(Side : K)
「・・・だーかーらーっっ!!何怒ってんの?新一?!」
「別に何も怒ってなんかいねーよっ!!」
「怒ってるじゃん!さっきからずーっとさ!もうぴりぴりしてんの、すっげー感じるんだけど?」
「オメーの気のせいじゃねーの?!」
先程から工藤邸リビングで繰り広げられる堂堂巡りな会話に、オレもさすがに疲れて溜息をつく。
新一はソファにふんぞり返って、不貞寝ならぬ不貞読書(?)をしている状態だ。
・・・ったくさ。明らかに怒ってるのに、ほんと素直じゃないよなぁ。
ま、実は何で新一がご機嫌斜めかは、よ〜くわかってはいるんだけどね。
「・・・だからさ、仕方ねーだろ?仕事なんだから。今夜の獲物は絶対に外せねーんだって。」
「オ、オレがいつオメーに仕事に行くなって言ったんだよ!!勝手に行けばいーだろ?!
オレがオメーの仕事に口出ししたことなんか、今まであったかよ?!」
・・・ハイ、ないです。
本から視線を上げて、こっちをすごい目で睨んでくる新一をオレは苦笑した。
その鋭いながらも澄んだ瞳は、出会った頃と少しも変わらない。
そう。まだオレがただの探偵と怪盗だった頃の・・・。
それから、ゆっくりと時間をかけて少しずつ変化してきた二人の関係。
お互いを名前で呼ぶようになって。
キスをして、一緒に夜を過ごして、同じ朝を見て。
俗に言う「コイビト」という関係がこの事をいうのなら、新一はもう探偵としてオレの仕事場に現れない事でケジメをつけたのかもしれない。
新一ほどの「名探偵」は、もうきっと後にも先にも出会う事はないだろうから
そんな新一と現場でやりあえないのは、オレとしては少し残念でもあるけど。
でも、新一が自分で決めた事だから。
だからこそ、オレだって涙をのんで「名探偵・工藤新一」との対決を諦めたというのに、だ。
このわがままな名探偵は、自分でそういう制約を作っておきながら、オレの仕事にはやっぱり興味があるようで行けない自分が悔しいのか、仕事の日は必ずと言っていいほど、不機嫌になる。
「探偵」として「怪盗キッド」に興味があるのか。
はたまたオレの身を案じてくれているのか。
それとも単に、自分だけ家に置いてけぼりが嫌なだけなのか。
・・・自分だって、事件の時は人のこと、ほったらかして飛んで行くクセにさ!
ほーんと、わっがままなお姫様だよな、まったく。 ま、そんなトコもかわいいんだけどね。
オレはすねたようにそっぽを向いたままの愛しいコイビトに、優しい笑顔を送った。
(Side : S)
何、ニヤニヤしてんだよ?
あ〜〜もうっっ!!腹立たしい!!オレが怒ってるって?!そりゃ、オメーのせいだろう?
オレがこんなにイライラしてんのに、オメーは余裕で笑ってるんだからさ。
オレはこっちを見ながらにこにこしている快斗を睨み付けた。
・・・でも、ほんとは。
・・・わかってる。これはオレのわがままだ。
快斗とこういう関係になってから、決して現場へは行かないと決めたのは自分。
それは、もう「探偵」として、純粋にあの「怪盗」と勝負できないと思ったからこそ出した自分なりの答え。
その気持ちは今も変わらないし、そう決めた事に後悔なんかしてない。
・・・でも。
いざ快斗を仕事へ送り出す時、こんな風に不安な気持ちになるのは何故だろう?
快斗が「怪盗キッド」をしていること自体については、まったくもって異論はない。
アイツなりの考えがあってしている事だし、そんな生き方を選んだ快斗を間違ってるとも思わない。
けど、アイツが仕事に行っている間、一人で帰りを待つのはキライだ。
オレの見えないところで、キッドが活躍してると思うと妙にイライラする。
このオレが見てないのに、他の誰かがそんなキッドを見てるなんて。
そこまで思って、オレはハタとそんな自分の気持ちに気がついた。
・・・なんか、これってもしかしてヒドイ独占欲?
これじゃ、赤ん坊が母親が視界に入らないと不安がるのと一緒じゃねぇか?
