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NOVEL

トロピカルランド ☆ デート ★前編★

 ♪ Happy Barthday Shinichi ♪  2002.05.04

This story is the work which nonfiction mixed with based on ririka's actual experience with the fiction.

****************************************************

 

GW初日、5月3日の朝7時過ぎ。

オレ工藤新一は、JR東京駅を全速力で走っていた。

・・・あああっ!クソッ!東京駅って、どうしてこんなに新幹線乗り場が遠いんだよっっ!!

猛ダッシュで改札をくぐり、ホームへ上がるエスカレーターまでも駆け足で登りきったオレが目指すのはのぞみ3号が停車している1番線、6号車の乗り場だ。

ふぅ・・・・。なんとか間に合ったな・・・。

額にうっすら浮かんだ汗を拭いながら、とりあえずオレは列車に乗り込んだ。

座席の確認をするため、さっきから握り締めていた切符へ目を通す。

・・・9番のE・・・窓際か。

オレは肩に背負った旅行バックを再度抱え直し、指定された座席に向かう。

運良く隣は空いていたのでそこへいったん荷物をおき、ジーンズのポケットから携帯を取り出すと、
再び快斗へメールを打った。

 

[ 件名 ] Re:
[ 本文 ] 《 なんとか間に合った。予定通りの新幹線には無事乗れたから。 》

 

再び、というのは、米花町駅で電車を一本乗り過ごした時、新幹線の乗車時刻に間に合わなくなるかも、と今朝早々に快斗にメールで連絡していたからである。

言っておくが、オレは寝坊したわけじゃない。
余裕を持って起きていたし、出発する前に慌しく準備する事など何一つ無かったから、時間が余ってしまったくらいで。

だが逆に、それがいけなかった。

つい何気なくつけてしまったTVのニュースなんかを見てしまっていたら、出発予定時間を少々オーバーし、急いで駅まで走ったものの、予定の電車には間に合わず。

しかも、今日はなんといっても休日ダイヤだ。早朝の運行間隔は平日とは違い、ひどく開いていて・・・。

おかげでオレは朝っぱらから嫌な汗をかくハメになってしまった。

人がアセッてメールしたにも関わらず、快斗の返事ときたらのんきなもので、東京駅でのオレの猛ダッシュを期待するだなんていう、フザけたものだったが。

事実、そうして見事予定の列車に間に合ってしまったのだから、まぁ良しとしよう。

そうこうしている間に、今送ったメールの返事が快斗から届く。

 

[ 件名 ] Re:
[ 本文 ] 《 オレも予定通りの電車に乗れてるから。 んじゃ、現地で。 》

 

メールを確認した後、携帯を再びジーンズのポケットに突っ込んだところで、列車が動き出す。

まもなく車掌さんが現れて、乗車している客の切符を一人一人チェックし始めた。

オレの順番が来て切符を差し出すと、彼はそれを見つめながらにっこりと笑う。

「名古屋まで、ですね?はい、ありがとうございました。」

 

・・・・・そう、名古屋までなんだよ。

再び戻ってきた切符をオレはなくさないようにしまうと、シートをややリクライニングさせて窓の外に目をやった。

・・・・・正確に言うと、名古屋から乗り換えて、桑名まで行くんだけどね。

 

 

☆       ☆       ☆

 

 

事の始まりは、確か、今年の初めくらいだったか。

夕食後、コーヒーを片手に小説に目を通していたオレは、珍しく快斗の妨害も受けることなく、至福の時を過ごしていた。

というのも、快斗は快斗で何やら熱心に、情報誌を読んでいたからだ。

で、そんなアイツがその情報誌をぱらぱらめくりながら、ふとオレに声をかけてきた。

「・・・なぁ、新一。例の遊園地ツアーの件なんだけどさ。
やっぱ、関東近辺じゃ、一番絶叫マシンの宝庫なのは、富士急ハイランドに違いねーな。」

いつもなら、読書中に快斗に話し掛けられたって、適当に聞き流しがちなオレだけど、
このときは、その聞きなれない妙なフレーズに、思わず顔を上げてしまった。

「・・・・・何だ?その『遊園地ツアー』ってのは?」

んなもん、聞いた覚えはねーぞ?

すると、今度は雑誌を見ていたはずの快斗の方が顔を上げて、オレを見返す。やや眉を寄せて、不服そうに。

「何だよ、新一ィ。忘れちゃったのか?去年TDRに行った時、絶叫マシンめぐりしようって約束したじゃねーかよ。」

 

・・・絶叫マシンめぐり?

ああ、そうだった!

確か、去年のクリスマスに快斗と一緒に東京ディズニーリゾートへ行った時、コースター系を乗りまくったんだよな。

けど、まぁ、ディズニーランド&シーの絶叫マシンなんて、やっぱ物足りなくて、
もっと激しいヤツに乗りまくりたいって、2人で話したっけ・・・。

・・・って、お前、アレ、本気だったのか?

