Heart Rules The Mind

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NOVEL

誰か言って

上手く信じさせて

「全ては狂っているんだから」と

1人にしないで

神様  貴方がいるなら

私を遠くへ逃がしてください

 


幸せの終わり 真実の始まり    act,1


 

 

そこには、蒼い光が揺れていた。

それは決して明るい光ではなく、ただそこに漂って重さと疲れだけを湛えている。

その光の中に見える一つの小さな人影。

赤毛の少女である。

少女はここへは来たくなかった。

ここへ来たら、二度と戻れないことが少女にはわかっていたからである。

ふと蒼い光が少女の頬をかすめた。

少女は頭を振って拒絶した。

「やめて!知りたくはないの!」少女は叫んだ。

彼女の絶叫にも、蒼い光は揺るがない。

だが、やがてぼんやりとその光は薄くなり、辺りは真っ暗になっていく。

光とともに少女もまた絶望という暗黒に包まれていった。

 

 

嫌な夢。

目が覚めた瞬間、灰原 哀を襲ったのは、じっとりとかいた冷や汗の不快感だった。

それが、今まで見ていた自分の夢のせいだということは彼女にはわかっていたが、その時、彼女はもう夢の内容を覚えていなかった。

だが、嫌な夢だったということだけはわかる。

そして、この夢を見るのが今日、初めてでないことも彼女は知っていた。

時計の針は、深夜3時を少し過ぎた頃を指している。

地下室で研究に没頭していた少女は、ほんの少しだけ仮眠を取るつもりでソファに横たわった。

実際のところ、1時間も寝ていない。

それなのにとても長い時間眠りに落ちていたような、あるいは逆にほんの一瞬しか眠りに落ちていなかったのか、どちらとも言えない不思議な感覚に陥っていた。

「・・・嫌な夢。」

今度は彼女は声に出して言った。

そうでもしなければ、圧倒的な絶望感に押しつぶされそうだったのである。

───予知夢なんて、信じないけど。

心の中でそう呟いて横になっていたソファから、重い体を起こして立ち上がった。

気持ちを切り替える為にコーヒーでも入れ替えようかと、デスクに置いたままのマグカップへ手を伸ばす。

と、誤って手がマグカップを倒した。

あっという間に、デスクの上には冷め切ったコーヒーの水溜りができる。

黒いその液体が広がる様を、彼女は慌てもせずにじっと見つめていた。

じわじわと広がっていく黒い液体。

それはまさに、彼女の今の心情のようだった。

 

何かが動き出した。

何かとてつもなく嫌なものが。

根拠などない。

ただそう感じていた。

 

 

□□□     □□□     □□□

 

 

同じ頃、世紀の大怪盗と謳われる怪盗キッドは、とあるビルの屋上に居た。

正確には、屋上の給水タンクの上だ。

高層ビルが密集するこの辺りでも、一際高いビルのそこは最も天に近い場所とも言える。

白いマントが緩やかに舞うその背景に輝くのは、大きな月。

派手なパフォーマンスでいつもどおり見事に獲物を手に入れた怪盗は、微笑をたたえている。

今、彼を取り巻くのは、空にかかる月と夜の静寂だけだった。

 

「さてと。」

言いながら、キッドは自分の胸元から赤い石を取り出す。

さほど大きな石ではない。

時価数十億円もするようなビッグジュエルに比べれば、小振りなその赤い宝石は、石自体の評価格もそう大したものではなかった。

「・・・『ルビーの偽物』ね。ずいぶんな言われようだ。」

キッドが白い手袋の上で転がすと、石は月光に反射して綺麗な赤い輝きを放った。

 

それはまさに炎の宝石と言われるルビーのようだったが。

今夜のキッドの獲物は、ルビーでない。

スピネルという宝石である。

スピネルの色は様々で、ルビーの赤、血赤色、淡紅色、青色の濃淡、紫青の濃淡、黄色、無色、時には黒色もある。

赤のスピネルはルビーと同じ酸化クロム、青のスピネルはサファイアと同じ鉄分の含有によるもので、どちらもルビー、サファイアに色が酷似しているため間違えられやすい。

事実、この石も長い間ルビーとして重宝されたのだが、実はスピネルであるということが後に判明して、その価値が下がったという経緯があった。

確かにはた目から見れば、充分ルビーに見えるシロモノである。

 

