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NOVEL

Triple Joker 

                +++ 第1話 +++

 

「・・・おいおい、何でリムジンやねん・・・。」

白馬の用意した車を見て、服部は大きく口を開けた。
さすがは、警視総監殿の息子と言ったところか・・・。

オレ達は顔を見合わせたものの、そのまま大人しくその車に乗り込んだ。
追走してくる中森警部達の車がやけにちっぽけに見えて、気の毒な気がしたけど。

そうして、オレ達はイタリアの秘宝を落札した大富豪 大竹 源三氏のところへ
向かったのである。

 


車中、オレ達は予告状のコピーをそれぞれに眺めていた。

「で、どうや?工藤。キッドの暗号、解けたか?」

「・・・いや、全然。」

オレはあっさりと返した。
オレの答えに、服部も、自分もさっぱりだと頷く。
白馬もじっと予告状を睨んだままな様子から、かなり苦戦している状態が窺がえる。

「獲物が例のイタリアの秘宝だという事以外、さっぱりわかりませんね。」

「ああ。それにちょっと気になるのは、ここなんだけど。」

オレは予告状の一文を指し示した。
服部と白馬が覗き込む。

「 『すべてを与えられし女性』ってのがあるだろう?これって何のことだろう?
奴の獲物は、その前のとこにちゃんと例の秘宝だと書いてあるのに。」

オレの台詞に2人は揃って首を傾げる。

「もしかして、獲物はもう一つあるんやないか?」

「いや、もしかすると、その小箱の中身を指しているのかしれません。」

依然、キッドの予告状は謎のままだった。

 

やがて、車は鬱蒼とした木々が揺らめく森の中へと進んで行った。
一山超えたあたりに、豪邸の屋根が顔を出す。

「・・・まるで、どっかの城みたいやな。」

服部が窓から外を眺めて、そう呟いた。
それに白馬が頷いてみせる。

「この山も大富豪 大竹氏の持ち物ですからね。」

「か〜!!世の中、不景気でエライ騒ぎやのに、あるとこにはあるもんやなぁ!」

なぁ、工藤?と、ばかりに服部がオレの顔も覗き込んでくるが、
オレは奴にはチラリと目をやっただけで、再び予告状に目を落とした。

・・・ったく、イチイチうるせーんだよ。
集中できねーじゃねーか!

オレがそう思っているのに、服部は何を浮かれているのか、ひたすら喋りつづけていた。

 

 

◆       ◆       ◆

 

 

ようやくして、車はご立派な門をくぐり、目的地に到着した。
時刻は、夜8時を少しまわったところである。

玄関に現れたのは、スーツ姿の若い女性。美人だ。
彼女は、オレ達の顔を見て小首を傾げる。

「・・・あの、警察の方では・・・?」

警察が来ると連絡を受けていたのに、現れたのは3人のちょっと見目のいい高校生達。
不審がられても不思議じゃない。

「えっと、僕達は・・・」

と、白馬が一歩前へ出て、事情を説明しようとした矢先に、後方から車を急いで
降りてきた中森警部が駆け込んでくる!!

「こらこらこら〜!!」

そのままオレ達の前に割って入ると、胸の内ポケットから警察手帳を取り出して
息切れしながら見せた。

「警視庁捜査二課 警部 中森です!!本日は夜分遅く申し訳無い。
お伺いしたのは、怪盗キッドの件なのですが・・・。」

中森警部の姿と、オレ達を見比べながら、彼女は口を開いた。

「・・・ご苦労様です。用件は先ほど電話でお伺い致しております。
遠いところ、わざわざおいでいただきまして。
私は、大竹の秘書をしております 黒田 留巳(くろだ るみ)と申します。
さぁ、どうぞ中へ。」

