聞こうとはしなかった。

 

 

新一との電話が終わって。

服部は新たに携帯電話のプッシュボタンを押した。

 

「It is me. Some time ago, received mail was read.
Therefore, because I will go there tomorrow, I have it tell a detailed story at that time.
・・・It knows it. No problem is here at the time of the present.
If it is made good, it may be able to meet a fellow.
・・・Leave it. Do you think me who to be? 」

《・・・わいや。さっき届いたメールは読んだで。・・・で、な。明日そっちに行くさかい、くわしい話はそっちへ行ってから聞かしてもらうわ。・・・ああ、わかってるって。今のところ、こっちは何の問題もないからな。うまくすれば、奴とご対面できるかもしれんし。・・・ああ、任しとき。わいを誰やと思ってるんや?》

 

自室の窓辺に立ち、空に浮かんだ月を見てその眼を細める。
その鋭すぎる眼光は、およそ周囲が知る『服部平次』のものではなかった。

 

おびただしい闇のどこかで、犬の遠吠えが響いていた。

 

 

■       ■       ■

 

 

翌朝、新一の体調は思わしくなかった。
どこがどうというわけではなかったが、全体的に倦怠感がひどく、起き上がるのも億劫だった。

・・・やっぱ、ここんところハードだったからなぁ・・・。

連日連夜、事件に引っ張り出されて寝不足が続き、疲労が回復しきっていない事くらい自分でも充分わかっていた。

どうも例の薬の一件以来、体力が落ちたのか、あるいは虚弱体質になったのか、
新一の身体は不調を訴える事が多くなった。

まぁ、幸いな事に隣に頼りになる主治医がいるので、特に問題はないのだが。

新一は、だるさがまだ残るその身体に鞭を打って、なんとかベットから起き上がると
ノロノロと着替えはじめた。

今日は服部が来るって言ってたし、こんな醜態さらしてるわけにもいかねーもんな・・・。

ブレザーと学生カバンを持つと、キッチンへ向かい、冷蔵庫の中から牛乳を一杯だけ飲んでから
新一は、玄関を出て行った。

 

 

同じ頃、警視庁捜査二課。

朝日がまぶしく照りつけるすがすがしい朝だというのに、この会議室だけは悶々とした空気がどんよりと立ち込めていた。
すでにタバコの煙で、部屋中が靄がかかったようになってしまっている。

会議室の前方のボードには、昨夜届いたばかりの怪盗キッドの予告状が拡大されたものが掲示されていた。

つまり、その予告状の暗号解読に夜通し会議が繰り広げられていたというわけだが・・・。

もう何十本目になるかわからないタバコに火を付けた中森警部は、イライラとその予告状を睨みつけた。

「・・・あ、あの警部。もう朝なんですが、そろそろ・・・ですね、いったんここで切り上げて何か別の対策を練った方がよろしんじゃないでしょうか?
この暗号を解くのは、我々にはちょっと無理ですよ。やっぱり工藤君に協力してもらった方が・・・」

若い刑事がおどおどしながら、そう声をかけると、中森警部はギロリとその視線を投げつけた。

「そんなこた〜、わかっとる!!だが、そういつもいつも高校生探偵に頼ってばかりいるのは、納得いかんのだ!!なんとか、少しでも我々で解読してやろうという気が
皆にはないのか!!」

バンと机を叩いて、そう怒鳴った中森警部にいっせいに他の警部達が肩を竦ませる。

「・・・じゃ、じゃあ警部は何かわかったんですか?」

そう別の刑事に突っ込まれて、中森警部はぐっとつまる。
それを見て、他の刑事たちもふぅ〜とやりきれない溜息をつく。

「ゴ、ゴホン!!えぇい、仕方がない!では、本日夕方、工藤君に連絡を取ってみてくれたまえ!彼が授業が終わった頃だぞ!!いいな!!じゃあ、とりあえず、解散!!」

バツの悪そうな咳払いを一つ、中森警部はそう言うと、逃げるように会議室を出て行ったのであった。

 

そんなわけで、今日こそはまっすぐ家に帰って早く休もうと思っていた新一の計画は脆くも破れ去り今日もまた、警視庁への立ち寄りを余儀なくされたのであった。

 

しかし、無理をして学校へ行ったせいか、新一の体調は悪化の一途をたどっていた。

それでも、キッドの暗号解読の協力要請があったとなれば、知らん振りをするわけにはいかない。
新一的にも、キッドのとの対決はたいへん興味があるものでもあったし。
新一は、ふらふらする足取りでなんとか警視庁までたどり着くと、早速予告状の暗号解読に取りかかった。

