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NOVEL

しまうで

 しま

 

ら要   “真・・・

 

っとり合って   っとにい

 


僕らは同じ空の下で

                                       ✚ act.6 ✚        


 

 

“今から一局、打たないか?”

 

 

そう言った塔矢の顔を、オレはまじまじと見返した。

塔矢のその目は至って真剣で、そこに何らかの思惑があるのかは、オレにはわからない。

 

――― ただ、それでも。

 

あの佐為と打ち続けてきた碁盤が、オレにとって何か意味があるものだということくらいは、塔矢にも確実に知れてしまったことだろう。

 

今更ながら、オレは、この部屋に塔矢を招いた自分の浅はかさを呪った。

 

ぎゅっと右手の拳を握り締める。

短い爪が、掌の柔らかい皮膚にチクリと突き刺さった。

 

「・・・碁なら、さっき散々碁会所で打ったろ?!今日はもういいよ。」

「進藤っ! 僕は今、ここでもう一度、君と打ちたい!!」

「オレは、打たない!」

「なぜだ?! 何かわけが?!」

「言いたくないっっ!!」

 

塔矢のきつい眼差しから逸らすよう、オレは顔をやや背けながら、そう言い捨てた。

その瞬間、部屋の中の空気が急激に冷たいものに変わる。

 

塔矢は何も言わない代わりにその眉を顰め、怒りとも、悲しみとも取れる表情で、オレを見ていた。

 

 

・・・・そんな目で見るなよっっ!!

そんな目で見られたって、オレはっっ!!!

 

 

――― 塔矢は試しているのかもしれない。

オレの、佐為の中に入っていけるのかどうかということを ―――。

 

でも、ごめん、塔矢。

オレ、まだ・・・・。

 

オレはギリっと唇を噛んだ。

そんなオレを見て、塔矢は小さく息を吐く。

 

「・・・・そうやって、君は・・・・。いつも壁を作るんだな。」

「・・・塔っ・・・」

 

塔矢はそのままオレを横切ると、部屋の隅に置いたバックを手にした。

オレに背を向けたまま、小さく肩越しにこちらを振り返る。

 

「・・・今日はもう帰るよ。」

「・・・・・あっ・・・・・!」

 

部屋中に散乱しているダンボールを避けるようにしながら、塔矢は玄関へと向かいだす。

 

その塔矢の背中が。

自分で塔矢を拒絶しておきながら、なぜかオレの方が塔矢に置いて行かれる気がして。

 

 

“いつか話す”と言ったオレを、塔矢はずっと待っていてくれると言ったけど。

考えてみれば、コイツがいつまでも待っていてくれるなんて保証はどこにもない。

こんな自分勝手なオレを、いつ塔矢が見捨てたって、全然不思議じゃないんだ。

 

ズキンと、胸が痛む。

瞬間、どす暗い闇がオレの心を覆った。

 

――― 塔矢を失うかもしれない。

――― 佐為を失ったように。

 

 

嫌だ・・・っっ!!

オレを置いて行くなっっっ!!! 塔矢っ!!!

 

置いていかれたくないと思った。

もう二度と、佐為を失ったときのような悲しみはごめんだ。

あんな思いはもうしたくない!

 

そう思ったら、自然と手が塔矢を捕まえていた。

ジャケットの上から塔矢の腕を掴んで、力任せに振り向かせる。

驚いた表情のヤツの瞳の中に、オレが小さく映っていた。

 

「・・・行くな。」

「・・・進藤?」

「オレを置いて、行くなよ。」

塔矢の表情に困惑の色が浮かぶ。

「僕が君を置いてどこへ行くと言うんだ?いつだって壁を作って、僕を踏み込ませないようにしているのは君だ。僕はその壁を前に、ずっと立ち往生しているんだよ?」

塔矢はもう一度溜息をつくと、自分の腕からオレの手を無理矢理引き剥がした。

 

・・・・・わかってる。

悪いのは、オレだ。

 

だけど・・・!

 

再び玄関に向かいだした塔矢を、どうにかして引き止めたくて。

 

 

「・・・・好きだ・・・・っ! オレっ・・・、お前のこと、好きだからっっ・・・・だから・・・っ!!」

 

 

気がついたら、そう叫んでいた。

 

 

大きく見開かれた塔矢の瞳が、僅かに揺れる。

右手に掴んだバックを塔矢は足元へ下ろすと、オレを真っ直ぐに見た。

 

「・・・進藤、本気か?」

「・・・・・ああ。」

「本当に? 僕と同じ様に、君も僕を?」

 

塔矢の右手が、そっとオレの頬に触れる。

オレは一瞬、ビクリと肩を震わせたが、塔矢を見つめたまま頷いた。

 

 

本当はわからない。

塔矢のことは好きだけど、コイツがオレに抱いてくれている想いと、オレの想いが果たして同じものなのかどうか。

 

本当はわからないけど。

だけど、オレは ―――。

 