「確か赤いスピネルは、『バラスルビー』とか言うんだっけ。ルビーの産地の地名に由来した名前だったかな。」

どうでもいいという風にキッドは呟いた。

実際、この石がルビーであろうとなかろうと、キッドにとってはどうでもいい話である。

彼が求めている宝石でさえあれば、その外見がどうであろうと一向に構わなかった。

キッドは小さく溜息を零す。

大体、こんなことで本当に目当ての石にめぐり会えるのか。

いくら情報がないとはいえ、無作為にビッグジュエルを盗み捲くるしかないなんて、非効率な事、この上ない。

「・・・やれやれ。生きてる内に見つけられなかったらどうしよう?」

とても切羽詰ってるようには聞こえない。

だが、彼にとっては切実な問題であることには間違いはなかった。

まだ例の“パンドラ”か確かめてもいないのに、キッドがぼやいているのは、最初から今夜の獲物に期待をしていないからか。

いや、今夜どころか、キッドはいつもそうだった。

神聖な儀式にも見える石を月光に翳すその動作も、彼にしてみれば実に事務的なものに過ぎない。

まして『この石がパンドラであって欲しい』と、あつかましく神に祈る事などもってのほか。

そんなことをしたってキリがない位、自分のやろうとしていることが無謀であることを彼は充分に知っていたからである。

 

夜風が純白のマントを攫う。

シルクハットが風に飛ばないよう片手で押さえ、空いたもう片方の手でキッドは赤い石を月明かりに翳した。

いつもと変わらないその光景。

───だが。

赤い石を覗き込むキッドの瞳が僅かに開いた。

「・・・うそ。」

思わず零れたのは、そんな言葉。

それからキッドは視線を宝石から外し、やや首を傾げて不思議そうな顔を作ると、もう一度その赤い石を月に翳してみる。

そして、そのまま白い怪盗はしばらく動く事はなかった。

 

 

□□□     □□□     □□□

 

 

一夜明けて。

工藤 新一は阿笠邸を訪れていた。

無論、朝食を取るためにである。

海外に行ったきり、飛び回っている両親を持つ新一が食事を取るのは、もっぱら阿笠邸と決まっていた。

昨夜も遅くまで目暮警部につき合って殺人事件に関わっていた為、寝不足である体にムチを打ってベッドから起き上がり、寝ぼけ眼で制服に着替え、自宅の郵便受けから朝刊だけ引き抜いて阿笠邸の門をくぐる。

いたって平常どおりの朝である。

キッチンから顔を出して出迎えてくれた阿笠博士に、新一は笑顔で挨拶を交わしながら、まずはリビングのソファに腰を落とす。

手にしていた新聞の一面には、昨夜のキッドの所業がでかでかと載っていた。

新一がそれを流し読みしていると、博士がコーヒーのポットを持って現れる。

「博士、いつも悪いな。」

「いや、構わんよ。ただ今日はあまり時間がなくてな。大したものは用意しておらんが。」

「どっか出かけるんだ?」

「ん?ああ、学会に出席するんじゃよ。」

へぇと相槌を打ちながら、当然のようにダイニングテーブルに用意された朝食を前に、新一は席に着く。

しかし、向かいの席に座るはずの少女の姿はそこにはなかった。

 