一刻も早く帰りたいという気持ちがよほど強かったのか、新一は驚くほどの速さで
暗号を全て解読して見せた。

中森警部を含め、捜査二課の刑事たちは開いた口が塞がらないようであったが。

「・・・えっと、じゃあ暗号はこんな感じなんで、僕はそろそろ失礼しますね?」

冷や汗が額から伝うのを感じながら、新一は作り笑顔でその場を立ち去ろうとする。
それを、中森警部が引きとめた。

「あ!!工藤君!!予告日当日はぜひ君も捜査に協力してくれたまえ!!」

中森警部のその言葉に、新一は振り向きざまにっこりと頷くとすぐさまその場を後にした。

 

警視庁からタクシーを捕まえると、新一はぐったりと後部座席に沈み込む。
もう、体が限界を告げていた。

・・・やっべぇな・・・。マジで灰原に診て貰った方がいいかも・・・。

そう思いながら、うっすらと目を開け、窓の外の夕日をぼんやりと見つめていた。

 

 

■       ■       ■

 

 

ようやく自宅近くまでタクシーが近づいた時、新一は玄関前に誰かが立っているのに気がついた。

「服部!!どうしたんだよ?!こんなとこで!!」

タクシーの精算を済ませると、新一は服部に駆け寄った。

「よぉ!工藤!!タクシーで帰宅やなんてずいぶんとリッチなもんやなぁ!」

「バーロー、ちげーよ!今日は帰りに警視庁に寄ってたんだ。それで・・・」

「何や、工藤!ずいぶんと青白い顔色やないか!体調悪いんか?」

「・・・あ、いや。疲れてるだけ。お前こそ何もこんなとこで待ってなくてもいいのに。
オレがもっと帰りが遅かったらどうするんだよ?」

服部にいらぬ心配はかけたくない新一は、無理に笑顔を作った。

「そりゃ、工藤が帰ってこん理由は事件しかないやろうから、その場合はやっぱ警視庁へ行くやろ。
それより、自分、ホンマ大丈夫なんか?真っ青やで?」

心配そうな服部の声が、ずいぶんと遠くから聞こえるようで、新一は今の自分の状態をかなりやばいと確信していた。

・・・とりあえず、早く部屋に入らねーと・・・。

そう思って、ポケットから取り出した鍵が力が上手く入らなくなった手からするりと落ちた。

ち!

舌打ちをして、鍵を取ろうと屈んだ瞬間、新一の視界が大きく歪んだ。

 

「おい!工藤!!」

倒れそうになるのを、間一髪服部が支えた。

「しっかりせぇ!!大丈夫か!?やっぱ具合悪いんやないか!!今すぐ、医者を・・・・」

新一は薄れゆく意識の中で、服部の腕をぎゅっと掴んだ。

「・・・医者はいいんだ・・・!」

「何言うてんねん!!どう見たって医者がいるやないか!!」

「・・・ほんとに医者はいいんだ。その代わり、隣の・・・灰原・・を呼んでくれないか・・・。」

新一の口から出た意外な人物の言葉に、服部は驚いた。
「灰原」という少女は、新一が「コナン」だったころのクラス・メートであるという認識しかない。
確か隣家の養女だということだが。

まさか、こんな状況で小学生の女の子を呼びつけるなんてどういうことなのか?

・・・これはまた、わいの知らん事がなんかありそうやな。

服部はそう心の中で呟くと、新一を抱きかかえたまま急いで隣の阿笠邸の門をくぐった。

 

隣家の主である阿笠博士は新一のその様態を見るや否や、すぐさま「灰原」を呼びに行った。

そうして服部の前に現れたのは、紛れもなく小学校1年生の少女だった。
ただ、どことなく感じさせる雰囲気がかなり大人びたものではあったが。

少女は新一の姿を見ても、さして慌てる素振りは見せずに、新一をそのままベットへ運ぶよう服部に冷静な声で指示を出す。
服部は、不審に思いながらもそれに大人しく従った。

 

「悪いけど、これから治療をするから、貴方は外で待っていてくれるかしら?」

灰原はそう一言言うと、服部を部屋から閉め出した。

・・・治療をするやて?!あんな子供がか?