今、この瞬間、塔矢を失いたくない。

ただ、それだけだった。

 

 

ゆっくりと塔矢の顔が近づく。

 

オレは瞳を閉じ、やがて訪れた柔らかい塔矢の唇の感触を、そのまま大人しく受け入れたのだった。

 

 

○●○○●●   ○●○   ○○●○●○

 

 

二度目のキスは、前に唇にそっと触れただけのそれとは違い、ひどく濃厚なものだった。

 

強引に歯列を割って、塔矢の舌が忍び込んで来る。

艶かしい音を立て、オレの唇からは飲み下せない唾液が伝う。

どうしたらいいのかわからずに奥で縮こまっていたオレの舌を、塔矢のそれが見つけ出し執拗に絡めてくる。

息苦しさに、オレは少しあえいだ。

 

生暖かい他人の舌が、自分の口内を貪るようなその感覚に、最初はついていけなくて。

キスがこんなに淫らな行為だなんて、オレはこの時、初めて感じた。

 

塔矢の両腕がオレを抱きしめる。

ようやく唇を解放されたオレは肩で息をするのが精一杯だったが、その間にも塔矢の唇はオレの首を伝って行った。

ざわざわとした感覚がオレを襲い、オレはぎゅっと目を閉じる。

 

すると、塔矢はいったんオレの体を解放し、そのままオレの手を引いて部屋の奥にあるベットに押し倒した。

そのオレの上に、塔矢が覆いかぶさるようになる。

 

「・・・進藤、いい?」

上からオレの顔を覗き込むように、塔矢がそう問いかけた。

 

塔矢のその目が少し欲情に濡れているように思えて、オレの心臓はドキリとする。

塔矢の言葉の意味がわからないほど、オレだって無知じゃない。

 

「・・・・・塔矢がオレを抱くの?」

「そうだよ。 それとも、君が僕を抱きたい?」

 

言われて、ぐっと詰まる。

塔矢に抱かれる自分も想像できないが、自分が塔矢を抱くなんてもっと想像できない。

キスですら、まともに返せない自分なのに。

 

返答に困っているオレを塔矢はクスリと笑うと、再びオレの首もとに唇を寄せた。

「僕は君を抱きたい。」

 

塔矢がそう言ってくれて。

これから、自分の身に何が起こるのかということよりも、自分を求めてくれるその塔矢の気持ちがうれしくて。

 

だからオレは黙って頷き、塔矢の首に両手を回した。

 

 

――― なぁ、佐為。

オレ、間違ってるかな?

 

でも、他に方法が見つからないんだ。 

塔矢を繋ぎとめる方法が。

 

 

○●○○●●   ○●○   ○○●○●○

 

 

灯りの落ちた部屋の中、ベットの軋む音とお互いの息遣いだけが聞こえる。

 

「・・・あ、あぁっ・・・、やっ!」

「・・・進藤。」

優しく愛しむように塔矢がオレの名を呼ぶ。

 

塔矢にオレ自身を扱われて、激しい快感の波がオレを襲った。

今まで他人にイカされたことなどない。

触れられた場所が熱を持ったようにどんどん熱くなり、自分でもどうしたらいいかわからなくて、体をよじった。

こんな醜態を塔矢にさらしていることが、今更ながら恥ずかしい。

オレはぐっと奥歯を噛んで、なんとかこの波を耐えられないものかと思った。

 

だが、塔矢はそんなオレの考えをお見通しなのか、さらに愛撫を激しくする。

それに耐えうる術を、オレは知らない。

 

「あっ、ああぁ! 嫌だっ・・・っつ! 塔矢っっ・・・!!」

「いいから、進藤。 我慢しないで。」

「あっ・・・あっ・・・も・・ああぁぁっっ!!」

 

ドクドク音を立てオレは欲望を吐き出し、塔矢の手を汚した。

呆然としているオレを前に、塔矢は満足そうににっこりとした。

そして、そのまま脱力しているオレの体をひっくり返すと、あらぬところに指をあてがった。

 

「・・・ちょっ・・・! と、塔・・・っ矢?!」

 

抗議の声を上げるオレをお構いなしに、一本の指がオレの中へと進入してきた。

無理矢理狭い入り口をこじ開けるように入ってきたそれは、オレに僅かな痛みとともに、異物感を与える。

奇妙な感覚だった。

 

「・・・あっ!あ・・・あ・・・っ!や・・・・やめっ・・・・!!」

 

逃げようとするオレの腰を後ろからがっちりと掴む塔矢は、さらにもう一本の指を入れる。

二本の指は、先ほど塔矢の手の中に吐き出したその精を絡めながら、さらに奥へと侵入してくる。

ぐちゅぐちゅと淫らな音が部屋に響いた。

 

「・・・んっ・・・!塔・・・っ、あああぁ、あ・・・あっ、やっ・・だっっ!!」

「進藤。大人しくして。」

「・・・やっ・・・!」

 

