Heart Rules The Mind

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NOVEL

永遠を欲しがっても   刹那を感じてる

BLUEな気持ち   散りばめた時の中

答えさえ無いままで

 


wish   ――  after Moon for you   ――     act.2




 『ピィー・・・・・』

 小さな電子音とともに、画面に映し出されたのは『パスワード照合不可。プロテクト解除に失敗しました。』という文言。

 それを無言で見つめた後、ニコルは僅かにその瞳を細めた。

 「・・・クソっっー!!どけっ!もう一度、オレがやるっっ!!」

 ニコルを押しのけるようにして無理矢理イザークが割り込み、キーボードを叩くが、結果は同じだった。

 

 イザーク達3人は、基地内にあるMSを収容してあるドックにいた。

 捕獲したストライクの機体を弄ろうとした整備班から、OSに掛けられたロックがどうしても開けられないとの連絡を受けて、様子を見に来たわけなのだが。

 どうやらストライクには、他人がそう簡単に中を弄れないよう特殊なプロテクトがしてあったのだ。

 そこで、イザーク、ディアッカ、ニコルが立ち代わりそのプロテクトを解除しようと試みたのではあるが、結果は3人とも失敗に終わっていた。

 

 「・・・ったく、どーなってんのかねぇ。何なわけ?結局パスワードがないとダメってこと?」

 ヤレヤレとディアッカが溜息をつく。

 エラー画面を睨みつけているイザークの後ろで、ニコルが小さく頷いた。

 「そうですね。何とか、パスワードを呼び出そうとしたのですが、それすら拒否されてしまっては・・・。もう手の打ちようがありませんね。」

 ニコルの言葉に、イザークは舌打ちすると乱暴にキーを叩く。

 「クッソーっっ、ストライクめっっ!!」

 相変わらず感情的になっているイザークを横目に、ニコルはストライクを見上げた。

 

 「―― 残念ですが、OSのプログラミング能力は、僕らよりも彼の方が上ということでしょうね。」

 「・・・そんなわけあるかっっ!アイツがオレ達よりも能力があるだと!?フザケたことを言うな!!」

 納得が行かないと立ち上がったイザークは、思わずニコルに掴みかかろうとする。

 そこへ。

 

 「何をやっている!?」

 

 凛としたアスランの声が響く。

 3人は、声がした方に振り向いた。

 

 アスランのその姿を見て、イザークはその目を見開く。

 怒りの対象がニコルから、アスランへと移った。

 もとはと言えば、全ての元凶はアスランにあったということを思い出したのだ。

 

 「・・・アスランっっ!!貴様――っ!!」

 「やめてください、イザーク!」

 アスランに飛び掛ろうとしたイザークを、ニコルが体を張って制する。

 アスランはそんなイザークを目に入れた後、ニコルの方へ改めて向いた。

 

 「すみません、アスラン・・・。整備班がストライクのOSのロックをどうしても開けないと言うので、僕達でプロテクト解除しようかとやってみたんですが・・・。」

 「それが俺達3人がかりでもぜーんぜんダメ。すっげープロテクトがしてあるみたいでさ。どーする?壊しちゃう?」

 ディアッカが、人の悪そうな笑いを口に浮かべながら言う。

 対して、アスランは何も言わず、そのままイザークとニコルの前を通り過ぎると、同じ様にキーに触れた。

 アスランの白い指がボードの上を滑らかに走る。

 だが。

 

 『パスワード照合不可。プロテクト解除に失敗しました。』

 

 画面に表示された文言は、先の3人のものと同じだった。

 それを見、アスランはその碧眼を僅かに細める。

 が、それ以上、キーには触れようとはせずに、やや眉を寄せてストライクを見上げた。

 

 「・・・・・プロテクト解除は、本人にさせる。」

 

 アスランのその言葉に、3人は微妙に反応する。

 それだけ言って背中を向けたアスランに、イザークは食って掛かった。

 「・・・おいっ、ちょっと待て!アスラン!!貴様っっ、あのパイロットと知り合いだっていうのは、本当なのかっっ!?」

 言われて、アスランはほんの少しだけ後ろを振り返る。

 しかし、何も語ろうとはしなかった。

 

 「まさか、アイツをこのままザラ隊に迎えようなんて考えちゃってるとか?」

 皮肉めいた笑みを浮かべながら言うディアッカにも、アスランは僅かに目を細めただけ。

 そのまま、何も言葉を返すことなく、ドック内から去って行く。

 