 

「・・・・快斗、お前、もしかして本気で計画立ててんのか?」

「あったりまえ!どこのテーマ・パークにしようか、目下検討中!!」

言いながら、快斗は自分が見ていた雑誌の表紙をオレに向けて見せると、そこにはでかでかと、
『テーマ・パーク完全ガイド・全国版』というタイトルが掲げられていた。

・・・それはそれは・・・。

オレは苦笑いをしながら快斗へ目をやると、ふと何かに弾かれたように快斗が振り向いて、つけっぱなしだった
TVにかじりついた。

・・・な、何だよ?一体???

オレもTVに目を向けると、ちょうどニュース番組の中でとある話題を取り上げていたところだった。

 

『ここ、トロピカルランドでは、今年の4月でめでたく8周年を向かえるということで、

8周年記念日に当たる4月22日から5月のGW明けの6日までの2週間、記念のイベントが開催される模様です。』

 

・・・ああ、トロピカルランドか。へぇ、あそこ、もう8周年にもなるんだ。

などと、思いながらぼんやりとオレがその話題に聞き入っていると、同じようにTVを観ていた快斗が
ぽつりと呟く。

「・・・・・決めた!今回の遊園地ツアーはトロピカルランドにする。」

・・・・・・は?

頬杖をついていたオレは、思わず顔を上げ、快斗へぐるんと首を向ける。

すると、快斗は子供のように目をキラキラさせて言った。

「トロピカルランドへ行こーぜ!新一!」

「・・・おい、こら。トロピカルランドがどこにあるか、知ってるのか?全然、関東圏内じゃねーぞ?」

「知ってる。志摩だろ?」

・・・そうだよ。東京から何時間かかると思ってやがる。遠すぎる。却下だ。

突然の快斗の発案に、オレは思いっきり『No』サインを出してみたが、快斗は聞く耳を持たない。

「だからさ。泊まりで行けば平気だろ?ちょっとした旅行ってことでさ。
オレ、トロピカルランドにまだ行ったことねーんだ。実はいつか新一と2人で行きたいってずっと思ってたんだよね。」

と、ウインク付きで微笑む快斗の顔は、何やら妙な迫力をたたえている。

 

・・・・・・テメー、よっぽどオレが昔、蘭や探偵団の子供らと行った事、根に持ってやがるな?

 

「言っとくけど、あそこはコースター系の乗り物は3つくらいしかねーし、オメーの満足するような
絶叫マシンは、その内、せいぜい1つだぜ?絶叫マシン乗りまくりっていう今回の主旨から外れてるじゃねーかよ。」

 

そうなのだ。

トロピカルランドは、どちらかというとファミリー向けのテーマ・パークだと思う。

アトラクションやショーは小学生低学年の子供対象としている物が多いし、たとえ乗り物に乗れないような
小さな子供や女の子でも、園内を歩くだけで楽しいような造りで工夫されている。

だからこそ、蘭や少年探偵団の子供達が喜んで行きたがったワケなんだけど。

つまり、そんなところへ絶叫マシンを期待しているオレ達が行ったとして、退屈するに間違いない。

 

そう思ってのオレの反論を、快斗はフフンと鼻で笑ってかわす。

「わかってるよ。だからさ、トロピカルランドのある三重県近辺で、絶叫系のマシンが充実してるテーマ・パークとセットにして、ツアーを組むのはどう?」

「・・・んな都合の良いトコあんのかよ?」

半ば呆れ顔でそうブーたれるオレを目の前に、快斗は自信たっぷりに頷いた。

あの怪盗特有の不敵な笑みさえ浮かべて。

 

 

☆       ☆       ☆

 

 

バックのサイドポケットから、今回の旅行に必要なクーポン券類を取り出してみる。

前もって、快斗から手渡されていた物だ。

 

結局、あれからなんだかんだしているうちに、快斗は一人でさっさとスケジュールを立てて
切符の手配からホテルの予約まで済ませてしまったようで。

さすが、やることが早いというかなんというか・・・。

・・・ま、そんなアイツの計画に乗ってるオレもオレなんだけど。

 

とりあえず、オレはこのまま新幹線で名古屋まで行き、そこからまた近鉄名古屋線に乗り換えて
一つ目の桑名駅で下車。

ここで快斗と合流する事になっている。

言い忘れていたが、快斗は4月末から大阪で開かれていたビッグ・ジュエルの展示会へ仕事で行っていたため
今回、オレとは別ルートで桑名入りするのだ。

 

