『ヴェネチアン?ずいぶんとリッチなホテルに泊まってるのね。まさか本気でバカンスだったとか?思いっきり余暇を楽しんでそうじゃないの。』
ラスベガス入りした翌朝、滞在場所を知らせろとうるさい灰原の申し出どおり、国際電話をかけてやったら、出てきやがったのは相変わらずの辛辣な一言だった。
・・・まったく朝っぱらから容赦のないヤツ。 ああ、日本は今、朝じゃないか。
オレは敢えて聞こえるように溜息とつくと、気だるげに受話器を持ち替えた。
「・・・・・あのな。ホテルはキッドの野郎が勝手に手配をしたんだよ。」
『あら、そう。・・・で、そっちの首尾はどうなのかしら?』
「首尾も何も・・・。まず手がかりを掴むとこから始めねーと・・・。」
『まだ手探り状態なわけね?ところで彼は、今どうしてるの?』
「ああ、キッドか?それがアイツ、昨夜カジノに行ったっきり、戻ってこねーんだよ。」
『カジノ?』
「資金調達してくるって、それっきりでさ。まさかとは思うけど、あのバカ、カジノに明け暮れてんじゃねーか? ちょうどこれから探しに行こうと思ってたところなんだよ。」
『・・・・やっぱり、余暇を楽しんでいるようにしか思えないけど?』
・・・・・・・だから、違うって。
少なくともオレは。 アイツはどうだか、知らねーけど。
もう一度、オレが溜息をついたところで、受話器の向こうから灰原がクスリと笑う声が聞こえた。
なんだか、イヤな笑いだ。
すると、オレの予感は見事的中。
『あ、そういえば、私達も近いうちにそちらに行く事になりそうよ?』
「なッ・・・・何ィィィィ?!」
『博士も、カジノで一攫千金を狙いたいんですって。』
+++ +++ +++
博士達が来てくれる・・・ってうのは、正直ありがたくないわけではない。
ただ今回の場合、相手が相手だけに、関わればそれだけ危険が付きまとう事になる。
あの二人にまで、危険な目に合わせるわけにはいかないからな・・・。
部屋を出たオレは、数十階下へと向かうエレベータの壁に腕組みしながら寄りかかった。
ガラス越しには、今日も快晴な空の下、ラスベガスの街が広がっている。
楽しげな観光客の姿だけが目に映った。
・・・・こんなところに、本当にビスク・ドールがいるのか?
思わず、そんな疑念が頭を過ぎるが。
チンという音とともに、エレベーターのドアが開く。
と、同時ににぎやかなカジノのスロットの音が耳に入ってきた。
・・・ま、とりあえずは、先にキッドを見つけておかないと。
そう思いながら、エレベーター傍のオープン・カフェの店内もざっと覗いたが、ヤツの姿は見当たらず。
やっぱりカジノかと、オレは1F中央のカジノスペースへと足を進めた。
ラスベガスは眠らない街だ。
カジノもレストランも24時間営業で、ここにいると本当に時間の感覚がなくなる。
カジノスペースは、いつだって照明は薄暗くて夜のようなのだが。
しかも、こんな大勢の人で賑わってるところで人探しなんて、はっきり言って楽じゃない。
・・・のヤロー・・・。 余計な手間を取らせやがって。
と、心の中で毒づきながら、キッドの姿を探す。
とはいえ自分と同じような背格好で、しかも同じ様な格好をしてるヤツを探せばいいわけで。
オレは、人の波をかき分けながら、ヤツが居そうなところを見回った。
・・・・アイツの場合、スロットって感じじゃねーよな。
だとすると、得意分野ってとこでカードか?
ポピュラーなとこでいくと、『ブラックジャック』だよな・・・。あとは、『ポーカー』か。
そう思いながら、カードゲームをしている台をいくつか覗いたが、キッドの姿はなかった。
ついでにルーレットや、ダイスを使うクラップスの方も探したが、やはりここにもいない。
・・・・いねーじゃねーかよ。
キッドのヤツ、どこ行きやがった? もしかして、このホテルから出たのか?
確かに、カジノはよそのホテルにもあるのだが。
ストリートに面して立ち並ぶホテルのカジノを片っ端から見て周るような気力は、さすがのオレにもない。
・・・・・ほんとにどこ行ったんだか。ああ、今頃、入れ違いで部屋に戻ってたりしてな。
広いカジノのほぼ中央にあるラウンジで、オレはちょっと休憩がてらフリードリンクを口に運んでいると、突然後ろから、大きな声がした。
「Hey boy ! I was afraid of you
all the time!After you disappear with them. ・・・ 」
(おい、ボウズ! オレはずっとお前を心配していたんだ!彼らと一緒にお前さんが消えてしまってから・・・。)
「・・・えっ・・・!」
驚いてオレが振り向くと、ガタイのいい金髪の中年男性がニコニコ笑って立っていた。
+++ +++ +++
・・・・誰だ? この人??