言われて、オレ達はその豪邸の中の一室へと案内された。

「あの、中森警部。こちらの方々は一体・・・?」

「あ、ああ。彼らはですね・・・。」

忌々しげに中森警部がオレ達を見ながら、なんと説明しようかと考え込んだ。
すると、白馬が迷いも無く即答する。

「探偵です!僕は白馬といいます。こちらは工藤君、そして服部君です。」

「た、探偵さん・・・?3人も?」

彼女は目を丸くした。
慌てて、中森警部が付け足す。

「い、いや、彼らはその。まだ高校生なんですが、どうしてもこの事件に興味を持った
みたいで、仕方なくですね、手伝ってもらおうかと思って連れてきたまでですよ!!」

わっはっは!!と豪快に笑いながらそう言う中森警部に、オレ達3人は
冷たい視線を送った。

ちぇ!暗号も解けてないくせに!!

「よう言うよなぁ、あのおっちゃん!」

そう服部に耳打ちされて、オレも大いに頷いた。

オレ達の素性がわかって安心したのか、秘書の黒田さんはにっこり笑う。

「では、大竹を呼んで参りますので、しばらくここでお待ちになってください。」

そう言って、彼女は部屋を出て行った。

オレは部屋をいったんぐるりと見回した。さすが、大富豪のお屋敷と言うべきか。
部屋の調度品もかなり金のかかってそうなものばかりだった。

・・・ま、あんまり趣味がいいとは言えねーけど。

そう思いながら、中央に置いてあるソファに腰掛け、キッドの予告状のコピーを
ポケットから取り出すと、再びそれに目を落とした。

服部は、部屋を隈なく見て周り、イチイチ感嘆の声など上げている。

「うわ!これ、この花瓶、見てみぃ!!」

「 『バカラ』ですね。おそらく数百万はすると思いますよ。」

「こ、こら、君達!不用意に触れるんじゃないぞ!!」

用意されたコーヒーカップに手を伸ばしながら、中森警部が服部達を注意した。
イライラした様子でコーヒーを飲んでいる。
そのカップを見て、ふとオレも呟いた。

「警部、そのカップも、『マイセン』ですよ?」

「何だ?その『マイセン』ってのは?」

眉をつり上げる中森警部に、白馬が口をはさむ。

「ドイツの高級食器を扱う有名ブランドです。」

言われて、思わず警部はカップを落としそうになるが、必死の思いで握り締め、
恐る恐るにテーブルに戻した。

その様子に服部がケタケタと笑う。

と、そこへドアが開いて黒田さんが現れ、続いてりっぱな髭を蓄えた中年の男性が
入ってきた。

「お待たせしました。私が大竹 源三(おおたけ げんぞう)です。」

現れた男性に中森警部は恭しく一例をし、先程同じようにオレ達の紹介も済ませると
さっそく本題に入った。

「・・・で、その例の小箱は今、どこに?」

「金庫に保管してあります。ご覧になりますか?」

 




◆      ◆      ◆

 

 

オレ達は金庫の隣にある部屋へ案内された。

「では、ここでしばらくお待ちください。黒田くん、あれを持ってきてくれたまえ。」

そう言って、大竹氏は彼女にキーを渡すと、彼女は頑丈にロックされた隣室へと
消えていった。

そこへ、ノックもせずいきなりドアが開かれ、2人の男が入ってくる。

「親父!!警察が来たって?!」

入ってくるなりそう叫んだ男は、まだ20代そこそこかと思われる若者だった。
彼の後ろには、スーツ姿の落ち着いた男性が立っていた。

「俊夫!お客様の前で!!」

大竹氏は立ち上がって、その若者をたしなめると、オレ達の方を振り返り
バツが悪そうに、彼らを紹介した。

「ええっと・・・。彼は私の息子で俊夫(としお)といいます。
で、後におられるのが、榊 哲也(さかき てつや)さん、出版社の方です。」

「・・・どーも。」

言いながら、息子の方はオレ達に無愛想な視線を向けた。

「初めまして。榊と申します。今度、うちでイタリア美術の特集やるもんで、
例の秘宝について、大竹さんに取材を申し込んだところだったんですよ。」

榊さんは、そう言ってオレ達にまで、名刺を配ってくれた。

 