「灰原は?」

「・・・いや、それが。哀君は食欲がないらしくてな。地下室にずっと篭りっぱなしなんじゃよ。」

「・・・・・・何かあったのか?」

「ふーむ・・・。わしの知る限りじゃ何もないとは思うんじゃが・・・。ただ哀君は何かあったとしても、きっとわしには話したがらんからの。本当のところは何とも・・・。」

新一はそんな博士を見やりながら、コーヒーの入ったマグカップに口をつける。

「これ食い終わったら、オレが灰原の様子を覗いてみるよ。」

「すまんな、新一。」

博士はそう苦笑した後に、新一が持ってきた朝刊に手を伸ばし、話題の転換を図った。

「一面はさすがにキッド一色じゃのぅ。新一も現場にいたのか?」

パンを頬張りながら、新一は首を横に振った。

「いや、予告状の暗号解読だけ。昨夜は別件で目暮警部に呼び出されちゃってさ。」

そうかと博士は頷く。

それを尻目に新一は続けた。

「どうせ奴の事だ。いつもどおり派手なパフォーマンスで警察を撒いて、あっさり盗んだんだろ?問題はその後に例の組織との接触があったかどうかなんだけど、さすがにそこまでは新聞に載ってるわけないしな。今度、ヤツに会った時にでも確かめるしかない。」

「ふむ・・・。しかし相変わらず危険なマネをしとるの。」

これには新一は何も応えなかった。

 

新一はキッドと関わっていくうちに、あの怪盗の本当の目的を知った。

キッドが探しているのは、永遠の命を授けてくれるという魔石“パンドラ”であるということ。

過去、その石に関わったであろうとされる彼の父、初代キッドが殺されたということ。

キッドにとって“パンドラ”を追うことが、父親を殺した犯人に近づく唯一の手段なのである。

そしてその犯人というのが、新一が追う組織と同一だった。

怪盗と探偵という本来なら相容れない関係であるはずが、組織を追うという点に関してだけは共通するところがあったのだ。

それが事の始まりか、新一とキッドは妙な間柄となる。

 

キッドの正体が、黒羽 快斗という自分と同い年のマジック好きの高校生であることまで知ることになった。

ある意味、秘密の共有と言ったところか。

組織に関して知り得たことは、お互い情報交換することも少なくなかった。

だからと言って、組織殲滅のために共同戦線を張ろうなどという、約束はした覚えはない。

今もお互い好きなように動いている。

だが、どこかでお互いを信じている、そんなところがあった。

もちろん、そんなことを口にする二人ではなかったが。

 

 

□□□     □□□     □□□

 

 

「───灰原。 灰原、入るぞ?」

 

朝食を終えた新一は、地下室の閉ざされた扉の前でそう声をかける。

部屋の主は何も返さなかったが、新一は溜息一つ、ドアノブに手をかけた。

鍵はかかっていない。

ドアは簡単に開いた。

朝陽の差し込まないその部屋は薄暗く、パソコンの液晶のだけが淡い光を放っていた。

新一はドアのすぐそばにある電気のスイッチに手を伸ばした。

一瞬で部屋は明るくなる。

パソコンに向かっている小さな背中が、新一を迎えた。

ドアが開いて新一が部屋に入っても、少女は全てを拒絶するように新一に背を向けたままだった。

 

新一はその背中に語り始める。

「よぉ。体調でも悪いのか?メシも食わずに篭りっぱなしなんてさ。」

「・・・・・・ごめんなさい。」

背中は小さく返事をした。消え入りそうな声だ。

新一は重苦しく息を吐くと、ゆっくりと彼女に近づいた。

「何があったのか知らね─けど・・・。あんまり博士に心配かけんなよ。」

「・・・ごめんなさい。」

もう一度、彼女は謝った。

小さな頭が僅かに俯いて、赤毛が揺れる。

新一はそれを見て、眉を寄せた。

直感的に彼女に何かがあったと悟ったのである。

 

「───灰原、お前・・・。」

「・・・夢。」

「え?」

「夢を見たの。」

「夢?」

「───そう、夢。」

依然、背を向けたままの少女が無感情にそう答える。

新一はますます眉を寄せた。

「夢ってどんな?」

「覚えてない。」

それから少女は、やっと新一を振り返った。

「覚えてないけど・・・。だけど、嫌な夢。とても嫌な・・・嫌な夢だったのよ。」

彼女の顔を見れば、それが戯言ではないだろうことは新一にはわかった。

どうやら彼女は相当にネガティブになっているようだ。

「・・・何か気になることでもあったのか?」

少女はそれには応えず、また新一に背を向けてしまった。

 