「・・・おい!ちょう待てや・・」

閉められたドアに再び近づいた服部の肩を、博士が掴む。

「心配はいらんよ。新一の体の事は、哀君が一番よくわかっとる。」

「な、何言うてんねん?!まだガキやないか!!」

服部のその言葉に、博士は困ったように笑うと、お茶を入れるから少し落ち着こうと
服部をリビングへと連れ出した。

 

やがて、ドアが開かれて灰原が出てきた。

「もう心配いらないわ。このまま朝までゆっくり休めば明日には起き上がれるんじゃないかしら。」

「そうか。大した事がなくてよかった。哀君も疲れたじゃろ。
今、お茶を用意するから、ここへ来て一緒に飲まんかね?」

灰原は博士の方を見ることなく、リビングのソファから刺すような視線を送る人物を確認するとくるりと踵を返した。

「・・・ありがとう、博士。でも、お茶は結構よ。先に部屋で休むわ。」

そう言って、そのままリビングへ出て行こうとした灰原を、服部の声が止める。

「ちょう待ち!!」

ドアノブに手をかけたまま、灰原は静止した。そのままで振り返りはしない。

服部もソファからゆっくりと立ち上がる。

「・・・アンタ、一体何モンや?まさかただの小学生に医者まがいなマネ、できるはずないやろ?」

服部の目が鋭く僅かに細められる。

灰原は服部に背を向けたまま、何も答えない。
その様子に1人アタフタする博士は、いや、あの、そのと、灰原に代わってなんとか答えようと勤めているようであったが。

「もう一度、聞く。・・・アンタは一体、誰や?」

 

ややあって、灰原は服部の方を振り向く。そして笑ってこう応えた。

「・・・灰原 哀。・・・見てのとおり、ただの小学生よ?」

それだけ言うと、パタンと小さな音を立ててドアは閉められた。

 

 

新一が意識を回復させたのは、日もすっかり暮れてからのことだった。

「・・・は・・・っとり?」

目を覚ますなり、視界に飛び込んできた人間の名前を新一は掠れた声で呟く。

「おお!工藤!!気ィついたか?!」

「・・・えっと・・・。オレ・・・?」

「何や、覚えとらんのか?!いきなり倒れるからびっくりしたで。ほんまに。」

言われてようやく新一は、自分の置かれている状況を把握した。

「工藤に言われたようにな、隣んちの「灰原」とかいうちっちゃい姉ちゃんに
助けてもろたわ。」

「・・・そっか。すまなかったな、服部。いろいろ迷惑かけちまって。」

言いながら、新一はゆっくりと身体を起こした。服部は手を差し伸べてそれを手伝ってやる。

「・・・なぁ、工藤。オレ、聞きたいことがあるねんけど。」

新一に水の入ったグラスを差し出してやりながら、服部はそう口を開く。
サンキュと小さくお礼を言って、新一はそれを受け取るとゆっくりと喉の渇きを潤した。
そのまま、服部の言葉の先を促す。

「あのちっちゃい姉ちゃんは、一体工藤とどういう関係なんや?
タダの小学生には絶対見えへんで?まるで工藤の主治医みたいな感じや。」

服部の言葉を聞きながら、新一は水を口に運んでいた。

 

服部は、新一がかつて『コナン』であったことを知る数少ない人間の内の1人である。
しかも、こちらから明かす前に、それと気づいてくれたのは、服部を含めてたった二人だけ。

あと一人は、あの「怪盗キッド」であるが。

ともかく、服部は『コナン』の正体が新一である事をいち早く見抜いた人物なのであった。
それでも、新一は事の詳細はそんなに話してはいなかった。

新一が服部に教えたのは、自分が謎の組織に薬を盛られたせいで、体が幼児化してしまったという事実一つであった。

その後、元の『工藤新一』の姿を手に入れたときも、本当は灰原の作った解毒剤のおかげなのだが彼女の存在を明るみにしたくなかったので、あえてそれを伏せるため、薬の効き目が切れて、
自然に元に戻れたという風に話していた。

だから、服部は知らない。

灰原が実は組織の人間で、今はかつての新一のように姿を変えているのだという事を。

 

「・・・なぁ、あの『灰原哀』っていう嬢ちゃんは、ほんまは何モンなんや?」

服部の目が新一を真っ直ぐ射抜く。
新一は、その服部の真剣さにもうごまかしは効かないと観念すると、小さく溜息をついた。

「アイツは・・・、灰原は、『コナン』だった頃のオレと同じだよ。
あの姿は、例の薬の作用によるものなんだ。」

新一の言葉に服部は息を呑んだ。

「・・・っていうことは、何か。あの嬢ちゃんは見た目どおりの年やないっちゅうことやな。
なるほど、そんなら頷けるわ。あの大人びた態度はな。
けど、工藤の他にも例の薬を盛られた人間がいるなんて、あの嬢ちゃんも組織に追われとる人間なんか?!」

