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NOVEL


Triple
 Joker 
 

             +++  プロローグ +++

 

 

月の美しい晩であった。
ただひたすらに黒い闇の中に、どこからともなく白い翼が現れ、音も無く高層ビルの屋上に降り立つ。

やがて、白い翼はその胸元から輝くばかりの宝石を取り出すと、それに軽く唇を押し当て、そのまま石を月光にかざした。

そうしてひとしきり石を眺めた後、白い翼は自嘲気味に笑って呟いた。

「・・・また、ハズレか。」

声の主は怪盗キッド、またの名を「平成のアルセーヌ・ルパン」とも呼ばれる大怪盗である。
今夜の獲物もまた彼の求めるものではなかったのか、時価数十億はくだらない宝石をもう興味無しとばかりに、そそくさと仕舞いにかかる。

が、不意にキッドは石を持つ手を止めた。

次の瞬間、闇の中から長いガウンのようなものを来た人型が浮かび上がる。その突然の出現の仕方もさることながら、そのガウンの上から覗く顔にキッドは僅かに目を見開いた。

なんとその人物は、アーティスティックな仮面をつけていたのである。
まるでどこか外国の伝統的なカーニバルで使われるような。

 

「お初にお目にかかる。怪盗キッド殿。」

仮面は、男とも女とも取れるような中性的な声を発した。

「・・・どちら様かな?」

キッドは唇に不敵な笑みを浮かべながらも、一分の隙も与えない構えを取った。

「・・・名前は特に適当なものが無い。好きに呼ぶといい。」

仮面のその答えに、キッドははぁ?と眉をつり上げる。

「実は君に折り入って頼みがあるのだが。」

キッドはますますわけがわからなかった。
何故、こんな得体の知れない、しかも初対面の奴に頼み事など
されなければいけないのか。

依然、警戒の意を表しているキッドに対して、仮面はゆっくりと言葉を告げた。

「どうしても手に入れたいものがある。君の力でなんとかしてもらえないだろうか?
もちろん、タダでとは言わんよ?」

「・・・残念ですが、私は人の依頼はいっさい受けない事にしています。
欲しいものがあるなら、どうぞご自分で。」

キッドにあっさりとそう言われ、仮面は沈黙する。
が、やがてうっすらと笑いを浮かべて話を続けた。声はあくまでも静かだった。

「・・・まぁ、そう話を急ぐものではない。君にとっても決して悪い話ではないはずだ。」

「それは、どういう意味ですか?」

「私が欲しているのは、単なる小箱なのだがね。
もしかすると、その中には君の望むビッグ・ジュエルが入っているかも知れん。
よければ、中身は全て君に与えよう。」

仮面の言葉にキッドは目を細める。

「・・・中には一体何が?」

「それは私にもわからない。何せ、私は箱を開けたことがないのでね。
いや、私だけではない。今となってはおそらく、その箱の中身を知るものは
誰もいないだろう。」

誰にも中身がわからない箱?
一体、何だ、それは?
キッドの思考は目まぐるしく回転した。

と、キッドの頭の中で何かがきらめいた。おぼろげな記憶の断片・・・。

暗然としているキッドの顔を観察していた仮面が言う。

「・・・もうお気づきかな?そう、あの《決して開けてはいけない箱》だよ。」

月光に照らされた仮面の奥の双眼は冷たく澄んでいた。

 

 

◆       ◆       ◆

 

 

さわやかな秋晴れの空の下、帝丹高校へと続く通学路は多くの学生達で
賑わいを見せている。

オレこと工藤新一は、欠伸を必死で噛み殺しながら、となりを歩く幼馴染の少女の話に
耳を傾けていた。
そこへ、彼女の親友の園子も合流する。

「おはよ!蘭!!・・・と、新一君。」

「おはよう、園子!」

「・・・オッス。」

「なぁにぃ?新一君、また寝不足なわけ?目が真っ赤よ?」

園子がオレの顔を覗き込みながら、そう言う。

「まーた新一のことだから、遅くまで推理小説でも読んでたんでしょ?
授業中、居眠りしちゃったって知らないから!!」

・・・ほっとけ。
蘭にこんな小言を言われるのも毎度のことだ。
オレは聞こえない振りをして、そのまま歩き出した。

「ねぇ、蘭、昨日のニュース見た?約500年ぶりに見つかったと言われる
イタリアの秘宝を日本人の大富豪がオークションで落札したっていうやつ!!」

「見た見た!すごいよねぇ。落札価格何十億だか、何百億とか言ってなかった?」

・・・ああ、そういえば昨日、そんなニュースもあったな。
確か、フランスのとある宮殿の倉庫から見つかった美術品だったか。

見事なモザイクが施された金の小箱だそうだけど、鑑定の結果
イタリアのビザンチン美術である事がわかって、イタリアに寄贈されたんだったよな。
せっかく返してもらったのに、オークションにかけるなんて、イタリアもどういう神経を
してんのかと思ってたけど。