ちなみにトロピカルランドがあるのは、近鉄名古屋線の桑名よりもずっと先の磯部という駅で
そこからさらにバスを利用しなければならないので、東京から行くと片道ざっと4時間はかかる長旅だ。

で、遊園地の開園時刻に合わせて出発するとなると、かなり早朝に家を出なければならないわけなのだが
そこらへんを考慮した上で、今回のツアー・プランナーの快斗は名古屋寄りの桑名に目をつけたらしい。

桑名で下車するのは、単に快斗との合流地点というのではなく、実はそこにある長島スパーランドという
絶叫マシンの宝庫の遊園地へ行くためだ。

快斗の立てたスケジュールでは、初日はこの長島スパーランドで一日絶叫マシンを乗りまくって、
夕方からトロピカルランドへ向けて移動。

そうして夜のうちにトロピカルランド入りしておいて、テーマ・パーク内にあるホテルで一泊した後、明日は朝から
トロピカルランドで一日遊ぶことになっている。

・・・と、まぁ1泊2日で2つのテーマ・パークを遊び倒すというこのツアー・・・。

よくもまぁ、ここまで考えるもんだ。脱帽するね、まったく・・・。

 

オレは窓に映った自分の顔を見ながら、これからのハード・スケジュールを想像し溜息をつく。

 

・・・・・・それはそうと、明日はオレの誕生日だよな。

そこにトロピカルランドをぶつけてくるあたり、相変わらず狙ってやがるとしか思えないが。

また何か妙な事、企んでいなきゃいいけど・・・・。

 

・・・・・・にしても。

オレは、窓の外のどんよりと重い雲がかかった、灰色の空を見上げた。

日本全国的に今日の天気予報は雨。

オレがこれから向かう三重方面の降水確率は、時間別に見ても70、80、90%だそうで。

どうやらさすがの大怪盗も、天候まではどうにもできなかったようである。

 

「・・・降り出したな・・・。」

流れる車窓のガラスについた小さな雫を見て、オレはそう呟いた。

 

 

☆       ☆       ☆

 

 

さて、それから。

オレは無事名古屋に到着し、近鉄名古屋線に乗り換えると予定どおりに桑名駅に降り立った。

バスターミナル側の改札が待ち合わせ場所だったはずだが、オレが列車から降りると、すでに快斗が
ホームで待ち構えていた。

「よっ!お疲れ!」

「・・・おぅ。」

数日ぶりに見た快斗の笑顔は、天気とは裏腹に実にすがすがしいものだ。

ただ、出会い頭にあんまりうれしそうに微笑まれると、オレとしては少々反応に困る。

だから、すぐ快斗から視線をそらして、改札へ向けてサクサクと歩き出した。

 

改札を出たところでしばし佇む。

長島スパーランドへ行くには、ここからバスへ乗らなければならない。

「・・・雨だな。」

「・・・雨だね。」

2人して、雨空を見上げる。どう見てもすぐやみそうなものではない。しかも、結構な本降りときている。

「・・・ここまで本格的に降ってると、ポンチョ着て園内を回るってのもツライような気がするな。」

オレが溜息を漏らしながらそう言うと、快斗がオレの方をチラリと見た。

「・・・それなんだけどね、新一。さっき、長島スパーランドに確認してみたら、なんとこの雨でメインの
アトラクションが全然動いてないんだってさ。」

その快斗の発言は、この天候ではあらかじめ充分に予想のできることだったので、さしてオレも驚きはしなかった。

「・・・で?どーすんだ?」

「うーん、悔しいけど、せっかく絶叫マシンに乗りに来たのに、それがやってなくちゃ意味が無いからね。
ここは1つ、今回は潔く諦めるとして、また機会をあらためてリベンジをしかけるってのはどうかな?」

てっきり雨の中をポンチョを着て引きずり回されると思っていたオレは、その快斗のすっぱりとした決断に
正直、ちょっと驚いた。

まぁ、確かに絶叫マシンが動いてないんじゃ、長島スパーランドに行くこと自体、無意味なのはわかる。

オレ達の手元にはすでに長島スパーランドのフリーパスの引換券があったわけだが
しょぼいマシンに乗ってヘタにチケットを使ってしまうより、入場せずに払い戻した方が利口かもしれない。

それにしたって、せっかくわざわざここまで来たっていうのに何とも悔しい限りだ。

「ま、仕方ねーよな、この雨じゃ。で、長島スパーランドをパスするとして、今後の予定はどーするつもりなんだ?」

オレがそう訊ねると、快斗は顎に手を添えて考えてるような素振りを見せる。

「そーだねぇ・・・。列車の時間を早めて、先にトロピカルランド入りするってのも1つの方法だけど。
幸いトロピカルランドの入場券は宿泊の関係で2Daysのを用意してもらってるから、今日明日と遊べない事もない。」