「・・・まぁな。灰原は実は組織にいた人間なんだ。あの薬の開発者でもある。」

新一の言葉に服部は目を見開いた。

「・・・!!な、何やて・・・?!」

「けど、灰原は心配いらねぇ。アイツはもうオレ達の仲間なんだ。それを証拠にオレを元の姿に戻してくれたのは、灰原なんだぜ?」

驚きを隠せないでいる服部に、新一は安心させるように笑った。

 

「・・・わかっているとは思うけど、このことは誰にも言うなよ、服部?
お前を信用して話したんだからな!」

新一の台詞に、服部はにんまりと笑い返した。

「・・・当り前やろ?でないと、あの嬢ちゃんがどないな目に合うか、わからんもんなぁ。」

「ああ。組織の奴らはまだ灰原を血眼になって探してるらしいからな。」

「・・・でも、まぁそう考えたら、子供に化けるなんていうんはなかなか名案やと思うで?これならそう簡単に見つかるわけがあらへんもんなぁ。」

服部は妙に感心した口ぶりでそう言うと、ベットサイドの椅子から立ち上がった。

「とりあえず、工藤も元気になったことやし、今夜はもう遅いんでわいはホテルに戻るわ。」

「ああ。今日はほんとに悪かったな、服部!」

心底すまなそうに詫びる新一を、服部は笑顔で振り返ると、思い出したように話題をふと変えた。

 

「そういえば、工藤、夕方に警視庁へ寄ってきたって言うとったな?
それってあの気障なコソドロの怪盗キッドの件やないんか?」

「・・・え?お前、何で知って・・・。」

「いやなに、ちょっと興味があってな。それより予告状の解読しとったんやろ?
現場には当日、出向くんか?」

「・・・ああ、一応中森警部には頼まれてはいるけど・・・。」

「そんなら、わいも同行させてもらうわ!んじゃな!工藤!!しっかり休んで早よう元気になれよ?!」

「・・・え?お、おい、服部・・・!」

自分の言いたいことだけ言うと、さっさと服部は部屋から出て行ってしまった。

 

・・・何だよ?アイツ。キッドに興味があるだなんて、今まで一言も聞いたことねーぞ?

新一は不思議そうに首を傾げると、再びベットに深く沈みこんだ。
まだ抜けきらない疲れに、あっという間に眠りに落ちていく。

 

そして。

 

その扉の向こうでは、服部が1人佇む。

いつもの彼からは想像できないような寒気のするような冷たい笑みを浮かべて。

 

 

■       ■       ■

 

 

薄闇の中で、心地良いジャズ・シンガーの歌声が響く。

正面奥のカウンターからも、それを取り囲む形で配置されているテーブルからも、よく見える位置にあるステージで、黒人のヴォーカルが祖国の歌を歌っていた。

少し洒落た感じのジャズ・バーである。

左の奥のテーブルに黒いトレンチ・コートを羽織った男が1人、タバコを片手にグラスを傾けていた。黒い帽子を深々と被り、その表情までは見ることはできない。
腰ほどまである栗色の長髪が、時折、ゆらゆらと揺れた。

男が灰皿にタバコを押し付けた時、同じテーブルに1人の若者が何も言わずに腰掛けた。
彼もまた、黒いキャップを被り、サングラスで素顔を隠している。

 

「・・・ご注文は?」

カウンターの向こうでバーテンがその若者にオーダーを聞く。

「ジン&ビターズ!」

「かしこまりました。」

若者は、サングラスをチラリとずらし、男に向けてニヤリと笑う。
それでも男は無表情のままで、新しいタバコに火をつけた。

 

「As before, doesn't a hunting thing seem to be found ? .」
《相変わらず、探し物は見つからんみたいやなぁ?》

若者の言葉に、男はギロリと睨みを利かす。

「 It can't care about all that because various this is busy unlike you of the mere watch post.
・・・ How do you like a matter in question more than that?
Do you do it well? 」
《ただの監視役のお前とは違って、こっちはいろいろと忙しいんでな。
そればっかりにかまけてもいられねぇのさ。・・・それより、例の件はどうなんだ?うまくやってるんだろうな?》

 

そこへ、バーテンが先程若者が頼んだカクテルを運びにやってきた。
バーテンが立ち去るまで、会話がいったん打ち切られる。カウンターの後までバーテンが戻ったのを確認してから若者はカクテルに手を伸ばし、一口飲み干してから、笑顔を向けた。

 