・・・・・・・おいおい、ガキかよ、オレは。
自分自身を分析して出した答えに、げんなりしてもう一度、快斗を見る。
相変わらず、優しい視線を投げかけてくれている奴とバッチリ目が合った。
「・・・今夜、現場には白馬のヤローも出てくるんだろ?」
「ん?ああ。2課の方から応援要請あったらしいからね。何?もしかして新一、オレが白馬に捕まるとでも思ってんの?」
「んなこと思ってねーよ!!ただアイツは・・・。」
そう、白馬は・・・。
オレと同じで、お前の正体を知ってる厄介な探偵の一人だから・・・。
現場でこそ、キッドを捕らえようと真剣勝負しているその姿勢が、うらやましくないと言えばウソになるけど・・・。
正体を掴んでも、なお、現場で執拗にキッドを追ってくる白馬。
どうも、その姿は単に「キッド」を捕まえようとしてるだけじゃない気がして・・・。
「・・・なんとなく、白馬は油断ならねー・・・と思うから・・・。」
オレがそう言うと、快斗は不敵な笑みを浮かべた。
「心配いらねーよ!この怪盗キッド様が新一以外の誰に捕まると思う?」
言いながら、快斗はオレの座っているソファにだんだん体重をかけて来た。
お互いの顔の距離がもう触れるほどに近づく。
快斗の長い指がオレの顎をクイっと持ち上げた。
「じゃあ、新一。約束な!すぐに帰ってくるから・・・。」
そう言って、快斗が優しくキスをして、その後オレの目を見てにっこりと微笑んだ。
オレはそんな快斗の柔らかい髪を力任せに引っ張り、再び奴の顔を近づけさせると自分からもう一度キスを仕掛けた。
軽く触れるだけの。
唇を離すと、オレは上目使いに快斗を見つめた。
「・・・約束破ったら許さないからな!」
すると、快斗はそれにうれしそうに頷くと、もう一度オレの唇に自分のそれを押し付けてきた。
僅かに開いた唇の間から快斗の舌が滑り込んでくる。
「・・・待っ・・・!うぅっ・・・ん、ん・・、かい・・と、って!!おい!調子に乗るな、バカ!!」
濃厚なキスをされて、オレは慌てて快斗を突き飛ばす。
「イッテー!!新一ってば、ヒドイなぁ・・・!わかったよ。じゃあ、続きは帰ってからな!」
快斗はそう言いながらウインク一つ残して、いつものように仕事へと出かけていったのだった。
* * *
(Side : K)
「・・・にしても、オレってばやっぱ天才かも♪」
はるか遠くに見える美術館の喧騒を、白いマントを靡かせて、オレはとあるビルの屋上から見下ろしてた。
獲物はすでにこの手の中。
警備に多少白馬のアドバイスがあっとはいえ、何の事はない。
予告時間から実に僅かな時間で、本日の仕事も無事完了である。
「まったく、チョロイもんだね。後はさっさと獲物をチェックして・・・と。」
言いながら、時価5億のエメラルドの指輪を空に浮かぶ満月に翳す。
けれども、宝石の向こうには何も輝くものはなかった。
・・・ちぇ!まーた、ハズレかよ。ってことは獲物を返しに行かねーと・・・。
あ、いや。もうすぐ白馬が取りに来てくれるかな?
そう思ってオレが振り向いたそのとき、ちょうど屋上の昇降口のドアが開いた。
「・・・こんばんわ、白馬探偵。ちょうどいらっしゃる頃だと思っていましたよ?」
言いながら、その口元には美しい微笑を乗せて。
視線を投げてやると、白馬は挑んでくるような強い眼差しを返してきた。
「相変わらず見事なものですね、キッド。こちらの動きは全て予測済みというわけですか。
今夜の警備には、僕としてもかなり自信があったのというのに・・・。」
言いながら、白馬はゆっくりと足を前へと踏み出し、オレとの距離を詰めてくる。
へー。あれで、結構お前的には力を入れたつもりだったんだ?
・・・まだまだだな。
もうちょっとがんばってもらわないとなぁ〜。オレも少しはスリルを楽しみたいし。
と、内心思いつつ、白馬との間合いを計る。
「・・・申し訳ないが、今宵は貴方とゆっくり話している時間がない。
エメラルドはここに置いていきますので、どうぞご自由になさってください。」
それだけ言って、屋上のフェンスを軽々と乗り越えると後方の白馬を振り返ってにっこりと笑った。
「待てっっ!!キッド!!!」
待てるかよ!
さぁ、早く帰らねーと、また新一のご機嫌が悪くなっちゃうからね〜!!
白馬の悔しそうな顔を面白そうに見やりながら、空中へダイブしようとしたまさにその時。
シュンと空気を裂く音が耳に届いたと思うと、足元のアスファルトを鉛の弾がえぐった。
続いて数発の弾が浴びせられる。
な・・・にっ?!
瞬時にそれをかわしたオレは、他に逃げ場が無いので無理な体勢から、体を宙へと投げ出すしかなかった。
あっという間に加速する落下速度。
・・・・・・落ちるっ!!!