「・・・で、あの箱を怪盗キッドが狙ってるんだって?・・・ったく。
じゃあもう盗られたも同然じゃねーか!だったら、早いとこ売っちまって金に戻した方が
いいよ、親父!!」

「何を言うんだ、俊夫!!私があれを手に入れるのにどれほど労力を費やしたと
思ってるんだ!!」

と、怒鳴り終えてから、大竹氏はオレ達の方を振り返り、気まずそうに笑った。

「・・・いや、お恥ずかしい。息子はこのとおり、芸術品にはてんで興味がないもので。」

それを聞いて、彼は舌打ちする。

「・・・け!何言ってやがんだよ!親父だってわかったふりしてるだけのくせして。
とりあえず高価な品集めてるだけだろうが。そっちの方がよっぽど恥かしいね!!
そんな無駄遣いする金があるんなら、少しはオレの事業にも手を貸してもらいたい
もんだよ!!」

「俊夫!!いい加減にしないか!!」

いきなり繰り広げられた親子喧嘩に、オレ達はただ顔を見合わせていた。
中森警部がどう仲裁しようかと、おろおろしている。

そこへ、黒田さんが戻ってきた。

「・・・あの。お話中、失礼します。金の小箱をお持ちしましたけど。」

小さなガラスケースを抱えて、戸口に立つ彼女の姿を認めると、
大竹氏は、冷静さを取り戻して、テーブルの見やすい位置にそれを置くよう指示した。

 

全員でそれを覗き込む。
最初に口を開いたのは、やはり服部だった。

「・・・なんというか、その。500年の重みを感じさせる・・・ちゅうんかなぁ。」

服部の言いたいことは良くわかる。
小箱の装飾は、金やガラス、大理石の小さな破片を使ってあるという見事なもので
あったが、ところどころはそのモザイクが剥がれ落ち、金の色も磨かれていないためか
くすんでいて、正直、そんな何十億もするものとは思えなかった。

「しかし、見事なモザイクですね。描かれているのは、宗教画ですか。」

白馬が箱の柄を注意深く見ながら、そう言う。
確かに宗教画に見えるが、キリストもマリアも描かれていない。
ビザンチン美術なら、キリスト教なはずなのに、どうして?

オレは首を傾げた。

「で、箱の中身も見せてもらえますか?」

中森警部がそう訊ねると、大竹氏がちょっと申し訳なさそうに答えた。

「・・・いや、あのですね。この箱は開けられないんです。」

「鍵でもかかってるんですか?」

警部はそう言ってもう一度、箱を覗き込む。

・・・いや、この箱に鍵穴なんてない。何か、仕掛けでもあるのか?

「・・・えっと、そうではなくてですね・・・。」

大竹氏が困ったようにしどろもどろになって、秘書の黒田さんの方を見ると、
彼女がオレ達の方へやってきた。

「開けられないんではありません。開けてはいけない箱なんです。」

きっぱりと彼女はそう言ったのだった。

 

 

◆       ◆       ◆

 

 

みんないっせいに黒田さんに注目した。

『開けてはいけない箱』?!どういう意味だ?

「彼女は、イタリア美術にとても熱心でね。今回、私がこれを手に入れたいと思ったのも
彼女の助言があったからこそなのだが・・・。
黒田君、みなさんにお話してあげてくれたまえ。」

大竹氏がそう言うと、黒田さんはゆっくりと頷いて話し始めた。

 

「その小箱を作ったのは、ヴェネツィア本島の周りのラグーナに浮かぶ島々の一つ、
ムラーノ島の有名な工芸家、アンドレア・ロンゲーナです。
彼は王宮に仕えるほどの、腕前の持ち主でした。