 そんなアスランの背中を見つめ、ディアッカは肩を竦めて呟いた。

 「・・・・・・おいおい、マジかよ?」

 「フザケるなっっっ!そんなこと、オレは絶対に認めないぞっっ!!!」

 

 そう怒鳴り散らすイザークの横で。

 ニコルも感情を押し殺した顔をして、拳だけは強く握り締めていた。

 

 

 +++      +++      +++

 

 

 薄暗い灯りの落ちた部屋の中、両膝の間に顔を埋めるようにして、キラはベットの隅に座っていた。

 少しだけ顔を上げて、両腕の上にちょこんと頬を乗せる。

 その目じりには、涙が光っていた。

 

 「・・・・・キラ。 オレだ。入るぞ。」

 不意にドアの外に聞こえたその声の主に、キラは慌てて涙を拭う。

 

 開かれたドアのところに立っていたのは、ザフトの赤の軍服を着ているアスランだった。

 アスランの軍服姿をキラが目にするのは、これが初めてのことである。

 キラは今更ながら、アスランがザフトの人間なのだと思い知った。

 

 「―― アスラン・・・。」

 キラはアスランを見つめる。

 アスランもキラを見つめると、そのまま一歩部屋に入って、ドアを閉めた。

 

 「・・・無人島では、手荒なことをしてすまなかった。・・・・・痛むか?」

 心配そうな声でアスランが言うのを、キラは薄く笑って返した。

 「・・・あ、ううん、大丈夫だよ。」

 

 二人の間に、微妙な沈黙が落ちる。

 

 「・・・アスラン、ここは ――。」

 「ああ、カーペンタリア基地だ。お前の機体も一緒に、ここに収容してある。」

 「・・・・・・そう。」

 キラは、力なく俯いた。

 

 そんなキラを黙って見つめながら、アスランはゆっくりと足を進め、キラの座っているベットのすぐ傍までやって来る。

 手を伸ばせば、お互いにもう届く距離であった。

 アスランは、肩を落として俯いているキラの茶色い頭を見下ろしていた。

 

 クセのないそのさらさらとしたキラの髪に、アスランが手を伸ばしかけた時、不意にキラがアスランを見上げて、口を開く。

 「・・・アスラン・・・。僕をどうする気?」

 キラの言葉に、アスランは手を止め、自分の横に戻して小さく握り締める。

 キラは、アスランの返事を待たずして、次の言葉を告げた。

 その紫闇の瞳を少しだけ潤ませて。

 

 「―― 君が何と言おうと、僕はザフトには入るつもりはないよ。」

 「・・・キラっっ!!」

 「・・・僕はもう地球軍の一員だ。守りたい人のために戦ってるんだ。だから、もう ――。何でこんなことになったのか、僕にもわからないけど。だけど・・・!」

 アスランから痛いほどの視線を浴びて、キラは苦しそうに目を細めた。

 

 キラだって、アスランと戦いたくない気持ちは一緒だ。

 アスランのいるザフトに、何の迷いもなく飛び込んで行けたらどんなにいいか。

 

 だが、物事はそう簡単ではない。

 キラにはキラで、大切なものがたくさんある。

 その大切な守りたい自分の仲間のためだけに、仕方なく戦ってきたのだ。

 結果、それが『地球軍』という場所に、不本意ながら身を置くことになったとしても――。

 

 

 「お前はコーディネイターだ!!オレ達の仲間なんだ!!地球軍の奴らはお前のその力を利用しているだけだということに、どうして気づかない?!」

 「・・・違うっ!違う違うっっ!!彼らはそんなんじゃ――!」

 「違わないっっ!!」

 頭を振って必死に否定するキラを、説き伏せるようにアスランは声を荒げた。

 

 「お前は利用されてるんだ!!キラッ!奴らはお前のことを戦える道具としか、見ていないんじゃないのか?!」

 「――アスランっ・・・!!」

 

 確かに、アスランの言うとおりかもしれなかった。

 

 かつて宇宙にいたころ、立ち寄った地球軍の軍事要塞「アルテミス」の司令官には、『裏切り者のコーディネイター』呼ばわりをされたこともある。

 『地球連邦軍』というところは、コーディネイターのキラにとって、必ずしも居心地の良いところとは言い難い。

 『ナチュラル』と『コーディネイター』の狭間にある壁。

 それは、普段、キラが友人と思っている仲間とのふとした会話にですら、時折、見られるもので。

 それにキラがまったく傷つかなかったと言えば、嘘になる。

 