オレを見つめる青い瞳は、人懐っこいもので悪意のある人ではないことだけは、充分にわかったのだが。
残念ながら、まったくもって見覚えのない人物だ。
・・・ええーっと。 まぁ、とりあえず・・・。
「・・・・・Did you meet at anything? 」
(・・・・・どこかでお会いしましたか?)
オレがそう言って見せると、彼は青い目をパチパチさせて言った。
「What do you say? Did you forget my
face? 」
(何言ってるんだ?このオレの顔を忘れたか?)
・・・・いや、だから。忘れるも何も、初対面だって、おじさん・・・・。
そう思いながら、オレは苦笑いだけしているのに、彼はまったく気にした風でもなく話を続ける。
「Some time ago I was defeated by you by
the card game. But it will let me pay back a debt next time. 」
(さっきはカードでお前さんに負けたが、今度は借りを返させてもらうぞ!」
・・・この人、オレを誰かと間違えてないか?
と、ここまで思って、ハタと気づいた。
キッドだ!
キッドとオレを間違えてる!!
この人をカードゲームで負かしたのは、アイツだ!!
考えてみれば、オレとキッドは今、似たような格好をしていたんだ。
間違えられても不思議じゃない。
「It is my・・・companion to do a card with
you.His cap is different color or from mine.」
(貴方とカードをしていたのは、僕の・・・連れです。彼の帽子は僕とは色が違うでしょ。)
・・・キッドを自分の「連れ」というのには、多少抵抗がないわけでもなかったが。
「連れ」には違いないので、とりあえず妥協してそう告げてみることにする。
だが、目の前の男性はどうもオレとキッドを別人とは思えないらしく、目を白黒させていた。
確かに・・・見た目だけなら似てる・・・からな。 不本意だけど。
「I am sorry.Because it looked like him
too much.Are you his friend?Like that, it is a twins' brother.」
(すまんな。あまりにも似ていたんでな。お前さんは彼の友達か?あ、双子の兄弟だな!)
・・・・・ちげーよ。
オレは内心そう舌打ちするが、そんなことはこの際、目をつむるとして。
「Do you know where he went though I am
searching for him now?Is he with anyone?」
(僕は今、彼を探しているんですが、貴方は彼がどこへ行ったかご存知ですか?彼は誰かと一緒なんですか?)
そのオレの問いに、男性は少々眉を寄せて答える。
「That boy fought with the crowd except
for me as well, and won all games.
It was surprised by the good point of such luck with a game of his.However,
thepartner who won wasn't good.As for them, it is a dangerous group
here.The safety of the body can't be guaranteed if it goes against them
though it is only this story.」
(あの少年はオレ以外にも大勢とやって、全部勝ちやがった。彼のあまりの勝負運の良さに驚かされたよ。だが、勝った相手がヤバイ。彼らはここら辺を取り仕切っている危険な集団だ。ここだけの話だが、彼らに逆らえば身の安全は保障できないぞ。)
「・・・Was he taken to that group?」
(彼はその集団に連れて行かれたんですね?)
「That is true.I wanted to help
him・・・・・」
(そのとおり。彼を助けてやりたかったが・・・・。)
「Therefore,・・・・ where was he taken?」
(それで・・・・彼はどこに連れて行かれたんですか?)
オレは僅かにキャップの唾を上げて、男性をチラリと見上げる。
すると、彼はやや眉を寄せて、『ヴィンセント』という店だとオレに教えてくれた。
どうやら、そこが彼のいうところのそのヤバイ奴らが経営している店らしい。
オレがその店の場所を聞き出そうとすると、彼は慌てて両手を上げた。
「Will you go to that store? Stop it.A
child isn't about to go.」
(あの店へ行くつもりなのか?やめておけ。子供の行くところじゃない。)
・・・・そういうわけにもいかないんでね。
オレは彼から無理矢理店の場所を聞き出すと、軽く礼を言って彼に別れを告げた。
背中では、おじさんが命が惜しいならやめておいた方がいいぞ!とか叫んでいたけど。
オレはそれには笑顔で返すだけにしておいた。
にしてもだ!
・・・キッドのヤツ、先に動くなら一声かけてからにしろよ!チクショウ!!
オレはギッと下唇を噛む。
キッドの狙いは、オレにはわかっていた。
アイツにしてみれば、獲物を引っ掛けたつもりだったんだろう。
ビスク・ドールのような暗躍している奴に接触する方法は、やはり闇の奴等から得るのが手っ取り早いはずだ。
何かしらの情報が掴める可能性がなくもない。
そのために敢えて、危険人物と接触しようとしたんだろうが。
さっきの男性から聞いた話では、キッドがそいつらとこのホテルから姿を消したのは、昨日の深夜0時前だという。
それから、まもなく10時間近い時間が過ぎようとしているが。
いくらなんでも、時間がかかりすぎじゃねーか?
情報を得るだけだったら、とっくに帰ってきてもいいはず。
だとしたら、そのまま一人で勝手に動き出したか ――。
それとも ――― 。
・・・・・あのヤロウ、まさか、ドジ踏んでんじゃねーだろーな?!
なんだか、嫌な胸騒ぎがした。
To be continued
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