地面に向かってまっ逆さまに落ちていくその体勢を、必死の思いで立て直す。
この高さから落ちれば、まず助からないだろう。
ふざけんなよ!こんなつまらない事で死んだら、恥ずかしくて親父に顔向けできるか!!
それに!
新一が待ってるんだ!!オレは新一のとこへ帰らなきゃならねーんだっっ!!
「・・・くそっ・・・!!」
舌打ちをして、オレはベルトの位置にあるグライダーのスイッチへと手を伸ばす。
降下するのに、もうこの位置からでは高度が足りないかもしれないと思いながらも。
(Side : H)
「キッドっっ!!!」
慌てて屋上のフェンスまで駆け寄った時には、はるか下方にちょうど白い翼が見えた。
どうやらキッドは、空中で体制を持ち直す事には成功したらしい。
だが、あの位置からでは、落下は免れないのでは?!
・・・黒羽君っ!!
僕はそのまま屋上の非常階段を駆け下りて、ビルの外へと向かった。
真っ暗な闇の中、ビル周辺を探し回ったが、キッドの姿はそう簡単には見当たらなかった。
・・・もしかして、無事に逃げる事ができたのだろうか?
そう思って、ふと目に付いた細い路地の先に白いものが見えた。
「・・・!あれは・・・!!」
駆けつけると、そこには無残な形に折れ曲がったグライダーが落ちていた。
・・・やはり、キッドはこの辺りに間違いなく落下している。
一体、彼はどこへ!?
再度、グライダーを発見した付近を注意深く探し回った。
すると。
一見、見落としそうな路地裏に倒れている人影を発見した。
キッドっっ!!
力なく横たわる白い怪盗を、慌てて抱き起こす。
見たところ、頭部から若干の出血が見られるようだが、他に目立った外傷はない。
・・・よかった。撃たれてはいなかったんですね。
安堵の溜息とともに覗き込んだキッドの顔は、いつもの強気な瞳が堅く閉じられ、どこか幼く感じられて。
普段はまず触れる事など叶わない、その頬に手を添える。
「・・・無事でよかった。」
ひとまず彼の無事を確認すると、辺りを見回して、落下のショックで外れてしまったモノクルとシルクハットを
素早く拾う。
・・・・・・キッドがここいた形跡をすべて消さなくては。
自分のジャケットを脱いでキッドに被せ、そのまま抱き上げると、一刻も早くここから去ろうと
携帯電話を取り出して迎えの車を呼びつけたのだった。
(Side : S)
「・・・快斗の奴、遅いな・・・。」
犯行予告時間から計算しても、もうそろそろ帰宅してもいい頃なのに、まだ姿を見せない快斗に
オレは僅かな不安を覚えた。
まさか、白馬のヤローに手こずってるとは考えにくいし。
・・・ってことは、また組織の奴らが何か仕掛けてきたのだろうか?
瞬間、ゾクリと背筋に冷たいものが走る。
今までもキッドが命を狙われた事は何度もあった。
その度にアイツはよみがえってきたけれど。
・・・もしかして、また狙撃されて、動けないくらいひどい怪我でもしていたとしたら!?
一度考え出すと、あとからあとから不安が湯水のように湧き出てくる。
チクショー!!
これだから、アイツを一人で行かせるのは、嫌なんだ!!
オレは読んでいた本を、バサリとテーブルの上に投げ捨てた。
何してんだよ?!すぐ帰ってくるって約束したじゃねーかよ!!
窓の向こうに浮かぶ満月を睨みつけながら、オレは心に拡がっていく漠然とした不安をどうにも
止める事ができなかった。
To Be Continued
NEXT
KISARAさまからのリクノベルにお応えしてのお話・・・(苦笑)。
えと、具体的なリク内容は以下の通りです。
白KベースのK新で。
仕事中怪我したキッドを無理矢理(?)助ける白馬、
それを後で知って怒り爆発の新一(本人自覚なし)
ってことだったんですけど。
ま〜だ、リクの消化に程遠い展開になってますが・・・。
自分的に、前後編にするつもりなどなかったんですけど、
なんだか長くなってしまったので、いったん切ってみたり・・・。
続きは明日、UPしたいかと(まだ書いてませんが)。
にしても。途中まで書いてて、
かわりばんこで一人称なんていう書き方するんじゃなかったと、かなり後悔してます。
快斗や新一はいいんですが、白馬がどうにも書きにくい。
よって、彼の一人称は後編は無しにしようと心に決めました(笑)。
後編、やや白快調でお送りします。
でも基本は快新で!!もっちろんね!
2002.01.02