 それでも――

 

 キラは、心に決めたのだ。

 自分にできることをしようと。

 仲間のために。

 

 「キラ。お前のことを本当にわかってやれるのは、同じコーディネイターのオレ達だけだ。」

 「・・・アス・・・ラン・・・。」

 「お前は両親がナチュラルだから・・・。奴らに肩入れするのもわかる。だが、いい加減に聞き分けてくれ。」

 キラから僅かに視線を逸らすと、アスランは辛そうに眉間にしわを作った。

 そんなアスランを見、キラも胸を痛める。

 今、このかつての親友であったアスランを苦しめているのが、紛れもない自分だと思うと。

 

 だが――。

 

 キラは、小さく首を振った。

 アスランの申し出に対する、拒否の意をこめて。

 

 「・・・・キラっっ!!時間がないんだ!!もう――っっ!!」

 アスランが泣くように叫ぶ。

 そして、次の瞬間、アスランは銃を手に取ると、その銃口をキラへ向けた。

 

 「・・・っ、アスランっっ!」

 息を呑んで、キラは銃口を見つめる。

 

 「――ストライクのOS・・・。」

 「・・・え?」

 いきなりアスランが何を言い出したのかわからず、キラは戸惑いの声を上げた。

 「・・・・・あのOSには、特殊なプロテクトがしてあるようだな。」

 アスランの、その感情を押し殺したような低い声に肩を竦めながらも、キラは彼が言わんとしていることがわかった。

 

 確かに、ストライクのOSにはロックがしてあったのだ。

 キラ以外の誰にも、それが触れないようにと。

 

 キラは銃口から顔を上げて、アスランを見据える。

 真っ直ぐに自分へ銃を向ける親友は、今は厳しい兵士の顔をしていた。

 

 「お前にはプロテクトの解除をしてもらう。それで、オレ達に協力する姿勢を示せ!」

 「・・・そんなっっ・・・!アスラン!!」

 「いいから、オレの言うとおりにしろ!キラっっ!でなければ、オレは――っ!!お前を殺さなければならなくなるんだぞっっ!!」

 

 泣き崩れそうなほどの叫び。

 苦渋の表情をしたアスランに、キラは自分もまた胸の痛みに押しつぶされそうになる。

 アスランが、ザフトと地球軍にいる自分のことで板挟みになっているということは、キラにもよくわかっていた。

 

 キラの脳裏に、ほんの一瞬だけ、月にいた幼い頃の自分達の姿が過ぎる。

 いつも一緒で、お互い笑い合っていたあの懐かしい日々。

 

 

 どうして、こんなことになったのか。

 自分達は、仲の良い友達だったはずだった。

 それが。

 戦争で、次に会った時はお互いに敵同士で。

 MSに乗って、剣を交えなければならなくて。

 

 

 キラの瞳から、涙が溢れた。

 

 「・・・・・どうして・・・・・。 どうして、僕達――。」

 こらえきれない嗚咽が、キラの言葉を飲み込んでいく。

 

 同時に、アスランの銃を構えていた腕がゆっくりと下りていった。

 「・・・オレだって、こんなこと、したくてしてるわけじゃない。お前に銃を向けるなんて・・・。だって、お前はオレの大事な・・・・・。」

 

 ―― 『友達』

 その言葉を口にしたら、アスランの方も泣き出してしまいそうな気がして。

 だからアスランは、それ以上は何も言わなかった。

 

 ただ目の前で泣き崩れる友達を、黙ったまま見守るだけで――

 

 

 

>>> To be continued

 
前・後編で終わらせるつもりが、ノロノロ書いていたら長くなってしまったので
とりあえず、ここでいったん切る事に。
次回で、カタをつけます。

それにしても、毎度ザラ隊は面白いなぁ。
ある意味、ここにキラが入ったら、それはそれで楽しい話ができそうな・・・。
ありえないけど。

にしても、気になるのは本編のイザークの動向・・・。
ニコルが死んで、ディアッカがアークエンジェルに捕まって、アスランが宇宙へ還って・・・
イザークは今後、どーなるんだろう???

2003.05.24

 

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