言いながら、快斗はトロピカルランドのチケットを取り出す。

 

絶叫マシンを売りにしてる長島スパーランドは、そのアトラクションがほとんど外にある。

対して、トロピカルランドの方がまぁ、室内のアトラクションもあるので、確かに雨の日でも遊べない事も無いが。

 

「・・・・・いや、あそこは1日あれば、充分周りきれるぜ?
2日もかけて、しかもこの土砂降りの雨の中、遊ぶようなトコじゃねーって。」

何度かトロピカルランドに行った事のあるオレは、そう断言した。

快斗も、確かに。と頷くと、オレの顔を覗き込み、ふと悪戯を思いついたようにニヤリと嫌な笑いを浮かべる。

そのまま快斗はオレの肩へ手をかけて、耳元まで唇を持っていくと

「・・・じゃあ先にトロピカルランドのホテルへ行っちゃおうかvvv」

と、ワザと耳に息を吹きかけながら、そう言った。瞬間、オレは不覚にもゾクリと肩を震わせてしまう。

オレのその様子に、快斗はますますうれしそうに微笑むと、再び耳へ唇を寄せ、歯を立て始めやがった。

 

・・・・こっのヤロー!!調子に乗るんじゃねぇっっ!!!

 

オレは絡み付いてきた快斗の足の脛へ、1発蹴りを食らわせてやる。この場合、遠慮は無しだ。

すると、快斗は悲鳴を上げて、オレから1メートルは飛び退いた。

ざまーみろっ!

「・・・イッテェェェェェっっ!!!何すんだっ!新一っっっ!!」

「・・・自業自得だ。だいたい真昼間から何考えてやがるっ!!」

「誤解だって!!
トロピカルランドのホテルにある天然温泉にでもつかって、のんびりしようかなって思っただけだよ!」

・・・ウソくさい。信用できるか!

オレは、思いっっっきり疑いの眼差しを快斗へ向けたまま、腕組みする。

けれども、オレの冷たい視線を受けつつも、快斗はクスリと小さく笑った。

「新一こそ、真昼間から何を考えているのかな?あ、もちろん期待してるんなら、精一杯応えさせてもらうけど?」

その台詞にオレはカッと赤くなり、再び右足を高く振り上げ、蹴りの体勢に入る。

「・・・ここで蹴り殺されたいみたいだな・・・。」

そうすごんでやると、快斗はあっさり降参のポーズを見せて、にっこりした。

「嫌だな、冗談だよ。じゃあ新一は、今からホテルに向かうのは、とりあえず反対なわけだ♪」

「・・・・・・っていうか、それじゃあ今日一日がもったいないよーな気がする。」

「まぁ確かにね。じゃあせっかく桑名で下車したことだし、ここで遊んでく?
3、4時間ぶらついて・・・。そうだな、トロピカルランド行きの列車を予定より1時間早いのに変更したら
ちょうど夕食時にあっちに着くから、ホテルでちゃんとしたディナーにありつけるぜ?」

「え?でもお前、今日の夕食は近鉄名古屋線の中で駅弁を食べるって、意気込んでたのに。」

 

そうなのだ。

何だ知らないが、快斗はこっちの駅弁に非常に興味を持ったらしく、絶対駅弁を食べると決めていた。

もし予定通り長島スパーランドで一日遊んでいたら、ホテルに到着するのはすっかり夜になってからだ。

それから夕食では遅すぎるということで、快斗的にも駅弁はナイスな選択だと自身たっぷりに言っていたが。

何の事は無い、要するに駅弁が食べたかっただけに違いないのだ。

 

「そりゃ駅弁は食べたかったけどさ。なんか旅行気分を満喫できるだろ?
けど、それでもホテルのディナーには味はかなわないと思うし。駅弁はまた明日帰りの電車でもいいしね。」

とりあえず、快斗の駅弁問題はそれで解決なのかもしれないが。

もう1つの問題の方がよっぽど重要だろう。

 

「・・・・で、ここで3、4時間、何して時間を潰すつもりなんだ?」

 

ここ(=桑名)に関しては、長島スパーランドの最寄駅という認識しかない。

他に遊べるところなんて、オレは知らないぞ?

土地鑑が無いのは快斗も同じなようで、少し頭を傾げていた。

 

「・・・そーだねぇ、駅構内を見たところ、他に目ぼしい観光案内も無いみたいだし。
本当だったら、知らない町をぶらぶらすんのも楽しいんだけど、この雨じゃなぁ。」

・・・・確かにそれはご遠慮願いたい。

「雨の中、歩き回るのは勘弁だな。濡れんのヤだし、傘をさすのも面倒臭い。」

オレがそう言うと、快斗が苦笑する。

「んじゃさ、手近にインドアで遊べるトコに行っとくか?例えば、ゲーセンとかカラオケとか・・・。」

・・・・・・・・オメーな・・・・・・・。わざと言ってやがるのか???

