Heart Rules The Mind

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NOVEL

名前くらいは知っていた。

高校生探偵、工藤新一。
日本警察の救世主だかなんだか知らないが。
紙面を賑わすその顔が、自分によく似ているという点では
多少なりとも気に留めたけれど。

別に、それ以上の関心を持つことはなかった。
別に、どうでもよかった。

なのに。

実際、会ってみて、オレの中で一体何が、どう変わったのか?

ソイツの事がなぜか気になるようになった。

他人に興味を持つなんて、初めてかもしれない。

『怪盗キッド』の仮面をつけた時から、目的を果たすまでは
決して何事にも、心を奪われないと誓ったはずなのに。

 


 

 BEST PARTNER  〜 番外編 〜

   月からの使者

                           +++ 前編 +++


 

「こんな予告状じゃ、かえって不審に思われるかな?」

プリントアウトされたそれを見直しながら、オレは一人マンションの一室で呟く。

ここは都内に設けたアジトの一つ。
近々、取り掛かる仕事のため、数日前から泊り込んでいた。
フローリングのその部屋には、仕事に必要なOA機器の他に簡易のソファベットだけ。

意外に閑散としてるけど、まぁ、誰を招くわけでもないし。
アジトなんて、こんなもんだろう?

デスクに散らばったフロッピーを適当に片しながら、コーヒーでも入れようと
立ち上がったその時、16和音のメロディが携帯電話の着信を告げた。

「はい?」

応答する人が誰なのか、もちろんわかっている。
だって、この番号を知る人は、彼の他には誰もいないのだから。

『寺井です。例の物の手配は完了致しました。
納品は明後日ですので、私が直接取りに行ってまいります。』

思ったとおりの電話の向こうの老紳士にオレは笑顔をもらす。

「ありがとう、寺井ちゃん。いつもすまないね。」

『いえ。それより、ぼっちゃま。・・・本当に今回は・・・・。』

途中で押し黙ってしまった寺井ちゃんの言わんとしていることは、よくわかっている。
だからこそ、あえて明るい声で返した。

「・・・心配してくれてありがとう。でも、このチャンスをみすみす逃すわけには
いかないんだ。多少の無理は承知の上だよ。」

『・・・ぼっちゃま。』

「大丈夫。こんなところで、無駄死にするつもりなんてないからさ。」

オレのこんな軽口くらいじゃ、心配性の寺井ちゃんの気休めになんてならないことは
わかっているけど。

 

でも。

このまたとない好機を逃すわけにはいかないんだ。

 

今回の獲物であるアレキサンドライトは、
星の数ほどあるビッグジュエルの中で、『パンドラ』として考えられる有力候補の一つ。

もちろん、コイツが『パンドラ』であるに越した事はないけれど、
それよりもオレが心待ちにしているのは、例の組織との接触。

きっと奴らは出てくる!!

 

今だ全貌が掴めない巨大な敵。
追いかけっこはいい加減、飽きた。
もう一歩進んでみても、そろそろいい時期だろう?

だから、あえて今回はこちらから打って出てみることにする。
多少の危険は覚悟の上。

 

・・・そういうわけだからね。

悪いけど、今回は名探偵にはご遠慮していただく。

アイツがいると、どうしても気になってしまうから。

次の機会がいつ来るか、わからないのに。
この機会を、絶対に逃すわけにはいかないのに。

集中できないかもしれないほど。
アイツのことが・・・・。

 

 

+       +       +       +      +       +

 

 

数日後、警視庁。

刑事部捜査一課へ向かうため、工藤新一はファイリングされた資料を片手に
廊下をまっすぐ歩いていた。

「工藤君!!」

ふと聞きなれない声に呼び止められて、振り返った新一の目線の先にいたのは
見るからに上品そうなスーツを見事に着こなした青年だった。

ああ、確か、この人・・・。

新一が記憶の糸をたどっているうちに
さわやかな笑顔を向けながら、彼は新一のところへ駆け寄ってきた。

「初めてまして。白馬探といいます。君のお噂はかねがね伺っていました。
ずっと、お会いしたいと思っていたんですよ?」

そう言いながら差し出された手を、新一は一瞬とまどったが小さく、どうも、と
軽く握り返した。

新一にとって白馬は、初めまして、と、挨拶する存在ではなかった。
なぜならそれは、以前、『コナン』だった頃に一度だけ会ったことがあったから。

そうは言っても。


無論、『コナン』と新一をまさか同一人物だなんて、考えもしない白馬にとっては
初対面には違いないのだから仕方が無い。

新一はさして当り障りの無い挨拶を交わした。

「てっきり、明日のキッドの件、工藤君と一緒に捜査できると思って喜んでいたのに、
どうやら君は参加されないようだね?」

「ええ。一課の方で追ってる事件があって。
それに今回は二課からお呼びはかかっていませんし・・・。お任せしますよ。」

新一のその言葉に、白馬はふむ、と頷いた。

「例の連続殺人事件だね?ずいぶんと難航しているようだけど。」

「明日中にカタはつけるつもりです。」

不敵に笑った新一を見て、白馬もにっこり笑い、そして思った。
やはり彼と一緒にキッドを追いたかったと。

「・・・ところで、工藤君は今回のキッドの予告状は見たかい?」

「・・・一応は。」

「君はどう思う?キッドがこんなストレートな予告をするなんて・・・。」

その言葉に新一は僅かに目を細めた。

 