「───何故、私は生きているの?」

突然、飛躍した話題に新一は多いに首を傾げた。

「組織が裏切り者を生かしておくはずがない事は貴方も知ってるでしょ?事実、組織が私を暗殺する機会は過去2度ほどあったわ。」

少女はかけていた椅子から立ち上がり、新一に向き直った。

「一度目は杯戸シティホテルの屋上で。貴方の機転がなければ、あのままジンは私を銃殺できていたでしょうね。そして、二度目はあのハロウィンパーティの時。貴方は新出先生に変装していたベルモットを追い詰めるつもりだったんでしょうけど、私があの場に行ったことで貴方の計画を台無しにしただけでなく、ベルモットには私を殺す絶好の機会を与えてしまった。」

「オレは麻酔銃でやられて、役に立たないしな。」

新一は苦笑した。

結果オ─ライとは今だから言えるが、実際、あそこで全員殺されていても不思議ではなかった。

「FBIや貴方の幼馴染の彼女が現れたからと言って、大した障害にはなり得なかったはずなのに、ベルモットは私を撃たなかった。しかも、あの場から貴方を人質に逃走までした。貴方の言うとおり、ベルモットがクリス・ヴィンヤードという人物で、彼女の母親であるとされているシャロンとも同一人物だとしたら、当時、幼児化していた貴方の正体も知っていて当然なはず。貴方を殺せるチャンスでもあったのに、何故なの?」

新一は哀の発言に眉を顰めた。

実際、そのとおりなのである。

新一も、当時から疑問に思っていたことであり、何度考えても解けない謎だった。

哀の薄いグレーの瞳が、冷静に新一を射抜く。

「そして、貴方は今、もとの体を手に入れた。高校生探偵、工藤新一として存在を誇示し、組織が貴方に接触してくるのを待っている。ちょうど、あの怪盗さんが派手なパフォーマンスで組織をおびき出そうとしているのと同じ様にね。」

新一は黙って聞いていた。

哀の言わんとしていることがわかっていたからである。

要するに、組織の連中は殺そうと思えばいつでも新一を殺せるはずなのに何故、手を出してこないのかと、そう言っているのだ。

いや、新一だけではない。

シェリー=灰原哀という構図も、ハロウィンの一件からすればベルモットの口から組織にバレたと考えるのが順当だ。

ベルモットが哀を庇い立てする理由などあろうはずがない。

つまり、組織の輩がいつ新一や哀を殺害しに来ても不思議ではないのだ。

 

「何故、私達は生きているの?いえ、何故、生かされているの?」

「───さぁな。考えたって答えの出ね─もんは仕方ね─だろ?ただせっかく生かしてもらってるんだ。だったら、こっちも精一杯それを利用しない手はないってことさ。」

ニヤリと笑う新一に、哀は苦笑する。

この少年はどこまで楽観的なのだろうと。

ひさむきに前だけを見ている彼を眩しいと感じ、また逆に疎ましくも思った。

「・・・本当に呆れるほど前向きね。でも、そんな貴方を見てたら、あれこれ考えている自分がバカらしく思えてきたわ。」

「だろ?じゃオレ、そろそろ行かね─と学校に遅れるから・・・。オメ─も気分が良くなったんなら、さっさとメシ食って、学校行けよ。その方が気が晴れるって。」

「そうね。」

哀がそう笑顔で答えたのを見て、新一も安心したように微笑んだ。

とりあえず、彼女の心を少しは浮上させることができたようである。

新一は、そのまま軽く手を挙げて彼女に別れを告げ、階段を上っていった。

 

地下室には少女が1人。

新一を見送った時の笑顔はもう消えていた。

彼の言葉も、彼女の圧倒的な絶望感を拭うには満たなかったのだ。

 

───何故、私は生きているの?

───何故、貴方は生きているの?

───何故、私達は生かされているの?

───誰のために?

───何のために?