明らかにオレの苦手とするものを持ってくる快斗を、オレはギロリと睨み返すが、快斗は素知らぬ顔だ。

「いや、だってさ。どこの町にも必ずある遊べるところって言ったら、そんなとこだろ?
あ!そうだっ!!もう1つあった!しかも駅前ならある確立は非常に高い。」

「何だ?」

そうマジメに聞いたオレがバカだった。

アイツときたら、にっこり笑顔を向けてこう言いやがったのだ。しかもウインクなどして。

「ラブホ○ルvvv」

 

・・・・・・・・・・・・・・・。テメェ、やっぱりそーゆーことを考えてんじゃねーかよっ!!!

 

オレは無言で快斗を冷たく睨みつけると、

「・・・・・図書館を探す。」

と、一言、回れ右をして、スタスタ歩き出した。

「わー!!!待った待った!新一っっ!!冗談だってば!!じゃあ、映画!!映画を観ようっ!!」

慌ててオレを追う快斗が出した、次なる提案にちょっと肩越しに振り返ってやる。

今までで一番マシなアイデアだ。

「・・・映画?この近くに映画館なんてあんのか?」

「ワーナー・マイカルのシアターがちゃーんと桑名にもあるんだって。ここからバスで10分くらいなトコ。
新一が観たがってた映画もちょうどやってるし、これからなら昼過ぎの回に間に合うかな。
ってことで、今から行ってそこでランチしてから、映画デートと洒落込むのはどう?」

 

快斗の答えは、実に自信にあふれる物で、どう考えても前もってりサーチしてたとしか思えない。

だとすると、快斗は最初からそのつもりだったということになる。

・・・・・・・ということは、今までのはオレをおちょくるための前振りか?!

・・・・・・ヤロウっ!!!!

 

ドカッ★

 

鈍い音がした後、オレは隣で足を抱えて飛び回る快斗に向かって言った。

「・・・で、映画館へ行くバスの乗り場はどこだ?」

 

 

☆       ☆       ☆

 

 

・・・・まさか、三重にまで来て映画を観る事になろうとは。

降りしきる雨の中、バスから下りたオレは、どこへ行っても変わり映えしないワーナー・マイカル・シアターの建物を
見上げた。

その視界がさわやかなブルーに遮られる。快斗が折りたたみの傘を広げてくれたのだ。

「濡れるよ、新一。」

「・・・さんきゅ。」

「映画は確か、13時5分からだったかと思うから、あと1時間弱あるね。先にチケットだけ押さえて、
とりあえず、上のレストラン街で軽くメシにしようか。」

「そうだな。」

オレは快斗の傘に入れてもらいながら、映画館へと向かった。

 

ワーナー・マイカル・シアターはたいていの場合、大型ショッピングセンターのビル内にある。

だが、ここ桑名のワーナーはショッピングセンターとは別館にあって、その造りもオレが知ってる関東のものより
かなり贅沢なものだった。

というか、そのショッピング・センター自体、ゴージャスでちょっとした百貨店並だ。

 

「わお!結構繁盛してんねー。」

大勢の家族連れで賑わう店内を見て、快斗がそう言った。

「・・・っていうか、これじゃ映画も激混みなんじゃねーの?」

良く考えれば、GW初日の今日。

雨ともなれば、結構地元の人が映画を観に来ている可能性は充分にあるわけで。

オレがうんざり溜息をついていると、快斗がオレの手を引いて、スタスタと歩き始める。

「じゃあチケットが完売する前に急ごう!」

振り返りながらそう微笑む快斗は、この上なく幸せそうだ。

「・・・オメー、楽しそうだな?」

「だって、良く考えたらこんな風に新一と映画観るのって初めてだし!なんか普通のデートっぽくていいよなvvv」

そのままいつまでも繋いだオレの手を離そうとしないので、オレは慌てて振りほどいた。

 

・・・・ば、ばーろーっっ!何言ってやがるっっっ!!!