見開いたオレの瞳から、涙が零れ落ちる。

塔矢はそれを唇ですくうと、オレの中を確かめるように指を動かし始めた。

同時に先ほど放ったばかりの前にも再び手をかけられて、去ったはずの波がまたよみがえってくる。

 

「・・・あっ、ああっ、やめろっ・・・ってば・・っ・・!あ、あぁぁ、うっ・・・ん!」

「進藤・・・。少し、我慢してくれ。慣らさないと、君が辛い・・・。」

「あっ!あぁぁ!ああ・・・んっ!」

 

塔矢が何を言っているのか、そんなことを考えている余裕は、この時のオレにはなかった。

もう何も考えられなくて。

ただ、オレはこの快感から逃れようと、必死だった。

 

前と後ろを塔矢に刺激され、オレはもうどうしたらいいかわからなかった。

信じられないような声をあげ、ただ塔矢にされるがままだ。

ただ、体が無性に熱くて。

早くこの熱をなんとかしてほしい。

そう思うばかりだった。

 

涙に潤んだ瞳で塔矢を見上げる。

塔矢の顔にも余裕のなさが窺えた。

 

「・・・っ、進藤っ、ごめん・・・。これ以上は待てない・・・っ!」

「・・・えっ、あ・・・っ、ああぁっ!」

 

言うなり、塔矢は指を引き抜いたので、オレはまた嬌声をあげるハメになる。

だが、次にそこに熱いものが押し付けられて、今度こそオレは逃げ腰になった。

 

「・・・やっ、無理・・・っ!塔矢っっ!!」

「大丈夫だから、進藤・・・っ!」

「やだっ・・・・あ、あっ! いっっっ・・つ・・・!!!」

 

瞬間、オレの体は弓なりにしなり、ベットから浮いた。

あまりの衝撃に息が詰まる。

 

指とは違う圧倒的な質量を占める、塔矢のそれがオレを引き裂くように入ってきて、オレの体をガクガクと揺すった。

 

「・・・あっ・・・ああっ・・・あ、んぅ・・!」

「・・・進藤、息を吐いて。 ゆっくり。そんなに締め付けていたら動けない・・・。」

「・・・うっ・・・。」

 

もう何も考えられなかった。

あまりの激痛をなんとか和らげたくて、塔矢の言うとおり少しずつ息を吐く。

と、一層、塔矢がオレの奥へと突き立ててくる。

 

塔矢の荒い息遣いが、ベットの軋む音と共に早くなる。

律動が激しくなる度に、激痛と快感のあいまったものがオレの感覚を支配していく。

 

「ああっ・・あ、はっ・・・・!」

「進藤・・・っ、進藤っっ!!」

 

一際、奥に塔矢が強く腰を推し進めたその瞬間、オレの中に何か熱いものが注ぎ込まれたのを感じたのを最後に、オレの意識は休息に遠退いていった。

 

 

○●○○●●   ○●○   ○○●○●○

 

 

目を覚ますと、すぐ傍に穏やかに眠る塔矢の顔があった。

むき出しになった塔矢の肩に抱きしめられるようにして眠っていた自分にぎょっとしたのと同時に、事態を把握した。

 

・・・・・そうだ、オレ・・・。

塔矢と ―――。

 

行為の途中で気を失ってしまったのか、最後までの記憶がない。

身じろぐと、下半身に鈍い痛みが走った。

僅かに顔をしかめながら、目の前の塔矢の顔をじっと見つめる。

 

穏やかなその寝顔。

いつもの熱く鋭い眼差しは、今は瞼の下に隠れてしまっていた。

 

よく考えると、塔矢の寝顔なんて、こんな近くで見るのは初めてなのかもしれないな。

 

そう思うと、なんだか不思議な感じだった。

 

今までは、碁でしか向き合ったことのなかった塔矢と、こんな風に一緒に寝ているなんて。

 

そっと手を伸ばし、塔矢の髪に触れる。

それでも塔矢は起きる気配がなかった。

 

疲れてるんだろう。

いろいろ忙しかっただろうし、今日はこんなことになってしまって。

 

オレはもう一度、塔矢の髪に触れた。

と、不意に塔矢の瞳がうっすらと開く。

 

「・・・・し・・・んどう?」

「・・・あ、ゴメン。起こした?」

 

すると、塔矢は小さくいいやと言って、オレを自分の方へと抱き寄せた。

 

「このまま、朝まで一緒にいよう。」

「・・・うん。」

 

オレを腕の中に収めると、再び塔矢からは規則正しい寝息が聞こえる。

 

 

 

――― 塔矢。

佐為のことを想うオレの気持ちは、まだお前にはやれないけど。

 

その代わり、こんなオレなんかいくらでもやるから。

 

だから ―――。

どうか、お前だけはオレから離れていかないで。

 

 

 

塔矢の心地よい温もりに身を委ねながら、オレはゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

●○○●●   To Be Continued

 

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