Heart Rules The Mind

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NOVEL

溜息が時を刻む   長い夜の途中

思い出すたび   貴方の夢繰り返す

孤独だけ   抱きしめて

 


wish   ――  after Moon for you   ――     act.3




 西の空が夕日で赤く染まっているのを、アスランはじっと見つめていた。

 夕日を浴びて、アスランの碧の瞳もオレンジがかっている。

 沈みかけた陽の光を受けて、アスランは疲れたように一つ溜息を零した。

 

 ――そう。 間もなく日が暮れる。

 キラの説得に関して、クルーゼから許された時刻が、刻一刻と過ぎていっていた。

 制限時間は今日一日。

 もしそれが不可能ならば、アスラン自ら手を下さなければならないのだ。

 

 そんなマネは絶対にしないっ・・・!!

 

 アスランはそう思いながら唇を噛み締めたものの、実際のところ、いまだキラを完全に説得するには至っていなかった。

 許された時間は、もうあまりない。

 そのことが、アスランに焦りを感じさせていた。

 

 そんなアスランを、少し離れたところでじっと伺っている人物がいた。

 ニコルだ。

 ニコルは、特に何の感情も表さない能面のような表情でしばらくアスランを見つめていたが、やがて意を決したように足を進めると、アスランに近づき始めた。

 「アスラン。」

 いつもと何ら変わりのない穏やかな声で、ニコルがそう呼びかける。

 その声にアスランが振り返ると、ニコルはにっこりと優しげな笑顔を作った。

 

 「・・・・ニコル。」

 「どうしました?顔色が優れないですね。疲れているのではありませんか?」

 「・・・いや、大丈夫だ。」

 気遣うように伸びてきたニコルの手を、アスランは苦笑しながら小さく制する。

 行き場をなくした手を、ニコルは仕方なく戻した。

 

 「・・・アスラン。・・・気になるんですね?彼のことが。」

 アスランは何も応えなった。

 けれども、ニコルは構わず続ける。

 「――アスランは、本当に彼をザフトに迎え入れようと考えているんですか?」

 アスランはニコルから視線を逸らすと、再び真っ赤な夕日へと向いた。

 赤く照らされたアスランの顔を、ニコルは何も言わずにじっと見つめる。

 

 ようやくにして、アスランが重苦しく口を開いた。

 「・・・・アイツは――。できれば、プラントに帰してやりたいと思ってるんだが・・・。」

 「それは――っ、アスラン・・・。無理でしょう。彼は軍の機密を知り過ぎていますし。」

 「ああ、わかっている。だから仕方がないんだ。 たとえ、今はアイツを苦しめる事になったとしても・・・。」

 「苦しんでいるのは、貴方も一緒でしょう?アスラン・・・。僕は・・・・。」

 

 そこまで言って言葉を区切ったニコルを、アスランは不思議そうに見つめ返す。

 ニコルはそんな改めてアスランを見、少し儚げに微笑んだ。

 

 「――僕は、そこまで貴方の心を独占している彼がうらやましいな。」

 「・・・・ニコル?」

 

 いつものとおり、自分に優しく微笑みかけるニコル。

 その真意を読めずにアスランは小さく首を傾げたが、それ以上、ニコルは何も語ろうとはしなかった。

 

 

+++     +++     +++

 

 

 一方。

 キラとの対面を果たしたイザークは、荒れに荒れていた。

 

 「クソーッッ!!何なんだ、アイツはっっっ!!!」

 リフレッシュルームにある椅子を片っ端から蹴り倒しながら、荒々しくイザークは怒鳴る。

 「ま、ずっとブッ飛ばしてやろうと思ってたストライクのパイロットが、まさかあーんな奴とはちょっと拍子抜けだよねぇ。」

 イザークの荒れっぷりに少々肩を竦めながらも、ディアッカはクックッと唇を歪めて笑う。

 

 拍子抜け?