 

オレは背中でクスクス笑う快斗を無視して、さっさとシアターへ向かうエスカレーター飛び乗った。

 

予想に違わず、映画館は大賑わいだった。

さすがにGWということもあって、本当に子供連れの家族が多い。その多さに圧倒されるほどだ。

すると、その人ごみを掻き分けるようにして、快斗が現れる。

「新一、チケットは取れたよ。やっぱ混んでるみたいでもう後ろの方の席しか空いてなかったけどね。
じゃあ、とりあえずランチにしよっか。何食べたい?」

「・・・っていうか、映画が始まるまであと1時間くらいしかねーんだろ?すぐに食べ終わる物でないとな。」

「・・・だな。」

 

当たり前のことだが、レストラン街ももちろん混んでいた。

時間的に12時を回った頃なので、ちょうどみんなのランチタイムと重なったと言える。

行列をなしている店もいくつかあった。

ただオレ達はあまり時間に余裕がなかったこともあって、比較的に空いている中華料理の店に入り
そこでラーメンを食べる事にした。

途中、快斗のラーメンがオーダーミスでなかなか来ないというハプニングもあったが。

悪いが、オレは先に食べさせてもらった。いや、だって。待ってたらラーメンが伸びちゃうし。

それでも、空腹の状態で待たされ続けた快斗を気の毒に思って、オレのラーメンを少し小皿に分けてやろうという
心遣いはちゃんとしてやった。

ま、結果的にオレのオーダーしたラーメンが海鮮素材をふんだんに使ったものだったため、
逆に嫌がらせと取られたのか、アイツは真っ青になって首を振っていたけど。

そうして、オレがラーメンを大半食べ尽くした頃、ようやく快斗のラーメンが出てきたわけだが、
アイツは余程空腹だったのか、あっという間にペロリと平らげ、映画の開始時刻には余裕を持って間に合ったのだった。

 

 

ポップコーンの匂いが充満する映画館に入ると、ここでも子供連れの家族が異様に目立つ。

快斗はオレを通路側に座らせたが、快斗の逆サイドもやっぱり小学生くらいの子供だ。

 

・・・・こんなにガキばっかじゃ、落ち着いて観れねーんじゃねーのか?

 

すでに照明が落ちているのに、この騒ぎ様。

映画の内容からみても、ここにいる大半の子供達にはまだ理解するには難しいものかと思われる。

最後までちゃんと観てられるんだろうか?

そうしてかなりの不安を抱きつつ、上映開始を迎えたわけだが。

そのオレの予想は見事的中。

子供達の集中力は映画半ばまでも持たず、途中退場者が後を絶たない。

しかも退場したならそのまま戻ってこなければいいのに、再びジュースやポップコーンを手にして戻ってきたりして
上映中にも関わらず、人の出入りが激しく、観ているこっちが落ち着かないくらいで。

 

おかげで真剣に集中してことができなかったオレは、エンディングを迎える頃にはすっかり仏頂面。

たくさんの子供達に囲まれながら、映画館を無口なまま退場しようとすると、快斗が肩を寄せてきた。

「新一、映画はどうだった?」

「・・・・・・映画は面白かったけど、ちっとも落ち着いて観れなかった。」

ムスっとしながらそう答えると、快斗も苦笑して見せる。

「ストーリー的に観てオレ達が面白いくらいだからな。・・・・まだ子供達には早かったのかも。
・・・にしてもさ、もう少し、ムードを楽しみながら映画を観たかったのに残念だったね。」

「まったくだ。」

オレがそう首を立てに振ると、快斗も心底がっかりしたようにこう言った。

「オレとしては、上映中にいろいろ新一にしたいこととかいろいろあったのにさ。 子供達に囲まれてるんじゃ、
まるっきりそういう雰囲気とは無縁だったからね。手の一つも握ることさえできなかったよ・・・・」

下りのエスカレーターに乗りながら、そうマジメに愚痴る快斗をオレは白い目で振り返った。

「・・・・・オメー、映画館に何しに来たんだ?」

 

子供が騒いでいなかったら、もしかして快斗にちょっかいを出されていたかもしれないことを考えると
これはこれで良かったと言うべきなのか。

どちらにしても、オレがゆっくり映画を楽しむ事はできなかったことには間違いないだろう・・・。

オレは快斗に対し呆れた視線を送りつつ、心の中では密かにコイツとだけは映画に行くのは止そうと
誓ったのだった。

 

 

☆       ☆       ☆

 

 

さて、そうして映画を観終わって、時刻は午後3時を少し回っていた。

予定の列車へ乗るため、あらかじめ調べておいたバスの時刻をもとに、快斗が少し店内を見て回ろうと
提案する。

「バスが来るまで、あと30分近くあるんだ。雨の中バス停で待ってるのなんてヤだろ?」

「・・・・まーな。」

別にオレも何の異論もなかったので、そのまま快斗と店内をブラつく。

すると、その中の一つのショップが快斗のお目当てなものを取り扱っていたようで、ヤツは意気揚揚と
キャッシャーに並んでいた。

何を買おうとしているのかと思えば、ケータイのストラップだ。

「・・・おい、快斗。何も今ここで買わなくても、東京で帰るんじゃねーのか?」

ここにしかない店ならまだしも、全国展開しているブランドだろ?

