名前くらいは知っていた。 高校生探偵、工藤新一。 別に、それ以上の関心を持つことはなかった。 なのに。 実際、会ってみて、オレの中で一体何が、どう変わったのか? ソイツの事がなぜか気になるようになった。 他人に興味を持つなんて、初めてかもしれない。 『怪盗キッド』の仮面をつけた時から、目的を果たすまでは
BEST PARTNER 〜 番外編 〜 月からの使者 +++ 前編 +++
「こんな予告状じゃ、かえって不審に思われるかな?」 プリントアウトされたそれを見直しながら、オレは一人マンションの一室で呟く。 ここは都内に設けたアジトの一つ。 意外に閑散としてるけど、まぁ、誰を招くわけでもないし。 デスクに散らばったフロッピーを適当に片しながら、コーヒーでも入れようと 「はい?」 応答する人が誰なのか、もちろんわかっている。 『寺井です。例の物の手配は完了致しました。 思ったとおりの電話の向こうの老紳士にオレは笑顔をもらす。 「ありがとう、寺井ちゃん。いつもすまないね。」 『いえ。それより、ぼっちゃま。・・・本当に今回は・・・・。』 途中で押し黙ってしまった寺井ちゃんの言わんとしていることは、よくわかっている。 「・・・心配してくれてありがとう。でも、このチャンスをみすみす逃すわけには 『・・・ぼっちゃま。』 「大丈夫。こんなところで、無駄死にするつもりなんてないからさ。」 オレのこんな軽口くらいじゃ、心配性の寺井ちゃんの気休めになんてならないことは
でも。 このまたとない好機を逃すわけにはいかないんだ。
今回の獲物であるアレキサンドライトは、 もちろん、コイツが『パンドラ』であるに越した事はないけれど、 きっと奴らは出てくる!!
今だ全貌が掴めない巨大な敵。 だから、あえて今回はこちらから打って出てみることにする。
・・・そういうわけだからね。 悪いけど、今回は名探偵にはご遠慮していただく。 アイツがいると、どうしても気になってしまうから。 次の機会がいつ来るか、わからないのに。 集中できないかもしれないほど。
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数日後、警視庁。 刑事部捜査一課へ向かうため、工藤新一はファイリングされた資料を片手に 「工藤君!!」 ふと聞きなれない声に呼び止められて、振り返った新一の目線の先にいたのは ああ、確か、この人・・・。 新一が記憶の糸をたどっているうちに 「初めてまして。白馬探といいます。君のお噂はかねがね伺っていました。 そう言いながら差し出された手を、新一は一瞬とまどったが小さく、どうも、と 新一にとって白馬は、初めまして、と、挨拶する存在ではなかった。 そうは言っても。
新一はさして当り障りの無い挨拶を交わした。 「てっきり、明日のキッドの件、工藤君と一緒に捜査できると思って喜んでいたのに、 「ええ。一課の方で追ってる事件があって。 新一のその言葉に、白馬はふむ、と頷いた。 「例の連続殺人事件だね?ずいぶんと難航しているようだけど。」 「明日中にカタはつけるつもりです。」 不敵に笑った新一を見て、白馬もにっこり笑い、そして思った。 「・・・ところで、工藤君は今回のキッドの予告状は見たかい?」 「・・・一応は。」 「君はどう思う?キッドがこんなストレートな予告をするなんて・・・。」 その言葉に新一は僅かに目を細めた。
そう。 だからこそ、今回のキッドの件に関して、特に新一への応援要請はなかったのである。 探偵である白馬が参加するのはおそらく彼たっての強い希望なのであろうが。 そういえば、彼はわざわざキッドを追って、ロンドンから帰国したとか ・・・物好きな奴もいるもんだな。 新一はそんな風に考えている事を、微塵にも感じさせない表情で 「・・・さぁ。もともと何を考えているか、わからないような奴ですからね・・・。」 新一のその答えを聞いてどう思ったのか、白馬はおや?と首を傾げた。 「工藤君は、キッドの正体や彼を逮捕する事にあまり興味はないのかい?」 すると今度は新一の方が首を傾げる。 しかし、よく考えてみると白馬の言うとおりなのかもしれなかった。 なぜ、奴が『怪盗キッド』なんてやっているのか。 キッド・フリークの白馬に言っても、きっと理解してもらえないだろうが。
新一は曖昧な笑いを返すと、適当な言葉を告げて、白馬と別れた。
ここは、警視庁から少し離れた公園。 雑誌で顔を覆い、芝生に寝転んでいたオレは、無造作にイヤホンを外した。 先ほどまでの新一と白馬のやり取りは、すべて耳に届いていた。
・・・なるほどね。今回のお相手は白馬か。 それにしても、名探偵が別の事件とは好都合。 これで心置きなく、仕事に集中できるな。
すくっと立ち上がると、芝生の上に雑誌を残したまま、オレは公園を後にした。
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オレは、都内を見渡せる高層タワーの上から、眼下に広がる夜景を見下ろしていた。 美しく輝くそれは、まるで星の光のようにも見えるが いつも目にするのは、偽物ばかりだな・・・。 いつまでたっても見つからない『パンドラ』のことを重ねて思う。 ふと、笑いが漏れた。 らしくねーな。 と、思った時、胸の携帯がバイブした。 『ぼっちゃま、こちらの準備は完了致しました。』 「了解。」 『・・・もう今更、お止めはしませんが、くれぐれもお気をつけなさるよう・・・』 父の代から仕えてくれている彼の実感がこもったその台詞にオレは苦笑する。 「わかってるって。心配無用だよ。オレは『怪盗キッド』だぜ? 再び携帯電話を胸ポケットへしまい、深呼吸を一つ。 実はこの犯行前のプレッシャーは嫌いじゃない。
さてと。 では、そろそろ行くとするか。
ステージはこの地上の見渡す限り。
「さぁ、ショーの始まりだぜ!!」
純白のマントを翻し、オレはふわりとタワーから飛び降りた。
+++ To be continued +++
ゆうこさまからのリクエストノベル! 1、白馬登場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(まだ新一としか絡んでないけど) 2001.07.14 |
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