 それだけではない。 そうイザークは思った。

 

 

 ――― あの目が。

 自分を哀れむようなあのキラの瞳が許せない。

 いっそあのパイロットがふてぶてしく、即刻撃ち殺してやりたいと思うほど生意気な奴だったら、どんなに良かったか。

 敵であるくせに、傷つけた相手を気遣うようなあのキラの態度がイザークには理解できないし、同時にひどく腹立たしく思えた。

 同情されたようで ―――

 

 同情だと?  フザけるなッッッ!!!

 

 

 また一つ、イザークが蹴り飛ばした椅子が、派手な音を立てて床に転がる。

 そんなイザークに少しは落ち着くようにとディアッカは熱いコーヒーを差し出してやった。

 「そうイラつくなって。そんなに気に入らないんなら、あとでこっそりボコりに行くとか?良ければオレも手を貸しちゃうけど?」

 その人の悪そうなディアッカの笑いに、イザークはふんと鼻を鳴らす。

 「・・・・興味ない。」

 そうして、そう一言だけ返したので、ディアッカは意外そうにへぇ?と首を傾げた。

 

 

 ・・・あんな奴、殴ったところで寝覚めが悪くなるだけだ。

 あんな目で見られたら・・・。

 

 イザークは先程自分を見つめ返してきたキラの瞳を思い浮かべると、腹立たしそうに舌打ちをした。

 

 以前は、ストライクを落とすことが出来たら、どんなにか気分がいいだろうと思っていた。

 だが、今は―――。

 殺そうとするその瞬間、相手が浮かべる表情が死への恐怖ではなく、あんな顔だったらと思うと、どうにもその気が失せるような感じすらしてならない。

 倒し甲斐がないのだ。

 

 結果、イザークの怒りはぶつける場所を失って。

 そのことが余計に彼を苛立たせる。

 

 

 「なら、こんなのはどう?今の内に、オレ達だけで足つきを落としに行っちゃうのは?」

 「・・・何?」

 不意に出されたディアッカが別の提案に、今度はイザークは興味ありげに反応した。

 それを見、ディアッカはニヤリとする。

 「だって、足つきを落とすにはまさに絶好のチャンスでしょ?厄介なストライクも今はいないんだし?早くしないと、オレ達以外のどっかの部隊に簡単に落とされちゃったりして。」

 

 それは確かに一理あった。

 ストライクを欠いたアークエンジェルの攻撃力は、お世辞にも高いとは言いがたい。

 叩くなら、まさに今、この時を逃す手はなかった。

 

 「我らがザラ隊長は、『オトモダチ』にかかりっきりで忙しそうだし?オレ達だけで動いたって問題ないんじゃないの?」

 「・・・・足つきの動きは捕捉できているのか?」

 「さぁ?でも奴らアラスカを目指してるんだし、ストライクを拾った位置から考えれば、探しに行くのも楽しいんじゃないの?運が良ければ出会えるかも。」

 「・・・そうだな。」

 「なら、早速、隊長にお伺いを立てとかないと。」

 「アスランの奴にか?!必要ない!!」

 

 銀の髪が揺れて、イザークがディアッカを睨みつける。

 だが、ディアッカはクスクスと笑った。

 

 「違う違う。クルーゼ隊長にさ。あとでザラ隊長にどやされても困るし?」

 「別に、あんな奴・・・・。」

 

 小さく舌打ちするイザークの肩をディアッカはまぁまぁと軽く叩くと、そのまま一緒にリフレッシュルームを出た。

 

 

+++     +++     +++

 

 

 ・・・・今、一体何時ぐらいなんだろう?

 

 窓一つない暗闇の中で、キラは小さく天井を仰いだ。

 デスクの上には、手をつけていない食事が乗っている。

 もうすっかり冷めてしまっているようだった。

 

 キラが食事を取り終えた頃を見計らって、アスランはまた来ると言っていた。

 ストライクのOSのプロテクトを、キラ解除させるためにだ。

 

 キラは小さく俯いて、溜息を零した。

 

 ――もう・・・。たぶん、僕に残された時間はあまりない。

 

 おそらくアスランは、設けられた制限時間内に自分を説得できなければ殺せと、そう上官から命令を受けているのだろう。

 だとすれば、このまま自分が意志を通したところで、その先が短い事はわかっている。

 しかも、その場合、自分に引導を渡すのはアスランの役目となるらしい。

 