「そうなんだけどさ。欲しい物は見つけた時に、すぐゲットするのがオレの心情でね。
次に手に入れられる保証なんて、どこにもないだろう?」

快斗はウインクしながらそう言うと、戻ってきた時にはヤツの手にはストラップが2つあった。

「・・・2つも買ったのか?」

「そうだよ?一つは新一の分。お揃いにしちゃおうぜ!」

と、言ってる傍から、快斗はオレのケータイを早速手にしていて、勝手にストラップ付けていた。

・・・・・テメー、いつのまに。

「ほら、オレが白で、新一が青だよ。なかなかイケてるだろ?」

そうにっこり笑顔で新しいストラップが付いたストラップを返されるが。

「・・・気に入らない?」

上目使いで快斗がオレの顔を覗く。

気に入らないことはない。いつだって快斗の趣味は悪くないし。

けど、お揃いだと言われて素直に喜ぶというのもシャクに触る。

「・・・・・・・外すのが面倒だから付けといてやる。」

オレのその答えを聞いて、快斗は満足そうに笑っていた。

 

そうこうしているうちに手元の時計で時刻を確認したら、バスの発車時刻まであと数分に迫っていた。

「おいっ!快斗!!もうそろそろ時間になるぞ!」

「げ!急げっ!!新一!!ダッシュだ!!」

快斗はさっさと走り始める。オレも慌てて快斗に続いた。

ショッピング・センターの入り口までたどり着いたところで、快斗が再び折りたたみ傘を出しながらオレを振り返った。

「おっし!時間まであと2分はある。間に合ったぜ?新一。」

と、言ってる快斗の背後を、見覚えのあるバスが通過していく。

「・・・・・おい、快斗。今、お前の後ろをバスが行ったけど、まさかアレが乗る予定のバスだったりしないよな?」

「・・・えっ?」

快斗が傘も差さずに外へ飛び出す。

すでに信号を右折していこうとしているバスの行き先は、間違いなく『桑名駅』と表示されていた。

「・・・・あれ?」

呆然とそれを見送る快斗の後ろで、傘を広げ、オレはこの状況から推察できる事を言った。

「・・・・ここ終点の駅じゃないからな。時間調整して待っててくれたりとかしねーのかもしれないぞ?
もしかしてオレ達以外誰も乗る人がいなかったんなら、通過されてる可能性もあるし。」

「・・・・・そうかもね。」

快斗がオレを見て、困ったように笑う。

行きに見かけたバスの時刻表を思い出しながら、オレは時計とにらめっこした。

「・・・・・次のバスを待ってたんじゃ、列車には間に合わないかもしれないんじゃなかったか?」

「そうなんだよね。仕方ない。タクシーで行くか。」

「それしか手はねーな。」

オレ達は雨の中、車道へ飛び出してタクシーを探すが、一台も見あたらない。

どうやら、偶然にタクシーが通りかかるのを待つのは難しいようだ。

オレは諦めて、近くにタクシー乗り場はないか探そうと思った。

快斗も同じことを考えていたようで、入り口付近に掲げられているこのショッピング・センターの全体図を見ている。

「・・・・新一、ここ、タクシー乗り場ってないんだけど。」

 

なっにぃぃぃぃぃ★???

じゃあ、通りすがりのタクシーを捕まえるしかねーってことか???

っていうか、ここに来る途中の道のりでだって、よく考えるとあんまりタクシーを見かけてない気がするぞ?!

 

「・・・・おい、快斗。 お前、桑名駅で列車の切符を1時間早めるよう変更してた時、
確か、変更できるのは一回限りだと、念を押されてたよな?」

つまり、これ以上の変更はできない。

もし予定の時刻の列車に乗れなかったら、切符は無効になってしまうということで。

 

・・・・・・おいおい、どーすんだ?

 

「・・・・タクシーを呼ぶっていう方法もあるけどね。果たして何分くらいで来てくれるかわからないし。
結構雨で渋滞しちゃってるからなぁ。」

駅へ向かう方面の道のりは赤のテールランプがぎっちり列をなしている。

「とりあえず、大通りに出てみようか?もしかしたら一台くらい、タクシーが見つかるかもしれないぜ!」

快斗の言葉に頷いて、オレは雨の中、通りを横切って走った。

その大通りに行く途中、快斗が叫ぶ。

「あ〜〜〜っっ!!タクシー、見っけ!!!っていうか、あそこタクシー乗り場じゃん!
新一、急げ!!一台だけ停まってる!!アレに乗るぞ!!!」

言うなり、快斗はオレに傘を預け、雨に濡れながらタクシーへと走っていく。

オレも急いで快斗を追って、猛ダッシュをした。

 

・・・っていうか、何で今日はこんなに全力疾走ばっかしてるんだっっ???