 

呪文のように、哀は心の中で繰り返した。

 

 

□□□     □□□     □□□

 

 

新一のもとへキッドから電話がかかってきたのは、その日の午後。

昼食を取り終えた新一が、残り少ない昼休みを校舎の屋上で1人過ごしていた時だった。

 

「見せたい物がある。」

声はぶっきら棒に言った。

「オレが今、一番見たいのは「週刊文秋」で今年度「このミステリーがすごい」の1位になった作品だ。」

新一も負けず劣らずぶっきら棒な声で応じた。

「面白い冗談だ。」

「そりゃどうも。」

「とにかく、すぐに会いたいんだけどね。」

「盗品の返却ボックスに使われるのはご免だ。」

「残念ながら、今回は返却できそうもないな。」

「・・・なんだと?」

「詳しくは会って話す。」

「───わかった。場所は?」

待ち合わせ場所をキッドから聞き出すと、新一は電話を切った。

折りたたみ式の携帯をズボンのポケットに突っ込むと、いそいそと非常階段の方へ向かう。

そのまま新一は学校を早退した。

 

待ち合わせにキッドが指定してきたのは、とあるマンションの一室だった。

彼が所有する隠れ家の一つである。

新一がそこへ到着したのは、電話があってから30分後のことだった。

玄関のチャイムを鳴らすと、ドアの向こうには新一と良く似た顔が出迎えた。

黒羽 快斗=怪盗キッド本人だ。

相変わらずの人懐っこい笑顔は、人を強引に呼び出しておいて悪びれた様子もない。

「やぁ。悪いね、急に呼び出しちゃって。」

「まったくだ。おかげで予定外の早退じゃね─かよ。ただでさえ出席率が良くないんだ。勘弁しろ。」

ただでさえ、幼児化していた期間、高校に通えないでいた新一は出席日数が際どい。

だが、怪盗という裏の稼業を持つ快斗も人のことは言えたものではない。

けれども快斗は「お互い大変だねぇ」などとのんきに笑っている。

そんな快斗をジト目で見つめながら、新一は靴をそろえて部屋に上がり、早速本題へと入った。

 

「───で?オレに見せたい物って?」

部屋の中央に置かれているソファにドスンと腰を下ろして、新一は快斗を見た。

すると、快斗はちょっと待てと合図した後、新一に背を見せ、やがて振り返って左手を差し出した。

掌には赤い石が乗っかっている。

「・・・昨夜の獲物か?意外に小ぶりじゃね─か。ここまで赤いとまるでルビーみたいだが、確か石の名前はスピネルだったか?」

新一は石を手に取って、それを凝視した。

快斗はその様子を見ながら、にっこりする。

「スピネルはラテン語のspina「棘(とげ)」に由来するっていう話だ。ピラミッドを2つ重ねたような双晶形の結晶が尖った棘に見えたかららしい。他にも「閃光」を意味するギリシア語を語源とするっていう説もあるけどね。」

「知ってるぜ?日本名では尖晶石ルビーと間違われやすい石なんだろ?」

「そう。赤いスピネルはルビーとされてきた場合が多く、英王室の王冠にはめ込まれている「黒太子のルビー」も、世界最大のルビーとして有名になった「ティムールルビー」も、実はスピネルだったことが後で判明している。多くのスピネルがルビーと混同されて るんだ。まぁそれは、スピネルがルビーとともに産出されることにも起因してるし、外見上、とっても良く似てるからでもあるんだけど。」

「この石の持ち主も、これをルビーだと思って手に入れたらしいしな。」

「事実を知って、かなり凹んだらしい。」

キッドは肩を竦めて、クスリと笑う。

手にしていた赤いスピネルを、新一はテーブルの上にそっと置いた。

 

僅かな沈黙が二人の間に落ちる。

新一は向かいに座る自分の分身のような顔を真っ直ぐに見た。

快斗は穏やかに笑っている。

お互い意思の疎通はできていた。

 

「───それで・・・。この石がそうなんだな?」

「そう。“パンドラ”だよ。」

 

To be continued  +++NEXT→

 

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