 「・・・アスラン。」

 キラは両手の拳を握り締めた。

 先程、自分に銃口を向けていたアスランの顔が脳裏によみがえる。

 ひどく悲しそうなあのアスランの顔。

 思い出すだけでも、キラの胸は痛んだ。

 アスランの心中など、考えなくてもキラには手に取るようにわかる。

 簡単なことだった。 もし自分が逆の立場だったとすれば。

 

 けれども。 キラは考える。

 今、ここで他の誰でもないあのアスランに息の根を止めてもらえるとしたら、ある意味、それは自分にとっての幸福になり得るのかもしれないと。

 自分を取り巻く、この煩わしい環境すべてからの解放。

 かつての親友と戦うなんていう苦しみも、二度と味わうこともない。

 安息の地へ行けるのだ。

 

 ―― いけない・・・っ!

 こんなのは、『逃げ』だ。

 

 頭に浮かんだ安易な考えに、キラは唇を噛み締め頭を振った。

 瞬間、胸を掠めるのは、アークエンジェルに残してきた懐かしい仲間達の顔、そして親切にしてくれたクルー達の姿。

 

 ・・・・・帰らなきゃ!!  早くみんなのところに!!!

 

 自分がやらなければ、みんな殺されてしまう。

 もう誰も殺させないと、絶対にみんなを守ってみせると、地球に来てからそう決意した。

 守れなくて、辛くて、どんなに泣いても、失われた命は二度と戻っては来ないのだ。

 

 「・・・帰らなきゃ・・・、僕・・・。」

 両手の拳を握り締め、キラがそう小さく呟いた時、入り口のドアがちょうど開かれた。

 

 ドアの向こうに立っていたのは、光を背にしたアスランの姿。

 それを瞳に映すと、キラは意を決したようにベットから立ち上がった。

 

 

+++     +++     +++

 

 

 部屋を出るのに規則だからと、アスランはキラに手錠をかけようとする。

 と、キラは大人しくその細い両手首を、アスランの前に差し出した。

 アスランは、そんなキラの様子にほっとしていた。

 

 「・・・今からお前の機体を収容してあるドックに連れて行く。お前には、そこでOSのプロテクト解除をしてもらうが・・・おかしなマネをするようなら、お前を殺すしかなくなる。だから、そんなことは絶対にするなよ?」

 アスランのその言葉に、キラは黙って頷いただけだった。

 

 そうしてアスランに続いてキラが部屋を出ると、外に待機していた二人の兵士がキラの後方について銃を構えた。

 アスランに連れられて、キラは長い廊下を歩いていく。

 やがて、前方で待ち構えている人物にキラの目が留まった。

 

 ・・・・・あの人は・・・・・。

 先程、ブリッツのパイロットだと自ら名乗ったニコルという少年が自分に刺すような視線を送っている。

 

 アスランは何も言葉をかけることもなく、ニコルの脇を通り過ぎていく。

 キラもそれに続いて、少し申し訳なさそうに足早にニコルとすれ違った。

 ニコルはキラを見つめるだけで何も言葉を発しなかったが、キラの後方につく警備兵のあとにニコルもつき、一緒にドック内へと足を運んだ。

 

 

 アスラン達がMS収容用のドックに到着すると、俄かにそこはざわめいていた。

 ただ整備班の人間が動き回っているというのではなく。

 デュエルとバスターが輸送機へと搬送されるところだったのだ。

 驚いて立ち止まったアスランの傍らに、ニコルは駆け寄った。

 「アスラン!どういうことです?イザーク達に出撃命令なんて出ていましたか?」

 「いや、そんなはずは・・・。」

 そうアスランが言った時、後方からパイロットスーツ姿のイザークとディアッカが現れた。

 