そう。
今回のキッドの予告は、いたってシンプル極まりないものだった。
暗号の『あ』の字もない。
かえって、そのシンプルな文面が引っかけなのではと、疑ってしまうほどに。

だからこそ、今回のキッドの件に関して、特に新一への応援要請はなかったのである。
何せ、解読すべき暗号文がないのだから。

探偵である白馬が参加するのはおそらく彼たっての強い希望なのであろうが。

そういえば、彼はわざわざキッドを追って、ロンドンから帰国したとか
言っていなかったか。

・・・物好きな奴もいるもんだな。

新一はそんな風に考えている事を、微塵にも感じさせない表情で
白馬の問いに答えた。

「・・・さぁ。もともと何を考えているか、わからないような奴ですからね・・・。」

新一のその答えを聞いてどう思ったのか、白馬はおや?と首を傾げた。

「工藤君は、キッドの正体や彼を逮捕する事にあまり興味はないのかい?」

すると今度は新一の方が首を傾げる。
自分の答えがそんなに投げやりに聞こえたのかと思って。

しかし、よく考えてみると白馬の言うとおりなのかもしれなかった。
確かに新一にとって、キッドの正体や逮捕など大して興味のあることではない。
だからと言って、まったく無関心なわけではなかった。
新一が暴きたいのは、もっと別の謎。

なぜ、奴が『怪盗キッド』なんてやっているのか。

キッド・フリークの白馬に言っても、きっと理解してもらえないだろうが。

 

新一は曖昧な笑いを返すと、適当な言葉を告げて、白馬と別れた。

 

 

 

ここは、警視庁から少し離れた公園。

雑誌で顔を覆い、芝生に寝転んでいたオレは、無造作にイヤホンを外した。
一見すると若者にありがちなMDウォークマンかと思われるそれは、実は盗聴器。

先ほどまでの新一と白馬のやり取りは、すべて耳に届いていた。

 

・・・なるほどね。今回のお相手は白馬か。
ったく、余計な時にしゃしゃり出てきやがって・・・。

それにしても、名探偵が別の事件とは好都合。
アイツのことだから、今回の予告状が意図的に自分を参加させないようにしたものだと
感づいて、あえて無理矢理にでも出てくるのではと心配したのだけど。

これで心置きなく、仕事に集中できるな。

 

すくっと立ち上がると、芝生の上に雑誌を残したまま、オレは公園を後にした。

 

 

+       +       +       +      +       +

 


そして、犯行予告日当日。

オレは、都内を見渡せる高層タワーの上から、眼下に広がる夜景を見下ろしていた。

美しく輝くそれは、まるで星の光のようにも見えるが
所詮は人間が作り出した偽物の光でしかない。

いつも目にするのは、偽物ばかりだな・・・。

いつまでたっても見つからない『パンドラ』のことを重ねて思う。

ふと、笑いが漏れた。
何を叙情的になっているのか。

らしくねーな。

と、思った時、胸の携帯がバイブした。
予定通りの時刻である。

『ぼっちゃま、こちらの準備は完了致しました。』

「了解。」

『・・・もう今更、お止めはしませんが、くれぐれもお気をつけなさるよう・・・』

父の代から仕えてくれている彼の実感がこもったその台詞にオレは苦笑する。

「わかってるって。心配無用だよ。オレは『怪盗キッド』だぜ?
じゃあ、そろそろ行くから、切るよ?寺井ちゃん。」

再び携帯電話を胸ポケットへしまい、深呼吸を一つ。

実はこの犯行前のプレッシャーは嫌いじゃない。
失敗したら監獄行きか、もしくは死と隣り合わせの危険なゲームだけど。
自分の人生をもかけた勝負に挑む時に感じるこの高揚感は、一種のドラッグ。

 

さてと。

では、そろそろ行くとするか。

 

ステージはこの地上の見渡す限り。
オーディエンスへ華麗なるパフォーマンスを。

 

「さぁ、ショーの始まりだぜ!!」

 

純白のマントを翻し、オレはふわりとタワーから飛び降りた。

 

 

+++ To be continued  +++

 





   NEXT

ゆうこさまからのリクエストノベル!
「BEST PARTNER」をキッド視点で・・・。
好戦的なキッド&新一VS組織・・・なはずなのに、まだ本題に入っていない・・・。
ごめんなさい。続きは後編で。なぜ、続きものにするのか・・。

今回、リクについてクリアした点は以下の2つ。

1、白馬登場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(まだ新一としか絡んでないけど)
2、高層タワーにたたずむキッド・・・(タワーの名前は特につけませんでした。)


後編は、近日中UP予定。

2001.07.14

 

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