「ねぇ、新一もすてきだと思わない?どれくらいすごいんだろう?
見てみたいなぁ、私!!」

言いながら、蘭がうっとり目を輝かせる。

「確か、一般公開もするとは言ってたけど、まだずいぶん先の話だったぜ?」

「うん、わかってる。でも絶対見に行きたいな、私。ねぇ、新一も一緒に行こうよ。」

どうやら蘭はすっかり金のモザイクにご執心のようだ。
オレは適当に相槌を打ちながら、女ってやっぱ光物には弱いのかななどと考えていた。

 

「なんだか、これってば、あの麗しの怪盗キッドさまが狙いそうじゃない?!」

と、突然、園子が言い出す。

「・・・バーロー、キッドが狙うのは基本的に宝石だろ?」

オレが呆れたように言い返すと、蘭が身を乗り出す。

「え?!だってあの箱の周りについてる色とりどりの石って宝石でしょう?」

「・・・ちげーよ。あれは全部ガラス。
イタリアと言えば、ヴェネツィアングラスが有名だろ?ガラス作りの本拠地なんだ
からさ!」

ええ〜、そうなのぉ?!と、蘭と園子が揃って肩を落とす。

「でもでも、あんなステキな箱だもん!!中にはすっごいお宝が入っているに
決まってるわ!!そこにこそ本物の宝石がざっくざくよ!!」

凝りもせず、園子が鼻息荒く言い返すと、蘭も、そうよね!と力強く頷いた。

・・・ったく、勝手に言ってろ。

オレはもうこれ以上2人の話題に付き合いきれないとばかりに、
先を急ぐ事にした。

 

その時のオレは、まさか後に園子の予想が見事、的中するなんて、
思いもしなかったのだが。

 

 

◆       ◆       ◆

 

数日後、警視庁捜査一課。

今さっき、事件を解決してきたばかりのオレは、目暮警部らとともにたった今
戻ってきたところだ。

「じゃあ、高木君、事件の関係資料を会議室に用意しておいてくれたまえ。」

警部の指示を受け、資料を持って高木刑事がオレの脇を通り抜けたところで
振り返る。

「・・・あ、警部、2階の会議室は確か二課が捜査会議に使ってましたよね。
3階でいいですか?」

「ああ、そうだったな。そうしてくれたまえ。」

2人のやり取りを見ながら、オレは高木刑事の袖を引っ張った。

「二課の捜査会議って、もしかしてキッド絡みですか?」

「そうだよ。昨日キッドの予告状が届いたらしいんだ。ま、僕も詳しい事は
知らないんだけど。あ、じゃあ会議の準備があるから、僕はこれで・・・。」

高木刑事はそれだけいうと、エレベーターの方へ消えた。

 

キッドからの予告状だと?
アイツ、今度は何を狙うつもりだ?

とりあえずこれから始まる一課の会議にはオレは関係がない身なので、
ちょっと二課の捜査会議を覗いて見ようかという気分になった。

「工藤!!」

会議室に向かう途中で、突然大声で名を呼ばれ、思わず振り返る。
廊下の向こうにいる人物の姿を認めて、オレは目を見開いた。

「!服部?!お前、何してんだ?!」

「何や何や、久しぶりのご対面やのにずいぶんなご挨拶やないか。」

片手を上げて笑いながら、服部が近づいてきた。

「お前、どうしてこっちに?」

「いやちょっとな、親戚のねーちゃんの結婚式がこっちであって、
今日の午前中にこっちに来たんや。で、せっかくやから工藤に顔でも見せたったろう
と思ったんやけど、自宅に行くよりここ(警視庁)にきた方が合える確率が
高いんやないかと考えたわけや。
まさにオレの読みどおりやったな!相変わらず入り浸ってるみたいやなぁ、工藤?」

・・・。
別に入り浸ってなんていねーよ!

オレは目だけでそう訴えたが、服部はニヤニヤ笑うばかりだ。

「ところで、さっき下でキッドの予告がどうとか聞いたんやけど、どうなってるんや?」

「ああ、オレも今、それを確かめようと思ってここへ来たんだよ。
そこの会議室で、捜査二課が今、会議中らしいんだけど・・・。」

と、オレが言ったところで、突然会議室のドアが開いた。
中からいっせいにどやどやと人が出てきて、オレと服部の間を割って
慌しく駆けて行った。

遅れてスラリとした若者が中から現れる。
彼はこちらに目をやると、まっすぐにやって来た。

「失礼、君はもしやあの、工藤新一君では?」

「え?ああ、そうだけど・・・。」

「誰や?あんた・・・。」

オレと服部はその見慣れない青年を訝しげに見つめた。
すると彼はフッと笑い、オレ達と握手をしながらさわやかにこう告げた。

「初めてお目にかかります。白馬探です。
工藤君の評判は以前から伺っていて、ぜひ一度お会いしたいと思っていました。
同業者ながら君の推理は本当にすばらしいと・・・。」