 「よぉ、ザラ隊長。」

 ニヤリと笑うディアッカの横で、面白くなさそうに不貞腐れた顔のイザークが居た。

 そんな二人を見つめて、アスランが一歩前へ出る。

 「ディアッカ、イザーク!これはどういうことだ?!勝手な行動は・・・っ!」

 「勝手な行動?そりゃ、お互い様なんじゃないの?」

 「ディアッカ!!」

 減らず口を叩くディアッカは、そうニコルはギリっと睨みつけられて小さく肩を竦めただけで言葉を続ける。

 「とにかく、ちょっくらオレ達で足つきを落としてくるからさ。そっちはそっちで勝手にやってれば?」

 「何だと?!」

 アスランが声を上げるのと、キラが息を呑む音が同時に重なった。

 「おおっと!言っとくけど、オレ達、別に命令違反してるつもりはないぜ?ちゃーんとクルーゼ隊長の許可はもらってるからな。」

 「・・・た、隊長の?!」

 ディアッカの言葉に、アスランは眉をつり上げる。

 「そうそう。我らがザラ隊長は『オトモダチ』にかかりっきりで忙しそうだと告げたら、足つき討伐はオレ達二人に任せてくれるとさ!」

 「何っ・・・!」

 アスランは悔しそうに下唇を噛み締めた。

 「ま、ストライクがいないんじゃ、足つきも叩き甲斐がないところだけど?オチオチしてると、どこかの小隊に落とされかねないからな。」

 ヘルメットを軽く指で回しながら、イザークもそう追い討ちを掛けた。

 

 「・・・あの・・・っ!・・・ア、アークエンジェルを見つけたんですか?!」

 カチャリと手錠を鳴らして、キラが口を挟んだ。

 その声に、いっせいにキラに視線が集まる。

 キラの質問には、ディアッカがニヤニヤしながら回答した。

 「いや、残念ながらこれから探しに行くところさ。ああ、何ならストライクも一緒に輸送機に積んでやろうか?お前がストライクのOSのプロテクトさえ何とかしてくれりゃ、誰にでもあの機体は動かせるようになるわけだし?」

 「そりゃいい。ストライクに足つきを撃たせるのか?奴らも本望だろうな。」

 イザークもそう笑いながら、相槌を打った。

 

 何をバカなことを・・・!!

 そうアスランが言うより早く、口を開いたのはキラだった。

 

 「・・・わかりました。なら、僕もその輸送機に乗せてください。」

 「なっ・・・キラ?!」

 

 突然のキラの申し出にアスランは目を見開く。

 だが、キラは構わず続けた。 毅然とした態度で。

 

 「OSのプロテクト解除は、輸送機内で行います。」

 

 キラのその言葉にディアッカは口笛を鳴らした。

 「へぇ〜?協力的なんだな?なら、連れてってやろうか?足つきが沈むのを見せにさ!」

 言いながら、ディアッカは整備班の一人にストライクを輸送機に搬送するよう指示を出す。

 「お、おい、勝手なマネは・・・っ!」

 「いいじゃないの。せっかく協力してくれるって言うんだからさ?その方がザラ隊長にも都合がいいんだろ?」

 口を挟もうとしたアスランの肩を、ディアッカが軽く叩いて笑った。

 対して、アスランは小さく唇を噛み締めるだけに留まった。

 

 

 「・・・アスラン。どうするんですか?」

 搬送されていくストライクを見ながら、ニコルがひっそりと声をかける。

 「―― このまま二人だけで行かせるわけにもいかないだろう。仕方ない・・・。」

 アスランはすっと手を上げると、整備班を呼び、輸送機にイージスとブリッツも搬送するよう命令を出した。

 

 

 そうして。

 ガンダム5機とともにキラ達を乗せた大型輸送機は、まもなくカーペンタリア基地を発ったのだった。

 

 

>>>To be continued

 

 
・・・・・・まだ、終わってません。
すみません、終わらせる気、満々で書いてて、どーにも長くなってしまったので
ちょっと切ってみることに・・・(苦笑)

にしても。
この話、放映から見ればかなり過去の話になってしまって、
キラの心情などに、今と少々誤差がありますがまぁそこは・・・。

前はこうだったよね?って思っていただけると・・・。
あはは〜・・・。

次回こそ、最終回ですv

2003.06.24

 

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