けれども、彼が登場したのはすでにヴェネツィア共和国の栄華にも陰りが
見え始めた頃。」

「・・・ナポレオンの入城ですね?」

オレがそう口を挟むと、彼女はにっこり頷いた。

「そう、ヴェネツィアはフランスのナポレオンによって制圧され、その歴史の幕を
閉じる事になります。
ナポレオンは、ヴェネツィアの美術に関し、興味を引かれるものはフランスへ持って
帰りました。美術品だけでなく、その作り手も。
その中に、アンドレア・ロンゲーナがいたわけです。」

「・・・だから、その金の小箱がフランスで見つかったっちゅーことか。」

服部が顎に手を添えながら、そう付け加えた。

「しかし、『開けてはいけない』と言われるのは、一体何故・・・?」

言いながら、白馬が首を傾げる。
それを見て、黒田さんは先を続けた。

「・・・その箱は、ナポレオンの命令によって作らされたものだそうです。
アンドレアは、国も家族も失った悲しみを怒りを込めて、その箱を作りました。
わざわざ、『箱』としたのは、彼なりの思惑があったのだと言われています。

それは、開けたら必ず災いをもたらすと言われる、あのギリシア神話の箱を
モデルにして作られたと。」

ギリシア神話?!
オレは目を見開いた。
ギリシア神話で、『開けてはならない箱』と言えば、あれしかない!!

「 『パンドラの箱』!!」

オレの声に服部と白馬の声が重なった。

 

「そう。その金の小箱の本当の名は、『パンドラの箱』なんですよ?」

黒田さんはそう言って、妖艶に笑って見せた。

 

ちょっと待て!
ギリシア神話だって?!・・・ってことは・・・!!

「ギリシア語で、『Pan』(パン)は「すべて」、『Doron』(ドラ)は贈り物。
パンドラは「すべてを与えられた」という意味だ。」

オレはキッドの予告状を見ながら、言った。

「じゃあ、やっぱ奴の狙いはこの『パンドラの箱』なんやな?」

「・・・ということは、この文面はもしかするとすべてギリシア語に変換できるのでは?」

白馬と服部も慌てて予告状に目をやった。

「・・・おいおい、予告日、今日って書いてあるやんけ。」

そうして、キッドの暗号が明らかになっていく。
中森警部だけが、オレ達の会話についてこれず、予告状を手にしたまま、
頭を抱え込んでいたが。

 

「・・・ギリシア語っていうだけじゃねーぜ?ギリシア神話だ。
見てみろよ、ここ。犯行時刻のこと示してやがる。
オリンポスの神々が集まる時ってな。」

「オリンポスの12神のことですか。」

「そ!つまり、キッドは今日の12時に『パンドラの箱』を奪うと、こう言ってるわけさ!」

 

オレは、そう言って不敵に笑って見せたのだった。

 

 

◆ To Be Continued ◆

 

 


NEXT

 

ゆうこさまのリクノベルにお応えしての作品・第1話です。
今回は、なんとも説明くさい文が多く続いておりますが・・・。
次回、いよいよ事件が起こる・・・という感じで。

キッドの暗号文を部分的にしか出さないのは、私はキッドさまではないので
イカした暗号などとても思いつかないから(笑)!
と、いうことでどうぞ勘弁してくださいませ。

さて、本来ゆうこさまから頂いていたリクは以下のとおりだったのですが。

怪盗vs3探偵なんですが・・・。
3探偵は、仲が良くなくてもいいです。
仲が悪いまではいかなくても、お互い、相容れないような
感じかな?
といっても、服部くんは新一loveなんでしょうけど・・・。

まだまだそんなカンジにはなっていませんが、もう少し待ってくださいねぇ!
なんか、長くなりそうだわ、ほんとに。
がんばらなくちゃ!
今回はキッドさまお休みですが、次回は・・・出てきて欲しいなぁと
私も思っております(笑)

2001.10.07

 

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