「同業者ってことは、あんたも探偵なんか?!」

服部の言葉に白馬は自信たっぷりに頷いてみせる。

「ええっと・・・。君は?」

服部の顔を覗き込みながら、今度は白馬が訊ねる。
どうやら『西の探偵 服部平次』も関東ではそう有名ではないらしい。
服部はいささか不服そうに、自己紹介した。

「わいは、服部平次っちゅーもんや。ついでに言うと、あんたと同じ探偵や。
これでも関西ではちょっとは名の知れてる有名人なんやで?」

「そうでしたか。それは失礼。何しろ、僕はまだロンドンから帰国して日が浅いもので。」

白馬のその台詞に服部は、・・・なら仕方ないなぁ!とうれしそうに肩を叩いた。

・・・ったく。
オレはそんな2人の様子を横目に見ながら、白馬にキッドの予告の事を聞きだそうと
思った。

「で、キッドの予告状の解明は?」

オレがそう聞くと、白馬はその目に鋭い光りを宿す。

「残念ながらまだ完全な暗号解読までは至っていません。僕も先程の会議で初めて
見せてもらったもので。ですが、今回のキッドの獲物についてはわかりました。」

言いながら、白馬はキッドの予告状のコピーをオレ達に見せた。
そこには相変わらず気障な文章。

「けったいな文やな・・・。」

服部が小首をかしげながらそう言ったとき、会議室の中から数人の刑事と1人の恰幅の
良い男性が出てきた。

捜査二課の中森警部である。

彼はオレ達の姿を見つけると、すごい勢いで近づいてきた。

「白馬君!!いくら君が警視総監のご子息だからと言っても、捜査会議にまで
興味本位で顔を出されては困る!!」

へぇ、白馬の奴、警視総監の息子なのか。
・・・なんて感心しながら、オレは白馬の顔を見た。
けれども、白馬の方はものすごい剣幕でまくし立てられたのにものともせず
あっさりと言い返す。

「お言葉ですが、中森警部。僕もキッドを逮捕したい気持ちは皆さんと一緒です。
お邪魔をするつもりは決してありません。せめて、暗号解読ぐらい協力させて
ほしいだけです。少しでも時間は短縮した方が良いでしょう?」

要するに白馬は、警部達が暗号解読に多大な時間を費やすより
自分がやった方が早くて、効率的と言っているのだ。

・・・コイツ、案外はっきり言う奴だな・・・。

「・・・それに僕はもう、今回のキッドの獲物が何かわかりましたよ?」

「ナニィ!!」

中森警部達は、いっせいに声を上げた。

「なんや、あんたらまだ気づいとらんかったんか。
ここにはっきり書いてあるやないか、なぁ?工藤?」

「・・・ああ。今回のキッドの獲物は、あの500年ぶりに見つかった
イタリアの秘宝だとね。」

オレがそう言うと、後方からおお〜!と、歓声と拍手が沸き起こった。

「・・・と、いうわけで、おっちゃん!今回の事件、オレらにも協力させてくれへんか?」

「き、君は確か大阪府警本部長の・・・!!」

服部の素性がわかったのか、中森警部が忌々しそうに唇を噛む。
白馬はそれを横目に見ながら、どこかに携帯で連絡していた。

 

それからしばらくして携帯を仕舞うと白馬は、その場をスタスタと歩いて去ろうとした。

「は、白馬君!どこへいくつもりだ?!」

中森警部が鼻息荒く、呼び止める。

「例のイタリアの秘宝を所有している人物とアポイントが取れましたので、
これから会いに行こうかと。」

振り向いた白馬はこれまたあっさりと言ってのけた。
中森警部は開いた口がもう塞がらない。

「それ、オレも行く!」

「もちろん、わいもや!」

続いてオレ達がそう言うと、ようやく我を取り戻したのか、大声を張り上げた。

「か、勝手なマネをしちゃいか〜ん!!」

「・・・でしたら、警部もご一緒にいらっしゃたらどうです?」

白馬の笑いに警部は、部下をギっと睨み、車を用意するように指示した。

 

「あ、こら!!工藤君!!勝手に予告状をコピーしないでくれ!!」

・・・なんて、注意された時には、オレは既にコピーした一部を服部に
渡していたが。

え、だって、これから暗号解読するのに必要だしさ。

「ご心配には及びませんよ、警部。キッドの暗号は今日中に
全て解読して見せますから♪」

オレは笑顔でそう言うと、白馬の後を追って、服部と共にその場を後にしたのだった。

会議室の前に佇む中森警部達を残して。

 

 

◆ To Be Continued ◆

 

 


NEXT

 

ゆうこさまのリクノベルにお応えしての作品・・・。
タイトルの「Triple Joker」(=トリプル・ジョカー)は、その名の通り3枚のジョーカーということで、
それはつまり、今回登場の3人の探偵諸君の意であります。ハハハ・・・。

ゆうこさまから頂いていたリクは、以下の通り。

怪盗vs3探偵」なんですが・・・。
3探偵は、仲が良くなくてもいいです。
仲が悪いまではいかなくても、お互い、相容れないような
感じかな?
といっても、服部くんは新一loveなんでしょうけど・・・。

と、いうものだったのですが・・・。し〜ん・・・。
まだ、プロローグという事で話に大した展開もないですが・・・。
これからなんとかがんばっていくつもりです。

密かに「世紀末の魔術師」を狙って・・・な〜んちゃって!!
ごめんなさい。期待はずれに終わってないといいのですが。ドキドキ・・・

2001.09.29

 

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