「 Of course it says well.
But, there was effort which did a baby-sitting post. It could get terrific information. 」
《もちろん首尾は上々やで?けど、まぁ、子守り役をした甲斐があったで。
ものすごい情報を手に入れたんやからな。》

男の目が鋭く蛇のように光る。

「What is it?」
《何だ?》

若者は男の顔を面白そうに眺めた後、ニヤリと笑ってこう言った。


「・・・ Do you want to listen? Is it the story which you wanted to know very much? 」
《・・・聞きたいか?アンタが喉から手が出るほど知りたかった話やで?》

 

 

■       ■       ■

 

 

翌朝、灰原の言ったとおり、新一の体調はすっかり回復していた。
空腹を訴えて、自力で食卓へつけるほどに。

「あんまり心配させんでくれよ、新一?もう少し自分の身体を考えて、その不摂生な生活をなんとか改善せんと、いつまでも同じ事をくりかえすだけじゃぞ?」

カップにアツアツのコーヒーを注いでやりながら、博士は新一を見た。
新一は、その言葉に小さく肩を竦めて見せる。

「・・・わかってるって。もう無茶はしないように気をつけるからさ・・・。」

コーヒー・カップを受け取りながら、新一はにっこり笑った。

テーブルの上には、博士の作った朝食用のサンドイッチが用意されている。
新一はタマゴサンドを口に運びながら、この家のもう1人の住人の姿を探した。

「ところで、博士。灰原の奴はまだ寝てるのか?」

「・・・はて。そういえば、今朝はまだ見てないのう。」

博士の話では、灰原は昨夜から自室にこもりっきりだそうだ。
大方、小難しい研究でも熱心にしているのだろうが。

 

何にしても、朝っぱらから彼女の毒舌を聞かずに済んだ事は、新一にとって一つの救いであった。

彼女の心臓に突き刺さるほどのその冷たい台詞は、あまり精神衛生上よろしくない。
もちろん、それが新一のためを思って言ってくれているものであったとしても、だ。

今回のように圧倒的に新一側に非があるような場合、灰原のその言葉には容赦はない。
ただただ、新一は小さくなるしかないのだ。

 

「・・・にしても、学校へ行くならそろそろ支度をせんと間に合わんな。
ちょっと、覗きに行ってくるか。新一は今日は学校、どうするんじゃ?」

「ああ、もちろん、行くよ。これ、食い終わったら、家戻って着替えてくる。」

新一の答えに、博士もにっこりと頷く。

そして、灰原を呼びに行こうと博士が席を立った時だった。

 

ガターン!!と。

 

何かを倒したような大きな物音が響いた。

 

「な、何じゃ?!」

「地下の方からだ!!灰原か?!」

新一は慌てて立ち上がり、急いで博士と共にリビングを飛び出した。
今はもう灰原の専用の研究室と化した地下室へと向かう。

 

「灰原!!」

 

ノックもせずに、扉を勢いよく開け放った新一の目に映ったものは、
薄暗い部屋の中央に転がった椅子。

 

部屋の奥のデスクに置かれたパソコンの前で、少女の小さな肩が震えていた。

その尋常でない様子に、新一は彼女の前に回り、顔を覗き込む。

 

「どうしたんだよ?何があった?!おい!!灰原!灰原!!」

灰原の顔は完全に色を無くしていた。
ただ、何かに脅えているということだけは、間違いないと確信は持てたが。

新一の呼びかけにも無反応な灰原は、やがてゆっくりと、その細い腕を上げて
パソコンを指差した。

画面は、電源が落とされており、真っ黒である。

床には乱暴にコンセントから引き抜かれたコードが散らばっていた。

 

「・・・メールが届いたの。」

消え入りそうな声で、灰原が呟いた。

灰原の顔を見て、新一は自分の心臓が早鐘のようになっているのを感じた。

"誰からか?”なんて、聞かなくたってそんなことは簡単に予想がついた。
ここまで彼女を震え上がらせる事ができるのは、奴らしかいないのだから。

「・・・何て?」

新一の質問に、ようやく灰原は視線を合わせる。
そうして、新一の蒼い目をまっすぐに見つめて、ゆっくりと答えた。

 

「Play hide-and-seek is an end. It doesn't run away any more on you.」
《かくれんぼは終わりだ。お前はもう逃げられない。》

 

新一は、すでに電源の落とされた真っ黒なパソコンの画面に再び目をやった。

 

画面に映る闇のような黒が、まるでそのまま暗黒の世界へつながっているかのように新一には思えてならなかった。

 

 

■   To Be Continued   ■

 

 


 

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