 

他のお客も同じようにタクシーへ向かっていたところを、なんとか快斗の方が一足早くたどり着いて
そのまま滑るようにタクシーへ乗り込むと、少し遅れてオレもそれに続く。

そういうわけで、どうにかタクシーをゲットすることはできたのだが。

「桑名駅まで!」

そう快斗が言ったところで、タクシーの運転手は車を出しながら振り返った。

「駅までは今、かなり渋滞しているから少し到着が遅くなるよ?」

 

行きだって、確かバスで10分と言われて、実際は15分以上はかかったように思われた。

渋滞を考慮すると、20分以上はかかるということか?しかし、それでは予定の列車に間に合わない。

 

「すみません。4時7分の列車にどうしても乗りたいんですけど、間に合いますか?」

オレがそう言うと、運転手はバックミラー越しにオレに目をやりながら答えた。

「4時7分?そりゃ、ちょっと難しいかも・・・。」

「何とか間に合わせてください。お願いします!」

バックミラーに映る運転手の目を見返して、オレはそう笑顔でにっこり言ってみた。

 

そうして。

オレが頼んだ甲斐があってか、運転手さんは裏道を駆使して、なんと10分でオレ達を桑名駅まで運んでくれた。

おかげでなんとか、予定の列車に無事乗り込むことができたのだ。

指定の座席に荷物を下ろしながら、ようやく一息入れる。

「・・・ったく、遊園地へ行ったわけでもないのに、走り回って、余計な汗をかいちまったじゃねーか。」

「まぁまぁ、結局間に合ったんだし。良い運動になったろ?」

にこにこしながら、網棚の上にバックを乗せる快斗はどこまでもご機嫌だ。

せっかくの長島スパーランドが雨のせいで映画へ変更になり、その映画だって子供に囲まれて集中して見ることも
叶わず、しかも帰りのバスには乗り遅れて、タクシーを捜すのに右往左往。

オレとしては、不機嫌になる要素は充分あると思うのだが。

・・・・本当に幸せなヤツ。

・・・・・ま、そういえば、オレもそう不機嫌じゃねーな・・・・・。何でだ?

ことごとく起こるハプニングに振り回されはしたものの、それでもまぁ、どこかしらその状況を楽しんでいる自分がいた。

普通だったら、とっくに不機嫌なっていたっておかしくないのに、そうならずにすんでいるのは
この隣の人間のせいか。

どんな事態に追い込まれても、至って楽しそうにしている快斗を見て、オレはやれやれと溜息を漏らした。

 

「・・・にしてもさ、さっきの新一はさすがだったね。」

いつの間に買ったのやら、缶コーヒーをオレに手渡しながら、快斗がそう話し掛けてきた。

「何が?」

「いや、だってさ。新一にあんな笑顔でお願いされちゃ、たいていの人間が逆らえない事くらいわかってるだろ?
タクシーの運ちゃんがあんなに飛ばしてくれたのは、まさに新一のおかげだってこと。」

・・・・あーん???

「何言ってんだ?オレは低姿勢にお願いしただけだろーが。」

「いやいや、そこがまた・・・・ね!」

などと、快斗はよくわからない笑いを浮かべて、美味しそうにコーヒー牛乳を飲んでいた。

 

やっと落ち着いたせいか、猛烈な眠気がオレを襲う。

考えてみれば今朝は早起きだったし、なんだかんだでよく走り回ったからな。ちょっと疲れたかも。

うとうとしてきたオレを見て、快斗がそっと囁いた。

「寝ちゃってもいいよ?磯辺まではまだだいぶあるからね。」

「う・・・ん。」

このままコイツの横で寝てしまっては、何かまたちょっかいを出されると、一瞬身の危険を感じたものの、
結局オレは睡魔には勝てず、いつのまにか意識が白濁としていく。

その後、心地良く揺れる列車の振動に目をうっすら開けた時、隣の快斗も同じように眠りについているのを見て
オレは安心して、ぐっすり休む事ができた。

 

そうして、オレ達2人を乗せた列車は、降りしきる雨の中、トロピカルランドがある磯部方面へと
向かって行ったのである。

 

 

☆   To Be Continued   ☆

 NEXT

今年の新ちゃんのハピバ小説は、トロピカルランド・デートということで。
実は、この快斗が企画したツアーは、管理人とその仲間の間で本当に実行された
ツアーだったりします。

というわけで、冒頭にもありますが、半分(?)事実に基づいて作成され、
あとは、実際こんなツアーを快新で行ったらどうなるか???
と、私なりに考えながら書いたものだったのでした。

ちなみに、長島スパーランドが雨でいけなかったのは事実で
三重県で映画(当然ですが、『コナン』)を見ちゃったのもほんとvvv

ついこのあいだ、シークレットナイト2で見たばかりなのに、
2日後に既に二度目を見ている私・・・・。

 

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